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    時待人第三部一話「役者は揃い、最後の舞台は幕を開ける」――ついに舞台の幕は上がった。物語の書き手は舞台へ、そして最後の物語を演じるだろう。

     長い黒髪がきらりと光る。彼の名はニクル・クロノス。時の神を司る者。
    彼はだれもいない空間へ向けて高らかに声をあげる。

    ――時計と力を使う者。その結末は幸せな物語-ハッピーエンド-か、もしくは不幸な物語-バッドエンド-か。
     どちらへ転がるかは……君次第だ、フェリメントの名を持つ者。

     気が付けば私は、違う世界へと連れて行かれていた。

     私はあの魔術師――ヒュゴーレに連れさられ、そしてたどり着いた場所が一面、白と黒だけの国だった。
    その国はとても寂しい空気で満たされている。所々破壊された場所もあり、廃墟になっている建物が多く見られた。
    「ちょっと!どこまで連れ去るのよ!!」
     彼は私を抱えて飛び回っていた。正直、こいつなんかに抱えられるなんて心外だ。ましてや私に呪いをかけた張本人。警戒する他ないのだ。
    「もう少しだ……。と、その前に。君、本体の時計は?」
     本体――つまり懐中時計の事。ディウスが肌身離さず持っていて良かったと心から思えたが、バレたら逆にディウスが狙われる羽目になる。
    「……」
    「あるんだろう?さあ、出すんだ」
     話している間に目的地と思われる場所へと着いた。そこはボロボロで、至る所が崩壊しかけている聖堂。聖堂の最奥にある祭壇の前へと着地する。
    「時計なら、ここに」
     自分用にと持っていた時計を差し出す。おそらくすぐバレるだろうけれど、時間稼ぎを少しでもしたかったのだ。
    ここにディウスを呼んではいけない、そう思っているから。
    「なんだか錆びているな……。」
    「うるさいわよ!」
     まあいい、と彼はおぞましい笑顔で時計をなでていた。その姿はとても気持ち悪かった。
    私はあまり他人の事を馬鹿にすることや悪口を言うことはないのだが今はもうその言葉しか浮かばない。それくらに気味が悪い男だと思っている。
    「……!おい、お前偽物を渡したな!!」
     やはりすぐバレたか。それでも私は歯向かえるだけの事はしたい。
    「本物はどこだ!早く出せ!」
    「本物?そんな物はとうに手放したよ」
    「嘘、だな。本体が無ければお前は今、人として成していないだろう」
     ぱしん、という音と共に彼の手が私の頬に直撃した。その衝撃で私はその場で倒れてしまった。
    「やはりお前は、フェリメントの人間と契約しているんだな……?あの時、何か違和感があると思ってはいたが」
    「……」
    「答えが返ってこないということは、そういうことだろう?」
     きっとこの人はディウスを殺すつもりだ。そうなる前に私が止めなければ、と扇型の武器を取り出す。
    「おっと、それは無駄だよ」
     彼の術で扇ははじかれ、遠くまで飛んでいってしまった。そして私は後ろにあった祭壇に押し付けられ、四肢を魔術によって封じられた。
    「あっ……!」
    「もう、ダメだよ?君は僕の言うことをちゃーんと聞かなきゃ……」
     
     きっとディウスの事だから、私を助けに行くだろう。
    でもそれを望んではいけない。じゃないと魔術師に殺されるだろう。だから――
    「ディウス……、私を助けに来ないで」
     ただそう願うしかなかった。
     
     
     
