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    第一話「コッペパンは偉大。」綿貫家宛ての手紙
    桜木県梶市の住宅街に立ち並ぶ七階建てのマンション、小鳥遊ガーデンの五階の表札―綿貫。そこの扉へ郵便物を携えた児女が鍵を差し込み、中へと入っていった。
    「お姉ちゃん! 大変なんだよ! お手紙が届いたんだよ!!」
    慌てふためき、郵便物をブンブンと振る、先ほどの児女。居間のソファに横たわっていた少女が児女を見る。彼女が起き上がるや否や、男が後ろから彼女を差し置き、児女の前へ出た。迷惑そうに少女は男をにらむ。
    「おー! ついに結果か!」
    男の顔面を手が覆った。
    「は、早く開けて…」
    「アンタ宛てじゃ、ないでしょーが」
    がっつく男を押さえつける女、もう片方の手で少女に郵便物を渡す。
    その後ろで児女と少女は各々の封筒を開けた。
    少女は児女に尋ねた。
    「ツユリ、アンタどうだった?」
    ツユリと呼ばれた児女は満面の笑みを浮かべて、腕を広げた。
    「合格なんだー!!」
    それを聞き、微笑む女と顔面が輝く男。
    今度は男が少女に尋ねた。
    「和海、お前はどうだったんだい? 早く教えなさいっ。たとえ不合格でもパパは…」
    パパはアセアセとしながら、和海と呼んだ少女に歩み寄った。
    「どーしよっかなー」
    がっつくパパを尻目に、和海は小悪魔的に、あざとく困った顔をして封筒の中身をそっぽ向かせた。
    「ほほう、合格ねえ」
    その先でにやける女。
    「ママ!」
    和海は女、もといママにしくじったとでも言いたげな表情をした。その後ろで顔面を輝かせ、涙を流すパパ。そのまた後ろで満面の笑みを浮かべたまま、パチパチと手を叩くツユリ。
    これは受験を終え、冬休みを過ごす綿貫和海15歳と綿貫栗花落12歳の日常の一コマである。

    納豆のアレ
    二メートル×一メートルの食卓、その上に並べられた食器。白米、焼き鮭、納豆、沢庵、味噌汁、水。それらが四方にそれぞれ、よそわれてある。上座、右から父と母。下座、右から長女もとい和海、二女もといツユリ。合掌を終え、箸を伸ばしたばかりのことである。
    「なあ、知ってるか? 納豆のアレって、味噌汁に漬ければ取れるんだってさ。パパ、いつもクルクルしてたよ~。アッハッハ」
    パパが屈託なく笑い、鮭をほぐす。その横でママが納豆を混ぜ終え、アレが付いた箸を無遠慮に味噌汁でかき混ぜる。
    「お湯ならなんでもいーだろ」
    そしてパパの前で納豆を混ぜ終え、アレが付いた箸を口に突っ込み、ベロベロする和海。
    「舐めれば取れるだろ」
    パパは思った―女だよな、お前ら。と。
    骨ごと焼き鮭を噛みちぎる和海の隣でツユリが嬉しそうに味噌汁から箸を上げた。
    「すごいんだよ!」
    「ツユリー!!」
    パパはツユリの笑みで昇天したのだった。

    すきあり
    東京の大きな交差点。車も人もいない閑静な交差点に二つの人影。
    黒い経典を抱えた神父がコツコツと歩み寄る。
    「神は見ています」
    肩掛けに掛かるほど長いくせ毛を蓄え、黒ぶち眼鏡の向こう側で目をぎらつかせた。
    向かい側からやってきた美少女。女児向けアニメにでも出てきそうなドレスをフリフリ風になびかせ、ハート型の宝石が組み込まれたステッキを天にかざした。
    「私の心が私の武器!」
    二人が向き合い、身構えた。
    戦闘開始の横文字が並び、ゲーム音が鳴った。
    「合格通知後のゲームは、いつもの倍は楽しいなー」
    笑顔を零し、コントローラーを握る綿貫姉妹。
    「三倍なんだよー」
    ツユリが漏らした言葉に、和海は妹を横目で見た。
    「? なんで」
    ツユリは満面の笑みを浮かべて和海に顔を向けた。
    「お姉ちゃんも合格したからなんだよ」
    決着。そのゲーム音声と同時に画面向こうでドレスが吹き飛ぶ美少女、口を大きく開けて、「ギャー!」と叫ぶツユリ、頬を赤らめる和海。
    どうでもいいが、綿貫家のリビングの大画面モニターはゲームでしか使われたことがない。

    冬春の学徒
    ゲームを満喫する姉妹。
    「冬休みは宿題がなくていーよなー」
    満面の笑みでコントローラーをカチカチする和海。その横でツユリがアセクセとコントローラーを入力しながら、あっちへやったり、こっちへやったりしている。和海はそんな妹の隣で、怒涛の勢いでバトルコマンド、特にコンボ技を入力する。
    「しかも、冬休み開けの入学式が終われば、また春休み」
    「シャドウ・ウィスパー!」
    ゲーム画面の向こうで、神父が放った黒煙らしきものがドレスを着た美少女にヒットし、画面上のバーが半分近く減った。
    思わずツユリは前のめりになり、必死になってコントローラーのボタンを連打する。その後ろ、食卓で広げたパソコンを眺めながらパパが呟いた。
    「僕たちの頃は沢山、宿題が出たなあ。」
    「え、マジかよ」
    パパのほうを振り向く和海。するとパパの後ろからママがやってきた。
    「アンタらはまだだけど、大学生になると、大学前の掲示板で天国と地獄があってね」
    悪魔的に笑いかけるママ、パパはトラウマを思い出したかのように深くうつむいた。ママの言葉に動揺する和海、ゲーム画面を見つめ、絶望するツユリ。
    ゲーム画面隣の置時計は真上、正午を指していた。

