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  • 神嘗 歪 Link Message Mute
    Sep 21, 2020 4:58:09 AM

    オリジナル小説「深海の天秤」一章・ファーストインパクトの挿絵①

    オリジナル小説「深海の天秤」の文章

    「あれ?今日じゃなかったか、あの例の『七光り』が俺らの一課に来るの?」

     デスクが並ぶ捜査一係の部屋。二十人近いスーツ姿の厳つい男たちが今日の捜査会議が終わり、慌ただしく捜査に出るための準備をしている。その中の一人が思い出したかのように声を上げた。

    「『七光り』…ああ、官房長の息子かぁ。何だーぁ、初日から重役出勤か-ぁ?!」

     声を上げた男の隣が、部屋の柱に掛けてある置時計を睨んで言った。不規則な刑事の仕事上、あってないような仕事開始時間だが、その時間を一時間以上過ぎている。
     それを皮切りに周囲の四人ほどが混じって、まだ見ぬ官房長の息子への不平不満が漏れ始めた。

    「つーうか、なんでキャリアのボンボンがこんな地方の警察署に来るんだ?パパのお膝元でヌクヌクと机の前に座っていればいいだろッ。どうせ目を瞑ってたって昇進するんだから」

    確かに同じ関東エリアではあるが、男たちの職場は東京の喧騒にはほど遠い。

    「反対に父親の目が届かないから、コッチに来たんじゃないのか?偉いパパの真下だと、手へ抜けねぇからなぁ」

     それを聞いていた内一人が…

    「なんかそれだけじゃないらしいぞ。……噂だが」

    語尾を小さくしながら、口角の片方を吊り上げて周囲に向かって手招きをする。どうやらここからは、もっとディープな話になるみたいだ。
     話に加わっていない周りの刑事たちも、聞き込みをする刑事の性か「馬鹿馬鹿しい」と思いながらも耳をそばだてている。
     その中には、刑事にしては一人だけ長Tにシャケットというラフな格好の落谷も自分のデスクでパソコンに視線を向けたままで聞いていた。

    「その『七光り』、実は養子らしんだ。だが養子ってぇのも表向きで、官房長が外に作った子で、本妻に子供ができなかったから引き取ったって。そんな生い立ちだからか、昔はかなりの悪ガキで、いくつも警察沙汰を起こして全部親父にモミ消してもらったらしい」

     聞いていた全員の表情が一気に歪む。

    「はぁっ?何でそんなヤツが刑事になってんだよッ!」

    「親父のコネを使えば人生も仕事も楽勝と思ってんだろ、そのバカ息子は」

    「親父の方も、そんな恥さらしを近くに置きたくなかったんじゃないか?だから一旦地方に飛ばした…とか」

     どんどん沸騰する噂話。聞いていた落谷は、パソコンから視線をズラすことなく小さな溜め息をつく。
     どこで仕入れたネタか知らないが、憶測ばかりで聞くに絶えない。真実を追いかけて事件を解決しなければいけないはずの刑事とは思えない内容だ。
     とは言え、そんな同僚の幼い思考をたしなめる…なーぁんてしちめんどくさいこと、これぽっちもする気は無い。
     そういうことは真っ当な人間がすればいい。そう、人徳のある捜査ー課の課長、澤木などが適任だろう。
     そう思っている落谷の目の前を、巌のような体つきに、大仏様のような顔を乗せた澤木課長が横切った。
     向かった先は案の定、汚水のような噂を垂れ流している部下のところだ。

    「お前たち、まだ捜査に行かないのか?」

    声がしたとたん、部下たちは驚いて座っていた椅子から跳ね上がる。
     気配を消して近づく。澤木課長の得意技だ。話に夢中になっていた奴らは、真後ろで声を掛けられるまで気づかなかった。
     その様子にたまらず失笑する周囲。

    「いえ…ッ。今、行こうと…」

     噂をしていた一人が、しどろもどろに言い訳をする。その様子はまるで、担任に怒られている生徒のようだ。
     だがそこは小ズルい大人。別の一人が話の矛先を変えようと澤木課長に質問を投げた。

