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    ケール夢第7宇宙に観光来ていたキャベ達3人組は、地球の海のそばにある市場で、食べ歩きをしていた。

    軽快な音楽と共に踊る女性、ベリーダンスの衣装がヒラヒラと風に舞う。
    身体をしならせる姿は猫科の動物のようだ。
    曲に合わせて、飛び上がり、くるっと空中で一回転すると、つま先立ちをして、深々とお辞儀する。

    それを見ていた人が、踊り子の足元の器にゼニーを投げ込んでいく。

    キャベ達も同じくゼニーを投げ込む。

    踊り子は布で口元こそ見えないが、キャベ達に向かって、涼しげな目元で微笑み、お辞儀をした。


    ふわりと漂う独特のお香の煙を抜けると、屋台にはカラフルで奇抜な形の果物の数々。
    乾燥したトカゲや蛇などを扱っている屋台もあった。
    中年男性が大声で客寄せをしている。

    さらに歩くと、アイスクリーム屋も見えてきた。

    「姐さん...わたし疲れたから少し休みたい」

    「おうおう、あそこにベンチがあるから座ってな。アタシがアイス買ってきてやるよ」

    「ボクも行きます」

    そう言われたケールはベンチに座り込むと、アイスクリームを屋台で頼むカリフラとキャベを、遠くからじっと眺めていた。

    「カリフラさん!ほら!口にアイスついてますよ!だらしないなあ...」

    先に一口食べてしまったカリフラの口元には、溶けたアイスがべっとりとついてしまった。
    それを見たキャベがバッグからハンカチを取り出すと、それをカリフラの口元に近づける。

    「うるせー!自分でとれる!触んな!」

    それを手で避けるカリフラだが、しつこいキャベに諦めたのか、されるがままに口をハンカチで拭かれる。

    心無しか、ケールにはカリフラが嬉しそうにしているのが見てとれた。

    見てられないとばかりに、ケールは俯く。

    あれくらいわたしにもできる。

    喉の奥が詰まるような感覚。

    次いで胸の奥から湧き出る怒りが、水位をあげていく。

    同時に、何故、わたしにはできないのだろうという、悔しさも感じていた。

    姐さんの隣に居るのはわたしなのに...。

    「ケールさん!」

    遠くからキャベの呼ぶ声がした。

    ハッと我に返ったケールがそちらを向くと、キャベの手が...カリフラの手を握っている姿が目に入ってきた。

    カリフラは無抵抗で握られるままだ。

    ケールの我慢も限界だった。

    「何様の...つもりで...」

    湧き出た怒りは、器から溢れ出す。

    「アアアアアアアアアアアア!!!!!!キャベエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!」

    完全にキレた。

    地響き、割れる地面。
    ケールの身体は凄まじい光とともに爆発する。

    驚いた街の人間が悲鳴をあげながら散っていき、ケールの付近にある屋台は全て吹き飛んでしまった。

    キャベとカリフラの2人はというと、風圧で飛ばされたアイスクリームが顔についた状態で、ぼーっと突っ立っていた。

    またか...とでも言いたいかのように。

    「冷た...ケールさん!やめてください!」

    「ケール!おめーのせいでアイス飛んでったじゃねーか!ケールの分もねえぞ!」

    「ころす...キャベ...がああああああああああああっ!!!!!!!」


    勢いよく爆音をあげ踏み出したケールが狙うは、もちろんキャベ。

    ケールは変身し、巨大化した全身の筋肉を揺らしながら、物凄いスピードで突進してくる。

    避けきれないと判断したキャベは、足を踏ん張り、防御の構えでやり過ごそうとした。

    さっと何かが目の前に現れる。

    それは...尻尾。

    (...しっぽ?)

