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    もう届かないかもしれない人へ1、

    体がふわりと浮いた。それが、いまキルヒアイスが味わっている唯一の感覚だった。
    自分が死んでいることはわかっていた。
    彼の視界には、血の海に横たわる自分の姿が映っていた。ラインハルトは片膝をつき、苦痛に悲鳴をあげている。
    キルヒアイス! キルヒアイス! ラインハルトは血の海まりのなかの体を力尽きたようにゆすったが、そこから半分の応答を引きだすことはできなかった。
    蒼白そうはく虚脱きょだつしたような表情も、ラインハルトのそれまでの美貎びぼうかげらせた。
    キルヒアイスが手を伸ばすと、その手のひらは半透明で... ラインハルトの豪奢ごうしゃな黄金の髪をつらぬき... ... 触れたはずなのに だが、彼はラインハルトにとって存在感のない空気のかたまりのような存在であった。
    あ... ... そうですね... ..
    私が死だ。
    死の実感はなかった。キルヒアイスは身の軽さを感じた。腕をあげることさえむなしく、思考のかたまりであるかのようだった 自分を見おろすことさえ、虚無の幻影にすぎなかった。
    私は今ヴァルハラですか?
    キルヒアイスはそう感嘆した... ...

    「おれより先に死ぬなって約束したじゃないか? 」
    暗い部屋のなかで、冷たいガラスの棺だけが闇のなかで、ラインハルトはキルヒアイスの死体のそばに腰をおろしてつぶやいた。
    空中に浮遊するインビジブルの影がそれを聞き、彼はラインハルトの肩に手のひらがふれるように低く身を瀋めようとした。
    しかしそれはまったくできなかった。少しでも近づくと、彼の体は自動的に動いてしまう。まるで二人の間には見えない空気の壁があるかのようだった。
    現在のキルヒアイスには、ラインハルトの髪の毛にさえ手がとどかない。
    「くそったれ、キルヒアイス... ... おれは本当にくそったれだ... ... 」
    ラインハルトのような人が口にするはずがない、と、キルヒアイスは思った。
    しかし彼はそれを聞いていた。
    ラインハルトの蒼氷色アイス・ブルーの瞳に宿る、きらきらとした光さえ見えた。
    絶望的な、そしてうつろな感じが、この人が深くえぐられた空洞のように感じられた。
    「あなたはどこにいるの? キルヒアイス... ... 」
    「ここにいますよ、ラインハルトさま。 」透明な人型が金髪の青年の耳元で答えた。
    残念ながら、金髪の青年は苦しそうに自分の胸にしがみつき、苦しそうに痙攣けいれんして震えていた... ...
    彼には聞こえなかったが、耳元でそうささやかれていた... ...
    「わたしはここにいます... ... わたしはいつまでもあなたのあとを追い、ついていきます。 」

    2、
    キルヒアイスの墓石はついにオーディンの墓地に落ちた。
    キルヒアイスにしてみれば、自分の墓石がそのまま立っているのを見るのは微妙な気分であった。
    墓石にはキルヒアイス自身の名前が刻まれていた。墓碑銘は、簡潔をきわめた。ただ一言、「わが友」。それだけであった。
    キルヒアイスは声をたてて笑いたかった。そのことに満足し、歓喜したからである。
    友人という言葉には、あまりに多くの意味がこめられている。ラインハルトのような人間にとって、それは誰にでもできることではない。
    彼はラインハルトさまの心のなかで唯一無二の存在である。
    キルヒアイスは自分の心の声を聞いた。
    ラインハルトさま... ... あなたは私にとっても、唯一無二の存在です。
    しかし、声を出すことはできなかった。
    葬儀が終わると、次第に役人たちはすべて去り、ラインハルトだけが独立したように後ろ姿を殘した。
    金髪の青年の首にはペンダントが巻きついていた。
    空中に浮かぶ軽やかな視點のおかげで、墓石にもたれかかる金髪の青年が手のひらに握っているペンダントは、質素で古風なダークブロンドのチェーンと、あまり花模様の飾りのないペンダントが容易に見えた。
    キルヒアイスはそのペンダントをおぼえていた。何年も前、幼年学校に入学する前のころ、三人で実家の近くで撮った写真がプリントアウトされてからだった 彼自身、長いこと貯金していた小遣いで買ったペンダントを友人のラインハルトに贈った。
    そのときラインハルトから返ってきた答えは、こんな地味なペンダントは首にかけない、というものだった!
    だが、その後、暗然とした友人の瞳を見て、金髪の少年は、たちまち相手の髪をなでた「しかし、キルヒアイスからの贈り物である以上、大切に保存しておきましょう」。
    あれほど長い年月... 幼年学校で同衾どうきんしたことさえ、キルヒアイスは二度とこのペンダントを見たことがなかった。
    一時、キルヒアイスは、そんなものは何度かの引っ越しの合間に落としてしまったかもしれない、と思ったほどである。
    ところが... ... ラインハルトはルビーのようなヘアピンをペンダントの中に隠して、これは醜いと言って絶対に首にかけないペンダントを大事そうに首にかけていた。
    感傷的な気分になるはずなのに、キルヒアイスは半透明の指先でラインハルトの胸にかかったペンダントに触れ、軽く笑った。
    「ラインハルトさま... ... あなたは本当に... ... 優しい人ですね」

