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    時待人 第七話「私と貴方が望んだ結末」――ああ、怖い。
     ただただ、今は暗闇の中で籠っているのが丁度良い。
    なんて、なんて心地よいのか。このまま眠りたいくらいには。
     けれど、”それはいけない”という声が頭の中に響く。
    その言葉を言う声は、聞いた事がある声。そしてどこかせつなく、胸を締め付けている。
     私は貴方の声を知っている。けれど、その声がする方向は怖くて、進む事ができない。

     ”ならば、この手を取ってくれ”
     
     暗い闇の中に一筋の光が差し込む。そこから白くて、私より大きい手が差し伸べていた。

    ――私は、貴方の手を掴んでいいのだろうか?

     俺とソルシィは今や白黒の街と化したガルデンにて、怪物になったラエタを捜す。
    上空はもちろん、物陰等も十分注意して探索を続けているが、意外にも見つからない。
    「あんなに大きい怪物だったのにな」
    「見つからないってのも、ちょっと怖いわね…」
     二人でため息つきつつも、真剣に捜索を続けていく。ちなみにオルロは時計台の前に待機している。理由としては、万が一見つけた場合に対処できるように広い場所をという事と、オルロが持つ剣「ラフィニルト」に時の力を込める作業もあるからだ。
    右手にはそこそこの大きさの剣、左手にはナイフ。剣は囮で、本命は短剣とオルロはそう語っていた。そしてその時計台にはわずかな時の力が残留していたということで、その力を利用するという意味で時計台になったのだ。
    「オルロから今連絡あって、準備OKだって」
    「なら、急いでラエタを見つけ出さないとな」
     この街でふわふわと漂っているはずの、迷子の時計ラエタ。一体どこへいるのやら、と思っていた時だった。
    「あ、あれ!?」
     ソルシィが慌てて指を指した方向、つまり上空に彼女は現れた。歯車と時計の翼を背負った、無垢なる人形と化した怪物だ。
    最後に見た姿のまま、上空で優雅に舞っていた。けれど、今にも地上に落ちそうなそんな雰囲気を感じられたのだ。
    「やっと見つかったぞ…!やるなら今だ、ソルシィ!」
    「まかせてー!」
     ソルシィはまず魔法で光の弾を数発放つ。とにかく目を引かせ、時計台の前まで誘導する事とニクルに指示されている。
    そして俺は、もっと彼女に注目させるべく問いかけながら時計台へと走る役目をもらっていた。
     ニクルの作戦通り、ソルシィの放つ術に釣られていた。そして俺は聞こえるかどうかわからないけれど、彼女に声をかける。
    「ラエタ、俺だ!ディウスだ!忘れたとか言わせないぞ…!」
     声にも反応したのか、俺の方向へと身体を向ける。狙い通りに作戦は見事に動き出したのだ。
    「こっちだ!」
     正直言うと、走るのに慣れていない上に得意ではない。けれど、とにかくがむしゃらに走り続け、時計台へ向かわせる。
     大通りを抜けてようやく時計台の姿が見えてきた。まだゴールとは言えないが、それでもここまで来たら俺達の勝ちだとそう思っていた。のだが――
     怪物のラエタは突然時計台の前へ急降下していく。しかも最悪な事にオルロ目がけて、まっすぐに降りていく。
    「え」
     オルロはその一言を発し、砂煙に飲みこまれていった。そして彼の安否いを確かめるべく、ソルシィが駆け寄る。
    「オルロ、ちょっと大丈夫!?」
     不安なのか、震えた声でオルロの名を叫ぶ。けれどそこに彼の姿はなく、その場で残されたのはオルロが本命と呼んでいた短剣がひとつ刺さっていた。
    「そんな、オルロはどこ行ったの…」
     おろおろと周囲を見渡す。すると時計台の壁面にオルロはいた。
    それを見つけるとソルシィはその場所まで駆け寄っていく。どうやら無事なようなのだが、オルロは軽く気絶しているとの事だった。
    『まずいよーこれはまずいよー』
    「そっか、時の力が込めた短剣を扱えるのはオルロだけ…!」
     ニクル曰く、時の力は普通の人が手にすると身体が崩壊を起こしたり、はたまた奇妙奇天烈な怪物になってしまう可能性があるそうだ。力を使えるのはごく一部の人物、もしくは通常の魔術師や魔法使いたちとは違った存在の者にしか扱えないそうだ。
     今この場で扱える人間はオルロただ一人だけ。他にあの短剣を触れる者は、誰もいない。
    「ここまできて…、諦めろって言うのかよ!」
     無力さを改めて知らされ、非常に腹が立ってしまう。もう他にないのか、手はと頭の中では次の一手を手繰り寄せるのに必死だった。
    「いや、あるじゃないか」
     俺は一つの結論にたどり着いた。それは、非常に危険できっと自身の命すら危ぶまれる、一つの方法を。
    まだ力が残った短剣の下へと歩き出す。俺が出した結論は、そう。無理矢理その短剣を持って、ラエタの外殻を壊す事だった。
    『! こら、ディウス!無茶な事は!!』
    「無茶してまでも、終わらせたい物語がある。それは、命を懸けてもいいくらいに」
     この時の俺はどんな顔をしていただろうか。悲しんでいた?いや、それとも笑っていたかもしれない。
     ついに短剣の前へとたどり着いた。もう、後戻りはできないだろう。それでも今ここで後悔はしたくないのだ。
    「だから、この手で俺は、ラエタを解放する…!」
     短剣へと手を伸ばし、柄を握りしめる。光が手を包み込みそして――
    『ああー!……え?』
    「あ、れ?」
     手にしたら変化するだろうと思いきや、何も変わりもしなかった。身体への異変も怪物化も起きていない。これはまさに、あの言葉にふさわしい状況だ。
    「き、奇跡が起こったってやつ…??」
     ソルシィが見事、それを言葉にしてくれた。今こうして無事にいられているのが不思議なくらいだ。
    「と、とにかく大丈夫そうだな…」
     ならば、と上空に佇む彼女をじっと見つめる。
    「さあ、来いよラエタ。今からお前をそこから解放してやる!」
     それが合図となったのか、怪物のラエタは再び急降下していった。それはさっきのオルロの時よりさらに早く。
    来るのを待ち、そしてタイミングを見極める。そう、短剣を刺すタイミングをだ。
    それは一瞬一度の出来事にして、やり直しはまったく効かない一発勝負。
    「そこだッ!」
     中央にいる人形の素体目がけて俺は短剣を刺した。するとそこからぴきぴきという音を出しながら、ひび割れていく。やがてそれは身体全体に渡り、ついに崩壊していった。

