優しく髪を撫でながらツンと引っかかった感触に、先に声を上げたのはビリーの方だった。わっと小さく零れた音はそのまま持ち上がった視線ごとグレイに向けられる。
「ファスナーの端に引っかかったんだね」
「sorry、オイラが寄りかかってたせいだネ」
「あっ、それは全然、気に、しないで」
彼の言う通り、ビリーはソファに両足を上げて横向きに座った座ったグレイの足の間にはまるようにして背中を預けていたもので。ビリーがいざ起き上がろうとした時にグレイの着ていたルームウェアの胸元のファスナーの金具に、オレンジ色の猫っ毛が引っかかってしまったようだった。
「ボタンじゃなくてよかった」
「ボタンに絡まると取れないモンね。グレイは髪が長めだからそういう事もあるんじゃナイ?」
ビリーが起き上がってしまうと、密着していたところが妙に寒く感じて、喪失感から来る寂しさと共に肩を落とす。引っかかったところが痛かったのかくすぐったかったのか、後頭部を手袋の手で撫でた彼が床に足を下ろした。
「グレイの髪は柔らかくていいよねェ」
「そ、そうかな……こんな、くせっ毛……」
「うん、ずぅっと撫でてたくなる」
言いながら伸ばされた手は、いつの間にか黒い手袋が外されたビリー自身の手のひらで。頭の形を確かめるように、てっぺんからするりと耳の辺りまでを撫でる。何度かそうして往復して、やがて満足したらしいビリーが立ち上がった。
「そろそろ寝よっか。明日も早いしネ」
「……うん」
優しく髪を撫でられたそこから、じわじわと熱が頬に伝い、やがて自分でもわかるくらいに顔が熱を持って赤くなった。もっと触れて欲しいと思うけれど、如何せん距離の詰め方が分からない。人懐こいビリーは臆面もなくグレイにぴたりと寄り添って来るけれど、それは単に彼の性質によるものなのか、意図的にそうしているものなのか。それすら読み取るだけのコミュニケーション力をグレイは持ち合わせていなかった。
もしもグレイの手のひらが先刻の彼と同じようにそのオレンジの髪を撫でるような事があったとしたら。その時はどうか、幸せそうに、くすぐったそうに笑って欲しいと願いながらソファを下りた。