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    ふたりのネコモノガタリ▽沖田のネコモノガタリ


    にゃあ、と一鳴き。


    「ん? どうしたんだ、総悟。腹でも減ったか?」

    続いてもう一鳴き。

    「そうかそうか。今ミルクいれてきてやるからなぁ」

    一見成り立たぬ会話だが、ゴリラにも見えるこの人間は猫の気持ちを読み取って、胡座のうえに乗せていた茶色い猫を掬い上げ、畳の上にそっと下ろす。

    「ナ~ッ ナ~ッ」

    立て続けに泣き出す猫は居間から出ていこうとする近藤の後を追う。
    トテトテと。二足歩行で。

    「メッ。廊下は冷えるから。部屋で待ってなさい」

    そういって襖を閉められてしまえば自分の手で開けるのは困難で、仕方なく炬燵の中へと戻っていく。
    別に腹など減っていないのに、そう思いながら。

    「ニャア~」

    「ぁ?」

    「ン~ニ~」

    「部屋に戻りたいだぁ? 何しにだよ」

    「ナッ、ナッ」

    「あぁ、本な」

    炬燵のうえで蜜柑を剥いている土方は本当に会話が出来ているようだ。
    そして、面倒くせぇなぁと続ける。

    「そもそも自業自得だろうが。人を呪わば穴二つって言葉知らねぇのか?」

    今朝のことだった。なんだかんだ朝礼にはちゃんと出る一番隊隊長がその姿を見せず、寝坊か? と山崎を使い呼びに行かせたら

    ふ、ふっ、副長ぉおおおっ!!

    と、叫び声を上げ物凄い形相で戻ってきた。腕にこの猫を抱いて。

    その後沖田の部屋を調べれば布団の上に広げられた黒魔術の本と、自分の写真が釘で貼り付けられた藁人形。
    状況を理解するのはそう難しくはなかった。

    ナァァァ ンナァァ…

    「わぁったわぁった。これ食ったらな」

    タシタシと、テーブルの上を肉球で叩く沖田は炬燵から離れない土方を急かしてくる。
    土方が一粒割って口元に持っていけば猫の本質なのだろう、鼻を近付け鼻先をピクピクとさせている。
    そして土方の手のひらにのせられた蜜柑にくあっと小さな牙を覗かせ、ぱくりと口の中へ入れた。

    「あーあー、汁をこぼすな」

    汚ねぇよ。と云っても、沖田は下を向いたまま土方の手の平の上 蜜柑の汁を落としてくる。
    二足歩行は出来るのに、所々が動物くさい。

    塵紙で自分の手と沖田の口を拭うと土方は重たい腰を持ち上げた。



    「お前、器用だな…」

    沖田を部屋に連れてきた土方は呆れたように云った。
    畳のうえ膝をつき、怪しげな本を捲っていく沖田は上手く爪をしまい、ざらついた肉球を利用している。

    (これ、何語だよ…)

    ふんふんと、頷きながら読む沖田だが覗きこんで見る土方には内容がさっぱりだ。

    取り敢えず隣に転がっていた藁人形を掴み自分を救出する。
    顔面に釘を打たれていなかっただけ良かったと思うべきか、なんにせよ、沖田が元に戻ったら説教をしてやらねば。

    「ニァアッ!」

    思っていたら、鋭い爪が閃光を走らせた。

    「ィッ、テェエッ!?」

    「な゛ーっ!!」

    土方の手から人形が落ちれば直ぐ様沖田はそれに飛び掛かる。
    フーッと息をあげ、尻尾を逆立たせ 触るなと、カラダ全体で訴えている。

    「…ぁー、捨てねぇから安心しろ。つかンな気味悪い人形でよく遊ぶ気になれるな…」

    藁人形を抱き込みゴロゴロと転がる沖田に土方は不安になる。
    これではまるっきし猫ではないか。本当に人間であったときの沖田の思考は働いているのだろうかと。

    時間が経てば勝手に戻るだろうと思っていたが、考えればそんな保障はない。
    もしかしたら時間が経てば経つほど、人間である沖田の思考を蝕んでいるのかもしれない。
    考えたら背筋がヒヤリとした。

