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    おとぎばなしのような1おとぎばなしのような 数枚の報告書を手に持ち、己貴がいるブリーフィングルームに向かう。昨晩の仕事は秋草千愛にとっては荷が重く、この報告書を書きあげるまでに昼が近くなっていた。普段の仕事であれば報告書は朝一番に上司に届けなければならない。しかし、深夜まで及んだ仕事のせいで頭が回らなく難航してしまった。
     秋草の上司は己貴蓮だ。遅いと言う己貴の顔を思い浮かべると少しだけ気分が重い。遅くまで仕事をしていたからといって、己貴が報告書の手を抜くことを許すはずがなかった。きっちりとスーツを着こなして出勤する己貴が突然デニムとシャツ一枚だけで出勤してくるくらいありえない。それに上司の機嫌を損ねると、のちのちとんでもない仕事を回されることが安易に予想出来る。無理難題をあっさりと告げられることは、秋草にとって不運でしかない。
    ──遅いって言われたらなんて言おうか。ターゲットがあまりいい反応を示さずに困ったとでも言ったらいいか?そんなこと言ったら逆に怒られるか……?
     上司の機嫌の取り方を考えながらブリーフィングルームの扉を開けると、大きな声とドスンと激しい音が秋草の耳まで届いた。
    「昨日やめてほしいって何回も訴えたのに!」
    「ごめんなさい!心の鍵が折れていつも抑えている想いの扉が解き放たれたというか……。その、好きです!許してください!」
     ブリーフィングルームの扉をゆっくりと閉める。見つからないように物陰から盗み聞く。さっと出ていくと状況がわからないまま巻き込まれると思ったからだ。
    「その雑な告白がキライ。気持ち悪い」
    「気持ち悪くはない」
    「自信過剰。セックスしない」
    「むごい……!」
     話の内容を察すると九十八期の先輩が昨日ヤりすぎて 一蹴されているんだと思う、たぶん。何をやったのか知りたいが、そんな時間は秋草には無い。
    ──報告書の提出をしたいだけなのに、怠い。
     バディであると同時に恋人であることも多く、色恋沙汰で喧嘩している姿は珍しくはない。以前に一〇八期の同期たちも同じようなことをやっているのを見た。あの時は、TCが怒られている姿を見ているだけで結構楽しいものだった。しかし、喧嘩していても同期であるがゆえに茶々を入れることが出来て笑っていられたのだ。
     そのまま普通にいつも通り何も聞いていないフリをして入っていけばいい。難しいことはない。たとえ喧嘩しているのが先輩たちであろうとここは、ブリーフィングルームなのだから遠慮する必要はない。
     そう決めたらスッと自然に足を踏み出していた。
    「あ、秋草!」
    「は?」
     喧嘩していた二人は秋草を見て驚き、秋草は二人の様子を見て驚いてしまった。キャンキャン叫んでいたから激しい喧嘩をしているのかと思いきや、二人の体は重ねあい、脚は絡み合っていたからだ。三人の間に何とも言えない気まずい雰囲気が流れる。
    「なんか……、すみません。己貴さん探していて。でも居ないですね」
     見た限り喧嘩をしていた二人以外は居なかった。
    「さっき出て行ったよ」
    「困ったな。わかりました」
     何も聞いていないように立ち去ろうとすると、「もしかして今の話聞いていた?」と問われて秋草は固まる。ここで繕っても聞いてきてしまう以上盗み聞いていたことはバレていたことになる。
    「いつもやってると思ったので、普通に入室しました。いいバディもったのに理性の沸点低くてちんこ小さいと捨てられますよ」
    「……誰が捨てられるって?」
    「ちんこのほう?」
    「小さくねえわ!殺すぞ!」
    「それより、己貴さんはどこに行ったのでしょうか」
     喧嘩なんてどうだってよかった。秋草自身が自分の上司に怒られるのが一番怖かったのだから。

    おとぎばなしのような

    チームルームで俺はいま非常に悩んでいる。
    小野寺室長ら98期の先輩方から、バディである秋草千愛には内緒の課題を受けたからだ。
    先輩に愛想のひとつもみせず、謙遜をほぼせず、堂々と意見するのが秋草千愛だ。それが素直でかわいらしいのだが、口の悪さが災いを呼び先輩方から反感を買うこともある。
    これから先、過酷な任務にあたるときに問題だと思った先輩方が『バディ教育』として俺に押し付けてきた。我玄の指示ならやるのではないか、という安直な考えが今俺を押しつぶしている。

    ──秋草に少しは愛想をおぼえさせろ。
    ──好きと秋草に言わせたあとに、秋草が一周まわって、我玄は小躍りして喜べ。
    ──そうだ。
    ──バディだから。
    ──運命共同体だから。
    ──面白がってるだけじゃないですか!

