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    鍵束艶のある黒いストレート、ぱっちりした二重に長い睫、高くて形の良い鼻。勿論肌は白いし、身体の線だって細い。
    僕は、自他ともに認める美少年だ。

    「――やあ美少年。今日も来たのかい」

    頭の上から声が降ってくる。僕の父さんよりも低い、男の人の声。

    「鍵がかかって、なかったので」

    朝、この教室には僕とこの人しかいない。当たり前だ。だってここは理科室だもの。朝からわざわざ理科室で本を読もうなんてことをするのは、僕しかいない。そして、僕しかいないことを知っているのは、理科室の管理者であるこの人しかいない。
    佐倉先生。天然パーマの髪、一重の垂れ目に重そうな眼鏡、形は悪くないけどちょっと低い鼻。肌は黒くもなく白くもなくて、口の周りには微妙な無精髭。なんというか冴えないおじさんという風情だ。まだ30くらいらしいけれど。

    「準備室じゃないからねぇ。美少年、今日は一体何を読んでるんだい」
    「……」

    後ろに立つ佐倉先生に表紙が見えるよう持ち上げる。昨日の昼休みに図書室で借りてきた文庫本。正直、ロシア文学なんてよく分からない。なんとなくカッコいいかなと思って借りただけ。地の文を理解しようと頑張ってはいるけれど、どんどん目が滑っていく。登場人物の名前も、長くて覚えづらいし。

    「ふむ、1年生にしては難しい本をチョイスしてる。最近の子は本を読まないって言うけど、君みたいな子もいるんだね」
    「そりゃ、いるでしょ。全員が全員って訳でもないし」
    「まあそうなんだけどね。いやでも、ボクが中学生の時はそんな難しいのにはまだ手を出さなかったな」
    「先生とは、違うから」

    先生と違って、僕はこういう本を読むのが似合うから。本を手元に戻して、もう1回ページの最初から読む。やっぱり目が滑ってしまう。

    「まあね。ボクとは違って、君はそういうのが似合うよ」
    「……」

    似合う、と言ってくれたのは本当はとっても嬉しいけれど、お礼は言わない。言わない方がそれっぽいから。今まで、僕は色々なものを似合うと言われてきた。服とか、仕草とか。小さい頃はとにかく褒められれば嬉しかったけれど、今はそんなに嬉しくない。慣れてしまったのかな。でも、先生に言われるのは嬉しい。
    だって僕は、佐倉先生が好きだから。

    「今更だけど、君は教室で本は読まないのかい」
    「……教室は、人がいるから」

    人がいるところで本を読むと、どうしても声が気になる。みんながぽそぽそと、僕のことを話している。勿論そればっかりじゃないけれど、何かしら囁かれてることが多い。

    「本を読む以外のことは、しないの。例えば、友達と話したり。もう6月だ」
    「特に」
    「……そう」

    入学して2か月。でも、別に友達らしい友達はいない。1学年1クラスしかない、小学校と変わらない面子の中に、別の場所から引っ越してやって来た僕だけが浮いている。
    男子は僕をどう扱っていいのかまだ分からないみたいで、女子は4月に2人ほど告白してきた子を断ったら近づいてこなくなった。多分断らなくても同じことになってただろうけど。
    みんな、僕を分からない。でも。

    「……佐倉先生は」
    「うん?」

    僕は、自他ともに認める美少年だ。

    「僕を見てドキドキしませんか」
    「……生徒を見ていちいちドキドキしてたら、授業が出来ないなぁ」

    でも、先生には通じない。
    通じないから、好きなのかもしれないけど。

    「そうですか」
    「それに、君は男の子だし」
    「女の子だったら、しました?」
    「それはそれで、色々ダメだと思うよ」

    ――りんごん。
    チャイムが鳴る。あと5分したら朝礼が始まる。僕は本を閉じて、立ち上がる。

    「じゃあ授業で、美少年」

    佐倉先生が手を振る。その手には鍵を通したリングが引っかかっている。

    「あの。……なんで美少年って呼ぶんです」

    その通りではあるのだけれど。

    「さて、どうしてだろうね。……ほらほら、行った行った。ボクの所為で遅刻は勘弁してくれよ」

    佐倉先生に急かされて廊下に飛び出す。僕の教室は、同じ階のほぼ反対側。少しだけ急いで歩く。




    ――ガチャン。

    「だって茶化して呼ばないと、意識しちゃうじゃない」

    急ぎ足の背中を見送って、ひとりごちる。
    『薬品棚』『理科準備室』『理科室』そんなタグと共に、リングには鍵が3つ。
    流氷 Link Message Mute
    Nov 8, 2018 2:58:58 PM

    鍵束

    自他ともに認める美少年は、毎朝理科室で本を読む。

    表紙画像……https://www.pixiv.net/member.php?id=3989101 No.89

    ##一次創作 #オリジナル #創作BL #教師×生徒

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