イラストを魅せる。護る。究極のイラストSNS。

GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

  • 1 / 1
    しおり
    1 / 1
    しおり
    第一章:海にかかる霧プロローグ:You're fired.(1)(2)(3)(4)(5)(6)(7)(8)(9)(10)(11)(12)(13)(14)プロローグ:You're fired. あの時代、世界は輝いていた。
     携帯電話は低機能で、一般家庭向けのインターネット接続サービスは……カタログ・スペックでさえ一桁Mbps有れば上等だったが……それでも、俺に見える未来は素晴しいモノだった。
     とは言え、俺が「世界は、これから大きく変る」と思った切っ掛けは、よりにもよって歴史に残るテロだったが……。
     俺は輝ける未来を選んだつもりだった。

    「ひょっとして……にいちゃん?」
    「……」
    「あたしだよ、葵。わかるよね?」
    「……」
     十年以上ぶりに再会した妹は……関門海峡の対岸に有るあの有名企業のロゴが入った作業着を着ていた。
    「あのさ……たまには実家に連絡しなよ」
    「……」
    「ところで、ここで何やってんの?」
     再会の場所は……俺の職場だった。
     そう、「だった」。
    「……」
    「どうしたんだよ?」
    「何もやってねえ……」
    「はぁ?」
    「お前の会社からレンタルする事になった強化服パワードスーツのせいで、馘になったんだよッ‼」
    「へっ?」

     二〇〇一年九月一一日。
     2つに分裂する前のアメリカで起きたテロ。それに使われた旅客機のブラックボックスの音声から「未知の原理・能力によって、他者の精神を操作出来る人間」が存在している可能性が示唆された。
     そして、それから1〜2年の内に、様々な「異能力者」の存在が明らかになった。
     超能力者。
     魔法使い。
     変身能力者。
     日本では俗に「妖怪」系と呼ばれる「古代種族」系。
     存在のみが噂される通常の「超能力」「魔法」を遥かに超えた「神の力」の持ち主。
     そんな連中が、どれだけ居るかは不明だった。
     ただ1つ言える事は、二〇世紀に陰謀論者が信じていたより遥かにデカい人数の、どんなオカルト信者の妄想さえあまりに単純な世界観に思えるほど多種多様な「異能力者」が人間社会に潜んでいたのだ。
     ハリウッドの大作映画の悪役の「混沌よ来たれ」なんてセリフは一気にダサいモノと化した。俺達が気付いてなかっただけで、混沌はスクリーンの中ではなく、スクリーンの外の現実世界にこそ、ずっと当り前のような表情つらをして存在し続けていたのだ。
     まだ、十代だった俺は……世界は、これで大きく変る……そう信じ……。
     高校時代のある夏の日、親からくすねた金と十八切符を懐に入れて東京へ行き、ある「魔法結社」に入り、そこで修行して……平均よりはかなり上の「魔法使い」になり……。

     二十年以上が過ぎ、俺は「おじさん」と呼ばれる年齢になり……外見と性格に至っては「おじさん」より「おっちゃん」と言われる方がしっくり来るような駄目な中年男と化していた。
     いつしか、「魔法」への情熱とは消え失せ……それに伴なって霊力ちから技量うでも衰えてゆき……気付いた時には「使い魔」や「守護精霊」との「絆」さえも無くしていた。
     そして、十代の頃の俺は、とんだおっちょこちょいだった事が判明した。
     未だに科学技術の時代は続いており……俺の仕事は、理系の大学に進んだ妹の勤め先に奪われる事態になった。
    (1) 見付かった。
     逃げた。
     逃げた。
     必死で逃げた。
     リストラされたその日の晩に、たまたま入った飲み屋……そこに、俺のせいで大怪我した奴が、これまた、たまたま居た……。
     最初は、そう思っていた。
     だが、ひょっとしたら、尾行されていたのかも知れない。
    「待ちやがれ、こん畜生ッ‼」
     奴は労災の補償金で買ったらしい、結構性能が良さそうな電動式の車椅子で俺を追い続けていた。
     下関の飲み屋街で、俺と奴は、通行人をはね除けながら、必死で追い掛けっこを続けていた。
     奴は携帯電話ブンコPhoneでどこかに連絡をしており……ん?
    「よう……」
     地獄の底から響くような声。
     前方に、もう1人。
     こいつも電動式の車椅子で……つまり……。
     いや、逃げられるかも……。
     どっちも高性能の車椅子なので、縦横ともにデカい。
     つまり、運良く俺のすぐ近くに有る細い路地には入れない。
     やった、逃げられる。
     俺は路地を駆け抜け……。
    「だから、お前は三流の『魔法使い』なんだよッ‼」
     ゴンっ‼
     路地を抜けた先に居た男に思いっ切りブン殴られ……。
     俺を殴った、そいつの右腕には、これまた労災の補償金で買ったらしいパワー・アシスト装置。
     ああああ……畜生、あれも、俺から仕事を奪った門司もじの企業「高木製作所」の製品のようだ。
     意識を失なう寸前に、俺の脳裏をよぎったのは、そんなマヌケな考えだった。
    (2)「ねえ、ねえ、ねえ、ねえ……落ち着いて、落ち着いて、落ち着いて……感情的にならずに、冷静に話し合おうよ、あははは……」
    「へえ……。流石は『魔法使い』様だ。頭が悪い俺達とは違って、こんな体にされても冷静でいられるみたいだな」
     俺は、夜中の公園で遊具に吊されていた。
     周囲に居るのは……同じ職場に居た奴ら。
     正社員も入れば、一時雇いだったのも居るし、子会社からの出向や派遣だったのも居る。
     共通してるのは……全員が過去に後遺症が残るレベルの怪我をしている事。
     ある者は車椅子に乗り、別の者はパワー・アシスト装置を着装している。
     ここ3年ほど、俺が働いていたのは下関市内でもトップ3に入る土木工事業者。
     そこで、俺は、魔法を使って現場作業員達の筋力を一時的に増強する仕事をしていた。
     そして、俺が勤め始めて、1年で労災の件数が急増した。
     2年目には、阿呆経営者も急増した労災に「ある共通点」が有る事に気付き始め……。
     そして、ついに、俺は馘を言い渡され、俺の魔法の代りに、最新式の強化服パワードスーツが使われる事になった。
     早い話が、俺がやっていた「筋力増強の魔法」は、筋肉量を増やすその他の「体そのものを強化する」タイプの魔法では無かった。
