イラストを魅せる。護る。究極のイラストSNS。

GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

  • 1 / 1
    しおり
    1 / 1
    しおり
    時待人番外編2「現在へ繋ぐ、過去の記憶-メモリー-」  ここはとある世界。そして時の神が住まう場所でもある。
    時の神であるニクルは、一人何か考えこんでいた。
    「う~ん…あれ回収したいんだよなあ……歴史変わっちゃうかな……いや変わらないはず……」
     眉間にしわを寄せ、頭を抱える時の神はある事に悩んでいた。
    「エインがやっていた研究資料……あれ保存しておきたいんだよなあ……多分あれはオルロに……」
     過去に戻って、エイン・フェリメントがいた時代で資料を回収する。これだけで歴史は動くか否かでとても悩んでいた。
    「やってみよう。何かあったら二人の記憶はボカンってしとけばいいし」
     ひらめいたという顔でニクルは早速行動に移ろうとしていた。が、一つ思いとどまる事が。
    「そうだ!ついでにディウスとラエタもつれていってみてもいいね!最終的に記憶ボカンするならいいよね!!」
     二人はあの一連の事件でかなり助かったし、おまけに今や新婚夫婦だ。ハネムーン旅行には丁度良い。
    そう考えたニクルはスキップしながら、ディウス達がいる世界へと飛んでいった。
    「いやあ、私ってめっちゃいい神様~」
     



     平和というのは、まさにこういう事なのだろう。
    朝食を済ませ、のんびりと茶を飲み新聞を読む。こんなひと時がとても幸せだと感じる。
    アリスの時は忙しない日常を送っていたから、こんなにのんびりと過ごせるというのは本当に幸せなものだ。
     それに今はラエタという妻の存在も大きい。誰か傍に一人いるというのは俺にとって大きく感じる。
    今まで一人だった俺はその変化に戸惑う事はあるが、それでも幸せな日々を送れるのは嬉しい。
    「お茶、おかわりいる?」
    「ん、あるなら欲しい」
    「じゃあ淹れるね」
     彼女に毎朝叩き起こされるのは少しきついが、こうして美味しいお茶を飲む朝も悪くないと思っている。
    だが、悲しいものか。幸せな日々というのは突然破られる事もある。
    「ハロー!新婚なお二人さん~!!」
     今しがた、そうなってしまった現実に俺は頭が痛くなった。
    「げ、ニクル!何しに来たのよ!!」
    「いやあ、君たちにビッグな旅行のお誘いしようと思ってね!」
     事あることに協力してくれている時の神、ニクル。ラエタが人として戻ってこれたのは彼のおかげではある、が。
    今回ばかしは嫌な予感がする。俺の感がそういっているのだ。
    「で、何の用だニクル。それに旅行ってなんだ」
     えっへん、と威張りながら彼はにこにこと笑顔で説明する。
    「いやあ、ちょっとね。とある世界の過去に行こうかな~って思っていたんだよね!でも一人で行くのもあれだし、せっかくだしと思って…」
    「……」
    「二人にハネムーン旅行として、とある世界の過去へご招待!」
     俺とラエタは真顔で硬直した。なぜ、そうなるんだと。
    彼は一体何を考えているのかはわからない人だ。いや、今もなのだが。
    「……どこの世界の過去に行くつもりなんだよ」
    「えー?それはー着いてからのお楽しみ」
     焦らすなよ、と内心つっこんだ。場所がわからないとますます不安になるだろう。
    「はい、じゃあ早速行こうね~」
    「は?」
    「え?」
     有無を言わさず、ニクルは俺達を引っ張って強制的に過去へ飛ばした。
    今なら思う。俺はこの神様が憎い。オルロが警戒するのもなんだかわかる気がする。
     少しずつ意識は遠のいていき、俺はたゆたう時の流れに身を任せていた。



