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    相談役秘書妹:2月(1)姉:4月妹:5月姉:7月妹:4月姉:9月妹:大学時代(1)姉:10月妹:大学時代(2)姉:2月姉:3月妹:2月(2)妹:2月(1) 今の時代、古い習慣になってしまったらしい……。
     しかし、毎年、私は秘書から義理チョコをもらう事になっている。
     私のような年寄が引退するのを機に、この習慣もやめるようにすべきかも知れない。
     今年や来年と云う事は有るまいが……十年以内には一線を退き、若手に道を譲り……さて、その後は、どう生きていく事にしようか?
     今年は……秘書の手作りチョコだった。
     箱の蓋を開けると……そこに有ったのは……。
     チョコの上に有ったのは……何だ……これは……?
     新聞記事のコピーだ……。それも……様々な新聞の……。
     だが、報じている内容は同じ……でも……そんな馬鹿な……。
     良く見ると、赤いペンで、新聞名と日付が書かれていた。
     どの記事にも……「本日午前中」と書かれている所を見ると……夕刊の記事なのだろうか?
     二〇〇×年三月十四日……。忘れもしない……私が……ずっと仕事一筋だった私が……四十半ばを過ぎて、初めて結婚し……家庭を……。
     いや……何かがおかしい。記憶に……曖昧な点が……。
     うわああああ………っ。……お……思い出した……私は……私は……。
    姉:4月 ニュースでは景気は良くなっていると言っているのに、結局、就職先は見付からず、人材派遣会社に登録する事になった。
     そして……すぐに仕事が決った。
     だが……その仕事は……。
     他社への派遣ではなく……人材派遣会社内の仕事だった。
    「ウチの会社の役員の秘書をお願いしたいのですが……」
     派遣会社の担当の人は、そう切り出した。
     五十前後ぐらいの男の人だった。
     太り気味だが、愛想の良さそうな人だった。
     だが……気になる点も有る。
     髪の毛の乱れ……。髭の剃り残し……。眼鏡のレンズの汚れ……。充血した目に目脂……男だとしても気になるほどの顔の肌荒れ……これは、花粉症だろうか?……そしてどことなく疲れた表情。
    「役員の方の秘書ですか……?……でも、大学を出たばかりで、そう云う経験は……」
    「ああ……その役員と云うのは、ウチの創業者の1人で……結構な齢なので、PCやスマホが全然使えなくて」
    「ええっと……では?」
    「はい、その重役のメールやスケジュールの管理に……あと、PCからの勤怠や旅費・経費の入力や書類のプリントアウトの方法も良く御存知ないので、代りにやっていただきたいので……時間は……」
     月〜金の定時。土日・祝日・年末年始は休み。他にGW中の平日と夏のお盆の時期に特別休暇。
     給与は、大卒の初任給としては……やや高め。
    「ただ……」
    妹:5月「今月の予定をプリントアウトしておきました」
     GW明けの最初の平日だった。
    「ああ……どうも……」
     まだ……ヤツは、尻尾を出していない。
     しかし……状況証拠は揃いつつ有る。
     創業者の1人で……かなりの齢。そう聞かされていたが、まだ、若々しい。
     五十前後……いや、人によっては四十代だと思うかも知れない。
     貫禄は有る……。しかし……親や大学時代の教授……五十過ぎの齢の人間を見慣れた私からすると違和感が有る。
     聞かされていた年齢だと、老眼でもおかしくないのに……その様子も無い。
     ある程度、距離が離れているモノも、近くのモノも眼鏡もコンタクトも無しに見えるようだ。
     そして、歩き方……その他の動作……どう見ても……五十前の人間のモノだった。
    姉:7月「あ……あの……」
    「ん?」
     相談役の秘書になる事が決った時は「齢で時代の変化に追い付けてない方なので……セクハラ・パワハラめいた事を言ってしまうかも知れない」とは聞かされていたが……思っていた程は酷くない。
    「恋人は居るのか?」
    「結婚する気は有るのか?」
    「なんなら、私がいい人を紹介してあげてもいいぞ」
     その程度だった。