    「あ…あのッ。今日来るはずだった新人はどうしたのですか?」

     新人の遅刻。いくら警察庁の御偉いさんの息子とはいえ、初日からの問題行動に澤木課長も頭を痛めているはずだ。
     澤木課長がそのことを嘆くにせよ、庇うにせよ、「課長も苦労が絶えませんね」と同調の一つでもみせれば問題をすり替えただけでなく、周囲に自分たちが喋っていた噂の信憑性が高まる。まだ見ぬ甘ったれ七光りの心象を最大限まで悪くすることで、自分たちを正当化することができる。
     そんな見え見えの小細工を落谷は半笑いを浮かべ「さて、どう返ってくるかな」と見物していた。
     けれど澤木課長からの返答は、その場にいた全員が思っていたものとはまったく別のものだった。


    「ああ。阿妻ならさっき連絡があって、今病院にいる」 


     まさかの展開に噂していた者たちは沈黙。代わりに近くにいた捜査一課唯一の女性、小野塚が犬の尾っぽのような一つ縛りの黒髪を揺らしながら聞く。

    「病院…というと、何かの病気ですか?それとも事故?」

     澤木課長は首を横に振るう。

    「いや、事件だ。」

    「ッ!?」

     「事件」という言葉に、室内にいた刑事たちが一斉にザワつく。そのなかで澤木課長は話を続けた。

    「阿妻は署に向かっている途中で、複数の男による引ったくりの現場に遭遇したそうだ。そこで阿妻は犯人を捕まえようともみ合いになり、身体の数ヶ所を負傷。被害者の女性も、そのとき犯人たちに突き飛ばされて横転。犯人たちはその場から逃走したそうだ。今、二人とも近くの病院で手当を受けている」

    「それで新人…阿妻の容態は?」

    「大丈夫、軽傷だ。歩行もできる。」

     ホッと胸を撫で下ろす小野塚。
     犯人を取り逃がしたことは残念だが、複数の犯人相手に立ち向かっていったことは新人の刑事として称賛に値する。そしてこのことで、例の噂は腐食されたどころか七光り阿妻の心象は180度一変した。

    「阿妻みたいな正義感溢れる有望な新人が、この課に入って来てくれたことは喜ばしいことだな」

     元々細い目を更に細めて笑う澤木課長。
     噂を流した男たちは、周囲からの白い目にいたたまれなくなって「そ、それじゃあ俺たち、捜査に向かいます…」と子声で発っしながら、すごすごと部屋を出ていった。
     それを見て他の刑事たちも我に返ったように準備を進め、次々と各捜査に向かうべく退室し始める。
     そんななか、まだ部屋にいた落谷の背筋に嫌な予感がゾワッと走った。
     見なきゃいいのに、嫌な予感がする方向に顔を向ける。……すると澤木課長が、先ほどより更に仏のような慈悲の笑みで此方を見ていた。

    (………ヤバい)

     落谷は「何も見ませんでした」といった澄ました顔をユックリと戻し、デスクから立ち上がると出口に向かって歩き出そうとする。

     そんな落谷の背後から…

    「落谷。ちょっといいか?」

     澤木課長の声が肩を叩く。

    #深海の天秤  #刑事  #オリジナル #創作 #オリキャラ  #小説  #挿絵  #ミステリー  #相棒  #バディ  #推理

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    • 娘・猫猫にメッチャ毛嫌いされているパパ・羅漢漫画「薬屋のひとりごと 6巻」発売祝いに描いて見ました(*^▽^)/★*☆♪
      #薬屋のひとりごと #猫猫 #羅漢
      神嘗 歪
    • 「鬼滅の刃」16巻の表紙を、キメツ学園パロにしてみました(((*≧艸≦)!!
      #鬼滅の刃 #キメツ学園 #産屋敷輝哉 #産屋敷あまね
      神嘗 歪
    • 禰豆子ちゃんが入った箱を、伊之助から殴られても守る善逸アニメでいうと13~14話に跨いだエピソードです☆
      いつもは情けない善逸が、男を見せたカッコイイシーンですよね♪

