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    【FE3H】レター・フロム・現世【ゴーティエ兄弟】
    親愛なる兄上へ

     お久しぶりです。そちらはどうですか。兄上のことだから、おそらく地獄にいらっしゃるのでしょう。
     地獄というからには、おそらくすごく熱いだとか、いや寒いだとか、とにかくつらい状況下にあるのでしょう。
     俺としては、寒ければ寒いほどいいなあと思います。フォドラ統一大戦の折、帝国へなんどか赴きましたし、あのアリルでも交戦したんですが、やはり熱いだとか、温暖だとかというのはいやですね。どんなに肥沃な土地でも、体の芯までしみこむ、あの針のような冷たさがなければ、どうにもものたりません。ファーガスで生まれ、育ち、そしてこの地を愛してしまったからには、熱さに弱くなるのも致し方ないのかもしれません。
     兄上はおそらく、ファーガスの…ひいてはゴーティエなどひどくお嫌いだというはずでしょうから、熱いほうがよろしいのでしょうか。地獄の様子など、考えても答えは出ませんが。
     いつか、そう遠くないうちに、俺もそちらへ行きますので、そこで答え合わせとしましょう。

     さて、こうして今、俺が何故筆を執っているかというと、それには理由があります。なにも、俺だって必ず受け取ってもらえないだろう手紙など好き好んで書きません。いくら趣味が悪いと言えども!(これは、兄上に俺の女性趣味に対して言われた言葉です。つまり、皮肉ですね)
     そんなことはいいとして…、そろそろ短気な兄上は焦れてきている頃でしょうから、本題へ移ります。

     最近、やっと、スレンとの講和がかないました。あなたに、スレンと講和を目指すとご報告したかどうかというのはわからないのですが、あなたが死んでから、いや殺してから、46年になるでしょうか、そのあいだじゅう、ずっと決意としていたのです。もちろん、武力ではありません。弁舌で勝ち取りました。というより、武力…破裂の槍だとか、そういうものを使ってしまえば、意味がないと考えたのです。あと、あの破裂の槍、あれはもうあまり見たくなかったものですから。
     どうやら彼らは、もはやファーガスの土地に(つまり元スレンの土地に、)執着はあまりなく、不凍港があれば、この長く続いたスレン-ファーガス間戦争を終結してもよいということでした。これは、ちょうど今のスレン族首長が反戦派であり親ファーガス派であり、何より若かったからこそそうなれたことと言えます。
     スレンは部族社会で、スレンのなかでもいくつか部族にわかれているのだそうです。それぞれの部族にそれぞれの色があり、そして首長はその各部族のなかで強い者から選ばれるのだということです…ファーガスのように、この家の、この紋章を持つものが首長になるという形ではないらしいのです。運のいいことに、俺がスレン講和を考えている時、親ファーガスの部族から首長が出たんですね。これは本当に運が良かった。おそらく、400年だかなんだか続くスレン-ファーガス間戦争を終結させたと言って俺はかなり褒められることになるかと思われるのですが(実際陛下からはとてもほめられました)、別に俺の弁舌が特別すぐれていたとか、そういうことではないと思うのです。いや、もちろん俺は非常に口がうまいのですが。…冗談です。兄上が、俺が口を開くたびいらついていたのを知っていますから。
     やはり、昔の北伐を知っている者たちはファーガスにいい顔をいたしません。件の彼は最近首長となった者であり、俺の25歳年下です。今の俺が65歳でありますから、40歳程度ではありますが、中々若いように見受けられる美男子です。でも、俺の方が、おそらく顔はいいのです…見てもらえばわかります。
     それで、彼は、俺がつたないスレン語でスレン族と講和をしたいと申し出れば、私もそう思っていたのですよと快く応対してくれました。それでもかなりスレン族内での政治に苦難がありまして、俺もかなり協力しました。
     そうそう、ファーガス国内は様々な事情があり、ランベール王の治世にあった古き臣下たちはみないなくなっていましたので、難しい顔をする者はあまりいませんでした。父上は(兄上は声も聴きたくはないのでしょうが)陛下がよしとされるならいいと何も言いません。父上らしいですよね。兄上は忠誠馬鹿だとか、ひどいものだとブレーダットの駄犬だとかおっしゃっていましたけど、まあまあその通りだと思います…、俺も人のことは言えませんけどね。
     そうして、まあスレンとの講和が叶ったわけです。もちろんその過程にはいろいろあったんですけれども、あんまり長いこと書いていると、兄上の焦れていらいらして仕方のない顔を思い出して、いやな気分になるから、ここらへんで筆を止めておきます。

