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    鮮明なシナリオ デートとキス。
     それが監督から課せられた二人への課題だった。
     アバッキオは海を眺めながら黒髪の男と歩く。
     今度出演することになったドラマでアバッキオの相手役を務めることになった彼は舞台出身の美しいモデルだった。最近もハイブランドの広告塔として雑誌の表紙を飾っていたので存在だけならよく知っている。
     ブチャラティは元々本場イギリスで舞台役者として評価されていたという情報は知っていたので演技についての心配はない。むしろこちらが参考にする部分があるのではとアバッキオは思っていた。
    「俺はバイセクシャルだから、そう抵抗はないのだが」
     言いかけて彼は口を閉じた。
    「おい。甘く見るなよ。脚本をちゃんと読んで役を引き受けたんだ。ゲイの役なら経験がある。確かに、監督が撮りたいようなベッドシーンは無ぇけど……」
     夏の終わりの涼しい日だった。はじめのシーンをフランスのエズとニースの間にあるサン=ジャン=カップ=フェラで撮影することになって、アバッキオたちは撮影部隊と共にこの地へやって来た。景観が美しい裕福層の街で上品な邸宅が目立つ。
     二人がいるキャップフェラ岬には小さく穏やかなビーチがある。ビーチに降りてみるとシーズンではないため人の姿はまばらだった。
    「あんただって、見ず知らずの男と、いくら完全に安全が管理された環境下だろうと裸で縺れ合うなんて嫌だろ」
    「まあ、そうだが」
     今回のドラマには役者の安全面・精神面を支え、シーンの演出サポートをするインティマシー・コーディネーターが付く。セックスシーンへ挑む役者を側で護り、監督の要望に合わせて演技指導もする、制作者にとってとても頼りになる存在だ。
     二人への課題はコーディネーターからの提案でもあった。
    「だからお互いを知るためにデートしてこいってことなんじゃねえのか?」
    「お互いを知った結果嫌悪感が生まれたらどうすんだ」
    「可能性はあるが、大丈夫だ」
    「なんで」
    「今回キャスティングを決めたのは脚本総指揮のN氏だ。彼は天才作家として名高いが、役者同士の相性を見極めるのも得意なんだ」
    「それは初耳だな……」
     アバッキオはN氏のファンだった。まだ三十代半ばと若いN氏は五年ほど前から知られるようになった人物で、アバッキオは彼が脚本を手がけた作品をすべて観ている。
     ブチャラティと同じくアバッキオも舞台出身だった。大学卒業後ブロードウェイへ飛び込んでそれなりにファンが付いてきたころ、映画出演の打診があった。
     はじめは迷っていたが、いつかN氏が脚本を手がけた映像作品に出演したいという願望があったため了承した。その映画での演技が評価されたアバッキオは連続ドラマのレギュラーが回ってきた。違法捜査ギリギリの行動を取る精神的に不安定な若い刑事の役はシックなアバッキオの容姿に合っていて、その作品を機に知名度が上がった。
     数シーズンに渡るドラマが終わり次の作品について代理人と話をしていた時、N氏が新しい企画を立ち上げていると知って会いに行った。その場で簡単な面接と指定したシチュエーションでのテスト撮影を経て、主人公の一人としてドラマに出演することになった。
     同性愛要素が入ることは予想していた。N氏のヒット作であるSFドラマにはレズビアンのカップルが登場していたし、彼自身社会正義に敏感な人でリアリティを求めている。
     しかしセックスシーンとは。
     有料の衛星チャンネルやネット配信会社のオリジナル作品には過激なものが多いことは知っていた。覚悟はしていたが、はじめて台本を読んだ時はショックだった。
    「手を繋がないか」
     デートなのだからと上目遣いに小首傾げてくる男の仕草に一瞬見惚れる。
     周囲が持て囃すだけあって確かに美しい。
    「どこまで?」
    「歩き疲れて適当な店に入るまで」
     繋いだ手は男らしく節張っていたがしなやかで肌は柔らかかった。
     相手になる男が美人だと代理人に教えられていたが、ブチャラティであるとは予想外だった。
     先月雑誌の中で見た、全裸でソファーに寝転がり香水瓶と戯れていたブチャラティの姿を思い出す。とても綺麗な身体で思わず下腹部が熱くなって自己嫌悪に浸ったことは絶対に知られたくはないことだ。
     だからこそアバッキオは少々気まずかった。
     おそらく、ブチャラティのことは抱ける。
     けど向こうはどうだ?
     言動からして男との経験はあるようだ。だからこそ男とは未経験のアバッキオに対して不安を抱いてはいないかと心配になる。
    「何か難しいことを考えているな」
     見透かしたようにブチャラティが笑う。嫌味のない優しい笑み。
    「あんたは俺が相手でいいのか?」
     脚本はシーズン1の最終話まで用意されていた。人気次第で続編を作る予定なのだろうが、シーズン1の12話だけで、キス以上の濃密なシーンが四つもあった。
    「俺は面食いなんだ。今までこの手のオファーは何度か受けて来たが相手役が気に入らなくて全部断ってきた。今回監督からどうしてもと頼まれた時、相手役を教えてもらったんだ。アバッキオだと知って引き受けたんだ」