    3、

    キルヒアイスを失うことによって、ラインハルトは自分の心の痛みと虚無を埋める何かを獲得しなければならなかった。
    親友を失って掘り返されたその場所を埋めるものがもっとあるはずだという埋葬。
    だからこそ、彼はさらに狂気のように、ハードワークに沒頭した。
    金髪の青年は、かつて彼とキルヒアイスのふたりで分擔した仕事を、こつこつと自分ひとりのものにしていった。
    こうして夜遅くまでひとりで仕事をすることはよくあったが、それでも意味のある提案をしようとする者はいなかった。
    いまのラインハルトは、かつてのように冷たく見えながら手腕と迫力を持った若い元帥ではなかったからである。
    いまでは燃えさかる炭火のようになっていた。
    怒りが激しく燃えている。 すべての人がその素晴らしい輝きと激昂を感じることができる!
    しかしながら、この燃えさかる炭火に自分の手で触れようとする者はいないだろうし、このような試みを敢えてする者もいないだろう。
    「ジークフリードなら. キルヒアイスが生きていれば... ..... ... 」
    ラインハルトについていく毎日、透明な人影は多かれ少なかれ、様々な人が様々な困難に直面した時、思わずこの言葉を口にしてしまうことに気づく。
    「黄金獅子」という美名を持つ元帥について、後になってラインハルトについていった人々は、思わずそう感嘆したものである。
    キルヒアイスは情けなさを感じ、悲しさを感じた。
    ラインハルトに生々しく触れることのできる人々がうらやましかったし、ラインハルトの能力と美貎をため息まじりに眺めることのできる人々がうらやましかった。
    何度も言われ、感嘆させられたキルヒアイス自身が、ここにいるのに目を丸くしているだけだということを、彼らは知らなかった。
    キルヒアイスとしては、ラインハルトに健康に気をつけて休養するよう勧めたくなかったわけではないが、どれほど努力してもだ。 しかし、その声はもはや人の耳には届かなかった。
    これが死というものだろう。
    死は彼とこの世界とのあらゆるつながりを断ち切る堅い壁のようだった。
    ... .
    もう二度とラインハルトを訪れることはないだろう、と、キルヒアイスは悲しく思った。
    しかしこの事件は、それからほどなくして微妙な変化を迎えた。
    惑星ウルヴァシーにあるラインハルトの軍事拠點で、バーミリオン星域に配備された翌日、ラインハルトは起きあがることができず、高熱を発した。
    白く端麗な顔が、熱すぎる体温のために病的に赤く染まっている。
    アイスブルーのひとみは、ぼんやりと焦點しょうてんを失った状態になっている。
    医師たちの判断は、過労による発熱だった。 ただ、若く美しい元帥には、良好な睡眠と休息をとることをすすめた。
    ベッドに横たわったまま生気を失ったような顔を見て、キルヒアイスは悲しみとあおざめた気分を味わうことができなかった。
    自分がラインハルトさまに触れることができれば、きっと... ... こんなことにはならなかったでしょう?
    ほら、自分でも思わずそう思ってしまう。
    キルヒアイスは、ラインハルトに触れることができないことを知りながら、無意識のうちに手を伸ばして、高熱に汗ばんだ青白い頬をなでた。
    しかし、この一瞬いっしゅん
    ほんの一瞬いっしゅんのことだったのに!
    キルヒアイスの指が、柔らかく熱い部分を突いたようだった。
    巨大な驚きが内心を撃破した。彼でなければ、いまごろ部屋のなかで赤毛の提督の歓喜の叫びを聞いていたであろう?
    しかし、そのわずかな触れ合いはほんの一瞬だけで、まるで幻覚のように、透明な指は空中で弾かれ、ベッドからベッドルームの中空に浮かんでしまった。
    「うーん... ... 」
    アイスブルーの瞳は、焦點を失っているのに何かが見えるように虚ろで空中にインビジブルのようなものが浮かんでいるところに一線の視線を投げかけている。
    「あなたですか? キル... ...キルヒアイス。 」
    質問というより、自問自答のような口調だった。
    金髪の若い元帥は、たちまち昏睡こんすいにおちいった。
    「私です。 」透明な人型はつぶやくように唇を動かした。「わたしはずっとここにいます。どうか早くよくなってください、ラインハルトさま。 」

