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    第三話「鮭フレーク。」プロローグ
     白いレースカーテンから朝焼けが射す。ピンクと白のベッドの隣にある小さな台。その上に置かれたデジタル時計が気温七度六分と表示していた。
     七時ちょうどになったデジタル時計はピピピピ、ピピピピ……とアラームを鳴らす。
     ツユリ――綿貫栗花落つゆりは、バッと上半身を起こして、長い栗毛を揺らした。

    三月の宣言
     寝間着姿のツユリがリビングの扉をバンッと、勢いよく開けた。
    「ツユリは中学校へ行くんだよ!!」
     ママは気にせず、台所で洗米している。
    「いってらっしゃい」
     私服に着替えたツユリが、今度はパパの仕事部屋の扉をバンッと、勢いよく開けた。
    「ツユリは中学校へ行くんだよ!!」
     ビクッと驚いたパパは、パソコンデスクから振り向き、朗らかに微笑んだ。
    「頑張ってな~」
     空の紙袋を提げたツユリが、今度は和海の部屋の扉をバンッと、勢いよく開けた。
    「ツユリは中学校へ行くんだよ!!」
     和海はベッドの上に横たわり、スマホでゲームをしている。
    「もうそんな時間か」
     和海はツユリを化粧台に座らせ、ツインテールを結う。
     二人で玄関へ向かう途中、和海が人差し指を天井に向けた。
    「勢いよく開けたら、ドアが傷むので、良い子は普通に開けよう」
    「ご、ごめんなさいなんだよ……」

    ロード・トゥー・チュウガッコウ
     家を出たツユリと和海の二人は小鳥遊ガーデンを出ると、徒歩で住宅街の離れにある梶停留所へ向かい、桜木駅までバスに乗車し、桜木駅からみかづき駅まで電車に乗ると、朏駅の停留所から中学校までまたバスに乗車した。
    「次からはお前一人で来るんだぞ」
     と言いつつ、和海は思った。
     こいつ一人で来れるかな……。
    「できないんだよ!!! でも……」
     ツユリは汗を少し垂らし、四月から通う中学校の校舎をジッと見つめた。
     ……。
    「が、がんばるんだよ」
     がんばって。

    お嬢様の学校
     普通の学校で言うグラウンドほどの広間の真ん中の道両脇に植わるまだ、つぼみの桜並木。
     その奥に建つ一校舎が普通の校舎二つ分ほどの横幅はある、綺麗な白いコンクリート壁の六階建て校舎と、趣きのある木造校舎。グラウンドは更にその二倍の敷地はある。
     あまりの広さにそわそわする和海とツユリ。
    「学校見学のときもみたけど、ツユリの学校はほんとうにでかいな」
    「全部は見て回れなかったんだよ」
     二人は玄関に着くと、スリッパに履き替えた。高級感漂う、シルクコットンのスリッパに。
     玄関を上がって正面に設けられた受付。そこの長机に載った名簿に和海がツユリの名前を記入する。達筆な名簿欄の最下に居たたまれないへったくそな字の『綿貫栗花落』。
    「お前、入学してから迷子になったりしてな」
     和海がケラケラと笑う。
     ツユリはムキになり、頬を膨らませて、腕とツインテールをブンブン振る。
    「ツユリは賢いから迷わないんだよ!」
    「そうかそうか」
     和海とツユリは受付を出発し、三月のはじめに届いた封筒の中に、合格通知書と一緒に入っていた施設案内の紙を頼りに、入り組んだ、広大な校舎内を進む。そのたびに、段々と、ツユリのツインテールはしょぼくれ、先ほどまでブンブン振っていた腕を、だらりと下ろす。
     ツユリは足を止め、不安げに和海の顔を覗いた。
    「……たぶん」
    「オイ」
     汗を垂らして和海は思った。
     大丈夫かコイツ。

