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    RecordOlden daysCageCallingNameAloneOlden days


    ああ、もう。……諦めても、いいかな。



    はらはらと舞い落ちる雪を見ながら、浮かんだ思いに小さく笑う。
    見上げた空は暗い雲に覆われて、晴れる気配はない。

    はあ、と。肺の奥底から息を吐きだす。
    体温と引き換えに白く浮かんだ息は、姿を保つことなく静かに消えた。

    どうせ夢なのだ。あんな思いを抱けるようなひとなど、―― どこにも。
    続いた物思いに、静かに瞳を閉じる。寒さに震える唇から、ため息が漏れた。

    会いたい、会えない。そんな日々を重ねて、もう随分と時は過ぎた。
    その間にどれだけの別れがあったのか。もう数えるのにも飽きてしまった。
    今日だって。ねえ、私がいなければ、潰えぬ命はどれだけあった?
    どうか許して。ああでも、許さないで。気が狂うくらいに、忘れないように、消えない傷を。

    けれども、目を閉じれば思い出せる。きみの声、柔い微笑み、大切な名前。
    もう一度だけでいい。そう願い続けて息を繋いでいることすら、あってはならないのでは。
    ねえ神様、どうして私という命を作ったの? 奪ってばかりの私に、何を、期待して。

    心が死んでいく。世界が色褪せる。痛みも涙も消え失せて、虚しさばかりが募る。
    どうか夢ならば。もう覚めて。誰でもいい、もう、終わらせてよ。頼む、から。



    (出会う前・夜
    (「ああ、でも、会いたい。……あいたいよ、ひじり」
    Cage


    「お前ね……どうしてすぐに、迷子になるんだね」



    苦笑交じりに告げる。彼は思いきり眉尻を下げて、ごめんなさい、と俯いた。
    謝らなくていいよ。言葉を重ねて軽く頭を撫でてやると、彼はそっと伺い見るように
    視線を持ち上げてから、どこか安心したように息をつく。

    別に怒っているわけじゃない。ただ、道案内に前を歩けば、気付くと彼の姿が後ろにない。
    そんなことが度々起これば不思議にも思うし、さすがに心配にもなる。
    まさか方向音痴で地図もろくに読めないのでは、と。

    ……旅をするには向いていない。大人しく、家に帰ったほうがいい。
    そうはっきり言ってやったほうが、この子のためなんだろうかと思考を巡らしている最中、
    「その……」と控えめな声を耳が拾う。この子が自分の意見を言おうとするとは、珍しい。

    「なんだい?」
    先を促すように笑みを返せば、彼はしばらく視線を泳がせてから、ぽつり、ぽつりと。
    「家にいる時は、いつもベッドの上だったので。その、初めて見るもの、ばかりで」
    だからつい、そちらに目が行って。貴方の姿を見失うんですと。
    申し訳なさそうに綴られた言葉に、なるほどな、と心の中で納得する。
    体が弱いことは最初の出会いで知っていたが、どうやら自分が思っていた以上であるらしい。

    海を見るのも初めてかい? 尋ねれば、彼はこくりと頷いて、広がる青の色を見つめ始めた。
    その横顔がどこか嬉し気で、子どものようで、……気付かれないように、小さく笑う。

    ――家にいる時は、いつもベッドの上。それはきっと、窓から見える世界しか知らないのと同義だ。
    潮の香りも、賑わう市場の活気も。そこで見ることのできる様々な食べ物や装飾品、調度品なども。
    彼にとっては全てが新鮮で、目を惹くのだとしたら……ゆっくりと見せてあげたいと、自然に思う。

    ならば、勇気を振り絞って巣を飛び出した雛鳥が。自分の翼で空を自由に行けるようになるまでは。
    空いていた彼の手を軽く握る。所謂手つなぎの状態になれば、彼は驚いたようにこちらを見つめる。
    これで迷子にならないだろう? 告げれば彼は、少し恥ずかし気に、こくんと頷いた。



    (出会ったばかりの頃・昼
    (「それに、独り占めはずるいね? お前の目を惹いた面白いものを、私にも教えておくれよ」

    Calling


    『……おはよう、ございます』



    濡れた髪の水気をタオルで拭いながら、くすりと笑う。
    緊張しているのだろうと想像に容易い声音が、ゆらりと耳を揺らした。

    目覚めのシャワーを浴びた後、リンクパールに声をかける習慣ができたのは、ここ最近の出来事。
    出会い頭に求婚してしまった手前放っても置けず、
    どうやら箱入りで育てられたらしい彼の様子をちょくちょく見に行くようにはなったけれど、
    相手は相変わらずの戸惑いを保ったまま、それでも拒否することなくこちらに応じてくれる。

    人見知りが激しいというよりも、人慣れしていない、要はただの緊張しいで恥ずかしがり屋なのかとわかれば、
    お互いの間に敷かれ続けられている微妙な距離も可愛らしいもので、小さな笑いを生み。