    そうキャベが思った瞬間、それは吹っ飛び、建物に激突した。
    かと思えば、また勢いよく飛び出して、ケールに向かっていく。

    ケールとそれの拳がぶつかり、2人の動きは止まる。姿がよく見えた時、カリフラとキャベは驚いた。

    あの道で出会った踊り子だった。
    衣装は先ほど吹っ飛ばされた衝撃でボロボロ、胸ははだけ、ボトムも破れている。

    驚いたことにその踊り子は女性ではなく、男性だった。

    黒い髪に、白地に目立つ黒い横縞の尻尾。
    そこそこ厚い胸筋、細いながらも、引き締まった腕。鍛えられた身体が、ボロボロの布の間から垣間見える。

    ケールの素早い拳が何度も何度も、踊り子の胸や腹、頭に当たる。

    あんなに殴られたら普通は気絶してしまうだろう。

    それでも何度も立ち上がり、ケールに向かっていった。

    しかし不思議な事に、踊り子は1度、ケールに拳にぶつけただけで、それ以降反撃しようとしない。
    その動きは、どこかケールの動きを伺っているようにも見えた。



    カリフラとキャベはあの踊り子を助けたいと思ったが、2人の動きがかなり速いので、どのタイミングで助けに入るか様子を伺っていた。

    踊り子はとうとうケールの拳を見切ると、脇に入り込み、後ろに回って背中に張り付く。

    「このムシケラがあっ!!!!」

    騒ぎ、暴れるケールをがっちりとホールドすると、踊り子はキャベとカリフラへ叫んだ。

    「早く逃げるんだ!怪我するぞ!」

    叫んだ顔からは布が取り払われ、女性のような端整な顔がこちらを向く。
    その表情は苦悶で歪んでいる。

    どうやら、踊り子はキャベとカリフラを守ろうとしたらしい。

    だがキャベとカリフラにそんな心配は無用。動きが止まったケールの前へ2人は飛んでいくと、驚く踊り子を他所に話しかけ始めた。

    「ケール!おめーキャベとアタシが仲良くしてたから妬いたんだろ!?
    だから言ってんだろ!こんな男には引っかからないぜ!」

    「こんなって言わないでくださいよ...ともかく、よく分かりませんけど、誤解ですって!
    ボクとカリフラさんはアイスを買ってただけですし」

    必死に説明するキャベをケールは睨みつけると、ぼそっと一言。

    「手...繋いでいた...」

    「それは!カリフラさんが通行人にぶつかりそうになったから、手を引っ張っただけです!」

    ごちゃごちゃと言い訳するキャベに、踊り子は不思議そうな顔をしていた。

    そんな事をしていると、急にホールドしていたケールがまた暴れだす。

    「あっ!暴れないで!...そこの2人!この子の知り合いなら、身体を抑えてくれ!オレがなんとかする!」

    「何とかするって...」

    ケールを何とかできる人間なんて、カリフラ以外に居ないことはキャベには分かっていた。カリフラでもケールを落ち着かせるのに時間がかかる。

    カリフラは、きっとあいつに考えがあるんだ。
    と言って、踊り子に言われた通り、ケールの身体を押さえつけた。

    踊り子はケールに張り付いたまま、両手を大きく開くと、ケールの頭を手で包み込むように触れる。

    「があっ...!...うう...」

    ケールの目が大きく見開かれたと思うと、ゆっくり目を閉じる。
    同時に身体も縮んでいく。

    押さえつけていたケールから、2人は体を離す。踊り子はケールの背中に腕をまわし、抱寄せた。

    「眠ったんだね...ねえ...ごめん、受け取って...オレも...疲れた...」

    そう言ってケールをキャベへ差し出すと、踊り子は力無く、地面に落下していった。それをカリフラが空中でキャッチする。

    「一体何が起きたんだ...?なんだコイツ...」


    人が戻ってくる前に、そそくさとその場を去ったキャベ達は、その日予約していた海のそばのホテルへ駆け込んだ。

    キャベとカリフラは、踊り子とケールをベッドへそっと寝かせると、ベッドそばのソファへ座り込んだ。

    「疲れた〜まさかあそこでケールがキレるとはな〜!」

    「ほんとですね、疲れましたよ...この人のお陰で、ボク達は怪我せずに済みましたけど」

    「ボクは、だろーが」

    「キツイな、カリフラさんは...」

    そう言って、キャベはソファから起き上がると、自分のキャリーケースから、救急キットを探し始めた。

    そんなキャベを横目に、カリフラは踊り子に視線をやる。

    誰でも見惚れてしまいそうな、白い肌。細くも鍛えられた身体は、女性のような美しい曲線も持ち合わせていた。その顔は女性にも見え、中性的で、端整な顔立ちをしている。