    採寸部屋の不良児女
     S・M・Lサイズの制服が並ぶ卓上。掃除のゆき届いた家庭科室。
     『新野前にのまえ』と書かれた名札を首から提げた先生が家庭科室にやってきたツユリと和海に微笑む。
    「こちらの用紙にご希望のサイズと氏名をお願いしまーす」
     二人から少し離れたところで制服を試着する金髪くせっ毛の児女。
     その児女に聞こえないように、ツユリが小声で話しかけた。
    「おねーちゃん!! 金髪の子がいるんだよ! 怖いんだよ! きっと不良なんだよ!」
    「友達になったりしてな」
    「こ、怖いんだよ! 絶対無理だよ!」
     一方、その金髪の児女は試着した制服を脱ぐと、適当にほおりながら思った。
     早よ家帰って、ツユリんとネトゲーの続きしたいなー。
     二人はもうすでに友達、いや、正確には、ネッ友だったわけだが、それはどうでもいいことなのだ。

    わっちゃねいむ
     クルクルとした髪の女の先生が受付をしている。
    「靴のサイズはこちらでどうぞー」
     家庭科室の入り口から奥側の長机には、いろんなサイズの靴が並んでいた。
     金髪の児女は自分の靴を一度脱いでサイズを確認すると、そのサイズを名簿に記入する。児女の視界に入った名簿欄一つ上に『新野前ハジメ』の六文字。
     黒髪ストレートの児女が横で靴を選んでいる。
    「な、なあ、君もしかして、ハジメ?」
     ん? どっかで会ったっけ?
     ハジメと呼ばれた児女は訝し気に金髪の児女を見つめた。
    「そうだけど?」
    「ぷぷっ、男みたいな名前やな」
     なんだこいつ。
    「なあ、君女装しとるん? 女装なん?」
     無視無視。
     ハジメは突然話しかけてきた金髪の児女の、人をおちょくったような、というかおちょくっているのだが、その双眸から視線を外し、スタスタと、その場から去ろうとして、受付の前を通った。刹那、なんとなくハジメは視界の隅にある名簿の『新野前ハジメ』の下を目で追った。
     『社杜樺音』の四文字。
    「……」
     ハジメは、微妙な顔をして、名簿欄を見下したまま、足を止める。
     樺音がハジメの肩にもたれた。
    「いやはや、ウチのことは気兼ねなく、樺音かのんさま(はあと)、て呼んでくれて、ええんやで?」
    「上の、なんて読むんだこれ……。あと肩にもたれるな」

    ジャストミート
     樺音は名簿の『新野前』に既視感を感じた。
    「そういや、新野前て、どっかで見たよーな気ぃするなあ……」
     二人の後ろでツユリが、そ~っと、気づかれないように靴のサイズを見る。
    「あぁ、それなら、あっちの――」
     ハジメは後ろの、教室入り口付近で受付をしている新野前先生の方へ唐突に指をさす。その指がぴったりと、後ろをコソコソ歩くツユリのおでこにジャストミートした。
    「ギャー!!!」
     驚いたツユリは、立ったままの姿勢で仰向きに床へ倒れる。
    「だ、大丈夫かツユリーッ!!!」
     駆け付けた和海。樺音がにんまりと笑って、ハジメを冷やかす。
    「あーあ、わーるいんだ、わるいんだー、せーん゛――」
    ハジメが樺音の顔面を抑えた。
    「あ、あの、すみません。ツユリ……さん?」
     謝るハジメの横で樺音が、プハッと自分の顔に覆いかぶさるハジメの手のひらをどかした。
    「ハジメくん・・、今のは酷いわ~」
     あ、またこいつ……!
     ツユリはハジメを凝視した。
    「お、オカマ……」
     そしてその横で和海が目を輝かせる。
     レベルたけー!
    「女!!」
     ハジメは咳払いを一つすると、床に倒れているツユリに手を差し出した。
    「だ、大丈夫か?」
     ツユリは満面の笑みを浮かべて、ハジメの手を取り、立ち上がった。
    「なんともないんだよ!」
     ツユリは元気いっぱいに、両手を掲げた。口を大きく開けて、ニコッとする。
     こいつは天使か?
    「せやな、悪魔はん」
     ハジメは自分の横でヘラヘラ笑う樺音をにらんだ。
    「心を読むな。あと、私を悪魔と形容するな」
     樺音はハジメをスルーして、ツユリに手を差し出した。
    「ま、髪染めとるもん同士、仲よーしよ」
     ウチはハーフやから地毛やけど。
     キョトンとしたツユリは樺音と握手を交わす。
    「……」
     ツユリはハッと目を見開いた。
    「ツユリは染めてないんだよ!」
     ツユリの頭の両サイドに結われた天然の栗毛ツインテールがピョンと跳ねた。
    「地毛か、あっかるいなあ」

