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    士槍短文まとめ

     朝、目が覚めた士郎は、ぼんやりと霞む視界の中にあるランサーの寝顔を不思議な気分で眺めた。
     寝起きで覚醒していない頭は、目の前の光景をただ事実そのものとして受け入れる。
     緩慢な瞬きと呼吸を幾度か繰り返し、そうして急速に士郎の頭は冴えた。
     激しい動揺によって高鳴った胸のまま、士郎は跳ねるふうに上体を起こす。
     自室の布団の中であった。その一組の布団の中で、士郎とランサーは窮屈にも寄り添って眠っていたのである。
     眼下の相手が裸であるのに気付いて狼狽した士郎は、直後に自らも裸であることを知り、ますます狼狽した。
     戸を透かして射し込む朝の光は爽やかだ。現状は、その爽やかさにはあまりにも似つかわしくないように感じられる。
     片手で口許を覆い、依然として穏やかに眠っているランサーを凝視する士郎の頭が、徐々に冷静さを取り戻していった。そこに至ってようやく、士郎は今の状況の理由を思い出すことに成功したのである。
     そう、話は、もとを辿れば現在不在のセイバーにまで遡った。
     今の衛宮邸に、彼女の姿はどこにもない。セイバーは現在、遠坂邸にいるのである。
     昨日、セイバーが泊まり込みで凜の家へと遊びに出掛けた。彼女達は、最近とても仲がいいのだ。加えて、アーチャーがケーキを焼いたという話も聞いた記憶があるので、美食家な彼女はそれにも釣られて遠坂邸を訪問したのだと思う。
     故に、その日の夜は士郎ひとりになるはずだった。
     ――だった。当然、過去形である。
     その予定を狂わせたのは、事前の連絡もなしに夕方おとずれたランサーだった。
     家にはすでに士郎の作る夕飯を期待した大河がやってきており、よって、この客人ふたりはさっそく仲よさげに話し込んだ。流れがここに至ると、士郎にはもうどうすることも出来ない。ランサーを帰らそうとすれば大河が不満げに唇を尖らせるのは目に見えており、味方ひとりをつけたランサーも士郎へ不満をぶつけるのに決まっていた。
     結果、三人でテーブルを囲むことになったわけだが、これに関しては不可抗力と言うものだろう。たとえふたりの大人が酒盛りを始めようと、士郎を巻き込んで騒ぎだそうと、士郎には状況を受け入れる以外の選択肢は存在しない。
     さんざん騒いだのちに、大河は満足して帰っていった。仮にも女性なのだから夜のひとり歩きは危険だと訴えたのだが、すっかりテンションが上がっていた彼女が士郎の言葉を真摯に受け止めるはずもなく、いつの間にか道場から持ち出していた竹刀を腰におさめると、そのまま元気よく衛宮邸の玄関を飛び出していってしまった。
     大河の強運は、尋常ではない。重ねて彼女の剣道の腕前も承知しているので大丈夫だとは思うのだが、それでも心配をしてしまうあたりが士郎の性格なのだった。
     帰宅した大河に続いてランサーも帰るのだとばかり思っていた士郎は、彼女を見送った彼が居間に戻るのを認めて目を丸くした。
     廊下を歩きながら士郎を振り返ったランサーは、悪戯っぽい笑みをうかべると「セイバーがいなくて寂しがってる坊主のために、今夜は俺が泊まっていってやるよ」と、くちにしたのである。
     寂しがってなどいないと反論すべきか、それとも宿泊に関する反駁をすべきか、士郎は迷った。そして、その迷いが生んだ僅かな間に、彼の一宿が決まってしまったというわけなのだった。
     凜といい、大河といい、何故こうも家の主である士郎の意見を尊重してはくれないのだろうか。決して、迷惑というわけではない。だからこそ反論がしづらいわけであり、強気な彼女達やランサーに押されてしまう。それもわかっているのだが、どうにも己のこの性質は簡単に変えることが出来ないらしかった。
     ランサーに流されるように順番に風呂に入り、そうしてそのまま就寝――が叶うわけもなく、士郎と彼は肌を重ねて夜を過ごしたのであった。
     そして、今に至っている。
     士郎は、朝の陽光を浴びながら眠っているランサーを、じっと見つめた。
     行為のさなか、士郎の上で淫らに腰を上下させていた彼を思い起こすと、まだ朝だというのに、身体が火照りそうになってしまう。
     繋いだ手の熱さも、呼気をまとって震える相手の嬌声も、柔壁の熱も、まだ鮮やかに士郎の記憶や感覚に残っていた。
     このままでは本当に身体が反応しかねないと判断した士郎は、頭を振って意識を現実に引き戻す。
     時計を確認すれば、いつもよりかは幾分おそい時間だった。
     ひとまず着替えて、朝食の支度をしなければならない。ここにランサーがいる時点で彼のぶんも作らなければならないのは明白なので、それも含めてメニューをどうするべきかと士郎は思案した。
     そのとき、廊下を移動してくる足音が士郎の耳に届く。士郎は固まって、その足音がする方向を見やった。
    「しっろーう、朝だぞー! お寝坊さんめー! 私、今日の夕飯はてんぷらがいいんだけど――」
     小気味のいい音をたててひらいた戸の先に――大河がいた。
     いつもは部屋まで来ることなどないくせに、今日に限って足を運ぶことはないだろう。そう思いはしたが、その言葉は士郎の唇から零れることはなかった。
     笑顔で障子を開けていた大河が、士郎とランサーを見て目を丸くする。彼女はふたりを見比べて、小首を傾げた。
    「……あれ。士郎と……ランサーさん……? なんで裸……んん……?」
     男ふたりが裸で一組の布団に収まっている。この状況を即座に誤魔化す方法があるのなら、誰か教えてほしかった。少なくとも、士郎にはうまい言い訳はまったく浮かんではこない。
     どうにかしなくてはと焦る一方で、悲しいことに頭が働く気配は微塵もなかった。
     冷や汗に背中が濡れる。心臓の鼓動が士郎の胸を内側から重く叩いていた。
     そんな士郎の隣で、ランサーが唸り声をあげつつ起床する。彼は緩慢に上体を起こすと、剥き出しの上半身をさらした。
     あくびをひとつ漏らしたランサーが、大河の存在に気が付く。そうして、状況がわからぬとでも言いたげに士郎と大河を交互に眺めた。
     同様の眼差しで、大河もランサーと士郎を代わるがわる見る。
     ふたりの視線が、士郎に集中した。無言の疑問を宿した瞳を向けられて、士郎の口許が引きつる。
     己は決して、なにか悪行をおこなったわけではない。そもそも、情交に誘ったのはランサーであり、彼は半ば強引に士郎を押し倒したのだ。が、やってしまったことは事実な上、昂りを挿入する側である士郎がその言い訳をくちにするのはためらわれた。相手も男であるのは重々承知しているが、それでも、その言い訳はひとりの男として、許されないことのような気がした。
     小鳥の鳴き声が、室内にまで響いてくる。
     朝の空気は清々しく、今日も天候に恵まれるのであろうことが窺えた。
     そんな平和の只中で、この状況はどうだろうか。士郎は不意に泣きたくなった。
     万事休す――。そんな言葉が、まるで憐れみの余韻を引くかのごとく、士郎の脳裏を駆けていったのだった。





