今度こそは狼です僕の彼氏はすぐに騙されてくれて可愛いなあ。目を閉じて感じ入っている様子の彼を見下ろしながらそう思っていた。テニスの試合中は洞察力にも優れていると思うのだが、行為の最中ではそれは全く発揮されないようだ。
「徳川くん、気持ちいいかな?」
「ぁ、あ、はい……っ!」
聞かなくても分かるものだけれど、一応聞いておく。馬鹿正直に答えてくれるのも可愛いところの一つだ。
「い、りえ、さんは……っ?」
「ぼくもきもちいいよ。おしり、変になっちゃいそうで……♡」
嘘ではなかった。彼の大きいものは自分の指じゃ届かないところを刺激するし、こうして上に乗っていると好きなところを刺激できる。ただ、快感は予測できる範囲のものでしか与えられないので、そこにハプニングはない。あってくれても困るが。
「よか、った……おれだけ、だったら、」
発声のため、息を吸ったあたりで後ろでものを絞ってあげると言葉ではなく音が出てくる。こうタイミングを図られる時点で両者間でかなり余裕に差がありそうだというのは思わないのだろうか。
「ね、徳川くん」
「は、いっ……?」
覚束無いがそれでも何とか返事をしてくれようとする姿は健気だ。
「いまの、嘘ついてたらどうする?」
「へ、えっ、?」
快感でずぶずぶだった目が少し開いた。少し遅れて困惑した様子で見上げてくる。
「嘘、って」
「気持ちいいっていうのだよ。もし演技だったら……って、少しも思わない?」
思わないのだろうな、とその様子で察した。僕の嘘を信じてしまうことも多いし、まあそういうところが可愛らしくて好きなところでもあるんだけど。
「徳川くん。僕はね、思うんだよ」
「な……何をですか」
「これだって心理面の駆け引きの一種なんじゃないかってさ」
「な……なるほど」
僕が言えばあっさり納得してしまうのもまた心配になる。相手が僕じゃなかったらいいようにされてしまうのではないだろうか。
「この行為を通して、あなたから駆け引きを学べということですね」
「徳川くんは大袈裟だなあ」
「いや……こう攻め立てられながら相手の思考を読むというのはある意味テニスと通じるものが」
「うーん……」
「勉強させていただきます」
何だか思った方向と違うところに着地してしまったが、結果としてはいつもと違う趣向でセックスを楽しめそうだ。いつも僕ばかりがリードしているし、たまにはいいかと思い直す。
「じゃあ、動くね……っ」
とはいえ、やることはいつもと変わらないだろう。実際こうして跨って善がっているのだって演技ではないのだ。徳川くんが疑う余地なんてない、と思いながらイイ所に当てる。我ながら声はどろどろだし、勝手に肛門の括約筋が締まる。
「はぁあ、きもちいいなぁ……」
「……」
「徳川くんも、……っ!?」
いつもなら締め付けに甘んじてぶるぶると腰を震わせるのだが、ああ言ったからか、閉じたのをこじ開けるようにペニスが奥に捩じ込まれた。全身が粟立つのがわかる。しかもこの姿勢だと、重力も突き入れる方の味方をしてしまう。
「っ、っ、〜〜っ……!」
強烈な感覚で言葉が上手く作れない。ああ言った手前、勉強させてもらうと言ってもらった手前、芝居を打たないと……
「入江さん……? なかが、しまって……」
「な、なんてね。徳川くん、ちょっと急いじゃってない……?」
吐息が喋る途中に混じらないように必死だった。日頃からの努力は裏切らないもので、自分の声は震えず、しっかりとしていた。
「い……いや、でも。こうしても入江さんは、大丈夫ということなんですね」
「当たり前だよ」
「……」
体格差のことを暗に言われている気がして、というかそうなのだろう。思わず肯定してしまったが、よくよく考えると今の返事は、あまり肯定すべきではなかったのではないだろうか。
