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    Need You 04 2000年7月。37年にも及ぶ逃亡劇を繰り広げた大ボスが逮捕された。
     野獣をマフィアの世界から追放したドーム最後の支配者は長いこと資金管理をしていたことから会計士の名で知られている。大勢の敵を血祭りに上げてきた経歴からトラクターとも呼ばれたが、ドームの権力を独占してからはファミリー同士の抗争を禁じ、ある一定の秩序を保ってきた。
     彼は自身の故郷であるシチリア州のコルレオーネで発見されたことになっているが、以前から彼の存在を知る人間は確実に何人かいたはずなのだ。
     隠れ家である郊外の寂れた民家に、彼の妻が高価な香料で香り付けした男性物の衣服や、女性一人にしては多すぎる食料を運んでいたのにも関わらず、その民家には一度たりとも憲兵や警察は近づかなかった。
     捜査に参加していた憲兵は、状況から判断して政府の中に彼の逃亡を幇助する人間がいることが明らかだと思っていた。これまでマフィアの内部告発者からマフィアたちの会合の場所を教えられ奇襲攻撃を仕掛けるも常に空振りに終わってきた。彼は何者かの助言により十回近く逮捕を逃れているのだ。
     記念すべき逮捕劇よりも一週間前、内務省の官僚が長年に渡る汚職を行っていたことが明らかとなり辞任した。それを指示していたとされる大物政治家が芋づる式で逮捕され新聞を賑わせた。
     彼が逮捕されたのは、彼を守っていた政治家たちが失墜し逃亡の手助けができなくなったからだろうと推測される。
     
     
     マリスの家は島の中でも標高の高い位置にある。そのため新聞が配達されてくるのも最後の方だ。
     麓の集落に住むマリスの友人が新聞を掴んで走ってくるのと新聞配達員がマリスの家のポストに新聞を投函したのはほぼ同時だった。
     最後の大物マフィアが逮捕されたとあって朝からどこも大騒ぎらしい。
    「しかし警察ではなく憲兵が逮捕するとは、また差をつけられたな」
     新聞を広げマリスがしげしげと記事を眺める。
     憲兵と警察は互いに強く意識し合っている。国防省に属する憲兵の方が力は上だが、最近では警察も重要な事件を多く解決していた。そのほとんどが作為であるという噂だ。政府が匿っていた犯罪者たちの中で、都合が悪くなった者を警察に捕まえさせているという記事を読んだことがある。その記事を書いた記者が行方不明となったことで信憑性が増した。
    「しかし警察が属する内務省の官僚が逮捕されてからの流れを考えると、警察にさせるのが事を荒立てなくするのに都合がいいんじゃないのか?」
     マリスの友人は首を傾げた。
    「憲兵に入れ知恵したおせっかいがいたのかもしれねえな」
     仕事の邪魔だからと友人を追い返したマリスは、玄関から出てきた人物を見るなりげんなりとした。
    「おはようございます」
     麦わら帽子を被った青年は剪定鋏をかちりと鳴らした。
    「おい。なにちゃっかり手伝う気でいるんだよ」
     マリスは自分の妻から剪定バサミと水筒を受け取り微笑む美青年に凄んだ。
    「招待していただいたお礼です」
    「まず、招待をした覚えはねえんだがな」
     昨晩急に現れたこの青年は今ではイタリア全土を牛耳るようになったパッショーネという犯罪組織の人間だ。見た目からは想像もつかない。田舎臭い農作業服に身を包み牧歌的な雰囲気を醸し出しているが、それでも彼の美しさを損ねるどころか爽やかな好青年ぶりが増しているのはマリスにとって解せなかった。
    「なんだかんだ言いつつ泊めてくださったことに感謝していますが、それ以前に、二年前のお礼をまだしていないので」
    「その件に関してはむしろ俺がお礼をする方じゃねえのかな」
     マリスがブチャラティとポルナレフを救った一年後、見慣れない船をネアポリス沿岸で見かけるようになった。
     正確には、見たことはあるがいつもとは異なる動きをしている船だ。輸入品を運ぶのに使われる中型の船が東側ではなく西側からやって来た。