     どさり、と乱暴に床に叩き落とされた。どうやら目的地に着いたらしい。
    「痛い……あと、重いぞラエタ……」
     気づけば俺の上にはラエタが覆いかぶさっていた。
    俺が下敷きになったおかげでラエタは無事ではあったが、その代わり俺がラエタの全体重を預かっている状態だった。
    「女性に重いはないでしょうが!」
    「すまん……」
     とりあえずここはどこだろうと辺りを見回す。
    高級そうな壺に、ふかふかの赤い絨毯。天井はガラス張りで光が柔らかく差し込まれている。ここはどうやら、屋敷の中みたいだ。
    「ここどこだろうね……しかもニクルいないし」
    「さあな……。ただ人の家に勝手に入ったのは事実だが」
     見つかったら、不法侵入者として捕まられてしまうかもしれない。
    そうなる前に俺は急いで外に出る扉を探そうと立ち上がる。
    すると、奥から誰かの足音が聞こえた。音からして、走ってきているようだ。
    「やばいぞ、ラエタ。ここの屋敷の主に見つけられたかもしれない」
    「え、え!?」
     俺はラエタの手を引いてどこかへ隠れようとしていた。だが時すでに遅し。
    「……屋敷の中に無断で入った奴はお前達か」
     背の高い、そこそこがっしりとした男性が俺達の前へ現れた。手には剣を構え、警戒している様子だった。
    「あの、俺達は」
    「問答無用。ここは普通の人が入ってはいけない場所だ。さあ、ここから出て行け」
     そう言って男性は剣を振りかざし、俺達を追いやろうとする。
    「いきなり、武器もってくるなんてー!」
    「仕方ないがこっちも対抗するしかないな」
     俺の唯一の武器といってもいいクレアシオンを召喚する。戦う気はないが、念のために剣を構えておく。
    すると男は目の色が突如変わり、俺との距離を離した。
    「なぜ、その武器を持っている…!今持っているこの武器とまったく同じ物を…!」
     男が驚いて怯んだ隙に、ラエタと共に屋敷の奥へと逃げる。
    とにかく、今この状況で戦うのは危険なのでどこか安全な場所で落ち着こうと思った。
    空き部屋らしきところへ慌てて駆け込む。そして鍵をかけ、やっと落ち着く事ができた。
    「なんだったんだ……」
    「あの男の人、クレアシオンを見て驚いていたけれど…」
     そう、俺も驚いた。クレアシオンはニクル曰く”フェリメント家の家長しか持てない武器”と言われているからだ。
    あの男性も手にはクレアシオンを携えていた。剣は絶対に一振りしかないというのに、だ。
    「肝心のニクルがいないと話が進まないな…」
    「そうだね、ここなんだか高級すぎておっかないというか」
     至る所に調度品が飾られているこの屋敷。壊したら弁償できなさそうな高級感溢れる品物ばかりだ。
    壊さないように俺達は高級そうなものを避けて、床に座っている。
    「あの神様は、本当に気まぐれだわー」
    「何が、気まぐれだって??」
     目の前に突然ニクルが現れる。俺達は思わず一歩引いてしまった。
    「に、ニクルいたのか」
    「いたよ。というか君たち探していたし~」
    「そ、そうか……」
     ようやく肝心の人が現れたので、少しだけ安心する。
    それより、ここはいつの時代で世界なのか。俺がそうニクルに尋ねようとした、その時。
    部屋の扉が突然開き、先ほどの男性が現れる。その後ろには、さっきいなかった女性の姿もあった。
    「まったく…ニクル。お前はなぜ先に説明しないんだ」
    「ごんめー!でも、君さ~息子に向かって刃物振り下ろすってやばたんでしょうがー」
    「お前が説明しなかったからだろうが!!」
     男性はひどく怒りを表していた。だがニクルは平然とまあまあ、と言いながらなだめている。
    二人は知り合いなのか、と思いきや、後ろにいた女性が駆け付け俺に抱き着いた。
    「ディウス……!未来の姿はこんなにお父さんに似ちゃって、しかもかっこいいじゃないの~!」
    「え??」
     ニクル、説明をと言わんばかりに俺はニクルをにらんだ。すると彼はようやく説明する気になったようだ。
    「説明しよう!ここは、ディウスが生まれた場所であり世界。そしてフェリメント家が住んでいた場所。もっというと、エインが生きていた時代だ」
    「それって、つまり俺がいた世界の昔の時代に来たって事か?」
    「そういう事!」
     エイン・フェリメント、そしてその妻のヴィーシャ。話だけはニクルから聞かされてはいた、俺の両親。
    俺が赤ん坊の頃、ヒュゴーレの魔の手から逃がすために二人は犠牲となった。
    「じゃあ、今、目の前にいるのは…俺の父さんと、母さん……?」
    「さっきは悪かったな、ディウス。そして……ディウスの妻よ」
    「ひゃ、ひゃい!?え、わ、私も!?」
     これは、夢なのではないかと思った。でもさっき母さんに抱きしめられたぬくもりは、本物だ。
    ずっと会いたかった。けれどそれは願ってはいけないし、会う事もないだろうと思っていた二人。
    「大体の事情はニクルにざっくり聞いた。お前達は未来から来たのだろう?」
    「ほらほら、美味しいお菓子とお茶用意したからはやくはやく!」
     母さんは俺とラエタの手を引いて、別室へと誘導する。父さんはそれを横で見て、微笑んでいた。
    「こ、これって…… !ちょっと、ディウス……」
     ラエタが俺の頬を突然触ってきた。どうやら涙が一粒零れていたらしい。
    「……良かったね」
    「ああ……」
     こうして、俺達の過去と未来を繋ぐ物語がひっそりと幕を開けたのだ。


