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    類は親族だって呼ぶ

     海の定番の口上と言えば、青い空、白い雲。

     漫画やアニメでよくある風景ですよね。



     けれど現実はそう甘くなく。


    「…灰色の空…」
    「薄暗い雲だな」
    「これ今日やばいんじゃないの?」


     そんな都合良く素敵な風景を拝めることはなかった。


     旅行3日目、本日は予定通り海に行きましょうかと水着に着替え、ホテルの目の前にある愛原家所有のプライベートビーチへ来ました。朝からほんの少し曇りだなぁとは思ってました。それが今ではどんより空。

    「まだ雨雲という感じではなさそうなんですけどね」
    「時間の問題だろうな。夕方からだったか?」
    「うん、大荒れだってさ」
    「まぁ最悪の場合この辺一帯だけ結界を張れば雨はしのげますが」

     言いつつ、隣で空を眺めている親友に目を向ける。青い瞳からは特に残念そうという感じもないけれど。
     せっかく来た旅行ならもう少し素敵な風景を拝ませてあげたかった。

    「天気予報きちんとチェックしておけば良かったですわ」
    「チェックしようが何しようが突然雨が降ることなんてあるだろう」
    「それもそうですけど」

     早めにわかっていれば予定ももうちょっと組めたのに。そう後悔しても遅いのなんて知っているけれど。

    「とりあえずどうする? 部屋戻っちゃう?」
    「ギリギリまで…いる…?」

     兄と親友が私を見る。その流れで、最終決定を求めるようにリアスを見ました。

    「…何故俺を見る」
    「あなたの判断が基本正しいので。恋愛以外においては」
    「一言余計だ」

     ド正論でしょうが。で? と促すように首を傾げれば、めんどくさそうに顔をしかめて。

    「このまま雨が降るとして。明日はどのみち来れはしないだろう。天気の荒れ具合によっては明後日もわからん。雨が降り始めたら戻ればいいんじゃないか」
    「さすが天才チートなリアス様、最高のお答えありがとうございます」

     というわけで、と2人に向き直り。

    「風景としてはあんまりかもしれませんがギリギリまで遊びましょうか」

     2人がうなずいたのを見て、ほほえんだ。


     それが、一時間前の話。







    「で、レグナは向こうに行かないんです?」
    「いやぁあそこに混ざるのはなんか申し訳なくない?」

     どんよりした雲の下、私とレグナは双子そろって浜辺に敷いたシートの上にいます。その視線の先には、

     2人で海に入る、カップル。


     とりあえずせっかくなので海に入るとクリスティアがリアスの手を引き海へ。規制線が緩和されていると言っても波打ち際から10メートルあるかないかのところまで。囲われた小さな範囲の中で、久しぶりの海を堪能する2人を見るのは悪い気はしない。むしろとてもほほえましい。

    「カリナこそ混ざってこないの?」
    「せっかく2人で楽しんでいるのに混ざるのは申し訳ないですわ」

     海と言えば恋人の定番。いくら恋人らしいことはできなくとも彼らはれっきとした恋人なわけで。それならば始めくらいは2人きりでいちゃいちゃして欲しい。そしてあわよくばかわいらしい展開という供給が欲しい。

    「カリナは俺とリアスで行動させたいのかあのカップルでいちゃいちゃさせたいのかどっちなのさ…」
    「もちろん最終的にはリアスとクリスでいっちゃいちゃしてほしいですわ」

     公式カップルだもの。

    「ならなんで俺とリアスを一緒にしようとするんだろうね?」
    「かわいらしい乙女心と思ってください」
    「そんな乙女心はいらねぇわ」

     目覚めたものは仕方ないでしょうに。

    「でもレグナは私とクリスを無理矢理一緒にさせようっていうのはしませんよね」
    「え?」
    「え?」

     ふとぽろっと出た言葉で、レグナがこちらを向いた気がした。思わずこちらもレグナを向く。私何か変なこと言ったかしら。

    「何か変なことでも?」
    「変な事っていうか、うん、なんで一緒にさせようっていう発想が出てきたの?」

     え? だって。

    「そういうものお好きでしょう?」
    「カリナさん?」
    「こう、女の子同士の」
    「何言ってるかわかんないな」
    「お望みなら色んな名称をお出ししましょうか」
    「待ってごめん待って」

     なんかこのやりとり5月でもあった気がする。クリスと。そのときは私がレグナ側だった。

    「え、なんで?」
    「なんでとは?」
    「なんで知ってんの!?」

     むしろ私が知らないとでも? 心底信じられないと言った表情の兄に私も信じられない。

    「そりゃ兄妹ですもの」
    「兄妹でもほら、知らないことだってあるじゃん」
    「あなたの本棚かわいらしい女の子同士の恋愛ばっかじゃないですか」
    「そこ俺が隠してる本棚の話じゃね??」
    「部屋の一つの本棚裏に隠し通路があった先の本棚ですわね」
    「思いっきり秘密部屋」