     妙な胸騒ぎを覚えた。昔から悪い勘はよく当たった。船は指でつまめそうなほど遠くにいるというのにおどろおどろしい何かを感じた。動物の方がそういった勘が鋭いのだろう。マリスの周囲にはいつも鳴いている鳥たちはおらず異様なほど静かに思えた。
     その後何度か同じ朝を迎えた。港に用事があった際それとなく沿岸警備隊員に聞いてみたが知らないと言いつつも上手くはぐらかされたような気がした。
     買収されているのだと直感で判断したマリスは、迷いつつもブチャラティを探すためネアポリスの港へやって来た。
     彼らを助けた時、ブチャラティから自分の身の上を明かされた。自分がギャングと関わりを持ってしまったことと、どこから見ても良いところのお坊ちゃんという風体の彼が道を踏み外した人間という事実に驚きはしたものの、マリスはブチャラティ自身に嫌悪感を抱けなかった。
     見た目を気にして上手く化けているギャングは多いが、マリスはいつも見破ってきた。島の中央図書館の老紳士な司書が実は引退したマフィアだとか、ネアポリスの港のレストランで給仕長をしている柔和な雰囲気の男が麻薬ディーラーだとか。どんなに分厚く立派な衣装を身に着けていようともマリスには彼らが放つ独特のにおいがわかるのだ。これはシチリアで育ったからではなく子どもの頃からの特技だった。
     この島に母親と移住してきた際、幼い子どもを連れた若い女を食い物にしようと親切顔で近付いてきた人間は多くいたが、母親はマリスの嫌がる様子を見てそういった人間を遠ざけてきた。
     だからこそブチャラティは他のギャングとは違うのだとマリスは感じていた。
     それは正しかった。大怪我を追ったポルナレフの手当と世話をしていたマリスは、彼とブチャラティの間で交わされた会話を時々耳にしていた。ブチャラティは今イタリアで最も勢いのある犯罪組織の組員だが、自分のボスに反旗を翻そうとしているようだった。彼らの口から出る話の中にはマリスが理解できない話も多かった。ただ分かったことはある。彼らは常人の想像が及びもつかない、何かとてつもなく大きな存在と戦おうとしているのだということが。
     マリスは彼が回復するまで匿ってやることにし、一旦ネアポリスに帰るというブチャラティと連絡の手段を決めた。
     その手段でブチャラティに不審な船の情報を伝え、彼はマリスからもらった情報から外部犯罪組織の密輸グループが運輸省や財務省の役人を買収し人身売買を行っていることを突き止めた。
     ブチャラティはその事業を潰し買収されていた役人たちを脅し何人かを手駒としている。
     そこまで大ごとだと思っていなかったマリスだが、同国人として恥ずべき行為を見逃さず徹底した制裁を下したブチャラティに感謝していた。この件で以前助けた貸しは相殺したつもりだったが、ブチャラティは時々マリスの元を訪れる。マリスの妻はブチャラティを息子のように思っているのかマリスがいなくともブチャラティを家に上げるようになった。
     泊まりに来たのは今回がはじめてだ。早朝に行われる葡萄の房の剪定を手伝うために前日入りしたらしかった。今年はタイミングが悪く法事などでいつも手伝ってくれる農家仲間や妻の親族が来てくれる日数が少ないということをなぜかブチャラティは知っていた。
    「剪定の仕方はマダムから昨日一通り教わりました」
     呆れて物が言えない。
     霧が立ち込める中、マリスはブチャラティを連れて畑の奥の方へと歩いて行く。
     敷地の入口から一番遠いここなら、もし突然地元の人間が訪ねてきてもブチャラティを隠す余裕がある。
    「今朝のニュース驚きましたね」
     とぼけているのか。それとも本気なのか。
     出会ってから3年。ブチャラティがしていることをなんとなく知っているマリスからしてみれば今回のことだって彼が裏で何かしたのではないのかと勘ぐってしまう。
    「会計士はイタリア人なら知らねえやつはいない例の政治家と密な関係だって専らの噂だ。どんなスキャンダルを起こしても握りつぶしてきたあの政治家がいる限り逮捕は無理だって思ってたんだがな」