     いわゆる「火事場の馬鹿力」を一時的に引き出しているに過ぎなかったのだ。それも体の頑丈さは元のままで。
     仕方無かった。「筋肉量を増やす魔法」は有るには有るが、最低でも数週間はかかる上にかなり高度な「職人芸」であり、即効性の「筋肉量増加」の魔法など……仮に存在していても、俺は見た事も聞いた事も無い。
     いや、体を酷使する事による苦痛を柔らげる魔法も同時にかけてたが……それが余計悪かった。
     その結果こそが……目の前に居る、俺が身体障碍者に変えてしまった皆さんだ……。
     その時……。
    「ん?」
     突如、流れ出したメロディは、一青窈の「ハナミズキ」。
     俺が「魔法使い」としての修行を始めた年のヒットソング……。
     早い話が、俺の携帯電話ブンコPhoneの着信音だ。
    「師匠……何年、携帯ケータイを機種変してなかったんですか……?」
     俺を拉致した連中は、その声のする方を向いて……。
     ゴオっ‼
     赤い鳥が暗闇の中から出現。
    「ぐへっ⁉」
    「げえっ?」
    「うぎゃああッ‼」
     俺を拉致した皆さんは……次々と……。
    「ま、そのお蔭で……師匠の居場所が判ったんですけどね……」
    「やめろ、やめろ、やめろ、馬鹿ッ‼」
     俺を拉致した皆さんは……全員が意識を失なっていた。いや……下手したら「魔法攻撃」による後遺症が残るかも知れない。
    「いや、こいつら、どう見ても、師匠を袋叩きフクロにしようとしてたでしょ。俺は師匠を助けたんですよ」
    「い……いや……だけど……やり過ぎ……。大体、何で、お前がここに居る?」
    「大体、師匠も何で、この程度の連中に、反撃しないんすか?」
    「話せば……長い事になる……」
    「あの……師匠が力を失なった、って噂、本当だったんすか?」
    「そう言う事だ……。まぁ、久し振りだな……吾朗……」
     俺を助けてくれたのは……俺の最初にして最後の弟子……井上吾朗だった。
    「あ……あの……本当に……その……」
    「えっ?」
    「だから……」
     あ……しまった……。俺達の流派では目上・目下を問わず「同じ流派の魔法使い」を「一般人としての名前」で呼ぶのはタブーだった。
    「久し振りだな……えっと……」
    「あの……」
    「えっと……その……」
    「どうしたんすか?」
    「だからさ、6年前にお前の誘いを断わってから、マジで『同業』と話す機会がこれっぽっちも無かったんだよ」
    「それが……その……えっと……どう云う事っすか?」
    「だ・か・らっ……他人を中学生が考えたみて〜な変な芸名で呼ぶのが恥かしいんだよッ‼」
    「わかりましたよ……『緋色の皇帝エンペラー』じゃなくて『吾朗』でいいっす。でも……『同業』の前では『芸名』で呼んで下さいね」
    「同業? おい、話が見えんぞ……」
    「しっかし……薔薇十字魔導師会・神保町ロッジの5=6小達人アダプタス・マイナー『朱色の戦車チャリオット』ともあろう人が…………」
    「やめろ、やめろ、やめて、やめて下さい、お願いします」
    「へっ?」
    「他人を変な芸名で呼ぶのも恥かしいけど……俺が変な芸名で呼ばれんのは、もっと恥かしいんだよッ‼」
    「師匠……」
    「何だ?」
    「すっかり、あれですね……。完全に言ってる事が『魔法使い』じゃなくて『魔法が使える一般人』すね……」
    (3)「何で判ったッ⁉」
    「師匠こそ、何で逃げたんですかッ⁉」
     元弟子の吾朗をアパートに泊めた翌朝、奴が目を覚まさない内に関門海峡を渡って、門司港のおしゃれな……つまり、俺みて〜なムサいおっちゃんが居ると異様に目立つカフェで朝食を食ってると、またしても、吾朗が現われた。
    「そもそも、お前も、何で俺に会いに来た?」
    「師匠に頼みたい仕事が有って……」
    「嫌だ……嫌だ……。どうせ、あそこでやる仕事だろ。あそこには行きたくない。絶対、絶対、絶対、絶対、絶対にだッ‼」
    「ええ、お察しの通りですけど……何で、あそこを嫌うんですかッ⁉」
    「もう2度と『東京』は御免だ」
     そうだ……俺が「魔法」への「信仰」と共に、「力」を失ない始めた日……あの日を思い出すような場所には行きたくない。
    「ずっと、あそこに住めって言ってる訳じゃないっすよ。それに、師匠、昨日までの職場を馘になってるでしょ」
    「あ……」
    「調べてみましたけど、師匠、あくまで『一時雇い』が3年ぐらい続いただけですよね?」
    「どうやって、調べた?」
    「師匠の職場の奴らに、ちょっと……」
    「あのな……『精神操作』系の魔法や能力は、催眠モノのエロ・コンテンツとは違うんだ。ヘボなプログラマーが作ったアプリみて〜に『かけた通りに動く』けど『思った通りに動く』とは限んね〜んだぞ。精神操作そっちが専門でもね〜のに、安易に使ってると、その内、痛い目見るぞ」
    「お小言は後でゆっくり聞きますよ。でも、早い話が、師匠、失業したけど、失業保険は出ないんでしょ?」
    「……う……うん……」
    「しかも、馘の理由が、師匠のミスで怪我人を大量発生させた事でしょ」
    「あ……ああ……」
    「挙句に、あの会社、ヤクザのフロント企業の可能性有りますよ」
    「お……おい、冗談キツい……」
     吾朗は呆れた顔になり……そして……。
    「気付いてなかったんですか? あの会社の今の社長、先代社長の婿養子ですよね」
    「そう聞いてるけど……」
    「その社長のしゃべり方、良く聞くと、福岡の……それも久留米あたりの方言ですよね?」
    「そ……それが……?」
    「調べてみたら、奴は何度か名前を変えてて……出生地は久留米の田主丸、生まれた時の名字は『行徳』です。久留米のヤクザの『安徳グループ』の組長の家系の名字ですよ」
     嘘だろ……。
     久留米の安徳グループは……表向きは、ここ二〇年ほどで急成長した「金になるなら何でもやる」ような企業グループだが、裏では「九州3大『河童』系暴力団」の1つ……その中でも最強の「組」と噂されている……。
     冗談じゃない……地獄の入口は……俺の足下に開いてて……そこに落ちなかったのは単に偶然だったのか?
    (4) って、ここはどこだ?
     車の中?
     ……あと、気分が悪い。
     そして、車の外は……駐車場? それも地下に有るタイプの……ん?