      #鬼滅の刃 #我妻善逸 #嘴平伊之助 #鼻血ブー
      神嘗 歪
    • 私が大好きな漫画「フラジャイル 17巻」が発売したお祝いにイラストを描いてみました♪
      今回は火箱ちゃん(ばこちゃん)がメインの回なのですが、最後のほうの慰安旅行編で出てきた岸先生の風呂上がり前髪降ろしの浴衣姿に、火箱ちゃんの活躍が脳内からフッ飛んじゃいました(・д・oノ)ノ
      ゴメンね、ばこちゃん_(._.)_
      #フラジャイル #岸京一郎 #火箱直美 #漫画 #17巻 #前髪 #浴衣
      神嘗 歪
    • 創作小説【ソウルウォーク★魔都】の表紙私が創作している小説【ソウルウォーク★魔都】の表紙として描いたイラストです。
      小説の内容は、現代の最強腹黒陰陽師が国家規模のコネを使いスマホアプリゲーム連動型のVRMMOを作っちゃったことから話が始まります。スマホの画面内にいる二人は、ゲームに巻き込まれるダブル主人公の刀夜(髪が赤黒いほう)と雪人(髪が紫のほう)です。

      #オリジナル #創作 #オリキャラ #ソウルウォーク★魔都 #男の子 #陰陽師 #スマホ #小説 #表紙
      神嘗 歪
    • 黒幕はほくそ笑み:小説【ソウルウォーク★魔都】の挿絵私が創作している小説【ソウルウォーク★魔都】内の挿絵として描いたモノです♪
      現代で最強最悪の陰陽師が国家規模のコネを使ってVRMMOを作ることを思いついたときのシーンです☆

      #オリジナル #創作 #オリキャラ #ゲーム #ソウルウォーク★魔都 #VRMMO #小説 #挿絵
      神嘗 歪
    • 禰豆子にこの花をあげようか……と、思っている善逸キメツ学園のほうの善逸クンです☆
      禰豆子ちゃんにこの花をあげようか…と考えているようです♪
      #鬼滅の刃 #キメツ学園 #我妻善逸 #花
      神嘗 歪
    • ヒノカミ神楽『円舞』炎、描くのムズかったよん(ノ゚Д゚)ノ
      #鬼滅の刃 #竈門炭治郎 #ヒノカミ神楽 #刀
      神嘗 歪
    • エプロン着物のネズコちゃん鬼滅の刃のネズコちゃんを描いてみました♪
      ヽ(o´3`o)ノ

      #鬼滅の刃 #ネズコ #女の子 #ピンク #和風ロリ
      神嘗 歪
    • 「雪人と刀夜」:小説【ソウルウォーク★魔都】の挿絵私が創作している小説【ソウルウォーク★魔都】の挿絵として描いたモノです♪
      イラストの二人は、小説内のダブル主人公である「雪人と刀夜」です☆
      #オリジナル #オリキャラ #創作 #小説 #ソウルウォーク★魔都 #VRMMO
      神嘗 歪
    • 死神(色々な画風を練習しているところです)色々な画風を練習しています( ≧∀≦)ノ
      今回は厚塗りの油絵風のホラーぽいモノを描いてみました☆
      #オリジナル #オリキャラ #創作 厚塗り #骸骨 #死神
      神嘗 歪
    • 全国のマダムへ 《憂国のモリアーティ》5月10日は母の日ということで、私の大好きなマンガ《憂国のモリアーティ》からモリアーティ先生よりカーネーションを全国のマダムにプレゼントします♪
      :+((*´艸`))+:。
      #憂国のモリアーティ #マンガ #母の日 #カーネーション
      神嘗 歪
    • 説明:小説『ソウルウォーク★魔都』の挿絵創作中の小説『ソウルウォーク★魔都』の挿絵として描きました☆
      小説内のVR機本体の説明を、雪人が刃夜にしています( ≧∀≦)ノ
      #ソウルウォーク★魔都 #小説 #挿絵 #オリジナル #創作 #オリキャラ #創作 #VRMMO
      神嘗 歪
    • 2創作中の小説「平安京 ★ Universal Gravitatio」の表紙と主人公私が創作中の小説「平安京 ★ Universal Gravitatio」の表紙として描いたモノです♪
      二枚目は、その主人公の蘆屋道満クンです☆

      #オリジナル #創作 #オリキャラ #小説 #表紙 #蘆屋道満
      神嘗 歪
    • 3躊躇と懇願 : 小説『ソウルウォーク★魔都』の挿絵創作中の小説『ソウルウォーク★魔都』の挿絵として描いてみました( ≧∀≦)ノ
      #オリジナル #創作 #オリキャラ #創作 #小説 #挿絵
      神嘗 歪
    • 3月下獣文豪ストレイドッグスのア二メを今更ながら一気見したら、描きたくなりました♪
      (*ノ゚Д゚)八(*゚Д゚*)八(゚Д゚*)ノィェーィ!