    「そうですね。半年くらい前に売春を斡旋していた組織が一網打尽にされたでしょう。賄賂を受け取っていた役人が何人もいて彼らも逮捕されたんですが、最近になって彼もその一人だったと調査の結果明らかになったんですよ」
    「摘発したのは憲兵だってな」
    「そこまで炙り出すとは誰も思っていなかったでしょうね」
     犯罪組織と役人との癒着など誰もが知っている。だからこそ己の身を顧みず追及の手を緩めない骨のある人間が今の憲兵にいるなんて信じれられないという国民は多いことだろう。汚職は警察より酷くはないと言われているが、国民の目から見れば大して変わらない。
    「役人のスキャンダルも以前のように揉み消されることが少なくなってきた。だんだんと風通しが良いように変わってきたのかもな」
    「今回の逮捕もこの数年で国防省が浄化されたから可能となったのでしょうが……。ここまで大きなことが起こるなんて正直予想外でした。切った糸の先がどこへ繋がっているのか、俺もまだまだ正確に把握しきれていない……」
     最後の方は独り言のようだった。
     やはりブチャラティはこの件に関わりがあるのだろう。
     むしろ、こいつが関わっていない犯罪組織がらみの事件があるのかね……。マリスは帽子の下で笑った。
     畑の一番奥の敷地へ到着すると、葡萄の木と木の間をワイヤーで結び垣根状にした長い列の前に行き、マリスはブチャラティに剪定の手本を見せる。妻に教わったというだけあって良い房の見分け方を教えるとすぐに要領を掴んだ。
     二人は畑の端から一列目の垣根を挟んで向かい合い作業を開始した。野鳥と風とハサミの音以外何も聞こえない無言の時間が流れる。太陽が高く登るまで二人は黙々と作業を続けた。
     ふとマリスが顔を上げて立ち上がり垣根の向こう側にいるブチャラティを見ると、彼は疲れた様子も見せず真剣に手を動かしていた。帽子の影が落ちる目元では時折差し込む光で海が輝いている。
     二人は昼食の時間にマリスの妻が呼びに来るまで作業に没頭した。
     
     
     三日ぶりに会ったブチャラティは頬が少し日焼けしているように見えた。
     聞くと日中長い時間屋外にいたらしい。
    「日焼け止めはちゃんと塗ったのか?」
    「塗ったさ。塗らなきゃ火傷しちまうんだから当たり前だろ」
     イタリアは紫外線が強く六月に入ってから容赦なく日差しが照り付けるようになった。
     初夏といえど石造りの建造物が多い市内は日向にいると汗だくになってしまう。石壁に当たり照り返す日差しも生まれつき肌が白いアバッキオを苛立たせた。
    「お前は子どものころ日焼け止めを塗るのを嫌がって外で遊ぶたび真っ赤になってたタイプだろう」
     唐突なところにもだいぶ慣れたが図星を突かれてアバッキオは黙ってしまう。ブチャラティの言う通り日焼け止めなんて塗るのは軟弱だとか男らしくないとか、今振り返ると馬鹿みたいな痩せ我慢で母親が心配するのも構わずに遊び回っていた。当たり前の結果だが、それが原因で一度ひどい日焼けをしてからは気を付けるようになった。今では男性では珍しいくらいに就寝前のケアにもこだわるようになった。当時の自分を振り返ると信じられない変化だ。
     イタリアでは夏に日焼けする方が健康的で良いとされているが、アバッキオは遺伝のためか日に焼けるとすぐ赤くなり痛むため家族揃って紫外線を嫌っている。だから大多数のイタリア人と違い夏場も白いままだ。
    「あんたはどうだったんだよ」
    「親の手伝いをする傍ら外にいることが多かったから塗ってたな。それでも夏は全身真っ黒になっていた。俺がいた漁村ではひどく日に焼けると夜に海藻をすり潰したやつを顔に塗るんだ」
    「親の手伝い? 漁村?」
    「言っていなかったか? 俺の親は漁師だったんだ」
     突然明かされた事実にアバッキオは目を見開いた。
     彼が元は一般人であったことは知っていた。だいぶ若くしてこの世界に入ったことも街の人間や組織内での噂話で把握していたが身の上までは知らない。
     漁師? この人がもし一般人のままであったなら今頃漁師になっていたのか?