     俺とラエタ、そして向かい合って父さんと母さんが座っている。
    世間でいえば妻にしたい人を紹介するにはいい図だろう。というよりか、母さんがさっきからそわそわしている。
    「あのさ、ディウスはどこでそのお嫁さん……あ、お名前は?」
    「え、っと、ラエタって言います……」
    「ラエタさんね!素敵なお名前だわ~」
     といった調子で俺と父さんはどこか置いてけぼり感を食らっている。
    「……お前の母さんはあんな感じだぞ」
    「そっか…」
     父さんと母さんはニクルから俺達の事についてやんわりと説明を受けている。
    過去を大きく変わるような箇所は外してはいるが、父さんと母さんが未来にいないという事等は少しだけ言っているそうだ。
    「だが、なぜ過去へ行こうとしたんだ?むやみに過去へ渡るのはよろしくない行為だが…」
    「それがだな、ニクルが急に行きたいって言って俺達ごと、ここへ」
     飛ばした本人はそっぽ向いて、俺達との視線を極力あわさないようにしていた。
    「ニクル、お前……」
    「いやあ、この世界の過去に用があるついでって思ってね!ね!!」
     はあ、と父さんはため息をついた。ニクルは父さんと大きくかかわっていたと聞いていたが、やはりこの調子に狂わされていたのだろう。
    一方、ラエタと母さんは話が盛り上がっており、別室に行っていいかと俺達に尋ねた。
    「ああ、ゆっくり語ってこい。俺もディウスと二人きりで話がしたい」
    「俺と?」
     ああ、と言って柔らかく微笑んだ。どんな話が聞けるのかはわからないが、知らなかった父さんの一面を覗ける機会だ。
    「じゃあ、私達は小さい方のディウスがいる部屋に行くわね」
     小さい方の俺。この時代は、俺が生まれたばかりの頃だ。
    「そうか、俺がこの時代に二人いるようなものか…」
     なんだか不思議な気分だが、父さんたちの方が一番不思議な気分を味わっているかもしれない。
    何せ、生まれたばかりの息子が未来からやってきて、こうして話をしているのだ。
     こんな時はもう二度と交わらないかもしれない。一分一秒を、忘れないように俺はこのひと時を大切にしたいと思った。
    「……二人は行ったようだな。じゃあ、話そうかディウス」
    「ああ。俺も父さんに聴きたい事が山ほどある」
     俺と父さんで語るものは、何か。心の奥でうずうずとしている自分が、今ここにいる。


