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    オメガバ 以蔵に番がいるとわかったのはΩだと発覚してすぐだった。検査結果を詳しく聞きに行ったときに、医者が不思議そうに番がいるんだねと言ったのだ。つがい、αとΩの間で結ばれる一種の契約だ。αがΩの項を噛むことで番となれる。以蔵は無意識に項を擦った。誰かに噛まれた記憶など、一人しかなかった。

    「以蔵さん、お帰り! 大丈夫だった?」
     ふらりと帰宅した以蔵の部屋には龍馬がベッドにもたれ掛かって本を読んでいた。なんでαのこいつがここに、と思ったがそう言えば親にはまだ自分がΩだと言っていなかったと気づく。「どうしたの?」と首を傾げて楽しそうに笑う龍馬の顔を見れば、自分のせいでこの男の唯一を奪ってしまったのかと心臓が痛くなってそこを握りしめた。
    「りょうま……」
    「うん」
    「わし、わし、Ωじゃて、言われた」
    「うん」
    「ほいで、もう、番がおるて先生がいいゆうて」
     覚束ない足取りで以蔵は部屋を歩いた。龍馬は座ったまま手を伸ばし、こちらに来るよう促す。無意識のまま以蔵はその手を取りゆっくりと龍馬の横へ腰を下ろした。
     俯く以蔵の頭を撫でながら龍馬は続きを求めた。
    「ここらでいるαちゅうたら、おまんしかおらんき、」
     そう言って以蔵は口を閉ざした。この近所でαは龍馬だけだ。中学にいたかどうかは覚えていない。龍馬と同じ学年にはいなかったはずだ。
     そして以蔵が龍馬が番だと思った理由はそれだけではない。二人は小さい頃から仲が良く、それこそ暇さえあれば常に一緒にいるくらいであった。そんな二人がこの世のオメガバースという仕組みに興味を持ち番という本能で結ばれる絆に目をつけたのは必然と言えよう。戯れに互いの項を噛んではこれでわしらは番じゃの、と笑いあった。それは何度も行われていた行為だったが、けして他意があったわけではないと以蔵は思っていた。子供の遊びの一つであったし、そもそもこの世の七割はβだと言われる世界である。誰が片方がαでもう一方がΩだと思うだろうか。
     幸い番はαの方から解消できる。事故のようなこの絆は以蔵はともかくとして龍馬が縛られることは少ない。それだけが救いだった。
    「以蔵さん」
     ぎゅう、と俯く以蔵を龍馬は抱きしめた。震える肩をなんとかしてやりたくて、そしてきっと思い込んで勘違いしてるであろう考えも正したくて自分より小さいその身体を腕の中に囲った。
    「わしはな、以蔵さんと番になれて嬉しいちや。そうじゃないとどういて昔遊びで項を噛んだりらあてするんじゃ」
     以蔵のふわりとする髪に頬を擦り寄せた。龍馬は知っていた。以蔵より二つ上の龍馬はその分オメガバースの検査も当然以蔵より早く行われる。以蔵と同じように検査結果を聞きに行ったときに番がいますね、と言われてどれだけ嬉しかったことか。龍馬が噛んだ人間など一人しかいない。そうだったらいいな、なんて思いながら遊びだと諭して行ったあの行為が報われたような気がした。
     龍馬の両親には話してある。以蔵の両親にも、診断結果はわからないがと前置きをして自分と以蔵が番かもしれないと話は通してある。だからあとは以蔵が知るだけだったのだ。当然その日は両家同士の家族会議が行われたが、最終的には当人同士の気持ち次第ということになった。だから、今、この場で以蔵が龍馬の番で居続けると頷かせる必要があった。
    「以蔵さんはわしの番は嫌かえ?」
     優しく話しかける。怖いことは何もないとその頭を撫でて言い聞かせた。恐る恐るその手に擦り寄る自分のΩが愛おしくて抱きしめる力を強めた。
    「嫌やない、けんど、龍馬はそれでえいんか」
     そろそろと以蔵の手が龍馬の背に回る。こわごわと以蔵の手に握られたシャツが伸びることなど気にしていられなかった。
    「勿論わしはえいよ。以蔵さんさえよければ、やけんどにゃあ」
     以蔵はそう言う龍馬を強く抱きしめた。いいに決まっている。むしろ、番など本能にいいようにされる機能なんて龍馬以外には受け入れられそうになかった。小さく頷けばよかったと龍馬が息を吐く。しばらくそうしていたが龍馬が身体を離してご両親に話しに行こうか、と以蔵の手を引いた。