     揺れてる……気分が悪いのは……。
     あああああッ‼
     信じらんねぇッ‼
     吾朗の野郎、何、考えてやがるッ‼
     自分の師匠に睡眠薬クスリを盛るか、ふつ〜……。
     俺は、携帯電話ブンコPhoneを取り出して、昨日の晩の吾朗から着信が有った番号に電話。
    『お目覚めですか?』
    「ふ……ふざけんな……。そもそも、ここ、どこだ?」
    『あ、丁度、良かった。まで来て下さい』
    「甲板って……船か?」
    『ええ、行きのフェリーです。東京って言っても「偽物」の方ですけどね』
    「偽物だろうが、本物だろうが……東京には行きたくねぇッ‼」
    『まぁ、そう言わずに……甲板からが見えてますよ。中々の絶景ですよ』
     冗談じゃねえ……。とは言え……本物の「東京」と偽物の「東京」、どっちに転んでも地獄だが……幸か不幸か、俺が向かってるのは、マシな方の地獄らしい。
     約十年前……本物の東京は富士山の噴火で滅んだ。
     あの頃、俺は自分では、そこそこ以上の魔導師だと思っていた。
     所属していた「魔法結社」では……下の方とは言え、一応は幹部クラスだった。
     だが……圧倒的な自然災害の前には、チンケな魔法など何の役にも立たなかった。
     あの日から……俺は、自分が学んできた「魔法」を信じる事が出来なくなった。
     そして……。
    「あのなぁ……俺みて〜な力を無くした『魔法使い』が何の役に……」
    『実は……総帥グランド・マスターが、ある理由で「魔法は使えるけど、そこそこ以下」って人を集めてましてね。強い「霊力」の持ち主が迂闊に入れない「結界」内に潜入して、ある事をやって来てもらいたいんですよ』
    「総帥? 何の総帥だよ?」
    『ですから……薔薇十字魔導師会の神保町ロッジの総帥ですよ』
    「ば……」
     そんな筈は無い……。
     その組織名は……富士の噴火で滅んだ筈の……俺が所属していた「魔法結社」の名前……いや……。
    「誰が……再建したんだ?」
    『エメラルドの永劫アイオーン
     ……それは、俺のかつての妹弟子……天才と言われたあの女の「魔導師名」だった。
    (5) 約一〇年前の富士の噴火で大量発生した通称「関東難民」。
     正確には、甲信と中部に住んでいた連中もかなり混ってはいるが、その呼び名が定着してしまった以上、今更、とやかく言っても仕方ない。
     その中の極一部は無法地帯ノーマンズランドと化した被災地に残り、俺のように通称「本土」で仕事や住居を得た者も居たが残り全部ではなく……そして、その更に残りを収容すべく、4つの人工島「NEO TOKYO」が作られ、更に2つが建造中だった。
     よくよく考えれば、NEO TOKYOに住んでいる連中の内、富士の噴火前に「本物の東京」に居たのは、あくまで極一部なのに、いつしか東京の名を騙る人工島は今は廃墟と化した「本物の東京」を模したモノになっていった。
     唐津と壱岐の間に有るSite01には、神保町の古本屋街や秋葉原の電器屋街・オタク街を模した通りが生まれ、右翼系呪術結社が靖國神社を自称「再建」し、半ば独立国と化した大阪府が、これまた自称「再建」したもう1つの自称「靖國神社」と本家争いを繰り広げている。
     そして、いつしかSite01は「千代田区」と呼ばれるようになった。
     同じように、広島沖のSite02は新宿近辺を、Site02西は渋谷近辺を模した建物・町並み・文化が生まれ「渋谷・新宿区」を名乗り……仙台沖のSite03は池袋近辺を思わせる風景になり「豊島区」を名乗り、壱岐と対馬の間のSite04には、浅草の雷門や上野の寛永寺やアメ横が再建(一応)され「台東区」と呼ばれるようになった。
     ただし、「千代田区」や「台東区」は特にその傾向が顕著だが、わざと観光で稼ぐつもりが有るのか、再建と言っても「日本を良く知らない外国人」がイメージするポップだが珍妙な「東京」に合せて町並みを設計しているようで、新しい浅草の雷門であれば、本物より遥かにデカい代物になっている。
     俺が乗せられたフェリーの甲板から見えてきたのは、最初に作られた「偽物の東京」である千代田区Site01だ。
    「今、千代田区がどうなってるかは御存知ですか?」
    「4つ地区が有って、警察がマトモに機能してるのは『有楽町』地区だけ。次に治安がいいのは……偽物の靖國神社を作った右翼団体が『自警団』をやってる……えっと『九段』だったっけ?」
    「そうですね。『有楽町』を除く3地区は『自警団』によって治安が保たれてます。『九段』の『英霊顕彰会』は……4つの東京の合わせて十以上の『自警団』の中で『2位以下に大差を付けた最強』。幹部クラスは神道系の『死霊使い』ですが、金にあかせて色んな連中を雇ってます。戦闘要員と後方支援要員を合わせると千人以上の大所帯ですよ」
    「2位は?」
    「人数からすると、渋谷・新宿区の『原宿Heads』か『四谷百人組』でしょうが……」
    「何か有るのか?」
    「実力からすると、台東区は浅草の『二十八部衆』でしょうね。戦闘要員の定員は名前の通り二十八人で、ずっと定員割れのままですが……全員が他の『自警団』の基準からすると『超エース級の中の更に超エース級』。人数と経済力なら最大最強の『英霊顕彰会』でも、1対1でマトモな戦いが出来る奴は……十人居れば御の字って話です」
    「その『自警団』ってのは、本土の『御当地ヒーロー』『正義の味方』とは違うのか?」
    「逆に俺達は本土の『御当地ヒーロー』『正義の味方』の事を良く知らないんで……」
    「ああ……そう言や、あいつらは身元や組織の内情を隠してるらしいしな……」
    「で、話を戻しますが、千代田区Site01の残り2つの地区の内、一番治安が悪いのが『秋葉原』。自警団は『サラマンダーズ』。富士の噴火の時に何人もの人間の命を救った『英雄』が作ったNEO TOKYO最初の『自警団』ですが……あれ?」
     一瞬だけ、動悸が激しくなり……呼吸が荒くなった。
     軽いパニック障害だ。
     「魔法使い」としての基礎訓練の中で、自分の心身をある程度コントロールする技法を身に付けさせられるので、合法・違法を問わず薬無しで症状を押さえる事が出来てる。
    「大丈夫だ……」
    「は……はぁ……」
     あの時……「魔法」が無力だったんじゃない。
     俺と同じ「魔法使い」の中にも……何か他の手段を持っていた奴らの中にも……生きる為にもがき、誰かを助ける為に足掻いた連中はいくらでも居る。
     無力だったのは……俺だ。いや……自分で自分を無力だと思い込んでしまったせいで、自分の望み通り無力でみじめな人間になってしまったんだ。
    「でも、その『英雄』が死んでしまった後は……内紛で組織が弱体化しましてね……」
    「死んだ?」
     そう言えば聞いた事が有る。
     旧政府も地方自治体も崩壊した中……被害が最も大きかった静岡で、救助活動の先頭に立った男の事を……。
     あいつか……たしか名前は……。
     おい……英雄に祭り上げられるような奴が死んで……何で、俺みたいな駄目中年がのうのうと生きながらえ……いかん……再び呼吸を整え、自分の心を落ち着け……。
    「他の『自警団』とのつまらない抗争を治める為に、『自警団』のトップ同士が1対1の『決闘』をする事になりましてね……」
    「その決闘の相手が殺したのか? 誰だ?」
    「ウチの親分ですよ」
    「えっ?」
    「残る1つの地区『神保町』の自警団『薔薇十字魔導師会・神保町ロッジ』の総帥・7=4被免達人アデプタス・イグセンプタス……魔導師名『エメラルドの永劫アイオーン』ですよ」
     待て……あの女……のか?
