イラストを魅せる。護る。究極のイラストSNS。

GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

  • 1 / 1
    しおり
    1 / 1
    しおり
    時待人 番外編「とある時計の一日-幸せ-」とある時計の独白(1)

    ――あの日、貴方に救われて私は嬉しかった

     消えてただの時計に戻るだけだと思っていた。でも、貴方はこんな私を救ってくれて、持ち主になってくれた。
    こんなに幸せな気持ちは初めてで、ふわふわしていて、言葉では言い表せないくらいの幸せに満ち溢れた心。

     けれど同時に私の中である気持ちが芽生えてしまった。本でしか触れた事がない世界が、現実になるなんて思わなかったこの気持ち。
    それは誰かに対して”好き”という想いだった。
     あの日、貴方から告げられた「俺の時計(モノ)になってくれ」という言葉が、ずっと頭の奥で何回も何十回も繰り返し響いている。きっとこれが貴方の事が好きという気持ちを持ったきっかけだろう。
     でも、この気持ちは”物”である私には持ってはいけないものだ。だって私と貴方は違うから。私は時計、貴方は人。見えない壁があるような、そんな隔たりを同時に感じている。
     
    貴方に”好き”って伝えたら?
    貴方に”心から愛しています”って伝えたら?

     きっと引いてしまうのではないか、気持ち悪いと思って捨てられてしまうんじゃないか。そんな気持ちががずっと心の奥で渦巻いている。ぐるぐると、黒い感情と共に。
     
     それでも、この気持ちは忘れたくも消したくもない。だからひっそりしまっておくのが一番。
    そしていつも通り、彼に接するんだ。そう、いつも通りに――
     
     
     
     ガルデンに朝がやってきた。朝がやってくるのは当たり前の事かもしれない。けれど、この街は以前夕時に時間が止まっていたから、その朝が私にとって嬉しくてたまらなかった。
    「うんうん、目玉焼きうまく焼けたね」
     以前は一人分しか作らなかった朝ご飯。今はディウスの分も作るようになり、二人分に増えた。
    「ディウス大丈夫かな…。死んだ目で部屋に引きこもってるけど…」
     私の持ち主となったディウス。彼は世界を飛び、物語を書いては女王クイーンにそれを捧げる役目を持つ”アリス”という職に就いている。
    その女王に時が止まっていた間の話を書けと言われ、早く終わらそうとここ3日間は部屋に引きこもっていた。
    「まあ、大丈夫かな」
     フライパンでじゅうじゅう、と美味しそうな音をたてている目玉焼き二人分をお皿に移す。パンも焼けたし、スープも用意してある。あとは部屋に引きこもっているディウスを叩き起こすだけだ。
     時計屋「デンメルグ」のすぐ隣にある住居用の家。一階は先ほど朝ご飯を作っていた台所や、洗面所、リビングといった生活に必要なスペース。二階は私の部屋や、ディウスの部屋があるスペースになっている。以前の時計屋の店主…つまり私を作ったアルトさんはあまり二階やその他の部屋を使っていなかったらしい。どうやら店の一角にある工房室でずっと寝泊りしてたという話を時の神ニクルから聞かされている。アルトさんはあまり人の生活をしていない、という印象を私は受けた。
     まあ、そんな話は置いておくとして。ディウスの部屋の前に着き、コンコンとノックをする。けれど返事が一向に返ってこない。
    「ディウスー、起きてるのー?」
     扉越しから声をかけても何も来ない。ならば強行手段だ、と思い私はそっとドアノブに手をかける。どうやら鍵はかけてなかったようで、そのままドアノブを回せた。そーっと扉を開け、隙間から覗く。
    「お邪魔するよー…」
     すると、ディウスはベッドの上で安らかな寝息をたてながら眠っていた。布団に丸まって寝ており、顔が半分布団の中に埋もれている。
    「もー、やっぱり遅くまで起きてたんでしょ」
     彼には聞こえないだろうけれど、私はしっかり怒る。きっとふらふらになるまで書いていたんだろうなと、思いつつ無慈悲に布団を引きはがそうと、布団を手にかけ捲ろうとする。だがそれに気づいたのか、彼はもぞもぞと布団を取られまいと死守しようとしている。
    「起きな、さいよっ!」
    「…断る」
     ふわふわとした声で抵抗しているので、どうやら半分目は覚めている様子だ。けれど彼は布団から出る、という意志はなさそうであった。
    「ご飯冷めるってばー!ディウスのばかー!!」
     これ以上起こしてやろうという気力は私にはもうなかった。起こすのに時間がかかりそうだったし、それだったら一人で温かいご飯を食べてやろうと思い、諦める事にした。
     やっぱり一緒にご飯食べたかったな、って思ってしまったけれど。

