【ゆく妖/腐】微妙な19のお題:19【柏秋】
【19. 永遠にも似た、このひとときに】
「『偉大な偽善者』が 私ども狐の理想像となりました
私は嘘をつき ひとを騙し
できるだけ狡猾に
できるだけ卑怯に生きてまいりました
私は類い稀な偽善者になりたかったのです」
(著:安野光男 「きつねのざんげ」より抜粋)
*****
長年にわたり入念な準備を重ね、ようやく「計画」を実行する日が目前へと迫ってきた。親友兼同居人との旅行の計画を立てたのは、その準備が整ってすぐのことだ。
一週間後には滅ぼす世界だというのに、何をセンチメンタルな気分に陥っているのかと嘲笑いたくもなるが、惨めで無意味なばかりだったこのくだらない人生の、せめて最後ぐらいは甘い夢を見てみたかった。なによりも愛しい存在の傍らで、身に余るほどの幸せな夢を。
――結局、一週間の休暇を取ってまで立てた旅行の計画は、他でもない親友が体調を崩してしまったことにより、中止と相成ってしまったのだけれど。
「う゛~……ぐずっ」
「あーほら、もう泣くなって。泣いたらまた熱上がるぞ」
「う゛ぅ、だってぇ、だってぇ」
高熱のせいで紅潮した顔を、さらにぼろぼろと流す涙と鼻水でぐちゃぐちゃにするやる夫をどうにか落ち着かせようと、濡れた頬を拭ったり頭を撫でてやったりするものの、やる夫は本当に悔しそうに遣る瀬無さそうに泣くだけだ。
ああ、そんな顔をするなよ。旅行が中止になったことよりも、お前がそんな顔をしてることの方がずっとずっと嫌なんだよ、俺にとっては。
「やる夫は自分が情けないおおお…せっかくのやらない夫と一緒の旅行ぅぅぅインドぉぉぉぉ褐色肌の幼女ぉぉぉ」
「おい、最後」
思わずびし、と突っ込みを入れた。旅行先をどこにするかの話し合いのとき、やたらとインドを推してたのはやっぱりそういうことだったのか、と軽くため息を吐く。予想はしていたが、本当にそうだったとは、まったくブレない奴め。
少し呆れもするけど、「『やらない夫と一緒』の旅行」と一番最初に言ってくれたことが、自分でも引くぐらい嬉しくて、それ以上突っ込む気にはなれなかった。
やる夫の額に張り付けた熱さまシートに触れ、まだ冷たさが残っているのを確認してからそのまま頭を撫でてやって、できる限り優しく囁く。
「まあ何だ、ほんと気にすんなって、な? 大事なときに限って熱出しちまうなんて、誰だって一度や二度ぐらい経験することだろ。いいから早く元気になることだけ考えてろって」
「…やらない夫はやる夫を甘やかしすぎだおー…もっと怒ったっていいんだお…?」
「つったってなあ、これは別に怒るとこじゃないだろ、常識的に考えて。それに、旅行行けなくなって一番悔しがってんのはやる夫だろ? 熱高いのにそんな悔しがってぼろぼろ泣いてさ、なら俺がそれ以上責める筋合いなんてないだろ」
「うぅ…でも、ほんとにごめんだお、やらない夫…おんなじ時期に一週間も休み取れるなんて、次いつあるかわかんねーのに」
次、と。その言葉が耳に届いた瞬間、やる夫に向けた笑顔が微かに引きつってしまったことは自覚していた。やる夫もそれに気がついたのか――きっと頭に浮かんだ理由は、俺のそれとは食い違っているのだろうけれど――申し訳なさそうに、また涙を浮かべながら「ごめんだお」と擦れた声で繰り返す。
「だから気にすんなって。旅行なんてまた行けばいいだろ。俺たちまだまだ若いんだから、次のチャンスはいくらだってあるんだから、な?」
「…うん。次は絶対、気をつけるから、今度こそ行こうお、一緒に」
「ああ。行こうな、絶対」