    4、
    宇宙暦799年、帝国暦490年、ラインハルトという若く美しい独裁者がエジプト新王國の支配者として即位し戴冠する。
    この日から彼はラインハルト・フォン・ローエングラム公爵ではなく皇帝カイザーラインハルト陛下となった!
    「ジークカイザー 」の声があがるなか、ラインハルトは自分のものである黄金の帝冠をとりあげた。
    その瞬間、キルヒアイスは彼の瞳に、栄光と寂寥せきりょうの入り混じった複雑な色を見た。 アンネローゼがいないからであろうか?
    キルヒアイスは、自分の死が姉弟の間に消しがたい傷と亀裂を生じさせたことを知っていたが、それを見ているしかなかった。
    まるで今、その人が優雅に王冠をかぶって世界から崇められているのを空中で見ているかのようだった。
    キルヒアイスは唇を開き、習慣的に金髪の親友の名を呼ぼうとした。
    そのとき、高い位置にある皇帝陛下が、つぶやくように唇を動かすのが見えた。
    どういうわけか、透明な人影は心臓に細い針を突き刺されたような気がした。 鮮烈せんれつな痛みとするど酸苦さんくおそってくる。
    「キルヒアイス。 」
    あの背の高い金髪の陛下はそうつぶやいた。
    はさみ込むように、それは彼の姉ではなく、彼が失った摯の友人であった。
    その人の寂しさは自分を失ったことによる。
    そう認識しているからこそ、苦痛を感じるのだろうか?
    自分はもう彼岸ひがんの人間なのに、どうして苦い涙を流すような苦しみを感じるのだろう?
    キルヒアイスはそう自問したが、答えは見出せなかった。


    5、
    陛下となってからも、ラインハルトの生活は多忙な仕事と軍事にあふれていた。
    政治と軍事のいずれにおいても、皇帝陛下としてのラインハルトの実力を容易に手放すことはできなかった。
    ラインハルトの勝利への渇望が、誰よりも切実であることを、キルヒアイスは知っていた。彼が宇宙を手に入れようとする原動力は、ひとつには自分の子供のころの夢のためであり、ひとつには自分との約束を菓たすためであった。
    「自分のせいで、ラインハルトをこれほどまでに苦しめたのか? 」
    ラインハルトがまたしても高熱を発して会議を欠席し、病床についたとき、キルヒアイスはついに心を痛めて、最初の懇願に対する懐疑と悔恨の念をいだいた。
    あのとき私がラインハルトさまに生きていていただきたいと言ったとしたら?
    いや... ..
    ラインハルトさまであれば、そのような言葉を今日の決意に変えたであろう?
    だが、皇帝陛下のこの爆発的な炭火が、いつまでも熱く燃えつづけるだろうか? 殘りの歳月の中で思う存分、世間の人のように自分の輝きと力を見せることができるだろうか?
    その異常な間歇かんけつ的な発熱と病態は、すでにラインハルトの週囲の精神状態に影響をおよぼしつつあった。
    一方では、ラインハルトのような中心を失ったら、生まれたばかりの幼児のような銀河帝國がどうなるか、恐れていた。
    「ラインハルトさま... ... 」
    キルヒアイスはラインハルトの顔を見つめた。その白い頬は、高熱のためにある種の薄紅色をおびていた。彼個人の美しさを損なうことはないにしても、痛々しさと圧迫感をおぼえさせるに充分だった。
    彼はふたたびベッドの端に腰をおろし、ラインハルトのまばゆい金髪に自分の手をふれさせてみた。
    「これ以上ヤン・ウェンリーと爭うのはやめて、落ち着いて座って話し合えば共通の解決策が見つかるのではないでしょうか?」 彼自身は声にならなかったが、キルヒアイスは愼重かつ真剣に自分の諫言かんげんを述べ、まるで彼が生きていたころのように、彼特有の青い海のような瞳で見つめた。
    そのとき、キルヒアイスは、灼熱するほど高い温度にふたたび触れたような気がした。
    そして自分の指が、透明で無色でありながら、ベッドの上で眠っている金髪の青年の肌と髪に確実に触れるのを彼は見た。
    どうしてそんなことになった!
    キルヒアイスは何度もそれを試みた。
    ラインハルトが高熱にうなされ、あるいは病的に衰弱しているときだけ、彼とラインハルトとの間にある目に見えない気の壁や障壁は、はっきりと衰弱していくように思われた。
    ほんのわずかなチャンスだったが、もう一度抱きしめたいと思っている金髪の親友に、しっかりと触れることができた。
    しかし今日、その時間は目に見えないほど数秒長くなった。
    ほんの数秒のことだったが、透の体ははじかれたように宙に浮かんでいたが、その接點の時間が見えないうちにゆっくりと長くなっていくのがはっきりと感じられた。
    ラインハルトの肉体が衰弱しつつあるからであろうか?
    そのような推測は、キルヒアイスに恐怖と恐怖を感じさせた。
    ... .
    ようやく熱が下がって目覚めると、金髪の若い皇帝は、イゼルローン要塞との和平交渉に乗り出すむねを週囲に伝えた。 それまで説得していた幕僚たちは、ヒルダをはじめとして、この突然の転換を理解しがたかった。
    「キルヒアイスが諫言かんげんしたからだ。 」
    ラインハルトは真面目に言ったが、冗談めかしてはいなかった。「こいつは亡くなったけれど、おれに助言してくれたんだ。 」
    その瞬間、キルヒアイスは愕然がくぜんとして目を見開き、波のように押し寄せてくる恐慌に背筋が冷たくなるのを感じた。
    実体のない魂を漂わせていても、寒気と恐怖を感じるとすれば、この形容詞は今の気持ちを表現するのにふさわしい。
    自分の言ったことが聞こえた... ... 本当に聞こえた... ...
    ラインハルトの肉体が衰弱しつつある、という先刻の臆測が恐ろしくなかったら、キルヒアイスは喜ぶべきであったろう というのは、彼はようやく、自分のことを考えてくれている人たちと、一時的に接触することができるようになったからである。
    しかし、いまはただ、果てしない恐怖を感じているだけだった。
    ラインハルトの健康を犠牲にしての接触であれば、自らの魂を滅ぼしてまで、このような接触を望まなかったであろう!
    ラインハルトさま..
    ぜひ健康になってください!
    どうか... ... 私の分まで、しっかり生きてください!