    (6) 佐賀県唐津市と壱岐の間に浮かぶ、約2㎞×2㎞の「地区」が4つ、ほぼ正方形に接続された人工の「島」。
     それが「東京都千代田区」を僭称する「関東難民」収容所だった。
     もちろん、「関東難民」にも居住や移転の自由は有るが……例えば、「本土」では、今や、ネット右翼が牙を剥く対象は隣国の人間ではなく「関東難民」となっており、デカい地震や台風や大規模なテロや異能力犯罪が有る度に「東京弁っぽいしゃべり方の奴らがコンビニを襲撃してた」だの「避難所で東京弁の連中が女をレ○プしてた」だのと云うデマがSNSに溢れる事になる。
     何が面白いのかさっぱり判らないが「東京弁をしゃべってる奴らが井戸に毒を入れてた」は年に1度は見る羽目になる。
     そもそも、「関東難民」の中でも元・東京在住者は一部に過ぎないし、「東京弁」と呼べるしゃべり方をするのは元・東京在住者の中でも更に一部だろう。
     そして、警察機構が機能破綻しつつ有る御時世にも関わらず性犯罪は減少傾向だ(性犯罪の動機の全てではないにせよ大半は性欲じゃなくて加害欲だって話は本当だったらしく、性犯罪者予備軍の多くは、レ○プしようとした相手が「自分達を返り討ちに出来る異能力者」かも知れない可能性に思い到ったが最後チ○コが勃たなくなるらしい)。
     井戸に毒を云々うんぬんに至っては、まぁ、井戸水を使ってる家庭も皆無では無いが、今時の「井戸」の構造と、異能力者がゾロゾロ居る事が判ってる世の中とは言え「何かの物体をテレポーテーションさせる」系の異能力の持ち主は今の所は存在が確認されていないので、そもそも犯行が著しく困難だ。
     だが、どんな正論を言っても……そして、「本土」にも仕事も住む場所も有るとは言え……ある者は「本土」での迫害を恐れ、また、ある者は一時の住処のつもりがズルズルと十年近くも住み続け……東京の名を騙る人工島には、まだ、かなりの数の人間が住み、そして、「本土」よりも「NEO TOKYO」での居住を希望する「関東難民」も少なくないらしい。
    「案外……都会だな……」
     俺は「銀座港」と呼ばれる、この人工島の表玄関に来ていた。
     火山灰の下の本物の銀座は千代田区じゃなくて中央区だし、そもそも海の近くじゃねぇ、などとツッコミを入れても、最早仕方ない。
     まだ計画だけの北海道近海に出来る予定の7つ目の「NEO TOKYO」は「サンマの水揚げが多い所の近くだから、通称は『目黒区』にして、秋には『サンマ祭り』で観光客を呼ぼう」などと云う話が持ち上がっているらしいが……落語の「目黒のサンマ」のオチの何が笑いどころなのかは、忘れ去られつつ有るようだ。
    「まぁ、ここは治安のいいビジネス街・お役所街ですからね……」
     周囲に見えるのは……十階建て以上、中には二十階建てを超えてそうなビルの群れ。
     それらのビルのデザインも、ここ十年・二十年で経済力を上げた、いわゆる「新先進国」の都会に有りそうな近未来モノの映画やドラマに出て来ても違和感がない洒落たモノだった。
    「4つの『東京』の中の数少ない『中立地帯』なんで『自警団』同士でトラブルが有った時は……ここで『手打ち』をやるのが慣例になってるんですよ」
    「おいおい……自警団とか言ってるが……まるで……」
    「ま、事実上は『ヤクザ』かも知れませんが、よく言うでしょ『白猫でも黒猫でも鼠を獲るのが、いい猫だ』って……。警察でも無能なら一般人の支持は得られないし、法的根拠が薄弱な『自警団』でも治安を維持してくれるなら一般人の支持を得られる」
    「で……あの女は、俺に何をさせるつもりだ?」
    「おいおい話しますよ。『有楽町』有数の寿司屋の個室を予約してるんで、そこでね」
    「へっ? いくらぐらいの店だ?」
     吾朗が答えた1人前の値段は……おい、どうなってる?「自警団」ってのは、そんなに儲かる商売なのか?
