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    第一部「安易なる選択−The Villain's Journey−」/第四章:Escape Plan(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10)(11)(12)(13)(14)(15)(16)(17)エピローグ:またしても組織壊滅(1)「一応、荷物は返してくれるそうだけど……手数料と身分証を持って天神に有る事務所にまで来いってさ」
     クズリが密輸に使ってたボートで釜山から対馬に入り、そこから博多港までやって来た。
     当然ながら、俺がコインロッカーに入れてた「お宝」は保管期限切れて、コインロッカーの管理会社に没取されている。
     そして、クズリの携帯電話ブンコPhoneを借りてコインロッカーの管理会社に連絡。
    「手数料っていくらだ?」
     俺はコインロッカーの管理会社に言われた金額を告げる。クズリの手持ちの金で出せない額じゃない。
    「ところで、金目のモノだとバレないのか?」
     そう言ったのは肉屋ブッチャー
    「ああ、鍵付きのバッグに入れてるし、鍵を開けられても……知らない奴が見たら単なる金属の玉だ」
    「でも……魔法的なモノだとバレる可能性は有りませんか?」
     「魔法使い」なら当然浮かぶ疑問を口にしたのは「教祖サマ」。
    「それが……謎なんだ……。明らかに魔法的なモノなのに、何故か魔力や霊力が検知出来ねえ……。どうやら、人間の体に埋め込むか何かしねえと、マトモに動かねえらしい」
    「そ……そんな魔法って、有るんですか?」
    「さあな……旧政府が科学と魔法の両方の技術を使って作ったモノらしいんで……俺達程度の『魔法使い』には判んねえ事が有っても不思議じゃないだろ」
     「魔法使い」じゃねえ3人は……俺と「教祖サマ」の会話の半分も理解出来てねえらしいが……でも、何か、俺を不信気に見ていた。
    「問題は身分証か……」
     続いて若旦那。
    「誰か、マトモな身分証持ってる人ぉ〜?」
     シ〜ン……。
    「この辺りに住んでて、マトモな身分証持ってる知り合いとか居ねえのか?」
     そう訊いたのはクズリ。
    「居ません」
    「居ねえ」
     俺と「教祖サマ」は即答。
    「俺の昔の子分を……」
    「おい、若旦那。あんたの子分は、ほぼ全員、『正義の味方』どもに目を付けられてるだろ。それも、あんたのドジのせいで」
    「あ……っ」
    「しかも、この若いのを除いて堅気に見えねえのばかりだしな……」
     クズリが「教祖サマ」を指差しながら、そう言った。
    「まぁいいや……ここの辺りにサウナ無いか?」
    「何でサウナ?」
    「釜山での騒動以降、風呂に入ってないだろ」
    「いいっすね、行きましょう」
    「俺はいい」
    「俺も」
    「僕もです」
     賛成派はクズリと肉屋ブッチャー
     反対派は俺に若旦那に「教祖サマ」。
    「どうした?」
    「背中が痛い」
    「多分、背中の火傷に染みる」
    「それに、脱衣所で背中の大火傷を誰かに見られたら……絶対に不審に思われますよ」
     そう云う事だ。
     反対派の3人は……「正義の味方」どもに彫られた背中のGPS発信機機能付きのマイクロ・マシン・タトゥーを焼いた火傷がまだ治ってねえ。
    「なるほどな……じゃ、俺とこいつだけで行く事にする」
    「畜生……背中のタトゥー焼く時に闇医者にでも頼むんだった……」
    「そうだな……。ついでに痛み止め代りに使えそうな違法薬物クスリもどっかで仕入れてくるか?」
     その時、ヤクザの若旦那が何かを考え込んでるような表情かおになった。
    「居るかも知れねえ」
    「何が?」
    「ちゃんとした身分証持ってて、『正義の味方』に目を付けられてねえ知り合いが……」
    「どこに?」
    「久留米」
    「何者だ、そりゃ?」
    「医者だ……ウチの『組』の怪我人を治療してた闇医者」
    (2) 俺達は、博多港のフェリー発着所の待合室で、サウナ帰りのクズリと肉屋ブッチャーと落ち合った。
    「何だそりゃ……? これで暗い部屋でPCいじってたら、安っぽいドラマに出て来るスーパー・ハッカー様だな」
    「うるせえ」
     ヤクザの若旦那はクズリが買って来たフード付の上着を着て、顔をフードで隠していた。
     なにせ、潰れたヤクザの組の元後継りが地元に戻るのだ。
     顔を知ってるヤツに出喰わす可能性が有る。
    「で……その医者の自宅はどこだ?」
    「JRと西鉄……どっちの久留米駅からも歩きじゃキツいな」
     若旦那がそう言った途端、一瞬、全員、ポカ〜ン……。
    「ああ、そうか。この辺りのヤツ以外には説明が必要か。久留米駅ってのJRのと西鉄の2つ有って……1㎞以上離れてんだ」
    「なるほど……」
     その時、「教祖サマ」がビクっとした表情になる。
    「どうし……」
    「に……逃げましょう……」
    「何がだ……?」
    「あ……あれ……」
    「あれって、何だ?」
    「だから、あれです」
    「だから、何の事だ」
    「い……いや、指差したらマズいです。あそこに居る女の子の2人連れ……」
     「教祖サマ」の視線の方向には……確かに二十はたち前らしい小娘メスガキが2人……何故か、その2人ともが、急に上着のフードで顔を隠し……。
    「あ……あれ……あの眼鏡の方……」
     そう言ったのはヤクザの若旦那。
     そう言や、あの眼鏡のヤツは……。
    「『正義の味方』の研修所の精神カウンセラーの助手をやってた……使か……」
    ?」
    「おい、若旦那、何、大声出してんだ? あいつと一緒って事は……もう1匹のメスガキも『正義の味方』だ……。あ、『教祖サマ』、何もやるな。何も呼び出すな……はい、深呼吸」
    「ああああ……」
    「おい、あの眼鏡っが『魔法使い』ってどう云う事だ?」
    「『魔法使い』同士なら……そうだな……『気』みて〜なモノで判るんだよ。自分の『気』だの『魔力』を操る訓練をやったヤツかどうかがな」
    「お……おい……そんな……」
    「おい、あの眼鏡っと何が有った?」
    「尻さわって……怒られた……」
    「……」
    「……」
    「……」
    「……」
     あまりと言えば、あまりな告白ゲロに唖然とする俺含む4名。
    「あのな……この御時世……娑婆でさえ、電車ん中で痴漢したり、職場でパワハラ・セクハラした相手が、どんな特異能力者か知れたもんじゃね〜んだぞ。それなのに……あんた……?」
    (3) その時、魔法使いらしい眼鏡のメスガキが、俺達の方を見て、何かを呟いた。
     何を言ったかは……聞こえない……。
     しかし……何の気・魔力・霊力も感じな……。
    「おい……あの眼鏡の女がかけてるモノは……
     そう言い出したのは肉屋ブッチャー
    「はぁ?」
    「良く見てみろ」
    「いや、ジロジロ見たら、俺達が誰かバレかねないだろ」
    「だから、あの眼鏡に見えるモノは……眼鏡型の携帯端末だ」
    「えっ?」
     そして、「正義の味方」なのが、ほぼ確実な2人連れは……厳しい顔になり、何かを呟き続け……あ……マズい、確実に他の「正義の味方」どもに俺達の事を連絡している。
    「おい……『教祖サマ』。『縁』を切っても惜しくない『使い魔』を全部呼び出せ。そして、『縁』を切って好きに暴れさせろ」
    「は……はい……」
    「とりあえず……えっと……JRに乗って久留米駅で降りろ。ええっと……まあ……そうだな……道が判んないヤツも居るから……2時間半後にJRの久留米駅の東口で落ち合うぞ」
     続いてヤクザの若旦那がそう言った。
    「何でJR?」
    「西鉄の方が人通りが多い。お互いに見付けられないくなる可能性が有る」
    「おい、交通費だ」
     続いて、クズリが各人に金を配る。
    「じゃあ、やれ、『教祖サマ』」
    「はいっ‼」
     次から次へと半魚人に見える悪霊どもが姿を現わし……。
     俺達は走り出す。
     「正義の味方」らしいメスガキ2人組は……前にも見たあの呪符を撒き散らす。
     周囲の一般人の中でも、霊感でも有るらしいのが騷ぎ始め……だが、半魚人型の悪霊はメスガキでも一般人でもなく、メスガキが撒き散らした呪符に群がる。
     この手の悪霊は「自分の存在を認識している人間」を優先的に襲う習性が有る。
     それも怯えてる人間を。
     特に暴走してる場合は。
     一体全体、どこの流派の呪符だ? 技術的には、そう難しいものじゃないが……巧い手を考えやがった奴も居たもんだ。
     どうやら、悪霊どもには、あの呪符が放つ「気」が「怯えた人間」に見えるらしい。それも、本物の人間以上に本物っぽい「怯えた人間」に。
     それでも、隙を作る事には成功した。
