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    十年後の八年前⑩ 八年前⑩ チキンダンプリングスープ
     
    「ああ、それ、あの人だよ」
     
     川を望めるテラス席で、テラーがコーヒーカップ片手に言った。
     クリードはテーブルに突っ伏したまま、声にならない解読不明な叫びを上げている。
     本日は納品日。朝の早よから飼い犬のバーンは、約束通りビリーとデート中。(ファンをお供に散歩中)
     時間があったから、何気なく、クリードから切り出した。
     探そうと思ったわけじゃない。今更だ。ただ、ラトラと食事をして帰って来た男が、妙に連想させて、同じ傭兵の世界なら、生きているかどうかぐらい聞いたことないか、と。
     イコール男だと言われて。
     そんな奇跡が起こるなんて、
     
    「考えもしないだろ……」
    「そうか? イメージ通りだろう?」
    「士官学校の? 無理だ……ユニオンのスーツすら着崩した人だぞ」
    「まぁそうか。優等生だったとは聞いている。噂は?」
    「辞めた理由か? 無茶苦茶なものならいくつか」

     耳を塞ぎたくなるような、酷い噂もあった。
     環境も悪かったから、娯楽のような扱いにされていて、当時を思い出し、クリードは眉を顰める。
     一方テラーはあっけらかんと、多少なりにあったかもね、程度を答えた。
     
    「それで済むのかよ」
    「噂ほど酷くはない。ユニオンでも色々あったみたいだから、そこは本人に聞け。丁度帰ってきたし」

     色々ってなんだ。
     思いながらも口に出せなかったのは、犬を連れた男が軽快に走り寄って来たからだ。
     脚元で並走する犬は、男を見上げながら尻尾を振り回している。
     
    「今日はイイコだったよ」
    『前回と比較してな』
     
     木の床に座り込みながら、男が明るく言った。息が弾んでいる。ファンも同じで、ウルフドッグの走力に合わせた散歩だったらしい。
     ともかく、怪我もなく無事に戻って来て良かった。
     同じ高さが嬉しいのか、すりすりと頬に擦り寄っていた犬が、ふと飼い主の顔を見て、ウロウロと落ち着きを無くした。
     帰宅を悟ったのだろう。
     男の襟を咥え、そのまま引きずって行こうとするから。
     
    「「待て待て待て」」
     
     クリードとテラーの二人が止める。散歩中にも何かあったか、ファンはもうツッコミに疲れているらしい。任せた、と休憩に入っている。
     持って帰る気概を見せる大型犬に、男は凄いなと感心して、首に腕を巻いた。
     柔らかい毛並みの下に、がっしりとした野生を感じさせる筋肉がある。安心して力を込めた。小型犬だったらこうもいかない。
     ぎゅうと抱き付くと、途端に犬が大人しくなった。

    「バーン、もうどこにも行かないよ」
     
     またおいで、と男が背を撫でた。きゅーんと甘える声を出して、犬が胸元に鼻先を押し付ける。
     そのまま押し続けて、後ろにひっくり返った男を下にし、乗り上げた。
     
    「オマエこのクセは治らないなっ」
     
     飛び付かなくはなった。
     だが腹の下に敷かれて、男はヘルプのサインを出す。こうなると抜け出せないどころか、息すらままならない。
     犬を飼い主が引き剥がし、男を同居人が抱き起した。肩で大きく息を吐いて。
     
    「テラー、オマエ大丈夫か? 一人で潰されてないか?」
    「これ隊長にだけですよ」
    「え、ボク嫌われてた……?」
    「そんなわけないでしょ。マウントでもありませんよ。甘えて、隠そうとしているんです」
     
     温もりを全身で感じられて、誰の目も届かない場所。仕舞ってしまいたい欲だ。
     男がへにゃりと笑みを零す。特別だと言われて、心から嬉しいと。目を細めて、相手を愛おしいと体現する笑顔。隣で目撃したクリードが、思わず顔を背けた。
     
    「……クリード?」
    『おい何してやがる』
     
     気配を察して、座ったままの男が見上げる。あからさまに避ける仕草に、ファンが背に蹴りを見舞った。
     痛いのだが、クリードは構っていられない。
     落ち着けと自身に言い聞かせる。必死に。ビリーを直視できなくなったのには、理由がある。
     気付いたファンが、ふーん? と。
     
