夏休み夏休み
田んぼに囲われた、木造の小さな家が集まる、そんな田舎の家の縁側で。
「宿題、進んでる?」
隣に住む3つ上の塔子に聞かれた。小さい頃からお互いの家によく遊びに行ったり来たりしていた。今日は塔子がうちに来ていた。
「このクソ暑いのにやる気になると思う?」
小5の俺は学校から、算数や国語のワーク、各教科プリント類、ポスター、自由研究、読書感想文など大量に宿題を出されていた。
「まぁたしかに。この暑さじゃやってられないよね」
塔子はパキっとチューチューアイスを割って渡してきた。ちょっと長い方をくれた。
「さんきゅ」
受け取ってかぶりつく。冷たい氷が体を冷やす感覚がたまらない。夏といえばこれだ。
「そういえばねぇ」
塔子は、チューチューアイスを食べながら、嬉しそうに話しかけてきた。
「隣のクラスの野球部の子がねぇ、すっごいイケメンでね、私ついついみちゃうんだよね。」
「‥‥」
「これって恋かな〜w 洋介は、気になる人とかいないの?」
「‥‥イケメンだからって好きなの?」
何だかいい気がしない。ちょっとイラついた声になったかもしれない。こんな言い方するの、良くないんだけど、言ってしまったものはしかたない。
「イケメンは目の保養だし、ってか、好きとは言ってないでしょ〜」
塔子は笑いながら言う。
「恋かな、とか言ったじゃん」
俺はつっこむ。
「ま、まぁそうだけど。」
塔子は笑う。
「なんかね、すごくかっこいいんだよね、部活してる姿もさ。まぁ遠くから見るだけなんだけど‥あ!でもこないだね、」
頬を少し赤らめて楽しそうに話す塔子になぜかイライラしてし、途中で遮った。
「俺、宿題やらなきゃだから」
食べ終わったチューチューアイスの容器を握りつぶし、座っていた縁側を立ち上がる。
「さっきはやる気ないっていっていたのに」
塔子は少し不満げに言う。
「ま、頑張って」
塔子も立ち上がり、縁側にぬいでいたサンダルを履いて自分の家のほうに歩いていく。小さい頃から一緒だったのに、その背中は遠く感じた。
ふと、塔子は立ち止って振り向きにっこり笑って、
「宿題、わからないことあったら聞いてね」
と言ってきた。
「代わりにやってほしいよ」とぶっきらぼうに答えたら、
「バーカ」と返ってきた。
ジリジリと太陽が照りつける地面、セミの鳴き声、鳴らない風鈴。まだまだ暑い夏は終わりそうにない。
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