     閑話休題。
     それで、何故これを兄上へ報告したのかと言えば、要するに、このファーガスにおいて、紋章が必要無くなったということです。そして、破裂の槍も。そういえば、兄上はファーガスがこのフォドラを統一したことをご存知ですか。様々ありまして、フォドラは統一なされました。その上、新しきパルミラ王は反戦派であり、フォドラは武力が(どうしても)必要であるとか、そういうことはなくなりました。もちろん海の向こうに外敵はいるのでしょうが、紋章を持つ子供をなんとか続けていくしかないような、あのファーガスは、もうすっかり様変わりしてしまいました。
     そういうわけで、昨今は俺も破裂の槍を握らずにいます。もう何年になるでしょうか。多分、20年は使っていません…、まあ、多くは俺の強情で握らなかったとも言えます。ほんとうは握るべき、破裂の槍で兵たちを鼓舞するべきとわかってはいましたが、どうしても嫌で仕方なかった。どうしようもなくなって、フラルダリウスから兵を借りたことさえあります。それでも、握らなかったことだけは事実です。
     
     さて、これを報告してどうするのか、ということは、今書いている俺にもよくわかっていません。正直なところ、どうせ兄上は万が一この手紙を受取ろうとも読まずに破り捨てるでしょうから、読まないと算用して書いてしまいますが、今ファーガスに紋章が無くなったところで、兄上がどうなるということもないでしょう。別に、あなたは紋章を称揚する社会をどうにかしようだとか、そういうことはしていませんでしたから、それはようくわかっています。
     これからのファーガスに、兄上のような経験をする子供が限りなく少なくなるかというと、案外そうでもないのかもしれないと、俺は最近考えています。というのも、別に紋章が紋章を称揚しろだとかそんなことを言ったわけではなく、人間が、そういうふうなことをしていたんですからね。紋章が無くなろうとも、他の要因で、あんなふうなことが起こるでしょう…、たとえば、理学だとか。今のファーガスは、槍ではなく剣ではなく馬の手綱でもなく、理学の教科書を子供に握らせるのが流行っています。昔と比べて、理学も広く、日常や仕事にまでつかえるものとなっているのです。しかしながら、魔力とは生まれた時点で決まっているもの。生まれつき筋肉がつきやすいだとかということと同じく、理学がとくいになるかどうかも決まっています、紋章と同じように!
     思えば、兄上が、父上、俺、紋章のない子供を冷遇した領民たちを憎んでいたのは正しい判断だったのかもしれません…、暴力は換算せずに言っていますが、もちろん。
     ですが、紋章という一要素がなくなったことで、なんとはなしにその風向きも変わったのではないかとも思います。…兄上には関係のないことでしたね。ごめんなさい。

     どうしたいかなんて、本当はないのかもしれません。スレンとの講和を推し進めようと決めたのは、兄上が死んで、つまり殺してからですけれど、兄上の死に報いたいとか、そういうことではなかった気がします。いかんせんもうウン十年も前のことなので、わかりませんが。強いて言うなら、紋章をもって生まれてきて、人の椅子を奪って生きている、その生命活動に対する誠実さの発露と言ったところです。書いていて感じましたが、やはり兄上のためかもしれませんね。ただ、もし兄上が兄上でなくてもそうしたように思います…嘘でも、皮肉でもないですよ。
     (そろそろお気づきかと思いますが、俺はこの手紙を下書きもせずに書いております。というより、その場の勢いで書かないと、どうしようもなくなってしまうからです。)
     (再三のことですが、兄上が読まないだろうことを想定して書いています)恥を忍んで書きますね。これは本当の本音です。俺は兄上に認めてほしかったのかもしれない。もちろん、認めてもらえるなんて思いませんし、そうはっきり有意識的に考えて行動に起こしたわけではないのですが。
     フェリクスのところ(フラルダリウスのグレンの弟です、おぼえておられましたか?)の子供、つまり彼にとっては孫ですが、兄弟なんです。二つ離れているくらいの。でも、子供の二つ違いというのは案外大きいもので、はっきりと力の差がでてしまうものです。弟の方は兄にくっついて歩くし、やることなすこと真似をする、とにかくそういうふうで見ていて可愛らしいとフェリクスの奥方がこぼしておいででした。
     思えば、それは俺もとてもよく覚えていることです。兄上が槍を振るのを見て、俺は槍を持ちました。兄上は気持ちの悪いと顔をしかめるかもしれないですけど、残念ながらこれは事実なので、受け止めてください。兄上が馬で駆けるのを見て馬を撫でたし、酒を飲むのをまねしようとして悪酔いしたことだってあります。
     もちろん、兄上は”兄”をやろうとはしていなかったでしょう…むしろ、悪い兄だったことはよくわかります。けれども、弟というのは、どこかで兄を気にしてしまうものだし、そして俺は悪い意味で諦めが悪かった。
     まあ、それはいいでしょう。あまり思い出したくもないことなので…。ともかく、世の中の兄弟とはそういうものだし、弟にとって、兄とは第二の父、つまり超えるべき壁のようなものです。
     だから、いくら不良弟の俺をもってしても、兄上に認めてほしかったという、何とも言えぬ、恐るべき無意識が働いていたのかもしれません…。書いていて、俺でさえどうしようもない心持になってのですから、これを読んでいる兄上も相当なものでしょう。