    (7)「え……えっと醤油は……?」
    「センパイ、こう云う寿司屋では、客が醤油に付けるんじゃなくて、煮切りが塗られてるのが普通なんですよ」
    「煮切り?」
    「良く見て下さい。寿司のネタに醤油みたいなモノが既に塗られてるでしょ」
    「あ……ああ、そう」
     多分、魚も米も酒も、酢飯に使われてる酢や煮切りとやらさえも、俺のこれまでの人生と残りの人生のどっちでも絶対に縁が無いような超高級品なんだろう。
     でも、味わう余裕なんて無い。
     十年ぶりにあった妹弟子は……。
     男ものの三つ揃いのダークスーツ。
     多分、超高級品なんだろうが……よく判らねえ。
     判るのは、かなり強力な「防護魔法」がかけられてる事ぐらい……。
     あれ? ところで、ここって、正装で来るような店? で、……そこに「休日にパチンコに行ってる工事現場のおっちゃん」みたいな格好で来てる俺。
     場違いだけど、仕方ねえだろ。
     昨日まで、本当に「工事現場のおっちゃん」だったんだから。
     クソ、「何で、こんな珍獣がここに居るんだ?」「野良犬は外に居ろ」的な店員の視線が痛過ぎたんだぞ。
     もっと安い店にしろ……。
     と、言いたいとこだが……。
     俺は力を失なった「多少の魔法が使える一般人」。そして、ここの一番の上座に居るのは……。
     アデプタス・イグセンプタス……日本語に訳すると「被免達人」。
     「近代西欧オカルティズム」系の「魔法結社」では、「肉体を持っている『魔導師』の中では最上位の階位。それ以上の階位は故人か本当に居るか判らない『霊界の指導者マハトマ』に与えられる『名誉階位』」「魔法結社の総帥に相応しい実力の奴以外が名乗ると不遜を通り越してギャグにしかならない階位」だ。
     奴は……どうやら、それを名乗るのに相応わしい「霊力」を持っているようだ……。
     ひょっとしたら、「教祖系」と言われる「莫大な霊力と引き換えに、いささか以上に頭がおかしくなった『魔法使い』」になってしまったのかも知れない……。
    「センパイが力を失なった、って噂は本当みたいですね」
    「わ……悪いか……」
    「でも、全く『魔法』が使えなくなった訳じゃないでしょ」
    「ま……まぁ、多少はな……」
    「実は、『九段』地区の自警団『英霊顕彰会』から、あるモノを取り戻してくれる人を集めてるんですよ」
    「ちょ……ちょっと待て。今のお前は、最盛期の俺より遥かに強い筈だ……。力を失なっても、それ位は判る。お前の弟子の中に、今の俺より強い奴なんて、いくらでも……」
    「まず、将来的に『英霊顕彰会』と喧嘩するにしても、向こうが悪いって形になるのが望ましい。なので、ウチの人間は使えないんですよ。もし、センパイが『英霊顕彰会』に捕まっても『今の私とは疎遠になってる昔の兄弟子』ってオチにする必要が有るって事ですよ」
    「お……おい……」
    「次に、力のある『魔法使い』は『九段』内に迂闊に入れないんですよ」
    「どう云う事だ?」
    「『九段』の周囲には強い『気』『霊力』を持つ人間や呪物の出入りを検知する『結界』が張られてるんですよ。他の『自警団』に所属する、ある程度以上強力な『魔法使い』が招かれもせずに『九段』に入るのは……宣戦布告も同じなんですよ」
    (8)「センパイ、どこに行くつもりですか?」
     あからさまにヤバそうな「仕事」から逃げ出す為、俺は、かつての後輩や弟子が手配したホテルを夜も明けぬ内にチェックアウトし、朝一のフェリーで「本土」に逃げ出そうとしていた。
     前の職場は「一時雇いがたまたま年単位で続いた」扱いであり、退職金はゼロゼロ、ゼ〜ロっ。
     だが、博多あたりで日雇いの仕事ぐらい見付かるだろう。
     そう思っていたが……誤算が1つ。
     この東京と「本土」を行き来する公共交通機関はフェリーだけ。その発着港は、この東京には、たった1つ。
     俺が逃げ出す可能性が有るなら、そこを見張っていれば良い。
     当然ながら、フェリーの券売機に金を入れようとした直前に、かつての妹弟子に見付かった。
    「あ……この仕事降りたいんだけど……ぎゃあっ‼」
     胸に激しい痛み。
    「お……おまえ……いつの間に……」
    「センパイが元弟子に一服盛られて寝てる間に、ちょっとね」
     どうやら、俺は、何かの「呪い」をかけられていて……多分、俺はこいつの意に沿わぬ真似をしたら、あっさり死ぬのだろう。
    「あと……」
     元後輩は首筋の辺りを指差す。
     俺は自分の首筋をさわる。
     かすかなしこり……。
    「私らは『魔法使い』ですが『科学技術の産物は使うな』なんて『戒律』は無いですから……」
    「えっ?」
    「センパイの首にGPS付の発信機を埋め込ませてもらいました。電池は一週間は持ちます」
    「お……おい……」
    「あ、頚動脈のすぐそばなんで、素人が下手に摘出しようとしたら、余程、運が良くないと……ま、面白い事になるでしょうね」
    「て……てめえ……」
    『博多行のフェリーが到着いたしました。出発は一五分後の予定です』
     その港内放送と共に……。
    「よう、大将」
     そいつらは……男も女もごっつい体だった。
     そいつらは……男も女もスキンヘッドか……長くても五分刈りだった。
     そいつらは……首からごっつい数珠を下げていた。
    「そいつがあんたの『先輩』か? ちと頼りなさそうだが……」
     今到着したフェリーから降りてきたらしい十数名の一団。
     そのリーダーであろう男は、俺を見てそう言った。
    「ま……頼りないから、今回の件の『鉄砲玉』には最適って事」
    「だ……誰?」
    「壱岐と対馬の間に有る『台東区』の自警団の連中ですよ」
    「はぁ?」
    「『九段』の『英霊顕彰会』は……あっちこっちとトラブルを起してましてね……。でも、トラブルの相手は、どこもまだ『英霊顕彰会』と本気で喧嘩する準備が出来てない。なので……もしもの為の……そうですね、推理小説でよくある『交換殺人』みたいなモノですよ。万が一、誰かが失敗しくったとしても、『英霊顕彰会』は、どこがどう動いてるかを把握つかむのは難しくなる」
    「だ……だから……何がどうなってんだ?」
    「センパイ達が、あいつらと『英霊顕彰会』とのトラブルを解決し……その代り、あいつらが、私らと『英霊顕彰会』とのトラブルを解決する」
     おい……俺、どんだけデカい話に巻き込まれちまったんだ?
