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    時待人第三部二話「悲しい物語に、結末-ピリオド-を」 扉を抜けた先は、白と黒に染まった街並み――いや、今は街だった場所。
    安全な場所に着地し、辺りを見回す。嫌に静かで、そして建物は軒並み崩れかけている。
    「幽霊とか出てきそうな場所だな…」
     大通りらしい道を歩いてみる。所々、がれきで道がふさがっていて大変な部分もあったが、それでも俺は前へ前へと進む。
    でこぼこで歩きにくい道をしばらく進んでいると、大きな聖堂が見えてきた。そこには人の足跡らしきものが点々と続いていた。
    「あいつはあの場所にいるんだな」
     聖堂もまた半壊している状態だ。天井は大きく崩れ、柱も折れている箇所が多い。さらに床にはうっすらとだが、血の跡らしきものもあった。
    いったいここで何があったのかはわからない。けれど今はそんな事どうでもいい。まずはあの魔術師の元へ――


     瓦礫だらけの聖堂の奥へとたどり着いた。そこには一人の男が堂々と立っていた。
    「早かったねえ、フェリメントの坊や」
     聖堂の奥に魔術師ヒュゴーレはいた。その後ろにラエタはいたのだが、手足には魔術での拘束具がつけられていた。
    無事で何よりだったが、彼女はずっと下をうつむいている。まるで俺が来た事を喜んでいない様子だ。
    「さあ、早く時計を渡したまえ」
    「ああ……」
     俺はヒュゴーレの元へと向かう。手に懐中時計(ラエタ)を持ち、慎重に歩いていく。
    「なんで…なんで来ちゃったの…」
    「俺はラエタを助けに来ただけだ」
     静かだった聖堂に彼女の悲しい言葉が響く。きっと俺が来たら、俺が殺されるだろうと心配していたのだろう。
    俺がここに来なくても、きっとどのみち時計を奪いに殺しにくる。そんな事を思って俺から来る事を選択したのだ。
    「ほら、これだ」
     俺は何のためらいもなくヒュゴーレに時計を差し出す。この時計を誰かに渡すという行為は初めてだ。
    緊張していたのか、渡す瞬間までわずかに手が震えていた。
    「素直に出すのはえらいねえ。はは、ははは」
     そう言ってヒュゴーレは時計を受け取ろうとする。俺はこの時を待っていた。
    「そこだッ!」
     瞬時に剣を召喚し、ヒュゴーレ目掛けて切り裂く。だが、それは空振りの一撃に終わってしまった。
    「なーんだ、いい子じゃないんだね」
    「誰が易々と時計を渡すものか。ラエタの持ち主は俺だ」
     一撃がかわされたので、素早くラエタの方へ駆けつけようとする。だが、ヒュゴーレが放つ魔術が行く道を塞ぐ。
    「そうはさせないよ」
    「くっ!」
     ラエタをまずは助けようと思ったが、やはり邪魔をされる。
    何せ最強にして最悪の魔術師。そして俺の力すら及ばないほどの強さ。まともに戦ったら勝てない相手なので、まともに戦うのはよくないと思っている。
    「ならば…!」
     時の力を使ってヒュゴーレの攻撃を止めてみようと試みた。だが、力は発揮されず空振りに終わった。
    「なぜだ…!?契約が切れているわけでもないのに」
    「ああ、あの女にちょーっとだけ細工したんだ。まあ、力の供給を断つ事はできるもんだね」
     お互いに使える時の力をあいつはいとも容易く止めたというのか。驚く俺にヒュゴーレは再び攻撃を仕掛け始める。
    「つまんないなあ。フェリメントの人間ってなんでつまらない人間ばっかなんだろうね」
    「それはどういうことだ」
    「なんだっけ……あいつ。エインっていうやつか。あいつはね、突然剣を放り投げてちゃっちい剣でこの僕に歯向かってきたからね。なめた真似をしてきて、あれで当主って」
     父さんは最期までヒュゴーレと戦い、命を落としたと聞いた。それが原因で父さんはこいつに負けたというのか。
    「うるさい!それ以上、父さんの事を馬鹿にするな!」