    『聖人の名を唱えるか?』
    「……銃の名前の方がいい」
    『暴発しても知らんぞ』
    「するかっ」
     
     ククク、と喉を震わせながら、ファンが男を引き起こした。背を押して、促す。
     
    『もういいな? 帰るぞ』
    「OK、また来週」
    「テラー? ファン、おいクリードは?」
    「大丈夫ですよ、隊長。すぐに追いかけますって」
     
     代わりに答えたテラーが、席に座り直して、優雅にコーヒーを飲む。ファンと連れ立って帰宅する男が、聞こえなくなる距離を待ってから。
     
    「まさか、初恋とか?」
    「違うっ!」
    「拝み倒せば抱けそうだぞ。あの人、流されやすい所あるから」
    「うるせえ! ちょっと黙ってろ……!」

     座り込んで、真っ赤になった顔を覆い、大声で叫ぶクリード。その隣で、バーンが不思議そうに首を傾げていた。

     
    「……緊張しました」

     帰宅早々、事の顛末をオブラートに包んで告げると、男が顔を伏せた。
     ダイニングテーブルに向かい合う形で、懺悔するように項垂れたクリードよりも、さらに頭を下げてテーブルにくっ付けている。
     ファンから『気にしていた』とメールが送られて来たから話したのだが。
    (ファンはさっさと仕事に行った)
     
    「どこが、緊張したんだろうな……」
     
     言っている男の耳が赤い。オブラートの意味はなかったようだ。
     
    「無理にジョークにしな……待ってくれ、いつバレた?」
    「ファンが……」
     
     教えてくれたと。どうやってかと思えば、男は下を指差して、それから中指を立てた。戸惑いながら一瞬だけ。ファンがしたらしい。
     アメリカンほどジェスチャーに侮辱を含めないから、元々の男性器の状態を意味する。
     あの野郎、戻ったら殺す。
     
    「……オマエの、あれ、本気だったんだな」
    「kissまで許してそれ疑うな」
     
     触れるだけだが、この発言はさすがに頂けない。惚れたと言ったのは、心からだ。

    「そこまでとは思ってなくて……聞いていいか? その、溜まっているだけじゃ?」
    「多少のデリカシーを持ってくれてありがとう。誤作動じゃねえ」

     勃つ要素がどこにあったと聞きたいのだ。
     犬が見せた独占欲に、男は愛情を感じた。嬉しいと。あんな笑顔を近くで見せられて、想像するなと言う方が無理だ。自分の腕の中に閉じ込めた男が、嬉しそうに笑う。
     思考を巡らせたのだろう。ああ、と一人納得し、男は、少しだけ困った顔をして、クリードの脳内とは真逆の答えを言った。

    「テラーに聞いたんだろうが、真面目な士官はもういないよ」
     
     まるで死んだとでも言うように、いない、と。温度のない、ざらりとした言葉に、クリードは息を飲んだ。
     ビリーは、憧れた士官と結び付いたからだと、思っている。

    「勝手に……決めないでくれ」
     
     衝動のまま、立ち上がる。
     確かにそれは、嬉しかった。運命めいたものも感じた。だが。

    「ボクじゃない。幻想だ」
    「ふざけんな。目の間にいるアンタはなんだ。戦って、生き残って、ここにいるじゃねえかっ」
    「戦った人間は他にもいる。ボクよりもずっと若く、幼い中で発現した者も多い。讃えるなら彼らの方だ」
     
     否定者は大なり小なり、辛い過去を持っている。

    「俺だって元否定者だ。苦悩は分かる。ファンもとっとと死ねたらあそこまでイカレなかっただろうよ。だから何だ? 讃える? アンタこそ俺に幻想抱いてんのか。聖人どころか善人ですらねえぞ。何人殺したと思ってんだ。俺は俺の気に入った相手しか助けねえし、邪魔するなら銃口を向ける。俺は、信頼を失っても一人で神を殺そうとした奴に、惚れたんだ。別人だったとしても、アンタを選ぶ。勝手に俺の想いまで、決め付けるな」
    「クリード……」
    「悪い……言い過ぎた。少し、頭を冷やしてくる」
     
