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GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

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    しおり
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    しおり
    ニューヨークの魔人タイムズスクエアの人混みに紛れ、ひとりの女が歩いていた。
    ひどく目立つ女だ。毛先だけ赤く染め、あとは濃緑に染めている。
    続いて目を引くのは服装で、冬のニューヨークを歩き回るには、女はあまりに軽装だった。
    裸足にサンダル、下はショートパンツ、上はダウンジャケットを羽織っただけ。
    ブラジャーも付けておらず、胸元のタトゥーをむき出しにしている。
    しかも前を全開にしているものだから、おおよそ防寒の体をなしていない。
    だが不思議なことに通行人は誰一人と気を留めるものはおらず、
    女は寒がる素振りも見せず、近場のピザ屋でテイクアウトピザを注文すると、
    乱暴な手付きで紙幣を叩き付けた。
    「しけた街だ」
    毎日テイクアウトのピザを食べているので、手が臭いと言われるようになってきた。
    いや…それはどうだっていい、問題は今ニューヨークで起きていることだ。
    女はタイムズスクエアの上空…ビル群を縫うように覆うそれを、ピザを折りつつ睨む。

    見上げた先を鳥が数羽飛んでいく。それから暫くし、不自然なほどに白い鳥の羽が数枚。
    広げた掌に吸い寄せられるように、ひらひらと落ちて来。
    女はそれを、ぐしゃりと音がでる勢いで握り潰した。

    反逆すればいい兜坂嵐

    今から一年前、ニューヨークに「悪魔」が現れた。
    最初はこのところ、行方不明になる人間が多くいると言う「よくない噂」として。
    行方不明になった人間は数日もすれば戻って来るので、初めは噂の域に過ぎなかった…初めのうちは
    「ねえ、キミぃ」
    「…なぁに?」
    サウスブロンクスの広場で遊んでいた少女に、コート姿の青年が声をかけてきた。
    黒髪に切れ長の目、白い肌…アジア系の顔つきだろうか?
    青年は何処かヘビや虫を思わせる冷たさをまとっていた。
    彼は少女の身長に合わせるかのように腰をかがめ、少女の顔を覗きこんでくる。

    「今、俺お腹空いてるんだ…美味しいごはんは知らない?」
    「?えぇと…それなら向こうの通りがおすすめだけど」
    切れ長の目を笑みに細め、にこやかな…
    だが何処か作り物めいた笑みを浮かべた姿に少女は警戒心を持ったが、
    青年はそんな少女の内心を知ってか知らずか…少女の肩に手をかけつつ微笑んだ。
    「いや…良いんだ。ニンゲンの飯じゃないんだぁ」
    「え……?!」
    突如そう言われ、何を言っているのかと眉を上げた少女は改めて青年を注意深く見つめる。
    青年の瞳はアジア特有の濃い黒…いや、黒すぎる。不自然なくらい光がない。
    あまりに暗すぎる「黒」に少女が一抹の不安を抱き、青年の作り物めいた笑みが歪んだ。次の瞬間。
    「あぐ…!?」
    ぐぱぁ、と涎を引き開いた口からムカデを思わせる巨大な虫が飛び出し、
    少女の額にムカデが突き刺さり、皮膚を裂き侵入していく。
    そして、ムカデがついに脳に達した、次の瞬間。
    「_ッ…」
    出かかった悲鳴は途絶え、表情を失った少女の額へムカデが尻尾まで入り込んでいく。
    完全に入り込むと同時に、さっきまでの侵入口は塞がり…
    少女はそのまま人気のある方にふらふらと歩いていった。
    「ふふっ……無事、産みつけ…たな。…羽化が楽しみだぜ…く、くふふふっ…!」
    口元から粘液を引かせたまま、青年は低く嗤った

    「…………」
    先ほどムカデのような蟲を植え付けられた少女は、サウスブロンクスの大通りを当てもなく彷徨っていた。
    その眼に光はなく目線は虚ろで、時折身体を苦しそうに震わせている。
    周りの人間の多くは自分の事に気を取られ、少女の異変に気が付かなかったが、
    一人の青年が様子のおかしい少女に目を向けることが出来た。その青年は少女と顔見知りだった、
    だから真っ先に声をかけに来れたのだ。
    「おい、メアリー。お母さんとはぐれたのか?」
    青年の呼びかけにメアリーと言う少女は反応せず、機械的に前へと進もうとし続ける。
    おかしい、あのおしゃべりな少女が返事すらしないなんて、
    さすがに不審に思った青年が手を取った時。
    「…………っ」
    メアリーの首がぐるりと、人間にはあり得ない角度まで曲がり、
    ほぼ90度となった顔で青年を睨みつけた。
    その瞳には白目がなく、昆虫のような無数の複眼にびっしりと覆われており。
    「メア…リー…!?」
    明らかに何かおかしい。だが何が起きたかわからない、恐怖に駆られた青年が
    少女から手を振りほどこうとした……が、その前にメアリーの異変は更に大きくなり、
    身体がバリバリと音を立てて裂け、腹から、目から、口から、果ては下腹部を喰い破り、
    おびただしい数のムカデが飛び出し、青年の頭に喰らいついてきた。
    「ぎゃああああぁ…………あ」
    少年に寄生していたムカデに生きたまま全身を喰われていく、
    その姿を見てやっと、周りの人間は異変に気付いた。