     どうしてこんな状況になっているんだろう。
    この時代に来てから、私の頭の中はぐるぐると渦巻いていた。
    「ねえねえ、ラエタさんは息子のどこら辺が好きなの?」
    「ふえっ!?えっと、その……」
     ディウスに助けられた時に言われたひとことで惚れました、なんて言えるわけもなく。
    ニクルにひっそりと告げられたが、私達の事はあまり詳しく話さない方がいいと言われた。
    何がきっかけで歴史が変わってしまうかわからないからだ。
     もし変わるようであれば、ニクルは記憶消失させるとは言っていたけれども。
    でも、なるべくなら二人の記憶から私達と出会った事を消したくはない。例えヴィーシャさん達が亡くなる運命だとしても。
    「今、寝たところだから少し静かにしてもらえたら嬉しいかな」
    「は、はい」
     ついに小さいディウスに会う時がきた。生まれたばかりの彼はどんな感じなのだろうか。
    あまり変わっていないのだろうか、それとも変わっているのか。気になる事はたくさんありつつも、私は小さい彼がいる部屋へ入る。
     起こさないように、そっと眺める。そこにはすやすやと眠る小さいディウスがいた。その寝顔は今と変わらない寝顔だった。
    「ちいさい……!」
    「ふふ、あとで抱っこしてみる?」
    「えっ」
     小さいディウスを抱っこするなんて、なんという幸せの極み。いやでも、と葛藤してしまう自分がそこにいた。
    抱っこしたら、狂喜乱舞してしまいそうで危ない気がして。でも、この時しか抱っこできないと思い悩んでしまう。
    「じゃ、じゃあ、あとで…」
    「うんうん、きっとこの子喜ぶと思うから」
     そう言って、私達は部屋の奥にあるソファーに座った。柔らかな日差しを浴びながら、私とヴィーシャさんは語らう。
    「ねえ、ここに……過去に来たって事は、私達が未来にいないからあなた達は会いにきたのよね」
    「それ、は」
     いえるわけがない。この先、ヒュゴーレがやってきてこの屋敷ごと消し去られるなんて。
    「あ、いいのよ無理に言わなくても。もう私とエイン、わかっているから」
     胸が痛い。あのような結末を迎えてしまうという事実を私とディウス、そしてニクルしか知らないのだから。
    「あの子は…ディウスは、大きくなってどう?」
    「えーっと……そうですね、のんびりとしているというか……あ、お話をよく書いてます」
    「まあ、あの人に似ちゃったのね」
     どうやらディウスのお父さんも物語を書くのが趣味だそうだ。血は争えないというものなんだな、としみじみと感じた。
    「あとは、甘い物が好きで……。その、最近おやつ代で少し喧嘩しました」
    「まあ!それは私かしら!?私も甘い物が大好きで、ついついケーキを丸ごと食べちゃうの~」
    「……へ?ケーキ、ま、丸ごと??」
     甘い物好きはお母さん似、といえばいいのだろうか。にしても二人の大きな特徴がディウスに受け継がれているのは、ある意味驚きである。
    ただケーキ丸ごとはさすがに食べすぎだと思います、ヴィーシャさんと心の中でそうつぶやいた。
    「よくね、お菓子を作っちゃうんだけど……。あ、これ持っていかせたらダメかしら?」
     ヴィーシャさんはそう言うと立ち上がり、机の上にあった本を一冊持ってきた。
    「これ。私が作った料理やお菓子のレシピを書いたメモなんだけど……あとでニクルちゃんに確かめるから、もし持って行けたら持っていって」
    「え、でもそんな大事なものを」
    「いいの、未来に私達がいないのなら今、これを貴女に渡すべきだと思っているから」
     渡された本は、ずっしりと重かった。きっとこの重さは愛情が詰まっているのだろうと私は思った。
    「大事に使いますね」
    「うん、ディウスにいっぱい美味しいもの食べさせてあげてね」
     ヴィーシャさんの目には涙が浮かんでいた。私はその姿を決して忘れないと誓った。


