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GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

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    BLUE SKY さらさらと前髪が額に触れる感触で目を覚ました。
    「……ん、ここは」
     ゆっくりと目を開くとそこは拓けた森の湖の畔。
     まるでファンタジー映画のワンシーンのような景色に僕は自分の身に起こったことを振り返った。


     僕、緑谷出久は死んだ。
     と言ってもいまではない。
     僕が死んだのは三日前。しかもこの世界ではなく別の世界でだ。

     全人類の八割以上が何らかの個性を持つ世界の中で、僕はそれを持たずに産まれてしまった。
     皆が持っていて当たり前のものを持たない僕はその世界でずっと異物だった。
     扱いは当然悪く、友人と呼べる人も心を寄せられる人もおらずただ淡々と日々を過ごしていた。
     幸い勉強は嫌いではなかったので成績は良く、大学まで通いなんとか滑りこめた会社は当然ブラック。朝から晩まで時には徹夜して、それでも無個性の自分を雇ってくれる会社は他にないとただただBOTのように山のように積まれる仕事を片付けるだけの日々。
     そんな出久の唯一の理解者は母だった。
     母はずっと出久を愛し慈しんでくれた。
     母子2人の生活は裕福ではなかったがそれなりに幸せな日々だった。

     仕事に行き帰る。それだけの生活。
     その平坦で何もない生活は唐突に終止符を打った。

     ある日、会社に行こうといつものようにアパートの階段を下りてそこでふと意識が途切れた。
     母が生きていた頃は色々気を付けていた生活も独りだと次第に居適当なものになり最近の食生活も生活態度も酷いものだった。
     10秒チャージ、もしくはお菓子のような食品を腹が減ったら義務のように口に入れ、生活は仕事、寝る、ゲーム以外のことをしなくなった。
     職場に慣れてきて仕事が判ってきたせいか、上司からも後輩からも仕事を押し付けられ始発で出勤して終電で帰る日々。たまったストレスは睡眠時間を削ってゲームで解消し、ほとんど眠らないまままた仕事へ……。そんな風に日々を暮らしていた。
     体も精神も限界に近いその状態がいつまでも続くわけもない。
     ついに体に限界が来たかと遠ざかる意識の中でそう思った。