痛む胸はそのままに、守れもしないと分かっている約束を交わす。…俺は、とんでもない嘘つきだ。今回がラストチャンスだと、「また今度」なんてもう永遠に有り得ないことだと、知っているのに。
旅行に行けていようと行けていまいと、一週間後には必ず計画を実行するつもりで。仮に運悪く、怪物へと仕立て上げたあの哀れなお姫様が張さんあたりに殺されてしまったとしても、そうなったらなったで彼女の母親を代理として使うための下準備は済ませてあるから、終末の日を遅らせるつもりなんて微塵も無いのに。
仮に、この先どんな予想外の事態が起こったとしても、歩みを止める気なんてない。そう心に決めている限り、必ずこの愛しい存在をも裏切り、消し去ってしまわなければならないことだって、わかっているのに。
なんて茶番なのだろうか。親友だと、愛しいと思える唯一の存在だと思っていながら、たったひとつの陳腐だけれど真剣な想いすら言葉にできることもなく、嘘ばかりを並び立てて。
――それでも俺にできることは、お前に嘘をつくことだけだよ。
なあ、だから、そんな顔をするなよ。そんな切なげに、俺の名前を呼ぶな。そんな申し訳なさそうな目で、俺を見ないでくれ。
「てなわけで、この一週間は予定ゼロになったわけだが…どうすっかね」
「おー…」
「んー…せっかくの長期休暇なんだし、社会人になっちまうとなかなかできないことをやりまくるってのが一番だよなー。そうだ、お前の熱が下がり次第、ゲーム尽くし生活してみるってのはどうだ?」
旅行が駄目になったのなら、どうか、せめて。俺たちらしい、親友同士としてのごくごくありふれた、馬鹿馬鹿しくてそれでも間違いなく幸福と言い切れる日常を、最後まで――。
俺の中の、そんな本音にも気づくことなく、やる夫は表情を輝かせ、笑う。
「あ、それいいお! だったらついでに長時間耐久プレイに挑戦ってどうだお? 『コンビでゲームの長時間ぶっ通しプレイ』で一緒にギネスに名前残すんだおー」
「ギネス、ね…そんなんあるのか?」
「あるらしいおー。んで、ゲームのプレイ時間での最高記録は135時間らしいお? そんぐらいだったら、やる夫らなら更新できると思うんだお!」
熱のせいで多少呼吸が荒くなっているものの、それでもさっきまでの泣き顔が嘘だったみたいに、楽しそうに「未来」を語るやる夫の姿に胸がかきむしられる。
仮にギネスの最高記録とやらを塗り替えられたとしても、何の意味もなくなると、わかっているけれど。それでも、嘘をつくことしかお前を笑顔にできる術が無い俺を、どうか許してほしい。悲しませたくないんだ、お前だけは何があろうとも絶対に。どんな理由からであっても、嬉し涙以外の涙なんて、一滴たりとも流させたくない。
ひどく独善的な、それでも間違いなく己の奥底から沸き上がっている激情に、今更ながら震えが走る。
だけどその笑顔だけは絶対に曇らせたくない。だから、この痛みぐらいは甘受しなければ。
「…そうだな。お前とだったら、いけそうな気がするだろ。だから早く、良くなれよ」
「うん、こんな熱ぐらいすぐ下げてやるおっ」
「ん、ならもう寝ろ。いつまでもくっちゃべってたらまた熱上がるぞ。喋るのだって意外と体力使うんだからな」
言いながらやる夫の瞼の上に左手を置いて、視界を塞ぐ。「んおー、何すんだお」なんて変な声をあげていたが、視界を塞ぐ左手はそのままに、右手でぽんぽんと布団の上からやる夫の体を軽く叩いて、静かに歌う。
「♪Golden Slumbers kiss your eyes, …Smiles awake you when you rise, Sleep, pretty wanton…♪」