     母さんとラエタが部屋からいなくなり、俺と父さんだけの空間になった。
    父さんは俺に何を話してくれるのだろうか。実の父の前というのに、緊張が走る。
    「おそらくお前たち二人がここへ……ということは未来で俺とヴィーシャがいないというのはわかっている」
    「ああ……」
    「だからこそ、来たんだろうディウス。俺達を知るために」
     正直言えば、ニクルのついでに巻き込まれたようなものだが、あの時断る事は十分にできた。
    けれど、過去に飛ぶと聞いて期待していたのだ。もしかしたら、父さんと母さんがいる時代に飛ぶのでは、と。
    「どこまで話していいのかわからない……けれど、俺は父さんと母さんの姿を知らずに今まで生きてきたんだ」
    「……そうか」
     今なら少し話せるかもしれない。両親がいない、あの幼少時の話を。
    「少し長くなるんだが、いいか?父さん」
     父さんは静かに頷くと、俺の話を静かに耳を傾けてくれた。


     幼少時ずっと病院暮らしだった俺は、周りにいた同年代の子たちを少しだけ恨んでいた事があった。
    周りの子供たちは基本両親がいたからだ。たまたま通りすがった時、ちらりと病室の中を見る機会があったのだが。
    「その子と、そしてその親が笑いあっている姿を何度も見たんだ……」
     それを見た時、俺はなぜ両親がここにいないのか。なぜ、俺を捨てたのか。
    寂しさは突如やってくるもので、時々それについて涙をこぼす事もあった。
    「だから、俺、身体がポンコツだったから捨てられたんじゃないかってずっと思っていたんだ…」
     あの話を聞かされるまでは。ニクルが告げた本当の事実を聞いた時、俺は捨てられたわけじゃないと初めて知った。
    むしろ、愛されて生まれてきたのだという事を知ったのだ。
    「ごめんな、ディウス。きっと俺達はそう選択したんだろうな、ディウスのためによかれと思って」
     父さんはうなだれながら、そう言った。
    「いいんだ、俺はようやくその事実を知ったからもう気にしてはいない」
    「……そうか。でもそれをしていなかったら、ディウスは今ここにいないわけだしな」
     そう。父さんたちが決死で俺を別の場所へ転移させたからこそ、ここにいて、生きている。
    生きていなかったら、ミグラ姉ちゃんやラエタにも出会っていないのだから。
    「ディウスは今、何か好きな事をしているか?」
    「そうだな……話を、物語を書くのが好きなんだ」
    「! …お前も、そんな事やっているんだな」
    「ということは」
     父さんは本棚から古びた本を一冊取り出した。表紙を見ると、そこには父さんの名が刻まれている。
    「俺もな、昔、ちょっとだけ書いてたんだ。今は当主の仕事で書けなくなってしまったが」
     ぱらりとページをめくってみる。ほんの少しだけ読んでみると、それは少年と少女の冒険譚であった。
    なんだ、父さんも同じ事をしていたんじゃないかと内心そうつぶやき、笑った。
    「なんだか笑ってしまうな、俺は父さんのやっていた事を今やっているわけだから」
    「そうだな。だからこそ、お前はずっと物語を書いていてほしい。俺みたいに夢を捨てることはするな」
     悲しそうな、そして寂しそうな目で父さんは語った。きっと、フェリメント家の当主としての仕事のために夢を捨てたのだろう。
    それはきっとつらかったに違いない。だって、こんなにも父さんの書いた物語は楽しそうな世界を描いているのだから。
    「俺、父さんの分まで書くから、だから安心してほしい…っていうのも変だろうか」
    「…いいや、そうしてくれたら俺は嬉しい」
     ふふっと、笑みがこぼれる。俺は父さんが書いた話を読みながら、横で父さんの解説を聞くという経験をした。
    その時の父さんの様子は、とても嬉しそうだった。