    「な、なにあれ!?」
    「ば…化け物だああああっ!」
    それまで人でごった返していた大通りから泡を食ったように人々が逃げ出そうとする。
    が…起きた異変はムカデだけではなかった。空から地面を引き裂くかのように、
    次々と杭のような白い塊が突き刺さり、杭は粘性を帯びた糸となって四方八方に広がり、
    逃げる人々を、犬や猫等の動物を、飛び立とうとした鳥まで一匹残らず絡めとっていく。
    あらゆる生物とからめとっていく糸、その中心部。蜘蛛が巣の中心に陣取る如く、青年は糸を手繰り。
    「一人ずつちゃんと蟲にしてやるからなぁ。逃げんなよ?」
    先ほどまで不自然なほど黒かった青年の瞳は、悪魔の証である不気味な金色の光を灯していた…。
    サウスブロンクス地区は突如訪れた「それ」の手により大混乱に陥った。
    ある者は他地区に逃げようとして魔物に見つかり生きながら喰われ、
    ある者は儚い抵抗を試みるも叶わず身体の中心から真っ二つにされた。
    そして、息を殺して家に隠れやり過ごそうとした者も……

    「ひ、ひぃぃ……!」
    家のタンスに隠れ魔物から逃れようとしたある母娘がいたが、
    外から何か切れた音がしたと思ったら…タンスの戸がバラバラに壊れ、
    母娘の前には、紫髪に金眼の悪魔が立っていた。
    「逃げきれねぇから隠れた、てわけかな」
    悪魔は冷ややかな目線を母娘に向けていた。抵抗する力もない、逃げ出す体力もない、
    こんな浅知恵を絞り出すので精一杯。多くの人間はそうだが、どうも手応えがなくて面白くない。
    「おお…か、神よ…」
    母親は逃げる気力もないのか、ぺたんとしゃがみこみこの世の終わりでも迎えたかのような顔で、神に祈り出す。
    年端もいかない娘はそもそも何が起こっているのかも分からずにきょとんと母親の方を見ていた。

    「お……おねがいです。この子……この子だけ、は……」
    母親は覚悟を決めたか、どうにかして娘を助けてもらおうと懇願してくる。だが、そんな言葉が届くはずもない。
    返事もろくにせず、悪魔は無造作に腕をぴゅんと振り、まず何もわかっていない娘が首を吹き飛ばされた。
    しっかりと抱きしめていた娘の頭が突然無くなり母親が息を呑んだ後、盛大な悲鳴を上げようとして…
    大きく口を開けたまま、今度は母の体が真っ二つにされた。
    「…これだから母親、てヤツは」
    嘲笑半分、侮蔑半分と言う顔で真っ二つにされた姿を見下ろし、
    首筋に牙を立てグジュリグジュリと音を立て、血を飲み下していく。
    普段なら、母親の言うことを聞くふりをしてかすかな希望を与えたあとに絶望に落とすことをしたかもしれないと思った。
    が、それは腹が満たされている時行うもの、とにかく今は「蟲」を植え付けた影響で、腹が減って仕方ないのだ。

    悪魔は母親に尚も牙を立てつつ、首無し死体となった娘に肉塊に爪を突き立て、
    たっぷりと血を吸わせ、肉を掴み引き裂いていく。こうして血も肉も、骨の一片まで啜り我が物とするのだ。
    「くふ…ふふ……一人も逃がしはしないさ……皆等しくな…
    どいつもこいつもバラバラのグチャグチャにして、このプルソン様の『カテ』にしてやる……!!」
    母娘をすっかり喰らい尽くした悪魔_プルソンは肉塊化した母娘を完全に飲み込むと、
    力を取り戻しつつある歓喜に肩を震わせ、新たな餌食を求めて家を後にした。
    まだまだ隠れている人間はいる。それらを全て見つけ喰らうのだ。肌の色に関係なく。

    1970年代・ニューヨーク
    そこはプルソンの手により、今やほぼ魔界同然と化していた。
    サウスブロンクス地区の一角をテリトリーとしたプルソンは手始めにと、
    サウスブロンクス中の人間に蟲を産みつけた。
    蟲を産みつけられた人間は脳を喰われ、自我を失い…プルソンへの絶対の忠誠心だけが残される。
    プルソンは実に狡猾なことに、自ら出向き産みつけたのは一握りに、眷属に恋人を…家族を…友達を連れてこさせた。
    蜘蛛が巣を広げるが如く、眷属を操りサウスブロンクスの外側にも手を伸ばし。
    今やニューヨークはプルソンと、プルソンの手足同然と化した人々の手によって暗黒街と化し、
    更に蟲は、その全てがプルソンの魔力を放ち「本体」の位置を特定させないと言うおまけ付きであった。
    退治するにも「どこ」にプルソンが居るかわからず、探す間もプルソンは犠牲者を貪っているのだ。