     番になれば役所に届けを出さねばならない。未成年かつオメガバースがわかった直後の子供だったから手続きはややこしかったが、記念がてら請求した証明書は龍馬の部屋の額縁に飾られている。そこまでしなくてもと呆れた目を以蔵に向けられたが龍馬にとってはそれほどの事だったのだ。

     オメガバースにおいて基本的に大変なのはΩである。三ヶ月に一度あるヒート期間は一週間ほど動けなくなると聞いた。幸い番のいるΩは無差別にフェロモンを振りまくわけではないから、日常的に警戒する必要はないけどそれはそれだ。ヒート期は色んな意味で乱れると聞く。そんな以蔵を不特定多数の目に晒すことはしたくなかったので龍馬はいつか来る以蔵のヒート期に十二分の体制を取っていた。
     
     そんなある日。委員会の用事があるからと寝汚い龍馬を置いて以蔵が先に学校に行った日だ。その日はやけに甘い匂いがする、なんて考えていたのだが授業中、それは起こった。
     ドクン、と龍馬の心臓が叩かれたように跳ねる。思わず呻いて胸を押さえれば不審に思った先生が声をかけてきた。いままでなかった焦りを身体が覚える。まさか、と思い先生に保健室とだけ告げて廊下を駆けた。
    「以蔵さん!」
     授業中なんてお構いなしにドアを開けて叫べば名前を呼ばれた当人はビクリと肩を震わせて目を見開いていた。あれ、思ったより平気そう? と首を傾げて、甘い匂いさらに強くなる。あ、やばいかも、なんて龍馬が考えた途端ふらりと倒れ込んで目が覚めれば病院だった。
     以蔵曰く、微熱でこらめったヒート期かにゃあと思うたがまあえいろうと思った。えいことなかった、龍馬が。反省はしちゅう。とのことだ。
     この頃から薄っすらと自分たちは世間で一般的に言われているαとΩとは若干ズレているのではないかと龍馬は思い始めていた。


    「いぞうさん、いぞうさん」
     自分たちは番なのだと確かめるように何度と以蔵の項に口付ける。そうしていないとΩとしての特徴が薄い以蔵に時折不安になるのだ。
     なんなら今すぐ床に引き倒してこの学生服の下に隠れた、自分だけのΩを暴いてやりたいと、思わないでもない。けれどヒート期なのに特に発情してもいない以蔵を無理やりそうするのは、いくら番だからといって犯罪である。
     本当ならこうして部屋になんて入れないほうがいい。抑制剤を飲んでいるからと言ってこの欲は到底抑えられるものではないし、いまだって触れている以蔵を滅茶苦茶にしたくてたまらないと思っている。
    「りょうま」
     けどそれ以上に嬉しそうに抱きついてくる番が愛おしくて大切にしたくて、今回も結局耐えるしかないんだろうなあ、と龍馬は息を吐いた。
     ヒートに当てられない為には近寄らなければいいと人は言うのだけど家も隣同士で学校も同じところに通っているのにどうやって避けられるだろうか。そうでなくても以蔵の顔を見ない日があるなんて今の龍馬には信じられなかった。