    「じゃあ、そろそろ行こうか二人とも。私の用はオールクリアーなんでね!」
     意気揚々とニクルはそう告げた。この世界、いやこの時代に別れを告げなければいけない。
    「そうと行きたいのだが、ヴィーシャが……」
    「先に行っておいてーと言われたけど、遅いなあ」
    「母さんは何を…」
     そう、母さんがなぜかこの場にいないのだ。俺達はそろそろこの場から立ち去らねばならないという時に。
    「みんな~!ご、ごめんね!」
     すると廊下の奥から、何かを抱えた母さんの姿が見えた。
    「ヴィーシャ、一体何をやって…」
    「こ、これ!ラエタさんにあげようって思ってタンスから引っ張ってきたの!」
     母さんは小さい俺と一緒に、白いドレスを持ってきたのだ。父さんは小さい俺に気づき、危ないからと言って抱きかかえていた。
    「ああ、これが小さい俺…」
    「生まれたばかりだからな、まだ小さい」
     小さい俺を見るのは初めてだが、こんなにも小さかったのかと真剣に見つめてしまった。
    ラエタは横で、寝顔は変わらないと言っていたがそうなのだろうか。まじまじと眺めていると、横で母さんがニクルに押し付けていた。
    「ニクルちゃん、お荷物追加!」
    「ええ~!?うっそーん……」
     はいこれ、と母さんがラエタに手渡したそれは純白のウェディングドレスだった。
    「え……、えええええー!?これって、ウェディングど、ドレス…!?」
    「うん!ラエタさん、さっき挙式を挙げてって言ってたから!思い出して引っ張り出してきたの~」
     思い返せば。そう、俺達は挙式を挙げずにそのまま結婚した。
    してもいいとは言ったものの、ラエタがなぜかやんわりと拒否をした。どうやら人前に出るのが死ぬだのなんだの、という彼女らしい回答をもらった。
    「で、でも、私……」
    「まー、ほら、挙式しなくても写真くらいは撮っておけばいいと思うんだけどなっ」
     慌てふためるラエタは目で俺に合図を送ってきた。
    「もらっておけ。あっち帰ったら…そうだな、撮影くらいはしておこうか」
    「へ!?ちょ、あの、そのー!?」
     そんなラエタを見て俺達は思わず笑った。ああ、こんなあたたかい空気が、とても愛おしいと心から思った。
    「じゃあ、持っていくものは私が預かるからね、安心してくれたまえ~」
    「ニクルちゃんよろしくね!」
    「……元気でな」
     ニクルは元の時代へと飛ばすために術式を展開する。俺達は光に包まれ、いよいよ戻る時がくる。
    「父さん、母さん、ありがとう。俺、一生懸命生きていく。だから…」
    「あ、あの!お、お義父さんお義母さん!ディウスに関しては私がなんとかするんで!」
     俺達がそう言うと、父さんと母さんは微笑んで俺達を送った。

    ——元気で、仲良く過ごしてね

     この言葉を最後に、俺達は元の世界、時代へと戻らされたのだった。



    目を開けると、いつもの見慣れた家の中だった。
    そう、ようやく俺達がいるべき世界と時代に戻ってきたのだ。
    なんだか長い時間いた気がするのだが、ニクル曰くほんの少しの時間しか流れていないという。
    「というわけでね、君たちのお土産をここに置いておくから」
     先ほどもらった白いウェディングドレスに、母さんのレシピ本。そして、見慣れない分厚い本が一冊。
    「エインに頼まれたんだ。これを、って」
     古ぼけた表紙を見ると、それは日記帳と書かれていた。
    「もしやこれは父さんの…」
    「当たり~。彼はまめに書いてたんだよねー。私には見せてくれなかったんだけど」
     ニクルに見えないようにページをめくる。そこには父さんが歩んできた日々が綴られていた。
    さらにめくってみると、母さんの名もあった。ぼんやりとしか読めていないが、母さんとの出会いらしきものが書いてある。
    「これはあとでじっくり読もう……」
     読み終わったらラエタにも読ませてもいいかもしれない。そう思いつつ、日記帳を大事に抱えた。
    「じゃあね、もしかしたら今度はオルロをこちらへ連れてくるかもしれない」
    「ほ、本当!?」
    「うん、オルロもねラエタの事を心配していたからさ。一度ここへ連れていかないと、彼は怒りそうだし」
     時を旅する者、オルロ。そしてラエタの弟でもある。また彼と会いたいと思っていたので、俺も嬉しい。
     ニクルは手を振って、俺達の世界から消えた。今度会う時は時の旅人と共に訪れると信じて。