    「眷属」たちは複眼化した目を左右ばらばらにぎょろつかせ、
    とあるアパートへ向かう「ダウンジャケットの女」にも近付いてきたが。
    「ッ-」
    眷属が言葉を発する直前、その頭は上下2つに引き裂かれ倒れ伏す。
    「ダウンジャケットの女」もとい、アンドラスは一瞥をくれることもなく、ピザを口の奥へ押し込んだ。
    普段から不機嫌そうなその顔は、気弱なものは目にするだけで臆するようなものとなっていた。
    苛ついているのだ。眷属化した人間に、プルソンに、クリスマスに。

    「クリスマス」は大嫌いだ。
    クリスマスはメサイア(救世主)の降誕祭、もっとも天使が活動的になる日。
    魔王にとっては最悪の日である、しかもクリスマスまであと1日…。
    明日はきっと、このニューヨークにも天使が来る。同じ姿で同じ言葉をしゃべる人形共が来る。
    クリスマスと言うよりは、天使が嫌いといいうべきか。

    が、実際は特に苛々している理由はない。アンドラスはクリスマスに関係なく機嫌が悪かった。
    そしてアンドラスはずかずかと階段を上がり、インターホンを乱暴に鳴らした。
    「…はい」
    少し遅れ、ドアの向こうから若い男の声がする。しかしドアは一切開けることなく…。
    「俺だ」
    「眷属共は」
    「殺ってきた」
    「…よし」
    短いやり取りの後、声の主は手慣れた動作でアンドラスを部屋へ入れた。

    「随分と不機嫌そうだなぁ…」
    アンドラスが寝室のドアを開け放つと、ボロいソファに横たわりピザを頬張る男がいた。
    照明が真っ赤な髪が照らす、気だるげな横顔を照らす。
    この男はいつもこうだ、何事にもやる気がなさそうな顔をしている。
    「レイス、明日なんの日か知ってるだろ」
    「クリスマス」
    「そうだ。明日まで見つけられなかったらプルソンは今以上の化け物になっちまう」
    今日はクリスマスイブ。ニューヨーク以外の街は今頃「聖夜」を控えた人々でごった返しているだろう。
    プルソンがここまで徹底し気配を消しているのも理由がある、やつは明日「姿」を現すだろう。
    自分を退治に来た天使達を片っ端から喰らい、さらに力を増長させるつもりだ。
    そして腹を満たした後、ヤツはニューヨーク全土を支配する「独裁者」となるだろう。
    「だなぁ…大変だな」
    レイスという男はそう言われても危機感がなさそうに横たわったまま。
    こいつはいつになれば動くんだ!アンドラスはつい、レイスが食べようとしていたピザを取り上げた。

    「あ!」
    「お前が生返事するからだよ」
    「むぐー……」
    「イヤなら、そこでプレーンピザでも買うんだな」
    「ケチくせぇ野郎だ…」
    流石に食おうとしていたのを取られるのは不愉快なのか、思い切り睨まれたが
    意に介さず話を続ける。レイスを焚き付けてやろうという魂胆はない。
    やる気を出そうが出すまいがどうでもいい、ただプルソンが独裁者になることだけが嫌だった。
    人間が市長やってるのも不愉快なのに、人間ですらないものに支配されたくはない。
    「サツは?」
    「あのヤローの操り人形だ」
    アンドラスがピザ代がわりにくれた情報によると、ニューヨーク市長は「喰われた」そうだ。
    他にもプルソンは上層部の人間を喰らっているという。実に「効率がいい」手段だ。
    上のものの命令に、下のものは従うしかないのだから。

    空を覆うかのような白い糸、ビルの間を縫うように張り巡らされたそれは巨大な蜘蛛の糸。
    魔法の素養を持たない人間には触れることも見ることも出来ないが、それはニューヨークの空全体に
    空を取り囲むように張り巡らされている。どこが中心部なのか、考えたくもない。
    が…中心部の検討ならついている、とレイスは窓をみやる。アンドラスも応じるように、少し遅れ見やった。
    「直にサツが来る。俺をでっちあげの罪で逮捕するつもりだな」
    「どうする?」
    「どうしたアンドラス、らしくもないな」
    いつもなら「俺に聞くんじゃねぇ」という口が、実に珍しいとレイスは眉を上げた。

    「俺はただ『反逆すればいい』て、言ってるんだ。どうするんだよ」
    弱者は強者に対し何も出来ないか、否。弱者には「反逆」する権利がある。
    したいと思えば、反逆すればいいのだ。偽りの服従を誓う位ならば、反逆すればいい。
    復讐するな。思い残すな、ただ抗うと決めたものに反逆すればいい。反逆すればいい!

