「あんたがこの世界の『スラスト』じゃなくて本当に良かったと思ってるぜ」
練兵場のシミュレータ上で適度に距離を取り、対峙しながらエアレイドは言った。
「こうやって戦ってみるのは楽しみだったが敵としてなら厄介この上ねぇ」
「それは最上の褒め言葉。さて、敵として出くわしていたらどうなっていたか」
スラストの姿が薄れて消えていく。
「示してみましょう」
「不足はねぇ」
見えない相手と戦うならどうするか。考えた末の結論は
「スカイダイブと闘りあってるときもそうだが、戦略家っていうのは何をやっても対策してくるんだろ」
ならば
「何を考えても読まれるなら、何も考えねぇのが一番マシだってな!」
出鱈目に動いて引き金を引く。
「そらよ!」
爆弾を仕込み、燻り出すように爆ぜさせる。
「全く無茶苦茶な。そんな理屈がありますか」
「ねえよ」
勘なのか、本当に何も考えていなくて偶然なのか。
振り抜いたソードが目の前を掠め、紙一重で躱したスラストは呆れた声を出した。
「しかし本当に楽しそうに戦う御仁ですな。まさかオートボットにこんな人材がいたとは」
「あんたの世界のオートボットはそこまで穏健派揃いだったのか?僕の世界じゃ別段珍しくもねぇよ」
確かにスラストのいた世界にここまで好戦的なオートボットはいなかったし、こちらの世界では血の気の多いオートボットが多いのも事実だが。
他のメンバーがこの場にいたら突っ込んでいたところだろう、エアレイドはその中でも好戦的な方だと。
「ほぅ、それは興味深い。しかし力押しで私に勝てますかな?」
「力押し以外で僕があんたに勝つ目があるなら教えてほしいね軍師殿!」
直線的な動きは読むや読まないを考えさせないほど単純だが、単純ゆえに技量も問いかけてくる。
「……ありませんな。この冷徹軍師スラスト、戦略で貴方に負けるようなものではありませんよ」
「だろ?ならば……」
再び引き金を引き、一気に距離を詰めてソードを振り抜く。
「ゴリ押しで勝利をもぎ取らせてもらうぜ!」
「しかし本当に無茶な御仁だ。しかも……」
結局の所決着がつかないままタイムアップを迎え、シミュレータの順番を次に譲ることになってしまった。
「……このような幕引きでもずいぶんと楽しそうだ」
「ああ、まあな。シミュレータとは言え久しぶりに思う存分暴れられたんでね」
なんとも楽しそうにしているエアレイドに対して軽く皮肉を込めて言ってみたが通じていないのか、分かってて流したのか。
「こうやって訓練で戦うだけなら僕だけの問題だけど敵として出てこられてりゃあんたの絡め手に味方がやられないように考えねぇといけねえからな」
シミュレータの管理をしている兵士にカードを返却しながらエアレイドはもう一度言った。
「あんたがこの世界の『スラスト』じゃなくて本当に良かったと思ってるぜ」