     そして目を開けたら真っ白な部屋に居た。
    「……?」
    「おお、目が覚めたかね」
    「お茶どうぞ」
    「お菓子もあるよ!」
     声がする方に目をやれば若い女性、老人、少年がちゃぶ台を挟んだ向こう側で穏やかな顔でお茶を啜っていた。
    「えーと、ここはどこでしょうか?」
     勧められるままお茶を飲み、差し出されたおせんべいを手に取った。
    「ここは天界」
    「天国?」
    「うーん、惜しい天界。天国とはちょっと違う」
     どう違うんだろ?
    「天国は死んだあと魂が行く場所。天界は神が住む場所だよ」
     心の中で思ったことを読み取られたらしい。まぁ、神様ならそのくらい普通に出来そう。
    「納得ありがとう」
     やっぱり思考は読まれているらしい。読まれて困ることもないしいっか。
    「君は素直ないい子だねぇ。君にしてよかった」
     目の前の神たちは何やら満足そうに頷きあっている僕の頭の中は?マークでいっぱいだ。
    「……僕がここにいるってことは、僕は死にました?」
     生きたまま天界にいるってことはまずなさそうだととりあえず事実確認だけはしておこう。
    「落ち着いとるのぅ」
    「もっと取り乱してもいいのよ?」
    「はぁ、まぁ、でも近いうちにそうなるかな、と思っていたので」
     温かいお茶を一口啜る。
     母が亡くなってからの僕ははっきり言って自暴自棄だった。
     生きている理由も目的も見つけられず毎日をただ消化するだけ。
    「ここまで取り乱さない人は初めてだな」
     三人は顔を見合わせ何故僕がここにいるのか説明してくれた。
     僕の住んでいた世界は人類の殆どが個性を持った化学と個性の世界。
     当然魔法なんて使わないし魔力の存在なんて本やゲームの中だけだ。
     そして次元を隔てた場所に同じような世界があるのだという。
     そこは魔法が発達した世界。
     急激に発展したその世界で一時的に魔力が枯渇しているのだという。
     何百年かに一度そう言った魔力が枯渇するような事態が起こる。
     放っておけば世界はそのまま滅びに向かってしまうのでそれを止めるには足りなくなった魔力を補充してやらねばならない。
     世界を維持するための膨大な魔力などそう簡単に手に入るわけはない。だが、時間がない。
     なので手っ取り早く魔力を供給するため隣にある世界の余りまくっている魔力を借りることにした。
     全く魔力を使うことない世界は魔力を持て余していた。その膨大な魔力を貰おうということになったのだという。
     そして魔力を移す道を作るその為に人を一人この世界に転生させる必要があったのだそうだ。
    「何で僕?」
    「すぐ転生させられるリストの中で一番穏やかそうで無害そうなのが君だった」
    「そうなんですか」
     まぁ、無害そうと言われれば確かにその通りだと思う。
     人を傷つけるどころか出来れば人に関わりたくない。
    「それで、僕は転生したこの世界で何をすればいいですか?」
     ゲームや本では世界を救えとか崩壊を止めろとか無理難題を押し付けられるのがパターンだ。
     僕に何が出来ると言われたら何もできない。
     無理そうなことは断っても大丈夫だろうか。
    「何も?」
    「へ?」
     何もしなくていいと念を押す様に三人がもう一度言う。
    「君が生きたいように好きなように楽しく暮らしてくれればいい」
    「何か特別な使命もない。自由に生きてくれ」
     目的はあくまで魔力の補給。転生はそのついで。
     こちらの都合で転生させたのだからその人生を縛ることはない。ただ自由に暮らしてくれとそういうことらしい。
    「その体も新しく作った」
     目の前に鏡のようなものが現れ僕を映す。八歳くらいの体。顔は元のものよりも随分可愛らしくふわふわとした緑の髪は前のものと同じ。
    「何か欲しい能力とかスキルとか言って貰えればあげられるよ」
    「前の世界の知識や経験なんかはそのまま残してあるから」
    「……はぁ」
     まだどんなものがあるか何が欲しいのかさっぱり分からないと言えば神たちは大きなリュックサックに何やらたくさん品物を詰め込んでさらに一冊の本を渡してくれた。
    「これがこの世界のスキル一覧表だ。経験を積めばレベルが上がる。こういうのは得意じゃろ。スキルポイントは多めに振って成長速度をちょびーっと早くしておいた」
    「はい」
     僕は生前ネットゲーマーだった。そういうことならわかりやすい。
     生活をしながら必要なスキルを上げて行けとそういうことか。
     まぁ、あの世界に僕を待っている人などいない。
     特に拒む理由もない。それに、ゲームの世界をリアルで味わえるのも楽しそうだと頷く僕に神たちは優しく笑いかける。
    「第二の人生楽しんで」
    「自由に」
    「心のまま生きてね」
    「はい」
     そして僕の意識は遠くなって、次に目を開けたときには森の中にいた。
     人に会いたくないという僕の願いを聞いてくれたのだ。

    「ん~~~!!」
     吸い込む空気は美味しくて爽やかな草木の匂いが心地いい。

     柔らかい草の上に寝ころべば温かい日差しが体を温めて僕は何度も深く呼吸をした。

     久しぶりに肩の力を抜いた。そんな気分だった。
     

     リアルに身の置き場がなかった僕はフルダイブ型のオンラインSPFに嵌っていた。
     休みや空いた時間の全てをそれにつぎ込んだ。何なら睡眠時間を削ってその世界に没頭したりもした。
     個性も現実も関係ない。自分の実力だけで勝ち上がれる世界。
     数百人が同時に決められたエリアに投下され始まるサバイバルゲーム。
     全てを倒したものが勝者。そんな単純な世界。
     中でチームを組むもよし、元々チームで参加するもよし、ソロで挑むもよし。
     自分が得た装備、スタイルでただ勝ち上がればいい。

