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    時待人第二部五話「継がれしは、希望-アリス-の物語」 それはとある世界の光景。緑に囲まれた山間部にある村。そこに見慣れた女性と、そして見知らぬ男性がいた。
    二人は仲睦まじく寄り添い、そして童話のような本を読んでいる。
    その本の内容はぼやけていてわからなかったけれど、二人はとても幸せそうに過ごしていた。

     これはわかった。そう、この記憶はミグラ姉ちゃん自身の記憶。魔術師が来る前にあった、幸せだった頃の記憶。
    きっと剣をコアに刺した時、僅かに入っていた時の力が反応して俺にその光景を見せたのだろう。
     
     
     ふわりと場面が切り替わる。
     その場面はミグラ姉ちゃんが魔術師と戦い、そして敗北した時だった。
    魔術師は不適な笑みで、倒れたミグラ姉ちゃんを蹴る。彼女が魔術師を見つめる目は、力が及ばなかった事と魔術師を倒す事ができなかったという後悔がにじみ出ていた。
    「君、結構いい素材だ。……私の実験に付き合ってもらおうか」
     にっこりと笑うその表情は、とても嫌なものを感じた。背中がぞくっとするくらいには。
    「ふざけないで!誰があんたの実験になんか付き合う…ッ!」
     ミグラ姉ちゃんの胸に闇色に染まったコアを埋め込む。これが、彼女が受けた”呪い”――

     俺は考えてしまった。
     もし、魔術師が来なければミグラ姉ちゃんはきっと幸せな日々を好きな人と過ごしていたのだろう。
    そしてヴェルカ達もだ。ヴェルカもまた、魔術師が来なければ今頃妹とクエレらで工房を切り盛りしていただろう。
     人の幸せを踏みにじる、謎の魔術師。彼は一体どれほどの人を不幸にしてきたのか。
     考えれば考えるほど、胸の奥から熱い何かがこみあげてくる。
    「どうして、こんな事に……」
     
     ふと意識が戻る。その時目の前で見たものは、解放されて今にも消えそうなミグラ姉ちゃんの姿があった。
    「ごめん…ミグラ、ねえちゃん…」
    「なんで謝るの、ディウス。これは私が望んだ結末なんだから、そう辛そうな顔をしないで」
     にっこりと昔見たままのあの笑顔で俺に向けて笑う。その笑顔は今俺にとって胸に深く突き刺さるものがある。
    「大きくなったねディウス。あの頃よりさらにかっこよくなっちゃってさ」
    「そんなことは、ない…」
     いつもの何気ない会話。まるで昔に戻ったかのような光景。会話をする度に、胸の奥が締めつけられていく。
    「ねえ、ディウス。最後に私の言葉をちゃんと聞いて欲しいんだけど…」
    「……ああ」
     最後だなんて言わないで欲しい。そう思っていた時、ミグラ姉ちゃんの白い手が俺の頬に触れる。
    その手は壊れた人形のようにひびが入っていた。今にも崩れ、砕けてしまうくらいに。だから俺はあえてその手を触れないでいた。
    「貴方はもしかしたら、あの魔術師――ヒュゴーレを憎むと思う。けれど私のように復讐をしようとか思わないで。私の復讐を継ごうと思わないでほしいの……」
    「それは、何故、だ…?」
     あの記憶を見た後にこみあげてきた感情。それは怒りだったんだと気付いた。それは復讐心に満ちた怒りだったのだ。
    「だって、貴方にはそれが似合わない。似合うのはいつも希望に満ち溢れた物語を書く、ディウスなんだから…」
    「……っ!」
     俺に何故復讐を継がせようとしなかったのか今、この言葉でようやくわかった気がした。それは彼女の最後の優しさだったんだ、と。
     「実はね、あの日あげようと思った本は女王クイーンに託しておいたの。必要な日がきた時に渡して、と。でも、もうその日は近いようね…」
     身体の半分が砂になっていく。完全に消えていくのはもう時間の問題だった。そんな中、ミグラ姉ちゃんは顔をわずかに動かし、ラエタを見て微笑んだ。
    「ごめんなさい、時計の方。私のせいで、こんな事になってしまって…。でも貴女はディウスの隣にいるのがふさわしいね」
    「え、いや、そ、そんな!」
    「…気を付けて。魔術師ヒュゴーレは、貴女を確実に奪いにくる。どうしても欲しいと言っていたから…。だからね、ディウス!貴方がちゃーんと、彼女を守ってあげなさいよ…!私みたいになっちゃダメなんだから!」
     いきなり俺に向けての言葉が紡がれ、慌ててしまった。ラエタに言ったと思えば俺にいきなりくるなんて。でも俺の気持ちはすでに固まっていた。
    「…なんとかしてみせる。俺はあの時計の――ラエタの持ち主だからな」
    「うん、それで良し。なら、もう私は…」
     ついに顔の一部だけとなり、もう間もなくミグラ姉ちゃんは消えるだろう。
    その時、後ろから人が来る気配を感じた。ダンテルとレフォーヌが、人形たちとの戦闘を終えてこちらにやってきた。
    「…ミグラ、もう安心して寝ろ」
    「……ねえ、ダンテル」
    「なんだよ」
    「あの時、私をアリスにしてくれてありがとう。女王もだけど……。そうじゃなかったら、きっと貴女やディウスに会う事はなかったでしょう」
    「お前は最期まで……。いや、なんでもない。さっさとあっちの世界にでも行け。もうこれ以上、話す事はない」
     ダンテルはそう言って、レフォーヌと共に廃教会を後にした。ここに残ったのは俺とラエタ、そしてミグラ姉ちゃんだけになった。