     俺は、待合室を飛び出てタクシー乗り場に向かい……。
    「おい、JRの久留米駅まで」
    「どこにですって?」
    「だから、JRの久留米駅だ」
    「あの……三〇㎞以上ありますが……お金、大丈夫ですか?」
    「じゃあ、JRの福岡駅まで」
     その声は肉屋ブッチャーのモノだった。
    「お客さん達、お連れさん?」
    「ああ」
    「ああ」
    「あの……あと……JRに『福岡駅』なんて無いですよ」
    「えっ?」
     あ……そう言や、そうだった。
    「博多駅でいいですか?」
    「いいのか?」
    「あ……うん……」
     そして、俺と肉屋ブッチャーが乗ったタクシーは走り出し……。
    「あんたと一緒か……」
    「何か問題でも有るのか?」
    「あの……お客さん……失礼ですけど、何の臭いですか?」
    「えっ?」
    「俺もひと風呂ぷろ浴びてから気付いた……」
     そう言い出したのは肉屋ブッチャーだった。
    「お前、何か臭いぞ。他の2人もだ」
    「はぁ?」
    「あと、兄貴は鼻が効く……多分、サウナに行ったのは……お前らの臭いのせいだ」
    (4) たしかに、俺の体からは何か変な臭いがしてるらしい。
     電車の中でも他の客からジロジロと見られた。
     それに何か熱っぽいし、体もダルい。
     行く先が闇医者で助かった。ついでにてもらう事にするか……。
    「おい、大丈夫か?」
    「ああ……何とかな……」
    「水でも買って来るか?」
    「頼む……」
     特急の通過待ちで停車した駅で、肉屋ブッチャーがペットボトルの水を何本も買って来てくれた……。
     クソ……この車両に、実は「正義の味方」とか……今の御時世の警官としてはマシな方のヤツとかが乗ってたりしないよな……。
     事情を知らないヤツが見たら……覚醒剤シャブ中毒ちゅうと勘違いするかも知れねえ……。
    「あ……あの……駅員さんか車掌さんに頼んで、救急車呼んでもらいましょうか?」
     いきなり、ブサイクなオバハンがそう声をかけてきた。
    「いらねえよッ‼」
    「あ……大丈夫です。あと何駅かで降りますから……」
     やれやれ……。
    「あのなあ……お前、何やってんだ?」
     肉屋ブッチャーがそう言い出した。
    「何が?」
    「どう見てもチンピラだ」
    「そうだよ。俺は所詮はチンピラだよ」
    「だから……ここで変に思われたら、どうなる?」
    「へっ?」
    「この儲け話は……今の所、お前と安徳グループの元後継あととりのどっちが欠けても終りだろ」
    「い……言われてみりゃ……そうだな……」
    「おい……」
    「どうした?」
    「お前、まさか『いつ、あのヤクザの馬鹿息子を切り捨てようか?』とか……」
    「考えてねえよ……」
    「本当か?」
     ああ……考えるのは……具合がマシになってからだ……。
    (5)「全員、揃ってるな……」
     何とか時刻通りに全員集合する事が出来た。
    「で……何が有ったんだ?」
     疲れ切った表情のクズリにヤクザの若旦那と、どこか目が虚ろな「教祖サマ」。
    「色々とな……」
     どうやら、この3人は一緒に行動してたらしいが……「自信喪失中で、鬱かつパニック障害の化物チート級『魔法使い』。しかも、その『魔法』の系統は旧支配者クトゥルフ系」……そんな奴の面倒を「魔法」関係の知識の無い連中が見る羽目になる……想像したくもねえ状況だったのだけは確実だ。
     まぁ、途中で「教祖サマ」を捨てなかったのだけは……感心出来る。
    「お前らの背中の火傷の痛み止め代りに買った違法薬物クスリを飲ませて、何とか大人しくさせた」
     おい……。まぁ、それしか手が無いか……。
    「しかし、ここ、少し前に、福岡県3番目の政令指定都市になったんじゃなかったっけ?」
     この辺りの様子だけ見れば、人口一〇万以下の町の駅前に見えない事もない。
    「ああ……繁華街が有るのは、もう1つの『久留米駅』の方で……あと、こっちにも駅ビルは有るが……反対側の出口だ。そっちは、こっちよりも多少はにぎやかだ」
    「そうか……」
    「あと、1〜2年前の例の騷ぎで派手に破壊されてな……」
    「あれか……噂で聞いた事は有る」
     俺の元所属組織を潰した連中のリーダー格である護国軍鬼4号鬼が「御当地ヒーロー」としてのデビュー戦をやったのが、この辺りだったらしい……。
     ここ久留米を本拠地にしていた安徳グループの中の「武闘派」である安徳セキュリティーに、熊本の龍虎興業、北九州の青龍敬神会、そして、何故か広島からわざわざやって来た神政会。
     迫撃砲に旧政府が富士の噴火で滅んだ時に裏社会に流れた4m級軍用パワーローダー「国防戦機」まで駆り出された三つ巴・四つ巴の大喧嘩を地元の「御当地ヒーロー」達が鎮圧したが……駅ビルは爆破され、数百人の市民が死に、一体、どんなヤツがどんなとんでもない能力を使ったか不明だが局所的な地震と地盤の液状化が発生し、この辺りの地下の電線網やネット回線網やガス・水道はズタズタになり復旧に数ヶ月かかった、って話だ。
    「さて……問題の闇医者だけど……」
    「ああ……ヤツの表の仕事場まで行って夜になるまで待つぞ」
    「へっ?」
    (6)「ええっと……闇医者だよな……?」
    「そうだけど……」
     ヤクザの若旦那に案内され、バスでやって来た場所は……商店街っぽい通りだった。
    「普通に開業してるじゃね〜か……」
    「表の仕事だからな……」
     目の前に有るのは個人経営らしいクリニック。見た所は外科系のようだ。
    「あのさ……人通りが多いとこで、人相が悪いのが4人に、ヤバい違法薬物クスリキめてんのが1人だと……目立つぞ」
     クズリが当然の指摘。
    「営業時間が終る頃に出直すか……それまで、どっかで時間を潰すか……」
    「どっかって……?」
    「ええっと……目立たねえ所は……」
    「バスで来る途中にカラオケ屋を見掛けた気がしたけど……」
    「そこにすっか……」
    「でもさ……入店するのに、会員証とか居るんじゃね?」
     何とか日本に戻って来れたはいいが……携帯電話ブンコPhoneは韓国組の2人しか持ってない、身分証は全員無し……韓国組の2人は持ってるかも知れねえが密入国なんで、身分証が要る場所でも迂闊に出す訳にはいかねえ、金は韓国組の2人頼り……。
     何から何まで動きにくい。
     カラオケ屋には、特に身分証も求められずに入店出来て……。
    「良かった。Wi−Fiも使える」
     部屋に入った途端に、そう言ったのはクズリ。
    「何だ? SNSに写真でも上げるのか?」
    「違う。お前が英霊顕彰会から持ち出したお宝の売却先は決ってんのか?」
    「候補はいくつか有ったけど……」
    「例えば?」
    「NEO TOKYOの他の『自警団』」
    「もう、英霊顕彰会の縄張りシマ台東区Site04の『入谷七福神』のモノになってるみたいだな」
     クズリは携帯電話ブンコPhoneで何かを調べながらそう言った。
    「あ……」
     今更、英霊顕彰会の縄張りシマを狙ってた奴らに英霊顕彰会の「秘密兵器」を持ってても……喩えるなら、北朝鮮が滅んだ後に「北朝鮮の核爆弾」に関する情報を韓国やアメリカに売り込みに行くようなモノだ。買ってくれたとしても、買い叩かれるのは目に見えてる。かつて存在した本当の「アメ横」の「年中閉店セールをやってる店」の叩き売りみてえに……。
    「広島の神政会は?」
     ヤクザの若旦那がそう言った。
     一九七〇年代から続く自称「保守系政治結社」だが、実態は、当時全国制覇を狙っていた某広域暴力団に対抗する為に出来た広島の地元のヤクザの連合体だ。それが二一世紀に入って以降、いつの間にか超化物チート級の特異能力者と噂される何者かに事実上乗っ取られてしまったらしい。
    「金・科学技術部門・魔法使いの全部が揃ってる所じゃないと……巧く使えねえような代物だ。あそこは……『魔法使い』系はそこそこだけど……」
    「おい……どんな所なら買ってくれるんだよ?」
    「えっと……最低でも自前で『国防戦機』の修理が出来る技術力を持ってるとこ」
    「ハードル高過ぎだろ」
    「自前で『護国軍鬼』みて〜な代物を作れる2〜3歩手前ぐらいまで行ってるとこが理想……」
    「んな『悪の組織』が、そうそう有るかッ⁉」
     そう言う事だ……。
     どうやら、かなりの科学技術を持ってる何者かが「正義の味方」どもの背後バックに居るらしく……科学技術に関しては、大概の「悪の組織」は「正義の味方」どもに遅れを取ってる……。
     強いて「正義の味方」ども並の科学技術力を持ってる「悪の組織」が有るとするなら……どこかの国の政府機関の成れの果てなんてか……この時代に残る数少ない軍事独裁国家の政府機関か……。
    「正統日本政府なんかは?」