    「な……それは、光栄だと思っていいのか?」
     アバッキオの返事にブチャラティは吹き出して大笑いした。
    「おいおい。自分の心配をしろよ。こっちは完全に下心で出演を決めたっていうのに」
     同性から性的な目で見られていれば嫌悪を抱くものだと思っているのだろう。
     ブチャラティが示唆するようにアバッキオはシスジェンダーでこれまで女性としか付き合ったことがない。
    「笑いすぎだろ」
     これまで彼のことは記事の写真やファッションショーの映像でしか見たことがなかったため、いつもすましたクールな男なのだという印象を抱いていた。笑顔なんて想像したこともなかったのでアバッキオは妙に胸が騒いだ。
    「どんなとこを気に入ったんだよ」
    「な、何がだ? フフッ」
     やっと落ち着いてきたブチャラティの手を強く引いてバランスを崩した彼の肩を抱いた。
    「おやおや。大胆だな」
    「俺だと知って引き受けたって言っただろ。俺のことを知っていたのか?」
     軽く抱き合うようなかたちとなったのでブチャラティの人形のような顔がすぐ目の前にある。澄んだ瞳に吸い込まれそうだ。
    「三年ほど前、仕事でマンハッタンへ行った時に君の舞台を観た。演目名は忘れたがベテラン俳優との二人芝居だったな。存在感に圧倒されたよ。それからすぐに刑事ドラマがはじまって、気がついたら君目的で観ていた」
     告白めいた言葉にアバッキオは顔が真っ赤になるのを自覚した。髪を見ればわかるようにアバッキオは色素が淡いので肌も白く、体温が上がるとすぐ赤くなる。
    「精悍でいて優美な顔が好きだと思った」
     ブチャラティのしなやかな指がアバッキオの頬に触れる。
    「朝焼けのような瞳は蠱惑的だし、低くて深い声音は腰にクる。この身体も……」
     頬を撫でていた手のひらが肩に滑り落ちる。そしてブチャラティはアバッキオの二の腕を軽く撫で、重力に従うように胸元へ、腹へ下りて行き、腰に腕を回して身体を密着させた。
    「ドラマの中で何度か上半身裸になっただろ? 彫刻のような見事な身体で見惚れたよ。抱きしめられたいと思った」
     アバッキオも無意識にブチャラティの背中に腕を回していた。
    「合法的に触れられる機会を逃すわけ無いだろう?」
     不敵に微笑むブチャラティからは匂い立つような色気が放たれていた。頭がくらくらする。
    「キスしてくれ」
     その台詞が溢れたのは信じられないことにアバッキオの口からだった。
     なぜそれを言ったのかアバッキオ自身もわからない。けれど、その台詞を自分で言ったのだと頭が理解した時、己の中にこの男とキスをしたいのだという願望があることに気がついた。
     ブチャラティは驚愕し目を見開いた。
    「アバッキオ。今の台詞、本気で言っているのがわかるぞ」
     彼はゆっくりと瞬きをし、困ったように首を傾げた。
    「しないのか?」
    「まいったな……」
     頬が赤いと思うのはアバッキオの目がおかしいのか。
     ブチャラティは長いまつ毛を震わせると顔をアバッキオの肩口へ押し付けた。
    「少し待ってくれ」
    「どれくらいだ?」
    「黙ってろよ」
     数分経っておずおずとブチャラティが動く気配がした。彼はゆっくりとアバッキオの襟から露出した首筋へ唇で触れた。そのまま顎から頬へ軽くキスをしながら顔を上げる。
     唇の少し下に、ブチャラティの唇がやってくる。
     合わせた彼の瞳は熱に潤んでいた。
     アバッキオは堪らず自分から唇を押し付けていた。
     彼の唇はアバッキオよりも薄いが柔らかく弾力があり心地よかった。ブチャラティの体温と感触。微かに溢れる吐息に熱が上がる。
     唇を喰むように動かせばブチャラティは唇を開いて口腔を差し出す。舌で上唇を舐めると、小さな声を零すブチャラティの感じやすさにあらぬところが熱くなった。深々と口づけて舌を軽く絡め合ってから、名残惜しげにアバッキオは唇を離した。これ以上は無理だ。こんな開けた場所では。
    「アバッキオ……」
     紅潮した顔。二人分の唾液で湿る唇を見て、俺が汚したのだとアバッキオは興奮した。
    「これで課題は終わったわけだが」
    「ああ」
    「お前は男と寝たことがないんだよな」
     ブチャラティは下腹部を押し付けてきた。夏用の薄手のジャケット越しに互いのものが当たり状態が生々しく伝わってくる。
    「不安要素は潰しておきたいよな」
     アバッキオの首の後ろに腕を回したブチャラティは、彼の耳元で囁いた。
    「今夜、俺の部屋に来ないか」
     それは確信を持って発せられた台詞だった。
    苔もも Link Message Mute
    Nov 12, 2018 2:28:44 PM

    鮮明なシナリオ

    #アバブチャ #パラレル

    現代設定の役者パロ。恋人役として共演することになった二人。
    アバッキオに対して性的に積極的なブチャラティがいるので注意です。
    二人共20代後半をイメージしています。

    続き書かないとか言った舌の根も乾かぬうちに……
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