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    ピラミッドを崩す蜘蛛の巣「ですから、この『侵略者』の中でもE系統と呼ばれてるタイプは……複数の星の生物のハイブリッドにしか思えないのですよ。多分、他の系統の『侵略者』も同じでしょう」
     人類と『侵略者』とだけ呼ばれる地球外知性体との戦いが始まって2年。『侵略者』が複数……それも最低でも2桁の種族の連合軍である可能性は、早い内から指摘されていた。
    「どう云う事ですか?」
     私はアメリカ軍……と言っても、アメリカは既に大半が『侵略者』に支配されている中、飛び地のように人間の支配地域が有る、と云う状況だが……に協力している生物学者チームのリーダーにそう聞いた。
     彼等のチームでは、我々が入手した『侵略』の遺体……または生体の分析を担当していた。
    「E系統の侵略者の細胞内には、地球の生物に喩えるなら……ミトコンドリアに相当する細胞内小器官が有る。そして、地球の生物のミトコンドリアと同じく、元々は別の生物だった」
    「平行進化と云うヤツですか? 全く違う種類の生物でも、良く似た姿や性質になる事が有ると云う……」
    「ところが……E系統の『侵略者』の細胞本体と……ミトコンドリアに相当する器官では……細胞の仕組みそのものが根本的に異なる」
    「はぁ?」
    「この2つは……共通祖先を持たないのですよ。そして、E系統の『侵略者』と共生している……地球の生物で云うなら腸内細菌に相当する微生物の中にも……E系統の『侵略者』と共通祖先を持たないものが山程居る」
    「えっと……それが……何を意味するんでしょうか?」
    「最初の『侵略者』が……他の惑星への侵略を開始してから……おそらく、『侵略者』に『侵略』された惑星で新しい知的生命体が生まれるほどの期間が過ぎている可能性が高いのですよ。集団としての『侵略者』には……多分、少なくとも数百万年の……下手をしたら数億年の歴史が有る」
    「それが……『侵略者』との戦いに、どう云う関係が有るのでしょうか? 確かに、彼等の科学技術は驚くべきモノですが……それでも、自然科学の諸法則の範囲外の事は出来ない。彼等の目的が地球を支配する事である以上、地球環境そのものを大きく変えるような手段は……その様な手段を彼等が持っていても、余程の事が無い限りは使えない。それが……この2年の戦いの結果出た結論の筈です」
    「そうです……。ただ……彼等と我々では経験が違う……。彼等は人類の歴史を遥かに超える長い期間に渡って他の惑星を侵略し続けているが……我々は地球外知的生命体に侵略されるのは……初めての経験だ」

    「ようやく、奴らの弱点らしきものが判りました」
     同じ日の夕方、私は、エンジニア・チームのリーダーからブリーフィングを受けていた。
    「奴らの指揮官である個体を判別する方法です。見て下さい」
     彼は、そう言うと、ある戦闘記録を会議室の大型モニタに表示した。
     兵士や戦闘車両のカメラが撮影した映像。
     自軍・敵軍の兵士・兵器の位置関係を地図上に表示した動画。
     時々、地図上の敵個体・兵士が赤く光る。
    「これは?」
    「この戦闘記録で……C3−4の識別番号を割り振られている敵個体に注目して下さい」
     別の敵個体が赤く光る。
    「敵が通信に用いていると思われる周波数の電波を出した敵個体は赤く光ります」
     続いて識別番号C3−4の敵個体が赤く光り……続いて、全敵個体が赤く光り……。
     更に、識別番号C3−4の個体が赤く光り……別の個体が赤く光り……また、識別番号C3−4の個体が赤く光ると……更に別の個体が赤く光り……。
    「確かに、識別番号C3−4の個体が通信用の電波を出している頻度が高いな」
    「それだけでは有りません。他の個体が通信用の電波を出した直後にC3−4の個体が、まるで応答を返すかのように通信用の電波を出しているか……C3−4の個体が通信用の電波を出した直後には、他の……特定の……もしくは全個体が、応答を返すかのように通信用の電波を出しているか……。彼らの通信には、この2パターンしか有りません」
    「つまり……」
    「そうです……彼等には明確な『指揮官』が居ます。そして、その『指揮官』は特定可能です」
    「そうか……では……その指揮官を倒せば……」
    「ええ……これからは楽に勝てるようになりますよ」

