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    【泣いたカナリア】だって、ずっと。あの場所に帰れば。

    きみに会えるって、信じていたんだ。





    黄金色の翼に、オレンジガーネットを嵌め込んだような、マンダリン色の瞳。
    その美しくも眩いまばゆい色彩を持った小鳥を、
    鏡像界ノクス天上界ガーデンの住人達は、金翅鳥ガルーダと呼んでいた。

    地竜王の指先を源として創造された彼は、生みの親と同じ高等神族の一派であり。
    あらかたの高等種と同様にして繁殖能力の低かった神の小鳥は、
    類稀なる神力や生命力と引き換えに、子を持つこともなければ、伴侶を迎えることもなかった。

    そのうえ高等神族の身体を持つ身であれば、食事もいらず、1日の中で必要なものは僅かな睡眠だけ。
    ゆえに彼は、気の遠くなるほどに長い寿命を持て余し、無作為に世界を飛び回ることで時間を潰していた。

    自由気ままに各地を訪れては、興味を惹くものがあれば止まり木を探すような、抑揚のない日々。
    それが、地竜の王の足元に生まれ、母なる大地にも似た慈しみに育まれ。
    そうして初めて風を知り、地竜王の傍らを飛び去ったその日から、ずっと続いている生き方だった。

    (まあ、別に。なんの理由もなかったわけじゃ、ないけどさ)

    思案を巡らせながら羽根を動かす金翅鳥ガルーダは、今は人の姿 
    ―― 人の姿が持つ手足は実に機能的で、高等類の『器』として真似されることが多いのだ ―― を模していて。
    翼と同じくした小金色の髪が、緩やかな曲線を描いてはたなびき、風の流れと戯れる。

    白ばかりの空に浮かぶ、鮮やかな金。
    一定のスピードで動く小さな光は、とある場所へと向かっていた。

    (見えた。……相変わらず、陰気臭い場所だな)

    夜の羽休めに使っている神の庭……“天上界ガーデン”から、空を隔てた鏡像界ノクス
    その北方に広がる大地では、濁りのないエメラルド色の湖を中心に、生気に溢れる植物たちが繁茂していた。

    生い茂る木々に空を覆われていては、青い陽の光はなかなかに届き辛い。
    しかし、そのあたりも含め、昆虫系統や植物系統の魔物たちにとっては住み心地が良いらしく、
    彼らが主に住まうこの辺りは、古き時代から“帳の森とばりのもり”と呼ばれていた。

    朝も夜も関係なしに暗い森は、多分の湿り気を空気に含んでもいて、金翅鳥ガルーダの心を重くする。
    一応の住処を光溢れる天上界ガーデンに置いている彼としては、あまり長居したくはない場所だった。

    (昔はもっと、清廉な空気だったのに。やっぱり“北のあるじ”が変わったせいだな)

    思い浮かんだ“あるじ”の姿に、マンダリン色の瞳が不機嫌に細められる。
    濃い紫青色の花弁を艶やかに広げる妖恋花アルルーン……青薔薇の妖恋花ブルー・ローゼスという魔物が、
    今現在この森を統べ、鏡像界ノクスの北方を守護する“北のあるじ”である。

    けれども、そう。金翅鳥ガルーダが不満に思っているように、数百年前の北の守護者は魔物ではなくて。
    神の小鳥が嫌々ながらもこの辛気臭い森にやってきたのだって、“そのひと”が理由だった。

    (……どうしてあんな花なんかを育てたりしたんだ、リンドブルム)

    荘厳な地竜王がこの世を去ってから、幾度となく心の中で重ねた問いかけ。
    その応えをもう貰えないことを知っていたから、金翅鳥ガルーダはぎりりと奥歯を噛みしめた。



    ◆ 



    それはもう、何百年も前のこと。

    「ああ、この子ですか? 拾ったんですよ」

    その日金翅鳥ガルーダが父なる地竜のもとへと帰ると、彼の肩では小さな緑が“芽吹いて”いた。
    正確に言えば、それは地竜王の器であって、本来の竜の姿ではなかったけれど。
    焦茶色の髪を持ち、長い睫毛の下に金色の瞳を添えた優男のようなシルエットが、
    肩に茨のようなもの絡ませ、しかも芽まで生やしてしまっているというのはあまりにも異様で。