     僕は誰とも組まなかった。
     最初の頃は何度かゲーム内で出会った人に声をかけられたこともあったけれどゲームであっても人付き合いはリアルの経験がものを言う。
     コミュニケーションが上手く取れなかった。それだけならまだ一緒にやっていけただろう。
     世話好きな人は割といて上手くコミュニケーションを取ってくれる人もいた。
     けれど僕は異常に上手かった。そしてそのゲームにおいて運が良すぎた。
     まるで現実で手に入れられなかった運や力を全てそこに集約したかのような強さと運のよさだった。
     現実では何一つ手に入らなかった僕はゲームの中では望むまま全てを手に入れられた。
     フィールドボスを倒せばその一番いいドロップは僕の手に入る。
     レアな宝箱も、滅多に出会わないモンスターも。まるで僕に用意されたが如く僕の前にだけ現れあっさりと手に入る。
     仲間をフォローするために戦っても上手いのを鼻にかけていると次第に感謝されなくなり、狩りに向かえば誰もが欲しがる一番のレアドロップは僕のバッグに転がり込んできた。
     そんなことが続けば次第に人は離れていく。ドロップ品を渡すシステムがあればよかったのだがこのゲームのアイテムは譲渡不可。分けてあげることも譲ってあげることも出来ない。バッグが一杯で拾えなかったアイテムは制限時間内に取得者本人が拾わなければ消えて行ってしまう。
     チートだ、不正だと悪評が流れチームを追い出されること数回。
     僕は誰かと組むことをしなくなった。

     独りでフィールドを駆け回り独りでどこまでも強くなっていった。

     僕が使うのはその世界では珍しい大きな羽根が開いたような漆黒のコンバットボウ。
     弓は扱いが難しく、また当てるのに技術が必要だ。
     そんなものにスキルを使うくらいなら銃器を手に入れ撃つ方が効率的だ。
     普通のプレイヤーは銃火器を手に取り戦う。多くのプレイヤーが集まる場所には行きたくなかった。
     弓系のドロップが出るフィールドもモンスターもいつだってがら空きで僕は思う存分そこで最高の装備を揃えた。
     
     隠遁(ハイド)スキルを多用に持ち気配を消して一撃で急所に当てる。
     それが僕の戦闘スタイル。
     漆黒の翼を広げるように弓を構える出久の姿を見た者の行方は死だ。

     何度か大会でソロ優勝した僕はそのゲームで告死天使(アズライール)の二つ名で呼ばれていた。
     黒い羽根を広げて死を告げに来る天使。
     ちょっと恥ずかしいけど僕の存在を誰かが知っていてくれることが嬉しかった。

     まずはスキルブックを開いて生活スキルと戦闘スキルをチェックする。
    「……便利そうなのは火、水……後は土かな。この辺があれば最悪困ることはないはず。後は弓スキルと……」
     初級のスキルを手引書の通りに使ってみると自分のステータス表にスキルとスキルレベルが追加された。

    「武器は初回サービスで欲しいものを選ぶとリュックサックに転送される、と。本当にゲームみたい」
     スキルブックを読み込んでいくとそんなことが書かれていた。
     リュックサックを開けると明らかに大きさに合わないコンバットボウが出てきた。

    「わぁ、ゲームと一緒だ」
     手に取ると僕の今の体サイズに合わせて大きさが調整された。
     普段は畳んで背中に背負える。
     ゲームでやっていたように構えた弓を一振りするとカシャンと澄んだ音を立てて折りたたまれた。
    「はー、凄い。リアルで使えるようになるなんて……!」
     ステータス表を見てみれば弓スキルがカンストしていて、あのゲームで使っていたスキルが全て並んでいた。
    「これなら狩りで困ることもないな。なら魔法のレベルを上げて……拠点を作って、うん。楽しくなってきた!」
     僕はリュックサックを背負い立ち上がる。

     ここには個性はない。
     僕はもう何も持たない出来損ないじゃない。
     自由に楽しく生きていい。

     その言葉を思い出して澄んだ空を見上げ清々しい気分で生まれて初めて心のまま笑った。







     あれから二年の時が過ぎた。
     食料は森で狩りをして肉を取り、野菜を育て、住居は大岩を土魔法でくりぬいて家を作った。
     この世界の魔法は基礎さえわかれば後は使用者の想像次第で自由に構築できるようだ。
     もしかしたら学校や教科書みたいなものがあれば学ぶ順序や効率のいい覚え方なんてものがあるのかもしれないけれど生憎僕が知っているのは神達がくれたスキルブック一冊だけ。
     こんな大森林の奥地にやって来る人などいない。
     いや、いるにはいるが悪さをし過ぎて人里を追われた盗賊くらいだ。
     一度出くわして襲われたのでうっかり全滅させてしまった。まぁ、仕方ない。
     やらなければやられていた。うん、仕方ない。
     人を殺すことに抵抗がなかったかと言えばあったのだが、本物の命のやり取りを前にして躊躇う気持ちは浮かばなかった。