    「悪いな、運ぶの手伝ってもらって」
    「かまわねぇよ、こんくらい」
    「たまたま通りかかってくれて助かったよ。まさか、福引きでじゃがいも一箱が当たるなんて……」
     帰宅した士郎が玄関に荷物を置きながら、ランサーを振り返って言う。かかえていた段ボールを玄関に置いた彼は、にっと歯を見せて朗らかに笑った。
    「ついてるじゃねーの。これでセイバーやタイガの姉ちゃんにうまいもんでも作ってやれ。んで、ついでに俺も呼んでくれ」
    「はいはい、わかったよ」
     時刻は夕方だった。今夜に使う予定の調味料が切れかけていることに気付いた士郎は、その他の少なくなっている調味料の買い出しも兼ねてスーパーに出かけたのである。
     福引きの券をもらったのは、そのスーパーのレジでのことだった。たしかに店の前になにやらひとだかりが出来ていたなと思いながら、券を持ってさっそく福引きの列に並び、そうして抽選機をまわしたのだった。
     ころりと色のついた玉が転がり出てきた瞬間、目の前にいた男性が派手に鉦を鳴らした。その音に驚きつつも、士郎は鉦の音で自分が何等かの賞を当ててしまった事実を知った。結果、もらったものが段ボール一箱分のじゃがいもだったというわけだ。
     最初、士郎はどうしたものかと思案した。段ボール一箱分のじゃがいもなど、とてもひとりで持ち帰れる量ではない。そもそも今日は他の誰かと一緒に来たわけではなかった上に、買い出しの目的の調味料が入った袋も片手を塞いでいた。
     そうやって士郎が頭を悩ませているときにたまたま側を通りかかったのが、ランサーだったのだ。
     サーヴァントである彼にとって、じゃがいもが入った段ボールなど大したものではない。故に士郎は彼に荷物持ちを頼み、そうしてふたりはそろって衛宮家の玄関をくぐったのだった。
    「とりあえずあがってくれ。お茶いれるよ」
    「お、いいのか?」
    「ああ。じゃがいも運んでくれた礼も、なにかしないとな」
    「坊主のメシでいいぜ」
    「それは礼とか関係なしに、たまに作ってるだろ。礼にならない」
     そろって居間に入り、茶の準備を始めながら士郎は考える。
     と、不意にランサーが背後に立ったため、士郎は不思議に感じながら振り返った。
    「なんだよ」
    「デートがいい」
    「は?」
    「礼。デートがいい」
     双眸を細め、どこか妖艶にも見える表情でランサーは言う。彼の発言の意味を把握するのに僅かな時間を要した士郎は、少し遅れて反応を返した。
    「……なっ、デートって……はぁ?」
     いかがわしい単語をくちにしているわけではないにもかかわらず、士郎は己の顔が熱くなっていくのを自覚する。
     八重歯を覗かせ、なまめかしさを無邪気な色に変えて笑ったランサーが、腰を折って士郎に顔を近付けてきた。
    「べつにいいだろ。空いてる日でいいからさ。朝まで一緒にいろなんて言わねーよ」
    「あ、あ、当たり前だ!」
    「おいおい、顔まっかだぞ。やることやってんのに、いつまでンな童貞みてーな反応すんだよ」
    「うるさいな!」