     以蔵の学校には数人Ωがいる。時折学校が心構えとしてΩ向けに開いている講習は必ず受けるようにと厳命されていたため渋々長ったらしい話を聞いていた。
     心構えと言っても抑制剤はきちんと服用するようにとか、不安ならヒート期が近いかどうかの検査薬もあるだとか、講師は持ち込んだ資料を以蔵含む少ないΩに配り話していく。悪意ある者から身を守る術なども伝えられ、そして番の話になった。
    「番とはαとΩ同士の間で結ばれることは知っていますよね。これは基本的に一度結ばれるとよほど特別なことがない限り破棄することは法律で禁止されています。一応α側から破棄することは可能ですが、破棄されたΩの精神的、そして肉体的ショックを考慮してこういった法律が整備されました」
     αに番関係を解消されたΩはそれ以降他の番を持つことが出来なくなる。そのため発情しても他のαを誘うこともできずその辛さから番関係を破棄されたΩの自殺率は高いのだとか。
     ふうん、と頬杖をつきながら以蔵は聞いた。発情、と言っても自分のヒートはかなり緩く、微熱が出る程度でそんな相手がいないから自殺するほどのものは味わった事がなかった。そのかわりなのかどうかは分からないが龍馬側は酷く、αなのだからヒート期はないはずなのに以蔵のものに当てられて、本来ならΩの付き添いをするために与えられているヒート休暇を龍馬が一人で取る始末だ。
     可哀相だな、と思わないでもない。近寄らなければいいだけなのに龍馬はどうしてかそうしようとはしなかった。そうしてヒートが終わる頃になって以蔵を自室に呼び寄せてヒート中会えなかった分を埋めるように、以蔵をその腕に捕らえるのだ。
    「岡田くん」名前を呼ばれてはい、と答える。
    「貴方は番がいるんでしょう。なおさらしっかり聞きなさい」
     はあいと気の抜けた返事をして手元の紙を見つめた。以蔵が抑制剤を飲み忘れて龍馬がぶっ倒れる事が数回あったため、龍馬と以蔵が番関係だと言うのは周知されていた。
     ヒート期なのにαの龍馬が休んでΩの以蔵が普通に登校しているというおかしな状態に皆首を傾げたが番を持つαもΩも身近にいないためそういうものかと思うようになった。
    「岡田くんはいいよね、番がいるし」
     こそりと話しかけてきたのは同じ学年の女子だ。Ωの彼女はヒートが安定しないのか、時折倒れてしまうので一番襲う危険のない以蔵がよく助けてやっていた。
    「あー、まあの」
     番がいる利点をいまいち実感できていない以蔵は曖昧に返事を返した。女子は手元の紙を握る手に少し力を込めた。紙にシワが寄る。
    「もしかして運命の番なのかも」
     お伽噺のように囁かれている『運命の番』とやらは、名前の通り運命で結ばれていると聞く。会った瞬間ビビッと来て本能で結ばれたいと感じるようだ。αとΩにしかないそれを女子は夢見ているらしい。会える確率など天文学的な数字だと聞くので軽々しく「おまんにもきっといるろう」とは言えなかった。
    「どうじゃろうな」
     自分は別に龍馬にビビッと来た訳ではない。幼い頃の戯れのせいで番になってしまったようなものだ。それに運命の番とやらは今いる恋人を捨ててまで相手と番いたくなると聞く。本能であるそれにはどうにも抗いにくいのだとか。もし龍馬に運命の番がいるなら、もしその相手と会ってしまうなら自分はいとも容易く捨てられるのだろうなという確信はあった。それは少し嫌だから、本当に自分と龍馬が運命の番ならいいのにな、と柄にもなく思ったりしたのだ。

    「結婚するの?」
    「はあ?」
     思わず声が出た。講師がじろりとこちらを睨み、背筋を伸ばす。どうやら以蔵は目をつけられているらしい。
    「番なんでしょ?」
    「いや男同士やぞ」
     自分は至ってノーマルである。普通に女が好きで、きっと龍馬もそうだろう。Ωゆえ、きっと女性の恋人はできないだろうけどだからといって男に走る気はなかった。
     不思議そうに首を傾げた女子は「でも男でもΩなら子供もできるよ」と言う。
    「いや、そういう話じゃなかろうて」
    「そうなの?」
    「そうそう」
     そもそも龍馬が以蔵を抱くとは思えなかった。毎回ヒート期に部屋へ訪れても抱きしめるだけで性交を求められたことはない。きっとそういう対象ではないのだろうと以蔵は考えている。
     腑に落ちないような顔をした女子は「坂本先輩は結婚したがってるんじゃない?」と問うた。
    「それこそないろう」
     龍馬は昔の地続きで以蔵の面倒を見たがっているだけなのだ。末っ子にできた歳下の自分は弟みたいな存在だと思われているのだろう。あくまで龍馬の庇護下で自分はあぐらをかいているだけに過ぎない。
    ――番関係を破棄されたΩの自殺率は高く――
     もしも龍馬に好きな人ができて、自分との番関係を解消したいと言われたなら、自分は素直に頷けるだろうか、と以蔵はぼんやり考えた。