    教科書配り
     広い第二体育館に並ぶ簡易な作りの長机。その上に並ぶ高級そうな人工皮革の銭入れと、教師たち。その後ろに山積みにされた教科書。そして、長机に行儀よく並ぶ新入生。
     ツユリが名前を書き、合格通知書と一緒に入っていた、一年目に必要な教科書が載った一覧表を教師に渡し、それらをまとめてもらった教科書を貰う。和海は後ろで荷物持ちをしていた。
     ツユリは教科書の入った紙袋を両手で持つ。
    「お、重たいんだよ……」
     その後ろで、和海はツユリの鞄を提げている。
    「一年間の重みって奴だな」
     樺音とハジメが出入口でツユリたちを待っている。樺音がハジメに自分の教科書を差し出した。
    「ハジメ、これ持ってみ」
     ハジメは渡された教科書を持った。
    「?」
     樺音がにやけて、ハジメが持つ教科書を指さした。
    「留年の重み」
     ケタケタと愉快そうに笑う樺音。ハジメは樺音をにらんだ。
    「やめろ、縁起でもない」

    別れ道・ゼロメーター
     制服や靴の採寸、教科書の受け取りを終えた新入生たちがまだ、つぼみの桜並木を校門へ向かって歩いてゆく。その中を混ざって、歩く三人の児女と和海。
     校門を出ると、樺音が頭の横に手をかざした。
    「ほな、貰うもん貰たし、ウチは失礼するわ」
    「「「ばいばい」」なんだよ!」
     ハジメは心の中でぼやいた。
     ずっと失礼だったぞお前。
     手を振る三人を背に、樺音は駆け足で駅へと向かった。
     ハジメは樺音とは反対方向へ歩を進め、振り向き、「じゃ、私こっちだから」と言うと、手を振りながら遠ざかってゆく。
     和海が手を振る横で、ツユリは教科書の入った袋を地べたに置いて、両手をブンブンと大振りする。
    「さよならなんだよー!!!」
     ツユリが手を振る横で、桜の枝に、明日にでも花咲きそうなつぼみが三つ、っている。

    太っ腹
     遠くなったハジメを見送った二人。和海がツユリに笑いかけた。
    「昼食、どっかで食べてこっか」
     ツユリが目を輝かせ、ピョンピョンと跳ねる。
    「ツユリはハンバーグとかスパゲッティとか、オムライスが食べたいんだよ!」
     和海は思わず、後ずさった。
     な、なんなんだ、その遠回しなお子様ランチ主張は……。
    「じゃあ、そこの回転ずしに行くか」
     和海は中学校から目と鼻の先の距離にある、道路向こうの回転ずし店を指さした。
    「でも、お小遣い全部使っちゃったんだよ」
     てへへ、と申し訳なさそうに笑うツユリ。
     ちなみに、綿貫家のお小遣いは、年齢に二百を掛け算した金額である。
    「おま…」
     そういえば、チョコ沢山買ってたな。家まで我慢するか?
     バスを待って、朏駅まで乗って、電車を待って、梶駅まで乗って、バスを待って、バス停まで乗って、マンションまで歩いて、家までエレベーターに乗って、ママが料理作るのを待って……。
     いや、待てんぞ、これは。
    「ええい、入学祝だ!! おごってやんよ……」
     ぐぬぬ。
    「やったー!! お姉ちゃんは腹が太い・・・・んだよー!!!」
    「言い換えるな」
     と言いながら、和海は自分の腹を確かめたのだった。