     エプロンをして船に乗るブチャラティとか魚を捌くブチャラティを想像しようと試みるが、それ以上進んではいけないような気がしてアバッキオは考えるのをやめた。
    「今日は教会への寄付だったか? 直接あんたが行くのはやめにしないか。幹部のペリーコロさんが信仰を大事にしろって言うのはわかるんだが、この前教会へ寄付に来るところをマフィアに待ち伏せされていたチームリーダーがいただろ。調べれば誰にでもわかる決まった習慣を作るのは危険だ」
     最近、教会へ組織からの寄付金を渡す役目を任されたブチャラティは月に一度寄付金を手渡しにいくつかの教会を回るようになっていった。
    「だが一介のチンピラに任せるわけにもいかないだろう。示しがつかない」
    「あんたの代わりはいないんだ。安全を優先するべきだ」
    「ボスの命令だ。俺にはどうすることもできない」
     教会へ向かうブチャラティに付いて行ったアバッキオは、教会の扉へ続く階段を登り切ったところで足を止めた。
    「俺はここで待つ」
     振り向いたブチャラティは左手で扉の方を指差し、中で待てばいいだろうと言った。
    「俺のことを調べ尽くしたのならわかるだろう」
     敬虔なカトリックであったアバッキオの家はその地方の名家であったこともあり、汚職に手を染め堕落した息子を突き放し拒絶した。アバッキオ自身は両親ほど敬虔ではなかったが、生まれながらに信仰を通して家族から愛を教えられた彼からしてみれば、それまで信じていた世界すべてに裏切られたことに等しいものだった。
     愛は寛容であり、愛は情け深い。幼いころ、罪を犯しても心の底から悔い改めれば神は赦してくれると周囲の大人たちに諭された彼は、実際に自分がしたことはとても許されることでは無かったとしても、救いを求める自分に手を差し伸べてくれる人がいるのではないかと信じていた。
     堕ちるところまで堕ちたらどうなるのか。人生に底があると思うか。そんなものは無かった。踏みとどまろうと足掻こうと、足掻いた先で掴まるものが無ければ人は堕ち続ける。
     胸の内を打ち明け少しでも平静を取り戻すために祈りを捧げようと、幼いころから通い続けていた教会へ向かうも、話は既に広まっていたのだろう、礼拝堂に入ること自体断られた。
    「俺はこんなふうになっちまう前は毎週教会に行くような真面目な信徒ではなかったし、今では仕事がらみでなければ近づきもしないが、生活の中に習慣として染み付いているのか、神という存在を何らかの形で信じているのかもしれない」
     唐突に語り始めたブチャラティに思わず俯いていた顔を上げる。彼の青い瞳が曇り空から降りる白い光の中で磨り硝子のように輝く。
    「お前を拒絶したのは教会であって神ではないだろう」
     言葉を残しブチャラティは踵を返して教会の扉を開けて中へ入って行った。
     まみえた胸の奥を容赦なく突き刺すものの正体がわからぬまま、アバッキオは慌てて彼の後を追う。
     内部に入った途端、荘厳な美が彼を出迎え、教会の建材や調度品から漂う独特のにおいがする冷えた空気がやけに澄んだものに思えた。地元にあるアバッキオが通っていた教会は、内装は美しいもののこじんまりとしていて温かみがあった。家々がひしめく都市部の中に隠れるようにして建つこの教会は外観が地味であり、近くに観光地としても有名な大聖堂があるため、内部に入った時の衝撃は言葉で言い表せない。
     宗教画が描かれた高い天井を眺めながら手探りで礼拝堂の長椅子に腰掛ける。
     祭壇の方を見るとブチャラティが柱の影で神父らしき男と話している姿が見えた。神父は何か心配事があるのか、ブチャラティに相談を持ちかけているような様子だった。年若いブチャラティの方が落ち着いていて貫禄があるので一瞬どちらが神父かわからないなと思った。
     自分が穏やかな気分でいることにアバッキオはしばらくの間、無自覚だった。気が付いた時、戸惑いと気まずさが懐中を過ぎったがすぐに消えていった。