今の状況としては、まず徳川くんは僕の振る舞いに対する懐疑心を抱いている。そしてその徳川くんと僕の体格差は、いくら僕が足掻こうが埋めようがないものだ。
そう思うと、無意識に腰を上げていた。が、
「ぅ、あ゛っ!?」
そのぶんを埋めるように、徳川くんは思い切り腰を突き上げた。普段出さない声が心太のように勝手に出る。その声に驚いたのか、徳川くんは相変わらず僕の下で目を丸くしていた。
「と、とくがわくん、これは……っ!」
「……俺のためにそこまで、ありがとうございます……!」
「え、っ? な、なにっ、ひ、あ、あ!」
何やら変な解釈をされているらしい。らしいが、それを考えようとしても脳が揺らされてうまく考えられない。とにかく欲を満たすためだけに直腸に本来入らない大きさのものが出入りしている。いつもの予測できる甘いものとは違う、体中がぐちゃぐちゃになりそうな、強烈な感覚がからだを走り回っている。
「ちが、っ、と、う゛、とま、へんになっちゃ……っ!」
「いりえさん、なかが、すご……っ♡」
「ぐりぐりしちゃ、っ、う、ぅ……っ!」
徳川くんは意識していないのだろうが、奥のほうの気持ちいいところを先端がぐりぐりと刺激すると、重力が一等重く感じた。体を起こしていられず、前に倒れ込んでしまう。これすらも演技と思われているのか、もうそんなことは忘れてしまったのか、僕がそうなったからといって彼は動くのをやめてくれなかった。
「あ、っ♡ っ、だめ、な、とこ……っ、」
倒れ込んでしまったので、刺激される箇所が変わる。不幸にも、さっきよりも気持ちのいいところに当たるようになった。逃げようにもそんな余力はなくて、無様に脚がばたつくのみだ。
「いりえさん、いりえさん……♡」
顔が近くなったからか、頬だったり口だったりにキスをされる。愛を示しているのだとしたら即刻後ろに入れているものを抜いてほしいが、意思表示すらも難しいのでそれが叶わない。しかし、こんな様子を見れば演技なんて思わないだろうというある意味希望もある。それに賭けてみることにした。
「とくがわくん、こんな、おかひくなっちゃ……っ♡」
呂律すら怪しいし、流石に伝わっただろう。さてどうやって誤魔化そうかな、と考えていたのだが、
「あ゛、……っ!?」
なぜか予想したベクトルと真逆の向きに力が加えられた。処理が間に合わないながらも星が舞う視界の中で徳川くんの表情を伺うも、欲情していることしか、
「なに、な、とくがわ、く、」
「それは、っ、アダルトビデオの……っ?」
「ちが、ちがぅ、よっ、お♡」
何が何だか分からないが、とにかく火に油を注いでしまったようだ。体がぶつけられる音と水音が鼓膜を揺らして、脳まで揺れる。お腹ごと揺らされている気がする。どこまで入ってるんだ、と思うと怖くて、徳川くんにしがみつきそうになるが何とか堪えた。
「いりえ、さ、おれ、もう……っ!」
どうやら徳川くんの限界が近いようだ。やっと終わるという安堵と、限界を迎えるということは、という類推が頭をゆらりと覆う。
避妊具はつけていただろうか。駄目だ、思い出せない。セックスをしていて、避妊具なしというのは、
「や、だっ、だめ、だめだよっ」
「ながく、たもたなくて、すみません、っ」
「ちがう、いや、いやだ……!」
「っあ、出る、っ……♡ あ、」
「やだ、とくがわく、あかちゃんが、っ、できっ、あぁあ……っ♡」
頭は拒否していたが、隠部を司る神経はしっかりと快感を伝えて、体がぶるりと波打つ。まだ細く声を上げて、ゆるく腰を動かしている徳川くんの表情は靄がかって見えにくい。どうしてこんなことに、というかどういう状況なのかも分からない。とりあえず子どもだとか世迷言を言ってしまったことは分かる。それほどまでに余裕がなかったのだろう。これこそ演技だと解釈してほしいものだな、と思いながら、薄れゆく意識を掴もうともしないまま、彼の体が呼吸で膨らんでは元に戻るのを感じていた。