細部にこそ神が宿る『おい、何だよ、この漫画？ ひで〜な』
『作者本人は善良な奴が悪堕ちしたつもりで描いてるだろうけど、元から、ヤバい奴だろ、この主人公』
『娘を持つ親なんで、この主人公、クソ野郎にしか思えねえよ。悪堕ちってのは善人が悪になる事だ。元から吐き気をもよおす邪悪だったヤツが悪堕ち出来る訳ねえだろ』
『これで、アオリが「主人公、悪堕ち⁉」って草生える。元から下衆だった奴が、いよいよ本性出してきただけだろ』
　ＷＥＢコミックに連載中の漫画の最新回が公開されたその日、エゴサをしてみたら、とんでもない炎上になってた。
　おい、どうなってんだよ？
　主人公が悪堕ちするエピソードだった筈なのに、何故か、俺が清廉潔白・品行方正な奴として描いてきた俺の分身と言うべきキャラが「元からクソ野郎」と見做されてた。
『あと、ヒロインの「案外、ズボラ」描写も駄目だよねえ。ズボラな女なら、あの状況では逆にブラ取ってる。家でズボラだと描きたいなら、ブラウスだけじゃなくて、ブラとあの動きにくそうなスカートも脱がせた方が良かった。同じ女として言わせてもらうけど、あの状況でズボラな女だって印象付けたいんなら、パンツ一張が正解』
　うるせえぞ、フェミ婆ぁッ‼
　女が男が描かいた女の子の絵に口を出すんじゃねえッ‼
　男の方が女より女の事を判ってんだッ‼
　何で、女どもは、そこが判らねえッ‼
　だから、女は馬鹿なんだよッ‼
　くそッ‼
　くそッ‼ くそッ‼ くそッ‼ くそッ‼
『そもそも、あの漫画、セリフがワンパターンだよね。頭がいいって設定のキャラが他人を罵る時に「くそッ‼」しか言わないから、頭良く見えねえ』
『そうそう、自分が作った設定、自分で忘れてるだろ』
『もしくは、元から頭が悪いんで「平均より、ちょっと頭がいい」ぐらいのキャラでもうまく描けないとか』
　くそッ‼ くそッ‼ くそッ‼ くそッ‼
　通報だ、通報だ、通報、通報ッ‼
　ＳＮＳの運営に通報だあああああッ‼
『大体、あの主人公さぁ、女子高生に惚れられてウキウキしてる三十近い男って、少しも品行方正じゃないだろ』
『そうそう。元からマズいヤツでも無い限り、嬉しくても、心のどこかで躊躇を感じる筈』
　はぁ？
　何言ってる？
　訳判んね〜よ？
　嬉しいは、嬉しいだろ？
　嬉しいけど、躊躇を感じる？
　二重人格の方がマズい奴に決ってるだろう……うが……うが……はぁはぁはぁ……ぜいぜいぜい……。
　くそ、マズいのは、俺の漫画の主人公でも、俺の漫画をケナしてるポリコレ信者でもでもねえ……。
　マズい。
　本当にまずい。
　興奮し過ぎて心臓が……。
　何か……飲むもの……。あと……深呼吸。
　す〜。
　は〜。
　す〜。
　は〜。
　ああ……少し、体鍛えた方がいいかな？
　まずは……体重一〇〇㎏を割るのを目標に……。
　ん？
　何か、編集者さんからメールが……。
　こんな時間に大変だな。
『すいません、トイレのシーン、この写真を元に描き直して下さい』
　へっ？
　メールに添付されてたのは……「トイレ」だと云う事は判るが……日本の普通のトイレとは似ても似つかぬナニか。
『あの、このトイレ、何ですか？』
『Ｄ国で一般的なトイレです。これにしないと読者が違和感を覚えるんで』
『いや、ちょっと待って下さい。俺の漫画、日本を舞台にした話ですよ？ 何でＤ国のトイレなんですか？』
『だから、読者って、妙に細かい点で違和感を覚えるモノですから、次回の締切までに修正しといて下さい』
『でも、何で、日本のトイレは駄目で、Ｄ国のトイレなんですか？』
『言ってませんでしたっけ？ ウチのサイト、国内で収益上がってなくて、Ｄ国向けの配信の利益で、ようやく会社を維持出来てんですよ』