     だってたまたまドアが開いちゃったんだもの。

    「自分の趣味を妹に知られてる兄は複雑だよ」
    「仮に同じ立場でも複雑ですわ」
    「じゃあなんでやるかな…」
    「その秘密部屋を知ったのは本当に偶然だったんですよ。複雑だろうからと黙っておきましたわ」
    「むしろ墓まで持ってって欲しかった」
    「そんなに嫌でした? 知られるの」

     聞いたら、んーと悩んで。

    「別に嫌ではないけども、ただただ複雑」

     いやまぁ私も腐女子と知られたら複雑ですけども。

    「私に隠し事は基本通用しないと思った方がよいのでは?」
    「うん、それはもうだいぶ諦めてるんだけどね?」

     再びカップルに目を戻して、会話は続く。

    「別に隠さなくても良いと思いますけどね、兄妹ですし。軽蔑されるとか思いました?」
    「いや? カリナが俺を軽蔑はしないだろうし、そうじゃなくて。女の子は逆じゃん」

     ”女の子は逆じゃん?”

    「ん?」
    「だって女の子はあれでしょ?」
    「レグナ」
    「男同士の方が」
    「待って」

     兄から思わぬ言葉が出てきて思わず止める。すごいデジャヴ。

    「なんか俺変なこと言った?」
    「いえ変なことと言うか…、え? 知ってるんですかそういうの」
    「そりゃあんだけゲームとかやってりゃ知識くらい入ってくるでしょ。それに昔からあったしそういう愛だって」

     知らないのはクリスティアくらいなんじゃないの? と兄は笑った。残念ながらそんな彼女もどっぷりハマってます。

    「最近はだいぶオープンなとこもあるよね」
    「そうですね」
    「やっぱそういう知識もカリナは豊富なの?」

     無邪気になんてこと聞いてくるのお兄さま。

    「え、何故?」
    「現代のこと一番勉強してんのはカリナじゃん? 話振られたとき用にある程度のことは知ってんのかなって。ほらカップリングとか」

     初めの頃は私も話振られたらって思ってましたけど実際話振られることもないし基本ひた隠しにしてますよ。

    「さ、さぁ、多少なりとも知識はありますがそこまで深くはちょっとまだわかりませんわ」
    「そっか」

     何故でしょう、海に入っていないのに背中に水滴が流れてる。

    「あの」
    「んー?」
    「レグナはそういう話平気なんです? よね?」

     テレビとかでそういう愛の特集をやっていても別に嫌そうな顔とかしなかったし。聞いたら、彼の言葉は予想通りで。

    「そりゃ多少の知識はあるし偏見ないし。ふつうに話す分なら別に?」
    「そうですか」


    「さすがに自分をその妄想の対象にされたらいたたまれないけど」


     今めちゃくちゃ土下座したい。



    「や、やっぱり自分がそういう妄想とかの対象にされるのは嫌なんです?」
    「嫌ってわけでもないけど…妄想するのは自由だし。俺だってカリナとクリスが2人でわちゃわちゃしてたらかわいいなって思うし。ただこう、むずがゆいというかすげぇいたたまれない」
    「そうですよねー…」

     ごめんなさいそのいたたまれない妄想でクリスティアといつも盛り上がってます。罪悪感に打ちのめされそうになっていたら、兄が笑って。

    「まぁでもいいんじゃない? その妄想でその人たちが生きていけんなら」

     今生きる糧です。

    「お兄さまは心が寛大ですのね」
    「そう? 愛の形は様々だし、別に強要しないなら妄想だってしていいでしょ。個人の自由」

     その強要の一歩手前に来ていそうだけど気づかなかったことにしましょうか。

    「リアスはそういう愛にも寛容そうですけど興味はなさそうですよね」

     恋人らしく水の掛け合いっこをしているカップルに頬を緩ませながら、言う。そうしたら、レグナがこちらを向いた気配がしたので、再度レグナの方を向いた。

     その顔は、楽しそうな顔。

    「案外興味あったりするんですか?」
    「意外とあった。そんで今布教中」

     マジですか。

    「って言っても俺たち男だから百合系だけど」
    「内容はどうあれそういうのに興味があったことが意外です」
    「ふつうに男だった。可愛い女の子同士がいちゃいちゃしてたら可愛いって」

     あの男にふつうのそういう感覚あったんだ。そのままレグナとの愛に走ってくれないかな。そうぼんやり思っていれば、満足したのかカップルたちがこちらへ向かってきました。


    「もういいんですの?」
    「満足したらしい」

     シートにおいてあるタオルを手渡してあげれば、一度自分の濡れた前髪をかきあげた。まぁイケメン。そのイケメンは受け取ったタオルを自分では使わずクリスティアにかけてあげる。とことんイケメン。