    「以蔵さん結婚を約束した人がいるって本当!?」
     講習会から数日後、クラスで弁当を食べる以蔵を見かけた龍馬は開口一番そう言った。ぽかんと箸に掴んでいた卵焼きを落として龍馬を見上げる以蔵からの返事がないことから肯定と見なしたのか「ほんとなんだ」と龍馬は呆然と呟いた。
    「誰、誰なの。教えて以蔵さん」
    「お、落ち着き龍馬」
    「人の番に手を出しておいて挨拶もないなんてふざけてるでしょ」
     不機嫌そうに顔をしかめた龍馬はそう吐き捨てた。いやもしも仮に本当に以蔵にそういう相手がいたとしても龍馬に挨拶なんかいかんじゃろ、とは心の中でだけ呟いておく。
     どこから漏れたのかは知らないが、この前女子と話していた内容がかなり歪曲して龍馬に伝わっているようだ。
    「以蔵さん教えて」
     ぎゅっと以蔵の肩を掴む龍馬の力は強い。以蔵の真向かいに座った友人は怯えるように龍馬を見上げていた。
    「ほがなやつはおらんちや。おまんの勘違いろう」
    「ほ、ほんと?」
    「おん。そもそもワシは結婚する気ィなんぞあらんしの」
    「えっ」
     龍馬はぽかんと口を開いたまま固まった。その面が良い顔にはあるまじき間抜けさである。口が開いちょる、と顎を押せば思い出したようにそれは閉じられた。
    「結婚しないの」
     龍馬は酷くショックを受けているようだった。ころころ表情が変わって忙しい男だと思いながら以蔵は頷く。
    「Ωの男らあて婿にほしいちゅう女はおらんろう」
     ぱく、と先程落ちた卵焼きを口に含んだ。甘い。砂糖多めでと頼んだかいがあった。龍馬は暫く呆然と何かを呟いていたようだったがおまんもはよう飯食えと以蔵が背を押せばそのまま教室から出ていった。
    「岡田、えいんか?」
    「何がじゃ」
    「坂本先輩んことじゃ」
    「? 龍馬は賢うて何考えちゅうかわからんき、ほっちょけほっちょけ」
     後々思えば賢いわりに色々と一人で考えて突っ走ってしまう龍馬を放っておいたのは愚策だったと、そもそも策すら考えたことのない以蔵は後悔したのだった。





     あれ以来龍馬は以蔵に部屋に入るように言わなくなった。たとえ部屋の前に行ったとしても僕は大丈夫だからの一点張り。それならば何故いままで部屋に以蔵を引きずり込んでいたのだと問いただしたいくらいだったが龍馬がいいというならいいのだろう。そもそも自分はヒートを起こす割には発情もしない欠陥品のΩだ。龍馬と番になったのだって幼いころの事故だし、そんな番のαは以蔵をそういう対象として見てないときた。ますます以蔵がいる必要性を感じることが出来ずに龍馬に対して少し肩身の狭い思いを懐き始めていたころ。
     龍馬が中学を卒業し高校へと進学した。αである龍馬なら頭の良い進学校に進むことだって容易だろうに、なぜか近所のそこそこの高校へと進んだ。理由を問えば「以蔵さんにもし何かあったとき助けられないでしょ」と言われてしまい、思わず口をつぐんだ。やはりΩの自分は龍馬の足枷らしい。
     龍馬が高校に行けば自然と会う機会は減っていった。そもそも以蔵が通う中学と龍馬の行く高校では向きが違う。朝寝起きの悪い龍馬を起こし朝食を作る龍馬の母に引き渡した後は朝練のため以蔵はそのまま学校に向かう。帰宅後は部活をして夜遅くなるから明日の朝練の為にも早めに就寝する。
     そんな日々が続き、中学の時は毎日顔を合わせていたのに一週間まともに会話しないなんてことが何度もあった。何故か龍馬を起こすのは以蔵の役目となっているので顔は見れる。が寝ぼけている龍馬となんてまともに会話できないためやはり会っていないと言ってもいいだろう。
     噂によれば、番同士になれば片時も離れたくなくなるとか、姿を見ないとそわそわしてしまうとか、そんな話を聞いたが龍馬にも以蔵にもそういった現象は起きていないので、本当に自分たちは番なのだろうかと考えたこともあった。そのため抑制剤を貰いに行くついでに再度検査したがやはり以蔵には番がいると言われ、首を傾げる。医者は君は他のΩとはちょっと異なるようだから周りを見て不安に思うことはないとそう言ったが気にするなという方が無理な話だった。

