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    優しい世界の子どもたち 
     目覚ましの音で起きて、両親に挨拶をし、歯を磨き顔を洗い髪を梳き、身支度を整え朝食をとる。
     その何気ない日常すら夢ではないのかと疑う気持ちが拭えずにいるアバッキオにとって、数週間前のとある出来事は、この世界はやはり自分にとって都合の良い夢なのではないのかという疑惑を強めた。
     少し伸びかけた髪を窓から滑り込む風が撫でた。新学期がはじまるこの時期は夏の暑さがだいぶ凪いでいる。
     玄関の姿見で制服を確認すると靴を履いて家を出た。
     家の前は歩行者用のなだらかな坂で、道なりに下って行くと大きな道路に出る。その手前で河口へ流れ込む川のようにもう一つの坂と合流する。二つの坂は別々な住宅街から下りてくるものだ。
     二つの坂の合流地点から見て左側の坂はアバッキオが下って来た坂だ。彼が暮らしている家がある住宅街は昔からあるもので、土地の有権者や裕福層が暮らす家が立ち並んでいる。
     右側の坂を登って行くと、山を切り開き再開発した新興住宅街がある。再開発と共にこの土地へ移住して来た若い夫婦からなる核家族で形成されている。
     二つの住宅街の住民同士にあまり接点はない。同じ学校に子どもを通わせている家庭があるなら多少は交流があるだろうが、その他は関わる機会も理由もない。
     アバッキオが二つの坂の合流地点に到達しようとした時、ちょうどアバッキオが下って来た左坂と向き合う右坂から一人の少年が歩いて来た。
    「あ……」
     肩に付く程度の長さで切り揃えられた黒髪の少年はアバッキオと同じ制服を身に纏っている。
    「おはよう」
    「……お、はよ」
     朝食が逆流しそうなほど心臓が大きく脈打って、少年から目を逸らすとアバッキオは早足で道路に下りると学校への道を急いだ。
    「待って、アバッキオ」
     無視すればいいもののアバッキオはその声に逆らえない。
    「なに」
    「一緒に行かないか……?」
     心細そうな彼の声に罪悪感が湧き出る。
    「別にいいぜ」
    「あ、ああ!」
     彼は笑顔を浮かべるとアバッキオの隣に並んだ。
     二人はひたすら無言で、お互いぎこちない空気を感じ取ってはいたが、一度隣に並んでしまえば離れがたく思ってしまうのだった。

     レオーネ・アバッキオが通う学校は今日から新学期で、彼は初等部五年生となる。
    「じゃあ俺は職員室に行くから」
    「おう」
     彼は今日が転校初日なので職員室へ行ってから指定のクラスへと行く。
     去って行く彼の後ろ姿を見ながらアバッキオは呟いた。
    「ブチャラティ」
     口にすることに勇気がいる名前。
     かつて自分が最も大切に想っていた彼であるのだと認めてしまえば楽なのに、それができないのはこわいからだ。
     今生きるこの世界はあまりにもアバッキオにとって都合が良過ぎるものだった。夢にしてはあらゆる感覚がリアル過ぎるが、なかなか現実であると認めることができない。いつこの楽園から目覚めて現実に叩き落とされてしまうのか不安に苛まれる。
     SF小説のネタで使い古された転生という単語はずいぶんと安っぽく聞こえるが、アバッキオの身に起こっていることはまさしくそれだった。
     以前の人生でアバッキオは真っ当な社会からドロップアウトしたいつ命を落とすとも知れない世界で生きていた。そこで彼の救いとなったのがブチャラティだった。
     簡単には説明できな様々な出来事があった末に、二十代前半で早死にしたアバッキオは気がつくと今の人生を歩んでいた。はじめに自分の状態を自覚したのは義務教育がはじまるくらいの頃だった。周囲からは急に大人びたと言われたが、学校に通い始めた影響だろうと特に不審には思われなかった。
     だが、今年の初夏、アバッキオを突然襲ったとある出来事は、彼の家族を不安にさせるほどの動揺を彼に与えた。