穏やかに、軽やかにと意識しながら出来る限り優しく歌い続けていると、そのうち寝息が聞こえてきた。
歌を止め、ひとつ息をついてからゆっくりとやる夫の瞼に当てたままだった左手を離せば、高熱のせいで少し苦しそうではあるものの、どこか安心したような寝顔が現れて、ふ、と笑みを零す。
安心しきった寝顔、少し荒くはあるが安定した寝息、呼吸するたびに上下する胸。それらすべてが俺を安らかで優しい気持ちにさせてくれる。生きていてくれるだけで幸せで、笑顔を向けてもらえたら最高で。そんな風に思える存在がまだこの世界に残っていたなんて、そういう風に思わせてくれた張本人を前にしても、未だに信じられない。
いつまでもこうして、この寝顔を側で見ていられたなら、それはなんという至福だろうか? 全てを忘れ、何もかも捨てて、いつまでもこの愛しい親友と一緒に笑い合い、共に生きていけたなら、どんなにか――…そう思う気持ちは、決して嘘ではないけれど。
「…………」
一旦やる夫から体を離し、くるりと背を向ける。視界のどこにもやる夫の姿が映らないように。すると途端にざわりと激しく湧き上がってくる、この世界そのものに対する憎悪と、怨嗟。
…ああほら、どう足掻いてもコレだけは変わらないだろう? どれほどにやる夫が俺を癒してくれようとも、ひとたび意識を別の方向に向けてしまえばこのザマだ。
あの連中を生み出した、悪夢のごとくに浅ましく醜いこの世界そのものが、憎くてたまらない。この汚らしいばかりの世界でのうのうと息をしている連中すら忌々しくて、気を抜けば片っ端から切り裂いて歩きたくなるほどにおぞましい。どいつもこいつも、みんな壊れてしまえばいい。すべてを、破壊してしまいたいと。そう思わずにはいられないほどにそれは強い怨念で。この十四年の間そんな衝動に耐えてこられたのは、別に人を殺すことや世界を壊すことに躊躇いがあったわけではなく、背後で眠る愛しい親友の存在があったからに他ならない。
もしもやる夫がこの世に存在していなかったのなら、俺はもっと早くにこの世界を見限って――…いや、それ以前に俺は、今まで生き延びてこられただろうか? あの、いっそ死んだ方がどれほどマシかと思えるほどの拷問を受け続けて、それでもまだ生きていたいと強く思えるほどの激情を持ち続けることができただろうか?
きっと、生き延びることなどできなかった。とっくの昔に、狂い死にでもしていたに違いない。俺が生きてこられたのも、やる夫の存在があったからなんだ。生きて、もう一度会いたい、あの笑顔が見たい、あの声を聞きたい、他の何を犠牲にしてでも――そう願い続けていたからこそ生き延びられたのだと、俺は確信できる。
…すべてのことには意味がある、と昔どこかで聞いたことがあった。ならば、俺が生き延びてきたことにも、理由があったというのだろうか。
やる夫がいてくれたから生き延びられた、生き延びたからこそ世界を滅ぼすために動こうと決心した。もしも、もしもそれらが必然的な、いわば運命というものだったとしたなら。俺のこの力は、この身に取り込んだ神話生物と、魔術は。たくさんの癒しと幸せをくれた愛しい親友を裏切り殺すために在ったというのだろうか。
「……ッ」
自分で考えておいてどうしようもなく泣き出したくなって、ぐっと強く拳を握り、もう一度くるりと体をやる夫の方へと向けた。視界に映る、彼の姿と。聴覚に届く、寝息と。それらを知覚したら、もう駄目だった。
(…苦しめたく、ない!! 本当に本当に、やる夫、お前だけは。絶対、誰にも、俺自身にもだ! 裏切りたくない、殺したくない、かすり傷ひとつだってつけたくない…!)