    「坊主、おまえ俺のこと好きだろ?」
     突如ランサーから投げられた確信の響きを孕んだ言葉に、士郎は固まった。
     相手を見返し、動かなくなった思考もそのままに、唇を動かす。
    「……え? ……は?」
    「なんだよ。まさか自覚なかったのか? お前わりとわかりやすいぜ。俺が坊主のほう見るとすぐに目ぇ逸らしたり――」
     言いさして、彼は士郎へと急激に顔を寄せた。いきなり至近距離に迫った緋色の瞳に、士郎は息を呑む。
    「――顔ちかづけると、そうやって真っ赤になったり」
    「なっ……い、いきなり近付かれたりしたら、驚くに決まってるだろ」
    「驚くだけで、顔が赤くなるかよ」
     ランサーの指摘に、士郎は反論することが出来ない。
     とにかく顔を離そうと、士郎は自身の首をひねって相手から顔をそむけようとした。が、それよりも早く、不意に唇に柔らかいものが触れる。
     目をしばたたき、士郎がランサーを見ると、彼は八重歯を零して無邪気に笑った。口付けられたのだと理解するのに、何拍かの時間が掛かった。
    「……なっ、いま……は……っ?」
    「なんだよ、キスくらいであわてやがって」
    「あ、あ、あわてるに決まってるだろ!」
     自分でも戸惑うほどに、士郎の体温は著しく上昇していた。ランサーは背筋を伸ばすと士郎を見下ろし、双眸を細めて余裕ありげに微笑む。
    「なぁ、付き合ってやろうか?」
    「え……?」
     士郎は訊き返す。もはや思考回路は完全に仕事を放棄し、そのせいで言われたことの意味がよくわからなかった。ランサーは「だから」と言って、続ける。
    「キスやセックスをする仲になるかって、そう訊いたんだよ」



    和香奈 Link Message Mute
    May 7, 2019 11:30:17 AM

    士槍短文まとめ

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    #士槍 #小説

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