    ”帰ってこい、ラエタ”
    ――その手を掴んだ時、とても暖かいものを感じた
    ――懐かしいような、心地よい暖かさ。
    ――一包み込むような柔らかい光が満たされていく

    「私……私が望んだものは」

     怪物という名の皮が剥がれ落ち、その中から一つの人影が存在していた。
    長く美しい黒髪を持つ女性。そしてそれは紛れもなく、俺が救いたかった人の姿だ。
    「ラエタ…」
     ふわり、と俺の手元に落ちる。彼女を抱きとめ、そっと地に降ろそうとした瞬間だった。
    「ここ、どこ…」
     ゆっくりと赤い瞳を開く。目だけきょろきょろと泳がせ、今いる場所を確認している。
    「ああ、やっとだな。目覚めはどうだ、ラエタ」
    「…って、ディウス!?あれ、あれあれ、待って何この状態、え??」
     すっかり目覚めた彼女は状況が掴めず、酷く混乱していた。どうやら怪物になっていた事すらもわからなかったそうだ。
    「その辺は後で話すとして…。ラエタが無事でよかった」
     そう言うと、ラエタは俯き顔をほんのりと赤く染めていた。照れているのかよくわからないが、とにかく無事で何よりで俺はほっとした。
    『ごめんね、ちょっと二人ともいい雰囲気の最中だけど』
    「うわあ!?何こいつ!?!?幽霊!?」
    『幽霊じゃない!てか時の神様だし!!失礼な娘だな!!!』
     ニクルが現れラエタはちょっとしたパニック状態に陥っていた。突然、幽霊みたいな男が現れたらそりゃびっくりするよな、と心の中でつぶやきつつ、彼は一つの警告を俺達に告げた。
    『このままだとね、ラエタの人としての姿の維持ができないかもしれないんだ』
    「なんだって…!」
     ラエタの人の姿というものは、魔術師の呪いによって維持されていたものだった。今それが解けてしまい、少しずつ人の姿を保てなくなって、ついには消えて時計に戻ってしまうという事だった。事前に可能性はあるかもと言われていたが、やはりそうなってしまうのか、と俺は酷く落ち込んでしまった。けれど、ここには時の神がいる。なんとかできないだろうか、と恐る恐る尋ねてみる。
    「何か方法はないのか…?」
     そうだね、とニクルはにっこりと笑った。その笑みが影を帯びていて、少しぞくりとしてしまった。何を考えているのかわからないが、今は彼の案を聞いてみる事にする。
    『んー、あるよ。あるっちゃあるんだ。だから私は今ここで君たちに提案しようと思って現れたわけだけども』
     ニクル曰く、それは魔術師と同じような状況を再び作ればいいとの事だった。今度は呪いではなく、時の力で結ぶ事によって、ラエタの人の姿を維持する事ができるという。そしてそれを行なうには、俺がラエタの正式な持ち主となる必要があった。
    『さっき見ててね、どうやらディウスには時の力を扱える稀有な存在の人間だっていう事がわかったから、きっとできると思うんだよね』
    「まじか」
    『まじ』
     それはそれで驚きなのだが、それでも時の力は脅威的な力だとさっきの一撃で知った。たやすく人が使う代物ではない、と。
    そう感じてしまった俺が、ラエタと契約していいものなのか少し迷ってしまった。けれどそんな迷いはすぐ消え去っていった。
    『で、どうですかねお二人さん。契約しちゃう?今なら私のバックが付いてお得だよ?』
    「それはお得と感じるか微妙なんだが…。俺はラエタの人の姿が維持できるならそれでいい」
    「! で、でも…」
     どうしてだか、ラエタの表情は曇っていた。まだ人の姿でいられるというのに、だ。
    「なんで、そんなに辛そうなんだ?」
    「だ、だって、今回の事件は私のせいでしょう?だから、そのまだ人の姿でいていいものかって思って…」