    「それで、どうするラエタ」
    「え、えっとぉ……」
     美しい純白のドレスを前にして、ラエタはびくびくとしていた。
    きっと着れると思うのだが、その着る機会というものをどうするかはまだ決めていない。
    「着てみたいけど、式は、そのこわ、いで、す……」
    「まあ、それは俺もだ。ならせめて写真くらいは撮るか」
    「ほ、ほんとにいいの……?」
     ラエタは恐る恐る俺に尋ねる。こんなに立派なドレスをもらってしまったからには、着せてやらないと母さんに怒られそうだ。
    「俺は構わない。ラエタがいいというならば、俺はそれでいいんだ」
     じゃあ、と目を輝かせてラエタは写真を撮りたいと告げた。
    俺もこのドレスを着た彼女の姿が見てみたいと思っていたので、嬉しく思う。
    「色んなものを、もらってしまったな」
    「うん。でも大切にしていかなきゃね。」
     もしも、なんて思ってしまう。けれど、そのもしもが叶った時、そこにはラエタと共にこうして過ごす未来はないと気付いた。
    この幸せな日々は、たくさんの悲しい事があったその先で得たものだ。だからこそ、この一日一日を大切にしていきたい。
    じゃないと俺を助けるために犠牲となった父さんと母さんや、俺を救ってくれたミグラ姉ちゃんに怒られてしまいそうだ。
    「俺達の未来は、何が待っているんだろうな」
    「さあ……何があるんだろうね。でもわからないからこそ、ある意味楽しみといえば楽しみよね」
     ラエタは俺に寄り添い、手を握りしめる。俺もその手を握り返す。
    「まあ、その前にニクルが言っていた条件諸々のクリアーしなければだな、ラエタ」
    「えっ!?ちょっと、あれ覚えていたの!?」
     慌てるラエタに、俺は思わず笑ってしまった。
    まあ、そう遠くないうちに家族が増えるのもいいのかもしれない、と思っている。
    それはそれで楽しみな未来だな、と心の中でつぶやいた。

    (父さん、母さん。俺はこの人と一緒に、歩いていくよ)

     見えない未来に想いを馳せながら――




    時待人番外編「現在へ繋ぐ、過去の記憶-メモリー-」  完

    空鳥ひよの Link Message Mute
    Apr 19, 2019 11:07:10 AM

    時待人番外編2「現在へ繋ぐ、過去の記憶-メモリー-」

    ※時待人本編のその後を描きますので、本編ネタバレあります。

    ディウスとラエタさんがとある世界の過去へ行く話。
    これにて、時待人の更新は終わります。
    1年目という節目に、特別なお話を公開できました。

    そして平成最後の更新ですね。
    次は時旅人リメイクでお会いしましょう。

    あとがき→https://twitter.com/Hiyono_Soradori/status/1119203396521586689

    #創作 #オリジナル #ファンタジー #時待人

    more...
    作者が共有を許可していません Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
    200 reply
    転載
    NG
    クレジット非表示
    NG
    商用利用
    NG
    改変
    NG
    ライセンス改変
    NG
    保存閲覧
    NG
    URLの共有
    NG
    模写・トレース
    NG
  • CONNECT この作品とコネクトしている作品