     男を置いて、クリードは逃げるように自室に戻った。
     ベッドに転がって、腕で目を隠す。暗闇が広がった。男がいる世界に、漠然とした恐怖。暗くて冷たい。苦しいと感じた。
     本当に言い過ぎだ。
     復讐の怒りを消す為に、男は愛情や欲求、ときおり目に入る光の温もりすら求めずに、全て捨てるしかなかったとしたら。
     食事を、美味しいと、言った。
     自身を取り戻す切っ掛けになれたなら、充分。それ以上を求めては贅沢だ。ここで穏やかな日常を共にするだけで良かったと、クリードは胸中で呟く。
     呟きながら、自己嫌悪に陥った。そもそも今回は完全に、反応した下半身が悪い。
     
    「十代のガキでもねえのに」
     
     ここで悩んでいても仕方がなく、よし男の好物でも作ろう、とクリードの感情が着地した所に、

     ノックが響いた。
     
     時計を見れば30分以上。結構長く、思考の海に沈んでいたらしい。
     心配させてしまったと反省しつつ、扉の前にいた男に笑顔を向ける。
     ランニング後のシャワーを済ませたのか、髪が濡れている。着替えは、白いシャツにスラックス。数少ない、男が持っていた元々の私物。ラトラが連れて来た際と同じ物で、その所為か、寂しげな印象を受ける。

    「中に入るか?」
    「……あぁ、オマエがいいなら」

     寒そうで、つい言った。
     クリードもまさか、二つ返事が返ってくるとは思っておらず、慌てて否定する。

    「いや、冗談だ。今日は病人じゃない。何を意味するか、理解してから答えてくれ」
    「これでもキミより歳上だ。分かるよ」
    「分かってねえ。アンタに欲情した相手だぞ」
    「ボクは……」
     
     男がシャツの胸元を握った。シワになるほど強く、指を食い込ませる。
     
    「抜け殻なのかもしれない。そう言った欲があまり無くて。オマエと同じ熱を、返せない。分からないんだ、ちゃんと応えられるかどうか……それでも良ければ」
    「俺と寝るって?」
     
     頷いた。
     クリードは腕を伸ばした。これでも国を狙う程度には、強欲だ。けれど、男の肩に手を置いて、落ち着けと軽く叩く。

    「気軽にベッドインするタイプじゃねえだろ。追い詰めたのなら、謝る」
    「オマエが……あまりに必死に言うから。言ってくれるから、触れてみたいと思ったんだ」

     この胸の中、なにも無くなってしまった。鼓動ですら、作り物のような気がして。
     
    「実感が欲しい」
     
     ビリーが一歩、寄った。たった一歩だ。
     男が一番辛いとは思わないし、不幸を比べて誰が一番だと決める気もない。
     ただ、暗闇の中、踏み出すのは怖いだろうなと、クリードは思った。その勇気を否定する神はもういない。
     ゆっくりと引き寄せる。本当はそんな余裕はないが、震えそうになる腕を叱咤して、極力優しく抱き締めた。
     肩に頭を置いて、男は大人しく身を任せてくれた。クリードはそっと息を吐いた。この期に及んで夢みたいだなと、思っている。

    「抜け殻なんて言わないでくれ。俺にとってこの体は――宝物みてえなもんだ」
     
     綺麗な宝石とは違う。
     護る必要性がない、強い元軍人の身だ。けれど、不死を借りたから、致死量の痛みをそのまま味わった身でもある。
     生きているだけでと願った人が、何度も死に目に遭っているのは嫌だ。その後は穏やかに過ごしてくれと願って、何が悪い。もう傷付かないで欲しい。痛い思いをしないで欲しい。
     犬が毛皮の下に隠そうとしたように、本当はクリードも、男を安全な所に閉じ込めておきたいのだ。
     宝物と言って過言はない。
     腕の中で、ハードル上げるなぁと苦笑混じりの声が聞こえた。
     この後男は、身を持って言葉の重みを思い知る事となる。
     
     
     キッチンに立ったクリードは、まずチキンスープの準備を始めた。
     鶏肉は丸鶏(内臓は空洞)を使用。
     香味野菜と共に、1時間かけてじっくりコトコト。
     男は眠っているので、時間はある。
     柔らかくなったら取り出して、骨と皮を外し、食べやすい大きさにほぐす。
     スープは濾す。
     そのままチキンスープとして使うと脂が多く、市販のスープストックと割った。
     セロリ、キャベツ、タマネギ、ニンジンを賽の目にカット。
     オリーブオイルで炒めて、スープを入れて煮る。
     オレガノ、ローリエも投入。
     