     私の世代からすれば非常識だが、相談役の世代の人としては……マシな方だろう。
     だが……この日は……何かがおかしかった……。
    「どうした? 具合でも悪いのかね?」
    「そ……そうではなくて……」
    「でも……顔が真っ赤で、汗もかなり……」
    「その……ただ……」
    「ただ……何かね? 誰か呼んだ方が良いかね? それとも……今日は休む……」
    「いえ……その……部屋に冷房を入れてもよろしいでしょうか?」
    「あ……ああ……すまない気付かなくて……」
     私も、もっと早く気付くべきだった。
     部屋の片隅のコートかけには……コートとマフラーがかけてあった。
     今日は、朝から三十度近い気温だったにも関わらず……。
    妹:4月「経済学修士号をお持ちですか……はぁ……」
    「ですが……修士号は何とか取れましたが、このまま研究者の道に進むのは……」
    「何か……問題でも有りましたか?」
    「いえ……理系でも大学の研究者としては食べていくのが厳しい時代ですから……まして文系だと……。なので、この辺りで研究者になる夢を諦めようと思ったんですが……女で文系の修士号持ちだと逆に就職先が無くて……」
    「はぁ……そうですか……。では、登録しておきます。御仕事が見付かりましたら……また連絡を差し上げますので……」
     ようやく姉が入っていた人材派遣会社への登録に漕ぎ着けた……。
     私が大学に入る直前……姉は死んだ……。忘れもしないホワイトデーの日だった……。
     それから……6年間……この会社の事を調べ続けた……。
     そして……判った事が有る……。
     十数年前……派遣法改正に伴う政治スキャンダルの最中さなかのホワイトデー……その日に全てが始まったらしい事を……。
    姉:9月 「相談役」と云うポストは……そんなモノなのかも知れないが……私の直属上司である、この会社の「相談役」は、それらしい仕事を何もしていない。
     週に1度ぐらい社長や他の役員との短い打ち合わせが有る程度。
     気になっても本人に聞くのも何だが……よくよく考えたら、社内に、この手の事を、それとなく聞けるような相手が居ない。
     そうだ……この半年……仕事上で深く関わった人は……相談役ぐらいしか居なかった。
     ふと……職場のPCからネットの検索サイトで相談役の名前で検索をしてみた。
     WikiPediaに相談役のページが有った。
     バルブ期から何度も会社を作り、〇〇ゼロゼロ年代前半にこの会社を創業。その1〜2年後には経団連の理事になっている。
     言わば、経済界の大物……下手をしたら「経済界の伝説の人物」なのかも知れない。
     つまり……相談役がこの会社の役員に名前を連ねているだけで……会社にとってはメリットが有ると云う事なのだろうか?
    妹:大学時代(1)「WikiPediaのこの項目に関して判らない点が有るんですが……」
     私は……死んだ姉の上司だった、ある人材派遣会社の重役に関して調べていた。
     WikiPediaに、その人物についての項目が有ったのだが……ページの最初に気になる注意書きが有ったので、共通科目である「ネットリテラシー」の担当の先生に、スマホでそのページを見せながら質問をした。
    「ああ、これは……編集合戦が有ったので、この項目の更新そのものが凍結されてるようですね」
    「編集合戦ですか?」
    「この『履歴』と云うリンクから、この項目の過去のバージョンが見れますので……それを辿れば、どんな編集合戦が有ったかは判りますね」
    「ああ、なるほ……えっ?」
    「どうしました……?」
    「あ……あの……この人……少なくとも、私が大学に入る直前まで……私の姉の上司だった筈なんですが……」
    「え……でも……」
     何者かに消された、その驚くべき記述の出典として……ある新聞記事へのリンクが貼られていたが……だが、十年以上前のその記事は新聞社のWebサイトには残っていなかった。
    姉:10月 上司である相談役の過去の著書をAmazonで見付けたので、古本で買ってみた。
     もう十年以上前の本だ。
     一九六〇年代に、中小企業の社長の息子として生まれたが、中学生の頃にその会社は倒産。