    イー・シー・お母さん
    二メートル×一メートルの食卓、その上に並べられた食器。白米、肉じゃが、小松菜と揚げ豆腐の煮浸し、水。それらが四方にそれぞれ、よそわれてある。下座の背もたれ、ツユリはそこに長袖のシャツを脱ぎ、掛けた。
    「やっと暖かくなってきたんだよ」
    合掌を終えた和海が肉じゃがのごろっとした大振りのジャガイモを頬張った。
    「もう明日から春なのにな」
    和海は2月28日と表記されたデジタル時計に目をやった。
    パパが昨日の残り物の肉じゃがが、昨日よりもよく味が染みて旨いとママを褒めていた。
    「環境破壊・温暖化の影響で季節がずれ始めているんじゃないか?」
    ちなみに地球は大まかだが、一定の周期で暑くなったり、寒くなったりしており、それに起因するものだろう。という説もある。
    和海は興味がそそられないらしく、肉じゃがが盛られた皿を持ち上げ、汁をスナップエンドウや白滝ごと口に注ぎ、ご飯を音を立てて掻っ込んだ。
    「エコブームは所詮、ブームってことか」
    リスのように頬張りながら、和海はぼやく。その隣でツユリが言った。
    「うちは毎日エコなんだよ」
    疑問符を浮かべた和海がツユリの方を向いた。
    「昨日の残り物でママのエコなんだよ!」
    口から白滝を吹き出す和海、焦るパパ、むせるママ。
    残り物は寝かしてあるから味が染みており、大変美味で、主婦のサボりではない、と思いたい。

    頭と心
    「そ、そういえばツユリ。お前何も、あんないーとこの中学、受けなくてもよかったじゃないか。受験落ちてたらどうすんだ」
    咳き込むママの隣で、パパがアセアセとツユリに尋ねた。
    「良い中学に入って、良い高校、大学と進学、高給の職場に就職。昔から言うでしょ」ママがパパをにらむ。
    「それに受験で頭の悪い奴はふるい落とされるから、ツユリも虐められないでしょ」と悪戯げに和海が笑った。
    パパは突然立ち上がった。
    「頭の出来だけで人間を測ったらダメだぞ!」「頭が悪くても心は良い奴だっているんだ!」
    隣のママが言った。
    「アンタとかね」
    頬を赤らめて押し黙るパパ、微笑むツユリとにやける和海、淡々と飯を食うママ。
    お人好し、とはよく言ったものである。

    セーラー番長
    「それにしても、ツユリんとこの制服可愛いな」
    パパが食器の片付いた食卓に、ツユリが四月から通う中学校のパンフレットを広げていた。
    「そうかなー」
    いまいちピンと来ないツユリに和海が言った。
    「そうだよ。アタシんところは昔の地味なセーラー服だったじゃん。アタシもこういう可愛い制服が着たかったなー」
    その時、パパが顎に手をやった。
    「いや、むしろ昔の、旧式セーラー服を制服として着れるのは、昨今の女学生としては一種のステータスだと思うぞ。80年代に服装の乱れは生活の乱れとして、当時、旧式セーラー服は所謂スケバンが改造して着用していたわけだが、彼女らが敬遠するような可愛い制服に変えた学校が出るとやはり、不良女子の入学希望が減り、真面目な女生徒の入学希望が増えるという、ウィンウィンの現象が起きて、旧式セーラー服の学校はまだまだ主流ではあるものの減少し、旧式セーラー服はマニア間ではセーラー服コスプレの筆頭とも呼び得る認識へポジショニングしたわけだ。だから、オタ文化が完全に大衆化した昨今の日本においてはこの、コスプレのまさしく、番格とも呼ぶべき旧式セーラー服を着れるのは、今を生きるオタ女生徒間ではステータスであり―」
    「パパってなんでも知ってるんだよ! すごいんだよ!」
    ツユリの笑顔でパパはハッとする。ツユリの後ろからママと和海の冷えた視線がパパをダイレクトアタックした。

    清楚なクシャミ
    「いや、それにしても新しい学校でツユリに友達ができるか心配だな、パパ」
    「アタシはお前が心配だよ」
    咳き込むパパ。和海が言った。
    「一応お嬢様学校みたいなとこだし、できるんじゃない? 上品で清楚な友達とか」
    「楽しみなんだよー!」
    そのころ、綿貫家がある小鳥遊ガーデンとは一駅離れた学生マンションの一室、暗い部屋を三台のモニターが照らし、空のカップラーメンやピザの空き箱、橙色の空き箱の山の中で金髪くせっ毛の児女がクシャミをした。
    「江口ッッ」
    クシャミをした。
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    Mar 5, 2019 10:13:25 AM

    第一話「コッペパンは偉大。」

    #オリジナル #ほのぼの #日常 #空気系 #綿貫家の日常一コマ #コメディ #ライトノベル #現代ドラマ

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