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    Mission:01 『イベリア半島攻防戦』~八雪Side~

    「はい、今ロックを解除します。上がってきて下さい」

    雪乃が宅急便の配達員を、俺達のいる階に呼び寄せる。

    「ではここにサインを………」

    受領書を受けとると、配達員は早々に去っていった。

    「八幡くん………来たわよ」

    「おう。んじゃPCルームに行ってるぞ」

    少々長く、大きな段ボールを抱えて俺は雪乃のマンションのPCルームに移動する。

    「さーて。25,000円の価値はあるモンだって期待しちゃうぞ俺は」

    カッターでガムテープを切り裂き、ゆっくりと蓋を開け“ソレ”を取り出し梱包用緩衝材を剥がしていく。

    「おお~! これかよ………っ」

    新古品の3Dフライトシミュレーションゲーム用アナログジョイスティックを取り出し、もう雪乃のマンションに置きっぱなしにしてるゲーミング用ノートパソコンの前に置きUSBケーブルの先端を差し込んだ。
    同時にノートパソコンの電源も入れる。

    「どうかしら?」

    お盆に紅茶の入ったポットとティーカップを載せた、いかにも彼女が好みそうなアンティークトレイを持って雪乃が入って来た。

    「いや、まだだ。今丁度ゲームを立ち上げたばっかだし」

    サイドボードにカップの載ったソーサーを置くと、雪乃は俺の隣に座り自分のパソコンを起動させる。
    トップ画面のアイコンをクリックするとタイトル画面

    『Wings of War』

    の文字が。
    俺がこのゲームを始めたのは、元々は東京の大学に進学した自称“剣豪将軍”ことラノベ作家志望の材木座義輝と都内で再会した際。
    材木座に「面白いゲームがあるけど我、大学で一緒にプレイしてくれる人間がいない! お願いハチえもん、一緒にやって!」と頼まれたのキッカケ。
    基本無料だし、高スペックのパソコンならグリグリ動くというので物は試しとプレイしてみたら………。
    すっかりWoWにハマってしまった。
    このゲームが他の3D戦闘機シミュレーションゲームとの一番大きく違う部分は、Windows版のみだがあのDCSことDigital Combat Simulator Worldと同じく、PVP専用サーバーを設置している事だろう。
    PVPとはPlayer VS Playerの略、ようするに対人戦だ。
    統合軍所属のプレイヤーと反統合軍(反乱軍)所属のプレイヤーで空中戦ドッグファイトが出来るのである。
    何なら模擬戦って事で連邦軍対連邦軍、反乱軍対反乱軍のパイロット同士でも可能。
    さらにプレイヤーが作るテキスチャーデータ、通称MOD(エスコンのスキンみたいなもの)で戦闘機の塗装などもカスタマイズ出来るのでそっちも楽しくて。
    ついつい雪乃からの電話に遅れたりメールしなかったり。
    それで怒ったゆきのん様に厳しく追及され、WoWの事を白状してしまった。
    最初は「私よりゲームを優先するなんてっ!」と憤慨した雪乃だが、何とか宥めすかし、キスをしてから(ベッドの上で)可愛がったら、WoWを続けていい条件を出してくれた。
    それは

    「私もこのゲームをプレイするので、やり方を教えて。
    そしてプレイする時は必ず一緒に。これが条件よ?」

    というので。
    俺もまあ「リアル彼女と一緒にプレイしてまーす」なんてちょっと自慢になると思って。迷わずOKを出したが………。
    しかしここで大問題発生。
    雪乃の「2人で一緒に乗れる複座型タブルスがいい」の一言により、複座型戦闘機を購入する羽目に。
    ダウンロード購入出来る機種のリストを見て、プレイしてから最初に乗れるF-4EファントムⅡから乗り換え、しばらく愛用していたF-16Cファイティング・ファルコンから、そろそろステルス戦闘機に買い替えようかと思っていたのに。
    大体、2人乗り戦闘機の種類なんてたかが知れているだろ。
    と思ってDL購入出来る機体を見ていたら、雪乃が見た瞬間気に入った機体があった………。
    グラマン、現ノースロップ・グラマン社が開発し、映画『ファイナル・カウントダウン』さらにトム・クルーズの出世作『トップ・ガン』で一躍その名前を轟かせた後退可変翼戦闘機、F-14トムキャット。
    スパロボファンにはお馴染み、あの『超時空要塞マクロス』のVF-1ヴァルキリーのモデルとなった戦闘機だ。
    ちなみに黒い垂直尾翼にドクロとクロスボーンのイラストが入ったF-14戦闘部隊VF-84、後のVF-103こと、“ジョリー・ロジャース”はマクロスのスカル小隊の元ネタでもある。
    それをグレードアップしたF-14Dスーパートムキャットを、イラン空軍がさらに超近代化改修した“砂漠猫”ことF-14AMスーパートムキャットもあるが。
    アメリカではとっくに退役したトムキャットを、敵国であるイランがいまだに使い続けているというのも面白い話ではある。

