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    第四章「諸神之黄昏 ― Ragnarok : Battle Royal ―」The Creature (1)護国軍鬼・零号鬼:二一世紀高木 瀾(らん) (1)百瀬 キヅナ (1)百瀬 キヅナ (2)玉置レナ (1)関口 陽(ひなた) (1)関口 陽(ひなた) (2)高木 瀾(らん) (2)秋光清二 (1)百瀬 キヅナ (3)秋光清二 (2)高木 瀾(らん) (3)The Creature (2)高木 瀾(らん) (4)The Creature (3)The Creature (4)高木 瀾(らん) (5)百瀬 キヅナ (4)The Creature (5)関口 陽(ひなた) (3)高木 瀾(らん) (6)緋桜 (1)高木 瀾(らん) (7)玉置レナ (2)緋桜 (2)高木 瀾(らん) (8)関口 陽(ひなた) (4)緋桜 (3)望月敏行関口 陽(ひなた) (5)関口 陽(ひなた) (6)護国軍鬼・零号鬼緋桜 (4)英霊顕彰会 大宮司 田安俊孝高木 瀾(らん) (9)終章:Angst私は女王でも化物でもない。
    私こそが死を司る神だ。
    ところで教えてくれ、弟よ。
    お前は何の神だったっけ?

    タイカ・ワイティティ監督「マイティ・ソー バトルロイヤル」よりThe Creature (1)「前から、1つ聞きたかった事が有る……」
     俺は「賢者ワイズマン」を名乗る狂人にそう言った。
    「何だい?」
     青白い痩せた顔。
     本当かどうか知らないが、安い犯罪モノの映画やドラマの「サイコパスの猟奇殺人犯」「頭のおかしい冷血漢」風に見えるような顔に、わざわざ整形した……そんな話も聞いた事が有る。
     白の背広にワインレッドのYシャツに金色のネクタイ。
     目がチカチカするほど派手な……複数の色に染めた髪。……いや、どう見てもヅラだ。
     顔にはニヤニヤとした表情が浮かんでいる……いや、良く見れば、貼り付いているとしか呼べない。
     普通の人間の「笑い顔」なら、1秒後には……笑い続けていたとしても、全く同じ「顔」ではなくなっている。顔の筋肉に何らかの動きが有るだろう。
     しかし、こいつの顔は……1分後も5分後も、全く同じ「笑顔」だ。
     知らないヤツが、こいつの顔を分単位で見続けていたなら……リアルに作られた仮面だと勘違いするだろう。
    「何故、あんたが……自分の体に、この玉っころ埋め込まな……」
     俺が全部言い終る前に、ヤツの背広とYシャツのボタンが飛んだ。
     胸の中心には、ヤツの心拍数を測定する装置デバイス。ヤツは、これを利用して、自分が死んだ場合の様々な「保険」をかけている。
     俺に埋め込まれている「爆弾」もその一つだ。
     だが、それ以外にも、ヤツの体には手術跡がいくつも有った。
     そして、ヤツの胸に有る傷跡の中には……その傷跡の位置と形は……明らかに……俺の胸に埋め込まれているモノと……ほぼ同じ……。
    「そりゃ……試してみたさ。こんな、すげぇ〜オモチャを操縦するなんて、男の子の夢だ。俺だってよう……心だけは、まだ、男の子のつもりだぜ。……まぁ、その……変なクスリをキメ過ぎた副作用で、男として肝心なモノが勃たなくなっちまったが……」
     続いて……ヤツはヅラを取る。
     禿頭に有るのは……無数の縫合あと
    「けどよ……。どうやら、おめぇの体に埋め込んだモノは……脳や心をいじられてるヤツに埋め込んでも……ウンともスンとも言わねぇらしいんだよ……」
     そう言う事か……。
     だから……ヤツは……俺のような「脳や心をいじられて」いない人間を、これの操縦士にするしかないのか……。
    「そろろそ到着だ。しっかりやれよ……。あと……贋物の『靖国神社』が持ってる……これの予備機を間違っても壊すんじゃねぇぜ」
     俺の体には……この「国防戦機・特号機」を動かすのに必要な「ある物」と共に……爆弾も埋め込まれている。
     ヤツの意志で好きな時に爆破出来る……そして、ヤツが死んでも、これまた爆破する……爆弾が……。
     どうすればいい?
     どうすれば……この……ロクデモない「絆」を断ち切れる?
    護国軍鬼・零号鬼:二一世紀 二〇〇一年九月一一日。
     全ては変った。
     ニューヨークのビルに突っ込んだ2台の旅客機。
     空港の管制室と旅客機の通話記録は、旅客機の乗員が、人の心を操る事が出来る「何者か」に支配された事を示唆していた。
     俺達のような「普通の人間にない能力ちから」を持つ者の存在を、そうでない人間達が知る事になった。
     アメリカは何故か中東の国と戦争を始め……韓国と北朝鮮は1つの国になったが、たった半月で終った「第2次朝鮮戦争」は日本やロシアや中国に思わぬ影響を与え……。
     多分、9・11と、俺達のような「異能力者」の存在が知られる事は、巨大な爆弾の信管のようなモノだったのだろう。
     世界の多くの国々で、国そのものの機能が麻痺していったらしい。
     日本では、元から有った都道府県警に加わて日本全国を担当範囲にする「広域警察」が設立された。
     その中の1つが「異能力者を狩る為の異能力者」を求め始め……俺は、その一員となる事に成功した。もちろん、雇い主からすれば、俺の前歴には不明点や不審な点が山程有ったが、俺の桁外れの力は手放すには惜しいモノだったのだ。
     一方、アメリカは大統領暗殺を契機に、国が2つに割れ、その片方が日本を実質的な属国にした。
     それに反対する勢力の鎮圧の為に、第2の自衛隊「特務憲兵隊」が創設され……。
     更に、どうやら、高木美憲よりのりの子孫が、俺の紛物まがいものの生み出したらしく……。
     それまでの八十数年の人生より、遥かに慌しく思える十数年の月日が過ぎる中、あれが起きた。

     その時、嫌な「何か」を感じた。俺に似た力を持つ誰かが、何か、とんでもない事をしでかした。それを本能的に察知したのだ。
     その日の内に、東京に、とんでもない量の火山灰が降り、東京の都市機能は完全に麻痺した。

     流石に、この時ばかりは奴らと協力せざるを得なかった。
     「護国軍鬼」……高木美憲よりのりが俺に付けた呼び名と同じ名前を名乗るその「鎧」の金属装甲部分には、独特の虹色の光沢が有った。……そうだ……高木美憲よりのりが俺に託した軍刀に似て非なる……。
     奴らと共に富士の噴火で被災した無数の者達を助け……その何倍・何十倍……ひょっとしたら何百倍もの者達を、力及ばず助ける事が出来なかった。

     政府要人の大半は行方不明になり、日本は国連機関により暫定統治される事になった。
     首都圏・甲信・中部には、火山灰と……そして大量の火山性ガスによる酸性雨が1年以上に渡って降り続け……国連と新しく設立された「株式会社・日本再建機構」は東京及びその近辺の再建を諦めた。
     俺が属していた「対異能力犯罪広域警察」……通称「レコンキスタ」……の指揮系統も大きく変り……。

     日本を大きく変えた、あの日から十年近くが経ち、俺は「レコンキスタ」の特殊部隊「ゾンダーコマンド」の最高指揮官にして……「レコンキスタ」の事実上の支配者となっていた。
     そう考えるようになった切っ掛けが何だったのか、俺自身にも判らない。
     慌しい二十数年が一段落したからなのか?
     それとも、ようやく、俺が友の願いである「この国の弱い者・傷付いた者を助ける」力を得たからなのか?
     俺は……自分が、とんでもない間違いをしてしまったのでは無いか?……そう思うようになっていた。
    高木 瀾(らん) (1) 久米達が持ち込んだ武器の中でめぼしいモノを、これまたヤツらが乗って来たトラックに積み込み終った。
     対物ライフル。
     大口径の機関銃。
     迫撃砲。
     グレネードランチャー。
     ロケットランチャー。
     「あれ」にダメージを与える事は可能だろうが……「人工の浮島」の中の更に人の多い観光地で使うのは……最後の手段だろう。
    「兄貴、これの運転を頼む」
    「……結局、僕か……」
    「なぁ……これから……何が起きるんだ、一体全体?」
     関口がそう聞いてきた。
    「多分……さっき以上の大騒動だ……」
    『「国防戦機・特号機」とバンとトラックが各1台。さっき「有楽町」に到着した船から上陸した。「昭和通り」を「九段」方面に向っている』
     後方支援チームから無線連絡。
    「で……作戦は?」
     私は、そう、苹采ほつみ姉さんに聞いた。
    「……想定外の事が起き過ぎた……。あからじめ考えてた手は、全部、無意味だ」
     最大の想定外……それは……「死霊をくらって動力に変える兵器」が3つも……「死霊使い」が仕切っている町に集結する事かも知れない。
    「出たとこ勝負か……」
    「ああ……だが、『本当の関東』の例の犯罪組織のボスが船の外に出てたなら……必ず生け捕りにしろ……。そいつの今までの手からすると……そいつの生命いのちと……あの船の中に有る有害物質爆弾ダーティー・ボムの起爆装置は連動している。そいつが死んだ時大量の放射性廃棄物で玄海灘が汚染される事になる」
     「敵」に知られていてこそ意味が有る手か……。その犯罪組織のボスも、案外、使い勝手が悪い手を選んだのかも知れない。
     ヤツの「敵」である私達から見ても、かなり迷惑な手だが。
    百瀬 キヅナ (1) 私が生まれる前……二〇〇一年の九月一一日に起きた、あの事件で、それまで、ほんの一部の人間しか知らなかった事を、人類のほぼ全てが知ってしまった……そうだ。
     この世界は……本当の意味で「近代」を迎えてなどいなかった事を……。
     「科学技術と人間中心主義ヒューマニズム」の時代である「近代」と、「魔法使いや超能力者や変身能力者や『人であって人でない古代種族』が存在し、魔物や悪霊や妖精や精霊が跳梁する」時代である「中世」が1つの世界の中に重なって存在していたのだと云う事を。
     ただ、それは、私達にとっては、あまりに当り前の事なので、その「事実」を全人類が知った時の「衝撃」は……逆に想像する事さえ困難だ。
     私達の世代は、三〇代半ばより上の連中から、こう呼ばれている。
     ……デジタル・ネイティブ……「インターネットや携帯式デジタル端末が生まれた時から当り前のように身の回りに溢れていた世代」……。
     そして……アノマリー・ネイティブ……「様々な先天的・後天的『異能力者』の存在が生まれた時から当り前のように知られていた世代」……と。
     だが、流石に、この状況は、そんな世代である私にとっても異常だ。
     ガスマスクを顔につけバックパックを背負った約二十匹の日本猿。
     背中には、コスメの試供品のスプレーボトルほどの大きさの金属缶を括り付けられ、頭部には小型カメラを取り付けられた数十匹のネズミや野良猫。
     同じく小型の金属缶を「背中」に背負った小型の八足歩行ドローンが十数台。
     動物を操る「魔法」と「科学技術の産物」の共同作業。
     ……いや……これこそが……これからの時代の「当り前」なのだろうか?