      #文豪ストレイドッグス #文スト #中島敦 #月下獣 #白虎 #異能 #アイビスペイント
      神嘗 歪
    • ドラマ『MIU404』を描いてみた♪②早く次の話がみた~~~~~いッッ‼️
      ((ヾ(≧皿≦メ)ノ))

      #ドラマ #MIU404 #綾野剛 #星野源 #刑事 #MIU404イラスト企画
      神嘗 歪
    • 3ドラマ『MIU404』を描いてみた♪今、ドラマ『MIU404』にハマっています☆
      W主演で綾野剛&星野源が出ています!
      スゴく面白いので、興味が湧いたら見てみてください!!

      #ドラマ #MIU404 #綾野剛 #星野源 #刑事 #男子 #メガネ #メロンパン
      神嘗 歪
    • 「うわ~~ぁ、痛そ~~っ。」:小説『ソウルウォーク★魔都』挿絵私が創作中の小説『ソウルウォーク★魔都』の挿絵として描きました☆
      ケンカに巻き込まれた刃夜が、相手の攻撃をかわしながら相手を倒すシーンです( *´艸`)
      #オリジナル #創作 #オリキャラ #創作 #小説 #ソウルウォーク★魔都 #挿絵 #VRMMO
      神嘗 歪
    • 3『転生したらスライムだった件』のリムルを描いてみた(^ω^#)漫画13~14巻の意外な展開を読んで、触発されて描いてみました♪
      リムルの違うバージョン三枚です。………あれ。なんだか、間違い探しみたいな感じになっちゃったf(^ー^;

      #転生したらスライムだった件 #転スラ #リムル #スライム #リムル=テンペスト
      神嘗 歪
    • 漫画『地獄楽』を描いてみました♪漫画『地獄楽』の画眉丸と佐切を描いてみました♪

      #地獄楽 #画眉丸 #佐切 #忍者 #刀 #炎
      神嘗 歪
    • 小説『僕らは死んで神になった』の表紙自作の小説『僕らは死んで神になった』の表紙です☆
      #オリジナル #創作 #オリキャラ #小説 #表紙 #死神 #骸骨 #ホラー
      神嘗 歪
    • 激オコ雪人:小説『ソウルウォーク★魔都』挿絵私が創作中の小説『ソウルウォーク★魔都』の、挿絵として描いてみたモノですD
      小説内のW主人公の一人雪人が、ケンカで殴られてキレたシーンです( ;゚皿゚)ノシ
      #オリジナル #創作 #オリキャラ #小説 #挿絵 #VRMMO #ソウルウォーク★魔都
      神嘗 歪
    • アニメ『波よ聞いてくれ』にハマッてます!!今期のアニメ『波よ聞いてくれ』にハマッてます!!
      このアニメ何が面白いって、アニメなのにラジオの話っていうのもありますが、主人公の喋りがメチャッ面白いッ!声優の杉山里穂さんスゲッッ!!
      よかったら皆様、見てください(*^^*)
      #波よ聞いてくれ #アニメ #鼓田ミナレ #アフタヌーン #クマ
      神嘗 歪
    • 雪人と生徒会長様 : 小説『ソウルウォーク★魔都』の挿絵創作中の小説『ソウルウォーク★魔都』の挿絵として描いたものです( ≧∀≦)ノ
      #オリキャラ #小説 #挿絵 #オリジナル #創作
      神嘗 歪
    • ドラマ「MIU404」を描いてみた♪ +α6話、良かった~~~ァ!!。:+((*´艸`))+:。

      今回のイラストは、変化球で菅田将暉さんと米津玄師さんを描いてみました♪
      二人で「感電」を歌ってほしい☆

      #MIU404 #菅田将暉 #米津玄師 #感電 #ドーナツ #綾野剛 #星野源 #MIU404イラスト企画
      神嘗 歪
    • リモート★ハロウィン創作中の小説「深海の天秤」の登場人物で、ハロウィンのイラストを描いてみました☆