     一転して生活保護家庭になり……それでも何とか奨学金で都内の大学へ進学。だが、その頃には両親ともに死亡。
     ご両親の会社が好調だった頃、両親が映画好きだった事から、有名映画会社へ就職するも……あくまで映画の作成・配給をやっているのは子会社で、本社は、都市部に持っているビルや土地の賃貸が中心の言わば「不動産業」だった。
     どうやら「シネコン」と云う言葉が生まれる以前から、その大手映画会社は「映画を客寄せにした商業施設の運営」をやっていたらしい。
     そして、相談役がその映画会社に就職した頃はバブル期。
     勤め先が都内に持っていた遊休地に若者向けのディスコやバーを作るアイデアを思い付き……。
     そこから相談役の企業家としての人生が始まった。
     勤め先を退社し、自分が手掛けたディスコの役員になったが……やがて、経営を乗っ取られ……。
     それから何度か、新しい事業を始め……そこそこ以上の成功をしては、信じていた相手に裏切られ、会社を乗っ取られる、と云う事を繰り返し……そして、二一世紀初頭の労働者派遣法改正を見込んで作ったのが、この会社だったらしい。
     温厚に見える相談役も……苦労の連続としか言えない人生を辿ってきたようだ……。
    妹:大学時代(2) やはりおかしい。
     少なくともネット上の情報だけでは……死んだ姉の上司だった人物が、ここ十年ほど何をやってきたか、全く追えない……。
     あのWikiPediaの項目の過去履歴に有ったとんでもない記述は……いたずらなどではなく、本当だったのだろうか?
     そして、大学の夏休みを利用して、東京の国会図書館で……あの新聞記事が実在するかを確かめてみた……。
     その新聞だけでは無かった……。主要な全国紙と関東の地方紙を調べると……やはり……そのニュースが報じられていた。
     冗談じゃない……。ならば……姉の上司は……姉が死んだ時点で何者だったのだろうか?
     そして、もう1つ……。
     「その事」について報じている新聞記事を見る限り……姉が登録していた人材派遣会社は、当時、労働者派遣法が人材派遣会社に有利な内容に改正された際の政治スキャンダルの渦中に有ったらしかった。
    姉:2月『すいません。古臭い慣習だとは思うのですが……』
     4月に面談をして以降、一度も会った事のなかった人事の担当者から私宛にメールが来ていた。
    『ウチでは、役員の女性秘書が役員に対してバレンタインに義理チョコを送る慣習が有るので、お願いいたします。何でしたら、チョコ代は経費で落とす事も可能です』
     たしかに古臭い慣習だ。
     とは言え……上司は少し変った所も有るし、考えの古い人だが……悪い人ではない。
     私は……高価たかめのチョコを自腹で買って、バレンタインデーの朝、相談役に渡した。
    「え……っと……これ……聞くまでも無いと思うけど……義理チョコだよね?」
     私は、明確に答えず……曖昧な笑みを返してしまった……。
    姉:3月「……くん……♥」
    「ひ……ひぃ……っ……」
     相談役が苦しげに呼んだ名前は……私の名前では無かった……。
    「ぐ……ぐぃびぃずあえ……よぐうぇるえぶわっ……うげろっれ……ぎゅれはまへぇ……っ♥」
     相談役の右手には……クッキーらしき箱。
     左手には……そう……恋愛ものの映画やドラマで良く見るような……指輪が入った箱。
     目には涙。鼻と口からは血が流れ……。
     そして……喉には……愛用の万年筆が突き刺さっていた……。
    「い…いや……」
     ホワイトデーのその日、出社し、相談役の部屋に入った途端……目に入ったのは、その光景だった。
     は……早く……そ……外に……ドアは……ど……どこ?
    「し……しご……と……ひとすじに……いきて……きて……こいを……する……ひまなど……なかった……」
     相談役は……私に近付いて来る。
    「で……でも……この……としに……なって……きみに……めぐりあえた……あい……してる……よぉぉぉぉ……けっこんっ…してぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅでででででぇぇぇぇぇっ♥」
     こ……これは……愛の告白なのだろうか?
     でも……断ったら……何が起きる?