    ――大事な物を、取り戻さなければ。
     
     ただその一心で俺はすぐさまラエタを助けるために追いかけようとした。だが、それはダンテルとレフォーヌらによって止められてしまった。
    「お前な!何も対策無しにあの魔術師んとこ行くってバカすぎるだろ!!」
    「そうです!貴方が行ったところで返り討ちに遭うだけなのですから…!」
    「けど…!早く行かないと、ラエタが…!」
     正直焦っている。彼はどんな手をつかってまでも、時の力を奪うだろうしそれに俺との契約を解いてラエタを完全に己のものとするだろう。
    「ディウス君、この二人の言う通りだよ。僕もこの無茶のまま、君を送り出そうとは思わない」
    「ヴェルカ……」
     ついにはヴェルカにまで言われてしまった。その言葉を聞くと、ふと我に返ったような気持ちになる。
    気を落とし、俯いていると下からボコボコと地面をせり上げるような音がした。そして固い地面からひょっこりと白い花が咲く。
    『ディウス、それに皆さん無事ですか…!』
    「女王(クイーン)…!」
     いつもの女王による通話だ。けれど女王は珍しくいつも以上に焦りを見せている。
    「おい、女王やべーぞ……。時計の人の方、奪われた。しかもあの、魔術師の手によって……」
    『ええ、状況はうっすらと見ていました。もし無理やりにでもラエタの契約を引き剥がそうとなれば…時の力が、彼の手に渡ってしまう』
    「そうなる前に、俺はどうしたらいいんだ女王」
     女王なら、きっと何か方法を思いついているんじゃないかと聞いてみる。俺はできるならこの手で、ラエタを取り戻したいからだ。
    「お前…!ダメだろうが!!まだまだ戦闘技術もダメな奴に…」
    『少し下がりなさい、ダンテル』
     舌打ちしつつも、ダンテルはおとなしく下がった。そして女王はゆっくりとダンテルらに命令を一つ授ける。
    『ダンテル、レフォーヌ。ディウスを私の城へ連れてきてください』
    「はあ?……それ正気か?」
     女王がいる城へ行くということ。それは女王の素顔が見られる機会でもある。だがそこへ行って何があるというのだろうか?
    『私はディウスに一番大事な事を伝えなければいけませんから……』
     悲しげに女王はそう伝えた。俺に大事な事とはいったい何なのだろうか?ラエタを救いたい気持ち、そして女王が隠していたものが知りたいという気持ちが沸き上がる。
    だがその前に。俺はヴェルカに頼みたい事と渡したいものがあるのだ。
    「ヴェルカ、ちょっとばかし早いが時計屋を頼んだ」
    「うん、いい結果を期待しているよ」
     そう言って、俺はヴェルカに時計屋の鍵を渡した。
    「ダンテル、レフォーヌ。俺を女王の下へ連れて行ってくれ」
    「……わかった」
    「はい」
     彼女たちが紡ぐ魔法陣の中へと入る。この先何が待ち受けているのかわからないが、それでも行くしかない。
    レフォーヌが呪文を唱え終わると、魔法陣は一層輝き始めた。そしてまばゆい光に飲まれ、俺たちは女王がいるという城へ向かった。



     飛ばされた先は、黒い空間の中にぽっかりと浮かぶ城の中だった。
    「ここが……女王がいる城か」
     赤い絨毯、天井にはシャンデリア。そして石づくりの城。
    きらびやかな装飾品が高級感を出していて、女が住むにふさわしい住居だ。
    「あっちこっちに行くなよ、ここ迷ったらわりと大変なんだよ」
    「私たちですら、迷いますから……」
     はあ、とため息をつく二人。俺はそれを見て迷わないようにしようと思った。
    数分歩くと、大きな扉に行き着く。ダンテル曰く、この奥に女王がいるという。
    「さて、ご対面だな。おーい女王!アリスを連れてきたぞ!」
     ごくり、と息をのむ。どんな人物なのか、気になって仕方なかった。そして俺に大事な話というのも、だ。
    「……来ましたか、ディウス。ようこそ、私の住居へ」
     奥の玉座に座っていた女王は、高貴感あふれる人物だった。薄い紫のドレスを身に包み、頭には冠。
    そして意外にも若い顔の女性だった。俺はもしかしたらお婆さんのような顔をしているのでは?と思っていたので、かなり驚いている。
    「面と向かっては初めまして、ねディウス」
    「そ、そうだったな……女王」
     つい怯んでしまった。何せ、今までは花と喋っているという奇怪極まりない光景だったので、人の姿で話すのは少し緊張する。
    「さて、あまり時間がないと思いますので早速。ディウス、貴方に大事な話というのは……」
     いよいよ本題に触れる時がきた。何を告げられてもいいように、と覚悟を決めて聞く準備をしていた――のだが。
    『やっほー!女王、そしてディウス!お久しぶりだねー』
    「え」
    「……ニクル。何の用ですか」
    『ラエタがあいつに連れ去られて、んでディウスがここにいるって聞いてね』
     ここに来て時の神であるニクルが現れ、その光景に俺は気が抜けてしまった。
    現れたといっても、以前オルロと出会ったときみたいに本体が半透明な状態で女王の横に立っている。
    『それに、ディウスの話なら私が適任だろう?』
    「そうでした、ね。貴方はあの人のそばに誰よりもいましたから……」
    『というわけで、ディウスに話したい事を私から話させてもらおうか』
     ニクルが俺の事を何か知っている様子なのは、あの剣を託されてから思っていた。
    けれどあの時はそれ以上何も言わなかったから、俺はこれ以上尋ねる事はしなかった。