    「ずいぶん盛り上がっていたな」

     クリスティアの濡れた髪を拭いてあげながらリアスが言いました。

    「そんなに盛り上がってました?」
    「お前の顔がだいぶ」

     それどういう意味ですか。

    「愛の形について話してた」
    「だいぶ難しい話題だな…」
    「どんな愛の、形…?」
    「最近はそういう同性の愛もオープンになってきたよねって」

     その言葉にクリスティアが興味深そうな目に。楽しい話じゃなかったですよクリスティア、腐がバレそうだったんですよ。

    「で、最終的にリアスもそういう女の子同士の恋愛とか可愛いって言ってるよって話で終わった」
    「最後になんて暴露をしてやがる」
    「ちょっと意外でしたわ」
    「何度だって言うが俺だって普通の男だからな?」

     女同士で戯れていれば可愛いくらい思う、と呆れ顔で言うけれど普段から”普通の男”らしさが見つからないんですよ。

    「というかバレて良かったのかレグナ」
    「うん、俺もうこの妹に隠し事するの無理だって諦めた」

     それを聞いたカップルが”当たり前だろ”って顔しているけれどレグナは全然分かっていない様子。

    「リアス様は、女の子同士がいいの…?」
    「俺は別に何でもいいが…。女同士だろうが男同士だろうが本人たちがいいならいいんじゃないか」

     クリスティアの顔が”そのまま龍蓮に”って顔してる。抑えてクリスティア。


    「そろそろ撤退します?」

     来たときよりもさらに暗くなってしまった空を見上げて、なんとなくこのままこの愛について掘り下げられると腐女子というのがバレそうなのでそう提案してみた。

    「雨、降りそうだね…」
    「早ければ来るんじゃないか」

     時計を見れば時刻は夕方に入りかけ。水着に着替えたはいいものの兄と話していて海には入れなかったですね。あとでホテル内の小さなプールで遊んでもいいかも。と考えながら広げたシートや荷物を片し、ゆっくりとホテルに向かう。



     そんな中で、リアスと共に前を歩くレグナが。


    「まぁここが全員同性同士でくっついたらある意味運命変わりそうだよね」



     あー類は友を呼ぶなぁと前に思ってましたけど親族まで呼んでましたか。ていうかせっかく話そらせたと思ったのに。ものすごく共感できるけれど話をそらしたかったという複雑な思いで「そうですねぇ」なんてぼんやり返せば、前の彼らの話は弾む。

    「俺はお前の顔は好まん」
    「いや知ってるけど。ゴールデンウィークでも言ったけど好みって言われても困るから」
    「あとお前は俺の支配欲を満たしてくれなさそう」
    「お得意のじわじわ包囲してけばいけんじゃないの」
    「されたいのか?」
    「お前に捕まるとか絶対嫌だわ」
    「どういう意味だ」


     突然の龍蓮。なにこれ今日。最近だいぶくっつけるのなんていっかなんて思ってれば供給来るんですからもう。隣のクリスティアも肩ふるえてうつむいちゃってるじゃないですか。


    「…ちなみにレグナは自分たちが妄想の対象だといたたまれないそうですわ」
    「うわぁレグナめっちゃごめん…でも無理」
    「ですよねぇ」

     一度目覚めてしかも時々ほんとにそういうのを思わせる感じ(フィルターも掛かってそうですが)があると無理。やめられない。

    「俺は純粋に愛して純粋に愛されたいの」
    「こんなにまっすぐ愛しているじゃないかクリスティアを」
    「お前端から見たらすっげぇゆがんでるからね??」
    「おかしい」



    「…ねぇクリス」
    「はぁい…」


     前を歩く2人の会話に心をもだえさせながら、小さな声で隣のクリスティアへ。



    「本人から”同性同士でくっつけば”、っていうご了承もらったじゃないですか」
    「了承かはわかんないけどそうだね…」
    「もう暴露して正々堂々くっつけにいきます?」


     ぽつぽつと、雨が降ってきたのを肩で感じながら言えば、クリスティアは少々沈黙して。



    「……とりあえず、どこで暴露するか今度作戦練ろっか…」


     こちらからも了承いただいたので、今日はお風呂一緒にさせてもらおうかなと、前の会話ににやつくのを抑えながら思った。


    『類は親族だって呼ぶ』/カリナ



    志貴零 Link Message Mute
    2019/09/18 18:00:00

    類は親族だって呼ぶ

    #オリジナル #創作 #また逢う日まで #小説

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    また逢う日まで 旧本編
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