      #深海の天秤  #ハロウィン  #リモート  #モンスター  #オリキャラ  #オリジナル  #小説  #オオカミ男  #吸血鬼  #魔女  #ミイラ男  #カボチャ  #刑事  #ミステリー  #薔薇  #イラスト
      神嘗 歪
    • 小説「深海の天秤」一章 ファーストインパクトの挿絵⑦「っ♪」

       そして今、落谷は澤木課長の命令どおり、新人刑事・阿妻と引ったくりの被害者が手当てを受けている病院に来ている。
       乗ってきた車を駐車場に停めると、鼻歌まじりで人差し指にかかった車のキーをグルグル回しながら入口から受付に向かう。
       建物内は、ここら辺では一番大きな総合病院の午前中とあって、来ている患者が多い。そして平日だけあって、待合所に座っている人々は年寄り率が高い。

      「どうも-っ♪ここに、引ったくりで怪我した二人が来ているって聞いたんだけど、どこに行けば会えるかなっ?」

       内容に反して、落谷の軽いノリに不信がる受付の女性。落谷はそんな反応に慣れているのか、すぐにジャケットの内ポケットから警察手帳を出して、自分の顔と手帳内の写真の顔を照らし合わせて見せた。
       ニコッと笑う落谷。手帳を見せても、それでも受付の女性の信用度は78%と微妙な上昇で停滞してしまう。
       すると急に訝しがっていた受付の女性の表情が、「あっ」という口の開きとともに一変する。
       「んっ?」と思った落谷は、女性の視線を辿るように振り向いた。


      「落谷刑事ですよね?初めまして、阿妻 陽向(あづま ひなた)です」


       受付の女性に聞こえるように、やけに「刑事」のところを強調した言い方。そして、目の前で深々と下げた頭がゆっくり上がる。
       そこには眼鏡と猫のようなつり目が視野に飛び込んできた。

      (……澤木課長に聞いた話だと、確か25才だよな?)

       落谷は直立な姿勢の阿妻に歩み寄りながら、あからさまに品定めをするように頭の先から足の先にかけて視線を動かす。
       だが阿妻はそれに動じることなく、落谷の返事をジッと待っているようだった。
       その顔は落谷が疑問符を浮かべるほど童顔。十代だって言っても信じてしまいそうなほどだ。
       髪は色素の薄いブラウン。動きでフワフワ揺れるほどのカールがかっている。仕事上、染めることもパーマをかけることも基本御法度なので、たぶん地毛なんだろう。
       服装は、シャツとパンツが黒。形よく絞められたネクタイは麦藁色。ここまではキッチリしているのだが、何故か羽織っているのはオーバーサイズのクリーム色のカーディガン。これが更に幼さに拍車をかける。
       人のこと言えない落谷だが、服装だけいえば阿妻も刑事には見えない。
       けれど落谷と全く違うのは、その雰囲気。
       強く結ばれた口元に、ピッと伸びた姿勢。顔も減点が見つからないほど、洗練され整っている。
       一言でいえば、誰もが阿妻に持つ第一印象は「生真面目そう」だ。片や落谷は、何もかもが浮草のようにユルユル過ぎる。
       そんなユルユル落谷は「ん"~~…」と唸りながら、
      上下に動かしていた視線を阿妻の顔の正面で止めた。その整った顔の右頬には5cm × 5cmほどのガーゼが貼られている。
       カーディガンの袖から見える左手にも、白い包帯が微かに見える。
       服も汚れが目立ち、たぶん引ったくりともみ合ったときに全部負ったものなのだろう。
       ここでやっと落谷の口が開く。
       その第一声が…。


         「……陽向というより日陰じゃね?」


       これが小野塚だったら絶対にドデカい怒りマークが点灯し、澤木課長が「要らんことを…」と苦笑いする事例だ。
       が、阿妻はピクリとも表情を変えず…。

      「はい。よく言われます」

      …と言った。
       声色にも不快や初対面の緊張とかは感じられず、若人特有の感情の揺らぎが無い。
       落谷の戯言を肯定するのもなんだが、「陽向」の名前からくる暖かみを感じられない。どちらかというと、波の無い冷たい湖面…といったイメージだ。

      (これが『七光り』で『元悪ガキ』…ねぇ?)