     ニクルは語ると同時に表情が一変した。とても冷ややかな、見たことがない表情だ。
    「……私は君にたくさんの嘘をついている。今から話すのはその嘘の一部だ」
    「嘘をついていた?やはり何か知っていたんだな、ニクル」
     にやりとニクルは笑った。ああ、わかっていたんだと一言告げる。
    「私は君の事を知っていたんだ。時の力が使える人物であること、そしてあの剣を受け継ぐべき人物であると。それは君がこの世に生まれ落ちたときから、ずっと」
    「!」
     ニクルは、全て知っていた。俺の事、何もかも。
    それが今から語られるのにそわそわしてしまうのだが、その前に俺と魔術師ヒュゴーレのどこに接点があるというのか。
     彼は真面目な顔をして昔の話を語りはじめる。

    「これはね、既に滅んでしまったフェリメント家の話だ」

    ――フェリメント家。
     それは代々、時に関する力や研究を行う家系。
    そして当主となる者は必ず”時の力”を扱える能力を持つ。
    クレアシオンという剣と共に受け継がれてきたのだ……。


     だから私は常に彼らを監視していた。フェリメントの人間が時の力を使って悪さをしようとか、危ない研究をしていないかとか。
    けれど彼らは人のため、世のために未知なる力を秘めた時の力を研究し、影で支えてきた。
     フェリメントの名を持つものは私が見えるようにし行動や研究を様子見しつつ、時に彼らへ時の力に関する知恵もあげた。

     当時の当主であるエイン・フェリメント、そしてエインの妻ヴィーシャ。
    彼らは仲睦まじい夫婦だった。年の差はあったけど、それを感じさせない二人だった。

     ある日そんな二人の間に待望の子供が生まれた。――名はディウス。

     二人は君の誕生をとても喜んでいた。けれど、君には生まれつき大きな病魔を抱えていた。
     ヴィーシャはそんな君を心配し、それを見かねたエインは君の病気をどうにかして治せないかと、私が頼んでいた研究と同時に行っていたんだ。
    研究に暮れる日々を送りながら数か月。もう少しで研究の目途がつき、ディウスの病気ももしかしたら治せるかもしれないという所まできた。

     ある日の夜の事。フェリメントの屋敷に一人、侵入者が現れた。
    その男は時の力を欲し、そうしてたどり着いたのがこのフェリメント家だ。
    彼は書斎から研究室までありとあらゆる場所を荒らしにまわり、そして時の力を得るヒントはないかと探し回った。
     当然エインがそれに気づいて、妻と子だけを別の場所へと移そうとした。けれど時すでに遅し。彼は――魔術師ヒュゴーレはエイン達の前に立ちはだかったのさ。
    エインは二人に近づかせまいと必死に抵抗した。けれど、駄目だった。ヒュゴーレは屋敷に火を放っていたし、もちろんエイン達全員皆殺しにしようとしていた。
     そこでエインはヴィーシャとディウスだけでも逃がそうと転移魔術を試みた。
    だがヴィーシャはエインと共にいたいと願い、結局ディウスだけを遠くの地へ逃がしたんだ。
     そして転移された先は病院。彼は多額の金と共に、君を無事に病院に転送したんだ。
    もっと言うとエインが最後の悪あがきで、ディウスが他の場所に転送されたことをヒュゴーレに気づかせないように巧く騙したそうだ。
    それで彼は子諸共死んでいると思い込んでいる。
     その後、君の消息はなぜか私でもつかめなかった。これもまたエインの企みのうちだったようだ。きっとヒュゴーレに後をつけさせないようにしたのだろう。
    君は生きているのか死んでいるのかわからずじまいだったけれど、女王から立派に成長し、生きてアリスになっていると聞いたときはとても驚いたけどね。