     もちろん……この時、私は、まだ知らなかった……。
     この世界は「科学技術の時代」と「魔法の時代」だけでなく、更に……「人間の『科学』や『魔法』を超えた『神々』が我が物顔で振る舞っている『神話の時代』」も重なって存在していた事を……。
     そして、この時は、まだ想像してすらいなかった……。
     この夜の内に……「神々」としか呼べない「何か」の力の片鱗を目撃する事になる、と云う事を……。
    百瀬 キヅナ (2) トラックのコンテナ内を改造した部屋。
     そこには、私以外に3人が居た。
     眼鏡をかけた小太りだが身嗜みには気を使ってそうな感じの中年男。
     おそらくは二〇前らしい……おそらくは私より若いらしい痩せ気味の……「男」と言うよりは「男の子」と良いたくなる感じの「男」。
     そして、眼鏡の……これまた私より若そうな……そして、これまた「女」と言うよりは「女の子」と良いたくなる感じの「女」。
     コンテナ内に設置された机には複数のモニタが接続されたPCが人数分。そして、画面には「銀座」港の様子と、ドローンの識別番号らしきものが映っている。
     警備員も警察もほぼ壊滅した港に、悠々と……一台のフェリーが接岸。
     そのフェリーのハッチが開き……。
     大型のバンが一台とトラックが一台づつ上陸する。
     続いて4m級軍用パワーローダー「国防戦機」が姿を現した。
     富士の噴火の前、当時の日本政府は2つに分裂したアメリカの片方である「アメリカ連合国」への服従を決定し、日本はアメリカ連合国の事実上の属国となった。
     そして、この決定を行なった日本政府を、万が一、自衛隊が「国」と「国民」の敵と見做した場合の抑止力として「もう1つの自衛隊」である「特務憲兵隊」が結成された。
     「国防戦機」は、この「特務憲兵隊」を象徴する兵器だ。
     「国防」を名乗りながら、「国」や「国民」を滅ぼしてでも「時の政府」と「宗主国」を守ると云う狂った目的の為に作られた鋼の巨人。
     だが……違和感を感じる。
     私の雇い主である「英霊顕彰会」も、富士の噴火後に「裏」に流れた「国防戦機」を何台も購入し、下衆な見世物や「九段」地区内の警備に使っている。
     しかし……「英霊顕彰会」が所有している機体と、どこか微妙に違う……。どことは指摘出来ないが、形状の細かい部分が違うのは確かだ。
     私を一時的に雇った「本土」の「御当地ヒーロー」達は、この「国防戦機」を「特号機」と呼んでいた。
     特殊な機体らしいが、どう特殊かは……説明に困っているようだ。
     そして……手にしている武器も……。
     そうだ……この「人工の浮島」で使うには……あまりにも……。
     もし、「流れ弾」が地面を撃ち抜けば、「島」の底に穴が空きかねない……。
    「潜入を開始して下さい」
     その時、眼鏡の中年男が指示を出した。
     私は、私の支配下に有るネズミや野良猫を操る。
     何匹もの動物が……そして地上歩行型のドローン……接岸したフェリーの中に入る。
     あるモノは監視カメラの死角を縫って……。また、あるモノは通風口から……。
    有害物質爆弾ダーティーボムの本体を発見」
     やがて、眼鏡の女の子がそう告げた。
     画面に写っているのは、何かの装置の上に設置されたドラム缶。それが全部で8つ。
     その、たった「ドラム缶8つ分」の放射性廃棄物が日本海に流れ出したが最後、洒落や冗談では済まない国際問題が発生する。
     おそらくは、下に有るのが爆弾で、上のドラム缶の中身が……富士の噴火の時に事故を起した原発から持ち出された放射性廃棄物なのだろう。
    有害物質爆弾ダーティーボムの本体そのものの大きさは……案外小さいな……。でも……」
    「変ですね……何で……トラックやクレーンがこんなに?」
     映像は、私が操っているネズミと、他の呪術者が操っている日本猿に取り付けられた小型カメラから送られてきたものだった。
    「この『島』から大きなモノを、いくつも運び出そうとしてたんじゃ……?」
    「何を?」
    玉置レナ (1)「で、何でお前らも来る必要が有るんだ?」
     リーダー格らしい「水城みずき」の着装者はそう言った。
     声からして、二〇代後半〜三〇代前半の女の人。
    「この『島』に入って来た奴は、あたしに似た力を持ってるんでしょ。だったら、あたしが居れば大体の位置が判る」
     まず、あたしはそう言った。
    「ウチの『自警団』の幹部の更に師匠が持ってた呪具が『靖国神社』に強奪されたんだ。『九段』が無茶苦茶な事になる可能性が有るなら……それをブッ壊されるのを防ぐ必要が有る」
     次は……もう1人の「水城みずき」の着装者。
    「え〜っと、ボクも似たような理由。戦前に日本軍が、ボクの先祖から奪ったモノが『九段』に有る」
     最後は台湾から来た女の子。
    「ちょっと待て、何を奪われたんだ?」
     瀾はファイアーペイントの「水城みずき」の方にそう聞いた。
    「摩利支天の呪力が込められた鏡だって聞いてる」
     瀾とリーダー格らしい「水城みずき」の女の人は顔を見合せた。
    「死霊使いが……死霊を浄化する太陽の呪力を持つ呪物を他のヤツから奪った訳か……」
    「そこに、この『護国軍鬼』と同じ仕組みで動くモノがやって来た……と……」
    「ウチの幹部の師匠だけじゃない。『本土』『Neo Tokyo』問わず……あっちこっちの『魔法使い』や『呪術師』から……」
    「まさか、全部、『死霊』か『太陽』のどっちかに関わりが有るものか?」
    「え……と……何で判った? 私達が把握してる限りじゃ……」
    「多分……『靖国神社』は、まだ、動かせてはいないだろうが……『九段』には……『国防戦機・特号機』の予備機か予備パーツが有る。『国防戦機・特号機』の狙いは、予備機または予備パーツの回収だ」
    「えっ?」
    「『本当の関東』の犯罪組織が、『国防戦機・特号機』の再起動に成功した時に……『靖国神社』の関係者が『国防戦機・特号機』の動力源が何か気付いたんだろう……」
    「おい……どう云う事だ?」
    「この『鎧』と『国防戦機・特号機』の動力源は同じモノだ……。『太陽』の力で『死霊』を浄化した際に発生する膨大な霊力……それが、この『鎧』の力の源だ……」
    「な……なぁ……聞いていいか? その『鎧』は、そもそも何だ?」
    「神だ……。あ……冗談でも喩えでも無いぞ」
    「へっ?」
    「通常の『魔法』や『超能力』を超えた『神の力』としか呼べない存在モノに普通の人間が対抗する為に生み出された……神に似て非なる紛物まがいものの神だ……。だから、これの名は『護国軍』……。鬼と云う漢字には『死者の霊』と『日本で言うオニ』の2つの意味が有る。これは……死者の霊をくらって動く……オニ……神に似て非なる……神に敵対する紛物まがいものの神だ……」
    関口 陽(ひなた) (1) 与太話にしか思えなかった。
     しかし、それで説明が付くのも確かだ。
     ただし、「この世は3分前に神様が適当に作り出しました。ついさっき生み出したばかりの全人類に高度な文明と『この世は昔から存在している』と云う錯覚を与えた上で」理論でも、この世の全ては説明が付くだろう、と云う意味で……。
     あの与太話が本当かは今考えても仕方ない。「理屈はどうなってるか判んないが、そもそも、あの『鎧』やそれと同じ原理で動いてる『敵』に何が出来て、何が出来ないか?」を考えた方が有益だろう。
     私達は、この「島」の3大幹線道路ではなく、脇道を使って、「島」に上陸した「国防戦機・特号機」とやらと、「九段」の自警団「英霊顕彰会」が激突するであろう地点に向っていた。
     この「島」の4つの地区を繋ぐ円周道路である通称「昭和通り」上の「九段」地区と「有楽町」地区の境界へ。
     強化服「水城みずき」のヘッドマウント・ディスプレイには、経路指示が成されている。
     バイクが3台、トラック1台、4輪バギーが1台。
     メンバーは、私、「羅刹女ニルリティ」、「副店長」、「猿神ハヌマン」、「早太郎」、そして新しく加わった女の子が2人。
    「おい、この経路だと一時的に『九段』に入ってしまうぞ」
    「マズいか……やっぱり……」
    「『やっぱり』って事は知ってたかの……?」
    「ああ……」
     「九段」地区の周囲には、ある程度以上の「気」量を持つ者が侵入した事を検知する結界が張られている。
    「『九段』の自警団も、それどころじゃない事を期待するしか無いか……」
     だが、私達が、まだ、ギリギリで「九段」地区に入っていない内に……。
    『そちらの車両ヴィークルのセンサがドローンの作動音らしき音声を検知しました。大まかな方向をモニタに表示します』
     私より若い女の子より無線通信。
     何故か眼鏡のアイコンが表示され、その下には「Kurume Supporter 04」と云う文字が表示される。
     そして次の瞬間……。
    「お……おい……これ……」
    「マズいな……こりゃ……」
     ヘッドマウント・ディスプレイには無数の光点が表示されていた。
    「……今日1日で、あれだけの騷ぎが続いた以上、最初から警戒状態か……」
    関口 陽(ひなた) (2)「待て、前方に何か居るぞ」
     「羅刹女ニルリティ」のその言葉に続いて銃声。
    「今のは威嚇だ。止まれ」
     前方では、横向きになった2台のバスが道を塞いでいた。
     そして、そのバスの更に前には、十数台の人間サイズのロボット。
     おそらくは遠隔操作式だろう。
     ロボット達の手には軽機関銃や散弾銃やグレネードランチャーが握られていおり……。
    「下れ」
     後方のトラックがバックを始める。続いて、私達のバイクも向きを変え……。
    「えっ?」
    「何これ?」
    「聞いてないぞ……」
    「言ってなかったか?」
    「……あたしも聞いてない……」
    「まぁ……言ってても、練習してなきゃ無理だしな」
     他のバイクがUターンする中、「羅刹女ニルリティ」の三輪バイクトライクと「副店長」の4輪バギーはをしていた。
     一方、遠隔操作式のロボット達も、足に車輪か何かが付いているようで、ローラースケートのような動きで、私達を追って来る。
    「『ルチア』頼む。全部吹き飛ばしてくれ」
    了解Affirm
     次の瞬間、轟音。
    「む……無茶苦茶だ……」
     何が起きたのかは判らない。
     少なくとも「魔法」では無いようだ。「気」や「呪力」のたぐいは一切感じなかった。
     そもそも、既知の「魔法」の多くは、生物……特に人間相手や、霊体相手に特化している為、純粋な物理的破壊力が有る「術」はほとんど無い。
     つまり、こんな真似が可能な「魔法」は聞いた事が無い、って事だ。
     遠隔操作式のロボット達は、1つ残らず屑鉄と化していた。
     おい……まさか……そうか……これが夏に起きた騒動で、「九段」の「国防戦機」と遠隔操作型のロボットを倒した「力」なのか……。
     そして、またしても轟音。
    「おい……お前……何やった?」
    「見ての通りだ」
    「見ての通りって……」
    「あのバス、邪魔だろ」
    「いや……邪魔だろじゃなくて……その……」
     「羅刹女ニルリティ」はトッラックから4連装ロケットランチャーを取り出して担いでいた。
     そのロケットランチャーから煙が立ち登っており……前方に有ったバスは粉々に砕けていた。
     しかし、その時、更に別の音がした。
    高木 瀾(らん) (2) 謎の音は、1〜2分おきに散発的に響いていた。
     何かが砕けるような音が何回も響き……一端途絶えた後、1〜2分後にまた発生し……。
     時間と共に、音の発生源は近くなっていく。
    「『国防戦機・特号機』の位置と音の発生源の方向は記録してるか?」
     私は、後方支援要員に連絡した。
    「ビンゴ。音の発生源は、常に、『国防戦機・特号機』とみんなを結ぶ直線上のどこか」
     返事をしたのは久保山ゆかり。私の元彼女カノで、今村の彼女カノだ。
    「分かれた方がいいな……」
    「えっ? どう云う事だ?」
     そう聞いたのは関口。
    「私だけと、ルチアと『副店長』、それと残りの3チームに分れて行動する」
    「なるほどね……あの音は……遠くから誰かがあたし達を攻撃してる……と」
    「ただし、今の所は、射線上の建造物に阻まれてるみたいだが……」
    「ちょっと待て、何が……どうなって」
    「私達が居る大体の距離と方向が判るヤツが、私達を銃撃してる。ただし、私達を目視出来てる訳じゃないので、途中に有るビルなんかの障害物で弾が阻まれてるみたいだ」
    「いや、そいつが誰だか、判んないが、何で私達の居場所を知ってるんだ? しかも、お前の話だと、私達が見えてる訳じゃないらしいのに……」
    「多分、そいつは、あたし達と同じ力を持ってる。互いの居場所は何となくだけど判る」
    「えっ?」
    「『国防戦機・特号機』の操縦者も……『神の紛物まがいもの』だ。他の『神』や『神の紛物まがいもの』の位置を有る程度は特定出来る」
    「えっと……よく判んないけど……」
     その時、さっきから何度も続いている音が、また聞こえた。
     これまでに無いほど近くから……。
     そして、三百mほど先の高層マンションの部屋から、次々と灯りが消え……そして……光る何かが何個も飛び出した。
     灯りが消えたのは、多分、マンションが遠くから何者かに銃撃されたから……。
     光るものは……何発かに一発混っている曳光弾。
    「もう……この『島』に安全な場所は無いのか……」
    「ああ……『国防戦機・特号機』を何とかしない限り……この『島』は戦場も同じだ……」
    「とんだ事になったな……」
    「頼みが有る……。お前たちのチームが戦いに巻き込まれた人達を助けてくれ……全員は無理だろうが……1人でも多くを」
     私は関口にそう言った。
    「え? 何で、私達?」