     さて、結局、俺は何がしたかったんでしょう。ここまで書いておいてなんですが、何も見つからなかったような気もします。先ほどまで書いていた、この気持ちも考えも、すべて俺の中に存在していたものであるように感じています。地獄でお会いした時にでも、お暇でしたら、兄上もいっしょに考えてくださいませんか。おそらく、兄上と俺はかなり似ているところがあります、ですから、良い答えが見つかるかもしれません。

     最後に、兄上。気が向いたら、褒めてくださいね。別に、紋章の称揚をなくしたからとか、そんな恩着せがましいもんじゃありません。ただ、やっぱり、兄として、弟ががんばった時には一言くらいほめてやってもいいんじゃないでしょうか。これもまた、図々しいですか? すみません。人間、年を取ると、ふてぶてしくなっていけませんね。
     それでは、良い地獄ライフを。

    あなたの弟、シルヴァンより愛をこめて


    P.S.
    俺は案外、あなたと再会できることを楽しみにしています。それから、地獄も。あなたがいるのなら、それはなんだか楽しそうに見えてしまうものです…、いや、誤解なきように。弟とは、すべからく、兄のすることが楽しげに、うらやましく、見えてしまうものなのです。



     俺の父が、ずいぶんな筆上手であるということを知ったのは、イングリット殿とのお話の中でのことだった。
    「そうだったんですか?そんな印象、なかったけどなあ」
    「ええ…そうねえ。昔から、どうもそういうことだけはうまかったわね。本を読むのも好きだったし、文才があったのかも。でも、その多くは、恋文だとか、女性とのおつきあいを断る手紙だとかに使われていたけれど」
    「ああ、ゴーティエの放蕩息子?」
    「ああやだやだ。その渾名、やたらと有名になってしまったわ」
    あはは、と俺は声をあげて笑った。父のやたらと女癖が悪いのを説教しては有名にさせているのは、目の前のイングリット殿だったからである。

     イングリット殿はすこしの間ぷりぷりと怒っていたけれど、ふと思い出したように口元に手を当てた。
    「でも、そういう、女性に対する物だけでなくて、他の手紙でも褒められていたわね、今ちょうど思い出したことだけれど」
    「そうなんですか?」
    イングリット殿は懐かしむように目を細めた。たいせつな名前を口にするように、その唇は弧を描く。
    「ええ。先王陛下…ディミトリ王も、シルヴァンの手紙はいつでも読むのが楽しいなとこぼされていたわ。仕事の文書でも、私的な手紙でも、とても読みやすくて、詳しいことは忘れてしまったけれど…手紙がうまいだとかなんとか」
    「へえ!陛下からお言葉を賜るなんて、相当だったんですね。俺、あまり先王陛下のことは覚えてないですけど、なにか恐ろしい人だったと父が言っていましたが」
    「…シルヴァンは本当にそんなことを言っていたの?」
    美しい形をした眉が顰められる。どうやら、父の言葉はイングリット殿にしてみれば真実ではないようだった。
    「違うんですか?いや、父が言っているだけではなくて、ゴーティエ領だとそんなふうに皆言っていますよ」
    「いいえ、お優しい人だったわ、とても。むしろ、それで心配になるくらい…」
    遠い目は窓の外、フェルディアの方向を向いている。彼女は、先王陛下の幼馴染で、父の言うところの五年間と、続く大戦でも最後まで付き従ったひとだ。思い入れの深さも当然であるかもしれない。
    「イングリット殿がそうおっしゃるんだったらそうなんでしょうね…でも、それなら何故そんなことを言ったんでしょう」
    はあ、とイングリット殿はため息をつく。
    「さあ、よくわからないわ…、シルヴァンの考えていることは。まあでも、女性と問題を起こすから、よく陛下は小言をいってらっしゃったの、うーん…それがおそろしかったのかもしれないけれど」
    「ははあ、そうなんですか。確かに、やさしい人が怒ると一番怖いとよく言いますものね。それが広まったのかなあ」
    俺はそのとき、イングリット殿の怒り顔を思い出していたが、彼女は先王陛下のことを思い出していたらしい。いや、これは失礼な意味ではなく、ただ本当に恐ろしいのだ。よく父はあの顔を目にして平気な振りができるものである。
    「そうね!確かに、怒っていらっしゃるときは何よりも恐ろしかったかもしれない。戦地へともに赴いたゴーティエ騎兵団は、陛下、いえ先王陛下の戦場での怒りを見知っているから、ゴーティエではそんな風聞になっているのかもしれないわ」
    ふふ、とおかしそうに微笑む。それだけで、先王陛下の人となりが何とはなしに分かるようだった。ひどくやさしくて、そして怒ると怖い、何よりも、思い出すときに笑顔がこぼれるような人。案外、父の”恐ろしい”と評したのは親愛の証であったのかもしれない。