    レイスの返事は、言うまでもなかった。

    日が傾き、空が茜色に染める頃。
    プルソンはサウスブロンクスのホテルの一室にて女を抱きすくめ血を啜っていた。
    眷属に連れてこさせた「餌」の一人だが、どうやら女優をやっていたらしく、なかなかの美人だった。
    いや、女の容姿はどうだってよい、この女は女優業でどろどろしたものを経験しているからか、
    見た目によらず濃厚な味がし、舌鼓を打ちながら、美味しそうに血を啜っていく。
    女は好きだ。とくにこう言うギラついた女は大好物だ。
    そういう女をミイラになって干からびるその時まで、たっぷり可愛がってやるのだ。

    「ん?」
    白目を剥いてひくつく女優から、ゴクゴクと血を飲んでいた時。ドアの隙間から羽虫が入り込んできた。
    ほかの悪魔なら羽虫に邪魔されたと言う顔をしたろうが、プルソンは一旦「食事」をやめ、
    自分の前で「報告」するように飛び回り…指に留まった羽虫をじっと見つめる。
    プルソン以外には只の虫にしか見えないが、それはプルソンが生み出す「魔蟲」の一体であり。
    「そうかぁ…ついに、ついに見つけたか」
    魔蟲の報告を聞くその顔は、どんどん歓喜に…いや、狂気を帯びた笑みと変わり。
    「レイス…く…ふふふ、ついに見つけたぞ!レイス、レイスッ!!ははは…はははははは!!」
    ついに「探していた」者を見付けた歓喜。あのレイスを捕まえられると言う期待。
    ニューヨーク中を探し回らせた甲斐があったと言う達成感から、
    プルソンは部屋を震わせんばかりに高笑いし、
    今しがたまで血を啜っていた女優を放り、窓へずかずか近付いていく。

    自分が見付けたという事は、レイスも直に自分の場所を突き止める筈。
    つまりここに…サウスブロンクスに、レイスが来る。
    少し残念だが、この女優から血を啜るのは打ち止めだ。
    ミイラになるまで吸い尽くす予定だったが、コレばかりは仕方ないか。
    「…どのみち失血で死んじまうだろうが」
    勿体ねぇ。と口にし、女優だった犠牲者の肩を軽く叩く、ここで自分が途中でやめてしまった所で
    もうこの犠牲者は輸血でもされない限り1日も待たず息絶えるだろう。
    失血死するまで血を啜る予定だったのだから。
    いや…こういうのは後の楽しみにしておくとかえって楽しめないのだ、ここは…。
    「もう少し、時間があるな」
    飽くまでこちらがレイスの場所を突き止めただけ、レイスはまだ来ない。
    ならば吸い尽くしてやるのが「作法」というもの、だろう。

    それから数刻後、レイスが住み着いていたアパートには何台ものパトカーが停まり。
    プルソンの「眷属」化した警官たちが階段を駆け上がりレイスの部屋へ殺到した。
    レイスを「でっちあげの罪」で逮捕し、我らが敬愛せし主へ捧げる為。すべては主の為。
    が…警官たちが乱暴な手付きでドアを開け放った、そこに探すものの姿はなく。
    「インターホン鳴らせよ」
    アンドラスは心底不愉快そうに警官たちを睨み立ち上がると、
    複眼をぎょろつかせ言葉にならぬ声をあげる、警官たちを引き裂いていった。

    その日、外を歩くニューヨーカーたちは信じがたいものを見たというように、驚きの目で見上げた。
    その青年は空を「駆けていた」。乗り物に乗ったりして、ではない。青年は自分の足で空を駆けていた。
    実際はニューヨークの空中に張り巡らされた「糸」の上を走っていたのだが
    多くのニューヨーカーの目から見た青年は「足場もないのに空中を走っていく」ように見えた。
    記者達は一枚でも多くとカメラのシャッターを切り、見かけたものは「人が空を飛んでる」と口にした。
    そして、何も知らぬ大衆達の反応を他所に青年は、レイスは糸の中心へ止まることなく駆け。
    途中-蟲たちが何匹も何匹も襲ってきた。主を守るため、主に近づかせないため。
    まとわりつく羽虫を腕で払い落とし、百足のような横長の蟲を引きちぎり、巣の中心-サウスブロンクスへ。

    「ブロンクス川」を超えた先。サウスブロンクス地区は、ニューヨーク市内以上に酷い景観となっていた。
    建物も木々も全てが蜘蛛の糸に絡め取られ、あらゆる場所で蟲のさなぎがうごめいている。
    「クリスマス」が明ければ、直にサウスブロンクス以外の地区もこうなるのだ。
    余りにも糸が密集しすぎていて、どこが中心かわからない。サウスブロンクスの
    ありふれた日常を奪った「悪魔」の場所がわからない。レイスは糸束の上に佇み、無言で見下ろしていた。

    「メリークリスマス。出来損ない」
    そんな姿を嘲笑うかのように、気づけば眼前に「それ」はいた。
    漆黒のコートに、背中から突き出た六本の脚。大蜘蛛を背負っているかのような異形の悪魔。
    プルソンはそう思ってなど居ないだろうに、満面の笑みを浮かべ、歓迎するような様子を見せていた。
    「来てくれて嬉しいぜぇ。どうだ?この景色、全部俺の仕業なんだぜ。
    よくやったと思わねぇか?思うよな?思うよなぁ?」
    確かにこれを見たのが同族であれば、よくやったなと言うかもしれない。
    それほどまでにプルソンの手は「えげつない」ものだった。
    たった一人でここまで凄惨な景色を作ってしまえる辺り、さすが魔王と言うところか。