    「おぃ 総悟っ、はやく元に戻る方法をさがせ!」

    語尾を強め叱りつければ、耳を大きく跳ねさせ、沖田は再びしぶしぶ本のうえに手をのせた。



    「……ニッ――」

    暫く読み耽っていた沖田だったが、突然ピンッと尻尾を立たした。

    「わかったのか?」

    問えば、ン~ナ~ と誇らしげな目をして声をあげるから、それが良い返事であると土方は解釈した。

    どうすんだよ? そんな目を沖田に向ければ突然土方の胡座にのり、よじよじと首に向かって手を伸ばしてくる。

    「いてェよコラッ!!」

    爪が引っ掛かり、堪らず脇の下に手を入れひっぺがす。
    するとひっきりなしに鳴き出すものだから、沖田の心意をさぐる。

    「なに。俺が何すれば良いんだよ」

    変なことをされてはたまらないと、その小さなカラダを脇の下から持ち上げて動きを封じる。
    ぶらーんと身体を伸ばす沖田は顎をクイクイッと上げて土方に向け鼻を突きだした。

    否、口を主張させている。

    「……おぃ、…まさか…」

    土方のこめかみの上に汗が流れる。
    しかし尚も沖田は顎をクイクイッと上げている。


    接吻ですか?


    声にだしきけば、猫は喉をごろごろと鳴らし


    にぁああ、と、一鳴きした。


    ***

    ◇土方のネコモノガタリ



    垂れ流す尻尾をぷらんぷらんと揺らし、まだかまだかと構えられてはいくしかなかった。

    土方は口を結び、いつもより小さなその唇に自分のをあてた。
    本当に触れる程度にだ。

    大きく視界にうつる瞳はパチパチと瞬きを繰り返すから、眼を閉じろ眼をと内心訴えるが通じたところで沖田が素直に従うわけもない。
    いや、この場合通じてはいなかったのだろう。
    沖田は只、何かを待っていた。
    まるで土方の様子をうかがうように、柔らかな栗色をした耳がピクピクと動いている。

    「…ッ!!、」

    嫌な予感がした。
    バッ、と
    頭で理解するよりも早く土方の身体は沖田のカラダを離す。
    乱暴に突き放されたカラダはころりと畳の上で一回転。
    それでもうつ伏せになったまま顔を上げ、期待に満ちた大きな瞳に土方を映す。

    「ン…、ぐっ?!」

    突然の頭痛が土方を襲う。
    恐らく一瞬の出来事だったとは思う。それでも耳鳴りと共に起こった激しい頭痛に土方は意識を飛ばしそうになる。

    にぁあ、

    自分を呼ぶ猫の声になんとか意識を保ち沖田を見れば
    無邪気な丸い目がキラキラとしており、土方は思った。

    あぁ、やられたと。

    「…こっ、の」

    この野郎と、放ちかけた土方の声は途中で途切れた。
    耐えきれずギュッと目蓋をとじたら、沖田の声が頭に響く。


    大丈夫。死にやしませんから

    これで儀式は終りです、と

    (…お前、)

    ちゃんと人間に戻れたのか。
    この期に及んでほっと安堵の息をもらす自分がいて、自分がこんなにも甘いから碌な人間にならなかったんだろうなと茫っと霧掛かる頭で少し反省もしてみる。沖田に云わせれば余計な世話というやつだろう。

    まぁ、性根の悪さは生まれつきなんだろうけど



    「おや、土方さん。お目覚めですかィ?」

    薄く開いた目蓋の先、沖田が覗き込むようにして自分を見ていた。
    ぼんやりとした頭で、いつの間に眠ってしまったんだ? と思い時間を確認しようと沖田に問うた。

    「ニャァ…」

    声に出し、土方は耳を疑った。
    もう一度と声に出せば、沖田は返事をくれる。
    珍しく上機嫌な笑顔を土方に向けて。

    「どうですかィ? 猫になった気分は」

    「…」

    土方は自分の身体に目をやった。つもりだったのに、映るのは丸められた黒いカラダに すらりとした長い尻尾。
    沖田の言葉を頭の中で繰り返す。

    ねこ?

    ネコ…

    猫?

    「ギッ―!?」

    「騒がねェでくだせぇよ。あんま騒ぐと段ボールに押し込んで捨てちまいますよ?」

    ギャアギャアと鳴き出した猫を沖田はひょいとその腕に抱く。
    黒猫が向ける目は間違いなく土方のもので。
    酷く目付きが悪い。

    「そんな慌てなくても、ちゃんと人間に戻れるから安心してくだせぇ」

    「…ッ!!」

    悪戯な目を向ける沖田に土方はハッとし、沖田の顔目掛け飛び掛かる。
    沖田が人間に戻った手段を使えば良いのだと、そう考えたのだ。
    しかし強く首を掴まれ実行を阻止された。
    後ろの皮が伸びているのに痛くもなく、なんだか変な感じだ。

    「残念ですが、アンタが元に戻る方法は別でさぁ。キスはキスでも――」


    相手は猫です。


    盛ったメス猫共をくどき倒してきてくだせぇと、沖田に抱き抱えられながら外に連れられる土方はぼんやりと、考える。

    「…、」

    これは最早、動物虐待ではないか?