     富士の噴火で潰れた旧日本政府の後継政権を自称しているテロ組織。
     自分で、わざわざ「日本政府」なんて名乗ってる時点で、日本国内外の誰も「正統な日本政府」だと見做してくれてない事を自覚してる連中だ。
    「俺の元所属組織の友好団体だ。俺の手配書が回ってるし……あと、何より落ち目だ」
    「じゃあ、民間軍事企業のシルバーフレイムは?」
     2つに分裂したアメリカのロクデモない方であるアメリカのスポンサーだ。
     たしかに、ここなら、科学・魔法両方の研究部門が有るが……。
    「日本含めた東アジアの拠点は、ほぼ全部引き払ってる。主に日本の『正義の味方』どものせいでな……」
    「くそ……あそこしかねえか……」
    「どうする? あそこが一番、タチ悪いぞ……」
    「韓国の方に、いい組織ねえのか?」
    「日本と同じだ。ウチの組織が潰れたせいで……他の組織がウチの組織の縄張りシマ狙って抗争を始めてる。話を持ってても、後回しにされるだけだ」
     くそ……俺が、元・所属組織からアレを持ち出したら、その事が回り回って、逆に、アレを買ってくれそうな組織を減らしちまった訳か……。
    「じゃあ……仕方ない……あそこに売り込みに行くぞ」
     俺は、そう言った。
    「ツテは有るのか?」
     そう訊いたのはクズリ。
    「山口の長門ながとの地方議員が、あそこと英霊顕彰会と正統日本政府の3つ全部のシンパだった」
    「どう言う事?」
    「三重スパイで……かつ、揉め事が有った時の交渉の窓口だった……。で、俺が昔、その地方議員にとって都合が悪い地元のヤクザを呪殺してやった事が有る」
    「なるほど……善い事はするもんだな。後になって自分に戻って来る」
     そう言ったのはヤクザの若旦那。
    「あんたの言う『善い事」』って何だよ?」
     クズリが当然のツッコミを入れる。
    「まぁいい……アレを取り戻したら……行くぞ……日本最後の『悪』の聖地『シン日本首都・大阪』に……」
     富士の噴火で旧政府が潰れた後、大阪最大の地方政党「獅子の党」が「大阪こそ新しい日本の首都だ」と一方的に宣言し……その後、大阪府のほぼ全域は「日本国内に存在する事実上の独立国」にして「日本国内で、ほぼ唯一、『正義の味方』どもが迂闊に手を出せない地域」と化した。
     どうやら、「シン日本首都」を名乗る大阪の支配者は、超化物チート級の「精神支配能力者」を作り出し、そいつを「新しい日本の天皇」に据える計画を進めているらしい……。巧く行くかはビミョ〜だが……。
    「あんた……案外、中二病っぽい言い方が好きなんだな」
     ヤクザの若旦那が余計な指摘。
    「うるせえ」
     日本に残った最後の「悪党が悪党らしく生きていける場所」。
     果たして、そこの悪党どもは……俺達なんか、あっと言う間に食い物にしちまうような超化物チート級の悪党か……。それとも、「悪の楽園」の中で平和ボケしたチョロい小悪党か……。
     悪党とは他の誰かを食い物にする者達の事。
     富士の噴火より前に、後に大阪の支配者となった「獅子の党」の所属議員が何かの映画の感想で「悪の方が現実的」だとかSNSで発言して炎上した事が有ったが……今のこの時代を考えると、あまりに意味深だ……。まぁ、結果的に意味深になっただけだろうが。
     今の時代、悪党にとっては「自分よりチョロい悪党」こそ栄養満点のご馳走だ。悪党が生きていくには、自分よりチョロい悪党が一定数居た方が都合がいい。
     俺達の選択肢は1つだが……その先に待ってるのは、俺達にとってのご馳走になるマヌケか、俺達をご馳走にする化物かの2つに1つだ。
    (7)「あ……あの……受け付け時間は終ってますが……」
    「いや、ここの先生の知り合いだ。先生に診察が終った後に、話がしたいと伝えてくれ」
     夕方になって再び、例のクリニックに戻って来た。
    「おい、誰……?」
     奥から出て来た六〇近いぐらいの齢に見える医者はヤクザの若旦那の顔を見た途端、真っ青になって……。
    「あ……あの……どうかしましたか?」
    「診察してもらいに来たんじゃねえ。どうしても、先生の手を借りたい事が……」
    「いえ……そう云う意味の『どうかしましたか?』じゃなくて……どこか大怪我してませんか? それも化膿してるような……」
    「えっ?」
    「本当に気付いてないんですか? 御一緒されてる人達も気付いてないんですか? 顔色とか?」
     い……いや……顔色が悪いのは先生の方……待てよ……。
    「そう言や……少し熱っぽくでダルい気が……」
    「俺もだ……」
    「僕もです……」
    「待合室で……いや、職員の休憩室に案内しますから、そこで待ってて下さい」
     へっ?
    「何が……どうなってんだ?」
     ごつい体の上に乗ってる、これまたごつい顔に困惑気味の表情を浮かべる肉屋ブッチャー
    「なあ、俺達って顔色悪いか?」
    「あ……言われてみれば……。疲れのせいだと思ってたけど……」
     ヤクザの若旦那に聞かれて、そう答えたのはクズリ。
     とりあえず、俺達は職員用の休憩室に案内され……。
    「あのさ……あと、どの位、待っとけばいいの?」
    「一時間か一時間半です」
    「長えな……」
    「おい、携帯電話ブンコPhoneちょっと貸して」
    「何で……」
    「何もする事が無いんで、WEBでも見てたい」
    「あんたに貸したら、俺が何もする事が無くなる……。あのさ……ここWi−Fi使える?」
    「何か、雑誌でも有ったら貸して」
     クズリと若旦那がそう大声をあげてしばらくして、看護師が地元のミニコミ誌を持って来た。
    「院内にWi−Fiは無いです。事務用のPCは、全部、有線LAN接続なんで。でも、運が良ければ、外の無料公衆Wi−Fiに接続出来るかも知れません」
     ミニコミ誌を持って来た看護師は、そう告げた。
     十年前に富士の噴火で東京が壊滅して以降は……「雑誌」と言えば各地域のミニコミ誌、「新聞」と言えば地方紙になっている。
    「やべえ……忘れてた……」
     俺は地元のミニコミ誌を読んで、重大な事に気付いた。
    「何?」
    久留米ここって……奴らの地元だったな……そう言や……」
     俺がミニコミ誌のあるページを他の奴らに見せた時……。
    「お……おい……それ……『教祖サマ』に見せたら……マズいんじゃ……」
    「あ……『教祖サマ』。目をつぶれ……。何でもない。何でもない。何でも……」
    「えっ?……あ……あ……あ……あ……あ……」
    「あんた、わざと『教祖サマ』に嫌がらせしてねえか?」
    「落ち付け。深呼吸。何も呼び出すな。あと、出来ればでいいんで叫ぶな」
     クズリ達が「教祖サマ」を大人しくさせる為に飲ませてた違法薬物クスリの効果は、とっくに切れていた。
     しかし……教祖サマの顔に浮ぶ表情は……恐怖……。
     俺がうっかり見せてしまったミニコミ誌のページには……「教祖サマ」をかつてボコボコにしたらしい強化装甲服パワードスーツの「魔法使い」の写真が載っていた。
    (8)「あ〜、先生、ちょっとした頼みが有る」
    「それより、治療が先です。まずは体温を計って下さい」
    「どうしても、ちゃんとした身分証を持ってる奴が必要になってな……。この病院の次の休みはいつだ?」
    「それより体温を計って下さい」
    「俺達の言う通りにしないと、あんたが俺達から仕事を請け負ってた事を警察に……」
    「後で詳しく聞きます。でも、貴方達は病人です。まずは医者の言う事に従って下さい」
     ヤクザの若旦那と医者の噛み合わない会話が続いていた。
     ピピピ……。
     ピピピ……。
     その時、俺と「教祖サマ」が脇に挟んでた体温計から測定終了を告げる音がした。
    「う……うそ……四〇℃近く……」
    「僕もです……」
    「えっ?」
    「どこかに化膿するほどの怪我を負った覚えは?」
    「背中に火傷」
    「僕もです」
    「じゃあ、上半身裸になって背中を見せて下さい」
     俺は……医者の言う通りにして……。
    「何ですか? この雑な応急処置は……えっ?」
     突如として嫌な沈黙が診察室を支配した。
     ……。
     …………。
     ……………………。
    「あのさ……今、医者センセイは、どんな表情かおになってる?」
    「あ……あ……えっと……何とも言えない面白い顔」
    「そこにうつぶせせになって下さい。すぐに処置します」
    「えっと……うつぶせせって、背中と腹のどっちが上だっけ?」
    「背中の傷を治療するんだから背中が上に決ってるでしょ」
    「あの……先生……トイレどこ?」
    「あっちです」
    「い……いや……トイレじゃ間に合いません……ゲロ吐いてもいいビニール袋とか有りませんか?」
     おい……何で、「旧支配者クトゥルフ系魔法結社」の元総帥含む人が死ぬ場面なんか何度も見てきた筈の奴らが……吐きそうな表情かおになってんだ?