    (9) この通りと……今は火山灰の下になってる本物の東京は神田神保町とは、それほど似ているようには思えなかった。
     神保町に有った出版社の内、潰れなかった会社の多くは「本土」の政令指定都市に移転し……かつての神保町に有った出版社の看板は無い。
     ただ、本屋・古本屋・飲食店の看板には、覚えが有るものが少なくない。
     経営母体も同じで、飲食店であれば味も同じかは……何とも言えないが。
     この「東京の千代田区」の名を騙る人工島に連れて来られた俺は、逃げ出そうとした所をあっさり捕まり、神保町の名を騙る区画に移動する事になった。
     そして、朝一〇時になると、元弟子の吾朗の監視の元、床屋に行かされ、続いて、洋服屋で背広を作る事になり……あとは、靴に袖口をカフスボタンで止めるタイプのYシャツにネクタイにカジュアルな服を何着かとスーツケースを購入。
     と言っても、金は「自警団」持ちだが……。
    「師匠、そう言えば、日本語以外でしゃべれる言葉って……」
    「有る訳ねえだろ」
    「じゃあ……そうですね。『九段』内では、師匠は、どっかの地方議員って『設定』にして下さい。俺は、その秘書で、もう1人がボディガード」
    「はぁ?」
    「『九段』は、今、外国の金持ち向けの歓楽街なんですよ。『従業員や出入り業者や関係者でもないのに日本語しかしゃべれない奴』は逆に目立つんで」
    「いや、ちょっと待て。『九段』を仕切ってんのは……右翼系の呪術結社じゃなかったか?」
    「ええ、その『右翼系の呪術結社』が、金儲けの為に、賭場に下世話な見世物に……あと『本土』や外国じゃ出来ないヤバい『遊び』を提供してんですよ」
    「どうなってんだ、おい?」
     今、昼飯を食ってるのは、かつての神保町に有ったのと同じ名前のカレー屋。
     値段は、かつてより高価たかくなってる……気がする。
     要は、昨日までの俺の昼飯一食分の値段の2・5〜3倍って事だ。
     メニューの内容は……記憶とあまり違わない。カレーとジャガイモが別に出て来たり、ライスにチーズが混ざってるのも同じ。
     味は……違いが有るのか、正直、良く判らない。
    「ま、行けば判りますよ。で、偽の『靖国神社』内の……これまた偽の遊就館の地下倉庫に有るらしい天台密教系の呪具を2つ盗み出すのが、今回の仕事です」
    「何で、神社に密教系の呪具が有る?」
    「実は、可能ならやって欲しい追加の仕事も有ってね……」
    「はっ?」
    「『九段』を仕切ってる『英霊顕彰会』は、何故か、最近になって次々と色んな流派の『魔法使い』『呪術者』が持ってる『呪具』を強奪し始めたんですよ。それも、NEO TOKYOだけじゃなくて『本土』に台湾や韓国や香港や中国からも……」
    「お……おい……一歩間違えれば、それ……」
    「幸か不幸か、『日本政府』が、いつ再建されるか判んない状態だから、外交問題にならずに済んでますが……あくまで噂ですけど、台湾先住民族系の呪術師や『本土』の当山派真言宗系修験道の連中が『英霊顕彰会』に報復を企ててるなんて話もね……」
    「俺、マジでどんだけヤバい事に巻き込まれたんだ?」
    「本格的にヤバい事態になる前に必要なモノを奪い返したいんですよ……。そして、可能なら……何故、『英霊顕彰会』が、そんな真似をしてるかも突き止めたいんですよ」
    (10)「な……何なんだ、ここは?」
    「ウチの本部ですが?」
     無個性な雑居ビルが立ち並ぶ中に有ったのは……昔のヨーロッパを思わせる白い建物。
     人工島の筈なのに、狭いながらも、ちゃんとした庭まで付いていて、木々は緑の葉を繁らせ、花壇には花が咲いていて、芝生の手入れもバッチリ。
     塀や建物の所々に俺がかつて所属していた「魔法結社」のシンボルである「薔薇と十字を組合せた紋章」が有るが……どうやら結界を張る為のモノらしい。
    「も……儲かってんだな……」
    「ま……警察が頼りにならなくて『神保町』内の自治会や企業や店は、ウチに結構な『税金』を払ってるんで」
    「準備は整ったようだな」
     玄関から出て来たのは、かつての妹弟子にして、この「自警団」の総帥。
     ラフな格好だが、着ている服には、しっかり「防護魔法」がかけられてる。
     問題は、その後ろに居るヤツだった……。
     目立つ縫合痕など無い。
     耳の所に巨大なボルトが有る訳じゃない。
     着てる服も、クリーニングから戻ってきたばかりって感じの背広。
     だが……俺が想像したのは……昔の映画の「フランケンシュタインの怪物」。
     一九〇㎝ぐらいの体格。
     目は虚ろ……。
     口は半開き……。
    「だ……誰だ……それは?」
    「俺達の護衛ですよ」
     吾朗がそう説明する。
    「護衛?」
    「ええ、昔、ちょっと不始末をしでかした若いのを『魔法』で色々と改造してね。筋肉量を増やしたり、骨を頑丈にしただけじゃなくて、脳にも手を加えてます」
    「待て、待て、待て、待て……」
    「まぁ、並の拳銃弾なら、こいつを『肉の盾』にすれば防げますよ」
    「お……お前ら……」
    「何ですか?」
    「人権って言葉、知ってる?」
    「難しい問題ですね」
    「へっ?」
    「ここまで改造するのに何年もかかったんで、こいつがいつの時点で厳密な意味での『人間』じゃなくなったのかは議論の余地が……」
    「やめろ、やめろ、やめて下さい」
    「まぁ、普通の社会常識は有るように振舞えますが……実質的には自我も知性も無くなってるんで」
    「何なんだ、こいつは一体……」
     一見すると……「ちょっとホニャララな図体のデカいあんちゃん」だが……身にまとっているのは……霊感が有る子供が近くに居たら泣き出すのが確実な何とも不穏な雰囲気オーラ
     たしかに生きている人間の「気」だが……何かが欠けている。そして、欠けている「何か」が何なのか……巧く言い表せない。
     強いて言うなら……「感情や理性を感じさせる『気』」。
    「まぁ、人間を原料に作ったゴーレムってとこですね」
     まぁ、確かにファンタジーRPGに出て来るような無機物・無生物を材料にした「ゴーレム」の製造に成功した「魔法使い」の話は、現実では聞いた事が無いので……伝説上の「ゴーレム」の正体も「『魔法』で肉体を改造し、自由意志を剥奪した『人間』」だったのかも知れないが……。
    「これで何とか胡麻化せるでしょ」
     そう言って、かつての妹弟子にして現・総帥サマは……その「ゴーレム」の目にサングラスをかけたが……い……いや、待て、何か、まだ、その……。
    (11)「で、お前やこいつは、その……『魔法使い』を検知する結界を通っても大丈夫なの?」
     俺達は、一端、「有楽町」まで戻って「九段」行きのリムジンバスに乗り、「九段」へ向かった。
     俺の御目付け役は俺の元弟子の吾朗。
     だが、「力を失なった『魔法使い』」である俺がやらされる仕事に同行するのが現役の「魔法使い」である吾朗と……魔法で改造された「フランケンシュタインの怪物」なのは……イマイチ、理屈が通らない。
    「残念ながら、俺の階位は、まだ、2=9『理論者セオリカス』なんで……一般人でも持ってて不思議じゃない程度の霊力しか有りませんし……こいつは『改造』する時には魔法を使ってますが……その時の霊力は、ほぼ残ってませんから……」
    「ああ、そう……。そう言や、こいつ何やらかしたの?」
    「まだ、このNEO TOKYOに『自警団』が出来たばかりの頃、『秋葉原』の自警団の下っ端といざこざを起しましてね……」
    「えっ?」
    「そのいざこざが、こじれにこじれて……まぁ、その『いざこざ』はウチの勝ちで終りましたが、いざこざの原因をそのままにしておくのも外聞が悪くてね……」
     なるほど……総帥サマが自分の恩人を殺さなきゃいけない事態を招いたボンクラの成れの果てが、この「フランケンシュタインの怪物」「人間にしてゴーレムフレッシュ・ゴーレム」か。
     リムジンバスが走っているのは、この「偽物の東京都千代田区」の3大幹線道路の1つ。
     本物の東京に有った通りの名を取って「昭和通り」と呼ばれてる「島」の4つの地区を円形に繋ぐ道路だ。
     そして……たしかに、「有楽町」地区と「九段」地区の間で、何かを感じた……。これが「結界」なのだろう。
     その時、窓の外を風に舞っているモノが目に入った。
     薄いピンク色。
     だが……もう……五月の筈……。
     どうなっている?
