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    アリスの淹れたコーヒーまた来てくれた。今までのアリスも悪くなかったけれど、サヤアリスは特別。今日も彼女の隣に腰を落ち着け、話に耳を傾ける。
    「やっぱり、ここが一番好きかも」
     お菓子を頬張りながらサヤアリスが呟く。熱心に視線を注いでいれば、言葉を続けてくれた。
    「ティーパーティのココノツと豆は、ちゃんと人の形をしてる。他だとドーナツとかになってるんだよ? まともに会話もできない」
     「ココノツ」「豆」の言葉に三月うさぎと帽子屋が振り返る。しかし、すぐにふたりは会話を再開した。このティーパーティは、ココノツと呼ばれる三月ウサギ、豆と呼ばれる帽子屋、そして自分の3人で毎日開催している。この世界をつくったほたるに導かれ、いろんなアリスがティーパーティにやってきた。サヤアリスもそのひとり。
    「なら、サヤはずっとここにいればいい。紅茶とお菓子ならいくらでもある。食べ放題。サヤの話ならずっと聞いていたい」
     自分もお菓子を頬張りながら、常連になるようサヤアリスを誘う。彼女の前ではサヤと呼び捨てにしなければならない。「わたしはこの世界の住人じゃないから。きみなら話が通じそうだし」と言われ、断れなかったのだ。彼女をこの世界に閉じ込めたがっているほたるの視線が怖いが、サヤの悲しい顔は見たくなかった。
    「たしかにここのおやつはおいしいよ? ほたるちゃ──ほたるウサギが駄菓子をいっぱい出してくれるから、喜ぶココノツが見れるし。でもね、次の場所に行かないと、この夢、終わらないでしょ? もう1ヶ月はティーパーティの夢を見てる」
     自分には理解できないが、どうやらサヤアリスは「普通の生活」と「夢の世界」を毎晩行き来しているらしい。夜にベッドで寝ると、アリスの服を着たサヤがこのティーパーティの席に着く。数時間するとパーティを抜け出し、朝ベッドで目覚め、「普通の生活」が始まる、らしい。自分はずっとこのパーティにいるのでサヤの感覚は分からない。だが、たしかに30回くらい彼女が消えては現れるを繰り返している気がする。
    「きっとこのあと、ほたるちゃ──赤の女王に会って、裁判とかいろいろして、この世界から抜け出せるはず。そろそろ夢の中でもコーヒーが飲みたいなぁ」
     こー、ひー?
    「それ、なに?」
     がばりとこちらを振り返り、彼女が目を丸くした。
    「きみ、コーヒー知らないの?」
     声も上擦っている。こんな風に驚くんだ。なんだか胸がチクチクする。
    「知らない。それ、サヤにとって大事なもの? サヤはコーヒーが好きなの?」
     大事ならどうだっていうんだ。なんでこんなことを聞いたんだろう。
    「うん。コーヒーで身体ができてるって言えるくらい、毎日飲んでる。だいすき」
     へにゃりと頬をゆるめ、耳までもが赤くなる。こんな顔、初めて見た。自分は彼女の好きなものを知らない。なんかそれ、すごくいやだ。
    「サヤの好きなコーヒー、飲んでみたい」
     この世界を支配しているのは、向かいの席で会話を見守っているほたる。視線を送り、コーヒーをねだる。しかし彼女は静かに首を横に振るだけ。
    「自分で言うのも何だけど、わたし、コーヒー淹れるのうまいよ。こっちの世界に来れば、いくらでも飲ませてあげるのに」
     一瞬、あたまがまっしろになった。
    「サヤの世界に行けば、飲める?」
    「うん。あ、でも、このままだとちょっと目立つかも。こんなに大きなネズミ、こっちの世界じゃ珍しいし」
     身体を見回す。みんなとちがい、自分は体中に毛が生えている。しっぽもある。特殊な外見のせいでサヤに迷惑をかけるのは絶対にいやだ。
    「サヤのコーヒー、飲みたいよ」
     ため息もついてしまう。顔を俯かせていれば、頭に手が置かれる感覚。サヤだ。ぽん、ぽんとやさしく撫でられる。心臓が爆発しそうなくらい鼓動が速くなった。
    「そんな風に言ってくれるひと、なかなかいないからさ。うれしい。ありがとう」
     最後の「ありがとう」がとってもやわらかくてくすぐったい。全身が発熱していく。呼吸も乱れてきてしまい、ぎゅっと目を閉じ神経を落ち着かせる。次に目を開けるとサヤは消えていた。彼女の話どおりなら、今ごろ朝のベッドで目覚めているだろう。これで31回目。十数時間すれば、また帰ってきてくれるはず。
     それでも今の自分はもう待てない。サヤの言葉がうれしくて、苦しくて、居ても立ってもいられないのだ。向かいのほたるを真剣に見つめる。ようやく彼女が口を開いた。
    「あなた、この世界をつくったわたしに盾突くつもり?」
     鋭い音。即答されてしまう。わかっている。所詮自分もほたるによってつくられた存在。彼女の機嫌を損ねれば消される。でも今はサヤのことで頭がいっぱい。イチかバチか。正直に自分の思いをぶつける。
    「ほたる、おねがい。僕、サヤの世界に行きたい。ここのティーパーティは大好きだ。ココノツも豆も、ほたるも好き。でもここにコーヒーはない。ここに居てもサヤのコーヒーは飲めない」
     バンッとテーブルを叩き、勢い良くほたるが立ち上がる。その鋭いまなざしにビクリと身じろぎしてしまうが、目はそらさなかった。今回はどうしても譲れない。そう。自分は、サヤが、サヤのことが、
    「僕、サヤが好きだ。サヤの笑顔をもっと見たい。ここにいるだけじゃ、サヤに何もしてあげられない!」
     ほんの数秒だったかもしれない。10分以上だったかもしれない。隣のココノツも豆も黙ってこちらを見ていた。沈黙が続く。まばたきするのも忘れ、ひたすら目で訴えかけた。
    「うん。度胸はあるわね」
     腕を組み、こちらを見下ろすほたるは頬をゆるめた。歯も見せる。
    「いくつか条件があるわ。サヤのいる現実世界に飛び出したいなら、うちの会社に入ること。そして、現実世界のココノツにシカダ駄菓子を引き継いでもらえるよう、協力しなさい!」
     隣のココノツが肩を跳ねさせた。サヤ曰く、三月ウサギのココノツは現実世界のココノツと関係ないとか。ただ、三月ウサギも自分も、サヤに強く命令されると拒否できない。それだけの話。
     自分の心は決まっていた。
    「いいよ。ほたるに協力して、向こうのココノツを説得する」
     手を差し出されたので握手する。彼女が指を鳴らせば、お菓子がわんさかテーブルに出現した。これは相当機嫌が良い証拠。
    「味方が増えるのは頼もしいわ。あなた、家事はできる?」
     カジ? よく分からないが、とりあえず頷いておく。
    「なら、うちに住まわせてあげる。ちょっと見た目は、そうね。どうにかしてあげないと」
     ほたるが人差し指をこちらに向け、ひと振り。体毛が消えていく。もうひと振りで人間の形へ変化していった。
    「人間サイズだと、このくらいかしら。目の色はそのままで──」