    閑話休題。
    2人で乗る、所謂複座型戦闘機なら我が国の航空自衛隊も採用している、あのF-15イーグルを近代化改造したF-15DJイーグル改、さらにF/A-18Fスーパーホーネットという複座型戦闘機があるが………。
    雪乃がF-14Dスーパートムキャットを選んだ理由。
    トム“キャット”。
    猫だからだ。
    流石は猫大好きなるほど味の差ゆきのんさんである。
    垂直尾翼に「パンさんをMODにして貼りたい」とか言い出した時はビビったが、結局MODだけはジョリー・ロジャース仕様にしていい事でゆきのん共和国雪ノ下雪乃大統領と合意した。

    「どうせならレーダーももっと最新の、AESAエーイサにしましょう」

    「いやいやいや。だったらいっそのことF-22ラプター買おうや。
    てかこのデブ猫につぎ込んだカネでラプターが2機買えてるよね?」

    「一緒に乗らないと意味ないでしょうっ!?」

    AESAとはActive Electronically Scanned Array の略、早い話がアクティブ電子走査アレイ、最新の高出力小型レーダーの事である。
    アンテナ面には「T/Rユニット」と呼ばれる多数の小さい送受信素子がギッシリと並び、アメリカ海軍のF/A-18ホーネット用レイセオン製AESAレーダーことAPG-79(Ga As素子モジュール使用)の索敵効果範囲は160キロメートル以上に及ぶ性能を持つという。
    もちろん各駆動部分を操るケーブルも、最新鋭のコンピューターがワイヤーでの電子信号により制御を安定させるシステム“フライ・バイ・ワイヤー”に替えた。
    そしてトムさん最大の特徴であり、ある意味最大の弱点とも言うべき可変式ウィングの剛性をアップ。
    こうしてセコセコ貯めたゴールドが凄い勢いで減っていったが、俺のノーパソの画面には大飯食らいのデブ猫の皮を被った、砂漠猫にも勝る化け猫が映っていた。
    ここまで来ると近代化改修どころか魔改造のレベル。
    言うまでもなく後部席に乗るR・I・Oと呼ばれるレーダー・電子装備担当オペレーターは雪乃が担当し、今ではリアル戦闘機でも常識と化したマルチネットワーク情報共有システムも用いて、レーダースコープや多機能ディスプレイに映る現在位置や周囲の情報を、メインパイロットの俺に伝える。
    そんなこんなでトムさんの操作系統に慣れるためにもいざゲームをプレイし、雪乃が段々感覚を掴んでくると如実に違いが出てくる。
    今まで1人でやっていた作業を2人で分担して行うというのは、かかる負担が各段に軽くなるモノで。
    プレイ中も毒舌は相変わらず健在だが、雪乃の伝える情報は本当に精密で、かつ的確だった。
    3Dフライトゲームとはいえ、あっという間にここまで最新の航空電子機器アビオニクスを使いこなせるなら「コイツ大学は航空電子学科を選択すべきだったのでは?」と思う。
    んな訳で最初はPC用ジョイパットでプレイしていたが、ついに操作入力に限界を感じ。
    操縦レバーとスロットルレバーのついた3Dゲーム用アナログジョイスティックを、雪乃もレーダー操作用ジョイスティックをAmaz〇nにて購入。
    さらに成績は向上していき、またゴールドも貯まっていく。
    気が付けば俺と雪乃は。
    いや。俺と雪乃とデブ猫トムさんは。
    統合軍の撃墜数ランキング第1位に、そして総合ランキングでも2位に躍り出ていた。
    ちなみに総合ランキング1位は反乱軍のヤツのスーパーホーネットで。これを知った負けず嫌いのゆきのんさんは「トムキャットで本当に良かったわ」と呟いたのはここだけの話である。
    ~キリアスSide~

