嘘八百のシン仮面ライダー感想 私は、個人的に韓国映画を良く観ていて、特にカーチェイス・シーンが大好物だ。
例えば、どう考えても本物の80年代の型式の車を本当にブッ潰しているとしか思えないヤツとか。
最近は、本篇の内容より「どうやって撮った?」みたいな事に興味が湧いて、配信全盛の時代にも関わらず、特典のメイキング映像付のBlu-rayを購入する事も多い。
さて、この映画も迫力満点のカーチェイス/バイクチェイスから始まる。
「仮面ライダーBlack Sun」の監督である白石和彌氏が「孤狼の血」を監督した際に、日本が得意だったジャンルや表現が、いつの間にか韓国に抜かれているので、それを挽回したい、というような事を言っていたと記憶しているが、まさに、これは挽回出来ていると言っても過言ではあるまい。
どんな暴走族でも、走るのを怖がるような山中のヘアピンカーブを走るバイクと、それを追うトラック……って、あ〜言わないこっちゃない。
スピードを出し過ぎてカーブを曲りそこねたらしい大型トラックがガードレールを突き破り、転落……。
と思った時に、運転手らしき怪人がトラックから脱出し……。
あれ?
怪人のベルトのバックルが……ショッカーのモノじゃない。
えっ?
この怪人……「仮面ライダークウガ」に出てきたメ・ギャリド・ギだ……。
おい。
初代仮面ライダーのリメイクに、何で、グロンギが出て来る?
いや、そりゃ、年2〜3回の仮面ライダーのお祭り映画なら、それでも変じゃないが……え……えっと、これ、そう言うリアリティ・ラインの話だったの?
画質は……大体、二〇〇〇年ごろの「TVドラマとしては、いいカメラ使ってる」位の塩梅。
登場人物が使う携帯電話も二〇〇〇年ごろに良く有ったもの。
デスクトップPCが出て来るシーンでも、モニタは液晶じゃなくてCRT。
車には詳しくないが……他の人の感想でも、モブの車さえ二〇世紀中の車種しか出て来てないらしい。
どうなってる?
これ……初代じゃなくて、クウガのリメイクなのか?
初代仮面ライダーがグロンギと戦う画面を観ながら……何とも釈然としない気持ちに囚われていった。
どうやら、未確認生命体・第0号が復活した際に、クウガのベルトが破壊され、五代雄介がクウガにならなかった世界線で、改造人間となった本郷猛と一文字隼人がグロンギと戦う話らしい。
と言っても、この世界線の本郷猛と一文字隼人の外見は、オリジナル版クウガの五代雄介とほぼ同じ位の年齢に見える外見。
何が、どうなっているのだ?
やがて、物語中では、対グロンギ用に量産型仮面ライダーが導入される。
しかも、グロンギが出没するのは、オリジナル版クウガと違って日本全国。
仮面ライダーを量産しても後手後手に回り……。
日本のほぼ全土を網羅した監視カメラ網が構築され、明らかに現実の二〇〇〇年より十年は進んでいるパターン認識システムにより人間態の顔が判明しているグロンギは町中に現われた途端に検知されるようになり、日本各地に配備された量産型仮面ライダーが、即刻、駆け付け……。
いや、ちょっと待て。
この大量の量産型仮面ライダーって……一体全体、どこの誰なんだ?
劇中で全然説明されてないぞ?
ところが、劇中の時間が1年ほど経過した頃に……グロンギとは明らかに違う連中が出没する。
仮面ライダーアギトに出て来たアンノウンだ。
ところで……オリジナルのアギトでも途中から忘れ去られた感が有る設定だが、アンノウンはカメラに写らない。
では、全国に張り巡らされた監視カメラ網は役立たずになったのか?
さに非ず。
監視カメラ網の制御AIがバージョンアップして、アンノウンそのものはカメラに写らなくても、周囲に人間が居れば、その人間の様子からアンノウンが出現したかを判断出来るようになったのだ。
だが、やはり変だ。
その制御AIの説明が……二〇一〇年代半ばに話題になったディープ・ラーニングそのもなのだ。
二〇〇〇年〜二〇〇一年が舞台の話なのに?
このシステムは……一体全体、誰が作っているんだ?
そして、あらゆる怪人が駆逐され、平和が勃発した時に、ショッカーがどこに潜んでいて、何を目論んでいたかが判明する。
そうだ、あの石ノ森章太郎の萬画版の最後のエピソード……「日本政府が行なっていた計画をショッカーが乗っ取り……」というアレの翻案だ。
どうやら……グロンギを蘇えらせたのも……アンノウンを人間の世界に呼び出したのも……ショッカーだった事が……かなりボカされた回りくどいやり方ではあるが示され……。
賢明なる読者諸兄諸姉は既にお気付きの事とは思うが……日本政府は、知ってか知らずか、ショッカーの技術と国民がせっせと支払った税金で、ショッカーが日本政府を乗っ取った後に、国民の支配・監視を効率良く行なう為のシステムを構築していたのだ。
グロンギやアンノウンから国民を護る、という大義名分の元、国民を奴隷にするシステムを作り上げていたのだ。
そう、ここに、初代仮面ライダーが「大自然の化身」である事を、作り手がどう解釈したかが提示される。
自然のめぐみと自然の猛威は表裏一体。
人間が生きていくのに必要な何かこそ、いつ何時、人の命を奪う恐るべきモノと化すか判らないのだ。
そんな人間の基準からすると不条理な混沌とした世界の中で、我々、人間は生きていくしか無いのだ。
グロンギやアンノウンに立向う為のシステムは、ショッカーに乗っ取られた政府に不満を抱く国民を弾圧するシステムと化した。
その先兵は量産型仮面ライダー達。
だが……。
たった2人だけ、そのシステムに完全に組込まれていない仮面ライダーが存在していた。
初期の試作機だったせいで、まだ、自由意志が残っていた第1号と第2号だ。
彼等が性能でも数でも勝る自分達の悪の兄弟である量産型仮面ライダーを、どうやって倒し……そして、最後の敵は如何なる能力を持つ何者で……戦いが終った後に、劇中世界の日本と日本人にどんな未来が待っているかは……皆さん自身が劇場で確かめて欲しい。
評価:★★★★☆