ずっと心の内に抱いていた想いを今更はっきりと実感して、ぎり、と歯を食い縛る。ぶち、と口の端が切れた感触があったが、どうでもよかった。
ああ、世界というものはつくづく腐っている。腐りきっている! どれだけ俺を馬鹿にして貶めれば気がすむのかと大声で叫び出したくなる衝動を、自分の体を抱きしめるようにして抑えつける。
「……ごめん、は俺のセリフだろ。ごめんな、やる夫……」
顔を俯かせてそっと、誰にも聞こえないぐらいの小さな声で囁いた。ゆっくりと手を伸ばして彼の手首に触れれば、即座に伝わってくる体温と、高熱のせいか少し早めの鼓動。
それらを感じ取るだけで、絶えず自分の中を蝕み続けている負の感情が、ほんの少しだけ和らいでいく。もう少しだけ世界を存続させていてもいいかもしれない、なんて気にまでなってしまうほどなのだ――この世に存在するなにものよりも重く尊い、唯一の命に触れている間だけは。
ひとたびこの手を離してしまえば、そんな考えは一気に雲散霧消するものだと、それだって十分すぎるほどにわかっているけれど。
世界を滅ぼすのなら、やる夫をも――どんなに遅くとも、あと十日以内には必ず――手にかけなければならないことも、わかっているんだ。殺したくないけれど、傷つけたくないけれど。狂気に苦しませたくないのなら、躊躇うことなく一息に、脳が痛みを知覚する前にやる夫を殺めるか。もしくはイス人との契約通り、やる夫と入れ替わらせ、消してもらうか。そのどちらかしか手段は無いのだから。
(…もし、俺たちのどっちかが女だったら、今の状況よりはちっとはマシだったかな)
もしも、と思うのだ。もしも、俺とやる夫の、どちらかが女だったのなら、もう少し話は簡単だったかもしれないと。埒が明かない仮定でしかないことは理解しているが、時としてそんな夢想を抱かずにはいられなかった。
それは何の障害もなく恋人同士になれるとか、結婚できるとか、そういった単純な想定の上からの話ではなくて。そうだったとしたらきっと、今ここまで苦悩することは無かったんじゃないかと期待できるからだ。
今、男同士だから、こうしてただの親友という形で側にいられて、恋人同士や夫婦にはなれずとも生活を共にできているのだけれど。己で選んだ道とはいえ、側にいればいるほど、やがては必ず訪れる別れと、彼を裏切り殺めなければならない現実が、辛くて、苦しくて、仕方なかった。
だからこそ、思うのだ。もしもどちらかが女だったのなら、こうはならなかっただろうと。異性同士ならば、恋人同士にもならないまま、これほどまでの至近距離で共に生活できるなんて有り得ないから。
あの連中に拉致されはしたがやる夫の存在が心の内で光り続けていたが故に生き延びられた、そこまでは一緒だろうけれど。きっとその後は、もう一度やる夫に会いに行こう、ルームシェアを持ちかけようなんて思わなかっただろう。どれほど愛していても、今の自分にやる夫の側に行く資格はないと、諦めてしまっていただろう。愛していたのに共にはいられなかったと、トライアドの連中のせいで告白する機会どころか再会の機会すら永遠に奪われたのだと、そうして己を憐れみながら、今みたいにやる夫を裏切る痛みも、やる夫を殺さなければならないという恐怖も知ることなく、終焉の日を迎えられたのではないだろうかと。
そんな、愚かな希望に縋り付きたくなってしまうほどに、彼を裏切ってしまうことが、ただ辛い。だけど、計画を実行しようと思う心には、一寸の揺らぎも見当たらなくて。
「…………」
あまりに酷い、偽善的な考えに我が事ながら嘲笑いたくなった。僅かに顔を上げた視界に映った、何も知らずに眠り続ける安らかな寝顔が悲しみを誘う。