    「キリトくん、私はいつでもOKだよ?」

    「よし、じゃあ行こう」

    ここは東京都世田谷区の某マンションの一室。
    今日もアスナと一緒にパソコンを起動し、デスクトップの3D戦闘機SLG『Wings of War』のアイコンをクリック。
    『ソード・アート・オンライン』というMMORPGで知り合った仲間達と一緒にこの3D戦闘機SLGを始め、現在は俺とアスナで作った反統合軍第207航空部隊「サバイバー」に所属。
    元々反乱軍こと反統合軍に所属して燃料や弾薬、メンテナンスを受けやすくするために作った名ばかりの部隊なので、最初は俺とアスナの2人だけだった。他部隊からのアスナへの勧誘・引き抜き工作は凄かったが。
    しかしその後、シノン、クラインもWoWを始め、サバイバーに所属してくれた。
    会話用にボイス入力チャット用インコムと、3Dバイザーをローディング中にセット。
    ログインした瞬間、鼓膜が破れるかと思うような怒鳴り声が。

    「航空部隊、全機出撃準備を急げ!
    敵航空部隊と敵爆撃航空団が出現した。機影は制空戦闘機多数、爆撃機はB-2スピリット2機、 F-15Eストライクイーグルが現在確認出来るだけで12機!
    方向はピレネー山脈北東300kmに多数集結している!」

    確かに今日のスペシャルミッション『イベリア半島攻防戦』開始から少々遅れてログインした。
    でも俺もアスナもその時、「突然」の出現命令に焦っていた。しかもB-2爆撃機を2機!?
    その時。

    「こちらヴァルキリア1、敵航空部隊の攻撃に会い現在交戦中!
    例の“ステルスハンター”がいる。大至急援軍を要請する!!」

    我が反乱軍が誇る、俺達サバイバーと共に精鋭部隊と呼ばれ、メンバー全員がF-22ラプターとF-35CライトニングⅡを愛機とする第187航空部隊「ヴァルキリア」。
    俺とアスナがランキング1位になるまでは、ヴァルキリアの隊長が1位だった。
    今は統合軍の例の“ステルスハンター”のF-14Dスーパートムキャットが2位になったので、3位に転落したが。
    しかし、今でもランキング50位以内に全メンバーが名を連ねるヴァルキリアがこんなに焦って応援要請とか、ただ事じゃないな………。
    戦闘空域はかなり芳しくない状態なんだろう。

    「キリトくん、ウェポンセレクト完了。いつでもいけるよ」

    R・I・Oのアスナが素早くジョイスティックとキーボードを操作する。
    第4世代サイドワインダーが4発にAMRAAMアムラームが4発か。

    「よし。ステルスハンターのドラ猫さんの実力がどんなものか見てやろうぜ!」

    俺はすぐに愛機F/A-18Fスーパーホーネットを緊急発進させた。
    飛ばしに飛ばしたスーパーホーネットは、ピレネー山脈に到着。
    【キリト】
    「クソ! いいようにやられてるなぁ………」

    今回のミッション、スペインやポルトガルのあるイベリア半島を舞台にした『イベリア半島攻防戦』は統合軍のB-2スピリット爆撃機2機とストライクイーグル7機以上を撃墜したら俺達反乱軍の勝ち。
    スピリット2機なんて聞いてないけど。
    突破を許せば当然ながら、統合軍の勝利になる。
    ゲームである以上、プレイヤーには学生や社会人も多いだろうし全員が全員参加できないのは仕方ない。
    現に俺とアスナも今日は講義がマス一杯だったんだし。
    それにしても反乱軍こっちの人数の少なさ、逆に統合軍の数の多さは一体なんだ?