     結局彼が起きてきたのはお昼になろうとしていた時間。私は遅い、と少し怒った口調で言ってやった。
    「もうちょっとで、書き終わるから…もう少しだけ我慢してくれ…」
     やや寝ぼけた口調でぼんやりと返事をした。今日は時計屋がお休みだからいいけれど、毎回ああやって起こしてあげる事は難しいから、なんとか自力で起きれるようになってほしいものだ。
     ディウスはテーブルに置いてある朝ご飯に気付き、椅子に座って丁寧に黙々と食べ始める。私は黙ってコーヒーとスープを置いておく。それに気付くと、ディウスは小さくありがとうと告げ、淹れたてのコーヒーをすする。
     彼は甘い物が大好物なのに、コーヒーはブラックがいいと言っている。コーヒーだけはなぜか砂糖とミルクは入れないらしく、そのあたりが謎だな、と毎回思う。
    「それでだな、ラエタ」
    「何さ」
    「今日、街を案内してくれないか?」
     突然の申し出に気が抜けたけれど、そういえばディウスは街の事をあまりわかっていないという事を思い出す。彼が知っている街の様子は時が止まってた頃しか知らないのだ。
    「それにな、ここにしばらく滞在となったら服とか買っておきたくてだな」
    「お金はあるのかね?」
     ある、彼はと言い切ったが一体いくらあるのか、と念のため聞いておいた。女王が今回の件で頑張ってくれたということで、褒美にお金をたんまりもらったらしい。いわゆるボーナスってやつに近いそうだ。
    「女王曰く、しばらく何も働かなくても食っていける金額って言ってた」
     めちゃくちゃ気になってしまったので額を聞いてみた。うん、これはやばい額だ。むしろ時計屋やらなくてもしばらく生活できるやつ。
    「いくらかはラエタの所にやる予定だが…」
    「い、いいってそれは!」
    「しばらくここにいるから、その、申し訳ないと思っているし…」
     彼なりの気遣いなのだろうけれど、もう一人増えた所で一応お金はあるから大丈夫といえば大丈夫。だからそんなにここの心配はしなくてもいいのだ。
    「お金の話はまあいいとして。そしたらここら辺の服屋さんと、それとー、あと案内するなら」
    「…カフェとか」
     大の男がそのセリフを吐くかって思ったけれど、甘い物好きなディウスにとっては見逃せない所なのだろう。
    そうなるとケーキ屋さんも案内する必要があるだろうと、美味しいお店をいくつかをピックアップしておかなければ。
    「まあ、その辺?とりあえずそれ食べたらちゃっちゃと準備していきましょ」
    「ああ」
     ディウスは短い返事をし、再び食事を続ける。ディウスが食べている間に家の事を色々やってしまおうと、私は急ぎ気味で洗いもの等を片づけていくことにした。

    「あーどうしよー」
     久しぶりにどこかへ出かける(と言っても近所だが)から、どういう服にしようかと迷うばかりだった。
    「いや、これはデートとかそんなんじゃないし」
     自分に言い聞かせるようにしていたけれど、やはり意識してしまうものだ。最近、それについてご近所のおばちゃんにからかわれっぱなしだ。ディウスはただの居候と説明しても、おばちゃん達は微笑んでいる。そうじゃない、彼との関係はそういうアレじゃない。
    「それでもやっぱ…何にしようかね…」
     自分の部屋で唸って悩んでいると、出かける時間が差し迫ってきていた。
    「やっば!ど、どどど、どうしよ…」
     ええい、無難だがこれにしよう!とさっきまでの悩んでいた時間が嘘みたいに、さくっと洋服を決めて素早く着替える。
     フリルが付いたノースリーブのシャツに、赤いロングスカート。結局いつも通りの服装になってしまった。
     着替え終わり慌てて一階へ降りていく。玄関の前を看ると、ディウスはいつものアリスの時の服で私を待っていた。
    「ご、ごめん!」
    「いや、いい。俺は気にしないから」
     いつもの無表情に近い表情で、気にしてなさそうに言う。それでもこっちは気にするのだけれども。あわあわしながら、私は茶色のブーツを履いて彼の隣へと並ぶ。
    「じゃあ行くか。案内よろしく頼む」
    「う、うん」
     こうして街の案内は始まった。うまく案内できるかわからないけれど、彼には時が止まっていない街を存分に楽しんで欲しい、という気持ちを抱いて、ガルデンの中心部へと向かう事にした。
     