    敬語でなくていいのに。告げながら髪を拭き、壁掛け時計へと視線を向ける。
    時刻は昼をとうに過ぎたおやつ時。……そういえば眠る前の時間が、昼時だったのを思い出す。
    それなのに律儀に、こちらの挨拶に合わせて“おはよう”を返したのかとわかれば、
    ああ、彼らしいなと笑みをもうひとつ。

    私は今から朝食なんだが、さすがに腹は減ってないよね。
    告げながら、じゃあどんな理由を付けて会いに行こうかと考え始めた思考を遮ったのは、
    彼の『いえ、あの……』という歯切れの悪い応答。

    うん? と、先を促す相槌を返して続きを待つと、ぽつり、ぽつりとした声で
    『そろそろ休憩を取ろうと、思っていたので……』と聞こえてきたと思えば、
    まるでこちらの誘いを待っているかのような間が、続き。

    会いたいと思ってくれているんだろうか。まあ、家を出たばかりで寂しいのかもな。
    そう結論付けながらも、……嬉しいと思ってしまったのは、どうしてだろうか。

    それなら、少し付き合っておくれ。
    誘いをかければ、どこか緊張が解けた音色の、『はい』と頷く声がした。



    (出会ったばかりの頃・昼
    (「こんにちは、ラズ。いい子にしてたかい」
    Name


    「リルでいいよ」



    告げれば彼は、えっと、と口ごもる。いつも通りの反応だ。

    別に深い意味はないのだが、リファルさんとか、フェルリーンさんとか
    呼ばれることの経験のほうが少なかったせいでどうにも慣れなく、反応が遅れる。
    それもあって、呼ばれる度に「リルでいいよ」と訂正を加えて、今日もまた同じく。

    視線を宙に彷徨わせる相手にとっては、恐らく愛称で誰かの名前を呼ぶほうが慣れていないんだろう、
    だから別に無理強いをするつもりでもなく、今回もまた反射的にそう返しただけのこと。
    特に結果を期待しているつもりもなく、じゃあまた明日ね、と片手を持ち上げながら踵を返そうとして。

    リ……、と。聞こえた声に足を止める。
    小さな声だったけれど確かに呼ばれかけたような気がして、へえ、と声を漏らし。

    先を促すように微笑んで見せれば、恥ずかしいのだろう、彼の頬が薄らと赤みを帯びた。
    夕明りの下でもよくわかる変化に、声には出さず喉の奥で笑う。ねえ、そんなに恥ずかしがることなの?
    面白いな、という心を掬い上げたのか、尾が揺れる。ゆらり、ゆるり、ゆらゆらと。
    それを目で追いながら、顔を下に向けたままに、彼がようやく、ぽつりと。

    「リル、さ……ん……」
    耳も頬も真っ赤に染めて、ぎゅっと両の手を握り締めて。途切れ途切れに呼ばれた愛称に、ふわりと笑みがこぼれる。
    ……参ったな。ただ名前を呼ぶだけなのに、そんなにも可愛い反応をされるとは思わなかった。
    ねえ、お前にとっては、そんなにも特別なこと?

    「よくできました、頑張ったね。……かわいいよ」
    触れたいなと。手を伸ばしたのは、自然に。初めて触れた彼の髪は、想像通りの柔らかさで、さらさらと揺れる。
    ゆっくりと頭を撫でやれば、見上げてくる彼が、はにかむように微笑んだのが見えた。



    (ある日の別れ際・夕
    (「また呼んでくれるかい? そちらのほうが、私は嬉しい」

    Alone


    『カラスが鳴くから、帰りましょう』



    聞こえた歌声に顔を上げれば、視界に映るのは駆け出す子どもたちの後ろ姿。

    楽しげな笑い声を交えながら向かう先は、それぞれの家なのだろうか。
    迷いなく足を進める背中に目を細めて、小さな息を一つ吐き出す。
    肺の底から吐き出すような溜め息は、どこか重苦しく、肩を竦める。

    ―― さあ帰りましょうと聞いても、帰る場所がさっぱり思いつかない。
    そんな違和感は子どものころから負っていたものだけれど、
    思えばリーゼライトの家は、自分にとってはやはり家という感覚ではなく。

    ならば森の奥にあるフェルリーンの家がそうなのかと問うてみても、
    心が頷くことはなく、違和感ばかりが尾を引く。

    前者は可愛い妹の、後者は顔すら覚えていない両親の。
    ものだという答えがしっくりくるのに、では、自分の帰る場所は、いったい何処に。

    そこまで考えて、ふつと思考を止める。止めよう、どうせ答えなどでやしない。
    当たり前のことがわからないこの異質さが、気持ちが悪い。
    居場所のない自分が、こうして在る不愉快さに今日も蓋をして。

    終わりの時を、ただひたすらに、待っている。

    (グリダニア・夕
    (出会ったばかりの頃



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    2018/08/03 12:53:59

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    #小説  #FF14 #BL
    ##青い猫と赤い蛇

    /2016

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