【初恋=パラレルライン】好き。大好き。いっぱいすき。
でも、……これって、片想い?
魔物達の住まう
鏡像界は、大きく分かれて4つの区域に分かれている。
1つ目は、“青薔薇の
妖恋花”が統べる北のエリアだ。
主に昆虫系統や植物系統の魔物が集まるこの区域は、豊かな緑を抱えていることから、鳥系魔族も多く存在していて。
種族ごとに作られた集落がぽつぽつと点在している大地の領域は、花の王者が君臨してはいるものの、
それといった統治のない自由な世界が ―― ある意味では弱肉強食のルールが ―― 約束されている。
その反対側、南に広がる乾燥地域には、“焔の
不死鳥”が束ねる炎の領域が広がっている。
気温だけではなく風すらもが熱を孕んでいる南のエリアでは、降り注ぐ青の陽光を照り返す“
白の砂漠”や、
暗い赤色の切り立った崖が立ち並ぶ“
紅榴石の峡谷”といった、生活環境の厳しい状況が続いている。
そのため住まう魔物たちの種類もそう多くはなく、爬虫類系統を主とする彼らは、
不死鳥を調停役に据えながら、お互いに協力しあって生きているようだ。
3つ目は、“小波の
水棲馬”が治める東のエリアである。
背の低い緑といくつかの湖沼が広がる水の領域は、南とは真逆の湿地帯であり、水棲系統の魔物が多く住む場所だ。
しかし、エリアを任された“東の
主”が湿原に姿を現すことはあまりなく。
彼は湿原を過ぎた先に広がる海の中に引き籠もり、永久に溶けない氷で造られた“
水晶宮”にて、
色鮮やか魚系魔族によるハーレムを満喫しているらしい。
ゆえに、見兼ねた
水竜王が
天上界から降りてきては『神託』を下しているらしいのだが、それはまた別の話。
そして、4つ目。西のエリアにあるのは
鏡像界唯一の都市国家、“
風の叡智”だ。
名前の通り、
風竜王が人間世界の文化を真似して作ったものであり、
鳥系魔族による郵便システムや、食料品だけでなく生活用品や嗜好品までもが揃えられている繁華街など、
人間が築いた多くの技術を魔力によって模倣し、“人間のような”生活をしている魔物たちの巣窟となっている。
他のエリアでは物々交換が盛んであるのに対して、この地域では貨幣による取引が当たり前。
ゆえに読み書きや算術ができないようでは生活が難しいと考えられ、無償の学び舎のような施設もあるという。
もちろん、そういった窮屈な環境が肌に合わず、外のエリアに出ていく魔物も多いのだが。
この区域では弱肉強食のルールも公には存在せず(もちろん、生きるための“消費”はされている)、
弱きも強きも皆平等の楽園として、他のエリアから非力な魔物たちが逃げ込むことも少なくはなかった。
そうして庇護を求めた小柄な魔物たちは、たいていが貴族……
いわゆる、食物連鎖の上に連なる魔物たちによって、使用人として召し抱えられることが多く。
自分の力では生き残れないひ弱な生き物をいじらしく思い、
必要以上に高等魔族が構ってしまうこともよくあるという。
◆
白亜の白獅子の当主である、アレクサンドラ=リオンもそのひとり。
(R表現ありの完全版は
こちら)
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―― とはいえ。実はこの獅子の王、『好き』だなんて一言も相手には言っていなくて。
(……どうしてアレクさまは、毎日僕に“気持ちいいこと”をしてくれるんだろう……?)
今日も朝から愛でられて、“可愛いぞ”“愛らしいな”とたくさん褒められた
倉鼠は、
しきりに首をかしげながら、浴場へと向かう広い廊下を歩いていた。
大貴族であり、高等魔族でもある
白亜の白獅子の屋敷はそれなりに大きくて、
小さな体躯のセピアにとっては、目的の部屋に到達するだけでも大変な移動だ。
ふわふわのベッドに寝転がってではなく、椅子に座ったアレクに
跨る形での挿入は、
小さな体には正直つらかったし、もう部屋に帰ってころんとしていたいけれど。
(でも、早くお風呂に入って、ちゃんと服を着なきゃ……)
色々なものでぐちゃぐちゃになってしまったチュニックとボトムは、洗濯物としてアレクに回収されてしまい。
今は獅子から貸してもらったぶかぶかのシャツを、素肌に纏っている状態だ。
足を動かすたびに、小さな尻尾の下から。彼の吐き出した熱が時々垂れていくのが、とても恥ずかしいけれど。
隠すものがなければどうしようもなく、セピアはシャツの裾をぎゅっと下に引っ張りながら、
だるい体を動かしていた。
「……どうせなら。お風呂に運んでくれるところまで、してくれたらいいのに……」
さんざん好き勝手に体をいじくられて、体格差のある獅子のもので深いところまで貫かれ、絶頂に導かれて。
くったりしていたところを腕の中であやしてくれた白獅子は、けれども優しいまなざしのまま、こう言ったのだ。
『さて、俺は仕事に戻らねばな。お前は風呂場で体を綺麗にしておいで』
(……いっぱいえっちなことをして。僕をべちゃべちゃにしたのは、アレクさまなのに……)
“もっとして”なんておねだりをした自分は棚に上げ、汚れたのはアレクさまのせいだもん、と頬を膨らませる。
しかし、先ほどまでの触れ合いを思い出してしまったセピアは、美麗な獅子の笑みを思い出して、赤く縮こまった。
嫌だと言っても聞いてくれない。それどころか、もっと甘やかな
苛みで包み返してくる、優しい暴君。
『ちゃんと出しておかないと、お腹を壊すからな』なんて優しいことを言いながら、頭を撫でてくれたけど、
好き放題しておいて“綺麗にしておいで”=“自分で掻き出してこい”というのは、ちょっと酷いと思う。
(初めての時はお風呂にも入れてくれたのに。……あれは、僕が気絶しちゃったからかもしれないけど)
それでも、やはりアレクという獅子の王は、情の厚い魔物だと思う。
他の領域では生きていけるほどの強さもなく、慰み者にされることもよくあった自分を召し抱えてくれたどころか、
こんなふうに
寵愛まで注いでくれるのだから。それも毎日。
自分に与えられた仕事だってそんなに難しいものでもないし、暇があれば読み書きだって教えてくれる。
しかも、働いた分の賃金もくれるのに、自分みたいなか弱い生き物が一人で暮らすのは危ないからと、
屋敷内に部屋まで用意してくれたのだ。彼に拾われて数か月とはいえ、セピアが慕わない理由はどこにもなかった。
(アレクさま、好き。大好き。いっぱいすき……)
飽きることなく『愛らしいな』と囁いてくれる涼しげな美貌を思い描いて、とくんと胸が高鳴る。
「明日も可愛がってくださるかな」なんて呟いた
倉鼠からは、幸せの色がにじみ出ていて。
待ち詫びるかのように収縮した蕾から、まだ残る白い余韻が、とろりと零れ落ちた。
【初恋=パラレルライン】
好き。大好き。いっぱいすき。
でも、……たぶん、僕の片想い。