    回転゛
     プラスチック皿に載ったみずみずしいマグロ寿司がレーンを流れてゆく。
     水入りの湯飲みが清潔に磨かれた長机の上に置かれている。
     和海がピッピッと、タッチパッドに入力する。
     お子様セット1つ、ナポリタン1つ。
     ルンルン笑顔のツユリが机の上に両手を置いて、その下で足を上機嫌に上げ下げする。
    「お腹ぺこぺこなんだよ!」
    「朝食ってなかったもんな」
     少し経って。
     愛想のいい女性の店員が、運んできた料理を配膳する。
     ツユリがスプーンとフォークを鷲掴み、口を大きく開けた。
    「いただきますなんだよ!」
     いただいてくれ、私の900円。
     その横で、レーンを水っぽいマグロ寿司がスゥーと流れてゆく……。
     しばらくして。
     会計を済ませる和海とツユリ。
     カンカン、カンカンと店の窓が叩かれる。
     二人が外に目を向けると、二ミリメートルほどの白い氷の粒が曇り空から降り注いで、窓にぶつかっていた。
    「おー、雹だ。珍しい」
    「外に出たくないんだよ! 当たったら、痛そうなんだよ!!」
     二人が窓を眺める、その後ろで、マグロ寿司がカピカピに乾いていた。
     カスッカスになったマグロ寿司は、自分をシャリに載せた人間どもに声もなく、批判した。
     我々寿司は、対処療法でレーンの上を流されているだけに過ぎない、インテリアなのだ――と。

    甘くない大学芋
     中学校から帰宅したツユリと和海が洗面台で手洗いとうがいを終え、リビングへやってきた。
    「「ただいま」なんだよ!」
     食卓の上でもそもそと大学芋を食べるパパ。
    「おかえり」
     ママが二枚の小皿に分けた大学芋を持って、台所からツユリと和海を迎えた。
    「おかえりなさい」
     ツユリは急いで食卓に着くと、ランランとご機嫌に大学芋を口へ放り込み、にぱっと満足そうに笑う。
    「甘いんだよ!」
     ママがしたり顔でツユリと和海を順に指さす。
    「ツユリは六年後。和海は三年後ね」
     和海は砂糖のよく染みた大学芋をジッと見つめ、口に入れ、目を閉じてゆっくり味わうと、薄く目を開けた。
    にげえ……」

    待ち人、来る
    「紅蓮斬り!」
     金髪の美少年が背中に携えた大剣を天高くかざし、一気に振り落とした。
     大剣は紅く煌めき、分厚い鱗ごと、ドラゴンの尻尾を切断する。
    「ゴアアアアアッッッ!!!」
     ドラゴンが地面につんのめった。
     更新される、空中に浮いた四角いサブモニター。
    「ツユリん、遅いじゃん! 何してたんだよもー!!」
    「今日は採寸と教科書を貰いに学校へ行ったよ」
     ん?
    「金髪と黒髪の子と友達になったんだよ」
     ん? ん?
    「学校前の回転ずしでお姉ちゃんと昼ごはん食べたよ」
     そういえば、学校前に回転ずしがあったような……。てゆーか、個人情報駄々洩れやんか、個人チャットやからええけど。
     ……あっ。
     樺音の前にあるゲーム画面。いつの間にか、うつ伏せでぶっ倒れている金髪の美少年と『狩猟失敗』の四文字。
     ま、ええか。
     樺音は、回復アイテムをねだりに、『ツユリん』が営む『いちご高原酪農場』へ、足を運ぶのであった。
    ヨモギンヌ Link Message Mute
    Mar 10, 2019 1:54:10 PM

    第三話「鮭フレーク。」

    #綿貫家の日常一コマ #日常 #日常系 #空気系 #ほのぼの #オリジナル #コメディ #現代ドラマ #ライトノベル

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