    「私は……この『鎧』と同じ力で動くヤツを相手にする事になる。多分、巻き込まれた一般人を助ける余裕は無い。それに、この『鎧』を着装している間は、通常の霊的存在を認識出来ない。一般人がその手のモノに襲われていた場合、私では逆に対処が困難だ」
    「そう云う事か……。判った。じゃあ、そっちも気を付けてな」
     理由は……もう1つ有る。
     どうやら私は……人生のどこかの時点で、大きな間違いをしてしまったらしい。
     私は……誰かを護る者になろうとしてきた筈なのに……今の私は……誰かを倒す事……自分だけが生き残る事の方が得意になってしまった……らしい。
    秋光清二 (1)「何が起きてんですか、これっ?」
     さっきから1〜2分おきに、銃撃を食らい続けていた。
     かろうじてまだ無事だ。
     しかし、道路標識や、道路脇の建物などが、次々と穴だらけになっていく。
    「ヤツは俺の位置が判る。敵が近付いて来る事を察知して、攻撃しているのだろう」
     俺が運転するバンに乗っている「護国軍鬼・ゼロ号鬼」を名乗る昭和の特撮ヒーローもどきは、そう言った。
    「ヤツ?」
    「『国防戦機・特号機』の操縦者だ」
    「あの……じゃあ……この銃撃は……かなりの威力……」
    「4m級・戦闘用パワーローダー用に設計された銃器より発射されたモノなのは確かだな」
     んな、阿呆な……。このバンは防弾仕様だが……流石に、そんな弾を食らったら、ひとたまりも無い。
    「冗談じゃないっすよ……そんなの……あれ?」
     この「島」の3大幹線道路の1つ「昭和通り」は……完全に通行止めになっていた。
     いくつもの戦闘用車両ヴィークルと「国防戦機」の残骸によって。
    「脇道を行くしか無いか……」
    「は……はい……」
    百瀬 キヅナ (3) 通気口から侵入したドローンの1つが船のサーバールームに到着した。
    「本当に何とか成るんですか、これ?」
     モニタの映像を見ながら、私は、そう聞いた。
    「この船の設計データは既に入手してる。管理システムに手が入っていなければ……それ程、難しくは無い筈だ」
     小太りの中年男は、そう説明した。
     続いてドローンから一本の「触手」が延び……サーバールーム内の有線LANのHUBに、その「触手」の先端が差し込まれる。
     そして、昔の映画のハッキングのシーンのように、画面に次々と文字入力型のターミナルが開き……。
     数分後……。
    「監視カメラの映像はダミーに差し替えた。ガスを撒き散らしてくれ」
     私の操っているネズミや野良猫、他の呪術者が操っている猿、そして、8足歩行型ドローンが船内に持ち込んだ小型ガスボンベから催眠ガスが噴射され……。
    「爆弾解除班、突入して下さい」
    「本当に……巧く行ってますね……」
    「まぁね……」
     流石に、爆弾の解除は手間取っているようだ。
     十数分後……。
    『爆弾は上下二重構造。下が船底をブチ抜く為の指向性爆弾。上がドラム缶の中身をブチ撒ける為の普通の爆弾』
     船内に潜入したメンバーから連絡が入る。
     どうやら、船内に核廃棄物をブチ撒けた上で、船を沈める事で、海を汚染する、と云う仕組みらしい。
    「解除には、どれ位かかりそう?」
    『まぁ……1時間ってとこかな?』
    「あとは……?」
    「爆弾の解除待ちだね」
     あまりにもあっけない終り……だと思っていた。……その時は……。
     だが、数十分後、爆弾の解除が、まだ7〜8割しか終っていない時点で、とんでもない無線通信が入ってきた。
    『こちら「羅刹女ニルリティ」。マズい事になった……。「護国軍鬼・ゼロ号鬼」が賢者ワイズマンを殺した』
    『こちら、爆弾解除チーム。爆弾のカウントダウンが始まった。あと一五分後に爆発する模様』
    「えっ?」
    「……えっと、プランB開始……」
    『こちら爆弾解除チーム。撤退を開始……いや、プランB開始まで一〇分待ってくれ』
    「へっ?」
    『俺達が失敗したら、手順通りプランB。俺達が成功したら……凍らせるのは下じゃない……上だ』
    「上?」
    『爆弾8つを全部引っくり返す。船に穴は空くだろうが……船底じゃなくて、上だ。その穴を凍らせた海水で塞げば……外に漏れる放射能は最小限で済む筈だ』
    了解Confirm
    「凍らせる? 今、凍らせる、って言いました? 何を凍らせるんですか?」
    「ええっと……そりゃ……海……と言うか海水を……」
    秋光清二 (2) 俺達への銃撃の銃撃の頻度が減った。それも目に見えて……。
     既に俺達の車は「九段」地区に入っていた。
     高架上の島の4つの地区を繋ぐ円周状の幹線道路「昭和通り」では、光が瞬いていた。
     銃撃の音は車の中にまで響いている。
    「止めろ」
     昭和の特撮ヒーローもどきの命令。
     俺とヤツは車から降りる。
     俺達が居る高架下の側道でも戦いが起きていた。
     一台の大型トラックの周囲に人間サイズの遠隔操作式のロボットが二十近く群がっている。
     メーカーや商品名までは知らないが、全て同じタイプ。
     そのロボット達を、トラックの上に乗っている2機の別のタイプのロボットが銃撃していた。
    「あ……ちょっと待って……」
    「お前が来ても、役に立たんぞ」
    「判っちゃいますけどね……こっちが安全そうなんで……」
    「お前の安全は保証は出来かねるし、積極的にお前を守る気も無い」
    「そんな冷たい事言わずに……って?」
     俺達に気付いたらしいロボットが何体かこちらに向う。
     ロボット達が使っている軽機関銃の弾は……昭和特撮ヒーローもどきには通じない。
     昭和特撮ヒーローもどきは、そのまま駆け出して抜刀。
     まず一機の上半身と下半身が永いお別れ。
     続いて、二機目が唐竹割り。
     しかし……。
    「うわあああ……待て、待て、待て……ちょっと待て……」
     俺に銃撃をしてくるヤツが居る。
    「だから……言った筈だ。安全は保証出来んし、お前を積極的に守る気も無い……。ほう……中々器用な真似が出来るな……」
     俺は、たった1つの「異能力」を使い、両腕を延ばして高架のガードを掴み、続いて、腕を元の長さに戻す。
    「すまない。そのまま、上の様子を見て来てもらえないか?」
    「無茶言わないで下さ……誰だ?」
     声の主は昭和特撮ヒーローもどきでは無かった。
     若い女の声。
    「了解した」
     声の主は……青い三輪バイクトライクに乗っていた。
     その三輪バイクトライクは、一端、、そして急加速。
     三輪バイクトライクはロボットの群れに突入。
     三輪バイクトライクに跳ね飛ばされたロボットが、トラックのコンテナと激突。
     三輪バイクトライクに乗っていた白銀の鎧は、右手に軍刀を、左手に鎖分銅を持ち、次々とロボット達を切り倒していく。
     あるものは……センサが集中している頭部を粉砕され……またあるものは……胴体を縦に切り裂かれ……。
    「どうなってる? 新顔だと?……それも……小娘か?」
     昭和特撮ヒーローもどきは……乱入してきた「鎧」に、そう呼び掛けた。
    「護国軍鬼・零号鬼だな……。協力を要請する」
     もう1人の「ヒーロー」は……全く噛み合っていない返事をした。
    高木 瀾(らん) (3) 遠隔操作式のロボットのむれを蹴散らした後……私は……そいつと向い合った。
     私の先祖が生み出した「対神人間兵鬼」。
     「神」の力を持つ「改造人間」。
    「護国軍鬼・零号鬼だな……。協力を要請する」
    「……協力?」
    「当面の目的は同じ筈だ。『国防戦機・特号機』の鎮圧に協力してもらいたい。理不尽な内容でない限りは……そちらの指示に従うのもやぶさかでは無い」
    「面白い……。だが……小娘……」
     「対神人間兵鬼」であるヤツと、「対神鬼動外殻」を着装まとう私。「力」の源は同じだが、より「神」の「能力」を引き出せるのは……ヤツの方らしい。
     どうやら……ヤツは……他者の「生命」そのものを「視て」、相手の年齢・性別・健康状態などを推定する事が可能らしい。
    「な……なんだよ……どうなってんだ?」
     トラックのコンテナの中から、妙な男が出て来た。いや……何者かは知っているが……妙なとしか呼べない姿の男。
     着ているのは……ロボットを遠隔操作用する為のセンサが取り付けられたVRスーツ。
     青白い痩せた顔……何色にも染め分けられた派手な髪……嫌な感じの笑みが貼り付いた安っぽい映画やドラマの「サイコパスの猟奇殺人犯」「頭のおかしい冷血漢」そのままの顔。
     「本当の関東」で「正統日本政府」「高尾山の『天狗』」と勢力を三分するテロ・犯罪組織のリーダー。
     旧・特務憲兵隊と在日アメリカ軍が共同で行なった「超力を持つ究極の戦術指揮官」を生み出す実験の失敗作。
     「賢者ワイズマン」を名乗る「人造のサイコパス」だ。
    「いや……しかし、俺も狂人になろうと散々努力したんだけどよぉ……。こんな所に、天然モノの狂人が居たたぁよぉ……」
     何を……言っている……。
    「判んねぇのか? そこの強化服パワードスーツのチビ……。お前おめぇの事だよ」
     どう云う事だ? 何を狙っている。
    「昔の推理作家の名台詞を知ってるか?『狂人とは理性を失なったヤツの事じゃねぇ。理性以外の全てを失なったヤツの事だ』って」
    「何が……言いたい?」
     私の心に浮かんだ有るか無しかの一瞬の動揺とも言えぬ動揺。その隙に……。
     零号鬼が走り、手にしている刀を横一文字に振う。
    「貴様とは……じかに会ったのは初めてだが……同意見だ」
    「お……おい……。待て……。意見が一致したのに……」
    「さて……俺のやった事は正気の沙汰かな?」
     そう言って、護国軍鬼・零号鬼は……両膝をついた「賢者ワイズマン」の髪の毛を掴み……。
    「ん?」
     髪の毛は鬘だった。その下には……これ見よがしな縫合痕がいくつも有る禿頭。
    「すまねぇ……。遺言だ……。この事は……秘密にしててくれ」
    「くだらん……」
     横一文字に斬り裂かれた「賢者ワイズマン」の腹からは……血と内臓が溢れ落ちていた。
    「こちら『羅刹女ニルリティ』。マズい事になった……。護国軍鬼・ゼロ号鬼が『賢者ワイズマン』を殺した」
     まずは……後方支援チームに連絡。
    「あ……あんた……自分が何をしたか判ってるのか?」
    「ああ……ヤツのこれまでのやり口からすると……ヤツがここまで乗って来たフェリーは爆発し……国際問題級の量の放射性物質が日本海に撒き散らされ……そして……あれのパイロットも……死ぬ」
     そう言って、護国軍鬼・零号鬼は「国防戦機」同士の戦いが続く上の高架を指差す。
    「正気か……?」
    「……さて……? 一つ忠告しよう。お前は人間を信じ過ぎている。正義は正義なりに……悪は悪なりに理性的・合理的に行動すると……そう思っているのでは無いか?」
    「違うのか?」
    「では……お前は自分が『正義の味方』である理由を理性的・合理的に説明出来るか? 人を救いたいなら、他に手段も有る。他に手段が無いなら、お前たちがやっているような危険で面倒な事など……他の誰かに押し付ければいい」
    「何が……言いたい?」
    「こう云う事じゃねぇのか……?『もう……俺は駄目だ……。……や……やられた……。腹を切り裂かれて臓物が出てる……。もうすぐ死ぬ。……大丈夫だ……。そっちは……別の俺に引き継いだ』」
     賢者ワイズマンには……まだ……微かに命の炎が残っていた。
    「ほう……?」
    「あんたが……何をしたいか判らんが……理性的・合理的に行動した方が良かったな……」
     意味の無い嫌味なのは判っているが……あまりの事態に、無駄口でも叩かないと平常心を取り戻せない。
     護国軍鬼・零号鬼は……倒れ伏している「賢者ワイズマン」に止めを刺した。
    「俺からの最後の命令は……2つ。まずは……好きなだけ暴れろ。こんなクソな町……いや島ごとブッ壊すつもりでな……。次の命令は……事が終ったら……別の俺の指示に従え……。……ああ……」
     それが「賢者ワイズマン」の最期の言葉だった。
    「俺のしたい事か……。『護国軍鬼』とは、俺を改造した者が勝手に付けた呼び名だ。俺は……この国には……愛情は愚か愛着さえ持っていない」
    「想像は付く……だが……」
    「だが、その先は知るまい……。高木美憲よしのりに連なる者よ。この国を護ってきたのは……古い友の頼みだ……。しかし、もう、それもめる」
     ヤツは歩み去って行った。
    「待てッ‼」
    「覚えておけ……。正義だろうと悪だろうと……その根底に有るのは……お前が思うほど単純なモノでは無い」
     頭上では、「国防戦機」同士の戦いが続いていた。
     零号鬼を追うよりも……あれを何とかするのが先か……。
    「優先度は後でいい。賢者ワイズマンの死体を回収して……徹底的に調べてくれ」
     まずは……後方支援チームに連絡。ヤツは死に際に妙な事を言っていた。生きて帰れるか判らない以上……生きている内に伝えるのが賢明だろう。
    『どうした?』
    「特務憲兵隊が賢者ワイズマン時の記録と照合して……この賢者ワイズマンが、本当に特務憲兵隊が作った賢者ワイズマンか確認してくれ」
    『まて……どう云う事だ? まさか……犯罪組織のボスが……』
    「そう……大量生産品だった可能性が有る」
    The Creature (2)『もう……俺は駄目だ……』
     雑魚どもと戦闘中に、いきなり、ヤツから、そんな通信が入ってきた。
    「待て……どう云う事だ……」
    『や……やられた……。腹を切り裂かれて臓物が出てる……。もうすぐ死ぬ』
    「ふ……ふざけ……ふざけるな。それでは……」
     俺の体に埋め込まれている爆弾。それは、ヤツの命と連動している。
    『大丈夫だ……。そっちは……別の俺に引き継いだ』
     何の事だ? どうなっている?