    「拾ったって、なにをのほほんとしているんだよ! 待ってろ、俺が今むしりとって……!」

    混乱と焦燥で慌てふためいた金翅鳥ガルーダは、怒りのままに小さなてのひらを伸ばそうとする。
    けれどもそれをひらりと交わし、うつくしい地竜の王は淡い笑みを浮かべた。

    「ああ、良いんですよ、このままで」
    「いいって……、まあ、リンドブルムがそう言うならいいけどさあ……。
     でも、痛くないの? それ、完全に根を張ってるじゃないか」
    「拾ってから随分経ちましたからね、半年くらいかな……最初はもっと弱弱しかったんですよ?」
    「半年も……?」

    前に帰った時はそんな怪しげなもの、拾ってはいなかったのに。
    ふとした疑問を胸に抱いて、金翅鳥ガルーダは気付いた。そうか、自分は……。

    「……俺、そんなにこの森に帰ってなかったのか。ごめん、リンドブルム、つい……」
    「何を謝ることがあるのです、金翅鳥ガルーダ。それよりもほら、いつものように、話を聞かせてください。
     外の世界はどうでしたか?」

    しゅんと項垂れた小鳥を見て、地竜が声をかける。
    それは親が子を慈しむような、温かさに満ちていた。

    ―― だからこうして失う日まで、気付かなかったのだ。

    強くて優しい偉大なる竜王も、寂しさを感じるのだということに。







    (だから、きっと。お前のせいだけじゃないんだ)

    帳の森とばりのもりを飛び立った金翅鳥ガルーダは、逃げるように上へ上へと飛んでいた。
    どこまでも白い光が視界を覆い、目に見える全てを隠そうとする。それが逆に心地良い気がした。

    『 殺したのはお前だろう! 』

    先ほど叫んだ自分の声が、脳内で木霊こだましては、離れない。
    それなのに、言われた相手はいつも通りの冷ややかさで、静かに受け止めていた。

    生きるための苗床を探し、その命を養分とすることで、妖艶なる花を開かせる。
    それが妖恋花アルルーンという生き物のサガであり、宿命だ。

    それを知らなかったあの時の自分は、何の力のない花だと思って地竜の好きなようにさせてしまった。
    ありふれた花であれば、彼が本気を出せばすぐに引きはがせるし、
    取り返しのつかないことにもならないと思ったのだ。
    なにより、弱った花に慈悲をかけて自分の生命力を分け与えることならば、情け深い地竜のやりそうなことだった。

    けれど、年を重ねるにつれ、だんだんと弱っていくリンドブルムを見て、ようやく気付いたのだ。
    この花は、親愛なる竜をいつか殺すような、怪物なのだと。

    (そうだ、あいつが殺したんだ。でも……それは間違いないけれど、)

    地竜はどうしてあんな花を拾い育てたのか。
    そもそも、どうして自分という存在を彼は創ったのだろう。

    その答えにもう辿り着いている気はするのに、どうしても、向き合うことができないでいた。

    (だってあの頃は、それが最善なのだって……思ってたんだ)

    逞しい翼をもっているのに、守護者という理由だけでどこにも行けない彼のために。
    世界の各地を回って、たくさんの楽しいものを見つけて、教えてあげようと。

    思っていたから、何度だって彼のかたわらを飛び去ったというのに。

    (僕だって、一緒にいたかったんだよ、リンドブルム ――……っ)

    つんと鼻の頭が痛んで、目の奥が熱くなる。
    それを頭を振ることで誤魔化しながら、神の小鳥は震える鳴き声をあげた。





    【泣いたカナリア】





    きみがいない。ただそれだけの理由で。

    この命の意味さえも、色褪せてしまう。
    青色蝶々 Link Message Mute
    2018/06/27 14:44:19

    【泣いたカナリア】

    #オリジナル  #創作  #BL  #ファンタジー  #人外  #創作BL  #小説
    ##APMC ##妖恋花と地竜王 ##5000字以下

    オリジナルファンタジー創作の中の1編。 
    BLものなので
    苦手なかたはご注意ください。

    妖恋花(アルルーン)
    ×地竜王(リンドブルム)
    初稿:18/06/27(2,916字)

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