     僕は初級の魔法を覚えるとネットゲームの要領で生活スキルに必要な魔法を派生させ熟練度を上げていき、狩りをして生活の基盤を作り上げていった。
     大岩の前には畑があって野菜や薬草が植わっている。
     獲ってきた肉は燻製にしたり土魔法で作った冷蔵庫に魔法で氷を入れて保存したりした。

     独りで自由にやりたいことをやって過ごす。
     少しずつ充実していく生活、増えていくスキルと上達する魔法。
     ゲームで楽しいと感じた全てをリアルで味わえるこの世界に送り込んでくれた神達に日々感謝した。

    「ただいまー」

     家を守る結界を抜けて声をかけるとぽてぽてと可愛い音を立てて色とりどりのスライムが寄って来る。

     この世界での僕に出来た初めての友達だ。
     近くの泉に水を飲みに来ていたスライム。動物はたくさんみかけたが異世界独特の生き物を見るのは初めてだった。
     ぷよぷよとした半透明の体の中に核と思われる丸いものがうろうろうごいている。
    「スライムだ!」
     近づいても攻撃してくる様子はない。
     そもそも僕はネットゲームの時の戦闘経験がそのままレベルに反映されているらしく基礎レベルとステータスが物凄く高い。もし攻撃されたとしても傷もつかない。
     指で突くとふるふると嫌がる様に体を揺らす姿が可愛くて僕はスキルブックで覚えていた従魔術というものを使った。
     魔物に対して交渉し服従の了承を得られれば自分に従う従魔が誕生する。
     召喚術というものもあったが、あちらは力で無理矢理相手を従わせるものだと書いてあった。
     魔物側にも選択権があるという従魔術。無理矢理力で押さえつけられる屈辱を僕は知っている。
     だから僕は従魔術を選んだ。
    「ねぇ、僕と友達になってよ」
     そう言いながら魔法陣をスライムの体の下に展開した。
     了承ならば魔法陣はスライムに吸収される。決裂ならば魔法陣は弾け飛ぶ。
     さぁ、どっちだ。

     どきどきしながら行く末を見守っているとするりと魔法陣がスライムに飲み込まれた。

    「ありがとう!」
     僕はスライムを抱き上げて頬ずりをした。思ったよりもぷるもちとした感触でさらに愛着がわいた。
    「これからよろしくね」
     そう言うと、スライムはふるりと体を震わせた。

     それが二年前。今では最初の子から分裂して進化した子たちが家中に溢れていた。
     ノーマルスライム。クリーナー、ヒール、スカベンジャー、アシッド、グラス。食べる物によってさまざまな進化をしたスライムたちはもう僕の生活に根付いていた。
     薬草畑では他のスライムの半分くらいの大きさのエメラルド色をした小さなスライムが薬草を食べていた。僕が帰ったのに気付くと羽根のような触手をぱたぱたさせた。これは喜んでいる仕草だ。
    「おいしい?」
     そう言うと食べていた葉っぱを引きちぎり羽根のような触手を広げて僕の肩に飛び乗った。
     美味しいです、というように見せつけるようにもしゃもしゃと葉っぱを食べる姿が可愛い。

     この子は薬草から様々な薬を作っていた僕の傍にいた最初のスライム。
     うっかり落とした薬を大量に被ってしまった。慌てて拭いたのだけれど翌朝この子に進化していた。
     薬草や薬品を好んで口にする。体内で食べた薬草を薬に生成しているようで頼めばその都度必要な薬品をくれるのでとても助かっている。名前はポーションスライム。
     とてもレアな進化らしく他の種類のスライムは数を増やしていくのにこの子は二年間増えることはなかった。庭に植えた薬草が主食だ。体内で様々な薬品を調合してくれるとても便利な子で今は僕とこの子二人で必要な薬を作り出している。
     


     とても充実した日々を送っていた。



     今日も今日とてお肉の為に狩りをしていたその時。
    「~~……がやべ」
    「……はやく」
    「~……薬はねぇ」
    「……草はないのか」
     慌ただしい人の声が遠くから聞こえて来た。