    しばらく機嫌良さそうにニヤニヤしていたプルソンだったが、一向にレイスの返事がないこと。
    そしてレイスの表情を見て、一気にその顔はつまらなさそうなものと変わる。
    この景色を見てもレイスは怒るどころか、まだ気だるそうな顔をしているのだ。
    怒りを抑えている様子はなく、本当にどうでもいいものを見せられたという半目で。
    「ふん…せっかくニンゲンどもが絶望してる姿を見せられると思ったのによ」
    「んなもん見せて何になる」
    「あぁ?」
    「いい眺めだ」
    「そうかそうか!この眺めがわかってくれたか!」
    プルソンの顔はつまらなさそうなものだったから、再び笑顔と戻った。
    レイスは怒っていないどころか、いい眺めとまで言ってくれたのだ、
    彼は魔界に「仲間」として戻ってきてくれる可能性がある。

    「嬉しいぜ。戻ってきてくれるんだな」
    プルソンはレイスの返事を待つことなく、勝手に話を進めていく。
    ここまで彼が喜ぶのは理由がある、レイスは「魔王」になってくれると思っていたのだ。
    魔王になってくれる、魔界のために動いてくれると期待し、魔法やら何やらを教えていたのだ。
    だが彼は魔王になることなく、それどころか「悪魔王」を大広間でぶん殴り出ていったのだ。
    「秩序」に等しいものを否定し、協力しようと差し伸べた手を振り払われた。
    それはプルソンからすれば「裏切り」にも親しい行為だった。レイスに「してやった」行為を踏みにじり否定する行為だった。
    だが…裏切られた身とは言え、かつては弟のような存在だったのだ。この返事が嬉しくないわけがない。

    「レイス、お前も…ん!?」
    こちらへおいで、と差し出した右手は次の瞬間切り離され、二の腕から先がなくなった。
    あまりに突然のことだったので、痛みより驚きが勝り、きょとんとした顔で見つめる先には
    鞭を握りしめ、掌の上で先を叩きつけるレイスの姿があった。
    「なんだ?ヒーローごっこか」
    「俺はな、人間を救いに来た気はねぇんだよ」
    「じゃあ何で来た?善人ぶってんじゃねえ…!!」
    人間を救いに来たヒーローなら、もっと「らしい」ことを言うだろうが、こいつは黙り込んでいる。
    何故?何故いい眺めと言いながら自分の腕を吹き飛ばした?何故…!
    苛立ちから声を荒げたプルソンからは立ちどころに「新しい右腕」が生え、
    生えたばかりの右腕は、レイス目掛け雷撃を迸らせる。

    「答えろ!レイス」
    雷撃はレイスに届くことなく、鞭を振るった勢いで生じた風に掻き消される。
    バチン、と鞭特有の鋭い音がしたのが、レイスからの返事のように聞こえた。
    「自分の声で答えろ!!」
    再び放った雷撃。今度は正確にレイス目掛け迸ったそれは届かない。
    どんなに糸を伸ばしても、どんなに雷撃を迸らせても、レイスには届かない。届かない。
    レイスは無言だった、プルソンがどんなに叫ぼうと一言と返そうとはせず。
    返事を返さぬレイス相手にプルソンは喚き、尋ね続けた。
    「お前を弟のように扱ってやったのに!!」
    魔導院最高責任者「アスモデウス」に会いに来た、レイスの赤い目にプルソンは幼き日の「自分」を見た。
    だから彼に何度も「魔王になればいい」と呼びかけ続けた。気さくに話しかけながら、聞かれたことに二つ返事で答えながら、
    そして「弟分」と扱いながら彼を見下していた、自分より格下の、半人半魔と見下すことに安心感を得ていた。

    プルソンはレイスに抱く感情が自分でもよくわからなかった。
    弟分がもしも魔王になれば、もう見下せなくなるかも知れないのに-魔王になってほしかった。

    -何故だ?
    -何故、この秩序を乱す。
    -おまえも魔王になれば、こんな無益な争いなどせずに済むのに
    -個人の意思など、大海の一滴に過ぎないと言うのに

    -何故だ?何故だ!?何故だッ!!レイス!!何故だ!!

    「うるせェよ」
    耐えかねたのか、レイスからようやく返事が返った。心底不愉快そうな声で。
    プルソンの質問攻めに嫌気が差したというような顔で、もうその顔から
    さっきまでの気だるげな雰囲気は消え、射るように鋭い目があった。
    「随分と狂ってるな」
    「俺の糸に狂いはないっ!!皆、俺の糸の中にいればいいんだ!この糸で縛られればいいんだ!!」
    狂っているのはそっちだ!とプルソンは怒鳴る、その目はレイスに一撃も食らわせられない悔しさと
    レイスが理解できないことへの苛立ちからか、何重にも濁り渦巻いている。

    「縛られるのは嫌だな」
    「嫌か。くく…くくくっ」
    「…なんで笑う?」
    「皆お前を待っているんだ。嫌なんか言わせねぇからな」
    プルソンは雷撃を当てられないにも関わらず、何故か笑みを浮かべていた。
    邪悪な笑顔だ。いたぶる「手」はいくらでもあるというような、ひどく邪悪な。
    「今のお前は『蜘蛛の巣』にいるんだぞ、つまり…」
    「ッ」
    「俺の『手の内』だっ!!」
    プルソンが作り出す「蜘蛛の糸」は非常に「電流」を流しやすい性質を持つ。
    彼の作り出す巣は単なるバトルフィールドではない、その糸の一本一本が
    電流を通す「管」であり、プルソンがもしも糸の一本にでも「電流」を通せば。