    復讐者は眠る空鳥ひよの
    「会えるかな…あの人に。会えたら、私、貴方達の事を絶対に話し――」
    最期の言葉は、嬉しそうな声でつぶやいた一言だった。あの人とはきっと、あの記憶の中にいた男性の事だろう。
     教会の割れたステンドグラスから、月明かりが差し込む。その光は彼女を天に向かわせるためのような、美しい一筋の光だった。
    その光が彼女に当てられたその時、ミグラ姉ちゃんの全てがついに消えた。その瞬間、砂だったものは光となって空へ昇っていったのだ。
    「さよなら……そしてありがとう、俺をアリスにしてくれた人」

     光が差し込まれていた場所をしばらく見つめていた。すると横にラエタが寄り添い、僅かに震えていた手をそっと握りしめてくれた。
    静かな廃教会で、彼女の魂が再会すべき人へ辿りつくようにと心の中で祈る。その祈りは長く、長く。
     どうか、どうか今度こそ、幸せな日々を送って欲しいと――
     

     時計屋に戻った後の事はあまり覚えていない。けれど、ラエタが俺を支えながら連れて帰ってきていたのはなんとなく覚えていた。
     自室に戻り、今日の物語を綴ろうとしていた。俺はアリスだからこの行動は自然だ。これは女王に報告しなければならないのだから。
    だが、どうしてもミグラ姉ちゃんの最期を思い出してしまう。そのシーンを何度も何度も甦っては、筆を動かせずにいる。どうしてもその場面が書けないのだ。
    「なんで、書けないんだよ…」
     きっとそれは”書きたくない”と、身体が、脳が、拒否を起こしている。こんな事は初めてで、俺はどうしたらいいのかわからなかった。
    わからないまま、俺は夜明けまでずっと筆を握っていた。

     夜が明け、朝を迎える。朝の陽ざしが眩しくて、カーテンを閉めようと思ったその時。部屋にある花瓶からぬるりと花が咲く。女王からの連絡がきたようだ。
    『ディウス、今日の物語が届いていませんよ』
    「女王……」
     気の抜けた声で返答をする。あれからずっと寝ていないのもあるが、あの出来事がずっと思い出してしまって返事をする声すら弱々しくなってしまう。
    『……何かあったかは聞きましたよ』
     女王はダンテル達から軽く報告をもらっていたそうで、ミグラ姉ちゃんの事もすでに知っていると告げた。
    『あの子は…よく頑張ったと思います。闇の中にいた物語から始まったミグラの最期は、ようやく自身が望んだ結末を手に入れたのですね…』
    「……女王、あのさ」
     俺はずっと、彼女が望んだ結末が書けないと正直に女王に話した。
    書こうとすると、手が震えて何も書けなくなってしまう事、そしてあの場面が何度も何度も甦っては胸が苦しくなることを。
    「貴方の書く物語は特別な事が無い限り、悲しい結末がほとんど無かった。それは貴方が悲しい話を書く事に逃げていたのでしょう?」
    「それ、は…」
    『貴方が親しい人の死に初めて触れたからこそ。だからその感情を今こそ物語に反映し、書きなさいディウス。これはミグラの為だと思って……彼女の最期の物語を綴りなさい』
     言い渡された言葉は慰めの言葉でもなんでもなく、女王からの厳しい言葉だった。
    「それでも……っ!」
    『彼女が生きた証を…書いてあげて、ディウス。これは女王だから、ではなく私個人からの……お願いです』
     ミグラ姉ちゃんが生きた証。どうしてだろうか、ほんの少しだけ垣間見た彼女の過去の記憶が鮮やかに思い出してしまう。
    あれはきっと女王も知らない物語。そしてミグラ姉ちゃんしか知らないであろう、幸せなひと時。

