言葉の魔法 (5)言葉の魔法 (5)
あのハプニングからもう1ヶ月はたっていた。ストームの所にお礼として出向こうと思ってはいたがその間に2戦のレースもあり、その調整に追われていた。
次のレースでストームがトップを取ればポイント獲得数からいって、チャンピオンはほぼほぼ確定。クラッシュやエンジントラブルでストームがレースをリタイヤする以外に暫定ポイントではクルーズがチャンピオンになるのは無理だ…。無難にデビューイヤーを女性レーサーとして2位という確実な順位にするべきなのか、それともまだ手はあるのだろうか…?今までのレースとストームの動きや癖を1から洗い直すように調べ映像も見てきたが、レース初戦より明らかに伸びがいい。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだ。クルーズも確かに伸びてはいるが、それを越す勢いでまだ伸び代がある新世代チャンピオン候補の実力はより強固なものとなってきている。だがクルーズに無理をさせてハプニングなど起きればせっかくの2位という順位を落とすことになりかねない…。
「…なかなか戦況は厳しいなぁ」
思わずぼやきがでた。
「難しい顔してますね…」
脇からすっとコーヒーを差し入れてくれたのは技術部のチームスタッフだった。
「ここまでくると悩みどころですよねぇ。」
最近よく技術部に顔を出してはデータ測定やまとめたものを見せてもらうために通いつめていた。チームスタッフから見てもこれからのポイント獲得の為の無茶はリスキーだとわかる。2人で浅いため息をつきながらストームの公開データを見ていた。
「ストームって今まで他のレースとかで名前を聞いた事ないよね」
画面をみながらチームスタッフに聞いてはみたものの、レーサーとして他の部などの記録もない「謎のレーサー」というのが彼の代名詞でもあった。
「そうですね…、あっ!」
「ん?」
「そう言えば前にネトゲ好きな友人が言ってたんですけど、あるレースゲームのオンライン戦で“ジャクソン・ストーム”の名前があったって教えてくれたんですよね。まぁ、ジャクソンが今いるチームではないんですけど、なんかそのレースゲームでトップだった人をレーサーとして迎えようみたいなのがあったらしいってのを見たらしくて…。人伝いなんで本当かは分からないんですけどね。結構オンラインゲー系の掲示板では有名な話らしいですよ!」
匿名掲示板ですからどこまで本当か分からないですけどね!と冗談まじりだったが、僕は少し気になるのもあり休憩時間中に調べていた。
掲示板の投稿をまとめてあるサイトにたどり着き内容を読んだ。確かにあのチームのレーサーではない。でも…、スマートフォンで撮られた画像が荒い対戦映像を見て確信にかわった。あのコース取りと安定感は荒削りではあるがストームそのものだった。
(まさかゲームセンターでの記録からトップレーサーが育つわけ…)
ふとストームが言った言葉を思い出した。
-「あ?……あぁ、そうだけど。何?アンタもゲームなんかで遊んでてとか言うやつかよ」-
何かが少し繋がり始めた中で僕は考えるのをやめた。いや辞めたというよりあの時のストームの顔を思い出していた。
「もしかして僕が否定すると思ってたから…?」
ゲームの話をした時の少し嬉しそうな顔。それと…驚いた顔。僕の隣にわざわざ来て煽って行った時と違う、顔。
スマートフォンを取り出し、連絡先として入れておいたが忙しくて何も送れていなかったメッセージ画面を開いた。
”先日のお礼がまだったけど、何がいいかな?”
スマートフォンを置こうとするよりも早くメッセージを知らせる通知音が鳴った。
”俺がチャンピオンになったら、アンタの口から祝いの言葉を聞きたい”
また贅沢なお願いがきたものだ。君のライバルであるクルーズのトレーナーでもある僕に、か…
”君が消化試合だからってアンパイな走りをしないで全力で残りのレースに望んでくれたら考えておくよ”
すぐさま返事が帰ってきた。
”どのレースでも力を抜くつもりは無い”
心の中でふふっと笑った。
これは最後まで全力のレースをクルーズと共に走りきれることのワクワク感だ。
「クルーズとストームのルーキーイヤーは歴史的なものになるな…」
近くに置いておいたタブレットを残しクルーズの元へ行った。記録だけ見ても仕方がない、僕は僕のやり方でクルーズの力を少しでも伸ばせるはずだ。
僕はまた走りつづける