    『俺からの最後の命令は……2つ。まずは……好きなだけ暴れろ。こんなクソな町……いや島ごとブッ壊すつもりでな……。次の命令は……事が終ったら……別の俺の指示に従え』
    「何の事か判らんが……まずは……好きに暴れろ……そうだな?」
    『ああ……』
     何がどうなったのか判らんが……まだ敵は居る。戦い続けるしか無いようだ。
     だが、その時……「九段」とやらから来た敵の「国防戦機」の一機が突然前のめりに倒れる。
     馬鹿な……。俺は何もしていない。
     そして……富士の噴火より前……「国防戦機」の最初の試作機が「御当地ヒーロー」によって「制御システムのバグを利用して転倒させられる」と云う事が起きてから……「国防戦機」の動きは、単に操縦者の動きをトレースするだけでなく、AIによる補正が行なわれるようになった。
     早い話が「AIによる補正を切らない限り、倒れたくても、倒れられない」ようになったのだ。
     だが……目の前では……いや……今度は、もう一機が手に持っていた銃を落してしまった。
    「戦況分析AI、何が起きているか判るか?」
    『視界外の何者かによる銃撃です。周囲の敵機以外による銃声と銃弾が何からかの剛体に近い特性の物体を貫通した際に発生したと思われる音を検知しています』
    「では……敵は……?」
    『上……もしくは……下です』
    高木 瀾(らん) (4)「多少、タイムラグが有ってもいい。そっちのコンピュータである解析をやって、結果を4号鬼のモニタに転送してくれ」
     私は後方支援チームに連絡。
    『ちょ……ちょっと待って……』
     ゆかりから返事が有った。
    「4号鬼の聴覚センサが捕捉した音声データを元に……私の近くに居る『国防戦機』その他の大型のヴィークルやパワーローダーの位置を推測。その結果を4号鬼に送ってくれ」
    了解Affirm。とりあえず、解析ソフトを走らせて、そっちの制御AIと連携させるだけなら……何とか……』
     向こうでも……どうやら有害物質爆弾ダーティー・ボムが作動し始めた為に、かなり慌しい事態になっているようだ。
    「それと……そっちで今起きてる事が一段落してからでいい。『国防戦機・特号機』と『護国軍鬼・零号鬼』に対抗出来そうなモノが有った。使える人が居たら、私が今居る辺りに寄越してくれ」
    了解Affirm……。あの……また危ない事……』
    「ごめん……お小言は……後にしてもらえるとありがたい」
    『また、そうやってごまかす……』
     そう言って、私は、今、見付けたモノの画像を送る。
     内臓をブチ撒けてる死体が1つと……VRスーツを剥ぎ取られ、ほぼ裸の状態で気を失なっている裸の生者は……一応、視界に入れないようにして。
     そして……私は三輪バイクトライクに積んでいた対物ライフルを手にして高架下に向かう。
    「『ガジくん』……付いて来てくれ」
    「がじっ♪」
     やがて……ヘルメットの内側に有るヘッド・マウント式のモニタに敵機の推定位置が表示され……。
     引き金を引く……。
     銃声……。
     続いて、私は起き上がり……。
    「案外……やりにくいな……」
     少し移動してから……再び、仰向けになり、に向けて発砲。
     だが……向こうの制御AIも……など……想定していない筈だ。
     ……いや……確認した訳では無いが……多分……。
     それに……私の推測が大外れでも……死ぬのは私だけで済む筈……これも多分だが……。
    The Creature (3)「くそ……フザケた真似を……」
     俺にはから銃撃してくるヤツのほぼ正確な位置が判る。
     俺に埋め込まれた妙な金属の玉っコロのお蔭だ……。俺には生きているモノや俺の同類の位置を検知する事が出来て……下から攻撃してるのは、俺の同類らしい。
     動きや場所からすると、おそらく人間サイズ。
     だが……ヤツの位置が判っているのは……あくまで俺……俺の脳だ。
     しかし、この鋼の巨人のAIにとっては……「カメラに写っていない居場所不明の敵」だ……。
     そして……俺が把握してるが、AIが知らない事を、AIに教える手段は……無い。
     くそ……ヤツは……この「国防戦機・特号機」の事を良く知ってるようだ。
     そのクソッタレな野郎は……俺と敵機を下から攻撃しつつ、少しづつ「九段」の方に移動している。
     誘っているのか……なら、乗ってやろう。
     俺は、この島の4つの地区を繋ぐ高架上の「大通り」を走り続ける。
     しばらくすると……下の一般道路に降りる為の降り口が見えた。
     クソ野郎は……俺の少し先。
     俺は……その降り口の車線に入り……「国防戦機・特号機」のカメラがヤツを補足。
     強化服パワードスーツを着装した人間、その側には青い三輪バイクトライク
     だが、ヤツは、座って何か作業をしている……。
    「映像を拡大」
     俺は次の瞬間、「国防戦機・特号機」の足の車輪の回転数を上げる。
     聴覚センサが背後で轟く迫撃砲弾の爆音を検知。
    「後部カメラの映像を表示」
     道には大穴が空き……その大穴から道そのものが崩れていっている。
     クソ、下に転落すれば、この機体は無事でも……俺が無事じゃ済まない。
     何とか下の一般道路に降りて……ヤツの方に機体の前面を向け……。
     胸の装甲を開く。
     「国防戦機」の通常型なら、動力源である大型バッテリーが入ってる部分だが……この「特号機」は俺が動力源を兼ねてるんで、バッテリーは一時バッファ用の小型のモノで十分だ。
     その代り……胸の内側に有るのは……そうだ……こいつのお蔭で、この機体1つで、何台もの「通常型」を倒せたのだ。
     強化服パワードスーツのせいで顔は見えねぇが、多分、今頃、ヤツは自分に向けられているとんでもない数の銃器を見て……驚いてない……しまった。
     ヤツは、三輪バイクトライクに飛び乗り、こっちに急接近。
     4m級のパワーローダーの胸に固定された銃器で、その足下に急接近しつつ有る人間サイズのヤツを狙えるか?
     Noだ。少なくとも困難だ。
     俺は機体に膝を付かせて射線を通そうとするが……間に合わない。
     ヤツは「特号機」の横を悠々と通り抜け、「特号機」の背後に移動。
     「特号機」は……膝を付いてしまったせいで……ヤツの方向をすぐには向けない……。顔だけは……向ける事が出来て……視覚センサはヤツの姿を捕えた……。
     何で、「ガンダム」とか云う昔のアニメの主役ロボットに似せた外見なのに……頭に機銃が無いんだよ、特号機こいつは?
     明らかな設計ミスだろ‼
     あのロボットみたいに、頭に機銃が有れば……当たらないまでも、威嚇射撃ぐらいは……。
     だが……そんな馬鹿な事が脳裏を過ってる最中……俺は……ある事に気付いた……。
     何だ……ヤツが背負っている……あの馬鹿馬鹿しい代物は……?
     次の瞬間……。
     何かが固いモノを貫く衝撃音が複数。俺の側を高速の何かが飛ぶ音。しかし……発射音は検知されてない……。
     幸い、俺に怪我は無かった……。機体にもデカい損傷は無いようだ。危ない所だったが……。
    「ふ……ふざけんな……。な……なんだ、こりゃ……」
     俺はヘッドマウント・ディスプレイを外す。
     操縦席の中には……背後から装甲を貫いて飛び込んで来た……一本のが突き刺さっていた。
     機体を立ち上がらせ……再びヘッドマウント・ディスプレイを装着。
     後部カメラが写した映像の中では……銀色のパワードスーツが……それほど大型じゃないが……やたらとゴッツい作りの金属製の「弓」を構え……次の矢を放とうとしていた。
    The Creature (4) 糞、クソ、くそ、くそくそくそくそくそ……。
     悪態がワンパターンになってるのは……俺が冷静さを失ないつつある兆候だと云う自覚は有るが……どうすれば良いのか判らない。
     俺は、冷静でなくなっているから対処法が判らず、対処法が判らないから冷静さを失なう悪循環にハマっていた。
    『敵兵士に対抗する為の有効な方策が見付かりません。威嚇射撃しつつ撤退した後、作戦計画を再検討する事を推奨します』
     戦況分析AIからの役に立たない助言。なら、一番、効率良く撤退する方法を助言してくれ。
     この機体のAIは……一〇年前から更新されてないにしては……結構、出来はいい……。
     その点は俺も認める。
     俺とこの機体の組合せなら……普通の戦いなら何とかなる。
     それも正しい。
     俺みたいな「急拵えのパイロット」でも……大概の事は……デカい失敗をせずにこなせる。
     主力戦車はキツいが、結構、大型の軍用装甲車でもあっさり倒せる。
     同じ「国防戦機」でも、通常型なら……1度に5機ぐらいまでなら、何とかなる。
     対人用の武器しか持っていない一般人が相手なら……軍事独裁国家が民主化デモ鎮圧の為に雇ってくれれば……ギネスブックの「大量虐殺犯」の項目に名前が載る事やノーベル殺人賞の受賞だって夢じゃない。……もっとも、「ギネスブックの『大量虐殺犯』の項目」だのノーベル殺人賞だのが実在すればの話だが。
     魔法使い? 俺には大概の魔法は効かない。体に埋め込まれた変な玉っころのお蔭だ。
     変身能力者? 並の人間をたった1人で5分以内に二〇人殺せるヤツでも……この機体の装甲をブチ抜くのは簡単じゃないだろう。
     遠くのヤツを狙撃するのも、近くの敵に機関砲を乱射するのも……素人の俺が操縦していようと、AIがいい具合に補正してくれる。
     ……だが……。
     こいつの装甲を貫ける「弓矢」。そんなフザけたモノを作るヤツが居るなんて考えてませんでした。対処方法に関するデータはAIに有りません。そもそも、この機体のAIは、「敵が弓を構えている映像」を「見て」も、敵が自分を攻撃しようとしてるかどうかさえ判りません。残念でした。
     こいつの装甲を斬り裂ける日本ポン刀もどき。……以下同文。
     銃口を向けると……そりゃ理屈の上ではそうしたら逆に「射線が通らなく」かも知れないが……逃走も後退もせず、物陰に隠れようともせず、こっちに向って来るヤツ。……射撃補正機能がうまく働きません。
     「貴方は人間サイズの強化服パワードスーツしか着装してません。相手は4m級の軍用パワーローダーです。相手の攻撃を一発食らっただけで、貴方は死にます。でも冷静かつ的確に対処すれば、相手の裏をかけるかも知れません」と云う状況で、本当に冷静なままでいられる命知らず……。想定外です。つまり、そんな相手との戦い方など、AIは学習してません。
     一事が万事、こんな感じだ。
     ここから……生きて帰れたら……笑い話のネタには成りそうだ……。
     4m級の軍用パワーローダーが……戦闘用とは言え強化服パワードスーツを装着した人間……それも推定身長からすると……「男なら中学生ぐらい」「女だとしても小柄な方」と云うヤツに……押されて……何とかその追撃を振り切ろうと四苦八苦しているなどと……。
    高木 瀾(らん) (5) 多くの人間がAIについて誤解している事が有る。
     前世紀の安っぽくて古臭いSFに出て来る「それは非論理的です」が口癖のAIを今の技術で作れるか?
     その答は、YesにしてNoだ。
     二〇世紀から……AI研究には2つの流れが有った。
     1つは人間の「理性」「合理性」を再現しようとするもの。
     もう1つは、比喩的な表現だが……人間で云うなら経験に基く「直感」を再現しようとするもの。
     AIと云う言葉で雑に一緒くたにされている2つのモノは……実は全然別物で、後者はかなり高度なモノが作れるようになったが……前者は……死屍累々だ。
     つまり、誰かが書いた文章を本当に論理的に分析して「その文章は論理的か?」を判断するAIは……夢のまた夢だ。
     だが、内部処理に論理性など無く、単に過去の統計データを元に「その文章は論理的か?」をパターン分けするだけのAIなら……「文章の意味」をAIに「理解」させずとも可能だ。ただ、これは「相手の言っている事が論理的かを論理性ではなく直感により判断する」と云う何とも奇妙な代物である事に変りは無い。一歩間違わなければ、用途にも依るが「実用上十分」なモノが作れても不思議では無いが、一歩間違えば、SNSに良く居る「気に入らない相手を『感情的になって非論理的な事を言ってる阿呆』だと決め付ける自分が阿呆である可能性から目を逸らしてる本物の阿呆」のAI版が誕生しかねない。
     そして……もう1つの重大な誤解。
     理性的・合理的な判断は処理に負荷がかかり、結論が出るまでの時間は長くなるが、柔軟な判断が可能になり、全く新しい何かを生み出せる可能性が有り……直感に基く判断は処理は軽く、結論が出るまでの時間は短かくなる代りに、硬直した判断になり、経験した事の範囲内でしか答を出せない危険性が有る。
     逆ではない。
     ましてや、自分の意志や、人生における様々な不確定要素により、多様な経験や学習を行う人間ではなく、学習データそのものが何らかの選別をされているAIの場合は、その傾向がより強まる。
     ではそこに「国防戦機は、いわば、世界最初の軍用パワーローダーの1つ」だと云う事実を組合せると、どんな結論が出るか?