     対抗しようと俺はレフォーヌに教わった術すべてをぶちこんでいく。それはもう、レフォーヌが見たら絶句するほど無茶苦茶なやり方だ。
    「そんな低級の術、僕には通用しない」
     奴は次々と俺の術をかわす。ああ、やはり届かないものかと絶望する。
    けれど俺にはまだ手がある。それはとっておき、そして彼に大切な人を奪われた彼女の恨みを晴らすに丁度良いあの本がある。
    「出すには少し早いとは思っていたが……まあいい。早速使わせてもらうぞ、ミグラ姉ちゃん!」
     本を取り出し、ぱらりとページをめくる。まず俺が呼び出したのは――
    「強き姫・ティフォン!そして彼女を支える弱き王子・アルクス!」
     おてんばどころか武術に長けてしまった姫、ティフォン。そして彼女を陰から支える心優しい王子、アルクス。
    まずはこの二人を召喚し、戦ってもらうことにした。
    「な、なにあれ!?」
     ラエタは驚いているが、俺も初めて召喚したものだから同じ気持ちだ。この二人はどう戦うのか、まったく見当がつかない。
    「と、とりあえずあいつをなんとかしてくれ」
     二人はこくりと頷くと、ヒュゴーレ目掛けて勇ましく挑んでいった。ただし、姫だけだが。アルクス王子は物陰に隠れながら弱々しく呪文を唱えていた。
    「なんだよこいつら!」
     姫は手に持っている剣で素早く切り裂いていく。そして物陰にいた王子は呪文を唱え終わると、強力な火球術を放つ。
    さっきまでは余裕綽々だったヒュゴーレが少しだけ押されているのが目に見えてわかる。
     この調子で、と思いきや姫と王子はヒュゴーレの強い術を思いっきり食らい、その場で消えてしまった。
    再び呼ぼうと思えば、そのページは真っ白になって消え去り再召喚ができなくなっていた。
    「これは一度きりの召喚なのか……」
     次の登場人物を呼んでみることにした。次のページをめくり、俺はその3人の名を読み上げる。
    「暗殺者のアルライル!そして獣の姿を持つフェガリ!閉じ込められていた少女リムタ!」
     3人を呼び出すとアルライルは素早い動きでヒュゴーレの懐に入り、手に持っていたナイフで喉元を切り裂く。
    寸前の所でかわされたようだが、首にはうっすらと傷が入っていた。さらにそれを続かんとフェガリは大きな爪で攻撃を繰り出す。
    「ぐあッ!……邪魔なんだよお前ら!!」
     そして彼らの力をさらに与える存在であるリムタ。彼女の祈りの力は二人に捧げている。
    二人は思いっきり奴の顔を拳で殴る。これは大きな一撃となり、あのヒュゴーレがよろけていた。
    「うざいんだよ!!この……!!」
     だが奴の怒りはどんどん上がっていき、3人まとめて闇の力により飲まれて消えていく。
    ここで3人は消えてしまったが、次の物語で最後の召喚となった。
    「次で決着つかなかったら……」
     そう思っていると、俺はあるものに気づいた。それは、ヒュゴーレの姿が少しずつおかしくなってきている事だ。
    彼は人の形であるのは間違いないのだが、手や足にひびが割れていた。そのひびからとげのようなものが伸びてきている。
    「まさか…あの姿は仮の姿?」
     俺が人物たちを召喚していく度にその皮がはがれてきている。この本は、ミグラ姉ちゃんが作ったもの。以前一度戦ったというのなら、彼女は何かに気づいてこの本を作り上げたのだろうか。
    「歌を歌えオムニス!そして歌姫を守る騎士スキア!」
     2人を召喚すると、オムニスは優しい歌声でじわじわとヒュゴーレを攻める。そして騎士スキアは大剣を手に奴と真っ向勝負に挑む。
    すると、ヒュゴーレ自身に大きな変化が表れ始めた。ひびだけではなく、皮膚の色がどんどん変化していく。
    「いいぞ……!2人とも、もう少しだけ耐えてくれ…!!」
     ヒュゴーレが二人に気を取られているその隙に、俺は素早くラエタの方へ再び向かった。
     
