クレイジー・サイコ・レズ魔女王を倒したのは誰だ? 俺の聖剣が魔女王の胸を貫き……そして、魔女王は血を吐きながら絶命した。
念の為、「周囲で起きた事を記録する」機能を持つマジックアイテムで記録していたその映像が証拠になる筈だった。
「見ての通りでございます。仲間達が居なければ魔女王を倒す事は不可能だった事は認めましょう。しかし、王女殿下の婿となる条件である『魔女王にとどめを刺した者』に該当するのは、拙に他なりませぬ」
同性愛者である魔女王に誘拐された王女(駆け落ちだったと云う噂も有るが、絶対に嘘だ。嘘に決っている)を奪還した者を、王女の婿……そして、次の国王にする。
国王のその布告に何人もの男達が応じ……そして、ほぼ全員が返り討ちに遭った。
だが、俺達5人組がついに魔女王を倒した。
当然ながら、魔女王が倒される前から、予想されていた問題が有った。
俺達は、実の兄弟より固い鉄の絆に結ばれた仲間だが、もちろん、下品な意味での「兄弟」ではないし、そんな「兄弟」になるのは御免だ。
王女の婿になれるのは、当然1人だ。
もちろん、そのような事態を予想して……国王の布告には「複数人で魔女王を倒した場合は、魔女王に止めを刺した者を王女の婿にして次期国王とする」と云う条件が付いていた。
「待て、その証拠は捏造だ‼」
そう言ったのは仲間の魔術師だった。
「何を言ってる? あのアイテムによる記録は捏造や改竄が出来ないのはお前も知っているだろう」
「ああ、その通りだ。つまり、この映像も捏造や改竄によるものではない」
そう言って、魔術師は俺が使ったのと同じマジックアイテムを起動し……。
俺の聖剣は魔女王の急所をわずかに逸れていた。
俺が魔女王に与えたダメージは大きなモノではあったが……殺すには至らず……。
魔女王の命を奪ったのは、魔術師が放った雷撃の矢だった。
「そ……そんな……馬鹿な‼」
「見ての通りでございます。魔女王にとどめを刺したのは我輩……」
「いや待て」
「そうだ」
更に3つの映像が再生された。
1つ目では、魔女王にとどめを刺したのは神官が放った浄火光の魔法だった。
2つ目では、魔女王にとどめを刺したのは野伏のクロスボウから放たれた「魔術師殺し」の呪いが込められた矢だった。
そして、最後の1つでは……いや、どうなってるんだ? 俺達は5人パーティーだったが、1人死んでる筈だぞ。
「妾と姫は愛し合っておるのじゃ。人の恋路を阻まんとする無粋な輩よ。燃え尽きよ、我が力で。我が守護神シネストロの光で」
「俺が盾になる。お前たちは必ず……」
既に重症を負っていた忍者がそう叫んだ所までは、俺の記憶と同じだった。
だが、映像の中の忍者は……最後の最後でビビって、魔女王を攻撃魔法を避け……忍者の背後に居た俺達残りの4人は一瞬にして全滅した。
そして、生き残った忍者にも、1人で魔女王を倒す力など残っている筈もなく……。
「判ったか? 愚か者どもよ。そなたらは既に死んでいる。これが、この世界唯一の真実じゃ」
気付いた時には、目の前の玉座に座っていたのは、倒した筈の魔女王だった。
「ば……馬鹿な……」
魔女王の横には……頬を赤らめて潤んだ瞳で魔女王を見ている王女が……。
「う……うそ……だ……」
「そ……そんな……」
俺達の全身から煙が立ち……そして……俺達の体は焼け爛れ……。
「どう云う事? バグ修正には、プログラムを一から作り直さないといけないって?」
「実は、このゲーム、処理の割合を動的に変える機能が付いてまして……」
「へっ?」
「サーバに負荷がかかってる時は、処理の一部をユーザが使ってるPCやゲーム機が肩代わりするようになってるんです」
「つまり、何がどうなって、ユーザからのクレームみたいな事が起きたの?」
「ええ、サーバに負荷がかかってる時は……例えば、ユーザは、何人かのパーティで1つのシナリオをやってるつもりでも……個々のPCやゲーム機で起きてる事には細かい差異が生まれて……そうですね、喩えるなら、ゲームの世界がパーティの参加者数の時間軸と云うか平行世界に分岐したような現象が起きてしまうんです、はい」