    「……なんだろ?」
     狩った獲物を空間魔法で作った収納に突っ込んで声のする方に移動した。

    「おい、どのぐれぇ持つんだ」
    「半日……。次の街に運よく血清があればいい、けど」
    「この辺りに大きな街はない」
    「……期待はできねぇか」
    「ダメ元で毒消し草を見つけ次第食わせるくらいしかできねぇ」
    「手持ちの回復薬はもう全部飲ませちまったし、俺達は回復魔法は使えねぇし」
    「どうする、どうする? このままじゃ……」

     恰好からみて冒険者の一行みたいだ。
     それぞれが強そうな独自の武器を持ちしっかりした装備をしている。
     一人、ぐったりした人を抱えていてよく見ると腹の部分が鋭利な何かで切り裂かれているのが見えて覗く肌が青黒く染まっていることに気付いた。

     あれはキラービーの毒だ。
     早く血清を打たないと命が危ない。
     この森ではよく出る魔物だから僕は血清を家に常備している。
     普通の魔物の毒は毒消しの薬で治るのだがキラービーのような毒性の強い魔物は血清が必要だ。

    「あの……!」
    「「「!!!!」」」
     声をかけたらびくりと全員が驚いた顔をした。

     あ、しまった狩り用に気配を消したままだった。
     完全に不審人物だ。

    「ンだてめェ。こんな森ン中にガキが一人でなにしてやがる」
     リーダーらしき金髪の人がきつい目つきで僕を睨んでくる。
     すみません、怪しい者じゃないんですというセリフは怪しいやつしか言わないよな。
     とりあえず用件だけ伝えよう。
    「あの……薬、家、ある」
     くぅ……人と話すのが久々すぎて嚙み過ぎてカタコトになってしまった。
    「キラービー、毒、治す。早く」
     腹を抑える人を指さして早く治療しようと訴えてみる。
    「血清、ある。家、すぐそこ!! 早く!」
     見たところ結構な時間が経過しているらしく青黒くなっている箇所が肌を侵食しているのが見えた。

    「どうする?」
    「こんな森ン中にガキ一人なんて怪しすぎんだろ」
    「でも、血清あるって」
    「嘘かもしんねぇだろうが!」
    「でも! このまま町まで行くよりは可能性にかけたほうがいいだろ!」
     相談する声は丸聞こえ。うん、わかる。確かに怪しいよね……。
     信じてもらうにはどうしたらいいだろうか。
     せめて薬はちゃんとあるのだとわかってもらえれば……とふといつものウエストバッグに傷薬というかこの世界ではポーションになるのかな。
     せめてそれを飲ませれば少し楽になるはずだと武器ではないと相手によく見えるようにバッグの蓋を開けて薬瓶を取り出した。
    「これ、飲ませて、少し楽、なる」
     リーダーの人にそれを手渡す。
     真っ赤な瞳が僕を鋭く睨んだけれどそれは受け取ってくれた。
    「使う前にこれに触れ」
     リーダーの掌の上には小さな水晶玉。
     言われるままに触れるとそれは青く光った。
    「……」
     リーダーはじっと水晶を見つめ眉間に皺を寄せた。何か問題があったのだろうか。
    「触りました」
    「おう。判った」
     リーダーは手の引いて水晶をしまい受け取った薬蓋を開けて匂いを嗅ぎ自分の掌に数滴落とした薬を舐めた。
    「!! 飲ませとけ」
     すぐその瓶を隣の男に渡して僕を見た。
    「血清、あるんだな」
     真っ直ぐ赤い目を見て頷くとポーションを飲ませ終わったのを確認してから僕に声をかけた。
     僕は必死に何度も頷くと腹を決めたようだった。
    「行くぞ、案内しろ」
    「うん」
     足早に、けれど歩きやすい道を選んで家に案内した。

