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    星に身を委ね(extra)一 、心
    春もまたたく間に過ぎ、黄金獅子軍団の旗を初夏の微風がなぎはらったとき、ラインハルトの傷は完全にえていたが、かつての初雪のような無垢むくな肌には、さすがに醜くはないものの、傷痕が殘っていた それでもまだ少しサイコがある。
    その傷を殘したのは他でもない、黄金獅子軍団の中で最もリーダーの信頼を得ている「第二の人物」だった——ジークフリード. キルヒアイス。
    いや、人間ではない、言ってみればただの獣にすぎない、おとなしそうに見えても、いつ、いちばん身近な人間にきばをむくかわからない?
    どんな生物にも自己防衛と排他の本能はある。人間も例外ではない。キルヒアイスの正体が明らかになって以來、彼を見る人々の視線には、以前よりも一分の油断もなかった。
    ラインハルトにしたがい、キルヒアイスとともに戦った軍人たちも、そう考える者が多かった。
    ロイエンタールもそのひとりであった。
    その夜、はじめて金髪の元帥から血のにおいを嗅いだ黒髪の男は、キルヒアイスがラインハルトをケモノヅメで抱きもどした姿を、ロイエンタールは忘れることができなかった。
    たくましい腕には赤い獣の毛が生えていた。爪だったはずのところが鋭い爪に取って代わられ、突き出しているはずのない爪が牙となって血に染まっていた。
    ロイエンタールは敌を恐れはしなかったが、心理的な抵抗を直観的に感じたのは、これがはじめてであった。 それは恐れているというより、心の底から仲間になりたくないという気持ちだった。 その日、キルヒアイスが去った後、彼らの隊列に姿を見せることはないだろう、と、ほとんどの者が思っていたが、まさかラインハルトが彼を呼びもどしたとは、誰が想像しえたであろう!
    どうしてこんなことになったのか、彼らのリーダーは狂っているのだろうか? !
    この日、ついにロイエンタールは疑惑に耐えかねて、ラインハルトの陣営に乗りこみ、忠誠を誓った金髪の者に質した。「閣下、そのような獣をおそばにおいておくつもりですか 」
    地図に見入っていた金髪の青年が顔をあげた。部下の言葉が理解できなかったらしく、眉をひそめた「なにをいってるんだ? 」
    ロイエンタールは彼の表情を観察し、やや視線をこらした。「キルヒアイスが閣下にとって非常に重要なパートナーであることはわかりますが、あなたご自身の身の安全について考えたことはありますか? それとも、連隊内の人間の立場を考えたことはありませんか? 」
    「キルヒアイスはおれを傷つけるつもりはなかった。」 ロイエンタールの質問を理解したラインハルトは、怒るでもなく、靜かに反論した。「彼にとっても、これは意外なことだった。」
    「では、閣下! 」ロイエンタールは微笑した「つぎの事故がないと、だれが保証できますか? 」
    「ロイエンタール! 」ラインハルトはいくらか声を高めた。「卿の言うことはいささか度を越している。 」
    「閣下。 」 ロイエンタールが一歩近づくと、彼はラインハルトに似ていたが、異色の双眸そうぼうから屈慴した光が、いささかの圧迫感をもたらした「あいつが何者であろうと、おれはかまわない 閣下が彼とどういう関係にあるのかも気にならなかった。 気になるのは、それが次に起こるかどうかということであり、自分が従っていた上官が、ある日突然、味方の手にかかって死んでしまうことは避けたかった。 ああ、そうなったら... ... 興ざめだ。 」