       落谷は、阿妻の顔を覗き込む姿勢から状態を伸ばし、一歩引いた。

      「いきなり、ゴメンっ♪ゴメンっ♪君が『阿妻官房長の息子さん』?」

      「はい」

      (……反応無しかぁ)
      「いいなーぁ。お父さんが偉い人だと、色々と得することも多いでしょ?」

      「得かどうかは分かりませんが、父の親しい方々には良くしてもらってます」

      (…スゴいな~ぁ。自分で『七光り』のコネを、有効活用しちゃってますって言っちゃってるよ、この子っ)

       それでいて落谷の頭半分低いところから見上げる阿妻の目には、上位に立つ優越感といったものも一切無い。

      「俺も、ヒナちゃんのお父様の恩恵にあやかりたいものだよっ」

       両手を胸の前で開いて、軽口を続ける落谷。ここで初めて、阿妻の表情が微かにピクッと反応した。

      「………『ヒナちゃん』?」

       「おっ?」と思いながらも落谷は続ける。

      「うん。陽向だからヒナちゃんっ。それに刑事になりたてだって聞いたから、ヒヨコでヒナちゃんっ」

       今までジッと落谷を見ていた阿妻の目が、斜め下に流れる。

      「……………恩恵のほうは、落谷さんには不必要ではないですか?」

      「えっ?何でっ?」

       小首を傾げる落谷。

      「昇進とか興味無いでしょ?貴方を動かす原動力は、ただの『正義感』ですよね」

      「プ…っ!」

       新人らしからぬ阿妻の言葉に、思わず噴いてしまった落谷。刑事ではあるが、『正義感』なんて自分には程遠い言葉だろう。

      「ククク…ッ。ヒナちゃんてば表情筋死んでるのに、言うことは面白いねっ」

      そう言うと落谷は阿妻の横に回りこんで、馴れ馴れしく肩に腕を回して体を揺さぶる。

      「それもよく言われます。あと、負傷しているところが痛いです」

      「あっ、ゴメン」

       ハッと離れる落谷。阿妻は左腕をカーディガンの上から擦った。

      「少なくとも昇進目的で仕事をしているのなら、上の命令を無視して、警視庁が追っている犯罪組織【ブラッディ・ヴィーナス】のドラッグ製造工場を単身で潰したりしないでしょ?」

       ここでまた横に立つ落谷の顔をジッと見上げる阿妻。
       落谷は「ヴッ」と唸る。
       阿妻が言っているのは、約半年前。落谷たちの署管轄内で、大量殺人が起きたことから始まる。
       ここではそこまでの経緯の説明を省くが、最終的にその殺人には犯罪組織【ブラッディ・ヴィーナス】のドラッグ製造工場が関係していることが判った。
       落谷はそれを阿妻が言ったとおり、警視庁からの制止を振り切って一人で潰してしまったのだ。
       いくら落谷でも、この後の責任問題に発展するのは覚悟した。でも不思議なことに、澤木課長含めた多数の上司にコッテリお説教食らったぐらいで、後は大したお咎めは無かった。
       「まあ、日頃の行いが良かったんだろうっ♪」と、一課の部屋で呟いた落谷に、周りの人間は全員「それは絶対に無いッ!」と心のなかで叫んだものだ。

      「……ヒナちゃんてば、よく知ってるねー。」

       なんとも言えない顔で阿妻を見返す落谷。

      「はい。これから組むバディの人となりを知るのも仕事の一環と思い、事前に澤木課長から落谷さんの資料をいただきました」

       それを聞いた落谷は、勢いよく阿妻がいる側とは反対方向を向く。

      (やっぱ澤木さんッ。初めからヒナちゃんと組ませる気だったじゃないかよッ。それも要らんことまで教えてッ)