     大岩の前に止まると片手を岩肌に当てた。
    「入って」
    「結界かよ」
     張ってあった結界の一部を開けて中へ案内した。

    「そこ、使って」
     僕のベッドはサイズが小さすぎて使えないから草の繊維を編んで作ったクッションをたくさん床に敷いて指差し薬品が収納されている部屋のドアを開けた。
    「すげぇな」
     後ろについて来たらしいリーダーの人が並べられた薬品を眺めて感嘆のため息をついた。
    「これ、こっち飲ませて、こっちは傷に塗って」
     毒に侵されてすぐならどちらかだけで大丈夫だっただろうけれどあの浸食具合だと両方必要だろうと手渡した。
    「おう、悪いな」
     どうやら僕を信用してくれるつもりのようで礼を言うついでにくしゃりと褒めるように頭を撫でられた。
     その薬を持って僕と一緒に最初の部屋に戻った。
    「こっちは飲ませて、こっちは塗れだと」
    「わかった」
     二人で手分けして飲ませ薬を塗る。
    「すっげ、この薬すげー効いてる」
    「どこで手に入れたんだ?」
    「僕、作った」
     言いながらガーゼと包帯を用意して治療の準備をする。
    「毒、抜けたらヒールする」
     ヒールは使えるけれど毒が完全に抜けてからでなくてはならない。
     完全に毒が抜けるには一晩かかってしまうだろう。
    「回復魔法まで使えんの?」
    「お前マジ何者だよ??」
    「一般人」
     そう言うと全員の視線がそんなわけないだろうと言うものに変わった。
    「……」
     久しく人の視線に晒されることのなかった僕は居心地が悪くなり顔を背けた。
    「今日はここ、使って。狭いけど、どうぞ」
    「いいんか。他に人はいねぇのか?」
    「いない。僕だけ」
    「そうか……」
     リーダーの人はまたくしゃりと僕の頭を撫でた。
    「ご飯、用意」
    「手伝う」
     特に断る理由もないので外の畑から野菜を取って来て狩った獲物をディメンションホールで作った収納空間から取り出すと驚いた顔をした。
    「魔法も使いやがるのか」
    「便利な物だけ、覚えた」
    「外とてめェの肩にいるスライムは?」
    「僕の、従魔」
    「従魔術もか、マジかよ」
     そんな会話をしながらシチューとサラダが出来上がった。

     食事をしながら自己紹介をしてくれた。
     リーダーの人はアタッカーの爆豪勝己さん
     タンクの切島鋭児郎さん。
     魔術師の上鳴電気さん。
     斥候の瀬呂範太さん。

     今回キラービーの毒を受けてしまったのは瀬呂さん。危険を察知して知らせようとしたところ思ったより数が多く食らってしまったのだという。
     瀬呂さんの対処が早かったので他の三人は被害合わずここまで逃げられたのだ。
     この時期のキラービーは女王蜂が産卵を控え気が立っている。その上多くの食料を集めようと巣よりも遠くへ行動範囲を広げるのだ。それに運悪く遭遇してしまったようだ。

    「お前は?」
    「緑谷出久」
    「何でこんなところに住んでる? 親とかはどうした?」
    「親、いない。ここには一人で、住んでる。人、たくさんいる。怖い」
     人と会話するのが久々すぎて少しはましになったけど相変わらずカタコトになってしまう。
     恥ずかしくて俯くと何故か痛ましげな顔をされてしまった。
     そんなに拙い喋り方だったろうか。スライム相手に会話の練習しておかないと今後似たようなことがあった時に単語でしか会話出来なかったら困るな。
     相変わらず肩に乗ったままのポーションスライムが慰めるよう触手で頬を撫でてくれた。

     瀬呂さんは寝ているので三人は顔を見合わせている。
    「とりあえず、今日休む。休んで」
     ぱたぱたと家中のクッションを出していると寝袋くらいあるから大丈夫だと爆豪さんに抱き上げられた。
     一人一個ずつありがとうとクッションを受け取ってくれて、僕は抱き上げられたまま爆豪さんの寝袋に引っ張り込まれた。
    「僕の布団あっち」
    「ンだよ、嫌なんかよ」
     抜け出そうとしたんだけどちょっと拗ねたように言われて体に回る腕の力が強くなったので諦めて横になった。ステータスはそれなりに高いけれど爆豪さんも結構高い。大人の体格と子供の体格では勝負にならない。力を抜けばぬいぐるみみたいに抱き寄せられた。
    「あーあったけぇ」
     なるほど、湯たんぽ代わりか。
     子供は基礎体温が高いから確かに温かい。
     一応魔法と結界で空調はそれなりに調節されているけど夜はやっぱり寒いからね。
     暑い日に僕がスライムを抱きしめて寝るのと一緒かもしれない。
     そう思うと別に恥ずかしいことでもない気がしてきてもぞもぞと動くのをやめた。

     狭い寝袋と柔らかいクッション、人肌の温かさなんていつぶりだろうか。
     温かくて、気持ちいい。
     そう思ったらするりと眠りに落ちた。


     一度も目を覚ますことなく朝を迎えた。
     もしかしたら熱が出るかもと用意しておいたあれこれが使われているところを見るとやっぱり瀬呂さんは熱は出てその処置に使われたのだろう。
     全然気づかなくて申し訳ないと頭を下げたのだが充分やってくれたと逆に慰められてしまった。