     地域の学校がみな夏休みに入ったばかりの頃だった。
     新興住宅街へ新たに引っ越してきた家族の家に不審者がいるとの通報を受けて、警察官であるアバッキオの父親が対応したところ、数日後その家族がアバッキオの家にお礼も兼ねて挨拶をしに来たのだ。どうやらアバッキオの父は家が近いのでまた何かあったら相談してほしいと、住所と連絡先を彼らに教えていたらしい。
     若い夫婦と一人息子の三人家族。玄関で彼らを出迎えた母は自分も挨拶すべきかと廊下でうろうろしていたアバッキオのところへ来るとそっと耳打ちした。
    「息子さんあなたと同い年ですって。すごく可愛い子よ!」
    「可愛いって、男じゃないか」
     溜め息を吐いてリビングへ入ったアバッキオは、彼の存在に気が付いた途端、激しい動揺に反してそりゃあ可愛いはずだと冷静に納得した。
     大きな青い瞳をまん丸にしてこちらを見つめる彼は少女のように可愛らしかった。
    「つい最近越してきたブチャラティさんだ」
     父の声がずいぶんと遠くに感じた。
     アバッキオは挨拶もそこそこにリビングを飛び出して自室にこもり、翌朝も部屋から出ることができずに学校の部活を休んだ。それからの数日、アバッキオは心ここに在らずといった様子で、家族は息子を心配したがどうにもできず、様子を伺うことしかできなかった。ただ、引っ越してきた家族の一人息子ブローノに何か原因があるようだということはわかっていた。
     
     それからアバッキオの両親は再びブチャラティ一家を家に招待し息子たちの様子を観察した。なぜ息子がおかしくなってしまったのか知る必要があると思ったからだろう。
     子どもは子ども同士遊ぶものだとリビングで無理やり二人きりにするとダイニングルームの方から息子たちの姿をそっと伺う。アバッキオ家には子どもが数人いたが、今日のために他の子どもは外へ遊びに行かせていた。ブチャラティ家の夫婦も息子の様子がおかしくなったことを気にかけており原因を探っているようだったので、アバッキオの両親が何をしようとしているのかその意図がすぐにわかったようだった。
     両家の夫婦が見守る中、二人の少年は離れた場所に座りちらちらと相手のことを見ていた。
     彼らの間には険悪な雰囲気は無いものの、必要最低限の会話しかせずお互いの一挙手一投足に対して敏感になっているようだった。警戒し合っている子猫のようになかなか近付こうとはしない。
     帰る時間になるまで二人の様子に変化は無かった。
     ただ、ブチャラティ一家が帰った後、アバッキオ家の息子はひどく気が塞ぎ両親兄弟とも一切口をきこうとしなかった。それはブチャラティ家の方もそうだったらしく、彼らをますます困惑させた。
     理由を作っては何度も互いの家を家族ぐるみで行き来した結果、どうにか二人は普通に会話できるようになった。まだまだ他人行儀ではあったが、別れた後ひどく気が塞ぐことは無くなった。
    「どうしていいのかわからないんだ」
     アバッキオの両親が辛抱強く待ってやっと本人から聞き出した理由。本人も途方に暮れていると分かると、もう積極的に会いに行くのはやめようかという話になったのだが、今度は息子の方からもう会いに行かないのかと不安げに尋ねてくる。
     これに両親は少し安心した。
     夏休みが終わり新学期が始まれば二人は同じ学校へ通う。
     なぜお互い相手に対してあのような態度を取り、影響を与え合うのか不明なままであったが、息子の態度から決して相手を嫌っているわけではないとわかったのだから。
    「レオーネはきっとブローノくんに一目惚れしたのよ」
     アバッキオ家の長女でありレオーネ・アバッキオの姉である彼女は大人びている。姉なりの分析を本人は否定も肯定もしなかった。
     両親はまさかなと笑うだけでまともに取り合おうとはしなかった。