     それより以前には「軍用パワーローダーの操縦者」など存在せず……その後、ある程度時が過ぎても「ベテランの操縦者」はほとんど居なかった。
     「操縦者の多くは素人。少なくともベテランではない」事の対策として行なわれたのがAIによる至れり尽くせりの支援・補助だ。
     操縦者の動きを完全にトレースするのではなく、操縦者とは体型も関節の位置・可動範囲も結構違うパワーローダーの動きに……それも機械的にではなく最適化された形で変換する。
     銃撃をする時もAIが補正してくれる。それにより、操縦者の手が震え、標的が動き回っていたとしても……「実用上十分」な程度には弾は命中する。
     そして……あの「国防戦機・特号機」の操縦者が、どこの誰かは知らないが……あれを所有している犯罪組織のこれまでのやり口からして……操縦者は「使い捨ての素人」だ。
     戦い方はAI頼みになるが……そのAIは十年前に製造元が富士山の火山灰に埋まって以降、更新されていない。
     つまり……「『ひとむかし』と云う振り仮名を振りたくなる時代に想定された任務の内、九十何%かでは有るが一〇〇%ではないモノを、素人でも卒なくこなせるように支援・補助する」……それが、特号機・通常型を問わず「国防戦機」のAIに出来る事であり……同時に限界だ。
     そして……私は……。
     苹采ほつみ姉さんが作った「強化服パワードスーツでしか引けない超強弓」と云うフザケた武器で対装甲用の矢を放ち……。
     特号機がバランスを取る為に足を大きく開いた時を狙って、その股グラを潜り、相手のAIの予想外の位置に移動。
     特殊素材「不均一非結晶合金」製の軍刀でヤツの脚部装甲を斬り裂き……。
     銃口を向けられれば、射線が通らない地点の内、なるべくに全速力で移動……。
     「護国軍鬼4号鬼と私の組合せなら可能、かつ、相手への有効な攻撃になるか、相手の攻撃を回避出来る」が「普通のヤツなら絶対にやらない」ような真似をに選択し実行し続け……やがて……。
    百瀬 キヅナ (4)「あんまり……良い気分じゃないな……。あと……『この船をどうするか?』って問題も残ってる」
     「後方支援チーム」とやらのリーダーらしい小太りの男は、そう言った。
     ドラム缶に仕掛けられた爆弾は……フェリーの外壁や船底を破る事は出来ず……いくつものドラム缶の中の放射性物質は……フェリーの中に封じ込められた。
     爆弾処理チームは、フェリー内の重機を使って、放射性物質が詰め込まれ、爆弾を取り付けられたドラム缶を引っくり返した状態で持ち上げた。
     そして、そのまま、フェリーを脱出。
     「放射性物質を撒き散らす」為の1つ目の爆弾では……フェリーの外壁や船底には大きな損傷は与える事は出来ず、「船底をブチ抜く」為の2つ目の指向性爆弾は……想定外の方向に向けられた上……船の甲板に、あまりにも想定外な「補強」がされたせいで……船に穴を空ける事に失敗した。
     ただし……犯罪組織の一員とは言え、下っ端ではあろう何人もの人間もフェリーの中だ……。
     助ける手段は無い。明らかに危険なレベルで放射能汚染された空気の中で……ゆっくりと……苦しい死を迎えるだろう。
     そして……このフェリーそのものが「中に放射性物質が撒き散らかされた海に浮ぶ巨大な鉄の箱」と化した。
     どんな産業廃棄物処理業者であっても、どれだけ金を積まれようと門前払いするのは確実だ。
     そんなモノが、この「島」最大の港に停泊している。……多分「銀座港」そのものが、当分使えなくなるだろう。
     だが……私にとっての問題は別に有った。
    「あ……あの……さっきのアレは……何なんですか?」
    「えっと……説明しづらい……。とりあえず、あんな能力を持ってる人が居るって事以外は……」
    「そ……そんな馬鹿な……。あれは……『魔法』や『呪術』のたぐいじゃない……。魔力や気は……何の感じなかった。でも……今の科学技術で可能な事だとも思えない……。何なんですか、あれ?」
     爆弾処理チームがフェリーから脱出した後に起きた事……それは……まず、巨大な海水の柱が出現し……続いて海水がフェリーに降り注ぎ……その海水が氷となって、フェリーの外壁や船底を「補強」した。
     魔法や呪術の多くは「対生物」「対霊体」に特化している。
     あのような「大量の生きていない物質を操る」ような真似は……ほぼ不可能だ。
     でも……現実に起きた……。
     更に事情を聞こうとした時……。
    「どうしたの?」
    「今の職場から……至急、九段に戻れって連絡なんですが……」
     ただし、私への個別連絡ではなく、「職場」の人間全員に配信ブロードキャストされた動画だった。
     画面の中に居るのは六十過ぎの白い和服の男。「英霊顕彰会」のトップだ。
     腕を振り上げ、何かに取り憑かれたように……「死霊使い」が本当に「何かに取り憑かれた」のなら笑い話にはなるが、あくまで下っ端を鼓舞する演技をやってる内に、本人もノリノリになっただけだろう……いかにもな演説を続けている。
    『もはや……「本土」は外国勢力に占拠されたも同じだ。「本土」の者達は……やがて……日本の伝統を捨て去るだろう。だが……我々が居る……。この「九段」地区を護る事こそが……日本を護る事に他ならない』
    「なんか……昔のアニメの……悪役の演説シーンのパクリにしか見えないなぁ。……あ……この爺さん、丁度、『ガンダム』をリアルタムで観た世代なのか?」
    「まぁ……私は……言ってみれば『契約社員』なんで……こんな雇い主の為に死ぬ義理なんて無いんですけどね」
     画面の中では、「死霊使い」そして「企業経営者」としては一流だが、それ以外の点では色々と人間性に問題が有る御老体が……今の時代、六〇代を「御老体」と云うのは違和感が有るが、考えが古い人なのは確かなので……「日本の伝統の最後の砦たるこの街に危機が迫っている‼ この街が滅ぶ事は日本が滅ぶも同じ。祖国の為に今こそ命を捨てよ」と絶叫していた。
    The Creature (5)『右足の高速移動用の車輪から応答が有りません』
     ヤツは、この機体の右足に、ヤツの足に装着されている杭打ち機のようなモノで、複数の穴を空けていた。
     その穴の1つが制御信号を送る為のケーブルをブチ抜いたのだろう。
     続いて、ヤツは、この機体の背後に移動……。一瞬、反応が遅れてしまい……。
    『左膝に損傷。左足の膝から下に、電力の供給と制御信号の送信が出来ません』
     どうやら……ヤツは、左膝の関節に日本ポン刀もどきをブッ刺したらしい。
     続いて、ヤツの乗っていた三輪バイクトライクから、何故か、ロープが射出され……。
     ガンッ‼ ガンッ‼ ガンッ‼ ガンッ‼
     何だ、この音は?
     人間サイズの強化服パワードスーツの拳や蹴りで、こいつの装甲をブチ抜ける訳が……いや……さっき見たばかりだ。ヤツの足の杭打ち機……。だが……どこで……何を……おい……音がしてる場所からすると……コックピットのハッチだ。
     俺は、この機体にしがみ付いているであろうヤツを振り落そうとするが……機体が動かない。
    「どうなってる?」
    『脚部に損傷が有る状態で、そのような動きをすれば、機体が転倒する可能性が大です』
     そ……そんな馬鹿な……。
     やがて、後部カメラの映像に、三輪バイクトライクに乗るヤツの姿が映し出され……。
     ヤツに銃口を向けようとしても……脚が損傷しているので、機体の向きを変える事さえままならない。
     そして……三輪バイクトライクが走り出すと……三輪バイクトライクから射出されたロープはピンと張り……。
     どうやら……ヤツは、三輪バイクトライクの動力を使って、コックピットのハッチをコジ開けるつもりで……さっきの音は、その下準備だったようだ……。
    『想定外の外力を検知しました。転倒の虞れが有る為、弊機からの緊急脱出を推奨します』
     はぁっ?
    「待て……いくら何でも、人間用のバイクが、この機体を引き摺り倒せる訳が……」
    『弊機は脚部損傷により、バランスを取る事が出来ません。この状態では、わずかな外力でも重大な影響が有ります』
     ふざけんな、ふざけんな、ふざけんな……。
     コックピットのハッチの開閉機能は、まだ何とか動いていた。
     俺は、あわてて、コックピットから飛び降り……。
    「いててて……」
     結構な高さだが……何とか受け身は取れた。
     だが、次の瞬間……何者かが、俺の顔に装着していたヘッドマウント・ディスプレイと防毒マスクを手荒に取り外した。
    「ようやく、御目にかかれたな」
     目の前に居たのは……強化服パワードスーツのチビ。
    「ああ、そうだ……この街では、明日からハロウィンのイベントの予定だそうだ。この騷ぎじゃ開催は無理だろうがな」
    「ふざけんな……。俺は『本当の関東』の育ちなんでな……。そんなモノ……富士の噴火より前の……子供の頃にしか経験してねぇよ」
    「そうか……じゃあ、ハロウィンのお菓子だ。十年ぶりのハロウィンを、心ゆくまで堪能してくれ」
     そう言って、ヤツは……何かのスプレーを俺の顔に浴せ……やがて……俺の意識は……。
    関口 陽(ひなた) (3)「おい、お前……何、あっさり倒してやがる?」
    『いや……ここまで上手くいくとは思ってなかった……。やってみるもんだな』
    「なぁ……どうやったら、いくらチート級でも、人間サイズの強化服パワードスーツが、こっちもチート級の身長4mの軍用ロボを倒せんだよ? 何か、おかしいだろ?」
    『向こうのパイロットは素人で……パイロットを補佐するAIは、ここ十年更新されてない骨董品だ。AIの裏をかけそうな手を思い付く限りやってみたら……ほぼ、悉く成功した。3割命中すれば御の字だと思ったら……命中率が9割超えてた』
     羅刹女ニルリティは……あっさり「国防戦機・特号機」とやらを倒してしまった。
     だが……問題が1つ。
     私と台湾から来た女の子は、どさくさに紛れて「英霊顕彰会」に奪われたモノを取り戻すつもりだったのに……肝心の「どさくさ」が、あっさり終了しちまったのだ。
    「どうすりゃいいんだよ、これから……」
    『何か妙な感じだな……。予想より上手くいったのに……そっちは怒ってて、こっちは謝ってる……』
    「そっちからすりゃ、最大の問題は片付いたんだろうけど……私達は、どうすりゃいいんだ? 今回は諦めて撤退か? ん?……何だ?」
     次の瞬間、ヘルメット内のヘッド・マウント・ディスプレイに見慣れないアイコンと「Hakata 4th team Supporter 05」と云う文字が表示される。
    『二〇分ほど前に、こっちに集結してた「レコンキスタ」のVTOLが飛び立たけど……行き先がようやく判った。Neo Tokyoの「千代田区」方面に向かっている。そろそろ……』
     その時、空から光。
    「その連中……こっちに……到着したみたい……」
     私達と一緒に行動してる「猿神ハヌマン」が応答する。
    『そうか……。乗ってるのは……「レコンキスタ」本部直属の……』
    「ねぇ……あれ……なに……?」
     台湾から来た女の子が、光の源を指差す。
     そこには……まるで……昔の子供向け特撮にでも出て来そうな変な形のプロペラ機が……
    「拡大……。『レンジャー隊』の中の更に精鋭……『白き騎士達ホワイト・ナイツ』か……。何人ぐらいなの?」
    『判ってる限りでは……五チーム……約五〇人……』
     その……変なプロペラ機から……光るロープが地上に降され……それを使って……白い何かが次々と地上に降りて来ていた。
    高木 瀾(らん) (6) 私の近くにやって来た「白き騎士達ホワイト・ナイツ」は4人で行動していた。
     2人1組で互いの死角を守り合っているのが2組。
     やりすごす事も出来たが……気絶させた「国防戦機・特号機」の操縦者を搬送する邪魔になる。
     さすがに破損した道路に、突っ立ている「国防戦機・特号機」が目立たない訳が無い。
     ガスマスクを付けているので、「国防戦機・特号機」の操縦者に使った非致死性麻酔ガスも無効。
     仕方ない。
     「国防戦機・特号機」の操縦者を高架下の比較的安全な場所まで運ぶ。
     だが、奴らも私に気付く。
     同時に……私も何かがおかしいと気付いた。
     それまでの……言わば教科書通りの行動から、全員が私の方を向き、私に銃撃しながら私に接近して来る。
     私が、もし、囮だったなら……。
     私に、もし、仲間が居て、近くに隠れていたなら……。
     そんな事を何も考えていない行動だ。
     「レコンキスタ」本部直属の精鋭部隊にしては、あまりにも……いや……何か嫌な予感がした。
     「常人が特異能力者と戦う為の装備」を使っている「常人とは違うロジックで動いている人間」……そんなヤツを私は良く知っている。
     他ならぬ私自身だ。
    「『ガジくん』。私と敵兵士の中間の地点に煙幕弾」
     私は人工知能搭載の三輪バイクトライクに指示を出す。
     「鎧」のカメラを赤外線モードに切り替え、敵に接近。その内の一体の腹に掌打を撃ち込む。
     残念ながら、まだ、百発百中の技じゃない以上、単なる「ちょっと強力な掌打」で終ったようだ。
     しかし、それで相手の膝から、わずかに力が抜けた。
     そいつの背後に回り込み、左腕を首に回し……右手のナイフで相手の腹を死なない程度に刺す。
     そして、そいつの体を残り三体に向け盾代りに……悪い予想的中。
     やつらもカメラを赤外線モードに切り替えて、煙幕の中でも、こちらの姿が見えるようになったらしい。……だが、それは、あくまで的中した予想の一部に過ぎない。
     次の瞬間、私は、そいつの体を離し、他の三体が味方ごと私を撃とうとした銃弾を回避……とんだ「最精鋭部隊」だ……。
    緋桜 (1) 京劇の孫悟空みたいなヘルメットを付けた人。
     そして、銀色の狼男。
     2人の日本の「御当地ヒーロー」は、ボク達が乗ってるトラックを銃撃してきた、こっちも2人の白い強化服パワードスーツのヤツに立ち向かっていった。
     「孫悟空」の方は、地面スレスレを飛び、横に倒した弓から矢を放ち……。矢は、白い強化服パワードスーツのヤツの片方の太股を貫通。どうやら、太い動脈が通っている所に当ったみたいで……傷口からは、もの凄い勢いで血が吹き出す。
     残りの1人の白い強化服パワードスーツも、銀色の狼男のパンチであっさり吹き飛ばされ……あれ?