     そして同時に気が付いた。ブチャラティといる時間は落ち着く。それは教会で讃美歌に抱擁されステンドグラスの光を見つめている時の気分ととても良く似ていることに。


     穏やかな気分は長く続かなかった。
     用事が終わりアバッキオのところへ歩いてきたブチャラティを迎えるように立ち上がると彼は前を見据えたままアバッキオの肩に手を置いた。
    「今日はここで解散だ。入り口にお前を待っている男がいる。夜に港のバーで会おう」
     そうして祭壇の方を向いたままのアバッキオとすれ違うようにブチャラティは立ち去っていった。
     教会の扉が開閉する音がして数秒。
    「久しぶりだな。見違えたぜ」
    「その声、二度と聞きたくはなかったな」
     酷え言い草だと笑いながら、男は通路を挟んだ隣の席に腰を下ろした。
     アバッキオはその男を眺めるように見た。
     警官時代の上官である彼はアバッキオの親戚でもあった。金髪に白い肌をしているリーノは三十代後半だが目元に深い皺が刻まれているせいで実年齢よりも老けて見える。背が高く顔立ちは整っているが威圧感がある。
     以前二人はよく話す中だった。アバッキオの家系は警官や教師が多い理由もあって関わりも多かった。
    「新聞は見たか? ついに会計士が捕まったってよ」
    「知らないやつはイタリア人じゃねぇ」
    「言えてる。その一件でまたしても憲兵に差をつけられちまって長官はカンカンさ。しかも会計士と繋がってたやつが警察内部にいることがマスコミにリークされた。上層部でも容赦なく首を切られたよ。そのおかげで俺は警視になれたわけだけど」
    「警視? あんたが?」
    「貧乏クジだよ。ここで何らかの功績を上げねえと俺も潰される。長年ライバル視してた憲兵の株が上がって、世間でも頼るなら警察よりも憲兵って空気になっちまってるからな」
    「元から体制上、規模も権力も向こうが上だがな」
    「普通こういう大物が逮捕されるのは選挙とか政治家が支持率を上げたい何かしらの事情がある時だが今回はそういったことはなかった」
     リーノはアバッキオを無視して話を続ける。
    「今回の逮捕は警察抜きで行われた。こういう案件は大概政治家が子飼いの役人を通して警察に指示して行うものだか」
    「あんたがそれを言うのか」
     マフィアを密かに保護している政治家は内務省の役人を使っていることが多い。警察は内務省の下部組織だ。これまで何度か行われてきたマフィアの逮捕は、そのほとんどが保護していたマフィアを守りきれなくなった政治家が、警察にわざと情報を流して逮捕させていたのだ。アバッキオがそれを知ったのはブチャラティの仕事を手伝うようになってからだ。知れば単純な仕組みだが、別な視点から世界を見る機会が無ければ知らずにすごしていたかもしれない。
    「リーノ。そこまで知っていてなんで未だに警察でいられる?」
    「心情的なことを言ってんのか? 今じゃどこからどうみても立派なギャングだっていうのに青臭いところは変わらないみたいだな」
     胃の底から怒りが湧いてきた。
     そうだ。この男も少なからず汚職に関わっていた。アバッキオがあの事件がきっかけで警察を去ることになった時この男からかけられた言葉を今の今まで忘れていた。
     運が悪かったな。そう言って心底アバッキオに同情していたのだ。
     アバッキオはそのやり取りでリーノも含め多くの警官が汚職をしているという事実を知った。組織から弾き出されるのは立ち回りが下手なやつか運が悪いやつだけ。前者は同類から蔑まれるが後者は憐れまれる。後者であるアバッキオが罰金と懲戒免職で済んだのは彼らの同情を買ったからだろう。
     それが心底情けなかった。
     ここまで腐っている組織だと知っていたなら警察ではなく憲兵を目指していたかもしれない。
    「アバッキオ。お前ブチャラティの部下だっていうのは本当だったんだな」