     そして、医者は俺の背中に何かをして……。
    「いていていていていたいいたいいたいたすけたすけたすけてててててて……」
    「まだ処置の途中です」
    「お……おい……それ……何だ……それ……?」
     医者は俺の背中の傷から取り出した……あるモノを金属製の盆にいくつも乗せ……。
    「蛆ですが」
    「だから、何で蛆が蛆が蛆が……?」
    「あのさ……魔法系のロクデモない術とか使ったり、危険ヤバい『魔法使い』の恨みを買ったりするとこんな事になったりとか……?」
    「お……おい、若旦那……何が言いたい?」
    「だ……だって、あんた、超一流の死霊使い系の魔法使いに、あんな真似を……」
    「すいません、そっちの方面は良く知りませんが……もっと、簡単に説明が付きます。火傷した後の処置が雑過ぎただけでしょう」
    「だから……俺の背中は……どうなってる?」
    「火傷の傷痕あとが化膿してるだけじゃなくて……蛆まで湧いてますね」
    (9)「あのねえ……本当だったら、即、総合病院に搬送ですよ」
     それから数日、俺達はこのクリニックの職員用の休憩室で過ごす事になった。
     点滴に抗生物質に熱冷しを投与され……。
    「治ったの?」
    「多少は」
    「『多少は』って?」
    「これから、何をするつもりか知りませんが、落ち着いたら、すぐに大き目の病院に行って下さい。なるべく入院施設が有る所。で、今後、適切な処置さえすれば、普通の生活は出来ると思いますが……治っても、背中に負担がかかる運動は駄目です。あと、背中へのマッサージも一生受けない方がいいですね」
    「あ……先生、悪いが、車一台貸してくれ……出来れば……」
    「何となく、想像は付きますよ……。ええ、逃亡用のでしょ」
    「えっと……ここまでしてもらって、こんな事を言うのは……その……俺も悪いと思ってんだが……その……」
    「ええ、従わないと、警察に言うぞ、でしょ? 判ってますよ。私だって、ヤクザよりタチが悪くなった警察の組対マル暴に一生つきまとわれるのは御免ですよ」
    「あ……あの……さ……。九州本土の警察って、ヤクザよりタチが悪いの?」
     医者センセイが変な事を言ったので、気になって訊いてみると……。
    「部署による。県警の組対マル暴と、広域組対マル暴は要注意だな」
    「へっ?」
    組対マル暴関係に目を付けられたが最後……全財産を取られて、中学ぐらいまでの健康な子供や年頃の娘が居たら売り飛ばされる」
    「おい」
    「いや……俺達ヤクザ組対マル暴の刑事どもの弱味を握っていいようにコキ使ってる内に……俺達ヤクザよりタチが悪くなりやがった」
     ……。
     …………。
     ……………………。
     なるほど……そりゃ既存の警察機構けいさつに代って治安の担い手になった「正義の味方」どもが必死になって自分達の身元を隠そうとしてる訳だ。
    「あ……あの……売り飛ばすって、まさか、子供にまで売春を……その……?」
     そう訊いてきたのは「教祖サマ」。
     だが、その手の商売に詳しい俺とヤクザの若旦那は首を横に振る。
    「えっ?」
    「いや、あんた、剣呑ヤバそうな魔法結社の元首領だろ? あんたの組織では子供を買ってなかったのか?」
     ヤクザの若旦那は「教祖サマ」に訊き返した。
    「い……いや……ま……待って下さい……。何の事ですか?」
    「若い女には健康な子供を生ませる。売春なんて真似を大事な商売道具にさせる訳がねえ。もちろん、父親は『裏』の精子バンクで厳選した健康優良な男だ。そして、子供は洗脳して、他の『悪の組織』に売る」
    「だから……何の為に……?」
    「客が買った子供をどう使うか詮索なんてしねえよ。だが、想像は付く。今時、『悪の組織』にとって子供の使い道なんていくらでも有るだろ。人体実験に、少年兵に、違法な臓器移植に、剣呑ヤバい魔法の生贄……おい……どうした?」
    「す……すいません……トイレ……は……吐き気が……」
     ……。
     …………。
     ……………………。
     えっと……俺達って、ひょっとして旧支配者クトゥルフ系魔法結社の元・総帥サマさえ「うげえええ〜ッ」となるような商売マネをやってたの?