    「な……なに……あれ?」
    「え……っと……こっちが聞きたい……」
     ボクの疑問に、日本の「魔法使い」の女の子が答える。
     矢で射貫かれた方は太股から血を流しながら……パンチで吹き飛んだ方は……ガスマスクから血を流しながら……銃撃を続ける。
    「ゾ……ゾンビ?」
    「い……いや……強化服パワードスーツにかけられてる防御魔法以外は……それっぽい気配は……」
    「ねぇ、そっちも強化服パワードスーツを着てるんなら……これ使える?」
     ボクは、トラックに積んであったでっかい機関銃を渡す。
    「えっと……使った事無い……あ……あ、そう……判った」
    「どしたの?」
    「味方から……この強化服パワードスーツの射撃補正機能をONにした、って連絡が……」
    「じゃあ、使えるよね」
    「や……やってみる」
     ……十数秒後、2体の白い強化服パワードスーツの奴らは……ひき肉になっていた。
    「ゆ……夢に出そう……」
    「なら、やらせんな……」
     日本の魔法使いの女の子も半泣きの声だった。
    「どうなってんだ、こりゃ? これが……『レコンキスタ』の最精鋭部隊?」
    「痛覚を麻痺させてるんですかね?」
    「にしても……何か変だ……」
     狼男と「孫悟空」は、そう会話を交していた。どうやら……この2人にとっても、白い強化服パワードスーツの連中は、何か変な点が有るみたいだ。
    「えっ?」
    「何だこりゃ?」
     続いて、「孫悟空」と日本の魔法使いの女の子が同時に声を上げる。
    「どしたの?」
     「味方」から何か連絡が有ったらしいけど……「孫悟空」と日本の魔法使いの女の子は……どう答えたらいいか判んないようだった。
    高木 瀾(らん) (7)「お前、射撃の訓練なんて受けてたか?」
     私は後方支援要員に加わっている望月に、そう聞いた。
    「いや、そっちの『鎧』と同じで射撃補正機能が付いてるみたいだ……。でもさ……こんな、どこにでも有るモノが……えっと……その『鎧』以上の化物との戦いの切り札になるの?」
    「起きてるモノは親でも使えってヤツだ。そいつは……ヤツの能力の盲点になる筈だ。けど、気を付けろ。普通の敵と真正面から戦えば、あっさりやられる可能性が大だ」
    「そんなモノかな?」
    「あのさ……お前……人殺した割に、普通過ぎないか?」
    「い……いや……VRゴーグル越しなんで、あんまり実感が湧かないって云うか……」
    「これは、VRゲームじゃなくて、現実なの」
    「ついでに……カメラは赤外線モードだったんで、あんまり、現実の光景っぽく見えなかった」
    「やれやれ……こんな状況に慣れ過ぎないように気を付けろ」
     私は望月が狙撃銃で倒した「白き騎士達ホワイト・ナイツ」の1人のヘルメットを剥ぎ取る。
     その額には……「LJG Subject:」……そして、シリアル番号らしい何桁もの数字とアルファベットの羅列。
     しかも、短髪の頭には……脳手術の跡。
     胸糞悪くなる過去の軍事研究の成果……もしくは失敗作だ……。
     を持つ戦術指揮官と、自由意志を失ない……死ねと言われれば自決し、家族や恋人や友人を殺せと言われれば、平然と殺す「忠良なる兵士」の組合せからなる「理想の部隊」。
     だが、前者の実験の結果生まれたのは「もの凄く頭のいいコントロール不能な人造のサイコパス」で……後者は成功したが……指揮官が居なければ大した役には立たない。
     しかし、後者を今も作り続けている組織が有る。「関東難民」の内、行き場の無い人達を誘拐し……脳改造している組織が……。
    「『白き騎士達ホワイト・ナイツ』の正体が判った。『正統日本政府』が作った『従民サブジェクト』を兵士に流用している。最後の一体まで皆殺しにするか……司令塔を潰さない限り、こいつらは戦いを続ける」
    「おい……冗談だろ……」
    「よりにもよって、警察機構がテロ組織から使い捨ての兵士を買ってるのか……保護したはいいが、不可逆的な脳改造を施されてた人間を兵士に流用してるのかまでは、判らんけどな……」
    「でもさ……何で……こんな……脳改造されてる以外は普通の人間が……『最精鋭部隊』なんだよ?」
    「何で、軍隊や警察では昔ながらの『新人いじめ』的な訓練をやってるか判るか?」
    「えっ? 何の事だ?」
    「右翼的・軍隊的な校風の男子校や、高校や大学の体育会系のサークルや部活の『新入生歓迎会』。理不尽企業の文字通り理不尽な内容の『新人研修』。軍隊や警察の……能力や技術やノウハウを身に付けるだけではなく、受けてる奴らの心を折る為としか思えない『新人訓練』。……形骸化したモノも有るが、それらの本来の目的は……ミもフタも無い言い方をすれば……『洗脳』だ。『新人』を組織や上位者や権威に従う人間に改造する為のな。でも、それらの『洗脳』は、精神支配・精神操作系の特異能力への抵抗訓練と相性が悪い。方式にも依るが……お互いの効果を打ち消し合って、どっちも中途半端になるか、逆に強め合って、精神操作への強い抵抗力を持つ代りに現場では使いモノにならない程に融通の効かないヤツが出来上がるか」
    「おい、まさか、その解決方法がコレか……?」
    「ああ。私達『御当地ヒーロー』の先人達は……構成員を『洗脳』する必要が無い『上下関係無き分散型の組織』と云う答を出したが……『レコンキスタ』は『上の命令には絶対服従し、常人と意思疎通は出来るが、操り支配すべき心を欠いた……もしくは心の在り方が常人と違う故に、常人向けの精神操作系の特異能力が効きにくい兵士』と云う答を出した……みたいだ。そして、今の時代……劣った身体能力を補う方法は、いくらでも有る」
    玉置レナ (2)『最後の一体まで皆殺しにするか……司令塔を潰さない限り、こいつらは戦いを続ける』
     瀾から、そう連絡が入った直後に、2人1組の「こいつら」と遭遇。
     「こいつら」こと、空に居るVTOLから降りてきた白いレンジャー隊は、手当たり次第に次々と人を殺していた。
     私は白いレンジャー隊員の両手両足の付け根をピンポイントで熱する。
     嫌な臭いと共に……その2人の手足は胴体とさよならし……。うそ……まだ……動こうとしてる……。
     続いて聞こえてきたのは……色んな言語だけど「助けてくれ」の意味なのは判る無数の叫びと懇願。
     私と「副店長」は、成り行きで、外国人観光客や、この町の「一般職員」を助けて、避難誘導をやる羽目になった。
    「おい、そこのボケ。それは自動運転モードになってる。お前が運転しようとしても反応しない」
    「えっ?」
    「降りろ、降りないと撃つぞ」
     あたし達が乗ってたバイクや4輪バギーを奪って自分だけ逃げようとするヤツも、当然出てくる。
     「副店長」は、怪我人の映像を医療チームに送信し……時に首を振った。助かりようが無いらしい何人かは見捨てるしかなかった。
    『あんた達はゴジラみたいなモノだ。「強い誰か」と戦う事には向いてても、「弱い誰か」を護る事には向いてない。ゴジラには平気でも、人間には致命的な「何か」を見落してしまう危険性が有る』
     8月の事件の時に、瀾に言われた事を嫌でも思い出してしまう状況だ。
    「こっちだ」
     副店長は避難者達を、とりあえず「島」の中央に有る公園に誘導しようとしていた。
     その時……。
    「マズいな……こっちにも『魔法使い』が居た方が良かったか……」
     「副店長」は立ち止まり、空を見上げた。
    「何が、起きてんの?」
    「そうか……あんたには見えないんだったな……」
     だが……次の瞬間……。
    「う……うそ……あたしにも見える。どう云う事?」
    『簡単な事です。あれの支配権を「神の力」を持つ者が奪ったのですよ。……ただ、あれが何かは……わたくしの担当範囲外なので……良く判りませんが』
     あたしに取り憑いている自称「神様」が、前半は有益だけど、後半は、あんまり役に立たない助言をしてくれた。
    緋桜 (2)「うおりゃあああっっっ‼」
     日本の魔法使いの女の子と、ボクの「気弾」を合せて十発近く、それでようやく、白い強化服パワードスーツの「防御魔法」を打ち破れた。
     続いて、ようやくボクの「気弾」が効いてくれて、相手の体は麻痺し……そこに日本の魔法使いの女の子が「気」を乗せたハンマーでブッ叩いた。
     白い強化服パワードスーツの胸の装甲が大きく凹む。「気」の効果か、物理的なダメージかはともかく、白い強化服パワードスーツの片方は、ようやく倒れてくれた。
    「クソ、何が『白き騎士達ホワイト・ナイツ』だよ……。『モンティ・パイソン&ホーリー・グレイル』の黒騎士じゃないか、これじゃ……」
     孫悟空のヘルメットの人が「もうやだ」って感じの口調でそう言った。
    「なんなんすか、それ?」
    「知らないの?」
     孫悟空のヘルメットの人と、白い狼男の足下には……両手両足を失なったのに……血を撒き散らしながら、まだ動き続けてる白い強化服パワードスーツの兵士。
     どうやら、この白い強化服パワードスーツのヤツらは、常に2人1組で行動してるらしい。
     その時、ボクはある事に気付いた。
    「あの……その刀……」
    「えっ?」
     孫悟空のヘルメットの人は……自分が持ってる刀と、ボクの山刀を見比べる。
     材質は違う……。刃は、ボクのが普通の鉄で……孫悟空のヘルメットの人のが妙な虹色の光沢が有る金属。柄は、ボクのが藤を巻き付けた木製で、孫悟空のヘルメットの人のが強化プラスチックらしい素材。
     でも……。
    「あれ? 良く見りゃ形が似てるような……」
     日本の魔法使いの女の子がそう言った。
    「いや……僕も良く知らないんだよ……この刀の由来は……。僕の師匠の……そのまた親類の形見をモデルに作ったモノらしいんだけど……」
    「その師匠って……?」
    「今月の初めに死んだ」
    「どう云う人だったの? 何で、その人が、ボクの一族に先祖代々伝わってるのと似た刀を持ってんの?」
    「台湾から来たって言ってたよね……」
    「うん」
    「僕の師匠……第2次朝鮮戦争の頃に脱北した旧・北朝鮮の元特殊部隊員でさ……」
    「えぇっ? ちょ……ちょっと待って……。何で、そんな所に……ボク達の一族のと似た刀が有ったの?」
    「それが……」
     けど、その時……。
    「な……なんだ、ありゃ?」
    羅刹女ニルリティが言ってただろ。こいつらとの戦いに勝てる方法は……皆殺しにするか……司令塔を叩くしか無いって。『靖国神社』の連中は……空に居るのが司令塔だと判断したんだろ」
     そこら中に有る神道風の「祠」から無数の「死霊」が現われ天に昇っていく……けど……。
    「まさか……これが……護国軍鬼・零号鬼の狙いだったのか……?」
     町のあちこちに現われた「死霊の柱」。けど……それらは、突然、崩れ……そして……死霊達は町のある一点に向っていった。
     違う……やがて……死霊達は……もう一箇所にも集ってゆき……更に……。
    「何で……」
    「まだ……日の出は何時間も先だよな……でも……あれは……」
     更に町の中心部らしき場所に……巨大な2種類の霊力の柱が出現した。
     片方は死霊のむれ……そして、もう片方は夜明けの空のような鮮やかな赤色の……「太陽」の霊力だった。
     その2つの霊力の柱も、更に2つづつに分れて……町の2つの地点を目指していた。
    「おい、ちょっと待て、どう云う事だ?」
     その時、日本の魔法使いの女の子が叫んだ。
    高木 瀾(らん) (8)「おい、どうした?」
     私が、それを凝視みつめていると、望月がそう声をかけてきた。
    「そう言や……そっちは見えないのか」
     「神の力」を持つ者は、基本的に通常の霊的・魔法的な力を認識出来ない。
     どうやら、その手のモノは、「神の力」を持つ者にとって「毒にも薬にもならない」存在らしく、霊的・魔法的な存在を認識する能力が衰えるようだ。
     その事は、一時的・擬似的に「神の力」を付与するこの「鎧」を着装した者も同じだ。
     だが例外が2つ。
     1つは、取り憑いている「神」が司っているモノに関連する霊力・魔力だった場合。
     もう1つは、その「神」自身か他の「神」の支配下にある霊力・魔力だった場合。
     町中のあちこちから、無数の死霊が空に昇っているが……やがて向きを変え、ある一点に向かう。
    「あそこか……零号鬼が居るのは……」
     ヤツの目的が何かは判らない。だが……ヤツがあんな無茶苦茶な真似をした理由は確かめる必要が有る。
     私の心身が臨戦態勢になると同時に、「鎧」の動力源である幽明核が死霊達を吸収し始める。
     まさか……これがヤツの狙いか?