     これで君に関するお話はおしまい。
    ……これが、私が知っているフェリメント家の最期だ。

    フェリメント家空鳥ひよの

    「父さん、母さん……俺のために……」
    『私はこの事実を後で知った。そして、後悔したさ。女王ともども、ね』
    「フェリメント家にはたまに挨拶をしていました。けれど、こんな事になるとは……」
     俺が小さかった頃の話に、ヒュゴーレがかかわっていたのは驚いた。そしてヒュゴーレは俺の両親を殺したというのも。
    もしも、この事実をちょっと前に知っていたら俺は、ミグラ姉ちゃんのように復讐心を抱えてアリスになっていたかもしれない。
    そう思うと、今この事実を聞いてよかったと思う反面、やはりヒュゴーレは誰かの幸せを壊す最悪な魔術師なんだと、改めて思った。
    「だからディウス。貴方をここで待機させ、ダンテルとレフォーヌにラエタの救出へ行かせます」
    「! なぜだ!?」
     女王は最初から俺を行かせるつもりはなかったというのか。ここまで話を聞いて、俺はますますあいつの顔を殴りたくなったというのに。
    「もうこれ以上、悲劇を生ませないためです。そして貴方は生きて……」
    「俺は納得しない。そんな理由で俺は納得したくはない!」
     大切な人が、今も苦しんでいるかもしれない。だからこそ俺はこの手で救いに行きたい。例え、この身に何かあってもだ。
    それに俺は既に死んでいたかもしれない存在。それだったらもう何も――こわくはない。
    『それでも、君をいかせたくはない。何せ君はフェリメント家で唯一生き残ってしまっている人。……君のような貴重な存在を無くしたくはないんだ』
    「……ッ!」
     今ここでニクルの実体がいたら殴っていたかもしれない。それほどまでにさっきの発言はとても腹立たしいものだった。
    ラエタは魔術師ヒュゴーレに囚われている今、女王とニクルで俺を行かせはしないと通せんぼをする。そしてそれは俺の血筋を途絶えさせたくはないという一心で。
    行き場のない怒りがこの身に積もる。もう、どうしたらいいのかわからなくなって、握る拳にさらに力が入る。
     だがそれを打ち破るかのように、突然一筋の光が女王の前に落ちてきた。
    「何事ですか……!」
    「女王、いやグラン!おいこれ見ろ!」
     ダンテルが一つのカードを拾うと、きらりと光りそしてそれは一人の男を映し出した。
    『やあ、フェリメントの坊や。元気かな?』
    「ヒュゴーレ!」
     彼はにたにたと笑いながら、眠っているラエタの頬を触る。
    ラエタはどうやら無事のようだが、頬に打ち傷や衣服に多少の乱れが見られる。きっと彼が手出ししたに違いない。
    「ラエタは無事だろうな?」
    「もちろんだよ。そりゃあ大事な大事な時計、だからね?」
    「……その割には、ラエタの頬に傷があるが」
    「へえ、それが?」
     初めて会話という会話をしたが、話すだけで怒りがこみあげてくる。
    睨みながら彼と対話しているが、あの眼光には到底勝つことはできない。
    「それで、何の用ですかヒュゴーレ」
    『女王サマ…いや偉大なる魔女様<グラン>もいたのかい?っはは!まあいいや。僕はね、そこのフェリメントの坊やに用があるんだ」
    「…なんだと?」
     一体俺に何の用なのかと気になりつつあるが、むしろこっちにとっては奴の居場所を探れるチャンスだ。
    一言も聞き逃さないように、俺は息をのんで次の言葉を待つ。
    「君が持っている時計をよこせ。今すぐに、ね」
    「!」
     どうやら彼は俺とラエタの関係を見抜いたようだった。そして今度は俺が持つ時計が狙いとなった。
    「そのカードを使えば、僕がいるところへ行ける。……その時計を持って、僕の元へ来るんだ。そしたら時計の彼女を明け渡そう」
     これは罠だ。誰がどう見ても罠だろうともいえるこの取引。だが、このカードがあれば彼の元へ行けるしラエタを助けるチャンスかもしれない。
    「じゃあね、フェリメントの坊や。まあもし来なかったら、あの時計の人の姿をひねりつぶすかもだけど」
     気味の悪い笑いをしながら、彼の映像は消えた
    「ああいわれたら、なんとしてでも行かなければだな」
    『! まさか行こうっていうのかい!?』
    「駄目です!ヒュゴーレの相手なら私がします」
     二人はかかって俺を止めようとする。俺が行ったところで返り討ちにあうのは目に見えている。
    けれど、ラエタがひどい目にあっている姿を見てしまってから、彼に対する怒りが止まらない。
     俺の大事な物を再び壊そうとするのなら、俺は何がなんでも守りたい。
    それはかつて、魔の手から俺を守ってくれた父さんのように。