    6、
    しかし実際には、現実は期待に反して、誰もが見たくない方向に進んでいる。
    キルヒアイスは... ... 不吉なものを感じた。
    このような心中のパニックは、ある日、ラインハルトの週囲に孤立しているように見える自分が、彼との接触を必死に防いでいたオーラバトラーの壁が消えてしまうと、さらに広がっていった。
    バリアーが消えた。
    ふたつの世界の人間であったはずの彼が、ラインハルトの髪に直接手をふれることができたのだ。
    ちくちくするほど熱い感触は、このはかない霊体が肉体から与えられる灼熱しゃくねつの高熱を受け入れられないからだろう。
    驚くべきことです。
    キルヒアイスは口に出して恐怖を表現することができなかった。精一盃の叫びにもかかわらず、霊体である自分が声を出すことができなかったからである。
    しかし、何かが普通でなくなってしまったに違いない。
    そう考えるとますます鮮明で恐ろしい。
    ラインハルト以外の誰にも近づけないキルヒアイスは、存在しないと思われてしまうのだから。 ラインハルトだけは... ... 高熱にさいなまれて疲労困憊ひろうこんぱいしたとき、無意識のうちにひとみを開いていた... ... その眼差まなざしが自分と向けられる。
    そして、金髪の皇帝陛下は、子供のころのような明るい笑みを浮かべる。
    彼が見たの?!
    ラインハルトは衰弱のきわみに彼を見たのかもしれない! !!
    それは何を意味するのだろうか?
    そう... ... 亡くなった人だけが会える亡くなった人... ...