    「ぐあああああああっ…!」
    次の瞬間、レイスの口から出たのは激痛を訴える声だった。
    先程まで立っていた糸から、すぐ傍らにあった糸から、はては翻した勢いで
    服に付着した糸のかけらから、あらゆる場所から高圧電流が襲いかかってくる。
    「で、ん…りゅ…く、ああああ…!」
    高圧電流からなんとか逃れようと鞭を振るい、付着していた糸束を引きちぎった。
    先程より煤けた体が、サウスブロンクスの硬い地面に叩きつけられる。
    並の人間であれば、もうこの瞬間には焼死体と化しているだろう。
    「ぐッ…うぅぅ……」
    「足場に焼かれた感想はどうかなぁ、レイス」
    さすがに全身を高圧電流で焼かれて、すぐには対応できないかと
    プルソンは上空からニタニタと、心底見下した顔で笑っていた。
    …勿論、ただ嗤うだけでは済ませない。その手は非情にもレイスのほうを指差し。

    「うぐああああああ…!!」
    身動きが取れないのをいいことに、さっきと同じ出力の雷撃を叩き込む。
    わざと出力を落とし嬲る、なんて遊んでいたら反撃される可能性があるからだ。
    女でも男でも、これほど見ていて心地よいものはないとプルソンの口角が邪悪に歪む。
    「まだだ。レイス、白目剥くまでやめねェ。無理矢理にでも連れ帰ってやる」
    雷撃は耐えている間もさらに出力があがっていく、プルソンのことだ。
    自分の体のことは知っているだろう、字の通り「死ぬまでやめない」可能性すらある。
    プルソンは「戦闘」になると一切手を抜いてくれなかったのだ、魔界に居たときも。
    「お前が魔王になってくれないからだ!お前が魔王になればこうはしないんだっ!
    魔王になれ!レイス!!魔王になれ!!」
    「させねぇんだよっ!!」
    「ッ!?」
    聞き覚えのある声にプルソンの雷撃が一瞬止まる、そのスキをレイスが逃がすわけがなく
    再び見下ろしたそこにもう、レイスの姿はなかった。レイスに逃げられた。
    余裕に満ちた表情だったそれは狼狽、そして「声の主」に対する怒りと変わる。
    「アンドラス!!」
    「うっせぇなぁ!俺はクリスマスで気が立ってんだよ!」
    「お前が現れなきゃなぁ!レイスをようやく」
    「アイツは何にもなる気はねぇよ、魔王にもヒーローにも」
    レイスの姿が消えてしまった以上。怒りの矛先は当然アンドラスへと向かい
    プルソンが腕を振ると同時に、あちこちでうごめいていた『さなぎ』が一斉に孵化し
    おびただしい数の魔蟲となってプルソンの周囲を飛び回りだす。
    「俺をぶっ倒して!新たな支配者にでもなるつもりか!?」
    「俺がそんな高尚なこと考える顔似見えるかぁ!?」
    「だよなぁ!残さず喰っちまえ!!」
    プルソンに命じられ、魔蟲達が牙をむき出しにし、黒い塊となって殺到する。
    魔王とはいえ、一人に殺到するには余りに多い数。だがアンドラスは臆することなく。

    一人に殺到していた群れはアンドラスに牙が届く寸前で止まり。
    その後は1匹1匹が好き勝手に飛び回りだし、アンドラスを攻撃することなく散らばっていく。
    この光景に最も驚いたのはプルソンだ、蟲たちは自分の命令を最優先に動く様に出来ているのに、
    それが突如言うことを聞いてくれなくなったのだから。
    「ど、どうした?お前たち…」
    「ほう、試すのは初めてだが蟲にも効くようだな」
    「ッ…!そうか、てめぇは不和の…!」
    「反逆と言ってくれねぇか、俺は根っからのレジスタンスでな」
    「黙れ!!何がレジスタンスだよ、テロリストがっ」

    レジスタンス-それは権力に対する叛乱。
    反逆心を煽り立て、秩序を乱し「不和」をまき散らす。
    今そこにある秩序を乱し、大衆を苦しめ、目的を完遂するためならば犠牲も厭わない。
    どんな美辞麗句を謳おうが行われる側にすれば自己満足でしかない。
    反逆という言葉で飾り立てた自己満足でしかない。
    「テロリストで悪いか、レイスッ!!」
    アンドラスはテロリスト呼びされても、気にする様子すら見せず「居ない」ものの名を叫ぶ。
    レイス-そうだ、レイスはどこだ!?蟲が四方八方に飛び回る其処では場所もつかめず。
    「うおおおおおおおおおおーっ!!」
    蟲の群れを切り裂き、レイスはプルソンの正面から胸元へ赤く輝くナイフを手に。

