「君に出会えて良かった。
君と共に暮らし、君の成長を隣で見守ることで、わしは、かけがえのないことを知ることが出来たよ。
たとえ、この命がおわるとしても、君の命を守るためにそうなるならば、悲しいことなど何一つない。
心から、そう思えるんだ。」
陽だまりがゆれている草原を、少女は腰のリボンをゆらしかけていく。
少女は時々後ろを振り返り、愛する者がついてこれているか、確認をしてまた走り出す。
その姿をまぶしそうに目でおいかけ、老いた竜は、少女と出会った頃を思い返していた。
人に捕獲され、ズタズタになった荒れる自分の前に現れたのは、吹けば飛ぶような窶れた少女だった。
少女を連れていた男が目前に少女を差し出してくる。
人という人すべてを憎んできた自分は、いつもなら少女を威嚇するかかみつくはずだった。
しかし、少女が持つとは思えないすさんだ瞳と間近で目が合ったとき、己の中に何かが芽生え、ただ少女と目を合わしていることしかできなかったのだ。
あの感情がなんなのか、いまならばよくわかる。
だがそのような当たり前のことさえ、当時の竜にはわからなかった。