     喫茶「エンドウ」の前で立ち止まる。ドアノブに手をかけ瞳を閉じ、深呼吸。あいさつは何度も練習した。ほたるの話によると、この世界のサヤは夢のできごとを覚えていないらしい。つまり、ティーパーティでの会話は記憶にない。自分のことも知らないのだ。それでもいい。ネズミから人間に変わった時点で、見た目はどうでも良くなっていた。ほたる曰く、「結構イイオトコ」にしてもらえたらしいから、あとはうまいこと話を切り出せばいい。
    「いらっしゃいませ」
     エプロンを付けたサヤが振り向いた。じっとこちらを見つめている気がする。自分も見つめ返した。彼女に一番近いカウンター席へ。目を合わせたまま席に着く。彼女から言葉は出てこない。見知らぬ顔はこの町では珍しいと聞いた。不審者だと思われないよう、まずは笑顔。第一印象は大事。急ぐ必要はない。これからゆっくりと、少しずつ仲良くなっていこう。夢から飛び出したことを話したい、名乗りたい衝動をぐっと抑え、お客らしく注文する。
    「コーヒーをひとつ」
     サヤのコーヒー、飲みにきたよ。
    ラテ@latte7x7 Link Message Mute
    2018/06/13 18:49:32

    アリスの淹れたコーヒー

    アニメだがしかしEDのアリスパロディの世界観。狂ったお茶会でサヤと夢主が出会う。
    夢主は「狂ったお茶会」の眠りネズミ (dormouse) がモチーフ。
    夢主からサヤへの感情が重い。ホラーオチっぽい。

    #だがしかし #ネームレス #夢小説 #人外

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