     数日後、人類の支配地域と『侵略者』の支配地域の境界で、人類側の陸上戦力2個大隊と、約五百個体の『侵略者』の武力衝突が発生した。
     人類側の指揮官は私だった。
    『敵全個体に識別番号を割り振りました』
    「了解。敵指揮官の判別にどれ位かかる?」
    『戦闘開始より、十分から二十分と見込んで下さい』
     やがて、後方でデータを分析しているエンジニア・チームから連絡が有った。
    『識別番号D6−20の個体が指揮官と思われます』
     敵も……おそらくは人類における「軍隊」に近い組織である以上、指揮官は居るだろう。
     だが、困った事に、あまりにも多種・多様な個体から構成されている『侵略者』の軍勢の中で「指揮官」が、どの個体かを判別する有効な方法は無かった……これまでは……。
     つまり、戦闘で勝利するには「我々より明らかに科学技術が進んでいる相手をほぼ壊滅させる」と言う何重ものハードルを乗り越えねばならない事を成功させる必要があった……これまでは……。
     だが……もう、奴らの「急所」を見付ける方法は見出された。
    「識別番号D6−20の個体を集中攻撃せよ」

     だが、敵は……多少個体が減った以外は、何1つ行動パターンを変えなかった。
     つまり、例によって例の如く、我々が不利なままだと言う事だ。
    「おい……どうなってる?」
    『識別番号U24−8の個体が指揮官の役割を受け継いだ模様です』
    「了解。識別番号U24−8の個体を集中攻撃しろ」

    「おい、これで5回目だぞ。奴らには、指揮官の代りが何匹居るんだ?」
     既に、撤退を決定すべきだった。我々と敵のどちらが優勢か? と云う問いには、最早意味は無い。我々は……そろそろ「敵の損害」「自分達の損害」を正確に把握する事にさえ支障が出る程の損害を受けたいたのだから。
    『ひょっとしたら……我々は……とんだ勘違いをしていたのかも……』
    「はぁ?」
    『我々が指揮官だと思っていたのは……どの個体でも出来る単なる通信の中継役……有線LANに喩えるならHUBに過ぎない何かかも知れません……』
    「ま……待て……だとしたら……本当の敵指揮官はどれだ?」
    『そ……そんなモノ……居ないのかも知れません……。ひょっとしたら……奴らは……上下関係や指揮系統が無くとも機能出来る組織……』
    「そ……そんな馬鹿……」
     いや……待て……地球にも……そんな「組織」は有った。
     まだ、地球人同士で戦争をしていた時代、ゲリラやテロリストの中には……「細胞」同士に上下関係が無い「組織」も確かに存在した。もちろん……それは……小規模な場合が大半だが……。
     いや……冗談じゃない……。
     我々のような正規軍は……通常は正規軍同士の戦いを想定したもので、ゲリラやテロリストとは……一部の特殊部隊を除いは極めて相性が悪い。
     では……正規軍以上の武力と、ゲリラやテロリストのような正規軍と相性の悪い戦法・組織を兼ね備えた軍事勢力が有ったとしたら……。
     その時、後方のエンジニア・チームが乗っている車両が破壊された……。
    「ま……まさか……」
     そうか……。
     地球の軍隊は……「正規軍以上の武力と、ゲリラやテロリストのような正規軍と相性の悪い戦法・組織を兼ね備えた軍事勢力」との戦闘など、ほぼ経験が無い。
     だが……多分、奴らは……地球の軍隊に似たタイプのものを含めた……ありとあらゆる戦法・組織との戦いを経験している。
    「こ……こ……こ……こ……こ……ころ……」
     しまった……。
     我々が……「何が敵の弱点だと誤解していたか?」を敵に知られたのなら……それは、同時に「何が我々の真の弱点か?」を敵に知られたに等しい。
     平和だった時代の娯楽大作映画に良く出てきた「指揮官を倒されると全個体が機能停止するマヌケな侵略者」。……あれは……我々の姿に他ならない。
    「は……は……は……は……早く……殺して……くれっ……‼」
     私の精神は……死以上の恐怖……「確実に来る死を待ち続ける恐怖」の前に崩壊を始めていた。
    便所のドア Link Message Mute
    2021/01/16 20:46:13

    ピラミッドを崩す蜘蛛の巣

    「侵略者」の体を調べた結果判明した訳の判らぬ「事実」。
    それこそが……「侵略者」と地球人の根本的な違いの一因だった。
    「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「pixiv」「Novel Days」「GALLERIA」「Novelism」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。
    #SF #侵略もの

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