    ――書かなければ。

     心の奥底からじわりじわりと這い上がってくる、感情。これはあの時感じたものとは違う。
    これを言葉にするには難しい感情だ。でも、今確かに言えるのは復讐でもなんでもない気持ち。
     一言で表すならば、希望かもしれない。

    「……わかった。とりあえず、できたらまた連絡する」
    『貴方が書く物語、期待しておきますよ』
     俺と女王の連絡はここで終わり、そしてようやく俺は筆を取ってあの日起きた出来事の結末を書く。
    悲しかった事。辛かった事。怒りに満ちた感情があった事。そして、彼女に幸せな日々があった事。
    それらを全て、物語にぶつけた。無我夢中で書いていたようで、気付いたら昼を過ぎていた。
    「…一睡もせず、書いてしまったようなものか」
     最後に、本を閉じて女王に話を送る。ようやく書き終えたのだ、俺とミグラ姉ちゃんの物語が。
    遠くから足音がぱたぱたと聞こえる。やがてドアを開ける音が聞こえてきて、ラエタはドアの隙間からそっと様子をうかがっていた。
    「ディウス、その大丈夫?ごはん食べれる…?」
     どうやら俺を心配して見に来たようだった。ラエタには色々迷惑をかけてばかりで、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
    「大丈夫だ、俺は大丈夫だ……」
     そう言うと、ラエタは不安そうな顔をしていた。
    「……全然、大丈夫じゃないよディウス」
    「どうしてだ?」
    「…涙、零れているから」
     頬に触れると、水に触れたときと同じ感触が指先にあった。
    「泣く、とか久しぶりだな」
     涙は止まる事はなく、静かに一つひとつ落ちていく。
    「ちょっと待って、何か拭くもの…」
    「なくて、いい」
     俺はラエタをそっと抱きしめた。痛くしないようにと、優しく包み込むように。
    「え…!?ちょ、ちょっとディウス!?」
    「しばらく、こうさせてくれ」
     もしもここにラエタがいなかったら、俺はどうしていただろうか。泣いてぼんやりとしている頭で、何故か考えてしまった。
    泣き叫んでいた?それとも、泣いている事に気づいていなかったか?
     だが今はもう、そんな事はどうでもよかった。ただ、誰かが傍にいてくれて良かった。

    ――貴方がちゃーんと、彼女を守ってあげなさいよ…!

     最期に聞いた、彼女の一言を思い出す。
    大切なもの、いや人。その人を俺は、守っていかなきゃいけない。

     俺はラエタの持ち主で、そして時の力を操れる者。
    これから何が起こるかなんて俺にはわからない。けれど、大切にしたい時計<ラエタ>は守っていこうと思った。
    抑えきれないもの空鳥ひよの
     
     
      白と黒の国で、何か割れる音が響く。その音と同時に、一人の男が叫んだ。
    「なんでなんでなんでッ!!!思い通りにいかないんだよあの人形め役立たず!!!!」
     男は怒りのあまり、周囲の建物を破壊尽くした。崩れ落ちるのはあっという間で、辺りには瓦礫の山と化した。
    「もういい、もういいや」
     瓦礫の下に散らばっていたガラスの破片を素手で握る。その手からぽたぽたと血がこぼれていった。
    「ああ……これは……この手で奪えっていうことだな……」
     ケタケタと不気味に笑う。それはまるで、心と身体全て狂ってしまったかのような笑い声。
    「時計を、奪おう」
     呪いの魔術師と呼ばれるヒュゴーレ・シュテルングは、時計がいる街へと向かう。
     欲しかった、懐中時計<ラエタ>を奪いに。
     
     
     時待人第2部6話へ続く……
    空鳥ひよの Link Message Mute
    Jan 10, 2019 11:43:46 AM

    時待人第二部五話「継がれしは、希望-アリス-の物語」

    #創作 #オリジナル #ファンタジー #時待人

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