     「死霊使い」達により「暴力ちからによる治安」が維持されている町で、その「死霊」が残らず何者かに吸収されたとしたら……。
     まさか、公的な警察機構が、ヤクザの所場ショバ争いみたいな真似をやる気なのか? そんなセコい理由で、ここまでの騒動を起こしたのか?
    「私に付いて来てくれ。ただし、見えにくくて、狙撃に適した位置で」
    「建物の屋根とかを走ったりした方がいいのか? 出来るのかな、これ? あと、これ壊したら……お前の作戦は……その……」
    「完全に破綻する。しかし……ヤツを倒さなければならないかの判断は、ヤツを見付けてからだ」
     私は、三輪バイクトライクに乗り、「死霊」を吸収している何者か……おそらくは護国軍鬼・零号鬼……が居るであろう場所を目指す。
    「すまない。私には見えてるが、カメラに写ってないモノが有る。その『カメラに写ってない何か』の位置を、私の視線を元に推定して、そこへの最短ルートを教えてくれ。出来るか?」
     後方支援要員に連絡するが……当然ながら返って来た答は……。
    『やってみるけど……かなりの誤差が出る事は判ってるよね?』
    「大体の位置でいい。近付けば、何とか判る」
     だが……次の瞬間……。
    「何だと……」
     町のほぼ中心部に巨大な霊力の柱が2つ。
     しかも、「鎧」の幽明核が、吹き出し続けている2種類の霊力を吸収し出した。
     どう云う事だ? まさか……。
     私は関口に連絡を入れる。
    「お前の探してるモノが有る場所が判った。だが、迂闊に近付くな。そして……回収出来ても霊力は失なわれてるかも知れん」
    『おい、ちょっと待て、どう云う事だ?』
    「この町に、今、『死霊』と『太陽の霊力』の両方を吸収出来る者が2人居る。私と……もう1人の『護国軍鬼』を名乗る改造人間だ。そんなのが、『死霊を呼び出す力が有る呪具』と『太陽の霊力を宿す呪具』が大量に集められてる場所に近付けば……」
    『その大量の呪具が暴走してるって事か……待ってくれ、冗談じゃねぇぞ』
    関口 陽(ひなた) (4)「引き返した方がいいよ。少なくとも、事態が落ち着くまで待っても遅くないと思うよ」
    「その話、何度目っすか?」
     私は「猿神ハヌマン」にそう言った。
     この「島」で……下手したら4つの「紛物の東京」の中で、最も豊かだった町は廃墟と化していた。
     逃げ遅れたらしい観光客や一般住民。
     この町の「自警団」のメンバー。
     理由の判らない虐殺を始めた白い強化服パワードスーツの連中も、結構、返り討ちに遭ってるようだった。
     様々な死体が、あちこちに転がり……火に包まれている建物も有るが……その近くには、消防隊の死体。
     いくら、この町の「自警団」の中心メンバーが「死霊使い」だからと言って、町中が死体で溢れるような事態は望んでいないだろう。
    「気味悪い……」
     台湾から来た女の子がそう言った。
    「そうだな……ここまでと、
     死体はゴロゴロしてるのに……「死霊」の気配が少しも感じられない。
     死の気配がまるでしない死者の都に……バイオテクロノジーで作られた「一年中花を咲かせる山桜」の花弁はなびらが風に舞っていた。
     やがて……もう……何者かに「食われ」て消え去った霊力の柱が有った場所……町のほぼ中心部に辿り着いた。
     青銅ブロンズ風の塗装がされた巨大な鳥居。
     幕末の侍の銅像。
     奥に見える2つ目の鳥居と門。
     こここそが……かつて「本物の東京」の「本物の九段」に有った神社を模した場所。……「紛い物の東京」の「紛物の九段」に有る「紛物の靖國神社」だった。
     そして、この神社の参道にも……また、いくつもの死体が転がっていた。
    緋桜 (3)「き……貴様……仮にも『護国』を名乗る者が……日本を滅ぼすとは……何のつもりかッ⁉」
     神社の奥、本殿に近付くと、まず聞こえてきたのは……六十か七十ぐらいの男の怒鳴り声だった。
    「滅んでいない……。この町は滅ぶかも知れんがな……」
    「ふざけるな……国連に占拠された『本土』は、最早、『日本』とは呼べぬ。こここそが、日本列島に残された最後のまことの日本だ。それを貴様は……」
    「それは目出度い。俺は……日本に住む人間を護る事は有っても、国としてのかつての日本には憎しみしか感じていなかった。そして、今の日本は好ましく思わんでは無いが……戦前の日本には怨みしか無い。その残滓さえも、いよいよ滅んだか。帰ったら祝杯を上げるとしよう」
    「な……何を……言っている?」
    「イカれたも居たものだな……。国など、所詮は人が作ったものだろう? この町の『自警団』を自称していながら、失なわれれば取り返しの付かぬ人間の生命ではなく、いくらでも作り直せる人工物の事を心配しているとは……」
     あれ? ボクは自分で思ってたほど、日本語を良く判ってないのか?
     六十以上らしい男を「若造」と呼んだもう1人の男の声は……五十より上には思えなかった。
    「おい、そこで盗み聴きしているのは……この島に居るもう1人の『護国軍鬼』の仲間か?」
     ボクは山刀を……日本の魔法使いの女の子はハンマーを構えながら3つ目の鳥居をくぐり、2人の男の前に姿を見せた。
    「あのさ……あいつと戦う気? 勝目無い相手だよ……」
     背後うしろからは孫悟空のヘルメットの人の声。
    「なぜ……我が一族の者がここに居る?」
     鳥居の先に居た2人の男の内、大昔の日本の子供向け特撮に出て来てもおかしくない格好をした、その男は……意外な事を言い出した。それも、日本語ではなく、ボク達の言葉で。
    「その刀は、我が一族のモノに似ている。お前は、我々の一族の者なのだろう?」
    「誰……? 誰だよ、お前は?」
     ボクは、わざと日本語で、そう問いかける。
    「お前の先祖……少なくとも、その親類だ。百年近く前の戦いの後、故郷を出て満洲に渡り……そこで日本軍に捕えられ、改造された」
    「ちょ……ちょっと待って……どうなってんの? あの……ひょっとして、その、この町の人達を殺したのは……」
    「その時の怨み故では無い」
    「ふざけるな……理由が何であれ、こんな真似をするヤツが、ボクの一族の筈は無い」
    「……そうか……。何もかも変ってしまったか……。俺も……俺の一族も……世界も……」
    「では……目的は何だ? どうやら、私は、お前が仕組んだ茶番に巻き込まれたらしいが……出演依頼は来てないし、脚本は届いてないし、出演料の交渉もやった覚えは無いぞ。とんだ、三流プロデューサーだ」
    「主演俳優の御登場か……。拍手ぐらいはした方がいいかな?」
    望月敏行『ファットマン、前方の鳥居の中に向けて……迫撃砲とグレネードを有るだけ撃ち込め』
     高木から、そう連絡が入った。
    「いいのか?」
    『ああ、私の「鎧」の防御力なら何とか成る』
    「わかった」
     例によって、嫌な予感しかしないが……。
     まず迫撃砲を設置。
     念の為、高木の推定位置より先を狙って発射。
     迫撃砲弾は、この神社の本殿に命中し……轟音と共に本殿は炎上。
    『よし、いい感じだ。続けてやれ。ただし……本殿前の参拝用のスペースの辺りを狙え』
    「いや……でも……本当にいいのか……?」
    『大丈夫だ。やれ』
    「先に聞いとくべきだった、そもそも、これ、何の為だよ?」
    『時間が無い。後で説明する』
     続いて、グレネードランチャーを構え、弾を鳥居の向こうに目掛けて……。
     その時、3時の方向に有る建物から、あわてて仲間の1人が駆け出して来た。
    「おいっ‼ 何、やってやがるっ?」
     そう叫んだのは、仲間の1人の白い狼男。
    「いや、これ、あいつの指示で」
    『早く、次の弾を撃て』
     高木からの催促。
    「あ……了解Confirm
     次の瞬間、誰かが、俺のからVRゴーグルを剥ぎ取った。
    「望月くんっ‼ 何やってんのっ⁉」
     目の前に居たのは、俺と同じ後方支援要員の久保山ゆかり
    「えっと……高木の指示で……どうしたの?」
    「高木さん……『鎧』を除装したんだよ」
    「えっ? ちょっと待って……どう云う事?」
    関口 陽(ひなた) (5)「では……目的は何だ? どうやら、私は、お前が仕組んだ茶番に巻き込まれたらしいが……出演依頼は来てないし、脚本は届いてないし、出演料の交渉もやった覚えは無いぞ。とんだ、三流プロデューサーだ」
     声の主は羅刹女ニルリティだった。
    「主演俳優の御登場か……。拍手ぐらいはした方がいいかな?」
     昭和ヒーローもどきは、そう答える。
    「話をはぐらかさず、私が、聞いた事に答えてもらえると有り難い」
    「正直……この島に居るのが、お前のような小娘だと知った時は……失望した。残りの2人のどちらかだと思っていたのでな」
    「貴様の目的は……最初から『国防戦機』では無かった……。そして、この『九段』を壊滅させたのも……ついでか……。目的は……お前以外の『護国軍鬼』を名乗る者を誘き出す事」
    「そうだ……。そして、最初は、お前のような小娘では……俺を『古い時代の悪』として粛清する『新しい時代の正義』としては役不足だと思っていた。俺とした事が、とんだ勘違いだったがな」
     羅刹女ニルリティは肩をすくめた。……わざとらしく、大袈裟に……。
    「フザけた真似を……。冗談のつもりで、お前を『三流プロデューサー』と呼んでみれば……本当に、自分達に代る『正義』をデッチ上げるプロデュースするつもりだったとは……」
    「ど……どう云う事だ?」
     私は羅刹女ニルリティに訊く。
    「細かい理由は判らん……。だか、この男は……私達『御当地ヒーロー』を『対異能力犯罪広域警察レコンキスタ』に代る『日本の護り手』に仕立て上げたいらしい。『御当地ヒーロー』の代表たるに相応しい誰かに……『レコンキスタ』の代表である自分が『悪』として倒される事でな」
    「はぁっ?」
     この場に居た、ほぼ全員が、ほぼ同時にその声をあげた。
     その中で……昭和ヒーローもどきだけは……わざとらしい拍手をしていた。
    「ご明察の通りだ。最初は……お前では役不足だと思っていたが……お前の実力を知って考えが変った。逆に若いお前こそが、次なる時代の『正義』の象徴に相応しい」
    「何故だ……? 何故、そんな真似をする必要が有る?」
    「理由は2つ……。1つは……この国も、この国の人間も変ってしまった。良い方にな……。かつては……この国の政府の存在そのものが、国を危うくし続けていた。だが……政府が機能しなくなってから、この国の人間は……自分達で新たなる秩序を築き上げた。どうやら、人間には『秩序無き所に秩序を築き上げる』本能が有るようだ。ならば、。その事の象徴こそが、お前たちだ」
    「な……き……貴様……まさ……か……」
     「英霊顕彰会」の親玉らしい老人は……唖然とした声で言った。
    「なるほどな……。生命の危機においては『助かりたい』と云う欲こそ命を失なう要因になる。女にモてたけりゃ、まずは『女にモてたい』と云う気持ちを捨てるのが早道。なら……自分の国を愛してるなら、愛国者を排除し、愛国心なんぞドブに捨てるべき……。それがあんたのロジックか……」
    「そう云う事だ」
    「で……2つ目の理由は?」
    「俺は……こんな国など愛してはいない。だが……古い友の頼みで、この国の弱い者や傷付いた者を護ってきたつもりだった……。だが……気付いた時、俺より、それを上手くやっている者達が居た。他ならぬお前たちだ」
    「なるほど……私に、あんたを倒して、あんたに成り代わる茶番を演じろ、と要求してるのか」
    「ああ……」
    「わかった、なら、出演料として、その御老人をもらおう」
     羅刹女ニルリティは、そう言って「英霊顕彰会」の親玉らしき老人を指差した。
    関口 陽(ひなた) (6)「き……貴様ら……早く……解毒剤を……」
     ある薬を打たれた「英霊顕彰会」の親玉らしき老人は、そう叫び続けていた。
     本人は毒だと思い込んでるが……正体は単なる「恐怖心を呼び起こす」効果が有るだけのモノだ。
    「判った。その前に、あんたらが集めたモノが、どこに有るか吐け」
     私達が鳥居を出ると、すぐ、その爺さんは……ある建物を指差した。
     かつて、「本物の靖國神社」に有った……らしい……遊就館とか云う見世物小屋そっくりの建物だ。
    「あ……あそこの地下……」
    「って……あれ、何?」
    「あ、どうも……」
     鳥居から少し離れた所に居たのは……。
    「えっと……その声は……まさか……」
     白い狼男は……それを操作してるのが誰か判ったようだ。
    「な……なるほど……。あいつには人間の生命力を検知する能力が有る……らしい。なら、あいつは、これの存在に気付いてない可能性が高い訳か……」
    「ええ、そう云う事です」
     そいつの横には、羅刹女ニルリティが使っていた青い三輪バイクトライクが有った。