    「 ... ... 」
    ラインハルトが答えるより早く、長身の影が走りよってきた。
    陽光とも血ともつかぬ赤色がラインハルトの眼前をかすめた瞬間、ロイエンタールはラインハルトに歩みよろうとした足をとめられた。
    「ロイエンタール、何をしようとしているのだ」キルヒアイスは、ラインハルトの前に立ちはだかった。
    「どうということはありません。 」 ロイエンタールはキルヒアイスの目を直視した。「自分がついていく上官についていく価値があるかどうか、確認したいだけです。 」
    キルヒアイスはラインハルトに背をむけていたので、金髪の青年には見えなかったが、いまのキルヒアイスは獣の目であった。
    ロイエンタールには、それが兇暴さをそなえた目であることがはっきりとわかった。
    火薬パックに近い草の上に、まきが一本放り出されたような、微妙な雰囲気になった。 もう少し風が吹けば、爆発につながるかもしれない。
    「キルヒアイス、やめろ! 」ラインハルトはキルヒアイスを逆手にとった。金髪の青年の冷徹な声は、星々の炎を消す氷の塊だった。
    キルヒアイスは一歩さがって、ラインハルトの傍に並んだ。
    「ロイエンタール、卿の言葉はおぼえている。 だが言っておくが、キルヒアイスをおれの傍に置くのは、おれの選択だ。 彼の一挙手一投足はまるでおれ自身であるかのようだ。 」ラインハルトはちょっと言葉を切ったが、さらに強い声で言った。「彼を信じる。自分の判断を信じる 」
    「おっしゃる意味はわかりました、閣下。 」ロイエンタールは瞳に冷淡な光をたたえ、その視線を反対側の赤毛の男に切りつけた。「卿はどうなのだ、キルヒアイス將軍。 あなたのお気持ちは何ですか、あなたが忠誠を誓うのは軍紀ですか、それともラインハルト閣下ですか 」
    「わたしの忠誠心は... ラインハルトさまだけにしかあたえられませんでした。 」キルヒアイスは彼の目を見つめ、一語一語に力をこめて言った。「わたしは生涯、ラインハルトさまを傷つけるようなことはしないことを、生命にかけて誓います。 」
    ロイエンタールが笑うと、黒と青の瞳から冷たい光が消えた。
    半ば強製的に抑圧されているように、キルヒアイスには感じられたが、彼は返答を聞いた。「今日の誓いを思い出していただきたい、キルヒアイス將軍 」
    ダークブラウンの髪の將軍が天幕から出てきた。
    「キルヒアイス。 どうして勝手に命をかけて誓えるんだ? ラインハルトは慣れた手つきで、キルヒアイスの前髪の細い赤毛をかきあげた。彼はその快い髪を指にまわした。「そんな無意味な誓いはいらない。 」
    「わたくしの申しあげたことは、すべて真実ですから、ラインハルトさま。 」
    ラインハルトの指先から伝わる感触が心地よく、キルヒアイスはそれを楽しんで笑った。
    さらに、ロイエンタールが立ち去った直後に、陣幕の外にぼやけた人影が散ったことにも気づき、キルヒアイスはやや安堵したが、このとき、ロイエンタールが善意であることを悟った。 ロイエンタールは、彼自身が故意に引き起こした矛盾によって、黄金獅子軍団の他者に、最高司祭アドミニストレータと彼の親友との切っても切れないきずなを見せつけたのである。
    この強固な関係は、脅威ではなく、軍隊を安定させるための一部である。
    それでも、隔たりが完全に消えたわけではないことを、キルヒアイスは知っていた。 彼に対する人間の見つめ方も、これで終わりではない。 しかし、彼は何も恐れなかった。彼の週りには... 守りたいものがあったからだ。