    「ぐおお…」
    ナイフは正確にプルソンの胸元を、心臓に突き立てられ、
    只刺すだけには留めず、レイスは肉をさらに抉るように、ナイフを奥へ奥へ、ねじり込んでいく。
    プルソンの胸元からは悪魔特有の、紫色の血がどろどろと流れ出していた。
    「レイス…ヒーローごっこか、と言っているんだ」
    「…」
    「お前が、人間どもを助けようとしたかはどうでもいい。ただ派手なんだよ」
    「……」
    ここに移動する時、手っ取り早い手段として「糸」を歩いていった。
    足場もないのに空を飛ぶ人間など、無視をしないわけがない。
    サウスブロンクス上空で行われた、レイスとプルソンの戦いはあまりにも「派手」だった。
    傍から見れば、レイスとプルソンは「空中で戦っている」ように見えたのだから。

    「お前の力を欲しがる人間がすぐにでも現れるぞ!利用しようとしてくるぞ!
    ははは…てめぇは、守ろうとした奴らに利用されるんだ!!ははは…ははははははは…」
    もしもこれを聞いたのが人間を守ろうとしたヒーローだったなら、絶望の面相を浮かべたかもしれない。
    守ろうとした人間に軍事利用目的で狙われるなど、人々を守るための戦いで怯えさせるなど。
    レイスは、答えようとしない。ただ俯いたままプルソンの哄笑を聞き、肩をぶるぶると震わせ。
    「うぐあがあああああああああああああ!!」
    あらんばかりの声で叫び、あたり一帯が青白い光に包まれる。
    やりやがったとアンドラスが呟く中、飛び回る蟲たちは次々に凍てつき、
    ニューヨークの寒空は異常な冷気に包まれた。そして-それはプルソンにも。

    「う…!?」
    全身が凍りつき、目の前で腕が血も出ぬままボロリと崩れ落ちる姿に、流石の魔王も引き攣った表情と変わる。
    眼前には赤い目-否、片目だけが「金色」に輝いているレイスの姿があった。
    これはレイスの力ではない、レイスが「なろうとした」魔王の力。金の輝きは、魔王の証。
    「レイス…何故だ…何故なんだ」
    レイスは答えない、金と赤。2つの光が疾風のごとく近づき。

    「何でなんだよぉぉぉ…!」
    トドメと言わんばかりにナイフを突き立てられ、紫の血を流しプルソンが墜ちていく。
    青白い光に照らされ、レイスは墜ちていくそれを無言で見下ろしていた。
    「プルソン、俺はあんたに」
    兄貴分も弟分も要らなかった。上下関係を作られること自体が嫌だった。
    だが、他の悪魔が半人半魔めと見下してくる中。プルソンは本当に気さくだった、見下されていると察してはいたが。

    -対等になってほしかった。

    最後の言葉は喉の奥から出ることなく、頬から涙が一筋伝う。
    ひどく寒い、クリスマスイブの夜だった。

    ニューヨーカーたちは、氷点下も珍しくないニューヨーク暮らし故、の寒さには慣れている。
    だが今夜に限っては異常なほど寒い。さらにサウス・ブロンクス地区が青白く輝いた。と耳にし
    警察官たちが「光」の発生源である、サウス・ブロンクス地区に調査に踏み入った時。

    そこで目にしたのは地区全体が「青白く凍りついている」という、異様な光景だった。
    地区全体を覆っていた糸やさなぎは1つもなく、蟲のさなぎだったものは、
    その全てが無残な凍死体となっていた、しかも生き残りは一人もおらず
    屋外屋内も…女子供や犬猫も含む、全てが凍死してしまっていた。
    大都会ニューヨーク、それも地区をまるごと凍らせ、一人のこらず「凍死」させた、
    怪物の情報はニューヨーカー達が目にした情報によりすぐさま集まった。

    その怪物は血のように赤い髪を持ち、漆黒のコートを羽織り、
    足場もないのに空中を駆け、サウス・ブロンクス地区と向かっていったという。
    そして怪物が向かってからわずか一時間後、日没と同時に全てが「凍った」
    何の目的で、何故サウス・ブロンクス地区が選ばれたか、大衆には知る由もない、
    程なくし、赤毛の怪物は「ニューヨークの魔人」と呼ばれるようになり、
    翌朝-クリスマスの朝になるころには、人々から「悪魔」の記憶は消えてしまい
    それを上書きするようにサウス・ブロンクス地区の惨状は全て魔人のせいと言う事にされた。

    同刻、レイスはアパートの掃除をしていた。
    ここにはもう居ることができない、だから出ていくのだ。このニューヨークから。
    それにプルソンが言う通り「あの力」を見た人間は自分を捕らえようとするだろう、
    罰を与える為に…いや、軍事利用するために。これほど不愉快なものはない、
    今朝のニューヨーク・タイムズには自分のことが「ニューヨークの魔人」と書かれていた。
    「魔人か、俺も箔が付いたなぁ」
    実際は九割プルソンのせいなのに、その全てが自分がやったことにされてしまっている。
    ここまで来ると滑稽だ、ボロアパート暮らしの身が何故、売れっ子女優を殺せるというのか。
    だが人間というのは不思議なもので、強い言葉で言い切られると
    荒唐無稽な内容でも「信じてしまう」ものなのである。