    綺麗だな...なんて思っていたら、ケールがムクリと起き上がった。

    「...ここは...?」
    そういうと周りを見回し始めた。

    「ケール、起きたか。ここは宿だよ。ほら、一緒にここに泊まりたいって言って決めたホテル」

    なるほど、というような表情で、ケールは隣に眠る踊り子を見る。

    「もしかして、この人さっきのひと...?」

    暴走時の記憶はあるらしい。

    キャベが、あった、と声をあげると、ベッドに寝かされている踊り子へ駆け寄り、キットから出した綿に消毒液をかけ、それを踊り子の切り傷へそっと当て始める。

    それを見ていたケールは少し考え込むと、「わたしがやる」と言ってベッドから降り、キャベに駆け寄った。

    「へえ...ケール珍しいじゃん。他人の心配するなんてな」

    カリフラが言うと、ケールの眉間に皺が寄る。

    「だってカリフラの姐さん...あたし...この人を傷つけたんだろ?なら...わたしが手当てしないと...」

    そう言うと、キャベからガーゼと包帯を受け取り、踊り子の腕へ巻き始める。

    脚、腹部、腕、顔、至る所に切り傷と青あざができていた。
    肌が白いだけに、傷が目立つ。

    痛々しい姿を見たケールは、自分の行動を後悔した。

    拳を放った手が1番酷い。黒く腫れ、割れた皮膚に消毒液を含ませた綿を当てる。

    「わっ!」と声をあげて、踊り子は痛みで飛び起きる。寝ぼけ眼の踊り子から見えるのは、キャベとカリフラの姿。

    さらに自分の傍らにいるケールの姿に気がつき、また小さく悲鳴をあげると、触れていたケールの手を払い除け、そのまま後ずさりして枕を尻で踏んだところで、どん、という音を立てて壁に背中をついた。

    「おおおおオレを!どうするつもりだ!?」

    急に怯え始めた踊り子に、キャベがすかさず声をかける。

    「落ち着いてください。何もしませんよ。傷ついたあなたをここへ運んできただけです」

    「オレ...何か...した?」

    「そこのケールさんが暴れてしまいまして、 ボクはあなたに助けて貰ったんですよ。」

    「そうだ...そういえば...」

    ゆっくりキャベ、カリフラ、ケールを順番に見ると、下を向いて3秒ほど考え込み、また喋り始める。

    「そうだったね...ごめん、手当...してくれたんだ。ありがとう」

    自分の身体の包帯を見ると、視線をキャベ達にうつし、小さくお辞儀をした。


    落ち着きを取り戻した踊り子に向かって、キャベが喋り出そうとしたとき、「あ!」と何かを思い出したように、踊り子は声をあげた。

    ケールの方を向くなり、四つん這いで近づくと、目の前で両手をパンと合わせて、申し訳なさそうな顔をした。

    「君!大丈夫?ケガない?オレ、必死で...
    女の子に手をあげちゃって、本当にごめん!」

    ケールは驚き呆然とした。

    すかさずカリフラが間に入る。

    「おい、てめーケールがびっくりしてんじゃんかよ!ちけえんだよ!距離がよ!」

    と軽く怒った後に、カリフラはケールは無傷である事を伝えた。

    すると、踊り子はごめん、と申し訳なさそうに鼻っ面をかく。

    キャベはなるほど、と思った。
    何故ケールに攻撃しなかったのか、合点がいった。
    ケールを傷つけないように彼は戦っていたのだ。

    踊り子の人となりが見えたような気がした。

    (この人はいい人だ)

    「謝るのはこちらの方ですよ...良かったらあなたのお名前、伺ってもいいでしょうか?」

    キャベは丁寧に謝罪をし、踊り子の名を聞いた。

    「ネグロ」

    そう言うと、ネグロは惑いながらキャベに手を差し出した。





    ネグロはすぐ帰ると言い張ったが、キャベたちは譲らなかった。
    酷い怪我を負わせてしまった人間を帰すのは、申し訳なかったからだ。

    珍しくケールも鼻息を荒くして、介抱させてくれと頼んだ。

    お詫びに、このオーシャンビューの部屋で2-3泊、養生してもらうことにした。

    「もう包帯は大丈夫だって、ケールさん、ありがとう。オレ怪我の治り早い方だから」

    「何を言うんですか!こんなに酷い怪我...わたしのせいで...」

    「ケールさんの気持ちが嬉しいよ。こんなに他人に良くしてもらったの初めてだから。本当に十分だよ。ありがとう」

    それでも包帯をネグロに巻こうと、ケールは必死になるが、それを手で何度も押しのけられてしまう。
    意地になったケールが、勢いで包帯をネグロの顔に押し付けてしまい、息が出来なくなったネグロは吹き出してしまった。