    「な……なんだよ……あれは?」
    「バイオテクノロジーの産物の中でも……馬鹿馬鹿しさに関しては世界有数の代物ですよ」
    「えっ?」
    「花を咲かせるようになってから……数年で木が完全に枯れてしまうみたいですけどね。でも……その代り、1年中、花を咲かせる事が出来るみたいです」
     偽物の「九段」の町中には……季節外れの桜の花が咲き誇っていた。
    (12) 周囲のほぼ全てのビルの屋上には神社が有った。
     そのビルにも和風の意匠。玄関は明治以前の日本の建物を思わせるモノで、窓やベランダにも和風のひさし
     和風の意匠と言っても……良く見ると仏教その他の「日本に古くから有る神道系以外の宗教・民間信仰・呪術」に関する意匠は、注意深く排除されているように思える。
     街角には神道風の祠。……その祠から「死霊」系の気配がする。多分、この町を仕切っている死霊使い達の「使い魔」なのだろう。
     まるで、昔のアメコミや外国のB級映画みたいな「外国人受けしそうな勘違い日本」だ。
     「従業員」らしい連中は……女はオタク受けしそうなアレンジがされた巫女服、男は神職をイメージしたらしい白っぽい和装。
     「客」は……まぁ、ポリコレに配慮したような多様な人種だ。白人・アフリカ系・インド系・中東系・東南アジア系……。
     ただ、排除されてる奴らも居る。
     東アジア系らしい「客」が話してるのは……中国語か韓国語。
     右翼系呪術結社が支配する町にも関わらず……観光客に「日本人」が異様に少ない。
     力をほぼ失なったとは言え……俺は、まだ、魔力・霊力のたぐいは感じられる。そして、感じ取れるのは……不健康極まりない「気」。
     バイオテクロノジーで生み出されたと云う年中花を咲かせる桜の木に手を触れ……。
     嫌な「気」だ。
     たしかに、あと数年枯れずに済めば御の字だろう。
    「長く居たくねえな、ここは……」
    「まぁね……。でも、目的のモノを見付けるまでは……ここから出てもらう訳には行きませんよ」
    「で……目的のモノは、どこなんだ?」
    「じゃ、案内しますよ」
    (13) まだ「本物の東京」が無事だった頃、俺が所属していた魔法結社「薔薇十字魔導師会・神保町ロッジ」は「本物の靖國神社」まで地下鉄で一駅……「本物の東京」で地下鉄で一駅ってのは余程の年寄か体が不自由でもない限りは歩いて行ける距離って意味だ……の所に有った。
     毎年、八月一五日になると、右翼の街宣車が流す軍歌が聞こえ……いや、軍歌だけじゃなくて、何故か、クラシックや昔の歌謡曲を流してるのも有ったが……近くの大通りでは右翼団体の構成員と警察の機動隊員が追いかけっこをやっていたり、車両が通行止めになってたりした。
     良く有る終戦の日の風物詩だった。
     そうだ……八月一六日……前日の喧騒の反動で、どこか気が抜けたような気がしていた日に、突然、富士山が火を吹き、旧首都圏と旧政府は壊滅し……俺は生き残る事こそ出来たが……。
     俺が居た「魔法結社」の呼び方では「第2階梯セカンド・オーダー」「内陣結社インナー・サークル」と呼ばれる「幹部クラス」の一員になったばかりで……少しばかり思い上がっていた俺は……あまりの天災を前にして、何も出来ぬまま呆然と立ち尽し……その代り、俺を助けてくれたのは……何の「異能力」も持たない一般人だった。
     あの時……俺は……自分の力への信頼を失ない……。
     そこまで思い出して……再び、呼吸を整え……心を落ち着かせる。
     そう言えば……東京……それも「本物の靖国神社」の目と鼻の先……に居た十年ほどの間、よくよく考えたら「本物の靖国神社」に行った事は片手の指で数える程しか無かった。
     多分、この「偽物の靖国神社」は、結構、良く出来た「偽物」なんだろう。
     でも、どこまで「本物」に似てるかは……はっきり言って判らねえ。
     バカデカい青銅の鳥居と、この神社のオリジナル版を作ったらしい幕末の侍の銅像が俺達を出迎えてくれた。
     「偽物の浅草」に有るらしい超巨大雷門なんかとは違って、どうやら原寸大のようだ。
     本物は、富士山から吹き出す火山性ガスが雨雲に混ったせいで降った酸性雨のせいでエラい事になってるらしいが。
     「バイオテクノロジーで作られた一年中花を咲かせる桜」が辺り一面、この町の他の場所にも増してゾロゾロと有るが、霊感が有る奴にとっては「嫌な感じのする町にビョ〜キの木がウジャウジャ生えてる」ようにしか思えねえだろう。
     外国から来た観光客の中には、呑気に花見をしてるのも居るが……俺からすると、腐臭のする中、腐りかけた花をでながら飲み食いしてる面白おかしい変態どもに見えない事もない。
    「そう言や、『本物』が無事だった頃、この見世物小屋には一度も入った事が無かったな……」
    「その手の話は、ここの『従業員』に聞こえないように言って下さい。ここの『従業員』にとっては、こここそが『本物の靖國神社』なんですから」
    「探ったらマズいか?」
     お目当てのブツは……この「遊就館」とか云う見世物小屋の地下倉庫に有るらしい。
    「多分、『気』を探ったら……『英霊顕彰会』にバレますね」
     霊的・魔法的なモノを検知する手段は、大きく分けて2種類有る。
     1つは、パッシブ・センシング。こっちは何もせずに、相手が放つ気配・気・魔力・霊力などを検知する。
     この方法は、相手に、こっちが探っている事を気付かれる危険性は小さいが……得られる情報の精度はイマイチ。
     もう1つは、アクティブ・センシング。こっちから「気」を放ち、相手の反応を見る。
     この方法は、得られる情報の精度は高くなるが、相手に気付かれる危険性が有る。
     そして、「得られる情報の精度は高くなる」と言っても、どこまでの情報を得られるかは、やるヤツの技量うでに依存する。医者の打診や聴診みたいなモノで……結構な職人芸であり、当然ながら、長い間「現場」から離れていれば、適切なタイミングで適切な探り方をやったり予想外の反応が起きた時に事態の把握や対処を短時間で行なう為の「勘」や「経験値」は失なわれていく。
     パッシブ・センシング的な「探り方」では、それらしい呪物の気配は感じられない。