     今日もヒートがやってくる。少し熱っぽくて、身体がだるい。そわ、と少し発情自体はしていなくもないがこれから学校だし受験の大切な期間だから休むわけにもいかない。
     龍馬とのすれ違いが起こってしばらく経っていた。どうも龍馬は生徒会に入っているらしくそれの関係で向こうも夜遅くに帰ってくることが多くなり、本当に会うことがなくなった。いままでは剣道部を引退し時間が余った以蔵に勉強を教えたりと少し会うことが増えていたのにまた逆戻りかと以蔵はため息を吐いた。
     



       

     ――Ωの男なんて婿に欲しいという女はいないだろう。以蔵はそう言った。それはつまり以蔵は女性と結婚する気があって、龍馬はそもそも眼中にないと言われているようなものだった。番なのだからまあ将来的に結婚するんだろうなとぼんやり考えていた龍馬にとってそれは頭を殴られたような衝撃を受けたのだ。
     以蔵は自分と結婚する気がない。それはそうだろう。向こうはきっと龍馬との番関係など幼い頃の事故だと考えておりフェロモンを無差別に振りまかなくていいから続けているだけであってけして龍馬のことが好きで番になったわけではないのだから。
     いつもヒートのときに乱れるのは龍馬ばかりで以蔵はヒートになっているというのに涼しい顔で日常生活を送る。これは向こうが龍馬のことをなんとも思っていないからではないのか、なんて証拠もなにもないことまで考えはじめてしまう始末だ。幸いというべきか、番関係は龍馬側からしか解消できない。もし以蔵に結婚相手を連れて来れられて番関係を解消してくれなんて言われたら一体自分はどうするのか。
     そこまで考えて自嘲した。以蔵に頼まれて断れたことなどなかったではないか。それこそ、以蔵のためになる頼み事など断る理由がない。きっと自分は笑顔で頷いて言われたとおり番を解消するのだろう。番関係を解消されたΩは精神的にも肉体的にもストレスがかかり最終的には自殺するものが多いと聞くが、きっと以蔵なら大丈夫だろう。以蔵が愛した人と幸せになってくれるはず、と考えてふととあることを思い出した。
     番関係を解消して自殺するのはなにもΩだけではない。解消したストレスはαにもかかり、自分から解消したにも関わらず自殺するものもいると言う。
     自分はおそらく自殺などしないだろう。ストレスは勿論かかるししばらく落ち込む。けど自分にはやりたいことがあるから死ぬわけにはいかない。薄情者だなと龍馬は思った。でもきっと、そんなことになったら好きな人は未来永劫できることはないのだろうという予感はしていた。



     それでも番の間はできるだけ以蔵のために何かしてやりたくて、以蔵が来れるくらいの学力で一番自宅から近い高校を選び、過ごしやすくするために生徒会に入り改革を進めていた最中だった。高校に入って色々忙しくなり以蔵に会う機会が減って気分が落ち込むことなど幾度なくあったが、毎日律儀に起こしに来てくれている以蔵の残り香が部屋にあったり、夜部活帰りの以蔵が部屋に帰ってきたときに電気がつくのを見たりして大丈夫、以蔵は側にいるのだと言い聞かせていた。
     以蔵をあまり困らせるべきではない、と考えていた。以蔵とは違いαとしての性質が強い龍馬は番のΩである以蔵をずっとその腕に収めて過ごしたい欲求やヒート時に漂ってくる香りに何度あの成長期の身体を組み敷きたいと考えたかはわからない。けれど全てそれは龍馬のワガママで、番てまある自分に対してなにも感じていない以蔵に無理強いはしたくなかった。

     
     
     
    i_yyyya Link Message Mute
    2018/09/20 13:57:57

    オメガバ

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    呟きどおりにいかないせいで書くのをやめたオメガバ龍以

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