    そんな彼の姿がツボに入ってしまったのか、ケールは笑い始める。
    ネグロもまた、ケールにつられて笑い始めた。

    介抱しているうちに、少しずつ2人は打ち解けてきたようだ。

    「人が苦手なケールさんが、他人と打ち解けるなんて珍しいんじゃないですか?」

    「ほんとな、最初はあんなにビクビクしてたのに、ケールのやつ強気に出てやがる」

    そう言うと、窓の外の海を眺めるカリフラの
    の眉が、少しだけ下がったように見えた。

    「カリフラさん、ちょっと寂しいんじゃないですか?」

    「ばっ...バカ!寂しいわけあるかよばーか!」

    そう言うとカリフラは少し寂しそうな顔をしていた。



    朝食の豪華さに感動したネグロは、食事もそこそこに、デザートのゼリーの上に乗っかった飴細工のハイビスカスを、じっと眺めていた。

    そんなネグロに、キャベは身の上話を始める。

    第6宇宙のこと、悟空たちとのこと、力の大会のことを、ネグロに語ってみせた。
    その話をキラキラした瞳で聞き入る。

    初めは、感情を出すのも控えめなネグロだったが、段々と大きな声で笑ったり、瞳を潤ませたり、感情豊かな顔を覗かせ始めた。

    そんなネグロの姿を、ケールは少年のようだ。と思った。


    3日目の夜、砂浜でのバーベキュー。
    ネグロはすっかりリラックスしたのか、キャベ達に負けないくらいの食欲を見せた。

    聞くところによれば、ネグロは混血サイヤ人という事だった。
    どんな種族との混血か、詳しくは秘密らしい。

    自分たちもサイヤ人だと伝えると、ネグロは驚き、こんな珍しい事もあるんだなと、嬉しそうに笑った。


    話疲れたキャベたちは、それぞれの部屋のベッドに横になった。

    ケールはカリフラと一緒で、ネグロとキャベが同室だ。

    横になったケールは瞳を閉じるも、どうも眠れない。

    ふと目を開けると、窓から漏れる月の光が部屋に入り込み、風に揺れるレースカーテンの影を部屋にうつしていた。

    ゆらゆらゆっくり揺れる影を眺めていると、黒い影が部屋を横切り、同時に風を切る音が聞こえてきた。

    (今のは...?)

    不思議に思ったケールは音を立てないように、ゆっくりとベッドから立ち上がる。

    少し空いた窓に手を伸ばすと、そのまま観音開きに開いた。

    ギイ...と窓が音を立てる。
    カリフラに気付かれる、と彼女の方を見たが、大の字になって寝ているカリフラは、ピクリとも動かなかった。

    裸足でベランダに出ると、寝巻きの白いガーゼのワンピースが潮風に揺れる。

    そのまま浮き上がり、影の行方を探すように、当てもなく砂浜のへ飛んでみた。


    海と砂浜の境目に近づくと、サンダルが見えてきた。
    それは、ホテルで客用に出されているものだった。

    それと、少し離れた位置に、同じくホテルの客用の寝巻きのシャツ。男性用だ。

    飛ばされないように、石で重しがしてあった。

    このシャツの主が誰なのか、ケールはわかるような気がした。


    砂浜に足をつけ、海の方へ歩いていくと、バシャ、と暗い海から水音がした。

    「ネグロさん...?」

    水音がした方向へ声をかけるが返事はない。

    もしネグロだったら...怪我が治っていないのに、海で泳げるのだろうか。
    もし今のが彼だったら、脚が上手く動かず、溺れてしまったのでは。

    そう思ったケールはワンピースを脱ぎ、下着姿で海に飛び込んだ。

    ネグロの姿を泳いで探す。
    先程の音がした方向へ泳ぎ続けた。

    そのうちケールは泳ぐのをやめ、どこにいるんだろう、魚が跳ねた音だったんだろうかと考えながら、暗い海に浮かび、漂い始める。

    「ネグロ...さん...」

    名前をつぶやくと、突然背後から手が伸びてきた。
    驚いたケールは、勢いよく後ろを振り向く。

    そこには水で濡れ、いつもの跳ねた独特の髪が大人しくなったネグロの姿があった。

    その姿が月に照らされて、まるで水面から顔を覗かせる、美しい人魚のように見えた。

    「ケール...さん...何してるの?」

    ケールの肩に触れるネグロの手が、じんわりとあたたかい。

    「何って...ネグロさんを探しに来たんだよ...まだ怪我...してるし、わたし、溺れたんじゃないかと思って...」

    「心配してくれたんだね...少し痛むけどね。だいぶ回復したから大丈夫だよ」

    続けて、「こんなオレなんかに...良くしてくれて...」と呟くと、ケールは眉をひそめた。

    「どうして...どうしてオレなんかって言うの...?