    「具合、どうですか?」
    「ああ、まだちょっとふらつくけど気分はいいよ。お前が助けてくれたんだって? ありがとう」
     瀬呂さんは気障っぽくウインクをして僕を撫でてくれた。
     やたら子ども扱いされるな、と思ったけれどよく考えたら僕はこの世界でまだ十歳。
     子供扱いされても仕方がない。
     朝ご飯は瀬呂さんの体力回復を兼ねて薬草スープとパンにした。
     パンといっても小麦から作った上等なものではなくトウモロコシに似た穀物から作った少し固めのやつだ。スープに浸して食べるのには丁度いい。
     燻製の肉がまだ残っていたはずだとそれも入れて食器は一人分しかないので土魔法で即席で作った食器に入れてテーブルに並べた。
    「うまそー!」
    「いただきます!」
    「悪いな!」
    「……起こせや」
     最後までぐっすり寝ていた爆豪さんは僕が勝手に寝袋から出て言ったのが気に入らないらしくさっきから僕を片手で抱きしめてずっと文句言っていた。
    「爆豪すっげー気持ちよさそうに寝てたから」
    「あれは起こせねぇって」
    「珍しいよなー」
    「そいつ温かくて丁度いいんだよ」
    「僕、ぬいぐるみじゃない」
     そう言うと爆豪さん以外の三人が可笑しそうに吹き出した。

    「爆豪にぬいぐるみっっ」
    「似合わねー!」
    「今度同じサイズのやつ買ってやろーか?」
    「いらんわ!」
     買ってやろうか面白そうに言った上鳴さんは思い切り頭を叩かれていた。

     出した朝食は綺麗に食べきってくれて毒も抜けた瀬呂さんの体に僕とヒールスライムがヒールをかけるとすっかり元気になった。体調が戻ったということで四人は一度拠点に戻ると支度を始めた。
     何やら急ぎの報告があるらしくてあまりのんびりはしていられないのだという。
     でも瀬呂さんは体調は戻ったけれど失った血液はまだ戻っていない。
    「あ、そうだ」
     造血剤も飲んでもらっておいたほうがいいかもと思い立った。
     僕は薬品室に戻るといつも薬草を取るのに使っているリュックサックに入るだけ様々なポーションを詰め込んだ。
     思ったより重くなってしまったそれを爆豪さんに差し出す。
    「持って行って」
    「いいんか?」
    「うん、僕はまた作ればいい。使って、重すぎる? 邪魔?」
    「はぁ? 余裕だわ。舐めんな」
     そう言いながらリュックサックの中身を確認して僕を見た。
    「金払う」
    「いい、いらない。ここじゃ、使わない」
     人の住む街にはまだ行ったことがないし今のところ行く気はない。
     もしも行く時にお金が必要なら自分で作った薬品を買い取ってもらおうとは思っているし、それがダメならまた何か考える。けど、今貰っても困る。相場がわからない。
    「……」
     何か言いたげな爆豪さんは差し出したリュックサックをしっかり受取って他の荷物の中に大切そうにしまった。
    「デク」
    「でく?」
    「お前の名前、俺達の国の読み名でデクとも読める。特別な名前だ。呼ばせろ」
    「うん? 爆豪さんがよければ」
    「で、てめェは俺に呼び名を付けろ」
    「おい、爆豪!」
    「……それって」
    「黙ってろ! なぁ、名前、つけてくれ」
     僕は爆豪さん以外の三人の顔を見回したが爆豪さんの両手が僕の両頬を優しく包んで真っ直ぐ視線を合わされた。
    「つけてくれ」
    「ばく……」
    「名前の方がいい」
    「かつ……かつきさん……かっちゃん?」
     いくつか試しに言ってみた中でかっちゃんと呼んだそれに頷かれた。
    「ん、それでいい」
    「爆豪さ」
    「かっちゃんって呼べ」
     言い直せと言われて本当にいいのかとどきどきしながらその名前を口にする。
    「かっちゃん」
    「ん、礼をしにまた来る」
    「別に、いい」
     そう言うのだが今度は全員がそういうわけにはいかないと詰め寄って来た。
    「近いうちにまた来る。絶対来るからな」
    「緑谷、ありがとな!」
    「助かったよ。本当に」
    「飯も美味かった! ありがとうな!」
     森の出口まで見送って姿が見えなくなるまで手を振った。