     
     今日はからりと晴れていて、絶好のお出かけ日和。そしてこの日は休日なので、街もほどよい賑わいを見せている。
    私にとっては見慣れている光景だけど、ディウスはさっきから街の様子をじっくりと見まわしていた。人々が行き交い、会話し、笑いが生まれる。きっとこの光景を噛みしめていると思う。
    「すごいな…ここはこんなに賑やかな街だったなんて」
    「そうよー。ちなみに隣街もなかなか賑わっているからね」
     隣街のテューアはここより大きくて、そして魔術師や職人を多く輩出している大きい学校が存在し、栄えている。ここより正直あっちの方が物や魔術等が発展しているのだが、それでも魔法具を買いにガルデンまで出向く者は多い。ガルデンは魔法具の流通が多く、それは時計屋も例外ではない。だから時計屋には普通の時計の他、魔法具用の時計も多く置いてある。
    「隣街もいつかは行きたいものだ」
    「じゃあ、今度隣街にいる職人宛のお使いでも頼もうかな。それに、ディウスには一度会って欲しいしね」
     実は時計屋デンメルグでは、お抱え職人が一人存在する。そいつは腕がすごいとかなんとかって言われてるそうで、彼の作品はとてつもなく高く売れるのだ。何故そのすごい職人が時計屋に提供するようになったのかは、いつかまたの話って事で。
     そんな感じに雑談を繰り広げていたら、お目当ての洋服屋に到着した。
    「あ、ここだよディウス。ここの服屋さんなら似合うのあると思うんだよね」
     まずはディウスの服探し。どんなのが似合うのかと思うと、ドキドキしてしまう私がそこにいた。そういう気持ちは今日は封じ込むべし!と私は強く言い聞かせる。
     店内に入ると、ディウスは目についた所から服を見て、選んでいく。彼はどうやらシンプルな服装が好きなのか、そういう系統の服ばかりを見ていた。
    「んー…。うーん」
    「どうしたの?」
    「どういうのがいいのか、いまいち…」
     彼はどの服が似合うのか、と迷っていた。一式になっているものを買ってもいいが、と語っていたけれどせっかく選ぶ事ができるならば、と思い私はディウスが見ていた所の服を手に取る。
    「それだったらこれとか」
     多分彼はシンプルな服装もいいけれど、シックな雰囲気が似合うはずと思いカッターシャツ、そして濃い茶色のズボンをチョイス。そしてサスペンダーにズボン、ズボンの色とあうようにと同系色の上着。この土地に馴染むにはいい服装だと思って選んでみた。
     これでどう、とディウスに見せると、じーっと見つめると小さく頷いた。
    「いいと思う」
     それを聞いて調子に乗った私は、もうすぐ秋がやってくるしと思いコートも選んであげた。気付いたら私好みの服を選んでいたので、彼に対して大変申し訳ないという気持ちが募っていった。
    「…ごめん、めっちゃ私が選んじゃったよ…」
    「正直どういうのがいいのかわからなかったから、助かった」
     彼は私の選んだものを全部買っていった。それでいいの?と何回も聞いたけれど気に入ったから、と言ってそのまま購入していったのだった。
    「申し訳ないから、荷物持つよ…」
     せめてその大量の荷物は運びたいと思い、彼に声をかけた。けれど、返ってきた言葉は意外なもので――
    「それはできない話だ。女性に荷物を持たせるのはいけないと聞いているから、それはしなくていい」
     そういうのはどこから学んできたんだろうか。明らかに女性関係にまったく関わっていなさそうな男が。
    「そういう知識はどこから学んだのよ…」
    「ミグラ姉ちゃん…、あ。俺にアリスを引き継がせてくれた人だ」
     そのミグラ姉ちゃんとやら、彼に一体何を教えたんだ。それより、ディウスにアリスを継がせた人が女性とはちょっと意外な事実だった。
    「そ、そっかあ…」
     女性、と知って少し胸の奥がちくりと痛んだ、気がした。けれどそのミグラさんとやらに出会った時は少年の時と聞く。それ以上はきっとないはず、なのに。その人の事を語る顔はどこか嬉しそうで、優しく語っている彼の姿がそこにあった。
    「まあ、ミグラ姉ちゃんが常に紳士的対応であれ、と長々と語っていたからこうなったというか…」
    「へえ…」
     そんな思い出話で会話は弾んでいく。少しだけ、少しだけ何か違う感情がこみあげてきたけれど、今だけは奥にそっとしまいこんでおこう。
     街をのんびりと歩いていたら、時刻は15時になろうとしていた。そろそろどこかでお茶がしたくなる時間だ。
    「おやつ…」
    「ええ、そう言うと思ったわよ…」
     絶対言うと思ったので、私は行きつけのカフェへ案内することにした。ここの目玉スイーツはきっと彼が気に入るだろうと思って、あらかじめ案内コースに組み入れていたのだ。
    「さて、カフェ目指して行きましょうかね」
     私たちはカフェに着くまで、のんびりと会話をしつつ歩いて行く。
     