    「あれ……医者センセイどうした?」
    「そ……そこまでとは思わなかった……。し……知りたくなかった……」
    (10) そして、俺達3人と、韓国で合流した2名、更にヤクザの若旦那の知り合いの医者が揃ってやって来たのは……西鉄久留米駅付近の繁華街に有る地下駐車場だった。
     普通の駐車場じゃない。
     警備は万全。会員用のIDカードが無いと出入り不能。
     そして、そこに有るのは……。
    「す……すげえな……」
    「いや……車の事は良く判んないが……壮観だって事だけは何となく判る」
     ズラっと並んでるのは九〇年代以前のガソリン車ばかり。
    「全部、私のって訳じゃないですよ。5〜6台ぐらいです」
    「なるほど……これの維持費の為に、ヤクザから表沙汰に出来ない怪我人の治療を請け負ってたのか……」
     富士の噴火の前から、ガソリン車だろうとEV電動車だろうと車載コンピュータでの制御が当り前になっていた。
     アクセル・ブレーキ・ハンドル操作は一端、電子信号に変換された上で、車載コンピュータのAIで補正される。
     ガソリン車のギアチェンジやEV電動車の電動モーターの動作モードチェンジは、これまた車載コンピュータのAIがきにはからってくれる。
     事故が起きても、またしてもAI様が車の操作を乗っ取りあそばして、被害を軽減してくださる。
     その他、縦列駐車みたいに、昔だったら、自動車教習所で巧くいかずに、教官に罵倒されてたような事も、AI大明神様が自動運転してくれる。
     昔より車の運転は楽になった……その代り……。
     車載コンピューターが無ければ車を動かせないと云う事は……その車載コンピューターを遠隔操作リモートで止められれば、車は動かなくなる。
     車にGPS発信機が付いているので、車の位置はすぐに判る。
     自動車泥棒は、どこの国でも割に合わない犯罪商売になった。
     ただし……昔の車を除いて。
     だから、旧車マニアは、車を、こんな感じの警備がしっかりしてる駐車場に預けるようになった。
     そして……。
    「なるほど。ここの車を使えば……」
    「ああ、この医者センセイが俺達の事を『正義の味方』に密告チクっても、『正義の味方』が俺達を追跡するのは難しくなる筈だ」
    「じゃあ、この車を使います」
     そう言って医者センセイが指差したのは……。
     たしか……トヨタのランドクルーザー。
    「日本がバブル期だった頃の型式モデルです。この車種の中でも、最高傑作ですよ」
    「なんか、言い方がオタクっぽいな……」
    「ええ……若い頃好きだった小説の主人公の愛車がコレでしてね……。でも、新車を即金で買えるようになった頃にはSUVでさえEV電動車が主流になってた」
     俺達は5人乗りの筈の車に無理矢理6人乗り込み、地下駐車場を出て……。
    「えっ?」
     ふと、外を見ると、地下駐車場の出入口付近には似つかわしくない4人組。
     どう見ても、高校生ぐらいのメスガキども。
     全員フード付の上着を着て、そのフードで顔を隠しているが……。
    「ま……まずい……」
    「お……おい……GPS付きのマイクロ・マシン・タトゥーは焼いた筈じゃ……」
    「わ……わからん……どうなってる?」
    「いっそ、ここで轢き殺すか?」
    「馬鹿野郎。大儲けまで、もう少しなのに、騷ぎを起こす訳にはいかねえだろ……。大体、やつらをここで殺せても……『正義の味方』どもは、まだ、いくらでも居る」
     メスガキ4人の内2人は……博多港に居た「正義の味方」らしき奴らだった。
    (11)「誰か残った方がいいな……」
     博多の天神の近くの駐車場にヤクザの若旦那の知り合いの医者の車を停めた後、俺はそう言った。
     まず車を盗まれる事は無いだろう。
     だが、仮に、盗むのであれば、最近の車より、こう云う昔の車の方が簡単だ。
     しかも、金を持ってるマニアや、まだ、EV電動車や車載コンピューターのメンテが困難な途上国や紛争地域に売り払うなら、日本が技術大国だった時代の日本のメーカーのガソリン車・ディーゼル車の方がいい。
    「で、誰が、この医者センセイと一緒に行って、誰が残るんだ?」
     そう言ったのはクズリ。
    医者センセイと一緒に行くチームと、残るチームの両方に、1人づつ『魔法使い』系が居た方が良いが……荷物を確認する時に俺が居た方がいい」
    「あんたが医者センセイと一緒に行って、この若いのが残る、と」
    「ああ……『教祖サマ』、いくら調子が悪いからって、生きた人間の気配ぐらいは……」
    「え……ええ……何とか……探れる……と思います」
    「で、携帯電話ブンコPhoneを持ってるのが、各チームに1人づつ。何か有ったら、それで連絡を取り合う」
    「じゃあ、俺と肉屋ブッチャーのどっちかが……」
    「怪しまれないように、目立つ方がこっちに残って、目立たない方が医者センセイと一緒で良いんじゃないか?」
    「えっと……俺は?」
     続いて訊いたのはヤクザの若旦那。
     元ヤクザと言っても、育ちは良いんで……。
    「あんたの場合、ギリギリ堅気に見えるから……」
    「そうか?」
    「ま、いいや、どっちでも好きにしてくれ」
     結局、俺と医者センセイとクズリと若旦那の4人連れで荷物の受取に行く事になった。
    (12)「なあ……あそこに……中年カップルか夫婦に見える男と女が居るだろ……」
    「またかよ……いい加減にしてくれ」
    「あの2人連れの女の方……どう思う?」
    「さっき似たような事を言ってから……5分経ってねえぞ」
     俺の質問に、クズリと若旦那は、やれやれと言った感じで答えた。
    「今度は、どうしたんですか?」
     そう質問したのは若旦那の知り合いの医者センセイ
    「ええっと……男の方が……魔力とか気とか霊力とか……言い方は何でもいいけど、その手のモノが全く感じられねえ」
    「普通の人って事ですか?」
    「いや、一般人より更に低レベルだ」
    「つまり?」
    「何かの方法で魔力・霊力を隠してる可能性が有る」
    「じゃあ、仮に貴方の言う事が妥当だとして……」
    「妥当だよ」
    「じゃあ、何で、その魔力だか霊力だかを隠してるらしい男の方がじゃなくて……連れの女の人をどう思うか訊いたんですか?」
    「『正義の味方』は、刑事みてえに、複数人での行動が基本の筈だ。だとしたら、一緒に居るオバさんの方は白兵戦系の……」
    「あのな……俺達は武道の達人じゃねえんだ。あのオバちゃんアジュモニが本当にバカ強い奴でも、歩き方だけ見て、どの程度の腕前かなんて、俺達に判る訳ねえだろ」
     クズリが当然の指摘をする。
    「あ……」
    「神経質過ぎだろ」
    「ブツを金に換えたら、精神カウンセリングでも受けろ」
    「で……でも……ダウンジャケット着てるのは……その……懐に拳銃とか入れてるのを隠す為……かも……」
    「阿呆か。もう一一月も後半だぞ。あの手の服を着てても変じゃないだろ」
     そして、俺がブツを預けてたコインロッカーの管理会社の事務所に到着し……医者センセイが身分証を見せて、手数料を払うと、時間はそこそこかかったが、さしたるトラブルも無く、あっさり、保管期限切れて没収されてたブツは戻って来た。
    「鞄はこれで間違い無いか?」
    「ああ」
     俺達はコインロッカーの管理会社の事務所が入ってる雑居ビルの入口近くでブツを確認する。
    「鞄の鍵は?」
    「有る」
    「案外……小さいな……」
    「どうやら、元々は人間の体に埋め込んで使うモノらしい」
    「ふ〜ん」
    「ちゃんと……金になるんだろうな?」
    「ああ……」
     いや……金になりそうなモノは、もう、これ位しか無い。
    「じゃあ、医者センセイ、車の鍵」
    「あの……もう、これっきりですよ。次に貴方達が現われたら、迷わず『正義の味方』に連絡しますからね。例え、私が刑務所に行く事になっても」
    「大丈夫だ。俺達は……これから……『大阪』に行って人生やり直すんで、あんたとは、多分、二度と……」
     だが……「大阪」の一言を聞いた途端、医者センセイの顔色が変った。
    「あの……本気ですか? どう考えても『人生のやり直し』じゃないでしょ、それ……」
     医者センセイはわざとらしい溜息をつくと……。
    「はい……車の鍵です。もうこれっきりですよ」
    (13)「どうしたんすか、兄貴ヒョン? うんざりした顔して」
     俺達が駐車場に戻るなり、肉屋ブッチャーはクズリに韓国語でそう訊いた。
    「この馬鹿が、途中で、あそこに『正義の味方』が居るだの、『正義の味方』に尾行されてるだの、阿呆な事を言い続けたからだよ」
    「おい、何で、韓国語で訊かれたのに、日本語で答える?」
    「嫌味を他の奴にも聞かせるためだよ」
    「変ですね……こっちには、それらしい人達は見ませんでしたけど……」