    【アスナ】
    「こちらサバイバー1、戦況を報告されたし」

    【クライン】
    「こちらサバイバー3、って今頃来たのかよキリト、アスナ!
    見ての通りだってっ! B-2スピリットに近づくことも出来やしねぇっ!!」

    【アスナ】
    「こっちは講義がマス一杯あったのよ!
    ………それにしても、確かに友軍の数が悲惨ね………。完全な負け戦じゃない」

    マルチネットワーク情報システムにリンクされた画像を見て、隣のアスナがしかめっ面をしている。

    【シノン】
    「感心してる場合じゃないでしょアスナ!
    キリトも、とりあえずB-2に近づくまでの道を切り開くのに協力してっ!!」

    シノンの怒鳴り声がイヤホンから響いてきた。

    【キリト】
    「はいはい。とりあえず統合軍の低ランカー達から片付けていくかな……」

    目的である統合軍のB-2スピリット爆撃機への突破口を開くため、まずは4機撃墜した。
    と、その時。
    画像にチャット文字が表示されると同時に、クラインの叫び声がインコムのイヤホンに鳴り響く。

    【クライン】
    「ってヤベーッ! あのトム猫だっ! 背後ケツに付かれたっ!!」

    見ると俺達の横を飛んでいくクラインのダッソー・ラファールのテールに、ピッタリとジョリー・ロジャース仕様のF-14トムキャットが。

    【アスナ】
    「キリトくんっ!?」

    【キリト】
    「分かってる! 丁度いい機会だ、あのドラ猫の実力を見てやろうっ!!」

    さて、統合軍1位、全体ランキング2位のステルスハンターの実力はどれ程のモノか。
    俺はアナログジョイスティックを少し強めに握り、アクセルペダルを踏みしめた。

    【クライン】
    「おいぃぃぃぃっ! ミサイルロックされる! ヤバいってこれっ!?」

    【キリト】
    「あと少しでいい、そのまま逃げ続けてろっ!!」

    【クライン】
    「どうしてだよっ!? 警報アラートが鳴りっぱなしだぞっ!!」

    【キリト】
    「そこからだと間に合わない。今は俺に任せてくれ」
    ~八雪Side~

    【スノー】
    標的ターゲット捕捉! 八幡くんあとは貴方次第よっ!?」

    隣で雪乃がレーダー用ジョイスティックと、キーボードをカチャカチャと打っているのが分かる。

    【エイト】
    「よーし………チャフフレアももう切れたろラファールめ。
    テメェにゃスペシャルサービスで改良フェニックスをプレゼン………」

    その時だった。

    【将軍】
    「八幡、下方向約3マイルッ!
    ランキング1位の奴が近づいておるっ!!」

    慌てたようにイヤホンに響くこのゲームに俺を誘った張本人、材木座の絶叫。
    瞬間───
    俺達のトム猫と敵のラファールの間を、凄まじい速度で急上昇して割って入った機影があった。
    白っぽいグレーの機体の中央に黒いストライプ、黒と赤の垂直尾翼。
    VFA-154“ブラック・ナイツ”仕様のF/A-18Fスーパーホーネット。
    間違いない、反乱軍の総合ランキング1位のヤツだっ!!

    【スノー】
    「了解よ! 財津くん、皆にリンクエンゲージするように伝えて!」

    【将軍】
    「今ワザと間違えたよね雪ノ下嬢!?
    とにかくラジャー、エンゲージ!」

    こういう時、実質的な指揮官はもう雪乃だ。
    きっと材木座は統合軍側の連絡の取れるプレイヤー全員に、マルチリンク共有システムにもっと注目するように伝えているだろう。
    急旋回しながら、こちらに機体を突っ込ませるスパホ。こっちもマスターアームである砂漠猫用近代化フェニックスミサイル『Maqsoud』はとっくにONにしている。
    しかし、だ。

    【エイト】
    「あからさまに挑発してきてんなあのスパホ。やるっていうのか?
    でも俺らが今回すべき事は『ミッション終了までB-2スピリットと爆撃部隊を守る』、その一点だけなんでな」

    【スノー】
    「でも見て八幡くん。友軍機があのスーパーホーネットに次々に撃墜されているわ。
    私達が彼らを食い止めるのが、B-2爆撃機を守り抜く最善の策だと思うのだけれど?」