     


    「ラエタ…!」
    「あ、ディウス……」
     俺は早速ラエタを捕らえていた拘束術を解く。幸い、レフォーヌから教えてもらった解除術で解けたのは運が良かった。
    だがよく見ると、彼女の衣服は所々乱れ頬にはいくつか殴られたかのような跡があった。
    「まさか、あいつに何かやられたんだな」
    「う……。そうなんだけどね、まあ私があいつをだますことができなかったから…それで……」
    「…はあ。一人で無茶をして…」
     傷ついた体で色々抵抗してきたそうだが、俺も皆の静止を振り切ってここへやってきたのであまり彼女へ強く言えない。
    それでもラエタは頑張っていたのだろう。彼女の傷ついた体をそっと抱きしめる。
    「ななな、なんで急に……」
     ラエタから引き剥がされてしまい、彼女は顔を赤くしてうつむく。
    どうしてだかこんな行動をとってしまったのかわからないけれど、今はこうしてやるのが一番かもしれないと思わず抱きしめてしまった。
    「す、すまん。なんかそうしてあげた方がいいと思ってしまった……それだけなんだ……」
     女性を抱きしめる行為をするなんて、俺はうかつな事をしている。この間もそうだ。ミグラ姉ちゃんの事で悲しみに陥っていたあまり、思わずラエタを抱きしめてしまった。
    それに今、ヒュゴーレは倒されてもいない。浮かれている気分は今ではないのだ。
    「そ、それより…その本って」
    「ああ、これだな。ミグラ姉ちゃんが俺に、と残してくれた本だ。おかげでとても役に立っているし、それに――」
     ヒュゴーレは物語の人物に押されていた。強い、と謳われているあのヒュゴーレが、だ。
    「だがそれも限界、か」
     オムニスとスキアが少しずつ消えかかってきている。彼らはもうそろそろ限界を迎えていた。
    ここまで粘ってくれたのはとてもありがたかったし、自画自賛になってしまうが流石俺が作り上げた人物だ、と改めて思ってしまった。
     ついに二人はヒュゴーレの大きな攻撃を食らい、消失した。最後まで頑張ってくれた物語の人物たちに感謝を。
    「もう終わりかい?」
     ヒュゴーレはこちらを向いてにたにたと笑っていた。こちらの策はほぼ尽きたも同然で、あとは逃げるほかない。
    だが彼から逃げようにもここは彼の陣地。逃げる術もゼロに等しい。
    「そうだな……もう策はないのだが、一つだけ気づいた事がある」
    「なんだい?」
    「お前は……人じゃないだろう。いや、すでに人を捨てたといってもいいのだろうか」
    「!」
     そう、ヒュゴーレは人の姿をもはや維持できない状態になっていた。紫と黒が入り混じった、翼と体。そして頭部には大きな角が2つ。
    鋭い爪を持ち、それはまさに悪魔のような姿と化していたのだ。
    「そういうことか…!!あの変な奴らの手によって、俺を剥がすなんて……あの女……ミグラと言ったか。あいつと同じ手口じゃないか」
    「ミグラ姉ちゃんが…!?」
    「あの女はね、僕の左側に傷を残した。そして、僕はアレを処分した。だが丁度良いときに実験台になってもらったんだ。死んだ人間を傀儡人形として、ね」
     彼の顔、左側にやけどのような跡と髪の毛の一部が白くなっていたのを思い出す。あれが、ミグラ姉ちゃんが残した一撃だったというのか。
    「やばい物を遺していったんだな、ミグラ姉ちゃん」
     今や力を残していない本を撫でた。ご苦労様、という気持ちでその本に改めて感謝の気持ちを伝えた。
    「さて、これからだが……」
     俺は剣クレアシオンを持ち構える。真向勝負しても勝ち目はないけれど、今やれることを全力で叩き込む事にする。
    「ま、まさかディウス……!バカな事はやめなさい!!」
    「それ、ラエタも人の事言えないだろう」
    「それでも!やめてよ、やめてってば……」
     ラエタの瞳からは涙がこぼれていた。泣かせるような事はしたくなかったが、状況が状況だ。
    「それでも、俺はこの物語を終わらせなければならないと思っている。それはアリスだからではなく、俺自身の意思でそう決めた事だ」
     もう、悲しいことは終わらせたい。人々を悲しませる元凶がいるのであれば、それを断ちたい。
    今まで物語を書いて過ごしてきた俺は、傍観者のような位置にいた。けれど、今は違う。
    舞台の幕は上がった、そしてその舞台の主役として選ばれてしまったのは、俺。ならば、最後までその物語の主役らしく振舞って、なおかつ悲しい話を終わらせておきたい。
    ここで止められるのであれば、俺はこの命を惜しくはないと思っている。
    「もう、終わりにしたいんだ。何もかも……」
     悪魔のような姿になったヒュゴーレへと進む。彼の姿はさらに変化が起こっており、胸元に大きな紫の石が出っ張っていた。
    同じようなものを俺は一度見たことがある。それは、ミグラ姉ちゃんにとどめを刺したとき。きっとそれが奴を倒す、いわゆる弱点だろう。
    ならば、俺はそれ目掛けて剣を振るえばいいのだろうと確信し、最後の戦いへと向かっていく。


    時待人第3部3話へ続く……
    空鳥ひよの Link Message Mute
    Mar 1, 2019 12:35:37 PM

    時待人第三部二話「悲しい物語に、結末-ピリオド-を」

    ついに魔術師ヒュゴーレの元へと向かうディウス。
    だが、そこで見た光景は——

    #創作 #オリジナル #ファンタジー #時待人

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