     嬉しい事だけれど全ては私のせいだ、とラエタはそう言った。
    けれど、今回の事件は魔術師の呪いのせいでこんなに大事になったのだから、と俺は思っている。それに、俺から見ててラエタはそんなに悪い事をしているわけでもないと感じているからだ。好きで街の時を止めたわけでもないし、暴走したわけでもないと俺はそう思っている。
    「それでも、人の姿を維持して欲しいと思っている」
    「店主の記憶すら塗り替えてしまったというのに…?」
     涙で溜まった瞳は俺を見つめる。それは悲しみに酷く支配された瞳で、見ているこっちも胸が苦しくなる程だった。
    「けれど、そうまでしてやりたい事あっただろう?」
    「!」
     はっとした表情で、ラエタは気付いた。呪いはもう解けたので、人の姿であればあの日どこか遠くへ吹き飛ばされた弟時計を捜しに行く事ができる。それに俺と契約をすれば、この世界だけじゃなく他の世界へと旅もできるので、弟探しがしやすい状況でもある。
    「…だから、俺の時計モノになってくれ、ラエタ」
     その言葉を聞いて、俺の気持ちをわかってくれたのかラエタは静かにこくん、と頷いた。それを見て、傍にいたニクルは静かに俺とラエタを結ぶ契約を施したのだった。その時、一瞬だけだが、俺が所持している魔法陣に時計盤が足されている陣が地面に浮かび上がっていた。
    『おめでとう。一人ぼっちだった時計は見事、持ち主を獲得したね』
     契約を結んだ後、ラエタは俺の胸の中でずっと泣いていた。これはもう悲しみではなく、嬉しい方の涙だろう。
    そっと、静かにラエタの頭を撫でた。ああ、もうこれで彼女の悲しい思いは消えたんだ、と思いながら。


     時計台から、鐘の音が響いた。
    その音と同時に、ずっと時が止まっていた街は何事もなかったかのようにあるべき姿へと戻り始めた。
    この一連の事件は、俺とラエタ――そして三人の時を旅する者達と女王しか知らない物語となったのだ。

    時はやがて動き出す空鳥ひよの

    「痛かった…」
     向こうで倒れていたオルロとソルシィがこちらへ向かってきた。
    「大丈夫か、オルロ」
    「ん、大丈夫、だ。それよりこの人が…例の…」
     ふとラエタの方を振り向くと、ラエタが酷く驚いた顔をしていたのだ。
    「あ、あ…ああ…!」
    「え、オレの顔に何かついて、いるのか…?」
     ラエタは立ち上がってオルロの方へと歩み出す。だがオルロはそれに驚いたのか、後ろにのけぞっていたが。
    「貴方、もしかして元は懐中時計?」
    「!  あ、ああ、そうだが…」
    「それ見せて!」
     勢いに負けたのか、オルロは着ている上着のポケットから自身とも言える懐中時計を取り出し、ラエタに見せた。
    「こ、このデザインは…!ああ、やっぱり。やっぱり、そうだったんだね」
     ぽろぽろと涙を零し、その懐中時計を一撫でした。その撫で方は、懐かしい人を撫でるような優しい撫で方だった。
    「生きて、いたんだね…私の、弟…」
     
     
     
     時待人第八話(第一部最終話)へと続く…
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    Oct 7, 2018 3:00:00 PM

    時待人 第七話「私と貴方が望んだ結末」

    次回更新は来週月曜になります。そしてついに次回第8話にて第1部完結です。

    #オリジナル #創作 #ファンタジー

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