    【エイト】
    「………ホントは1位に挑みたくて挑みたくて仕方ないんだよねゆきのんさん?」

    チィ。ゲームの世界でも負けず嫌いな氷の女王様だ。
    とはいえ流石1位、統合軍こちら側の戦闘機が流星の様に紅の炎に包まれながら、一機、また一機撃墜されていく。
    あれくらいの接近戦になると、ステルス機能など何の役にも立たない。
    実際アメリカ空軍の模擬戦ではF-35ライトニングⅡがF-16ファイティングファルコンに2回負けてるしね!
    それに加えてあの1位のスパホの動きのクイックさと来たら。
    俺と同じく、確実にアナログジョイスティックとジョイペダルで操作しているのだろう。
    F/A-18のF型は複座なのでこちらと同じく後部席にはR・I・Oがいるが、どうやら雪乃に負けず劣らずの分析力、判断力を持っているようだ。
    このゲームの8割以上のユーザーは、マウスとキーボードでの操作だろう。
    操作能力と反射神経が画面上からも分かるあのスパホに、統合軍こっちのマウスとキーボード操作でのユーザーじゃあ太刀打ち出来る筈がないのは自明の理だ。

    【エイト】
    「畜生………腹括るっきゃねーかっ!」

    【スノー】
    「括らないと味方の被害が増えていくだけでしょうっ!」

    俺を一喝する雪乃。
    どの道、雪乃の性格からすれば遅かれ早かれ「PVPサーバーに行ってランキング1位と戦いたい」と言い出すのは目に見えている。
    だったらここでちょっとお手並み拝見といくか。
    ~キリアスSide~

    勘違いしてる人も多いが、ステルス機というのは“絶対見えない”訳ではない。
    横や下など角度によってはレーダーで捕捉出来る。前方監視型赤外線装置Forward Looking Infra-RedことFLIRを使えば対抗可能。
    それはステルス戦闘機が世に登場して以来、ずっと言い続けられていたこと。
    さらに最新のアビオニクスを搭載すれば、第4世代戦闘機でも第5世代戦闘機と互角に戦えるのは証明されている。
    現実としてあのドラ猫が『ステルスハンター』なんて呼ばれているのも、完全なステルス機対策を練りあげているのだろう。
    WoWを始めた頃はSAO同様に「一人で十分」なんて思っていたけど………。
    途切れ途切れに映るレーダーエコーなど、焦った状態での空中戦ではほとんど見てられなかった。FLIRも同様。
    現状で一番役に立つ索敵装置がR・I・Oのアスナとはなんという皮肉だろうか。

    【アスナ】
    「キリトくん! 距離レンジを詰めてきてるっ!!」

    隣のアスナの、怒鳴り声に近い指示に若干驚きながら、パソコンの画面越しに背筋にザワリと走る悪寒。
    反射的に操縦桿の形をしたアナログジョイスティックを思い切り倒し、反転降下。
    機体をグルリと一回転させて、ジョイペダルを強く踏んで急降下していく。
    見上げた俺の視線の先を、F-14トムキャットにしか思えないデルタ翼の黒い影が駆け抜けた。

    【キリト】
    「自分から喧嘩売っておいて2位に負けたら格好悪いなっ!!」

    負ける気なんて毛頭ない。
    決して自惚れでもなんでもなく、どんどんランキングが上がり1位になった時はこれを死守するよう、徹底的に現実を見るようにしている。
    おかげで直カンも随分鍛え上げられた。
    そのカンがこう告げている。このままあのドラ猫と戦いに入っても『負けない』と。
    ゲームとはいえインコムをしているので、アスナが座っている後部席からこちらまで響き渡る警報音アラート
    それはロックオンされたことを知らせるホーネットの悲鳴だ。
    断続的になっていた音が、序々にフラットな音へと変わっていく。
    ドラ猫を振り切る為に激しく旋回を繰り返してみた。
    今頃統合軍プレイヤーにも、反乱軍プレイヤーにも、空に絡み合う螺旋のようなコントレールが見えている事だろう。
    名前こそF/A-18でホーネットの名を冠してはいるが、A~Dまでのレガシーホーネットと、E型、そして俺とアスナが乗るF型の“スーパーホーネット”はほぼ別物だ。
    そしてスーパーホーネットは旧ホーネットより全長含め大型化しているにも関わらず、格闘戦ドッグファイト能力が50%以上向上している。
    しかし、警報音は鳴り止まず、得意なはずの格闘戦で振り切れない。

    (大丈夫、まだロックされた訳じゃない)