    ネグロさんはもっと自信を持っていい人のはずなのに...」

    自分で言った言葉が、自分に突き刺さる。
    (自分でも「わたしなんか」と言っていた。

    カリフラにもよく言われた。

    そうやって他人を突き放そうとしていたのかもしれない。

    わたしなんか、と言って諦めていたのかもしれない。

    もっと...自信があったら、できることがあって、もっと好きな人と、仲を深めることができるのに...。)

    カリフラの姿がふっと頭をよぎる。

    そしてネグロを見る。

    (この人も...自信が無いのかな...)


    「ありがとうケールさん。オレあんまり優しくされると甘えちゃうよ...」

    ふふっとネグロは控えめに笑う。

    「ねえ、ケールさんオレ、こんなに楽しいのは、故郷を出てから初めてなんだ。
    ちゃんと個人として尊重してもらえて、優しくしてもらえて...
    ずっと、身体を売ったり、踊ったりする仕事しか、してこなかったから...」

    「ネグロさん...そんな...事を...」

    衝撃的な内容を聞かされたケールは、言葉を詰まらせる。それ以上、どんな言葉をかけたらいいか分からず俯いてしまう。

    ネグロは「ごめん」と謝ってから、少し悲しそうな顔をすると、またニコッと笑って、少し泳ごうか、と提案してきた。

    ケールは頷く事で返事をすると、ネグロは手を握ってもいいか?と聞いた。
    またケールは言葉もなく頷くだけ。

    ケールの両手を握ると、海の中へケールを誘う。

    水中から水面を見上げると、月明かりが差し込み、まるで大きな鱗がゆらゆらと光っているようだった。

    (綺麗だろ。海のこういうところが好きなんだ)

    頭に響いてくる声に、ケールは驚いてネグロを見た。

    (驚いた?オレ、テレパスなんだよ。こうやって、頭の中で話せるんだ)

    そう言うと、ネグロは海の底へ身体を方向転換させると、さらに深い場所へケールを誘う。

    身体から気を発して、明かりを作ると、美しい珊瑚礁がよく見えた。
    どこまでも続くピンクや紫の珊瑚は、暗い海によく映える。

    ゆっくりと珊瑚の上を泳ぐと、時折小さな魚が目の前を横切った。

    (よく見てて、向こうから魚の群れがやって来るよ)

    ネグロが指さした方向からは、美しい七色の魚の群れ。ネグロの光に照らされて、いっそう輝きを増す。

    ケールは目を輝かせて魚たちを見ると、ネグロはケールの反応に嬉しそうに笑った。

    魚の群れは、ケール達の身体の周りをぐるぐると円をかくように泳ぎ回り、また暗い海に消えていく。

    どうだった?と聞くと、ケールは激しく頷いた。かなり興奮したらしい。

    ネグロはまた、にこっと笑顔になると、暗い海の奥に視線を移動させる。


    (こうしてるとさ...外の世界全部忘れられるんだ。

    君も、もしかしたら何か忘れたい事を抱えてるんじゃないかと思ってさ...。

    あの時、君から哀しみと怒りを感じたから...。)

    感じる...とはどういう事だろうと、ケールは不思議に思った。
    同時に何かを見透かされているようにも感じた。
    ネグロの能力と、なにか関係があるのだろうか...。

    (不思議に思うよね。上にあがったら説明するから、もうちょっと我慢して)

    まだ息続くよね?とケールに確認すると、頷いて返事が返ってきたので、そのまま手を引き、海上に導く。

    珊瑚礁に見送られながら、光の鱗を通り抜けると、2人は水面に顔を出した。

    ケールは濡れて顔に張り付いた前髪を指で避けると、ネグロを真っ直ぐ見た。

    「さっきの、どういうこと?」

    ケールの不思議でしょうがない、という顔を見たネグロは、苦笑いをする。

    キャベさん達には言わないで欲しいんだけどと、付け加えた上で話し始めた。

    「オレはシマーという星の生まれなんだけど、そこではみんな、テレパス能力が使えるんだ。
    能力の強さに個人差はあるけど、さっきみたいに頭の中で会話したり。
    相手に幻覚を見せて、相手を落ち着かせたり、逆に怖がらせる事もできるんだよ。
    さっき見せた魚の群れも、実は幻覚なんだ...