    「あの……俺……嫌な予感しかしないんですけど……。あいつの……いつもの……その……」
    「いや……あいつにも、学習能力は有るだろ」
    「は……早く……解毒剤……」
     老人は、そう叫び続けていた。本当に死ぬと思ってるせいか、薄々は薬の正体に気付いているが、強制的に植え付けられた「恐怖」に耐えられなくなったせいかは判らないが……。
    「すぐには死なんよ。まずは、私達が探してるモノが有る地下室まで案内してくれないかな?」
     そして……私達が「紛物の遊就館」に入った途端……。
     ……爆音が轟いた。
    護国軍鬼・零号鬼「では……場所を移すか……。新しい英雄が古い悪を倒すのに相応しい……見物人の多い場所にな……」
     俺は……俺の後継者と見込んだに、そう言った。
    「興味深い提案だったが……2つほど言いたい事が有る」
    「何だ?」
    「1つ……笑わせるな。2つ……どうしてもと言うのなら……他を当たれ」
    「ほう……だが……俺がお前を攻撃すれば、お前は反撃せざるを……」
    「緊急除装」
     新しい「護国軍鬼」がそう言った途端……。
    「お前……何の真似だ?」
     ヤツの体から、次々と「鎧」の部品が剥がれ落ちていった。
    「悪いね。腐った大人から『お前を英雄に仕立て上げてやる』と言われて従った結果、ロクデモない真似をしでかした馬鹿を……ほんの2〜3ヶ月前に、この島で見たばかりなんでね。私のこれまでの人生で出会った中で、最大級のマヌケの二の舞になるのは御免だ」
    「なら、またの機会に、もっと念入りに仕込んだ『茶番』をやるだけだ。いつか、お前は、俺を倒し、俺に成り代わ……」
    「更に悪いが……私は、負けず嫌いの根性悪でね。気に食わないヤツをくやしがらせる為なら……自分の命だって惜しくない」
     そう言って、ヤツは携帯通信機らしきモノに向かって……。
    「ファットマン、前方の鳥居の中に向けて……迫撃砲とグレネードを有るだけ撃ち込め」
    緋桜 (4) ボクは……一族に伝わっていた大きな翡翠の玉を取り戻し……日本の魔法使いの女の子は、古い鏡を取り戻して……地上に戻って来た。
     もっとも、両方とも霊力は完全に失なわれていたけど。
    「な……何が……起きたんだよ、これ?」
     神社の本殿は火に包まれていた。
     その中から出て来たヤツが1人。
     ガンっ‼
     そいつは……あるモノを地面に叩き付けた。
     小柄な女の子が着けていた白銀の強化服パワード・スーツの背中の部品だった。
    「ふ……ふざけた真似を……」
     ヤツは……孫悟空のヘルメットの人の方を向いて言った。
    「……あの小娘は……やはり、高木美憲よしのりの子孫か?」
    「へっ?」
    「ヤツと同じだ……。あの小娘は、とんだ狂人だ……。あの小娘には……普通の人間の心の中に有る何かが欠けている」
    「え……っと……あいつは……?」
     日本の魔法使いの女の子が戸惑ったような声で訊ねる。
    「知るか……。だが……もし生きていたなら……次に会った時は、お前の敵になると伝えろ。あの小娘は……危険過ぎる。あのような狂人が、力を手にしている状態など……到底容認出来ん。俺も焼きが回ったようだ……。日本を滅ぼしてくれると見込んで生かしておいた男の子孫であろう小娘に、日本の未来を託そうとするなどな……」
     そして……苛立たしげに、倒れていた遠隔操作式のロボットを踏み付けると……。
    「なるほど……この手を使ったか……」
     けど……さっきまで、そのロボットのそばに有った青い三輪バイクトライクは……どこかに消えていた。
    英霊顕彰会 大宮司 田安俊孝 足りない……。ここまでの真似をしても……かつての「力」を取り戻す事など出来ない……。
     日本列島に残る、最後の「まことの日本」の象徴は……あっさり灰になった。
     あまりにも馬鹿馬鹿しい理由で……。
     我々の武器は……大幅に減り……最後の方法を使っても……失なわれたモノの十分の一も補充する事は出来なかった。
     だが……それでも希望は有る……。闇夜の蛍ほどの儚い希望かも知れないが……。
     いつの日か再建されるであろう「日本」を導く者達である我等さえ居れば……新たなる陛下すらいくらでも生産出来るし、いつか、外国勢力の手先と化した本土の奴らを忠良なる日本の臣民に改造する日も夢では無い。
     我々自身こそが、将来の日本にとっての希望となる。
     我々の使命は……この、か細い希望を明日へと繋ぐ事だ……。
    「大宮司……御面会の方が……」
    「誰だ? こんな時にか?」
     そう聞いた次の瞬間……その職員の声にある感情が混っている事に気付いた。
     ……恐怖……。
    「お……お客様は……も……もう……お部屋までいらっしゃっています……」
    「よう……」
    「だ……誰だ?」
     執務室に入って来たのは、右手に拳銃を、左手にジュラルミン製のトランクを持った……白いダブルの背広に、派手なピンクのワイシャツ、白い絹のネクタイをした男だった。
     頭には一本の髪の毛もなく……その代りに……縫合痕……。素人目にも、出鱈目な場所に、わざと付けたとしか思えぬモノだった。
    「いやぁ……見事だったぜ。なるほど……最初から、こうすれば良かったのか……。史上最悪級の狂人になりたけりゃ……『狂人になりたい』と云う気持ちを捨てて、自分を正気だと思い込むだけで済んだのか……」
     そいつは……昨晩……「護国軍鬼」を名乗る非国民どもが言ったのと似たような戯言をほざいた。
    「何の用だ? 私を殺したとて……日本を滅ぼせると思うなよ」
    「業務提携をしたい。あんた達に好き勝手出来る力を与えれば……俺達の望みを、俺達より効率的に叶えてくれそうなんでな」
    「だ……だから、名前ぐらい名乗れっ‼」
    「親から付けられた名前は忘れた。とは言え、俺が誰かは明白だ。『本当の関東』の『賢者ワイズマン』を名乗ってたヤツの『予備機』の1つだ」
     どう云う事だ? ヤツの言っている事が本当なら……ヤツは我々が支持する正統なる日本政府の敵の筈……。それに「『予備機』の1つ」とは……何を意味している?
    「まずは手土産だ。あんたらが保有してる『国防戦機・特号機』の……起動方法を教えてやるよ」
     そう言いながら、その男は、ジュラルミンのトランクを開けた。
     そこには……6つの金属球が有った。
    高木 瀾(らん) (9)「何で、医者でもカウンセラーでも宗教家でもないあんたが、あの男の人生を背負えると思ってるんだ?」
     私は「神保町」の「魔法使い」にそう言った。
    「でも……」
    「そりゃ、あの男にも同情すべき点は有るだろうよ。でも、あんたの人生を、あの男に捧げる必要なんてない。自分の人生を安売りするな」
     まだ、心を決めかねてる彼女に私は言った。
    「首に縄付けてでも、あんたを、この島から連れ出す。判ったな」
    「ところでさ……お前が何で私を『気に入った』とか言ったのか、判ったよ」
     関口がニヤニヤしながらそう言った。
    「何だ?」
    「いや……私だって気に食わないヤツの横っ面引っ叩く為なら後先考えないが……お前ほどじゃねぇよ」
    「うるさい」
     少し離れた所では、台湾から来た女の子が顔を赤らめながら、レナに何か話そうとしていた。
    「あ……あの……お姉さん……」
    「な……なに?」
    「よかったら……その……ボクと付き合って……」
    「い……いや……ちょっと待って……。ちょっと、瀾‼ 何、うらやましそうな顔してんだよっ⁉」
    「うらやましいから、うらやましそうな顔してんだ。……悪いか?」
     台湾から来た女の子は、すっかりレナになついていた。
    「お前……何、考えてんだ?『死んだフリ』する為だけに、4号鬼をブッ壊すなんて……」
     続いて、苹采ほつみ姉さんが……怒る気力も無い、って感じのげんなりした口調で言った。
    「『護国軍鬼』の部品の8割近くは『水城みずき』と共通だろ。また作れる。それに……新たに『護国軍鬼』を2つか3つ作れるだけの動力源も手に入った」
     そう言って私は「国防戦機・特号機」の操縦者から摘出した「幽明核」が入ったトランクを指差した。
    「ついでに、偶然とは言え、4号鬼の『幽明核』も無事だった」
    「って……言うけどなぁ……」
    「一時凌ぎの『死んだフリ』だからこそ、念入りにやる必要が有る。違うか?」
    「だとしてもだ……。やり過ぎだ、あれは……」
    「けどさ……もう……私達……『戦う力を持つ者』は……主役じゃないのかも知れない」
    「へっ?」
    「私は……ずっと悩んでた……。誰かを助ける者になりたかったのに……私が手にした『強さ』は……『誰かを倒す事』『自分だけは生き残る事』に特化したモノだった……。けど……答は、すぐ近くに有った」
    「何だ?」
    「偶然とは言え、この1年足らずで……私が『誰かを倒せる力』だけじゃ解決出来ない事件を何度経験したと思う? これからは……救助チームや避難誘導チームや医療チームが主役になり……私みたいな『戦士』は……」
     そう言いかけた時、携帯電話Nフォンの災害通知アプリの通知音が鳴った。
    「お……おい……冗談じゃない……。お前の言った通りの事が……」
    「待ってくれ……何だよ……これ……まさか……」
     この時……「千代田区」の「九段」地区に毒ガスが撒かれると云う事件が起きていた。
     のちに判明した犯人は……「九段」の「自警団」の「英霊顕彰会」。
     ヤツらは……武器である大量の「死霊」を一夜にして失なった。そして、その「武器」を補充すべく、「死霊」の大量生産を試みたのだ。自分達が守るべき「九段」の人々を虐殺する事で……。
    終章:Angst たった一晩で全ては変ってしまった。
     千代田区Site01の警察と自警団は全て事実上の壊滅。
     「神保町」の「自警団」のリーダーだった、あたしの叔母さんは……混乱の中で行方不明になっていた。……いや、「本土」から来たあの人が言った事が本当なら、生きてはいない。人間に魂が本当に有るとしたら、その魂も無事では済んでいないだろう。
     これからは、千代田区Site01の治安は……他の「東京」の「自警団」か……「本土」の「御当地ヒーロー」達によって維持される事になるだろう。
     4つの「東京」の中で「2位以下に大差を付けた最強」の「自警団」だった「英霊顕彰会」は大幅に弱体化し……そして、もう誰も「英霊顕彰会」を「自警団」と見做す人など居ないだろう。4つの「東京」の「自警団」の力関係は大きく変ってしまった。
     多分、「自警団」の有り方そのものも変ってしまうだろう……。
    「勇気さん……」
     控えめに言っても、そこは……「ゴミ屋敷」だった。
    「行っちまうのか……俺を捨てて……」
    「あの……ごめんなさい……」
     あたしは、「本土」に移り住み……高校の勉強を一からやる事になった。
     レナさんも、「本土」の高専に編入。
    「みんな……居なくなっちまったな……」
     初めて会った日以来……数ヶ月ぶりに聞いた……勇気さんの芝居がかっていない……本当の感情がこもった声。
    「最後に頼む……俺を……元の俺に戻してくれ……」
     言っている意味が判らなかった……。
     勇気さんが、この数カ月間かかっていた「精神支配」は……本土の「御当地ヒーロー」達の手で解かれた筈だ。
     やがて……勇気さんが何をして欲しいのか、ようやく理解出来た時……。
    「違いますよ‼ 今の勇気さんが……本当の勇気さんなんです‼ 判らないんですか?」
    「こんなに……惨めなのが……『本当の俺』?」
     笑い声か泣き声か判らない声……。
    「頼む……戻してくれ……心をいじられてた頃の俺に……あの頃の俺が……本当の俺だ……。お前こそ……何故、判らないんだ?」

    「Neo Tokyo Site 04:カメラを止めるな!」(仮題)に続く
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    2021/08/29 0:50:39

    第四章「諸神之黄昏 ― Ragnarok : Battle Royal ―」

    4m級軍用パワーローダー「国防戦機・特号機」
    対神人間兵鬼「護国軍鬼・零号鬼」
    対神鬼動外殻「護国軍鬼・4号鬼」
    「紛いモノの東京」に集った3体の「紛いモノの神」が目指すのは「紛いモノの靖國神社」を擁する町。
    悪鬼の名を騙る苛烈なる正義の女神が、東京の名を騙る人工島にもたらすモノは、果して、混沌か、それとも新たなる秩序か?

    他のサイトに投稿したものの転載です。

    #オリジナル #伝奇 #異能力バトル #ヒーロー #ディストピア #魔法少女 #パワードスーツ

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