    (ぁ、でも俺人間か…)

    にしても納得がいかない。
    土方はカラダをくるむよう張り付いた尻尾を見て思う。

    沖田の茶番に付き合うこともそうだが、なにより


    何故、自分の尻尾は鍵尻尾なのだろう…。

    生まれてこのかた猫のモテ基準なんて考えたことがない。

    きゃあ、見てあの鍵尻尾、超イカシテるー と、プラスになれば良いのだが。

    土方の眼はいま、世界の終わりを見ている。






    天気は晴天。
    さんさんと降り注ぐ日差しに黒猫は身を暖め、クアーッと欠伸をする口から小さな牙を覗かせる。

    最近書類整理に追われていた為碌に睡眠をとれていなかった。ましてや、今は猫だ。

    (猫がよく寝てるのはこういうことか……)

    薄くあけた眼をパシパシと瞬かせ、ぬくぬくとしたこの身体を味わうようカラダを丸めた。

    「ちぃと土方さん。毛がつくんであまり動かないでくだせぇ」

    腕の中でもぞもぞと動く猫に沖田は眼を落とした。
    その面はツンとそっぽを向き

    (……知るか)

    挙句前足で耳を掻き毛を散らし出すから、戻ったとき禿げてても知りやせんぜ、と云えばピタリと止まり大人しくなった。

    (くそっ)

    人間に戻るための方法が他にないのだから黙って従うしかないだろう。
    土方は腹をくくっていた。
    なに、この悪魔のような男でも猫と交尾をしろと云ってるわけではない。
    たかが接吻だ。
    逃げるなら多少強引にでも、

    「準備はいいですかィ。タイムリミットは三時間です。それ過ぎたらもう人間に戻れないんで気をつけてくだせぇ」

    因みにあんたが気ィ失ってから二時間近くは経ってます。

    「……」

    訂正させてもらおう。やはりこの餓鬼は悪魔だった。

    ニィー

    テメェ覚えてろ。戻ったら即しばく。
    そんな言葉も出るのは猫の鳴き声一つで、中指を立てるも見えるのは己の薄いぴんくの肉球で悲しくなる。

    下ろされたのは小さな石がごろごろと転がる河川敷。
    ぷよぷよとした足裏はクッション代わりとなり痛みはない。

    「見てくだせぇ」

    沖田が土方を促すよう眼を向けたのは錆びれて横になったドラム缶。
    中から聴こえるのは、普段の土方にはきこえることのない会話。

    きいたー? 最近トメ子、顔をださないと思ったら歌舞伎町の幹部と付き合いだしたらしいわよ。

    うそー 長年付き合ってた彼が車にはねられ亡くなったっていうから慰めてやったのに。
    大人しそうな顔をして、とんだあばずれね。

    あはは。あんたもその辺の男を誘惑してまた子供でもこさえてきなさいよ。

    「……」

    「どうしたんですかィ、土方さん。声がしますがいかねぇんですかィ?」

    声を掛けたが最後、無事に済む気がしない。
    唇を頂くどころか此方が全てを頂かれそうだ。

    土方は顎を反らし沖田を見上げた。
    ん? と他人事みたいに首を傾げられ正直いって腹立つが、人間に戻ったときにこの顔を直視出来る自分でいられるか不安でならない。

    クイクイッと顎を上げれば沖田は膝を折り、いつも野良猫にするように土方の喉を指で撫でる。

    「大丈夫、土方さん。アンタのその鍵尻尾、イカしてますぜ?」

    いらん励ましだが土方は沖田の手でカラダをほぐされ決意を固めた。

    (……行ってくる)

    ニィ、と一鳴き。
    小さな口がそっと沖田の手の甲に落とされる。

    黒猫はカラダを翻し、いざ前へと足を向けだした。

    その後ろ、沖田が手の甲を背中でゴシゴシ拭くがそこは見て見ぬ振りをし、土方は沖田に見守られていることを信じ自慢の尻尾を揺らした。


    Yayoi Link Message Mute
    2019/01/19 9:51:43

    ふたりのネコモノガタリ

    【土沖】
    沖田の半猫化からはじまるお話。

    作画提供/鳴子坂絵馬 様
    thanks!

    ##土沖小説 ##土沖

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