ミニシアター【ダウト唯志賀】 薄闇の中、ゆったりとしたソファーに二人。眠り、完全に力の抜けた志賀はぐずぐずに崩れ、俺に寄りかかりきっている。すぐ傍にあるのに少しでも俺が動けば目覚めてしまいそうで。俺は緊張に身体を動かすことが出来なくて、志賀の寝顔を見ることが叶わない。恐ろしいほどに整ったつくりの志賀の寝顔はすごく綺麗だろうな、と思いながら俺は真直に画面を見つめる。
自分よりひとつだけ上で、奇しくも身長が同じのこの男は、出会った当初はことあるごとに自分のほうが優れていることを証明してみせようと躍起になっていた。
なのに、今となってはこんなに無防備な姿を曝け出している。いつの間に俺達の距離はこんなに近くなってしまったのだろう、とぼんやり今まで二人の間に渡る出来事をを思い返すけれど具体的なきっかけというのは思い当たらなくて、どうでもいいようなやりとりばかりが浮かぶのだった。その一つ一つが距離を縮めたのかな、という推測はきっと正しい。そう考えるとくだらない、とも思えたそれらは伏線で、俺たちの今までとこれからは今こうして見ている映画に匹敵するくらいドラマチックなんじゃないかと思えてくるから不思議だ。
俺が主人公の物語なら。
ふと、そんなことを考える。
俺は志賀との物語をどんなふうに進めるのだろう? ラーメン屋のライバルというくだらないところから始まった二人の関係の終着をどこにするだろう? 俺は緊張はそのまま、視線だけそろり、と隣の志賀の方へと少し移した。ぎりぎり視界に入るのは膝の上でころっと丸まった、大人の男の大きな手。それを見留めれば愛しさだけとは言えない高ぶりに襲われ、俺は震えを堪えながら左手をそれに重ねようとする。
ちょん、と触れた瞬間志賀の指がぴくりと動く。
俺は一瞬焦るが、志賀はそれ以上動かない。ただの反射だ。
そうと分かると俺は宥めるように優しく指を撫でた。そしてじわじわと浸透させるように自分を滑り込ませる。無意識の志賀が緩やかに俺を受け入れ、手のひらが重なりきるとしっとりした感触とその熱に眩暈を覚える。半端な濡れ場なんかより、よっぽど官能的な世界。うっかりそこに踏み込んでしまった俺はごくりと唾を飲み込んだ。
これは「転」だ。俺がメガホンを取る、ふたりの物語の。
そうして、このフィルムの方向性を決めてしまうと、俺は山へ向かうように、志賀のからだをじっくり拓いていくのだった。
(了)