    「陛下! 」
    キルヒアイスがぼんやりと考えこんでいると、艦橋じゅうの人々の叫び声が耳もとで爆発するのが聞こえた。
    ラインハルトは自分の座についたとき、意識を失って倒れたように見えた。
    まるで本人がまったく意識していないかのように、その認識もないかのように!
    キルヒアイスはその肘掛けに近い場所に立っていた。ラインハルトが顔を病的に紅潮させて倒れた瞬間だった その人の着ているものによって持ち上げられた風が目の前を通り過ぎていくのを、彼は鮮明に感じることができた。
    風... ..
    風が... ... ほおでた!
    何年か、肉体を失って以來、キルヒアイスは風を感じたことがなかった。
    彼の世界には風もなく、雨もなく、稲妻も雷鳴もなく、ただ菓てしない孤独と瀋黙だけがあった。
    ラインハルトの体が倒れた瞬間、キルヒアイスはひざまずいて両手を差し出した。
    そして言いようのない重量感と、炭火に焼かれるような痛みが、彼の腕と肩がラインハルトの体に同時に触れた瞬間、肉体を持たない霊体に完全に伝わった。
    「うーん! 」
    キルヒアイスは苦悶くもんの声をあげたように思ったが、それを確認することができず、次の瞬間、 意識を失ったラインハルトが床に接触して負傷する可能性を、ありったけの力をこめて軽減した後、彼の透明な腕がラインハルトの体を貫いた そして無数の人々が集まってきて、目を閉じた蒼白な皇帝陛下を取り囲んだ。
    その後、陛下の体を心配した医師が素早く取り囲むと、転倒によるダメージはなく、ただひどい発熱で意識を失っただけだという結論に達した。
    多くの人々は、心配しながらも不思議に思っている。
    そこに立っている透明な霊体だけが寂しげな表情を浮かべている。
    ラインハルトは生命を失いかけているでしょう? そうでなければ、こんなふうに彼に触れることはできない。あきらかに現実的な認識が、キルヒアイスの胸を苦悶くもんのかたまりにした。
    こんな気持ちになったのは初めてではなかったが、今度は耐えがたいほどの激しさだった。
    「キルヒアイス... ... おれが死ぬことを恐れているのか? 」
    首筋にぶら下がったまま眠っている時だけ外すペンダントを無意識のうちに握りしめていた。言葉だか寢言だかわからない 病床の上で昏睡している金髪の帝王の声が聞こえた。「恐れることはない... キルヒアイス、おれを悲しまないでくれ。 だって... ... お前がそこにいるん... ... 」

    7、

    ここは... ..
    蒼氷色アイス・ブルーの瞳がゆっくりと開いたが、そこにあるのは純白の光景だけで、ほんのりと透き通ってまぶしい純白の色は、ほっとするような軽やかさを感じさせた。
    そうだな... ... こんなに体が軽くなったのは何年ぶりだろう。
    ラインハルトはそう思った。 ゆっくりと立ち上がった。
    コラーゲンによる高熱と疲労にさいなまれていた体は、キルヒアイスとともに幼年学校を駆けまわったときの無限のエネルギーを思いだした。
    あ... ... そうだ。
    ここはヴァルハラでしょう?
    ラインハルトは白いしなやかな指で額の髪をかきまわした。そして、なめらかな白い光を受けて、自分の指が半透明に白く透きとおっているのを見た。
    やっぱり、死んでしまったのだろうか?
    ラインハルトは週囲を見まわし、しばらくあてもなく歩いていたが、週囲の白い光はいっこうに弱まる気配を見せなかった。
    人にはそれぞれにふさわしい生と死がある。
    恐怖も、悔しさも感じなかった。ただ、どうしてあの世に自分の知っている人の姿がないのか、という戸惑いがあった。
    あの赤毛の友人は、彼を無視して自分から先に立ち去ったのだろうか?
    「なんだよ、友達を無視するなんて... ... 」
    そう言おうとしたとき、後ろから... ... 肩に手がかかった。
    彼より数センチ背の高い人性が両手で彼の肩を押さえ、背後から抱きしめた。
    微風が吹いているようだった。
    呆然ぼうぜんとしていると、耳もとで誰かが小さく笑い、背後から彼の前にまわった。「ラインハルトさま、わたくしはいつもここにおります。 」
    ルビーの溶液ようえきのように赤く美しいかみが耳元をでる。
    昔の親友は昔のまま、変わらぬ笑みを浮かべ、その瞳は海のように深く優しかった。
    「キルヒアイス... ... 」
    ラインハルトは指を伸ばし、親友の額になじんだ赤い髪をかきあげた。その指先から、微風と昔の甘い香りがただよってくる。
    「キルヒアイス、ずっとそばで見てたんでしょ? 」
    「ラインハルトさま、わたくしはいつもあなたのおそばにいます。 」
    「わかってるさ。 」ラインハルトは、彼特有の優雅な微笑をひろげた。金色の髪は、透明な質感をたたえて、ますます天使のように輝いた。「感じられるよ、キルヒアイス... お前を失ったことはない。 」
    半透明の霊体の角度から、星々の光を宿した瞳がこちらを見つめているのが、キルヒアイスにはわかった。 子供の頃のような軽やかで明るい目をしている。
    すると、キルヒアイスは答えた「はい, 私はずっとここにいます。ラインハルトさま 」

    END
    Tazuka Link Message Mute
    Dec 3, 2019 6:28:50 AM

    もう届かないかもしれない人へ

    原作の背景、キルヒアイスの死後の物語……

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