     
     古い建物の中にさらに古い内装。そして人通りが少ない場所にあるため、人が来る事があまりないカフェだ。
    中に入ると、カウンター席と店主がお出迎えしてくれる。店主は奥のテーブル席へと案内してくれた。
    「結構古い感じだな」
    「そうね。でも私はこういうのが好きなのよねー」
     人になってから、私は古い建物をよく好んで行っていた。何故だかわからないけれど、そっちの方が落ち着くからだ。
    もちろん真新しい建物も行く。けれど、そこよりよく行くのは古い建物ばかりだ。
     彼は早速メニューに目を通していた。私は早速これが目玉スイーツなんだけど、と教えてあげるとそれを頼むと言っていた。
    私の頼むものはいつもの紅茶とショートケーキなので、早速店主を呼んで頼んだ。
    「なあ、ラエタ。この街…というか世界にはクレームブリュレは存在しないのだろうか」
    「クレームブリュレ…名前だけは聞いた事ある。けれど、食べた事はないねえ」
    「! 存在はしているんだな?」
     ある、と聞いた瞬間、彼の目はきらっきらに輝いた。これはもしかして――
    「それ、ディウスの好きな食べ物なの?」
    「うっ…。ま、まあ、そうだ…」
     予想通りだった。甘い物は大好きだと聞いていたけれど、その中ですごく好きなスイーツがあったなんて。
    「ちなみにその食べ物は、ガルデンでは見かけないんだよね。それこそテューアに行かないと食べられないと思う」
    「なんだと」
     そのスイーツ一つだけで真剣な眼差しと声。どんだけ好きなんだってくらい彼は集中して聞いていた。やはり今度、テューアまで行かせるお使いを頼むべきかな、と思った。
     会話に花を咲かせていたら、お目当ての目玉スイーツとコーヒー、そして私の頼んだ紅茶とケーキがやってきた。
    「これが目玉スイーツこと、特製カラメルパフェ…」
    「おいしいよ~。さあさあ食べた食べた」
     少年のようなきらきらした目で特製カラメルパフェを見つめ、パフェ専用の長いスプーンで一口分すくいあげる。このパフェはその名の通り、カスタード味のアイスの上にとろりとしたカラメルがかけてあるパフェだ。そう、言うなればプリンのような味が楽しめるパフェなのかもしれない。けれどこのパフェは下の方もほろ苦いカラメルソースと、パリパリ食感がたまらないカラメルの砕けたものが潜んでいて、最後までたっぷりとカラメルが楽しめる一品だ。
    「うまい…。うん、これはいい。少しだけ味がクレームブリュレに似ているな。特にこのパリパリした所が似ている」
     どうやらお気に召したようで、いつもの顔より柔らか目な表情でぱくぱくと食べ進めていた。私もいちごが乗ったショートケーキを頬張る。やはりここのケーキは美味しい。とっても甘くて、でもいちごの酸味が程よく、何個でも食べれてしまいそうな味なのだ。
    「ここはいい店だ…。ここにはたまに通わせてもらおう…」
    「それは良かった」
     私のお気に入りのお店を、彼も気に入ってくれてとても嬉しい。ふふっと思わず笑みが零れてしまうほどに。
     二人で甘い物を食べる時間はゆっくりと、ふわりと広がっていくように居心地の良い時間だった。ずっと浸っていたいけれど、まだまだ案内する所があるのでそうもいかない。
     カフェでゆっくりと過ごした後は、ディウスが寄りそうなお店へと案内する事にした。
     
