冷えた夜も朝になれば身がぶるっと震えたち、土方は意識を浮上させた。まだ暗い。
薄闇のなか、手探りで布を掴み、あったあったとぐいりと己の方に引き込んだ。
しかし、思いの外ずっしりとした重みが手に加わって、
「……ぁ?」
土方はかすれた声をだし、重たい目蓋を持ち上げた。
薄手の毛布に温かそうに身をくるみ、縮こまった栗色の子。
土方に背を向けすこすこと眠っている。
対して土方は着流し一枚。
再び背筋に走る悪寒。
「……ぉい、こら寄越せ」
ぐいぐい引っ張ると、栗色はぱさぱさ揺れる。夢の世界から無理矢理片足を引っ張り出された沖田は、眉間に皺を作り、寝惚けながらも反抗の意思を示す。
「…ゃめ、……ろぃ、…も、…無理…」
何が無理なんだと、思いながら土方は更に引く。
「んー…、しつ、こぃ…旦…那ァ」
「なんの嫌がらせェっ!?」
おまっ起きてんだろ?! と荒げた男の声に、沖田は恰も、今起きましたと言わんばかりに眼を開いて驚いてみせる。
「……ぁ、やっべ。今日は土方さんでしたっけ」
こいつぁ失礼しやしたと、心にもない謝罪を一つ入れ、土方は余計惨めな想いにさせられる。それが沖田にとってお茶目な冗談だとわかっていてもだ。
「あー もうイィ! 取り敢えず布団半分寄越せ」
冷えて寒いんだよと、顔の上半分を覗かせる憎たらしい子供に手を伸ばす。
すると、布団にくるまった芋虫はごろごろと転がり逃げだすから、させるかと腕を目一杯に伸ばし、上からおい被さる形で虫を捕らえた。
「あんたは服着てんだからいいだろぃ」
不服を訴える沖田はじとっとした眼で見上げてくる。つまりは沖田は肌着すら着けていないわけだが、剥ぎとった当人はならテメーも着りゃ良いだろと、皺くしゃになって部屋の片隅に追いやられた沖田の寝巻きを顎でしゃくる。
「嫌でぃ。あんたの汚ぇ汁がついて着る気しねぇや」
「いや、大半は」
お前の汁だろ、と言い掛けた土方の顔面目掛け拳が飛んできて、ォアっ!? と紙一重のところでそれを避ける。
白い目を向ける沖田はふんと鼻を鳴らし、固く握った布団を指から解く。
入れということらしいが背を返し、可愛いさの欠片もみせない。
寒いのなら少しは恋人らしく擦り寄ってこいと、思ったところで馬鹿らしいと息をつく。
沖田に限りそれはないだろと。
漸く布団に入れた土方は横目でちらり、沖田の背をみた。
寒くねぇか? と訊いたら、その白い背がフッ、と鼻で小馬鹿にするように笑う。
やはり可愛くない。
肩を掴んで引き寄せれば存外大人しく従ってくれて。
(どこまでも受け身な奴だな……)
土方は半ば呆れながら、自分よりも幾分か温度の低い身体を腕の中に抱き込んだ。
こうすることを許すのは自分にだけだろうかと、案じた疑問をぶつけてみたところで、栗色の子供はただ笑って受け流すのだろう。
了