    「それでも行く。…俺の大事なものをこれ以上、あいつに壊されてたまるものか」
     もう揺るがない。例え罠だとしても、俺はこの手で悲しい物語を終わらせたい。
    それに俺にはミグラ姉ちゃんと約束したのだ。大事なもの――ラエタを守る、と。
    「はあ……もう好きにしなさい。これ以上言っても無駄なようですし。そういう所はエインに似ているというか……」
    『あり?まさかのまさかで折れちゃうの!?』
    「でも、いざとなったら私の手でヒュゴーレを倒します。それだけは覚えておいて」
     ため息交じりに女王は話していたが、険しい表情には少しだけ微笑みを浮かべていた。
    「それに、今こそこれが役に立つときでしょう」
     そう言って女王は空に本を浮かべ、それを俺に渡す。本を受け取ると、見た目こそ分厚いのだがなぜか重みは感じられなかった。
    「これってもしかして」
    「ミグラに聞いたと思いますが、彼女が渡したかった本です」
     本の表紙を見ると俺の名前が書かれていた。この字を書いたのはきっとミグラ姉ちゃんだろう。
    表紙をめくり、1ページ目が現れる。すると、ページが次々と光だし何かが飛んで現れたのだ。
    「な、なにが起きているんだ…!?」
     まぶしい光は俺の前に集いだし、そしてそれは一つの形を作り出していった。
    形は人の形、あるいは人以外のものもあった。閃光がおさまると、その姿の正体に俺は唖然としたのだ。
    「これ……俺が昔書いた、話の……登場人物じゃないか……」
     戦う姫と気弱な王子、元暗殺者の青年と狼の姿をした獣人に二人が拾った少女。そして歌う魔法が得意のエルフの女性に、無口な男の騎士。
    これらすべては俺が子供の時に書いた話の登場人物たちだった。
    「そういえば、ミグラ姉ちゃんが話を書いた紙を貸してほしいと言っていたのは…これのためだったのか…?」
     思い出せば。彼女は時折俺の書いた話をしばらく貸してくれと言っていた。それは俺が新作を書くたびに聞いてきた事だ。
    「ミグラによると、この者たちが貴方の出助けをしてくれると言っていました。これを作るには時間と気力がかかるのですが、あの子は見事作りあげました」
    「……そうか」
     なんて心強い仲間だろうか。この光景をラエタに見せたかったものだ。彼女ならきっと驚くに違いないだろう。
    『はー。ここまでやられたらなあ。もういいさ、とにかくやれるだけやってみるといい』
    「すまないな、ニクル」
    『そういう無茶する所もなんとなーくエインに似ている。……もう慣れてしまったよ』
     帰ってきたら、ニクルの口から父さんと母さんの話が聞きたい。だから俺は生きて帰ろう、ラエタと一緒に。
    「それじゃあ、行ってくる」
     カードを持つと、それが扉の形となり目の前に現れた。きっとそこがヒュゴーレのいる場所に繋がっているのだろう。
    さあ行こう、としていたら後ろからダンテルが俺の頭をぱしっと叩いた。思わず痛い、と零す。
    「まったく、困ったアリスだな。……けど、嫌いじゃない」
    「それは誉め言葉と受け取っていいのか?」
    「知るか。とりあえずヒュゴーレの奴を一発殴ってこいよ、ディウス」
    ダンテルが突然俺の名で呼ぶものだから、一瞬手が止まってしまった。我に戻り俺はわかった、と頷いてドアノブに手をかける。
    扉を開くと、そこはヒュゴーレがいるかもしれない白と黒の世界が広がっていた。

    「俺は、この悲しい物語を終わらせてみせる。絶対に」

     彼女は一人でいるのを嫌う人だ。だからこそ、また彼女を救いだしてみせたい。
    無茶だろうが、無謀なやり方だろうがそれでも俺が行かなければ意味がない。
     持ち主だから、というのもあるが何よりも、俺のそばから離れてほしくないという気持ちもあった。
    その気持ちは一体どこからきたのかはわからない。けれど、あの男によって連れ去られた瞬間を見たとき。
     胸の奥で、何か痛みがあった。その痛みは何かわからないが、その痛みと同時に彼女を取り戻さなければと一層強く誓った。

     異質な世界へ一歩踏み出した先は一体何が待ち受けているのか。
     物語の幕は開けて、そして――
     
     
     時待人第3部2話へ続く……

    空鳥ひよの Link Message Mute
    Feb 22, 2019 11:29:35 AM

    時待人第三部一話「役者は揃い、最後の舞台は幕を開ける」

    時待人最終章になります。ラストまでお付き合いいただけたら!
    #オリジナル #創作 #ファンタジー #時待人

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