     
     カフェから少し離れた場所に本屋がある。ここはわりと貴重な本から、一般書まで幅広く取り扱っている本屋なのだ。
    「ディウスって本読むのかわからなかったから、案内するのにどうしよかって迷っていたんだけども…」
     彼は物語を書いている人だ。けれど、本を読んでいる姿を私は一度も目にしたことがない。
    「読む時は読むんだが…。話の内容によりけりだからな」
    「例えば?」
    「そうだな…、話はなるべくいい終わり方である物がいい。不幸な終わり方だと、読んだ後酷く落ち込むんだ」
     意外にハッピーエンド主義者だったとは。でも、そう聞くと私を何故救いたかったかっていうのがよくわかる部分かもしれない。
    「そういうラエタは本を読むのか…ってそういえば読んでいたな」
    「ぎくぅ」
     本は読んでいるには読んでいる。けれど、読んでいる内容が言葉で言うには恥ずかしいのだ。
    「確か、少女が好むような恋愛小説…」
    「そ、それ以上言わないでよっ!」
     恥ずかしい話だが、私が好きな本の内容は恋愛ものだ。顔を赤くしてまう程の甘くてとろけそうな話から、悲恋ものまで幅広く読んでいる。
    「別にいいんじゃないか?俺はそういう話は書かないが」
    「そりゃそうですよねー」
     なんとなくわかっていた、というかそうだろうと思っていた。そもそも、ディウスが恋愛話を書いていたら驚きなのだけれども。
    それに、なんとなくディウスは恋愛を体験してなさそうな感じでもあるので、そういうのには興味が無い人なのだろうと思っていた。それはそれで、私は悲しいやらなんとやらというものがあるけれど。
    「とりあえず、数冊買っていこう。たまには本を読む事も大事だしな」
     そう言って手に取った本はちょっとした旅行記から、少年少女が好きそうな冒険ものまで数冊買っていった。
    旅行記はわかるが、子供が好きそうな童話や冒険ものの本も読むのが意外で少し驚いた。何故それを選んだのか、と聞いたら「昔からそういう話が好きなんだ」と答えた。
    「たまにはラエタの持っている恋愛小説も読んでみるか」
    「い、いやあ…えっと…多分あわないと思うなーうん」
     うっかりリビングに置いていかないように、今後気を付けておかなければ、と心の中で小さく誓った。
     
     