    そしてもうひとつ...」

    そして言い辛そうに視線をケールから逸らす。
    「心を読むこともできる」

    そして視線を、顔色を伺うようにケールにゆっくり戻す。

    ケールは特に驚く様子もなく、真剣な眼差しでネグロを見ていた。

    「さっき感じたって言ったのはそういう...事?わたしの心を読んだ...?」

    今も?そう問いかけるケールに、ネグロは責められるような感覚を覚えた。

    そう、今までもこういう反応をされたことがある。

    心を読まれるのは気持ちのいいことでは無い。プライベートを覗かれるのだから。

    打ち明けた事を少し後悔した。

    「心を読むのはオンオフの切り替えができるんだ。今は...何もしてないよ」

    まるで自分が悪いことをした時の言い訳をするように、ネグロは恐る恐る答える。

    それを聞くと、考え込むようにケールは俯いた。

    「そう...自分の気持ちなんて、わかってもらえないと思ってたから...」

    吐露し始めるケールに、そんな事ない、とネグロは言いたかったが、彼女の話す様子を見て、言葉を飲み込んだ。

    ケールは続ける。

    「ネグロさん...わかる...?この...嫌な気持ち...黒くて、重くて冷たい気持ち...自分が...嫌...」


    「カリフラさんが好きなんだね...伝わってくるよ」

    ケールは頷くと、手を強く握り、苦しそうに言葉を出す。

    「わたしだって...姐さんに...でも...上手くいかなくて...どうしたら...」

    上手くまとまらないケールの言葉に、ネグロは聴き入る。

    やがて、ケールの瞳から大粒の涙がこぼれ始めた。

    「つたえたくても...できない...ごめん...こんなつもり...なかった...」

    鼻声になるケールに、ネグロはそっと身体を寄せる。

    「泣いてもいいんだよ」と声をかけると、ケールはぐちゃぐちゃに汚れた想いを洗い流すように、声をあげて泣き出した。

    ケールの哀しい叫び声は、暗い海の波音に吸い込まれていく。


    2人の姿も闇に溶けていった。



    「これ以上、ご迷惑かけられないので。」
    申し訳なさそうにネグロは頭をかく。

    「まだ怪我...治ってないのに...」
    ケールが言うと、キャベとカリフラも頷いた。

    新しい仕事も探さないといけないし、と言うネグロ。
    これ以上居たら、居心地が良くて自分が居着いてしまいそうだったから、早めに去る事を決めた。


    ケールは行って欲しくない。そう思った。
    だが、これを言ってもいいんだろうか。

    今行かせたら、また彼は酷い仕事をする事になるかもしれない。

    他にもある。
    もっと話したいことが沢山ある。

    彼がいる時間は楽しかった。もっと...一緒にいたい。

    伝えていいんだろうか?

    わたしなんかが。

    でもここで言わなければきっと後悔する。

    胸の前で組んでいた手を、ネグロの腕へ伸ばすと、腕をつかむ。

    「わたしの心を...読んで」

    キャベもカリフラも、普段のケールからは考えられない行動に、驚いた様子だった。

    掴まれた本人も驚いていた。
    少しの沈黙の後、睫毛を伏せると、ふっと口元から笑いが漏れる。

    同時にネグロの瞳が潤みはじめた。

    「そんなふうに思われたの...初めてだよ...凄く嬉しい...迷惑じゃないの...?本当に?」

    ケールは黙って頷く。

    キャベとカリフラはよく分からないという様子だったが、後できちんと説明を受け、2人ともケールの意向に同意した。

    実は行く当てもなかったと打ち明けたネグロは、第6宇宙へキャベ達と共に行くことになった。

    新たな居場所を探して。





    おまけ

    「ねえ、キャベさん、ケールさんも。オレの事は、呼び捨てでもいいよ?」

    「それだとボクが納得出来ないので、「くん」でもいいですか?」

    「わ...わたしも...ネグロくん...がいい」

    「じ...じゃあ、オレもキャベ...くんと、ケール...ちゃんで...」

    「カリフラさんは呼び捨てですよね」

    「あーん?アタシはくんって呼ぶガラじゃねーよ」

    「じゃあ...カリフラ...ちゃん?」

    「ハァーーーーーーーーッ!!!!!!!?????」

    「ネグロくん、なかなか強いですね」(ニッコリ)

    おわり
    えす@夢R18多、ケモはR18G Link Message Mute
    2020/09/11 23:40:06

    ケール夢

    出会いの話。いつか漫画にできたらいいねっていう…。文書きではないので、中身が酷いのは許して。 #DB夢

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