     そして家に帰って来て散らかったクッションや増えた食器を片付ける。

     なんだか酷く寂しい気分になった。






    「爆豪、あれはちょっと強引じゃないか?」
    「それは俺も思った」
    「互いしか呼ばない呼び名を付け合うのって婚約の証じゃなかったか?」
     四人は獣人族の冒険者だ。
     それぞれ種族は違うけれど全員が強い。冒険者ランクもS。
     普段は獣族の特徴を綺麗に隠すことが出来る。
     その中でも特に強いリーダーの勝己はドラゴンハーフだ。
     竜の一族でも特に強い力を持った母と人の父。
     その竜の一族に伝わる婚約の証。
    「俺はあいつが気に入った」
     竜族は愛情深い種族だ。これと決めた相手を死ぬまで愛する生涯にただ一人の番しか持たない。
    「うーん、爆豪がそう決めたんなら俺は応援するけど……」
    「俺もするけど、相手は子供なんだからな?」
    「わぁっとるわ。だから昨日も同衾するだけにしただろうが!」
     気配に聡い勝己が起きないほど深く眠れるほどあの子供の存在が大きかったのは一晩だけでも判った。
     少年は確実に強い。
     結界魔法、空間魔法、そして使用者が少ない回復魔法まで使い、どれも見たことのない使い方をしていた基礎属性の魔法。相当腕が立つのは自分たちに気配を気取らせずに近づくことが出来たことだけでも判った。その出久の家。安全でないわけがない。
     勝己ほどではないが自分達だってありえないくらい気を休ませることが出来た。
    「絶対ェ嫁にする」
     もう勝己に何を言っても聞かないだろう。
     勝己は意地でもあの少年を嫁にするために全力を尽くすだろう。

     そして出久と別れてから聞かされた。
     勝己が最初の時出久に触らせた水晶は罪人かどうかを判別するものだ。
     罪人が触れると赤く光る。
     そしてそこには一番高いスキルレベルが四つ表示されるのだ。

     出久に表示されたものは家事Lv10 弓Lv10 精神的苦痛耐性Lv9 肉体的苦痛耐性Lv9。
     家事レベルは家の事をよくするのであればレベルが高くても納得が出来る。
     弓もこの森で生活をするうちに上がったのだろう。
     この森に生息する魔物は強い。そこで二年も一人で生きて来たのだ。それなりの腕前なのだと思う。
     問題は精神的苦痛耐性と肉体的苦痛耐性。
     辛いことや痛いことがなければ上がらないスキル。それがほぼカンストに近いレベルで存在している。
     人が怖いと言っていた。
     ここに住むに至るまで酷いことがあったのだろうと想像するまでもない。

     あんな優しいいい子がずっと独りで誰にも知られずこの森で暮らしているのは何だか勿体ない気がした。
     滞在中もあまり笑わなかった。
     人が怖いはずなのに助けてくれた。

     あの子にはもっと世界を見せたい。
     辛いことや苦しいことだけではないのだと経験して欲しい。
     そして、いつか、心から笑って欲しい。

     切島、上鳴、瀬呂は互いに顔を見合わせて笑い合う。
     これから勝己は出久を手に入れるためにあれこれ騒動を起こすのだろう。
     きっとあの少年は困った顔をするのだろう。
     その時そっと手を貸して、爆豪がいいやつだと勧めてやろう。

     いつか、二人が想い合って笑い合う未来がくればいいとさっさと報告を済ませて少年への貢物を露店で買いこんでいる爆豪の背中を見ながら頷きあった。
    siromerukuru Link Message Mute
    Mar 10, 2021 10:22:48 AM

    BLUE SKY

    人気作品アーカイブ入り (Mar 20, 2021)

    ブラック企業に勤める僕はある日出勤途中意識を失った。
    気付いたらちゃぶ台がおいてある真っ白な部屋に居て僕の正面には三人の神が座っていた。
    地球にある魔力を並行世界に送るため死んだ僕をその世界に転生してくれるという。
    「自由に楽しく生きてくればいい」その言葉に従い僕は異世界に転生した。

    って言う感じの神達に拾われた小説のパロですが大分独自設定が盛り込まれています。

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