    秋草の口が悪いから、たまに燃え上がる。だが、巻きこまれて課題が出されるなんてことはなかった。
    理由をきいたところによると、無理難題を言ってきた先輩たちの喧嘩に油を注いで炎上をさせたらしい。
    喧嘩が怒りに代わり、同調して仲直りしているのに、こんな変な課題をだされるなんて運がない。愛あるバディ関係でも心なしか呆れた。
    上司の小野寺さんに「俺に言っても変わらないと思いますよ」と伝えたが、周囲から「我玄がいうこと聞かせなかったら誰がするんだ」と反発がきた。
    一理あるなとも思ってしまった。
    誰かが手綱を握っていない限り秋草は無茶をするし言うことも聞かない。無茶といっても無茶苦茶なことはしない。インテリジェンス機関に所属しているだけあってわきまえはしっかりあるし、きちんと仕事もこなす。ちゃんとした大人だ。任務や課題以外だとあまり聞く耳を持たないのが欠点だ。
    漆黒の青毛馬の手綱は、秋草直属上司と俺が握っている。
    こういう課題は、普通秋草の直属上司を通して言われるのが慣例だと思っていた。己貴さんに止めてほしいと連絡をしようとしたが、急な任務で夜便で海外だった。止められない自分の不甲斐なさを実感させられた。
    秋草上司の己貴は切れ者で、瞬時に状況把握をする。この瞬間を見ていれば、子に変なことをやらせようとするなら周囲をきちんと叱っていたはずだ。
    次の休みまでに課題がクリア出来ていなければ、両者ともに休みはなく海外に飛ばすと通告され、休みが突然消えて怒り狂い、現地で暴れる秋草を想像するだけで肩が震えた。

    「我玄どうした。書類がシワになってるぞ」
    コーヒーを机におき、置いた反対側の机の端に腰掛ける秋草に話しかけられた。自分のコーヒーと一緒に持ってきてくれたようだ。
    頭をフルに回転させ、恐怖と無理難題でいつの間にか書類がしわになっていることに気づかなかった。
    足を組みカップに口をつけながら、余裕のある顔でこちらを向かれるといつも一緒にいてもドキリとしてしまう。
    「あ、ああ、おつかれ。わるい、気づかなかった……」
    「珍しいな。何か悩んでるのか」
    悩んでるのかと問われたらイエスと即答しそうになる。
    「悩み・・・というか」
    来栖なら歯の浮くようなことも瞬時に並べ、今すぐに課題をこなすだろうが、生憎タイプが違う。それを躱すクールな卒舘はすごい。
    考えを180℃変え、都合よくとらえると、これは俺にとってチャンスではないだろうか。
    愛嬌を振りまく秋草千愛を正直みたい。自我が強く、気高く美しい相方にかしずいたとしても思い通りにはならない。先輩たちからの課題だといえば、どうにかなるかもしれない。
    普段通り「今晩、時間ないか」と誘った。それに対して、眉間にシワをよせ一言だけ「ない」と言い切られた。
    「予定はいつも伝えているし、伝えてないことも把握しているのに。おかしくなったか」
    俺はおかしくはない。
    「家にあまり帰ってないこと知ってるから誘っているんだけどなあ」
    どちらかというと、こんなことでおかしくなったかと言ってくる秋草のほうがおかしい気がしてきた。いつも秋草の予定を勝手に把握し、鬱陶しがられていたからだ。
    「本省が居住地だから心配するな」
    官僚は1年を通して忙しい。入省し半年間の研修を終えてから1年以内に皆そう思う。軽口でいう話で、全員の嫌味だ。
    室長補佐として忙しく駆け回り家にも帰らず、ヨレヨレになっていく相方をみているとどこかで忠告をしなければと本心で思っていた。整った美しい肌にも髭が生えていたし、ランドリーにも自分で行かず、洗濯が溜まっているのをみかねて洗濯をさせていただいたし、時にマッサージをさせていただいた。
    「秋草のことを想って本気で言ってる」
    いつものように当たり障りなく、なるだけ笑顔で言う。
    「変なヤツ」
    「3か月以上秋草の家いってないし、休養も仕事のうちだと思う」
    芸がないので弱点を突き、食い下がるしかない。
    「マメにこなくてもいい、仕事がある」
    「3か月間まともにかまってもらえなかったから料理の腕があがりすぎた。披露させてほしいんだけど」
    「どこにそんな時間あったんだ・・・。お前こそ休め」
    ありえない、と言われそうな顔で言われる。
    正直、料理は咄嗟にでた言い訳に過ぎない。
    「料理、気休めには丁度いいけどな。それに気を張りすぎているからおまえもダラダラしたいと思ってるはずだ」
    「気持ち悪い。まあでも……」
    秋草は、顎に手をあて逡巡し「目線をあわせろ」と告げる。
    目線をあわせたら、中指を親指の腹でおさえ額を狙っている。
    「子どもらの報告聞いて、明日のこと伝えたらテキトーに帰るわ」
    明日朝から戸堂、先森らと他118期のメンバーと件のことで調査が入っていた。子どもらと打ち合わせをし、シミュレーションまで完璧にこなしておきたいはずだ。
    最近は、戸堂に指揮をさせ、先森に現場を任せるのがお気に入りのやり方らしい。そこに自分が最終統率として入る。状況を見つつ現場を動かし、自分も動けるのはハイパーインテリジェンスだと敬意を持っている。
    調査先に俺は顔が割れてるので今回の任務からは外されてしまった。秋草の子どもらの活躍を見ることが出来ないのは残念だ。
    「で、この指は」
    勢いよく額を中指で弾かれた。
    世界一弱い打撃攻撃だとしても秋草が放てば力強い。痛い。
    「うん…。なんで!?」
    秋草が額を手で抑えた後に、軽く口をつけられる。
    一瞬の出来事に固まる。
    いたずらした本人は、きれいに微笑んでいた。
    「……飯作っとけよ」
    小さな声は機嫌がよさそうで片手をふり、去っていった。
    その姿に嬉しさから動かされてつい微笑んでしまった。
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    2020/12/08 11:54:52

    おとぎばなしのような1

    #二次創作
    #恋するインテリジェンス  #BL #我秋
    なんでも許せる方向けです

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