ウソツキ。あんたのことは全部知ってる。
大嫌いになるほどに。
曇天の空に土埃の匂い。嫌な予感はすぐに的中して、空からは雨が降り出した。
商店街からシャッター街に名を変えた道を私は慌てて走って、閉店した店の軒下で雨宿りをする。元は酒屋だっただろうか、魚屋だっただろうか。それすら思い出せないほど前に閉まった店のようだった。
最悪。その日は朝から一日中ツイていない。
なにがどうツイていないって、言葉にするのも嫌なほどに兎に角ツイていないのだ。
だからこうして雨に打たれるはめになった。そういっても過言ではない。
「濡れちゃったね」
ツイていない原因の1つに私の隣にいる同級生がある。
残念な事に一緒に行動しようとしてして横にいるわけではない。さっき偶然会って偶然雨に打たれて偶然同じ場所に避難した。
私はこの子が嫌いだ。
大きな目にぷっくりとした唇。長い睫毛にツンと上向いた鼻。愛らしい仕草にふわふわの髪の毛。ここまでくると、最早愛されるために生まれた何かの化身だろうか。
対して私は…。
「雨は嫌い?」
その子の肩が触れた。小さくて薄い肩は、服越しにもわかる華奢さだ。
「嫌い」
大嫌いだ、雨なんて。
「私は好き。こうしてあなたと話せたから。喋るの初めてだね」
自分が避けられてたなんてこれっぽっちもこの子は思わないんだろう。ボタボタと軒から雨の塊が落ちた。
濡れないようにお互い体を引くと、私達の距離はもっと縮まった。吐息が分かるほどに。
長い睫毛。さっきの雨を吸って濡れている。
「ピアス」
耳たぶを触られるものだからびくりと体が反応した。私を触った手で自分の髪を耳にかける仕草に見惚れてしまいそうだった。
「同じ。嬉しい」
微笑む顔が眩しい。
だから私はあんたは大嫌いなんだ。