       ここにはいない澤木課長に向かって、口を尖らす落谷。でもすぐに顔を戻し「まっ、いいや」と投げた。

      「で、澤木課長に聞いたんだけど「引ったくりにあった被害者が、今回の殺人事件に関係している」って、進言したんだって?」

      「はい」

      「その心は?」

      「引ったくりの被害者に会っていただいてからお話します」

       そう言うと阿妻は受付の女性に「お世話になりました」とばかりに軽く一礼をし、方向を変えると落谷に「こちらに」と促して歩き始める。
       頭を下げられた受付の女性は阿妻の紳士的な対応に頬をうっすら桃色に染めた。が、次に落谷が「じゃねー♪」とチャラく片手を振ると、一気に冷めたようにゲンナリとした。
       どうやらこの受付の女性の好みは、誠実な男性のようだ。


      #オリジナル #創作 #オリキャラ #小説  #挿絵  #刑事  #相棒  #バディ  #深海の天秤  #ミステリー  #推理
      神嘗 歪
    • 小説「深海の天秤」一章 ファーストインパクトの挿絵⑥弾かれたように顔を上げた小野塚。その大きく開いた口に、一口チョコがポンッと放り込まれた。放り込んだのは、もちろん落谷だ。

      「モグッ…!」

       上質なミルクチョコレートの甘さが口いっぱいに広がる。そして落谷は気づいているか分からないが、放り込まれたさいに、小野塚の唇に落谷の長い指がかすった…。

      「使った脳に糖分充電っ。駅に行くんだろ?いってらっしゃい」

       手を胸の前でヒラヒラさせる落谷。

         ガタッ!
      「…~~~~ッ!…はい」

       小野塚は顔を真っ赤にして、勢いよくイスから立ち上がる。すると、どっからともなく長岡が凄い形相で二人の元に駆け寄って来た。

      「小野塚さんッ!捜査に行くんですよねッ?俺も同行しますッ!!」

       目の前にいるのにもかかわらず、大声で発言する長岡。ポー…としていた小野塚は、ひとピシャ遅れでハッと我に返り、「そ、そうね。お願い」と言ってワタワタと用意を始める。
       小野塚が用意している横で、長岡が落谷をキッと睨んだ。その目は『ライバル視』している目だ。
       でも落谷のほうは軽く笑い返すのみ。その余裕な態度が、更に長岡をイラつかせる。

      「早く行きましょうッ!」

       そう言うと、長岡は小野塚を先導するように大股で部屋を出ていった。
       残った落谷はデスクに顔をうっ伏して、肩を震わせながら笑いを堪えている。
       部屋の上座では、デスクの前でその一部始終を見ていた澤木課長が、ヤレヤレといった表情を浮かべていた。


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      神嘗 歪
    • 小説「深海の天秤」一章 ファーストインパクトの挿絵⑤「落谷さんッ。今の今まで何していたんですかッ?!」

      「何って…今回の事件の捜査に決まってるじゃん」

       腹立つほどキョトンとした顔で返してくる落谷。今度は小野塚の左拳も震えだす。

      「捜査といいますが、一通り現場と被害者を見た後、すぐにいなくなったじゃないですかッ」

       そう、落谷が現場にいたのは十五分程度だ。
       それも小野塚含め六人ほどの一課の刑事が初動捜査にいたが、仲間たちの事件の見立てには加わらず、被害者の身体中にある無数の外傷を一点一点確認していた。
       本当に、被害者は酷い有り様だった…。
       ほとんどが酷い打撲痕。顔は赤紫に腫れあがり、打撲から裂傷したところから血が滲んでいる。たぶん泥だらけの服の下も骨が折れていたりと、酷いことになっているだろう。
       だが最終的な死因はその後の検視によると、まるで鎌のような鋭利な刃物で、右脇を引っかけるように太い動脈を切り裂いたことによる大量出血だった。
       「変わった刺傷だな。まあでも財布が無くなっているし、複数で揉み合った形跡もある。たぶん集団で物取りをして、被害者をリンチしたあげく刺し殺した…ってとこだろう」と、落谷の後ろに立っていたベテラン刑事の一人が言った。小野塚もそれに同意見だ。
       でも落谷は返事をしなかった。そして、そこからフラ~ァといなくなったと思ったら、その後一度だけ、現場付近の立ち入り規制を掛けている初老の地域警察官とくっちゃべっているところを見かけただけで、今の今まで落谷の姿を見ることはなかった…。

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