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    「事実を元にした」映画の架空の登場人物 自分が正義だと思っている奴らは無意識の内に「最後に勝つのは自分達の側だ」と思っている。
     それこそが「自分が正義だと思っている奴ら」の強さだ。
     だが……俺は、自分が悪とは言えぬまでも正しくない事をやったのを自覚している。
     俺の作った映画のせいで……隣国の民主化運動は頓挫し、俺の国は、かつて以上の軍事独裁国家と化した隣国に占領された……。
     自分の信念に基いて、隣国の軍事独裁政権に立ち向かった奴らなら、いつか、その軍事独裁政権が倒れる、と云う希望を持ち続けるだろう……。
     だが……俺には、明らかな悪が栄え続けるかもしれない、と云う疑念を払拭する事は出来なかった。

    「これ……まずくないですか?」
     国からの支援金を使って、俺が監督をした映画の試写会が終った後、その映画ライターは困った顔で俺に言った。
     そいつは十年以上の付き合いの奴だが、隣国との緊張が高まるにつれて、俺とそいつの政治的な意見は食い違うようになっていった。
    「何がだ?」
    「ポリコレ的にですね……」
    「おいおい、そんなモノを気にしてたら映画なんか作れなくなるぞ」
    「でも……八〇年代末のあの事件を元にしてるのに、あんな架空の人物が……」
    「何言ってんだ? それ位許されるだろ。あくまでウチの国内向けで外国に出す予定は……」
    「そ……それ……本当ですか?」
     俺達に声をかけた第三者には……微かな「外人訛り」が有った。

     その男は、ウチの国と只今絶賛対立中の隣国の映画関係者だと名乗った。
    「私の国では民主化運動により政権交代が起きる可能性が有ります。ですが、今の時点では、あくまでも『可能性』です」
     そいつは、そう説明した。
    「ええっと……それで……?」
    「結局、失敗した一九八〇年代末のあの民主化運動……。貴方がこの映画のテーマに選んだあの出来事を、我が国の政府が、その民主化運動についての情報に対して徹底的な検閲を行なっているのは御存知だと思います」
    「は……はぁ……」
    「しかし、私は自分の子や孫が自由で民主的な国で生きていく事を望んでします……。いや、表立っては、こんな事を言えませんがね」
     なるほど……軍事独裁政権に支配されている隣国にも、こう考える奴のが居る訳か……。
    「ですので、貴方の映画を秘かに我が国の国内で上映したいんです。今、民主化運動をやってる若者達を勇気付ける為に」

     話はトントン拍子で進んだ。
     この映画には、もちろん制作会社や配給会社、そして製作費を出した国も絡んでいる。
     だが、長年対立してきた隣国の政府を倒す事に繋るかも知れない……その事は今の政権にとってあまりに魅力的だった。
     俺の映画は外交官特権を利用して隣国に持ち込まれ……そして、隣国で秘かに上映され……やがて……。
     ……やがて……。

     やがて、隣国では民主化運動は徹底的に頓挫し、軍事独裁政権は倒れたが、よりタチの悪い軍事独裁政権が生まれた。
     そして、前のよりタチの悪い軍事独裁政権は、俺達の国に侵攻し、たちまちの内に、俺達の国は占領され、俺は強制収容所にブチ込まれた。

     あれから二十年以上……俺は2年に1度の割合で別の収容所に移され……そして……。
    「あ……あんたは……まさか……?」
     ある収容所で再会したのは、俺の映画……俺が撮った最後の映画……をで上映したいと言ってきた男だった。
     目は暗い……あの時は三十代に思えたが……今は八十ぐらいに見える。
     痩せ細り……目には目脂。
     手の指は何本か欠けていた。
    「あんたは……いい生活をしてるようだな……」
    「何を言ってる?」
     いや……そうは言ってみたものの……どう考えても、俺の方がヤツに比べてマシな生活をしてきたようにしか思えない。
    「流石は……今の政権を生み出した功労者様だ。政府から護ってもらえてるようだな」
    「だ……だから……何の事だ?」
    「何も判っていなかったのか? あんたは、民主化運動と旧政権の両方の残党から怨まれてんだぞ。娑婆に居たら、あっと云う間に殺されるだろう」
    「おい……謎々は大概にしてくれ。何が言いたい」
    「だから……旧政権が倒れたのと、新政権があんたの国を占領したのは……原因は1つだ。あんたの映画のせいでな」
    「は……はぁっ?」
    「だから……あんたのあの映画では、一九八〇年代末のウチの国の民主化運動に、あんたの国の人間が関わったように脚色してただろ」
    「それがどうした? 当時のウチの国の政府の金で作った以上、ウチの国の『愛国者』どもを喜ばせるように描くしか……」
    「あんたも旧政府もやり過ぎた。あんたは……一九八〇年代末のウチの国の民主化運動を……」
    「い……いや……だから……言ってるだろ。国の金で作った以上、愛国者に媚びた内容にするしか……」
    「ウチの国の旧政府は……わざと、あんたの映画を野放しにして……と云う印象を広めた」
    「あ……」
    「だが……薬が効き過ぎた。民主化運動は潰れたが……ウチの国の国民の多くは……を何十年にも渡って操っていた……少なくともそう思い込んだ、あんたの国に敵意を抱き……旧政府さえ、あんたの国に対して弱腰だと思うようになったんだよ」
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    2021/12/21 17:39:01

    「事実を元にした」映画の架空の登場人物

    1980年代末に隣国で起きた民主化運動を描いた映画。
    そこに、ある嘘を混ぜたせいで、思いもよらぬ事態に……。
    「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「pixiv」「Novel Days」「ノベリズム」「GALLERIA」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。

    #不条理もの

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