    「本当だったんだな、とは?」
    「信じられねえだろうがお前のことはそれなりに気にかけていたんだぜ。一応しぶとく生きているみたいだから放っておいたが、いつの間にかパッショーネの幹部候補とイイ仲になっていたなんて驚きだ」
    「ブチャラティの部下というのは本当だが、情夫だっていうのはただの噂だ」
    「そうなのか? 信頼できる筋からの情報なんだが」
    「切っちまえそんなクソ情報源」
     教会内にはアバッキオとリーネ以外人の気配は無かったが、ギャングと警察官が二人きりで話をしている図というのは危険だ。
    「結局あんた何をしにここへ来たんだ」
     さっさと立ち去った方がブチャラティのためでもあるとアバッキオはリーノを促す。
    「こんな俺でもいい加減警察の腐敗ぶりには嫌気が差してる。汚職に関わっていた上層部の人間が多く消えたおかげで少しはマシになったと思いたいが、内外的にも警察は法の番人であると示して警察官の意識を変えたい。そのために協力してくれ」
    「協力?」
    「ブチャラティはペリーコロとポルポのお気に入りだ。ボスからの信頼も厚いと聞く。俺が知りようもないこの国の裏側を多く見ていることは確かだろう」
    「俺に警察の犬になれってか?」
     侮蔑に歪んだアバッキオの笑みにリーノは目を見開いた。
    「おいリーノ、なぜそんな顔をする?」
    「……いや、俺の思い違いだった。てっきりお前はまだ警察に未練があるものだと思っていた」
     リーノの言うように、もう一度やり直す機会があるのなら今度こそ間違わないと思ったことは何度もあった。
    「今は全く。あんたにそう言われるまで未練タラタラな時期があった事自体忘れていたぜ」
    「ブチャラティに飼いならされたか」
    「そうだ。俺はブチャラティの犬なんだ。犬にとって主人は一人だけだぜ」
     言葉にして、アバッキオは清々しい気持ちになった。自分が落ち着ける所はブチャラティと一緒の時だけなのだとはっきり言える。
    「で、俺に何を頼みたかったんだ?」
     不敵な微笑みにはリーノの企みを挫いた優越感があった。
    「俺が出世し人事権を得ればお前を警察に戻せる。お前は汚職なんてしちゃいない。上層部の陰謀に巻き込まれてスケープゴートにされただけだとか、スパイとしてギャングに潜り込ませるため仕組んだのだとか事実をでっち上げれば簡単なことだ。他の連中もやってる。その代わりブチャラティが持ってる情報を俺に流せ。……そういう話をするつもりだった」
    「半年前の俺だったら乗ってたかもな」
    「だろうな。だが、半年前のお前じゃあ使い物にならなかっただろうよ。今もどうだかわからねえが」
    「どういう意味だ」
    「お前は甘ちゃんなんだよ。そもそも相棒が殺されたって大義名分を得た時に、あのポン引きを撃ち殺しとけばこんなことにはならなかったんだ。目撃者はいなかったんだ。どっちが先に撃ったかなんてわかりっこねぇ。正当防衛だ。俺だったらそうしてた。それができないのがお前って人間だよ」
    「貶してんのか」
    「半分はな。お前は結局善人なんだよ。だから警官には向いてない」
     善人のギャングってのもお笑いだがなと言い立ち上がったリーノの腕をアバッキオは掴んでいた。
    「連絡先は?」
     リーノは唖然とし、そのあとゆっくりと口角を釣り上げた。
    rossi Link Message Mute
    Oct 27, 2019 9:16:19 AM

    Need You 04

    分岐ifその4
    ブチャ20歳 夏


    ※解釈違いの地雷あるかもしれません
    ※若干のアバブチャ

    #ブチャラティ  #ポルナレフ  #アバブチャ

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