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    #7 Supreme Love「おまえらさ、一体いつになったら付き合うの?」
     まだ練習を終えて間もない、いつものスタジオ。
     いつもならば四人仲良く揃って練習場を後にするのだが、この日はリツとヨシノが私用で先に帰っていた。二人が共通で好きなバンドのライブがあるからだ。
     申し訳なさそうに、けれどウキウキとした足取りでスタジオを出ていった二人を笑顔で送り出した後、ユキとシュウは後片付けをしていた。
     それが一段落ついた頃、シュウがポケットから取り出した煙草をくわえながら、突然そんな不躾な質問をぶつけてきたのだ。
     ユキは思わず口元に運びかけた缶コーヒーを持つ手を止める。
    「何で?」
    「何でって、ほとんど付き合ってるようなモンだろ?」
     紫煙とともに呆れも吐き出しながら、シュウは重ねて問う。ようやく吸える煙草の味は一際美味しく感じられた。
     練習中はユキに喫煙を禁止されている。理由は『リツのノドに悪いから』。
     それだけでも、ユキに世界がどれだけリツ中心に廻っているのかがよくわかる。
     そして、だからこその疑問だったのだ。
    「リツとは、一生付き合わないかもね」
    「は? だっておまえ、アイツのこと好きなんだろう?」
    「うん。片想い歴は長いね」
     これだけ尽くしておいて、笑って済ませているユキは正直馬鹿だとシュウは思った。
     ユキは、苦笑いでなく普通に笑っている。いつも通り、穏やかに。
     その笑顔のまま、ユキは「帰ろう」と指先だけでシュウを促した。戸締りを確認し、狭いコンクリートの階段を上り始める。
    「つーか、両想いだろうが、おまえら」
    「そうだね」
     予想外の返答に、シュウは階段の途中で足を止めた。
     ユキの言い方は、あまりにもあっさりとし過ぎていて、まるで「今日は寒いね」「そうだね」というようなノリだったのだ。
    「わかってんなら──」
    「いいんだよ、別に」
    「何でだよ」
     あまりにも余裕なユキの態度に、ついイラついてしまう。
     はっきり言ってしまえば、見ているシュウからすればもどかしくて堪らないのだ。同じようにヨシノも思っていて、彼女の場合は結構リツにせっついているようなので、シュウ自身は静観している風を装ってはいるのだが。
     そんなシュウの気持ちを知ってか知らずか、ユキは伏し目がちに微笑んだ。
     そこには自嘲と憂いが含まれている。
    「リツが臆病になってるのはわかるから……」
    「臆病?」
     シュウが訊き返すと、困ったような、けれどどこか嬉しそうな表情を向けられる。
     リツのことを想うときのユキの笑顔は、他のどんな時よりも優しく、毅い。
    「歌バカだからね、アイツ」
    「……歌バカはわかるが、おまえの言ってることはさっぱりわからんぞ?」
    「シュウはわからなくてもいいの。リツさえわかってればそれでいい」
     そう言ってにっこりと満面の笑みを浮かべるユキ。
     本当に呆れるくらいリツを大切にしているユキが羨ましくもあり、それと同時に危機感も覚える。
     もし、互いの身に何かあったならば、この二人は壊れてしまうのではないかと……。
    「ホントおまえ、リツ至上主義ね」
    「うん。当然」
    「はいはい。惚気は余所でやってくれ」
     心の中に生じた危機感を微塵も出さず、シュウはわざとらしく大仰にため息をついた。
     そんな心配は、してみても意味がない。そう知っているから。
    「リツの為に……」
    「え?」
    「リツの為に曲書いて、ギター弾ければ、それだけで十分なんだよ」
    「ユキ」
     ああ、そうかと、シュウはそこで初めて気づいた。
     ユキの書く曲は全てリツの為のもの。だからリツに再会するまでのユキは、いつも誰がどう歌っても納得のいかない表情をしていたのだ。
     ユキの曲は、リツが歌わなければ意味がない。
     実際、リツが歌うユキの曲は、他の誰が歌うより胸に響いた。
     あの日、先輩を退けて歌い出したリツに、シュウは鳥肌が立ったのを今でも覚えている。
     ユキがここまでリツを大切にするのもわかるような気がした。
    「雪だ……」
     外に出て第一声、ユキが小さく呟いた。
     大きな牡丹雪が、ふわふわと緩やかに舞っている。
     スタジオに入る前とは違い、街はうっすらと白いわたぼうしに包まれていた。それだけで、見慣れた街並みが幻想的に変化するのだから不思議だ。
    「うわー、サイアク。とっとと帰ろうぜ」
    「やっぱいいよなぁ、雪」
    「は?」
    「いっぺんなってみたいとか思ったことない?」
     ユキの振り向きざまの微笑に、シュウは思い切り脱力感を覚えた。
     数日前に似たようなやりとりをしたことを思い出したのだ。
    「やっぱり、おまえら夫婦だわ」
    「何で?」
    「リツオもおんなじこと言ってたよ。『雪になってみてぇ』って……」
     その言葉を聞いた瞬間、ユキの顔にひときわ優しい笑みが生まれる。
     その笑顔はきっと、老若男女問わずに見惚れてしまいそうなほど綺麗だ。見慣れているシュウでさえも例外ではない。
     そして同時にユキの、リツに対する想いの深さが嫌でもわかる。
    「リツ、昔から雪が好きだからね。雪降ると仔犬みたいに駆け回ってたよ」
    「仔犬……。ぷっ、アイツらしい」
    「可愛いでしょ」
    「だから惚気はいいって!」
     早くくっつけ! と心の中で毒づきつつ、純粋に二人の幸せを願わずにはいられない。
     ユキもリツも、シュウにとっては大切な仲間だから。
    「あーあ、雪になりたいなー。……あ、そうか。雪だ」
    「ああもう、今度は何だ? ほんっと、おまえって突拍子がないっていうか」
    「今できた、新しい曲。次の曲は『雪』だよ」
     シュウの愚痴まじりの言葉も全く聞こえていないのか、ユキは自信に満ちた表情で空を見上げる。
     きっと、今のユキの頭の中には、リツにどんな風に歌ってもらおうかとか、リツならばどう歌ってくれるのだろうかとか、そんなことばかりで一杯なのだ。
    「……作曲馬鹿」
     ぼそりとシュウは呟く。心の中では「作曲」の前に「リツ専用」という言葉を付け加えて。
     聞こえるかどうか微妙な大きさの声は、それでもしっかりとユキの耳に届いていたらしい。「最高の褒め言葉だね」と、屈託のない笑みとともに返った。

     その笑顔は、シュウにとって忘れられないものになった。
    清久 志信 Link Message Mute
    Feb 6, 2019 2:30:04 PM

    #7 Supreme Love

    ユキとリツ。常に寄り添う二人の絆は、周りが認めるほど確かなものだった。
    ゆきと貴久。不倫と取られかねない二人の関係は、とても曖昧で奇妙だった。
    過去と現在の二組の男女と、それを取り巻く人々の歌で繋がる絆の物語。

    #オリジナル #創作 #小説 #両片想い #現代 #バンド #幼なじみ ##恋愛

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