    俺は自分に言い聞かせた。

    【アスナ】
    「キリトくん! 敵機を振り切れない!」

    【キリト】
    「見れば分かるっ!」

    ピーッ、と断続的だった警報音が、ついにフラットな長音へと変わる。

    【アスナ】
    「キリトくん! キリトくん! フェニックスが来たよっ!」

    ドラ猫が撃った、イラン空軍が近代改修化したフェニックス『Maqsoud』がこちらに迫っているが、自動対応でチャフがばら撒かれる。
    どうやらチャフに引っかかって爆発してくれたようで、隣で半ばパニックになりかけてるアスナもホッとした表情を浮かべた。
    しかしすぐに2発目が来るハズ。俺はジョイスティックを目一杯さげ、機体を急上昇させる。
    ~八雪Side~

    【スノー】
    「何のつもりかしら?」

    【エイト】
    「さあな。そのまま宇宙を目指すつもりなんてねぇだろうし」

    後ろを取られて急上昇をかけるスパホ。
    何だ? 太陽の光でかく乱しようってか? 往生際の悪い奴だ。
    俺もジョイスティックを下に倒し、高度を一気に上げる。
    そして機体にヴァイパーコーンが出来るのが確認できた。
    これが本当の戦闘機なら、パイロットはアラーム音の度に緊張していき、そして凄まじいGに文字通り押し潰されそうになっているだろう。
    しかし、緊迫感は好きだ。何故か?
    ゲームだからに決まっている。
    エースコンバットほど爽快感重視ではないし、DCSのように操作系統に超リアルさもない。
    悪く言えば中途半端。しかし良く言えば両方の良さを味わえる。
    それがWoWのいいところだ。

    【スノー】
    「また捕まえるわ!」

    【エイト】
    「頼む! あのスパホに目覚まし代わりにアラート音を大量に聞かせてやれ!」

    雪乃がまたAESAでスパホを捕捉し始める。
    俺のHUDにも、ロックオンマークがスパホに重なろうとしていた。

    【エイト】
    「ヨシ! FOX3…」

    ジョイスティックの引き金トリガーに指をかけたその時。
    一瞬時間が───
    本当に時間が止まったかのように感じた。
    俺達が追っていたスパホは僅かに減速したと思いきや上面を見せて、あっという間に俺達の視界から消えていく。

    【スノー】
    「八幡くん! 後ろっ!!」

    アフターバーナー特有のあの轟音の後の、五月蠅いアラーム音がイヤホンの中に響き渡る。
    一瞬にして今度は俺達が、背後バックを取られたのを悟った。

    【エイト】
    「クルビットッ!?」
    八雪VSキリアス・その1MIX
    クルビット。
    減速した瞬間機首を上げて半回転し一瞬にして背後を取り返す、難易度ウルトラCどころかウルトラDの操縦テクニック。

    【エイト】
    「マジかチクショウッ!!」

    俺の眼前にはもうスパホはいない。
    画面に映っているのはなんの変哲もない、ただの蒼い空と雲のみだ。ひたすらに、ムカついてくるほど。
    サンダーフォースⅡの「エースのライド」よろしくこのスパホが反乱軍から「エースのキリト」なんて呼ばれているのも、なるほどと思い知らされた一瞬である。