     こうなる予感はしていた。
     アバッキオが通う学校は生徒数が多い上に、この時期転校してくる生徒の数は少なくはないので、転校生たちの紹介は特になかった。この国の小学校は六歳から十歳までの五年間だ。一年生のはじめからこの学校に通い、今では初等部最終学年のアバッキオでさえ一度も関わりを持つ機会が無かった生徒が大勢いる。
     誰が転校生で在学生かわからない状況というのは転校生にとって居心地が良いものだろう。
     けれど彼のことは一目で転校生であるとみな気が付いた。
    「まさかお前の隣になるとはな」
     苦笑いしながらアバッキオの隣の席に座るブチャラティは教室に入ってきた時から注目を浴びていた。同年代の子どもたちが集まるこの場所では、秀でた容姿や独特の雰囲気はどうしても周囲の目線を集めてしまう。集団というのははみ出した個に敏感だからだ。
    「出来過ぎている……」
     アバッキオは頭を抱え机に突っ伏した。
    「どうしたんだ?」
    「やはりこの世界は俺にとって都合の良い夢でしかなくて、あんたの存在も幻じゃないのかって思ってるところだ」
     裕福で子ども好きな両親の元に生まれ何不自由のない生活を送っているというだけでもアバッキオにとっては信じがたいことであるのに、前世で一番大切に想っていた人が突然目の前に現れて、同じ学校に通うことになるなんて都合が良過ぎる。しかも彼はこの世界でも同い年で歩いて五分の距離に住んでいるとか、これはお前が夢見ているただの妄想だと言われた方が現実味がある。
    「その気持ちは、わかるよ……」
     戸惑いに揺れる声はまだ声変わり前のため高く可愛らしい。
    「だが、もしこれが夢なんだとしたら、楽しんだらどうだ?」
    「なに?」
    「自分にとって都合の良い夢なんだろ? したいことをしたらどうだ?」
     アバッキオは顔を上げてブチャラティの方へ視線を呉れた。
     ぎこちない微笑みを浮かべてアバッキオを見るブチャラティの瞳は揺れていた。
     もし夢だとしたら。
     現実であってほしいとは思うが、この世界を現実だと信じるにはあまりにも過酷な人生を歩んできた。
    「もしかして、俺は生まれ変わったのではなく、あの人生はまだ続いているのかもな」
     自分はまだ死んではいなくて臨死体験のようなものの中にいるのかもしれない。だからなかなか覚めないのだ。あの状況からして確実に死んだとは思うがその記憶すら今では信じられなくなってきた。
     その説をブチャラティに告げると彼も納得するように頷いた。
    「確かに、その方が説得力がある」
    「あんたはあの戦いのあとどうしたんだ?」
     アバッキオはブチャラティよりも先に死んだので彼がその後どうなったのか知らない。
    「俺も死んだよ。というより、死の瞬間を引き延ばしていただけに過ぎないが。それについては後で話すよ」
     ちょうど教室に担任が入って来たので二人は話を切り上げた。

     放課後ひと気の無い中庭に移動した二人は朝の話の続きをした。
     ブチャラティの最期とそれに至る顛末を聞いたアバッキオはもし自分があの戦いで生き延びたとしても、彼の死を目にし彼が失われてしまう結末は決まっていたと知ったら自分は耐えられなかっただろうと思った。
    「やっぱり夢だと思うか」
    「当然だろ。あんたのその話が本当なら現実に耐えられなくなった俺が逃避してるか、神様ってやつが人生の最期に見せてくれてるサービスシーンとしか思えねえよ」
    「そうか」
     ブチャラティはアバッキオの腕を掴むと引き寄せて彼の頰に唇を寄せた。
     一瞬何をされたかわからなかった。
    「なっ……、あんたッ!」
    「俺もお前と同じようにこれは俺にとって都合のよい夢だと思ってる。俺の夢だ。だから俺の好きにすることにした」
     そう言うと今度は抱きついてきた。
     アバッキオは真っ赤になって硬直しされるがままになっている。
    「いつ覚めるとも知れねえ夢だ。楽しもうぜ」



    ~その後~

    帰宅時間
    「本当に手ぇ繋いで帰るつもりかよ!?」
    「嫌か?」
    「嫌とかそういう問題じゃなく周りの目があるし」
    「夢なんだから別に構いやしないだろ」
    「確かにそうだが、変な噂になっても知らねえぞ」
    「そうか。それは嬉しいな。……顔赤いぞ」
    「(声にならない呻き)」
    苔もも Link Message Mute
    Jan 5, 2019 6:00:02 AM

    優しい世界の子どもたち

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    #アバブチャ #パラレル #ショタショタ

    めっちゃ都合の良い世界で幸せに暮らす話。

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