     吾朗や、かつての妹弟子にして現・総帥の話が本当でも……多分、集められた呪物の周囲には、呪物の気配や力を隠す「結界」が張られている。
     そして……そこそこの技量うでが有る「魔法使い」系のヤツなら……その「結界」内を「気」で探ろうとしたヤツが居たなら、その事を検知出来るようにしているだろう。
     最盛期の俺なら……「中に有る呪物の気配を隠す結界」「誰かが中を『魔法的』な手段で探ろうとしたら、その事を検知する結界」の裏をかけたかも知れねえ……。
     けど、それをやるには……綿密な下準備・下調べと、かなり微妙で職人芸的な「気」の制御と長時間の精神集中が必要になる……。そうだ……喩えるなら……金庫破りの名人が金庫の番号を探り出すような……侵入予定の建物の図面を元に、防犯カメラの死角になる侵入・逃走ルートを割り出すような……「勘と経験」と「綿密かつ合理的な思考」の両方が必要になる。今の俺は、どちらも失なった。
    「ああ……バレるな……。特に……今の俺だと……」
    「ま……今回は下見って事で……」
    (14) 見世物小屋から出た途端……ある音が響いた。
    「お……おい……あれ……あの音……たしか……?」
    「行ってみますか?」
    「へっ?」
    「ここの大人気の見世物ですよ」
     何なんだ一体?……そう思って吾朗のあとに付いて行くと……。
    「お……おい……『東京』で神社の近くに競技場って、靖國神社じゃなくて明治神宮だろ……」
    「ま、そこは気にせずに……」
     偽の靖國神社のすぐ隣に……今は火山灰の下の東京ドームほどの大きさの何かの競技場らしき建物が有った。
     入口で吾朗がチケットを買うが……。
    「そう言や、ずっと気になってたが……ここでは電子マネーやクレカは使えねえのか?」
    「ここでの『遊び』はマズい代物が結構有るんで、足が付かないように現金払いが基本です。何だったら、クレカの残金を足が付かない形で現金に交換してくれるサービスも有りますよ」
    「何だそりゃ? 金持ち向けのサービスか、借金だらけの奴向けのサービスか知れたもんじゃねえな……」
     そして、競技場の客席では……。
    「お……おい……あれ……」
    「ええ……旧政府が作った4m級軍用パワーローダー『国防戦機』ですよ」
     富士の噴火前、日本は2つに割れたアメリカの内のタチが悪い方である「アメリカ連合国」の「(旧政府の広報によれば)誇り高き完全属国」となった。
     だが、旧自衛隊の一部に、その決定を行なった旧政府そのものを「国と国民の敵」と見做す勢力が有り……そのせいで「自衛隊が暴走した際の抑止力となる『もう1つの自衛隊』」こと「特務憲兵隊」が設立された。
     その「特務憲兵隊」の「顔」こそが、今、競技場で戦っている「国防戦機」だ。
     富士の噴火で旧政府が倒れた際に、「国防戦機」も、かなり「闇」に流れた……と云う噂だったが……。
    「おい、ところで……あの巨大パネルに表示されてる女の子は何だ?」
    「パイロットです」
    「何の?」
    「何のって……」
     吾朗が指差したのは……。
    「あの……えっと……その……まさか……」
    「ええ、そう云う事です……。まぁ、何せ『ほぼ世界初の軍用パワーローダー』なので、当初は熟練パイロットなんか居ませんでしたので、搭載されてるAIが良きに図らってくれて、未熟なパイロットでも9割以上の任務を卒なく果たせたそうなので……ま、十代の女の子でも操作するのは不可能じゃありませんよ」
    「これって……その……馬鹿な萌えオタの夢を実現したの? それとも馬鹿な萌えオタへの嫌がらせ?」
    「どっちですかね? どうもパイロットはロボトミー手術をされてるみたいですが……」
    「お……おい……待て……」
    「そもそも、今時、若い女の子を誘拐する場合……」
    「おい、誘拐されて、ここに連れて来られたのか、あの『パイロット』?」
    「こんな危険な仕事を子供にさせる親が居る訳ないでしょ」
    「あ……そりゃ、そうだな……」
    「今は、犯罪組織にとっては、若い女の子なら、子供を生ませて、その子供を売るのが一番金になるんで、多分、遺伝子検査で問題が見付かったか、子供を作る能力に問題が有る女の子をパイロットにしてるんだと思いますよ」
    「待て『子供を売る』?」
    「犯罪組織やテロ組織の間では、健康な子供は高値で取引されてますよ。少年兵に人体実験に違法臓器移植に剣呑ヤバい『魔法』の生贄に……」
    「あああ……」
    「なので、売春ウリは相対的に金が稼げなくなって……売春ウリをやらされるのは『商品』として二級品以下の……」
    「やめろ、やめて、やめて下さい、お願いします……」
    「金と設備が有るデカい組織がチンピラが仕切ってる売春ウリを潰して、『救助』した女の子に子供を生ませたりとかも……」
    「だから、その胸糞悪い話はやめろ、って言ってるだろ」
     その時、戦っている2機の「国防戦機」が互いを銃撃。
    「あ……安心して下さい。牽制用の模擬弾みたいです。流石に客を危険に晒すような真似はやらないので……」
    「あ……そ……」
     俺が、かつて居た「業界」から離れていた間、世間は……と言うか世間の裏側は、かなりエラい事になっていたらしい。
    便所のドア Link Message Mute
    Mar 29, 2022 4:07:22 AM

    第一章:海にかかる霧

    現実に似ているが、様々な「特異能力者」が存在する平行世界の地球。
    若かりし日に「魔法」を志しながらも、夢破れた1人の男は……かつての弟子の誘いに乗り危険な「裏」の仕事に手を出す羽目になるが……?
    #伝奇 #異能力バトル #近未来 #ディストピア #魔法

    more...
    Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
    200 reply
    転載
    OK
    クレジット非表示
    NG
    商用利用
    NG
    改変
    NG
    ライセンス改変
    NG
    保存閲覧
    OK
    URLの共有
    OK
    模写・トレース
    NG
  • CONNECT この作品とコネクトしている作品