     気付けば空は夕空に。行き交う人たちもまばらになりつつある。
    「半日だけだったが、意外と充実したな」
    「そうだねえ」
     のんびりと帰路を歩む。いっぱい買い物したから、ディウスの手や肩にはたくさんの荷物を抱えている。
    「いっぱい買ったけど、本当に持たなくていいの?」
    「ああ。それに言っただろう、女性に荷物は持たせたらいけないと」
     まるできまりを守るかのように、彼は頑なにそう言っている。きっと意味は理解していない気がするが、それでも彼の気遣いに今は甘えておこう。
     ぼんやりとディウスの後ろで歩いていると、突然彼はぴたりと止まった。
    「ど、どうしたの?」
     うん、と一言呟いて、すぐ隣にあったお店へ駆け寄って、こっちへ来いと私を手招く。
    「今日のお礼、考えていたんだ。それに、いい所に店があったから」
     そう言って入っていったお店は、女性が好きそうな小物やアクセサリーを売っているお店だった。彼はぼーっと歩いてたと思えば、こういうお店を探していたというのか。こんな、私のために。
    「一つ気になるのあったら、その言って欲しい。俺が買う」
    「で、でも…」
    「お礼をさせて欲しいんだ。今日は俺の買い物やら色々付き合ってくれたからな」
     まっすぐな眼差しで言われてしまったので、仕方ないお言葉に甘えて、と思い私は店内をぐるりとまわり、物色する。
     ネックレス、イヤリング、ブローチそして指輪。色々あるけれど、どれもピンとくるものがない。どれも素晴らしいのだけれど、いざ私がつけるとなったらどれも似合わないな、とさらに私を悩ませる。
     そもそも、私は見栄を張るというか、店主であらねばと思って、ちょっとだけ男性らしさが入った格好を今までそうしていた。男性ものの白いコートを羽織り、店主ですアピールをしていたが、それ故か変な女性という目で見られていたというのをつい最近知ってしまい、それからというもの今日のような女性らしさ溢れる格好になったというのが、私の服事情だ。
     だからこういったおしゃれな女性が付けるようなアクセサリー等の知識はあまり深くはない。
     すると少し距離を離れて一緒に見ていたディウスが、こっちと声をかけてきた。
    「こういうのはどうだ?」
     指をさしていたのは、小さいリボンが付いたひらひらとした赤いタイ。これはまるで――
    「これ、ディウスがいつも付けているのと同じな気が…」
     リボンが付いている点を除けば、彼が普段付けているタイと一緒だ。きっとなんとなく見ていたら見つけたのだろうけれど、それでも私は嬉しく思っていた。
    「ああ、本当だ。えっと…他を…」
    「私、これにするよ」
    「え」
     彼は驚いていたけれど、せっかく選んでくれたのだから。それに私は今日、ディウスの服を選んでしまった事もある。
    「それにどれもしっくりこなかったから、これがいいなって思ったの。ダメ?」
    「…ま、まあ、ラエタがいいって言うなら…」
     そう言ってディウスはそのアクセサリーをお店の人に渡し、支払いを済ましていた。はい、と渡されたそれはリボンがちょこんと付いた包みだった。
    「女性にプレゼントする時は、その、こういうの必要だろうと思って」
     目線が定まっておらず、どこを向いて言っているんだという状態だった。でもそれって多少照れているって事なのだろうか?そう思うと、可愛い一面も一緒に見ちゃったんだな、と一人心の中で嬉しく思った。
    「ありがとう。大切にするね!」
    「ん」
     帰るぞ、と私より二歩前進んでいく。その後ろに付いていくように私も歩く。けれど歩く速さが違い過ぎて、なかなか追いつかない。
     ほんのちょっとだけ私の我儘を聞いて欲しいから、ちょっと待ってといわんばかりに彼の服の裾を掴む。それに気づいたのか、歩く速度が緩くなった。ようやく二人肩を並べて歩けるようになると、私はその幸せを噛みしめながら、家への道を辿る。
     さあ、今日の夕飯は何にしようか?そんな事を考えながら。
     
     
    とある時計の独白(2)
     
     間もなく夜を迎えようとしている時間。この瞬間(とき)を何回貴方と一緒に迎えるのだろうか?
     
     例えこの先、貴方を苦しめるような事があったとしても。
     貴方が何かの壁にぶつかって、倒れそうになったとしても。

     私は貴方が死ぬまでずっと、ずっと時計として傍にいる。貴方が私を捨てるまで、飽きるまで。ずっと。
     この身が壊れようとも、消えようとも、私は貴方の時計だから。
     
     
     
     
                      時待人番外編 END
                          そして第二部へ――
    空鳥ひよの Link Message Mute
    Nov 2, 2018 3:00:00 PM

    時待人 番外編「とある時計の一日-幸せ-」

    時待人番外編はラエタさん視点のお話。
    #オリジナル #創作 #ファンタジー #時待人

    more...
    Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
    200 reply
    転載
    NG
    クレジット非表示
    NG
    商用利用
    NG
    改変
    NG
    ライセンス改変
    NG
    保存閲覧
    NG
    URLの共有
    OK
    模写・トレース
    NG
  • CONNECT この作品とコネクトしている作品