    「でも、それと同じように、父だって本当のところは分からないものなのかもしれませんよ」
    「? どういう意味かしら」
    俺は、手紙を書く父の姿を思い出していた。
    「筆上手なのだって、それは隠れた努力とか、そういうものに裏打ちされてるかもしれないってことです。

     父がちょうど、スレンと融和を叶えたときかな?確か、あのとき俺はまだ15歳でしたから。父上が、ずーっと何か書き物をしているんですね。で、そのときは報告書でも、私的な手紙でも書いているのかなあと思っていたんですけど。
     でも、そのあと、仲の良かった女中が、ご当主様も浮かれることなどあるのですねえと笑っていたんです。なんだなんだと野次馬根性を出して聞いてみれば、彼女曰く、ちり箱にやたらと手紙の書き損じが入っていたということで。それが尋常じゃない量だというので、どうやら10枚だの30枚だのという数らしい。で、彼女気になってだめだと思いつつちらりとなかを覗き見してしまった、そうすると、友人だかなんだかわからないけど、何らかの手紙…褒めてくれだとか、そういう手紙らしいんです。あの父が褒めろとかいう冗句を使うのはなんだか珍しいように思えて、俺よく覚えています。

     ホラ、やっぱり色々、影の努力というのはあるのではないですか?イングリット殿は父上のことろくでなしだとおもっていらっしゃるかもしれないですが、案外やる男なんですよ、俺に似てね」
    「あなたねえ…確かに、ようく似てますよ!本気になったら、ちゃんとやるところとか、ね」
    イングリット殿は俺のつたない冗句にも破顔し、まぶしそうに目を細めた。
    「だから俺、父上が筆上手だとかいう印象を持っていなかったんですよ。あの文机に向かっていた背中が思い出されて…」
    「道理で。シルヴァンの筆上手なのは、それなりに言われているようなことだったから、なんだかおかしいと思っていたけれど…、近しい間だからこそ見えるようなこともあるということかしら」
    イングリット殿は感慨深げに頷いている。彼女の、年を取ろうとも柔軟に考えを受け入れられるようなところは、とにかく好ましい。俺がそんなことを思っていると、イングリット殿はふと何か思い出したように首をかしげた。
    「でも、わざわざそんな手紙も書いていたのね」
    「わざわざ?」
    「スレン融和が叶った際には、王城でささやかながら祝勝会のようなことをしたのです。シルヴァンがそれに尽力していたのは皆よく知っていたから、昔の仲間たちで、内々にね。 その中に先王陛下も大司教様もいらっしゃって、シルヴァンが褒めろなんて言うのは、まああの二人と、それから…あの祝勝会にいた仲間内くらいのような気がするのよ。
     だから、わざわざ手紙も書いたのね、と思って」
    イングリット殿は不思議そうだ。彼女にもよくわからないところらしい。そうだったのか、確かにそうすると何かが変だ。
    「なるほど。じゃああの手紙、何だったんでしょう?」
    「…さあ、もう聞けないしねえ。案外、また女性に宛てたものなのかもしれないわよ、あなたに似ずにね」
    わからないなあ。父亡き今、二人して頭をひねるほか、無かった。
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    Sep 30, 2022 8:34:02 AM

    【FE3H】レター・フロム・現世【ゴーティエ兄弟】

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