    【スノー】
    「八幡くん! 悔しがるのはあとっ!!」

    ゆきのんさんはまだ電子機器見れる余裕あるね。
    俺はそう思いながら、スパホの機銃バルカンから吐きだされた20㎜の弾丸を避け続ける。

    【エイト】
    「悔しがってなんかいねーよ! こういう時の為にプランBがあるっ!!」

    【スノー】
    「プランBって何よっ!?」

    【エイト】
    「まあ見てろっ!」

    俺は燃料の入ったドロップタンクを切り離した。
    ~キリアスSide~

    ドラ猫が20㎜バルカンの有効射程内に入った瞬間、俺は機銃掃射を仕掛ける。
    しかし奴は主翼を畳んでアフターバーナーをかけて山脈に逃げた。

    【アスナ】
    「見てキリトくんっ! ドロップタンクを切り離して山岳沿いに逃げてるわっ!!」

    【キリト】
    「AESA対策だろうがチャチな小細工だなっ!
    ドラ猫め、身軽になってイチかバチかの勝負に出たなっ!?」


    文字通り螺旋を描くようなバレルロールを繰り返しながら、ドラ猫は山沿いを縫うように駆け抜けていく。
    でも、そろそろ終わりだ。

    【アスナ】
    「よーし、すぐ捕捉するよ!」

    【キリト】
    了解ラジャー
    ドラ猫め! まともに直進も出来ないようなこんな場所に逃げた事を、逆に後悔させてやるっ!!」

    ロックしたぞ!
    引き金を引いた瞬間、画面が僅かに揺れて俺達のスーパーホーネットから最後のアムラームミサイルを発射。

    【アスナ】
    「ああん、もうっ! 最後の一発だったのにっ!!」

    隣からアスナの嘆きが聞こえた。
    最後のアムラームはドラ猫からバラ撒かれたチャフに引っかかってしまい、爆発してしまったようである。

    【キリト】
    「大丈夫だ、まだバルカンの弾はたっぷり残ってる。必ず仕留めてみせる」

    今お互いがバレルロールをしながら飛行している、並列ローリングシザースの状態だ。
    向こうもエンジンやアビオニクスを最新のに積み替えてるようで、確かにこれまで戦ったドラ猫とは比較にならない。
    さらに言えば、さすがに2位になるだけあって高低差タテの使い方がかなり上手い。
    左右ヨコの使い方が上手い奴ならたくさんいるが、ここまで高低差タテを使いこなす奴は見たことがない。
    俺とアスナさえいなければ、間違いなく1位になれるんだろうなこのドラ猫。
    【エイト】
    「全然離れやしねぇこのスパホ!
    保険のセールスレディ並みのしつこさだなっ! 間に合ってるつーのっ!!」

    【スノー】
    「それぐらいのしつこさがあるから、ランキング1位の座を維持し続けてると思うのだけれどっ!?」

    【エイト】
    「感心してる場合じゃねーだろ! こっちのフェニックスはあと一発かよ………」

    マルチネットワーク共有システム───という名目の閲覧モードにて、統合軍も反乱軍も互いのエースコンビの対決に釘付けになっていた。
    中にはミッションそっちのけで、戦いに見入っているプレイヤーまでいる。

    「エイトのヤツ、ドロップタンク落としたのは何か意味があるのか?」

    【将軍】
    「あのスパホの追尾に対抗するため。
    少しでも重量負担になるものを外したのであろう」

    「いや、燃料つのかあれで?
    エイトもスノーちゃんもミッションは最初から参加してたよな?」

    【Silent】
    「雪ノ下が……ん、ゴホン。スノーがいるのだ、大丈夫だろう………。多分」

    “Silent”のTACネームの背の高い、雪乃に負けずに漆黒の髪をロングにした女性が、咳払いをしながら思わずフォローを入れる。

    「「「それにしても相変わらず夫婦漫才しながらバトルってるのな」」」

    統合軍のプレイヤー達から、一斉に失笑が漏れた。
    一方、数的不利から暗い空気が漂っていた反乱軍は、キリトとアスナのエースコンビが総合ランキング2位の統合軍のエースを追い詰めていく姿に、やんやの歓声を上げている。

    「「「逃がすな逃がすなっ!!」」」

    【クライン】
    「いけいけ! どれだけ上手くても所詮はトム猫だ、スパホの方が小回りが利く!!」

    【シノン】
    「キリト焦っちゃダメ。ミサイルはもうないんだから完全に射程距離シュートレンジに……」

    先ほど八幡と雪乃のトムキャットに撃墜されかけた事も忘れたかのようにクラインも、そして反乱軍では獅子奮迅の活躍をしているシノンも、戦況に見入っていた。

    【アスナ】
    「キリトくん! 7秒後にロック出来るよ!!」

    【キリト】
    「みたいだな! これで決めてみせる!!」

    「「「「よしこりゃいったぜっ!!」」」」

    「「「「ヤベーッ!!!!!」」」」

    あとはターゲットロックマークとトムキャットが重なるのを待つのみ。
    反乱軍プレイヤーからは歓声が上がり、統合軍プレイヤーから悲鳴が上がったその時だった。
    減速したと思ったトムキャットはキリトとアスナに対し機首を上げ機体上面を見せると、そのまま一旦停止───したように見えた。