     そう言ったのは「教祖サマ」。
    「おい、やっぱり、あんたが神経質になってるだけだ。おい……全員乗れ、出発するぞ」
     そう言って、ヤクザの若旦那は運転席のドアを開け……。
     ……。
     …………。
     ……………………。
    「おい……どうした?」
    「……」
    「若旦那、何、固まってんだ?」
    「…………」
    「だから、どうしたんだよ?」
    「あ……あの……」
    「何?」
    「マニュアル車、運転出来る人、手を挙げて」
     肉屋ブッチャーが手を挙げ……。
    「若旦那、あんた、俺に『あんたが何か企む度に、何で、俺達と同じ悪党ばっかり死ぬんだ』とか言ってたよなあ?」
    「そ……それがそうした……?」
    「偉そうな事言ってた、あんたのプランも中々のもんだな、おい」
    「うるせえ」
    「いい加減にしろ、俺が運転するから、とっとと車に乗れ」
     そして、車は発進し……。
    「昔の車でも何とか巧く……おい……ギアチェンジ」
    「あ……すまん……マニュアル車運転したの……十年ぶりで……」
    「お……おい……。あ……おい……」
    「今度は何の『おい』だ?」
    「いや……あそこに、若い女の2人連れが居るだろ……」
    「おい、日本こっちの『正義の味方』は、九〇年代のJホラーに出て来る化物か何かか? それとも、あんたが、どいつもこいつも『正義の味方』に見える病気にでも罹ってるだけか?」
    (14) 高速道路に入って本州へ向っている最中、関門海峡の手前のサービスエリアで飯を食ってる時に、突然、ヤクザの若旦那が気を失なった。
     
     隙を見て、クズリが持ってた違法薬物クスリを若旦那の食事に混ぜたのだ。
    「あ……あの……行徳さん……」
     青くなってるのは「教祖サマ」だけ。
    「おい、車の中に運ぶぞ」
    「ああ……しかし、あんた……ええっと……日本語で何ってんだっけ?『信用』とか『仁義』とか『義理』って言葉知ってる?」
    「俺の予想が外れてても……もう、この先、こいつが必要になりそうな事は無い……。いざとなったら置いてきゃいい」
    「あの……だから……何を……?」
     事情を知らない「教祖サマ」は途方に暮れているが……。
    「まだ、判んないか?『正義の味方』どもが俺達の居場所を調べる方法が、俺達に印刷したマイクロ・マシン・タトゥーだけだと思ってたのか?」
    「えっ?」
    「俺やあんたみたいな『魔法使い』に、その手を使ったら……多分、気付かれる。でも、こいつの場合は……気付かない内に……」
     車の後部座席にヤクザの若旦那を寝かせ……。
    「おい、大宮司クソじじい出て来い」
     俺は「使い魔」に変えた、俺の元所属組織の首領の「死霊」を呼び出す。
     かつて、俺をコキ使ってやがった奴の成れの果ての顔に浮かんでるのは……うつろな表情。
    「こいつの体を探れ……但し……こいつに何か取り憑いてたなら……その何かに気付かれないようにな……」
     大宮司クソじじいは力なくうなづき……片腕をヤクザの若旦那の体内に入れる。
    「おい……大丈夫か?」
    「話し掛けんな……かなり集中しねえと失敗……居た……居やがった」
     大宮司クソじじいの腕の感覚が俺にも伝わる。
     居た。取り憑いてるのが……。それも……かなり巧く隠れてる……普通に悪霊・雑霊に取り憑かれた場合には、まず、有り得ないほど、作為・人為を感じさせる隠れ方。
    「若旦那に『使い魔』が取り憑いてた。……多分、『魔法』系の『正義の味方』のな」
     だが、向うにも、微かな動き……。
    大宮司クソじじい、引っ込めッ‼」
     次の瞬間、ヤクザの若旦那の目が開き……。
     クズリがヤクザの若旦那の鼻をつまむ。
     息が出来なくなった若旦那は口を開き、暴れかけ……。
     そこにクズリが違法薬物クスリを無理矢理飲ませ……。
    「若旦那……あんたの事は忘れねえ……。年に1回ぐらいは思い出してやるよ」
    「どんな感じだ?」
    「多分、居場所はGPSほど正確には判らねえだろう……。けど、若旦那が見たり聞いたりしてるモノを『魔法使い』系の『正義の味方』も見たり聞いたりしてた可能性が有る」
    「あんたが『正義の味方』に追われてる、って思ったのは……気のせいじゃなかったのか……」
    「さあな……気のせいだったかも知れねえし……そうじゃなかったかも知れねえ。でも、そうじゃなかった可能性が、さっきより大幅に上がった」
    「あ……あの……行徳さんを……」
    「この馬鹿は、ここに捨てて、『大阪』で俺が手に入れたブツを金に換えて、俺達だけ人生をやり直す」
    「冗談でしょう?」
    「あのな……俺達は悪党だぞ、『教祖サマ』。悪党ってのは……誰かを食い物にして踏みにじらねえと生きてく事が出来ねえ……欠陥品の人間の事だ。でも……『正義の味方』どもが世界を変えちまった……」
    「あ……あの……何を言ってるんですか?」
    「今の時代、悪党が一番、食い物にし易くて……踏みにじり易いのは……自分よりチョロい悪党だ」
    「じゃ……じゃあ……その……」
    「悪が正義に勝てる時代は、とっくに終ってんだ。どうしても、悪が生き残りたけりゃ……他の悪を生贄に差し出すしかねえ……」
    「その理屈で……何人、仲間を見捨てたり死なせたりしたんですか?」
    「おい……『教祖サマ』、大人になれ。あんた、一応は『悪の組織』の元首領だろ」
    「いいです。僕は、ここに残ります。『正義の味方』に捕まるなら……そっちの方がいい……。今度こそ真人間になってみせます」
    「どうする? この若造も……」
     肉屋ブッチャーは言葉では、そう言ってるが……口調はしぶしぶ感満載だった。
    「殺すな……。こいつは……何かの間違いで悪党こっち側に来ただけの運の悪い奴だ。一般人あっち側で生きてくのがしょうに合ってなら……一般人あっち側に行かせてやろうぜ」
     そして……俺達の車は……ヤクザの若旦那と「教祖サマ」を置いて走り出した。
     一応は、まだ、3人連れ。
     でも……あの「正義の味方」の研修所で集めた仲間達は……みんな居なくなってしまった。
     いや……半分以上は俺のせいで、居なくなった訳だが……。
    (15)「お……おい……何か変だぞ……右の方を見てみろ」
    「今度は何……えっ⁉」
     関門大橋の上で、その事に気付いた。
     本州から九州に向かっている車はそこそこなのに……俺達の車が居る九州から本州に向かう車線はガラガラだ。
    「たまたまでしょ。こっちにも俺達の車以外に……ん?」
     前を走っていたトラックのスピードが、やたらと遅い。
     俺達の車は追い越し車線に入るが……。
    「な……なんだ、あのトラック? 何、考えてやがる?」
     前に居るトラックもノロノロとしたスピードのまま、追い越し車線に入る。
     俺達の車は元の車線に戻るが……前のトラックも俺達の車を追うように車線変更。
     しかも、俺達の真横に別のトラックが……あれ、背後うしろにも……更に別のトラックが……えっと……。
    「囲まれたぞ」
    「う……そんな馬鹿……」
     俺達の車を取り囲んだトラックはスピードを落す。
     俺達の車も……周囲のトラックにブツかっても、重量負けするのは目に見えてる。
     やがて、俺達の車とそれを取り囲む3台のトラックは関門大橋の上で停車。
     そして……。
    「マズい……車捨てて逃げるぞ……」
     3台のトラックのコンテナの上には……各1人づつ「正義の味方」が居た。
    「フザけた真似を……」
     クズリは車から飛び出ると……獣化能力を使って動物の方のクズリの姿に変身。
     真ん前のトラックのコンテナに飛び乗り、そこに居た、黒地に白い縞模様の虎のような変身能力者に襲いかかる。
     しかし、黒い虎は、巨大なバタフライ・ナイフ風の刃物でクズリを迎撃。
     クズリも攻撃を受けつつ、黒虎を爪で攻撃。
     獣化能力者の多くは、高速治癒能力を持っている。
     あの2人もそのタイプのようだ。
     虎の黒い毛と、クズリの茶色の毛が、みるみる赤く染まる。
     俗に「再生能力」と呼ばれてる高速治癒能力だが……それでも、骨や内蔵を傷付けられると、無事じゃ済まない場合が多いらしい。
     それでも、普通の人間同士の戦いとは違う戦い方……自分の肉を断たせてでも、相手の内蔵ハラワタを切り刻むのを狙うような、グロ耐性が無い奴にはキツい光景だ。
     一方で、背後うしろのトラックの上に居る強化装甲服パワード・スーツの「魔法使い」が「気弾」を放つ。
    大宮司クソじじい、出て来い」
     俺は、「使い魔」にした元所属組織の首領の死霊を呼び出す。
     亡霊と化した大宮司クソじじいは、とんでもない邪気を放ち、「気弾」を打ち消し……。
     今までのパターンからすると……「正義の味方」どもは、霊体が「怯えた人間」に誤認する「気」を放つ呪符を撒き散らし……。