     私は……恐怖で……失禁し……足腰に力が入らなくなり……床に座り込み……そして……首を縦に振ってしまった。
    妹:2月(2)「き……君……が……相談役の秘書かね? な……何をしたっ?」
     薄くなりつつある髪を振り乱した社長が……私の前にやって来て……そう質問した。
     会社のビルのあちこちの窓が割れ、そこから黒いガスのようなモノが吹き出し続けていた。
     異変に気付いて逃げようとした人達の中には……割れた窓ガラスが上から落ちて来たせいで大怪我を負った人も居るらしく……救急車やパトカーが山程来ていた。
     と言っても、駆け付けた警官達も、何が起きているのか判らぬまま、呆然としていたが……。
     周囲には……哀しげな嗚咽が……いや、「哀しげな嗚咽」なのに、こう表現するのは変な気もするが……轟いていた。
     ビルの中に居た人間は……何とか逃げ出す事が出来た……ように見えるが……ひょっとしたら、逃げ遅れた者も居るかも知れない。
     逃げ遅れた人がどうなるかは……全くもって想像も付かないが……。
    「相談役に教えてあげたんですよ……。『あなたは十数年前のホワイトデーに、政治スキャンダルの責任を負わされて自殺した。貴方は死人だ』って事を」
    「な……な……な……な……」
    「何故、そんな事をした? 何故知ってる? ってきたいんですか?」
     社長は、口をパクパクさせながら、首を縦に振り続けた。
    「ああ、あの相談役の秘書だった私の姉も、貴方達が人身御供にしたんじゃないんですか……? あの怨霊を鎮める為のね……。姉の死因は『急性心不全』でしたが……調べてみたら『死因は不明』の場合に死亡診断書に『急性心不全』って書かれる事は良く有るみたいですね」
    「ああああ……姉ぇッ?」
    「何故か……相談役の秘書は……毎年3月で居なくなり、新しい人が4月に就任。全員を調べきれた訳じゃないですが……私が調べ上げる事に成功した7人は、みな……顔立ちや髪型が私や姉に似ていて……ホワイトデーに『心不全』で死んでる」
    「お……おい……人事部長……な……なんで……」
    「え……えっと……」
    「な……なんで……以前の秘書の関係者を……新しい秘書にするなんて……あ……あまりに……う……迂闊な……」
    「だ……だ……だ……だって……その……」
    「気付かなかったみたいですね。私と姉は……子供の頃に両親が離婚したせいで、顔は似てるけど、名字が違うんですよ」
     あの「相談役」は……十数年前、労働者派遣法改正を巡り、この「業界」に有利な「改正」になるように政治家に働きかけた……もちろん政治資金規制法その他に引っ掛かるような「働き掛け」だ……と云うスキャンダルの責任を一人で負う羽目になり……ホワイトデーの日に、会社の自室で愛用の万年筆で喉を突いて自殺した。
     そして、あくまで都市伝説だが……息絶えるまで時間がかかり……あまりに無茶苦茶な「遺言」を……第一発見者である自分の女性秘書に「愛の告白」と「プロポーズ」をやった、と云う話まで有った。
     姉が死んでから……ずっと、この会社と「相談役」について調べ続け……「相談役」が既に死んでいる事は早い内に判った。
     WikiPediaの変更履歴に有った「相談役の自殺」と「相談役が死の直前に巻き込まれた政治スキャンダル」の記述を執拗に消し続けたIPアドレス……それが、この会社のものである事も……。
     では……姉の上司だった「相談役」とは何者なのか?……誰かが何かの理由で「死んだ相談役」を演じ続けているのか? それとも「怨霊」のような超自然の存在なのか?
     最後まで確証は得られなかったが……どうやら、後者だったようだ。
     さて……姉のあだを討てたようだが……困った事に、仕事を失なってしまった。
     そんな呑気な感想を抱いてるどころでは無い事態を引き起こしてしまった気もするが……。
    便所のドア Link Message Mute
    2021/03/16 15:04:00

    相談役秘書

    悪い人では無いらしいが……何かがおかしい会社役員の秘書になった姉妹の運命は?
    「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「pixiv」「Novel Days」「ノベリズム」「GALLERIA」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。
    某サイトの「バレンタインデー/ホワイトデーをテーマにしたホラー」の企画向けに投稿したものの転載です。
    #ホラー #ホワイトデー #バレンタインデー #残酷描写あり #怪談

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