    【アスナ】
    「え、嘘っ!?」

    【キリト】
    「プガチョフ・コブラ!?」

    機首を上げたまま急減速し、フワフワと僅かに上昇するトムキャット。
    八雪VSキリアス・その2MIX
    【キリト】
    「アブなっ!?」

    キリトは咄嗟の判断でジョイスティックを上に入れ、スーパーホーネットを僅かな差で下降させる。

    【エイト】
    「………………あ゛~~~。焦った………」

    【スノー】
    「私も焦ったわよっ! 激突するかと思ったわ………」

    【エイト】
    「“エースのキリト”さんが反射神経の飛び抜けた野郎で助かった。
    並みの腕のヤツならマジで激突だったわ。でもこれで背後バックは取り換えしたぜっ!!」

    【Silent】
    「あそこでコブラとか相変わらず滅茶苦茶だなキミは………。
    『対戦マナーが悪い』とかまた反乱軍プレイヤーにグタグタ言われるぞ」

    【エイト】
    「いいんですよ言わせときゃ。
    そのテのバッシングなんて高校時代で慣れっこですので。
    それよりこれから奴を仕留めますんで、先生はどうか爆撃部隊を守る事に集中してて下さいよ」

    高校時代の恩師・平塚静の苦言も何のその、スーパーホーネットの背後を取り返すトムキャット。

    【スノー】
    「AESAには完全に捉えたわよ!」

    【エイト】
    「よし、あとはロックオンマークとスパホが重なれば………」

    HUDが映ったパソコンの画面に全神経を集中させる八幡。しかし、その時である。

    【スノー】
    「………………八幡くん。これ以上は無理……」

    まさしく“無情”とも言うべき雪乃の、突然の静止だった。

    【エイト】
    「おいおい、冗談キツイぜ? もう少しであの1位を………」

    【スノー】
    「私がこういう時に冗談を言うタイプだと思うの?
    燃料フューエルタンクを見て。もう半分を切ってるわ。これ以上無くなると確実に基地に戻る前に墜落するのだけれど?」

    少し考えたあと、はぁ、とため息を付く八幡。
    ドロップタンクを切り離したのが、ここで裏目に出てしまったのを後悔する。

    【エイト】
    「………わーたよ。
    作戦司令本部コンバットコントロールへ。燃料と弾薬の補給に一旦戻ります」

    【アスナ】
    「見て、キリトくん」

    【キリト】
    「なんだあのドラ猫? 途中でいなくなった。リアルで用事入ったのか?」

    背後を取りながら途中でUターンするトムキャットを、キリトとアスナは不思議そうに見つめていた。
    千葉のあるマンションの寝室。

    「結局ストライクイーグルが2機撃墜されただけ。ミッションは大勝利だが……。
    試合にゃ勝ったが勝負にゃ負けた感が半端ないな」

    「もう、八幡くんったらずっとそればっかり。
    ね、今はそれよりも…////」

    「ん、そうだな…」

    ベッドに横になっている雪乃の下着を、八幡はゆっくりと脱がせていく。

    ◇◆◇◆◇

    「結果として2位とのバトルには勝ったが、ミッションではほぼ完敗………。
    勝負には勝ったが肝心の試合には言い訳も出ない負けだな」

    「もう……終わった事言ってもしょうがないでしょ。
    エッチの時ぐらいゲームの事は忘れようよ?////」

    「悪い悪い」

    こうして、千葉と東京の2組のカップルはそれぞれベッドで体を重ね合うのだった。

    Fin
    後書き。

    思い付きで書いた割には、やたら長めになってしまいました。
    結構調べて書きましたけど、頂いた資料に目を通すのも面白くて。
    プラ太郎さん、ワンさん、ソラミミさん。
    この場を借りてお礼申し上げます。
    という訳で今回は八雪VSキリアスでトム猫VSスパホという新旧トップガン対決を描いてみましたw

    続編の要望などのご意見はここでどうぞ。
    では。
    MIX Link Message Mute
    2021/06/24 21:18:55

    Mission:01 『イベリア半島攻防戦』

    ##二次創作 ##クロスオーバー  #やはり俺の青春ラブコメはまちがっている#ソードアート・オンライン  #俺ガイル  #比企谷八幡  #雪ノ下雪乃  #八雪  #SAO  #桐ヶ谷和人  #結城明日奈  #キリアス  #F-14  #F/A-18  #戦闘機  #ドッグファイト  #Wings_of_War  #新旧トップガン対決  #pixivからの転載

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