こんなに、こんなに大切なのに。裏切りたくなんてない、悲しませたくない、苦しめたくない、ずっとそばにいて守っていきたい、…抱きしめたい。いとおしいと思う心のままに、大事に大事に包み込んで、温もりを分かち合って、そうしてずっとずっと一緒にいたい。なのにそれらはもう、叶わぬ夢でしかなくて。
やる夫が好きだと、大切だと思う今のこの気持ちを手放せないくせに、この骨の髄まで汚れ切ってしまった体と、憎悪と怨嗟にまみれた心を否定できない。人生を狂わされたあの日から、じくじくと俺を蝕み続けている負の感情がある限り――俺は、やる夫を裏切る道しか選べないのだ。
なんて偽善だと己を嘲笑いながら、昔読んだ物語を思い出す。偉大な偽善者になることを夢見て、飽くなき偽善を追求し続けた狐の話。
狐は望んだ。偉大な、類稀なる偽善者になりたいと。
狐は誓った。愛する者のためにも森一番の偽善者になると、これまでもこれからも絶えてなき偽善者になるのだと。
狐は言った。狐にとって最高の偽善とは、狐を辞めることではないかと。愛する者のために、自分を自分たらしめている根幹を捨て去ること、それこそが最高の偽善であると。
(うくく、うくくくく……! ならば俺は、偽善者にすらなれないのか。ただの、どうしようもない、根本から心根が腐りきったクズ野郎か! こいつはお笑い種だろ、うくくくくくく!)
あまりにも滑稽すぎて、可笑しくて可笑しくて笑ってしまう。
やる夫を愛しいと思う気持ちに嘘は無い。側にいられるだけで幸福に満たされた気持ちになるし、このまま何もかもを捨ててただ二人だけで生きていけたらどんなに幸せだろうかと、心から思える。
だけどそれでもなお、やる夫のために立ち止まろうとは思えない。やる夫と出会えた、やる夫が産まれ、生きているこの世界を破壊し尽くす、その道を捨てようという気なんて全く起こらない。
物理的に、常識的に考えて、トライアドの連中すべてを敵に回し、同時にやる夫を守り抜いて逃げ延びることができるだろうか? その問いに、否としか答えられないという事情もあるけれど――そんなものはただの言い訳だ。要するに、親友兼同居人へ向ける切なる愛情よりも、この世界そのものに対する憎悪の方が勝っているというわけだろう。…ああ、もしかしたらそれも含めて、俺が世界を滅ぼす――いや、俺が世界を道連れとした自殺をと考える理由となり得ているのかもしれない。
やる夫より優先させるものが存在するなどあってはならないと。やる夫が全てである俺以外の「俺」は認めないと、そうではない俺なら死んでしまえと。
「…………う、くくっ」
ひっそりと自嘲の笑みを零す。
……なあ、やる夫。もうすぐ俺はお前を裏切るけれど…その罪も痛みも後悔も、全て受け止めるから。お前がいてくれたからこそ生き延びられたのに、お前がくれたこの命を、世界を滅ぼすために使おうとしている俺を、どうか許さないでくれ。こんなどうしようもないクズ野郎のために、傷ついたりしないでほしい。
だけど、あともう少しだけ、せめてこの一週間だけで構わないから…永遠にも似たこのひとときだけでいいから。今だけは、ただの「秋葉原やる夫の親友、柏崎やらない夫」でいさせて欲しい。計画を実行する、最後の最後、ぎりぎりまで――せめて残りの時間全てを、お前の側で、お前の親友として生きたいんだ。
願いを込めて、汗ばんだやる夫の手を強く握ると、応えるかのように強く握り返されて。驚いて顔を上げると、相変わらずの安らかな寝顔がそこにあって、目を覚ました様子はなかった。
ああお前は無意識下でも俺に応えてくれるのか、と思うと嬉しくて。その手から伝わる体温が、あまりにも痛くて。再び顔を俯かせて、一滴、泣いた。