     その前に、「正義の味方」どもの「気」を補足とらえないと……大宮司クソじじいの攻撃は明後日の方向に行ってしまう。
     俺は、周囲に居る奴らの「気」をる。
     3人の「正義の味方」。
     トラックに乗ってる「正義の味方」の後方支援要員……そして……。
     しまった。
     「正義の味方」側の生きた人間は、全員、隠形……気配や気・霊力・魔力・生命力なんかを隠す呪法……をかけられてるみたいで……しかも……どうやら、すでに、トラックのコンテナの中には、例の呪符が撒き散らされ……待て……。
     1つだけ、変な「気配」が有った。
     嫌な気配……本能的に「気配を探る事そのものが危険」だと判る気配……。
     ドンッ‼
     そいつは、横に居るトラックの上から飛び降りる。
     青い装甲に……胸には銀色の星……。
     アメコミの「キャプテン・アメリカ」をイメージしたらしい強化装甲服パワード・スーツ
     そいつが俺達の前に来た瞬間。
    「引っ込め、大宮司クソじじいっ‼」
    「おい……何を……」
    「こ……こいつは……俺達『死霊使い』の天敵だ……」
    「やあ……久し振り」
     そこには……俺の元所属組織を壊滅させた連中の1人……青い「護国軍鬼」が居た。
     ドンッ‼
     更に、もう1つ、アスファルトに何かが激突する音……。
    「お……おい……あんた……確か……」
    「わ……わかんねえ……再生スピードが……落ちて……」
     青い「正義の味方」に続いて目の前にってきたのは……真っ赤に染まった悪党……。
     クズリの全身には傷口が開き……そこから、血が流れ続けていた。
     クズリは……最早……獣人形態さえ維持出来ないほどに、体力を消耗しているらしかった。
    (16) 白兵戦に関しては俺達の中で一番強い奴は……一番の取り柄である「高速治癒能力」を、あっさり封じられた。
     どうやら、高速治癒能力と言っても、傷の種類によって治り方が違うようで……剃刀でスパっと切ったような切り傷はすぐに再生するが、切れ味の鈍い刃物で無理矢理切ったような切り傷は治りが遅いらしい……。
     そして、あの黒い虎のような獣化能力者が使っていた刃物は……わざと、高速治癒能力者からして治るのが遅くなるような傷……「切れ味の鈍い刃物で無理矢理切ったような切り傷」を付けるのに特化したモノだったらしい。
     つまり……仮に、再生スピードが同じなら……クズリが黒い虎に付けた傷はすぐに治るが、黒い虎がクズリに付けた傷は治りが遅い。これまた仮に、他の点でクズリと黒い虎がほぼ互角なら……負けるのはクズリだ。
     俺は……役立たずになった。
     敵に「死霊を喰らう強化装甲服パワード・スーツ」が居る以上、「死霊使い」系の「魔法使い」は術の大半を封じられたも同じだ。
     そして、肉屋ブッチャーは……チート級の強化装甲服パワード・スーツを着た奴が1人、強化装甲服パワード・スーツを着た「魔法使い」が1人、高速治癒能力持ちの獣化能力者が1人と言う「敵」に、「普通の人間としては、かなり強い方」の奴に出来る事など、ほとんど無い。
     イチかバチかで関門海峡に飛び込んで逃げようとした所をあっさり捕まった。
     そして、俺達はフンじばられ、トラックのコンテナにブチ込まれた……。もちろん、同じコンテナ内には、3人の「正義の味方」が居る。
    「な……なんで……」
    「『何で、こんなに早く見付けられたんだ?』って聞きたいの?」
     青い「護国軍鬼」は、そう聞き返した。
    「あ……ああ……」
    「あのさ……車の車種とナンバーが追手に知られてる可能性が1%でも有るなら……ボクだったら、監視カメラが有る場所はなるべく避けるね」
    「えっ……」
    「阿呆……」
    「まぬけ……」
     クズリと肉屋ブッチャーは絶望したような口調で悪態をついた。
    「い……いや……、あの車にしたのは……若旦那のプランだ」
     くそ……あの車は……昔の車なんで……GPSも付いてなきゃ、車載コンピューターを遠隔操作リモートで停止させる事も出来ない……。
     ヤクザの若旦那は、だからこそ、あの車にすれば、「正義の味方」どもが、俺達を追いにくいと思ったようだ。
     だが……逆に……昔の車だから……単純に目立つ。
     今の時代、道路上・町中・高速道路のサービスエリアやパーキングエリアの監視カメラの映像は、WEBで不特定多数に公開されてる。
     そして、車種とナンバーが判っているなら……あの医者センセイとヤクザの若旦那と「教祖サマ」の誰が「正義の味方」にチクりやがったか知らねえが……「俺達を『正義の味方』どもが発見出来るか?」の答は……「正義の味方」どもが持ってるコンピューターの処理能力の問題になる。
    「で……どうすんの?」
     何故か、そう訊いたのは、青い「護国軍鬼」だった。
    「何がだ?」
    「もう1回、社会復帰訓練を受ける? それとも……」
    「な……なぁ……責任取ってくれ」
    「はあ?」
    「あんた達『正義の味方』は……日本中を……いや、下手したらアジア中か……世界中を、俺達みたいなのが生きてけない世の中に変えちまった」
    「うん。だから、君達向けの社会復帰訓練をやってる」
    「けど……俺は、真人間には成れねえ。そして、俺みてえに真人間に成れねえ奴も居る」
    「まぁ、そう思い込むのはキミの勝手だけど、齢を取るほど自分を変えるのは難しくなるから、真人間になるなら早い内をオススメするけど」
    「だから……世界を変えちまった責任を取って……あんたらが変えちまった世界じゃ生きていけねえ俺を……悪党が生きてける場所まで送り届けろッ‼」
    「『大阪』の事? オススメ出来ないね。悪は悪でも……『大阪』の『悪』は、君の『悪』とはビミョ〜にズレが有るんじゃないの? あと、『大阪』だって、いつ滅ぶか判んないよ」
    「だけど……」
    「判った。大阪に行くまで、他人に迷惑をかけないなら……」
     そう言って、青い「護国軍鬼」は……俺にあるモノを渡した。
    「えっ?」
    「その鞄に入ってるモノが何かは知ってる。それをキミが『大阪』の上層部に売り付ける気なのもね」
     何でだ……? どうなってる?
    「でも……気を付けな。『大阪』は、それを使い熟す事は出来ない。もし……『大阪』が、それを使い熟せるようになった時、『大阪』はキミが知ってる……そして、キミの望む『大阪』じゃなくなってるだろう」
     待て……おい……何を……言ってんだ?
    「あと、も1つ。それを狙ってる連中が居る」
    「お……おい……何者だよ……?」
    神の怒りフューリー
     それは……「正義の味方」どもの世界支配を覆し得るほぼ唯一の組織と噂される世界的テロ集団の名前だった。
    「それが大阪に有る事を『神の怒りフューリー』が知ったら……『大阪』で何が起きるか判らない」
    (17) 二一世紀の最初の年に、「精神操作」系の能力者の存在を一般人が知る事になった。
     その数年後には、「異能力者」と雑に一緒くたにされてる「魔法使い」「超能力者」「獣化能力者」「妖怪系その他の『古代種族』の子孫」などさえ、どうやら、自分達が知らなかった変な能力の持ち主が、この世界にはウジャウジャ居るらしい事を知った。
     そして、二〇世紀的な「核を含めた通常戦力」の重要性は落ちた。
     無理もない。
     特殊部隊を丸ごと「精神支配」出来る「超能力者」が存在する。
     大国の政治指導者でも「呪殺」出来る「魔法使い」が居る。
     だが、そんな時代でも……富士の噴火以降残った約四〇の道府県の中で最大の陸・海・空の「通常戦力」を持っている所に攻撃を仕掛けるのは……「正義の味方」どもでも慎重にならざるを得ないだろう。
     結局、俺達は『大阪』のシンパである地方政治家のツテで、『大阪』に亡命した。
    「これ……本物ですか?」
     『大阪』の亡命局担当者は……俺達が「亡命」を申請して、約半年後に、俺が持ち込んだモノが何か、朧げだが教えられたようで、俺は再び亡命局に呼び出された。
    「ええ……NEO TOKYOの自称『自警団』だった『英霊顕彰会』が所持してたモノです」
    「で、これと引き換えに我々に何をしろと?」
    「ええっと……これに相応しい代金と……あと……『シン日本首都』内での就職の斡旋を……」
    「上では、これの扱いに困ってまして……」
    「えっ?」
    「私にも詳細を知る権限は無いんですが……『上』の方では、当面は研究用としては貴重でも、あくまでも『研究用』でしかない、と云う結論に至りました」
    「あの……どう云う事でしょうか? これを使った兵器は……富士の噴火より前に実用化されていた筈ですが……」
    「私に言われても困ります……。私にも詳細を知る権限は無いので……。少なくとも、『上』からは、こう言われてます。『これ』は『日本精神』に反する忌しいモノだと」
     待て……どう云う事だ?