    「レイス、派手にやったな」
    向こうからアンドラスがやってきた。プルソンを倒した後「部屋をやる」と約束したからだ、
    見ている間も荷物入れなのか、手慣れた仕草で道具を取り出していく。
    昨日の戦いは些細な事とでもいうように、財布や小包を取り出し。
    「あんま使いたくねぇんだがな。あれ『借り物』だからよ」
    結構な広さの地区だ、その地区ひとつをまるごと氷漬けにしたうえ、住民を一瞬で凍死させた。
    あの異常な「冷気」は彼だけの力ではない。彼がかつて「なろうとした」魔王の力である。
    どんなに強くとも借り物でしかない、レイスにとって最も不本意なのは、その「借り物の力」でプルソンを倒したことだった。

    「レイス・レヴィアタン」
    かつて「レヴィアタン」になろうとした男。

    「約束だったな。元気でな、アンドラス」
    最小限の荷物を詰めたバッグを背負いレイスは出ていく、朝日差すほうへ。
    何処へ行くのか、何をしにいくか、そんなものを聞くのは意味をなさない。
    去り際にレイスがちらりと一瞥をくれた、アンドラスは言葉で返すことはなく手を振るだけだった。
    それでいいとレイスは笑い、住み慣れたアパートから、ニューヨークから「消えた」。

    プルソンが言ったとおり、いつまで経っても溶けない
    凍てつくサウス・ブロンクス地区の氷を、軍人たちが目をつけた。
    続いて軍人たちはニューヨークに陣取るようになり、魔人を血眼で探しだす、
    見つかるわけねぇだろ、とアンドラスは呆れながら近場のピザ屋に寄っていた。
    「軍人連中はマナー悪くてたまらんね、ピザの姉ちゃん」
    愚痴るあたりよっぽどだなと、アンドラスはピザを頼みつつ顔を見やる。
    昼になると毎日のように来ることから、恰幅のいい主人にすっかり
    「ピザの姉ちゃん」と覚えられてしまっていた。

    「サウス・ブロンクスの氷はまだ溶けないそうだ、永久凍土とか言われてるそうだぜ」
    「はぁ…例の魔人のせいかね」
    「だろうな…ところで姉ちゃん、新作あるんだが味見してくか?」
    「お?良いのか」
    「姉ちゃんは常連だしマナーも良いからなぁ、ちょっと待ってな」
    今まで食べ方に品がない、言葉遣いが悪いと言われてきたので、
    マナーが良いと言われるのはこれが初めてだった。
    つまり今ニューヨークに居る軍人は、自分よりマナーが悪いのか?
    それは愚痴も言いたくなるだろう、とアンドラスは「新作ピザ」の代金を渡す。
    青く澄んだ寒空に、人間の目には見えぬ「白い鳥」たちが舞っていた。

    夕日とそれと違う赤い空、渦巻く黒い雲。
    赤い光に照らされる白亜の王宮-悪魔王の居城「パンデモニウム」
    そして、パンデモニウムの中心-城主の前にその男はいた。
    「くく…くくくく…」
    プルソンは、心底おかしいものを見たというように肩を震わせ含み笑いしており
    傍らで歩く少女に、不愉快なものを見るような目で睨まれる。
    「何笑ってるんですか、気持ち悪い。陛下の前ですよ」
    「いや、レイスの顔がな…思い出すだけで」
    「本当に気持ち悪いですよ…」
    侮蔑するような眼差しを向け、少女は玉座に腰掛けるものへ目を向ける。
    「城主」は思い出し笑いするプルソンを咎める様子もなく、穏やかな笑みを向けていた。
    そして-城主と傍らの少女が見つめる中、ようやく思い出し笑いが収まったプルソンは顔をあげる。
    その顔はさっきまでの悪童めいたものなら、真剣なものと変わっていた。

    「プルソン。ニューヨーク全土の支配は阻止されたようだね」
    「ええ…レイスに阻止されてしまいました」
    「いい気味です。まぁこれでレイスは派手に動けないでしょう」
    「うん。それで十分だ、潜伏ご苦労さま」
    レイスがあと1日待ってくれれば、あの大都会がまるごと1つ自分の餌場となったのに、
    思わず「レイスめ」と罵りたくなったが、奴に与えた痛手もデカかった。
    レイス本人はそう思ってはいまいが、やつは結果的にニューヨークを救った。
    そして、その力を人間は「利用」するため探し回るだろう、純粋な「好奇心」のために…。
    そして、好奇の目から逃れるべく、今回のように派手に動くことはしなくなる。
    べつにニューヨークでなくても良いのだと、プルソンは恭しく礼をし去ろうとする。
    「プルソン」
    そんなプルソンを城主は変わらず穏やかな声で、だが何処か無機質な声で呼び止めた。
    「では僕達も、派手に動くのは控えるとしようか」
    「陛下…それは?」
    「ウヴァル」
    城主はプルソンのほうでなく、傍らの少女-魔王「ウヴァル」に話しかける。
    ウヴァルはそれに応じるように言葉を発することなく、懐から薬瓶を取り出した。

    「人間に提供してあげようじゃないか。僕達の「力」を…ね」
    城主の目は珍しく普段の退屈そうなものでない、満足げな形に細められていた。
    兜坂嵐 Link Message Mute
    Feb 27, 2021 9:51:43 AM

    ニューヨークの魔人

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    #オリジナル #創作 #オリキャラ #魔王 #悪魔 #残忍な描写あり

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