    二 、峰

    山々の壊れた石の間に生えているスギの茂った葉の隙間から太陽の光が透明な直線状に落ちている。
    光と影のまだらの間にはあおい山があり、あおい湖があり、ときどき石の隙間すきまから、リュックを背負った赤毛の若者と金髪の若者のブーツのふちを、細かい渓流がにじみ出てくる。
    清潔だったはずのブーツのふちに、わずかに殘った葉やどろあとがついている。
    「カシャッ」
    枯れ木の慴れた枝を踏む音が、靜まりかえった森の中にくっきりと響き、金髪の若者の身体がわずかに傾いた。
    「気をつけろ! 」
    ラインハルトが不用意によろめいたことに気づくより早く、傍を歩いていた赤毛の若者が手を伸ばして彼の腕をつかみ、身体を寄せてきた。
    細かい破片がラインハルトの足もとからころがり落ち、底知れぬ崕の下へ落ちていった。
    「危なかった。 」ラインハルトはひそかにため息をついた。
    「ラインハルトさま、大丈夫ですか? 」赤毛の若者はあわてて追及した。
    「もちろん大丈夫よ。 引っ張ってくれたじゃないか? 」ラインハルトは陽光のようにきらめく金髪を揺らし、唇をゆがめて笑った。
    「はいはい」 キルヒアイスはようやく安心し、反射的に手を放そうとしたが、指の力がゆるんだ瞬間、彼の手はふたたびラインハルトの手首をつかんだ「急な坂道ですな、ラインハルトさま これからの道は私がおぶってあげよう。 」
    「いいえ」。 自分の力で頂上に立つと約束したのに。 おおかみに化けて背負ってもらったら意味がないじゃないか。 額に汗を浮かべて、ラインハルトは額にへばりついた髪の毛を指でかきまわした「これから登る道は、さっきほど険しくはないだろう。 安心しろ。 」
    そうは言ったものの、キルヒアイスが見まわしたところ、彼らの前方には、あいかわらず奇恠な巖山がそびえ、急峻きゅうしゅんな直立不動のエスカープメントがそびえており、まったくのんびりとしていられる状況ではなかった。
    ラインハルトとふたりきりで登山すると約束したのは、ひと月ほど前、フェザーンという城を攻略したときのことである。
    しかし、ひとつの城を攻め落とすことは容易であり、この城内の状況を安定させるには、長い道のりが必要であった。 昨日まで、フェザーンの状況はようやく安定し、キルヒアイスとラインハルトはわずかな余裕を殘して、郊外の山地へと出発した。
    秋も深まり、夜空の北からきらめく星座がのぼってくるころ、ラインハルトは星々を観察しようとした。馬上の殺伐たる戦いのほかに、もうひとつの趣味であった。
    いつからかはわからないが、もしかしたら... キルヒアイスがラインハルトを知ったときからそうだったのかもしれない。
    その日二人の少年はオーディンの森の境目に横たわっていた。
    彼らは何も持っていなかった。ただ純粋に草の上に横たわっていた。星の光が彼らのまわりに降りそそぎ、幾重にも重なったヴェールのように彼らを包んでいた。 神狼の子供だったキルヒアイスは、かたわらの少年が空に向かって手を伸ばすのを見た。指先が不可視のヴェールに触れようとするかのようにかすかに動いた。「星がきれいだな... 」
    その瞬間、キルヒアイスは自分の耳に、かすかな音楽がひびきわたるのを確信した。心臓が鼓動し、視線が横にそれた。そう... いまラインハルトと至近距離で向かいあっている位置だ。
    氷に閉ざされた湖のように蒼氷色アイス・ブルーの光をたたえた目が彼を見つめていた。 それはキルヒアイスの人生における星々の光であり、永遠に変わることはなかった。
    「本当にいらないの?」 キルヒアイスは笑った。「ラインハルトさまは神狼のスピードを感じたくないのですか? ブリュンヒルトよりずっと速かったよ。 」
    「そう比較するのもずるいでしょう? なにしろ卿の原型もブリュンヒルトよりはるかに大きいのだからな、キルヒアイス。 」ラインハルトは笑ってキルヒアイスの肩をたたいた。「おまえの力はわかっている。だが、今迴はまあいい? 」
    「もちろん違います。」 キルヒアイスは微笑した。「それなら一気に頂上まで登れば、どちらよりも早く到着できるかもしれない。 」
    「ふん、おまえに負けるもんか。 キルヒアイス、今度こそおれの勝ちだ! 」
    「必ずしもそうとは限りませんよ。 わたしが狼になってしまったら... ... 」
    おおかみになっちゃいけない! 」 ラインハルトは、キルヒアイスが冗談を言っているとは気づかず、赤毛の若者の胸をたたいて唇をすぼめた。「そうだとしたら、勝っても負けても意味がない! 」
    「よし。 」 キルヒアイスは、たったいまラインハルトが撮影した位置に手をあてて、満麪に笑みをたたえた。「ラインハルトさまのご意向にしたがって、先へ進みましょう! 」
    こうして、元気いっぱいの二人の若者は、身づくろいをして、ふたたび山頂へと向かったのだった... ...
    キルヒアイスは、自分とラインハルトが、頂上の最高峰に生える青々とした鬆に、自分の手で触れることができるにちがいないと思った。 それはラインハルトについた最初の日から、彼が確認していた事実であった。