     次はダンプリング作り。
     (小麦粉を練ったもの。中身があっても◯)
     パスタを入れたチキンヌードルでも良かったが、こちらの方が食べさせ易い。
     バターとCake flour(薄力粉)、ベーキングパウダーをフードプロセッサーにかける。
     ボウルに移し、塩とミルクを。
     スプーンで混ぜて、柔らかな生地にする。
     それをそのままスプーンで掬い、スープに落とす。
     チキンもこの時に戻し、しばらく蓋をして中身に火が通れば完成。
     
    「食べられそうか?」

     クリードはノックしてから、自室に入った。スープを載せたトレイをベッドサイドに置いて、目を覚ましていた男に声をかける。
     ビリーは薄手の毛布に埋もれたまま、何やらうんうん唸っていた。
     
    「うん……だいじょうぶ。今おきる」
    「無理すんな。手伝うから」
    「オマエはほんと、ボクを甘やかす」
     
     肩を抱いて、ゆっくりと抱き起こす。背中に枕を当てて丁寧に座らせた。数時間眠ったが、下半身に力は戻らないらしい。上げすぎて掠れていた声は、ずっとマシになっているが。
     なんとか座っている男の側で、クリードがトレイを引き寄せた。スプーンで小さめにした具を掬って、男の口元まで運ぶ。
     
    「チキンスープ。シンプルなダンプリングにしてみた」
    「わぁ、嬉しいな。好きだよ」
     
     男がパカリと口を開けた。入ってきた物を、警戒心ゼロで食む。柔らかく調整した、日本語で言えば団子は、ふわふわの食感でチキンスープをたっぷりと含んでいる。
     
    「美味しい……ふふ、柔らかいんだな」
    「硬めにして具材を入れた方が好みか?」
    「モチモチも好きだよ。ああでも、チキンにはこっちが合うかな」
     
     体調不良時に食べるチキンスープ。優しい味ながら、野菜と鳥の旨味がある。その部分を食べさせると、男はチキンとセロリの歯応えを楽しんでいるようだった。
     次はまたダンプリングを。ゆっくりとしたペースで、遅い昼食は進む。間に、クリードは謝罪を挟んだ。
     
    「悪かった、無理させて」
    「合意の上だ。それに優しかったよ。残念なのは、オマエの性格ではなく体格を受け継いでしまった、Johnsonくんかな」
     
     じっ、と恨みがましく視線を落とされて、クリードは苦笑を禁じ得ない。
     壊れ物を扱うよう丁寧に抱いても、控えめとは言い難いサイズはどうにも出来ず、ボトム側の男に負担を強いた。
     荒い行為も経験してきた男は、最初から受け身側を覚悟して部屋に入った。が、触れて大きさを確認した時は、心底逃げ出したかったと言う。
     
    「せめて次は……お…くはやめてくれ」
    「は……?」
    「だから、奥を抜かないで、くれと……虐めるな」
     
     ワザと言わせているだろう? と睨まれて、クリードは大慌てで否定する。違うそんなつもりは。それよりも。
     
    「……次、が?」
    「こんなご褒美があるなら頑張るよ。ただ、毎回あれをされるのは、ちょっと辛い」

     男が自分の胸元に手を当てた。
     痛むのか聞くと、目元にかかる髪を揺らせて、首を横に振った。
     
    「気軽じゃないよ。オマエだからだ」
    「っ……」
    「料理を食べた時みたいに」 
     
     暖かくなるんだ、と。胃ではない。胸の奥にじわりと熱が宿る。
     男の中で、熱を分ける行為と、食べる行為は、どこか似ていた。
     
    「生きている気がする」
     
     男は穏やかな微笑みを浮かべる。クリードは立ち上がると、ビリーのこめかみにkissした。
     
    「夜まででいい。ここに居てくれ」
     
     大切なものを。この腕の中に、どうか閉じ込めさせて。
    lev Link Message Mute
    May 4, 2021 8:46:00 AM

    十年後の八年前⑩

    クリードさんとビリーさん。
    直接的な描写はありませんが、前後があります。

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