     これは……単なる「科学と魔法の融合で生まれた画期的エネルギー源」じゃないのか?
     単なる「エネルギー源」が、ある「イデオロギー」からして「忌しいモノ」って、どう云う事だ?
     何が……どうなって……?
    「あと……ある亡命者が貴方に会いたいと……」
     へっ?
     あっ……。
     まさか……。
    「よう……」
     部屋に入って来たのは……。
    「二人っきりで思い出話をしたいんで、席を外してもらえますか?」
     は亡命局の役人にそう言った。
     うなづき席を外す役人。
    「ま……つもる話は色々と有るが……」
    「何だよ?」
    「あんたがやりやがった事は忘れねえからな……」
    「ああ、そうかい」
    「結局、何人、ここに辿り着いた」
    「俺とあんた含めて4人だ」
    「じゃあ、まけといてやるよ……。あんたが持ち込んだモノの代金が出たら……四分の一は俺のだ。判ったな?」
     くそ……。
     「正義の味方」どもは、当分、真人間になる気がない元悪党を、この「大阪」に捨てる事にしたらしい。
     何故、悪党が「正義の味方」に勝てないか判った。
     ……「正義の味方」どもにとって悪党が何をやらかすかは、簡単に予想が付くらしいが……「正義の味方」どもは悪党にとって斜め上の真似をやりやがる。
    エピローグ:またしても組織壊滅 その後の数ヶ月は地獄だった。
     俺とヤクザの若旦那は互いに「あいつは大阪外を支配している『テロリスト』のスパイだ」とシン日本首都の当局に密告し合った。
     何度も公安警察や諜報機関に呼び出され、何度も拷問を受け、何度も自白剤を打たれ……そして、生き残り勝ち残ったのは俺だった。
     韓国組の2人は、金を手にしたら、さっさと『大阪』外へ逃亡。
     ヤクザの若旦那は、強制収容所送り。ざまあ見ろ。
     そして、別の問題も有った。
     俺が手土産としてシン日本首都に差し出した「幽明核」は……どうやら、旧政府によって作られたモノじゃなかったらしい。
     アレは大東亜戦争の頃の軍の特務機関により作られた……既に詳細が忘れ去られたロストテクロノジーの産物で……富士の噴火の直前に発見された当時の記録によれば……兵器としては、とんだ欠陥が有ったのだ。
     幽明核は、魔法でも科学でも説明が出来ない、とんでもない量のエネルギーを生み出せるが……そのエネルギーを引き出し制御する為には、ある特定の条件を満たす人間が必要になる。
     と言っても、特別な人間じゃない。地域にも依るが……その条件を満たす人間は、最低でも全人口の5%以上、下手したら半数以上の場合だって有るかも知れない。だが、それが問題だった。
     アレを制御出来る者の条件の1つが「精神操作も洗脳も脳改造もされていない人間」。……つまり、「悪の組織」からすれば、いつ何時、自分が属する「国」や「組織」を裏切るか知れたモノじゃないヤツに、超ド級のモノ凄いエネルギー源を託すしか無い。
     つまりは、そう云う事だ。
     そんなモノを使わせても大丈夫なヤツなど居る訳が無い……。仮に居るとすれば……そうだ……子供の頃、学校の漢文の授業で習ったアレだ……「心の欲するところに従えどものりえず」。一般的な意味ではなく、文字通りの意味の「聖人」か「正義の味方」だけ。
     俺の手土産は……シン日本首都にしてみれば封印するしか無い危険物でしか無かった。

     とは言え、何とか俺は、シン日本首都が誇る新兵器「陸上戦艦『移動式・護国神社』」の内の一台に搭載された「魔法兵器」の操作担当者になり、シン日本首都の中では平均より上の給料をもらえるようになった。
     待遇や身分も「尉官級の軍人」だ。
     そして、その夜、シン日本首都内に侵入した「外」の「テロリスト」の討伐の為に、何台もの陸上戦艦が出動する羽目になった。
     だが、町を火の海に変えたのは……テロリスト達ではなく、シン日本首都軍だった。
     そりゃ、そうだ。
     いくら手強いからといって、たかが十名足らずの人間をブチ殺すのに、怪獣ゴジラにだって勝てそうな兵器を使ったのだから。
    「まだです。ヤツらは、まだ生きてます。本部からは攻撃を継続しろとの命令が……」
     「艦橋」内で通信士がそう叫んだ。
    「どうなってる? 本部に問い合わせろ……今回の『テロリスト』は、一体、何者だ?」
    「了解……。本部、敵テロリストに関して、現在、判っている情報を……そ……そんな……」
    「どうした? 相手は何者だ?」
    「……護国軍鬼です……」
     何だって?
    「敵の位置が判明。出動した『護国神社』の内、敵に最も近いのは当『護国神社』の模様。ですが……当『護国神社』に搭載されている火器では……」
    「相手は人間サイズだぞ、どんな化物だろうと通じない筈が……」
     次の瞬間、爆音と衝撃。
     この「移動式・護国神社」は「陸上戦艦」と呼ばれるだけあって、並の戦車よりデカい。しかし、そのデカブツが、地震みてえに大きく揺れた。
    「な……何だ?」
    「他の『護国神社』より攻撃を受けました」
    「はあ?」
    「敵の位置は、当『護国神社』に近過ぎて……当『護国神社』に搭載されている火器の大半は……射線が通りません。そして……他の『護国神社』が敵を攻撃しようとした場合……」
     そ……そうか……つまり、他の「移動式・護国神社」が「敵」に向けて撃った流れ弾を食らっちまった訳か……。
    「山田中尉。魔法兵器を起動。我々の手で一刻も早く敵を殲滅せねば……‼」
    「了解ッ‼」
     そして、俺は、この「護国神社」に搭載されている「死霊召喚」の呪具を起動……した次の瞬間、ある重大な事を思い出して、とっさに隠形結界を張った。

     このシン日本首都は……可能ならば全「臣民」、最低でも政・官・軍・財の各界の指導者クラスほぼ全員を支配出来るような強力な精神支配能力者を生み出す事で「世界に冠たる揺がざる秩序が有った、かつての日本を取り戻す」事を「国是」としていた。
     当然ながら、シン日本首都では「精神支配能力への抵抗力が強い者」は迫害の対象だった。
     後になって判った事だが、この夜、「外」の「正義の味方」達は、ここで迫害されている者達を「外」に亡命させようとした。
     その際の陽動部隊に居たのが……あの「悪鬼の名を騙る苛烈なる正義の女神」「行く先々に混沌と新しい秩序をもたらす者」こと護国軍鬼4号鬼だ。
     あの化物を初めて目にした日……ヤツは「死霊」どもを食らっていた。
     そして……「死霊を食らう化物」のすぐ近くで……「死霊召喚」の呪具を起動すれば……どうなるか?
     言うまでもない……暴走だ……。
     出現した大量の死霊達は……自分達を食らう化物から一刻も早く逃げようとして……暴走する死霊達の何割かは、他の「移動式・護国神社」の乗員に憑依し……暴走は暴走を生み……。
     ああ、そうだ……確かに、あの「アドバイザー」はこう言っていた。
     ヤツらは……「正義の味方」の中でも……「陽動任務の筈が、気付いたら敵の主力部隊を壊滅させてた」ような真似をよくやるチームだと……。
     シン日本首都から「外」に亡命した万単位の奴らは、その後、「外」で幸せに暮しているようだが……「外」から、このシン日本首都に亡命した俺は……あの夜が明けた頃には再び所属組織を失なっていた。

    ※同じ作者の別作品「Storm Breakers:第一部『Better Days』」の序章に続く。
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    2022/01/15 23:36:38

    第一部「安易なる選択−The Villain's Journey−」/第四章:Escape Plan

    「仲間でも使えねえ奴は切り捨てる」非情の作戦の筈が、真っ先に「正義の味方」の手に堕ちたのは「一番使える能力」を持ってる仲間。
    何故か行く先々で次々と潰れるのは「悪の組織」。
    「正義の味方」の手を逃れてる筈なのに、酷い目に遭うのは同じ悪党ども。
    折角集めた仲間は、あまりに馬鹿馬鹿しい理由で死んでいく。
    冷酷非情・極悪外道だが……格好付けたがりで詰めが甘い悪党は「マヌケの旅路」を駆け抜ける。
    地獄へ通じるその道の舗装材は、善意か悪意か……はたまた「安易」か?

    #ヒーロー #ディストピア

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