    三 、雪

    また冬だった。 雪はすでに厚く積もっていた。 重苦しい夜のやみが週囲の景色をみ込み、漆黒しっこくの背景だけがぼんやりと反射する白い雪原を浮かび上がらせている。
    こんな夜でも、篝火かがりびかれていても、テントの週囲ににじむ底知れぬ寒さが感じられる。
    「寒いなあ。 」雪を踏みしめながら天幕を出たラインハルトは、寒風が襟もとにしみこんでくるのを感じながらつぶやいた。 金髪の青年の呼吸から熱気が流れ出し、一瞬にして擬人化は冷たい白い霧となった。
    「この寒いのに、ラインハルトさまは天幕の外で何をごらんになっているのですか? 」
    「星を見ろよ。」 ラインハルトは背後に人の気配を感じると、安心したようにのけぞり、彼の胸に肩を押しつけた。「キルヒアイス、見てくれ、冬の星がやけに明るいようだぞ! 」
    「星々も寒さで凍りついてしまったのかもしれません。 」ラインハルトの視線を追って、キルヒアイスは漆黒の闇を見やった。 満天の星々は驚くほど明るく、星空の下の深い山も靜かで、世界全体が眠ってしまったかのようで、すべて靜かな風景の中に落ちてしまいました 一千万光年の彼方から投射されてくるそれらの輝きに、美しい絵巻物を与えてやる。
    「ああ、あそこならつながるらしい。 」ラインハルトは指を宙にすべらせた。「それでスプーンになったんだな? 」
    「経験豊冨な旅人から聞いた話では、この北の星はさすらいの人々に道を教えてくれるそうです。 」
    「す... 」。冷たい風が雪をまじえ、ラインハルトは反射的に首をすくめた。出ようとした言葉がつまった。
    「雪は止んだけど風はまだ冷たい。 風邪をひかないように気をつけなさい。 」
    ラインハルトはマントをひるがえし、唇を結んだ。「まあ、暖かいものを着たつもりだったが... ... まあ、帰ろう。キルヒアイス、病気になったらまたお前に説教されるぞ 」
    ラインハルトの性格からすれば、天候など気にするはずもなかったが、この前、寒風にさらされたとき、キルヒアイスにベッドに押しつけられ、布団にくるまって苦い薬を飲まされた記憶が脳裏に殘っている。
    強大な金髪の首領は、敌を恐れることなく、その苦い薬に眉をひそめた。
    「ちょっと寄ってきてくれないか。 「キルヒアイスは説教するつもりは毛頭ない。 サファイアのような瞳にやさしさの色だけがあって、ラインハルトは自分のマントをほどくのを見た。つづいて鎧、つづいてコート...
    ラインハルトは目を丸くした。「キルヒアイス、何をする... ... 」
    言い終わらないうちに、目の前の光景が変わった。
    ラインハルトの前にあらわれたのは、ハンサムな赤毛の若者ではなく、成人した、人間よりずっと背の高い赤い巨大な狼だった。
    「え? お前は... 」。ラインハルトは絶句し、ややあってようやく声をとりもどした。「キルヒアイス、あなたはずいぶん大きくなったものだな」 ? 」
    巨大な狼はうつむき、毛むくじゃらの頭をラインハルトの腕にこすりつけた。 その背中は美しい赤で、ラインハルトの前で炎のように燃えあがり、腹部は純白で、やわらかな綿のように、ひと目見ただけで暖かさと温かさを感じさせた。
    やわらかな毛皮が近づき、あたたかい感触が身体に伝わってくると、ラインハルトはくすぐったそうに笑いながら巨大な狼の頭に手をまわした。「気持ちいい! 」
    「ラインハルトさまは、もう少し寄ってきてください。」 赤い巨狼が口を開いた。その声はあいかわらずやさしく、やさしかった。腹這いになり、身体を輪にして腹の位置をとり、尻尾をひらひらさせてラインハルトに合図した。
    すると、金髪の青年は思わず身を乗り出した。
    「あたたかい... 」。ラインハルトが感嘆の声をあげると、赤い巨狼は尻尾をまるめて彼の上に乗せた。
    「これで寒くないでしょう?」巨大な狼のふわふわしたしなやかな尻尾が、ふわふわした綿のように城を包囲し、金髪の青年をしっかりと包み込んでいる。
    ラインハルトは安堵して巨大な狼の後輩に身を寄せ、毛皮の海に身を瀋めた「寒くない。あたたかいぞ、キルヒアイス。 」
    そうすれば寒風も雪の夜も苦にならなくなり、いつまでも星月夜の下にいても大丈夫だ。 しかし実際には、星明かりの降りしきる雪原の中で、冷たい風は暖かいものに変わり、甘い夢の精霊を生み出した。 こうしてラインハルトはゆっくりと、靜かな眠りに落ちていった。 その均一な呼吸音に、赤い巨大な狼も一緒に目を閉じただけではない。
    それでみんな眠ってしまいました。
    金髪の青年と赤い巨大狼きょだいおおかみは、こうして靜かに寄り添い、あたたかい夢の中で星の光と再会した... ...


    END
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    2019/12/10 21:36:28

    星に身を委ね(extra)

    12月1日赤金オンリーで発表された赤金小説「星に身を委ね」の外伝ストーリー!

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